= The Chaos Wolfs =   作:No.20_Blaz

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眠気と格闘すること早数時間…

という感じで無事に完成しました、第三話。
ええ。これで三話目です。これで。
プロローグ二本やって、番外編してこれです。
そのためグダグダのぐだぐたです。
そこだけは…ご勘弁…


さて。そんな今回は真紅とベールの二人ですよ。

…え。オッサン居ない?


………いや…その……ね?

だから見よ?(話をそらした)


003 : 猛犬ケルベロス

 

 

 

 

 

時を同じくして中央集権都市アルカディアでは二人のメンバーが任務に駆り出されていた。

社交的な性格から偶にこのような任務を任される真紅。そして彼のパートナー的存在として行動を共にするベルベットことベール。

 

二人がこのように任務に駆り出されるのはよくある事で、大きな理由として真紅の性格が一つの理由として挙げられる。

粗暴だったり性格に難はないが年齢が若かったり、そもそも顔を隠していたりと変わり種の多い部隊の中で唯一といえるほど「まとも」という言葉が当てはまる人物は現状彼だけしかいないのだ。

そして、もう一つに彼の足りない穴を埋める人物としてベールが常に居る事。

狙撃を得意とする彼女は接近戦が多い真紅の穴埋めには最適で更にはコンビネーションも他と比べ高い。

 

なので二人一組というわけではないが、こうしてコンビでの任務はままあることなのだ。

 

 

 

 

「…見えた。あのビルか」

 

そんな二人は現在、夜の首都高速を車で移動しある場所に向かっていた。

首都圏の中でも一等地と呼ばれる中心部。その中にはいくつもの巨大高層ビルが存在し、大手企業やホテルなどの娯楽施設などがあり経済的な中心地としても成り立っている。

その外側にあり、外海を眺められるというのが特徴の国際ホテルビルが今回二人の目的地であり、依頼主が待っているのだ。

 

「ベール。もう少しで着くよ」

 

「んっ…」

 

「寝てるところ悪いけど…ね?」

 

「…うん」

 

助手席で座っていたベールを起こし、真紅はアクセルを強く踏んでスピードを上げる。

夜の首都高速と言っても向かう場所が場所のため車の台数は少なく、ある程度はスピードを出しても問題はない。加えて最高速度は他よりも高いので下手を踏まない限りはスピード違反として捕まりもしない。

 

「…最高速度は、百五十キロ…ねぇ」

 

有難いことではあるがやや複雑に思う真紅は小さくため息を吐くと中心部に入るためのゲートへと向かっていった。

 

 

 

中心部に繋がる全ての道路にはゲートが存在し、そこには常時武装した警備兵が待機し不審な動きがないかと観察する。

奥に進めるには自分の身分証明書と個人単位で割り振られたID、そして持ち物検査が必要で、それをクリアしたならば基本誰でも入ることはできる。

条件は簡単ではあるが、奥に入るのが殆ど政治家などの高官、高所得者や金持ちといった人が多く、一般人などはゲートに近い外側か最悪入らないというのが殆どだ。

理由は簡単。誰もが毛嫌いするような街だからだ。

 

 

「身分証とIDを出せ」

 

「ベール」

 

「ん…」

 

ゲートに差し掛かった真紅は自分たちの身分証とIDを警備員に渡す。その間に車内はスキャナーでチェックされ危険物が無いかと確認される。

 

真紅はちらりと目線をずらしてゲートの周りを警備する警備兵の装備を眺める。

新型の個人携行武装を腰だめに構え、腰にも最新の自動拳銃が二丁もぶら下がっている。そのほかにも纏っている防弾チョッキは既存品よりも薄いが、なんでも防弾率はその三倍らしく更には側面までも防御が可能。可動範囲は極力狭めないようにしているトカだ。

そのほか頭部には新型の多目的スコープがあり暗視や望遠、サーモなどができる優れものらしい。

そんな最新装備の数々をぶら下げた兵士が四人ほどいて、内一人はあまりに面倒なのかあくびをしていた。

 

「………。」

 

さぞ暇な仕事なのだろう。

余裕気にあくびをしている兵士に真紅は嫌気が刺したのか眉を寄せる。

ああいう奴が居るから。とハンドルを握る手を強くして呑気に構えている兵士を睨む。小さく殺意を湧き出した真紅は彼を撃ち殺したいとまで思い始めたが

 

「…真紅」

 

「ッ………」

 

