私の望む世界は百合に満ちた世界。
私一人の手ではその実現は困難であるが、皆で協力すれば、そう難しいことではない。とはいえ、百合に展開するにはそれなりの下準備と交友関係が必要である。
夢の実現の第一歩。
その手始めは音ノ木坂学院だ。ここでまず百合世界を実現させる。その実績を就職後も職場で活用し、猛獣のような男共を排斥し、百合職場を形作る。
その先も百合を尊ぶ社会を作り日本どころか、世界中に波紋させる。
あゝ、素晴らしき世界かな。
☆
「一体何を考えているんですか?」
「将来の夢……みたいな?」
「将来の夢というよりは貴女の性癖でしょう。」
暇で特にすることがなかったので将来の夢(上の文)について考えたのだが、姉様曰はく性癖らしい。
「何でですか!?これ良いと思うんですよ!」
「良いと思うのは貴女だけです。私は協力なんてしません!」
チッ、ダメか。
乗ってくれれば波未と海未による「なみうみ」というカップリングを誕生させようと思ったんだけどなぁ。
「まあ、貴女の変態ぶりは今に始まったことではないですし。そろそろ私は朝練に行ってきます。」
「いってらっしゃー……アレ?」
朝練というからには姉様の所属である弓道部の活動なんだろうが……。それにしては荷物が多いような……。
「姉様、弓道部の朝練は?」
すると姉様は神妙そうな顔でこちらを見る。や、ヤダ。そんなに見つめられたら照れますわ♡
「そういえば波未には話していませんでしたね。」
「え、もしかして愛の言葉ですか?」
「違います!」
違うのかよ。
「私はこれからスクールアイドルとして活動してきます。」
「すくーるあいどる?」
すくーるあいどる………スクールアイドル?
「ええええええええええええええッッ!?」
「うるさいです。何なんですか?急に……」
「姉様がスクールアイドル!?何か変なものでも食べたんじゃないですか!?そうです!そうに違いないッ!」
「まあ、確かに私がスクールアイドルをやるのは、おかしなことかもしれませんが……。それにしたって驚きすぎです。」
姉様は少し傷ついたような表情をする。
一体、姉様に何が起きたの!?
☆
姉様の話によると―――。
スクールアイドルを誘ったのは穂乃果ちゃんらしい。
穂乃果ちゃんはUTXに足を運び、人気スクールアイドルであるA-RISEの曲を視聴した。廃校を阻止するにはコレしかない!ということで、大胆にもスクールアイドルになることを決意する。
しかし、一人では活動することができないということで、姉様とことりちゃんも誘ったというわけだ。
そして誘いの矛先は当然、幼馴染である私にも向く。
「そういうわけだから、波未ちゃんもやらない?スクールアイドル!」
まるで太陽のような微笑みで私を誘うホノカチャン。
あっべー!もちろん………。
「やるわけねーだろ!」
低いドスの効いた声で拒否する。
あまりにも迫力があったせいか、周りは静まり返る。
あっぶねー。穂乃果ちゃんのスマイル見せられるとついつい承諾したくなっちゃうんだよね。その笑顔、卑怯だから引っ込めてください。
「「な、波未ちゃん、怖い……」」
涙目でこちらを見ることほの。少し拒絶が強すぎたな、うん。
「す、すみません。恥ずかしい姿を見せてしまいました。」
脳内ではともかく。会話内では敬語を使うようにしてたのに、つい素になってしまった自分がひどく恥ずかしい。
「しかし、波未が穂乃果の提案を否定するのは珍しいですね。」
ことほのが震える中、姉様は冷静だった。まあ、家族内での会話でも似たような場面が多々あるので慣れているのだろう。
「んー、確かに波未ちゃんがホノカチャンの提案否定するのは珍しいよね。」
ようやく震えから立ち直ったことりちゃんは姉様の言葉にうんうんと頷く。
確かに二人が言うように、私は穂乃果ちゃんの提案を否定することはまずない。理由は単純で穂乃果ちゃんスマイルに打ちのめされるからである。間違いなく、あのスマイルは私を誘惑してる。まあ、そんなことでついついOKサインとか出しちゃうんだよね。
しかし、今回に限って了承しなかったのには、ちゃんとした理由がある。
「よく考えてみてください。仮に三人が人気アイドルになったとしましょう。その時に必ずといっていいほど最悪の問題が生じます。」
「「「問題?」」」
どうやら問題を理解していないみたいだ。
よくこれでスクールアイドルやろうなんて思ったな。ホノカチャンスマイルに穂乃果ちゃんの決断力は称賛すべきなのかもしれないが、些か浅慮な気がしてならない。
「男性ファンが増えることです。」
「「「………。」」」
反応がイマイチなのは何故だろう。
もしかして私の言葉を正しく認識できてないのかな?
「人気アイドルになるってことは男性のファンが増えるのは仕方ないことなんじゃ………。」
分かっていないようですね、穂乃果ちゃん。
「いいですか!?スクールアイドルすることで姉様を慕うファンも当然のように増えます。そして『海未ちゃんファンクラブ』も結成される……。私は自分以外の誰かに姉様を取られるのが非常に許せない……!」
怨嗟の籠った声でスクールアイドル反対の理由を告げる。
「波未………」
「な、波未ちゃん」
「波未ちゃん」
三人とも、残念そうな視線を送るのは何故でしょうか。
「波未ちゃん。それはちょっと……。」
ことりちゃんが難しそうな表情をしている。
その顔はスクールアイドルを否定する理由としては下の下っていうアピールかな?ならば、こちらも対抗しようではないか。
「ことりちゃん。いいですか?」
「何?」
チュン?と首を傾げることりちゃん。
「人気が出るってことは穂乃果ちゃんの男性ファンも増えるってことですよ。その男共に取られる可能性だって十分にありえるんですよ!良いんですか?」
ことりちゃんにだけ聞こえる声で耳打ちする。
「ホノカチャンが………他の人に……?」
明らかに先程までとは表情が違う。かかったな。重度のホノキチと知っているからこそ、ことりちゃんを誑かすのは実に容易い。ホノカチャンLOVE故に他の男に取られるのはこの上ない屈辱だろう。
百合の気がある彼女は私に味方するはずだと思っていた。だからこそ、次の発言には絶句した。
「確かに、自分以外にホノカチャンに好意的な人がいるのは嫉妬する。でもね、それでも私は穂乃果ちゃんについて行きたい。」
「……………!」
まるで太陽のような笑みで、そっと耳打ちする。
少なからず、今の言葉は私の心に衝撃を与えた。
昔からことりちゃんはそうだった。穂乃果ちゃんの提案を拒まず、後をついて歩いた。いや、ことりちゃんだけではない。姉様もだ。
きっと穂乃果ちゃんには人を魅了させるだけの何かがあるのだろう。そこに惹かれ、二人は常に穂乃果ちゃんの背中を追いかけていった。
私もやはり惹かれるものがあったのか、穂乃果ちゃんの後を追いかけた。追いかけた先に何が見えるのかという期待があったから。
けれど、同時に目を伏せたくもなった。
彼女の背中はあまりに眩しすぎて、同