通っていいぞ。と警備員からの返事が丁度聞こえたので真紅は慌てて自分たちの身分証とIDを受け取る。彼の様子に気付いたのか、どうやらベールが声をかけて気が付かせたらしい。

 

「次がつっかえてる。早くしろ」

 

「はい、すみません」

 

直ぐにアクセルを踏み、ゲートを通過した二人の車はそのまま内部へと向かっていく。

しかし結局彼の殺気に気付かなかった兵士は呆けた顔のまま、目頭にあくびででた水分を浮かべながら息を吐いていた。

 

 

「……ごめん」

 

「………。」

 

車内ではIDと身分証を戻すベールに真紅が謝罪していた。自分がしょうもない事に殺意を向けていたので、それが最悪自分たちの身の危険に晒される事だと気づかなかった彼はあまりに簡単な事でそうしてしまったと申し訳のない気持ちになる。

しかし、ベールはそれについて何も言わず、ただ一言呟いた。

 

「…気を付けてね」

 

「…うん。そうする」

 

本当に気遣うような声で言ったベールに真紅は頬を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中心部の外側に位置する国際ホテルビル。多くの富豪と呼べるような金持ちたちが宿泊し、その為のオプションや設備はこれでもかという程に整っていた。

また、他の世界からも来客は多く、同じような人間がそのホテルを利用していた。

 

そう。同じような人間がだ。

 

「…高い」

 

「階数八十階、その内七十一階以降は全てVIPルームで更に七十八階からは四方に向けて展望ジャグジーがあるっていう豪華さだ」

 

「…依頼主は?」

 

「安心しな。七十階」

 

 

「…高いところはあんまり好きじゃない」

 

「…俺もだよ」

 

二人はそう言ってホテル内へと入っていき更に内装の有様に頭を痛め、憂鬱な気分になった。

中に一歩入ればそこは城であるかのように天井が高く吹き抜け、壁の装飾やシャンデリアがこれでもかという程「豪華」といえるものが置かれつけられ、更には中心部に噴水まであったのだ。

 

「………金掛けてるなぁ…」

 

「………。」

 

周囲を見回せばスーツやドレスなど豪華な服装で身をまとった富豪たちがちらほらと居ており、その誰もが入っていた二人に視線を向けていたが、一体誰だという疑問より、大半の人間は「何故、あんな奴らが居るんだ」という軽蔑と見下しの目で見ていると彼らには直ぐに分かった。

話し声もその類だろうというのがあからさまに聞こえていたのだ。

 

「さっさと行こう。向こうのVIPへの直通エレベーターで行くんだ」

 

「わかった」

 

先に警備員やSPに見つかるのは面倒だと真紅は少し早歩きに専用エレベーターに向かい、上へのボタンを押すと既に待機していたのか扉が開き、二人は中へと入っていき、七十階を目指し階のボタンを押そうとするが

 

「…ッ! 真紅」

 

「え…」

 

直前になって一人の少女がエレベーターの中に滑り込み、二人が向かう七十階のボタンを先に押して扉を閉めてしまった。

 

「あ…」

 

突然の出来事に呆気に取られてしまった真紅はしばらく黙り込んでしまうが、一体どうしてなのかと目を丸くしたままボタンを押した少女を見た。

赤い髪をツインテールで纏め、薄い朱色のドレスを着ている猫目の少女はしばらく沈黙していると真紅が目を向けているのに気づき、彼に目を合わせた。

 

「―――なに」

 

「ああ…いや、別に…」

 

「…ふーん」

 

「………。」

 

高飛車な態度にどう反応すればいいか分からない真紅は、また前を見始めた少女をしばらく見つめると応援を頼むようにベールと目を合わせた。

 

(………ベール)

 

(…頑張れ)

 

(あ、見捨てられた…)

 

アイコンタクトで直ぐに見捨てられたと分かった真紅はため息をつくと、その後しばらくは沈黙して目的の階にたどり着くのを待つ。

だが矢張り気にはなったのか目線をずらして少女の後ろ姿をじっと見つめる。

 

ドレスの見た目はかなり高価そうでエレベーターの中でも所々輝いてる。彼の目から見て時価数百万といった所だろう。

そして彼女自身。髪の色やつややかさからどうやら相当甘えられて育てられたらしくフローラルな香りを体中から漂わせている。甘やかされたかどうかは疑問視だが、それでも裕福すぎる家庭で生まれ、育てられたのは事実だろう。

 

 

(…なんでこの娘一人だけなんだ…?)

 

しかし何故彼女は一人、平然とした顔で見ず知らずの自分たちとエレベーターに乗っているのだろう。経験上、この手の娘は大抵何人かSPのような人間を連れて歩いているはず。そうでなくてももう少し護身用などを持たせねば彼女のような娘は絶対と言うべき確率で拉致や誘拐されるだろう。

 

(警備システムの過信か。それとも…)

 

 

いずれにしてももう直ぐ目的の七十階だ。

真紅は彼女の一人での行動を頭の隅に置き、開かれた扉を見て前に目を向けた。

 

 

 

 

 

「―――そういえば」

 

「…ん?」

 

「………。」

 

「貴方たち、ココじゃ見ないけど?」

 

「ああ…ココに居る人に呼ばれてね」

 

任務だなんだと言っても信じないだろうし、秘匿することも大切だ。

調査任務ではあるがそんな事を言って不審がられるのも後々面倒だと思った真紅は半ば適当な言い方ではぐらかす。

それにも少女は「ふーん」としか答えず、彼らよりも先にエレベーターから出る。

 

「なら…また会いましょ」

 

「え?」

 

また会うという言葉に疑問を思うが、少女はドレスでの一礼を行い悪意のない笑顔のままどこか走り去っていってしまった。

あまりに唐突で理解できない言葉だったが

 

 

 

 

まさかその直後に彼女の正体を知ることになるとは思っても居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改めて今回の依頼を説明する。

依頼人はアルカディアにある中央政府の外交官。

とある計画の反対派であり、世間では有名な政治家の一人でもある。

まだ四十代だというのにその手腕や影響力は強く、その一部勢力は様々な異世界の統治組織にも及んでいる。

故に、狙われやすく、更に不吉な情報なども耳に入りやすい。

 

今回はそんな不吉な情報からの調査依頼だ。

 

 

「改めて。アルカディア中央政府外交官のシモンズです」

 

「どうも。私は真紅。こっちはバイオ(ベールのコードネームの略称)」

 

「………。」

 

「よろしくお願いします。早速ですが依頼の説明からでも?」

 

「ええ。お願いします」

 

 

VIPルームではないが、二人が訪れた依頼人シモンズの居る部屋は広く、これでツインルームかと思う程に広々としていた。

ソファが四つ。テレビも高級な薄型。夜景も文句はない。

そんな一室に真紅とベール、そしてシモンズと秘書官の四人。あまりに勿体ないというより持て余しているように思えてしまう。

 

「依頼は先に話した通り調査。貴方方にある場所を調べていただきたいのです」

 

「…それはここに来る前に事前に。で、その場所というのは?」

 

「まぁ…ありきたりな事なんですが…」

 

 

 

シモンズの話は簡単だった。

最近、異様に圧力を強める国家があり、それは今まで微妙なバランスを保ってきた政府の体制を崩すような真似をしている。

その一つとして『魔導師』という者たちが統治する世界で、その国家が管理組織を脅し領地の一部を割譲。そこに何やら大規模な施設を建設したという。

その施設について問い詰めたシモンズ以下多くの政府の非難や追及も本人たちは無視。

強制調査に乗り出そうにも彼らの軍などが守っているため正攻法での侵入は不可能。

そこで、残るは政府関係者でない第三者に協力してもらうしかないという方法に至ったという訳らしい。

 

 

「…つまり、私たちにその施設を調べて欲しい。と」

 

「ええ。我々では彼らの軍事力も含め、影響力には抵抗できません。悔しいですがそれが現実。ですので、貴方方に少しでもいいのでその施設が一体何なのかを調べて欲しいのです」

 

「なるほど…」

 

「こちらからも相応のバックアップを用意しますし、結果の有無にかかわらず報酬はお支払いいたします」

 

裏はないと言う話し方で説明するシモンズに真紅は頭を掻いて沈黙する。

本人に悪意はなさそうだが、どうにも話の都合のよさなどに違和感を感じ、目を合わせた二人はそこから更にしばらく沈黙し彼、そしてその根っこである中央政府の狙いに少しずつだが理解し始める。

 

 

「………。」

 

「―――。」

 

言い換えれば身内ではだめだから死んでも問題のない君らが調べてくれ。と言っているようなものだと分かったが、それを彼にやらせる辺り政府自体も性根が腐っていると二人は見る。

恐らくシモンズ本人にその気はないのだろう。あるいはそうなるように話をうまく操作されたのか。いずれにしても彼を使い、依頼をさせればお涙頂戴の話で自分たちが納得する。

これが大方の政府が書いた二人の反応予想だろう。

しかし、あくまでそれは予想。仮にやらないと言った時にはどう思っていたのだろうかと真紅は考える。

 

 

「…いいでしょう。依頼をお受けいたします」

 

 

どの道この依頼は受けるべき物。そして兼ねてから彼らも準備を進めていたことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――この施設の調査を?」

 

「ああ。誰からの依頼でもないのだが、どうにもきな臭いニオイのする場所でな。ネットのアンダーグラウンドでは人体実験の場だとも言われる有様だ」

 

数日前の事。

マザーに呼び出された真紅は少し端の歪んだ資料を手渡されると内容を読んで訊ねた。

どうやら彼女はこの施設について何かあると見ていたらしく、それを彼らに頼んだ。

曰く、どうにもきな臭い。そして何かがある、と。

始めて資料を見た真紅はまだ何も言えないほど分かっていなかったが、彼女がそこまで言うという事はそれだけ彼女が用心しているという事だ。

 

 

「丁度、ここについての調査を頼まれていてな。お前はルーベンスと二人で現地に向かえ。この仕事にはお前たち二人がついてもらう」

 

「えっ……他の皆さんはー…………」

 

残念だが、という顔で小さく笑うマザーに真紅は先を越されたと思って半ばあきらめかけていた。

どうやら、既に自分たちにこの仕事を任せることは決まっていたらしい、と。

 

 

「リヤン、ジョン、シンヤの三人は私と共に大西洋に向かう。そっちで軍属のお偉方から依頼を受けているのでな。ガルシアは別任務。だが、応援には出せるぞ」

 

「…願わくば遠慮していただきたいです」

 

「私もだよ。アイツの場合、何かしらのトラブルを抱えて戻ってくるからな」

 

「………それってリヤンのことですか?」

 

「…そうとも言えるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ってな感じで、俺たちは美味い事使わされたってことですよ…っと」

 

廊下を歩く真紅はそういって文句を垂れ流す。依頼は正式に請け負うことになり、参加メンバーは真紅とベールの二人が行うこととなった。だが、結局二人。参加できる人数はそれだけで、向こうからの増員はない。一応、情報などについてのアシストはしてくると約束はしているものの

 

「…上手い事、使われるよな。俺たち。この分だと、ロクな支援は期待できないな」

 

「…そうだね」

 

恐らく支援はたかが知れていると予想する真紅。実際、この手の支援は相手が性格的に良い人物だとしても期待できるものではない。経験上、こういった後方支援が期待できるのは裏社会系やこういった事を専門に行う組織。そして旅団といったものぐらいだ。

政治家の場合、下手に動けば政治家生命にかかわるので、大手を振って動くということは極めて難しい。上手く立ち回り、賢くカードを切るというのが政治家の理想の動きだと、真紅は以前、聞いたことがあった。

 

「恐らく。この事を嗅ぎ付けてる組織か政治家さんが居る筈だから…」

 

「…調べる?」

 

「あとでな。今は仕事の方が先だ」

 

どうせ、この世界の政治家の名前と過去の来歴などを洗って行けば自ずと向こうから姿を見せてくれる。過去の経歴だけは分からないか自分から抹消しない限り、消えることはないのだ。しかも、旅団はマザーの人脈もあって人探しやそういった個人情報の入手などには強く、大物であれば軽く半日で見つかることもあるのだ。

だが、今はそれを後回しにして、真紅とベールは仕事のために再びロビーへと降りるため、エレベーターに入るのだが…

 

 

 

 

 

「あら。貴方たち、もう行くの?」

 

またしても、エレベーターの前でばったりとあの少女と出会ってしまう。

服装も変わらずだが、今度はどこか懐きそうな言い方で話しかけて来たので、真紅は聞き覚えのある声に顔を振り向かせた。

 

「ああ…君はさっきの…」

 

「もう用事は終わり?」

 

「うん。これから仕事でね。ちょっと近くを調べに」

 

調べるという言葉に反応した少女は、ふーんと言うと興味ありげな表情になってまた質問を投げてくる。

 

「…貴方たち、警察組織の人間?」

 

「いや。けど似たような稼業かな」

 

「流れの何でも屋? それともどっかの情報機関?」

 

「前者は兎も角……まぁ後者…かな」

 

「………。」

 

どこからそんな知識を持ちだしてきたのかと思う真紅は、俯いている様子を見つつ苦い顔をして少女を見ていた。年端もいかないにしては、出てくる言葉がやけに大人びている。しかも背伸びをしたという感覚はなく、年相応に言いそうな単語であるという感じだ。まるで、目の前に居る少女の姿は偽りで、実は自分たちと同じかそれ以上の歳の女性なのではないか、と疑ってしまう。

 

(本当に子ども…なんだよな?)

 

 

「大変な仕事ね」

 

「…ま、まぁな…」

 

ポンと軽い音と共にエレベーターの扉が開き、そこに先んじて少女が入っていく。後を追うように二人も入っていくと、またも同じく少女は彼らと同じ階のボタンを押して扉を閉めた。行動が先読みされているようで内心では気味悪がったが、とてもそれを顔に表していいような相手ではなかったので、真紅は無言のまま表情を隠して、目的の一階に着くまで黙り込んでいた。

 

カゴの中で駆動音のみが響き、静寂につつまれたエレベーター内。その速度は早く、ものの一分で既に七十階から十階にまで降りてきていた。あと少しで一階だなと、降りる用意をした真紅とベールは休憩体勢から動き出そうとした。

その次の瞬間。

 

 

 

 

「―――気を付けてね」

 

 

 

「―――え?」

 

「――――。」

 

 

ぽつり。と呟いた少女は、後ろを振り返ることなくそう言った。

エレベーターの扉が開き、足を一歩踏み出した時には既にその様子はなく、子どもらしい明るい笑顔を半分だけ見せて何処かへと走り出していく。

その一瞬の出来事とセリフに、二人は何かただならぬものという抽象的なものを感じ、しばらくカゴの中で足を止めて顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしいのですか。お嬢様(・・・)を合わせて」

 

「いいんだよ。彼女はああして、自由を謳歌してもらいたいんだ。だから、私はあの子を引き取ったんだよ」

 

「それは理解していますが…」

 

―――あの子が危険に晒される?

 

SPの内心を看破したように言ったセリフは図星だったようで、傍にいたSPは小さく胸を打たれたような声を出して、直後に黙り込んでしまう。

彼女が別に会って話をしようと問題はない。だが、何が理由で危険なことに関わるか、わかったものではない。それを恐怖していたSPなのだが、それは見ていたシモンズにも言えたこと。

それでも彼はそれを知ってて止めなかった。

 

「私が危険に晒されるのはいい。だが……それでも私はあの子だけは……」

 

「………。」

 

「私の政治家生命…それを賭けてでも、私はあの子を守らなければいけないんだ……」

 

 

守るのではない。守らなければならない。

その言葉を口にした瞬間、SPは背中を向けているシモンズの表情がなんとなくわかった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で。そっちからの増援は出せないんですか?」

 

真紅の一言が無線越しに伝えられる。しかし。返って来た返答は

 

『無理だ。とオーナーから五秒前に』

 

「速すぎだろ!!!」

 

 

 

というコントをした真紅は、あっさりと代表であるマザーから増援はないと言い切られてしまい、結局彼の望む準備や応援がなに一つとして見込めなくなったことに、唯々深いため息をつくしかなく、脱力した頭はそのままハンドルの上へと落ちて行く。

結局、それが今から三分前の出来事で、大した支援も見込めない状況のまま二人は任務をするという選択肢しか残されていなかった。

 

逃げるという選択肢もある筈だが、旅団に属してからは仕事から逃げるという選択自体がほとんど無いようなものなので、その時の彼らの頭の中には「逃走」などの逃避行の文字は浮かび上がらなかった。

尤も。逃げれば、死よりも恐ろしい制裁が待っていることを知っていたので、もとよりそのつもりもないのだと言うが。

 

 

「………。結局、俺たち二人でどうにかしろってことかよ…」

 

「…いつもの事」

 

「そうだよーいつものことだよーだから嫌なんだよー」

 

いつもいつもマトモな支援は望めない。そんな理不尽なことにもう文句や愚痴をいうことも慣れてしまった真紅は、リクライニングにして奥へと倒れ込んでしまう。

 

「…最近、多いね」

 

「多いなぁ…俺たちにまともな支援が期待されてないって仕事」

 

「………。」

 

 

今に始まった話ではない。真紅たちにマトモな支援が来ないこと。絶対に支援すると言われても、それがたかが知れていたこと。この仕事を長く続けていた二人は、そういった状態・状況に過去に星の数ほど直面してしまったので、ある意味慣れてしまってはいるが、同時に同じような脱力感などがあった。

ああまたか。また今回もなのか。と真紅はマトモに期待できないこの状態に今すぐ帰りたいと思ってしまう。

 

「まともなのは位置情報と、外部の警備状態。そして今回の目的地を管理している組織の名前…」

 

「けど、組織名は偽装されているかも…」

 

「分かってる。どの道、このまま行くのは死ねって言ってるのと同義だ。だから…」

 

それが合図だったのか、ベールは何も言わず頷くと、腰から情報端末を取って、どこかへ連絡を飛ばす。彼らも、なんの下準備もなくここに来たわけではなく、前もって出来る限りの用意を済ませてからシモンズたちに会いに来ていたのだ。当然、ロクな支援やアシストがされないことも承知の上で、情報も自前のものを用意していた。

 

「今は現地に向かおっか。どうせ、向こうからの監視もつけられてるハズだし」

 

「…うん」

 

キーを回した真紅はそういって車を駐車場から出し、依頼された現地へと向かうことにする。このまま地下の駐車場で駄弁っていても、なんの変化もないだろう。仕方がないとばかりにため息で区切りをつけた真紅は、アクセルを踏んで薄暗い地下から車を月明りと街灯が照らす世界へと駆り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の内に情報を整理しておこう。

 

依頼人はアルカディアの中央政府外交官シモンズ。

内容は、最近になって作られた別世界の管理組織が所有・管理する施設の調査。ちなみにシモンズからの話では、内部についての情報なら僅かでも構わないとのこと。また情報などを持ち帰れるのであれば、それも同様に可能な限り持ち帰ってくること。つまり、中のことについてなら、何でも持ち帰って来いというのがシモンズから提示された要求だ。

 

その為、方法などについては真紅とベールの二人に任せるが、基本は穏便且つ大事にしないようにとの事。別に向こうから苦情が来ようが、シモンズたち中央政府にとって関係のないことだとシラを切り通せるが、それがマスコミなどに漏れれば変な噂を巻き起こらせる原因になってしまう。そうなれば、政府にとって色々と面倒事に発展しかねないということで、殺る(・・)にしても有耶無耶に出来る範囲でというのが彼らから条件。

 

つまり。中で何をしようと、二人の内どっちかが死のうと、最終的に中の情報さえ持ち帰ってくれれば、自分たちに飛び火しないのであれば黙っておいてやる。というのが向こうからの要求なのだという。

 

 

 

そして。今回潜る施設だが、表向きは食料品の加工施設ということで監視カメラなどでも表では多くの食料品の原材料が運び込まれているという。

しかし内部については当然不明。

外部には物資などを運び込むために用意されたゲートが一つ。それ以外に外部へと出る方法は無く、四方を外壁に守られており、壁には古城よろしく人が通れる道が作られている。そして、計七カ所の監視塔が設置され、監視塔には常に警備員たちが巡回、警備しているという状態。なお、外壁には触れただけで侵入者と内部関係者を見分けるシステムが付けられているらしく、触れれば即それが発覚するらしい(原理は明かされていない)。

侵入者の場合は高圧電流が流れる仕組みだ。

 

ならば外壁に触れない距離でという考えも当然出てくるのだが…

 

 

 

 

 

「…ご丁寧に地面には地雷原か」

 

「…正面の道路以外は地雷の平原」

 

「つまり。どうやっても方法は…」

 

 

空からという手は論外。それこそ、敵に見つけてくださいと、撃ってくださいと言っているのと同じだ。

しかしだからといって正面から飛び込むのも難しい。街の警備システムと違い、こちらは管理組織の指定するIDでない限りは許可されず、そのIDもどうやって管理しているかなどは不明。だが少なくともカード型でないというは確かなようだ。

 

 

「となると、最後にあるのは一つだけ…」

 

「…地下水道」

 

幸いなことに施設正面のゲートの反対側は海に面しており、そこには施設内で使用する水が組み上げられていたりする。海中には施設に続く大型の穴があり、それが施設内へと続いているだろうというのが、情報提供された中にあった。

 

「海の水と一緒に…か。設計図とかはあったっけ?」

 

「あったハズ…」

 

「よし。なら決まったな」

 

方法は決まった。後は準備が整うのを待つだけ。

そうと決まればと思っていた真紅だが、直後に彼に対し、非情な現実が襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――あと。よろしくね」

 

 

「……………へ?」

 

 

「…狙撃支援。だから入れない」

 

 

 

 

 

要約、もし施設内で外に出たのなら支援はするから。

けど中には一緒に入れないよ。

 

これを聞いた刹那。二人の乗った車の車内から声が消えた。

 

 

 

 

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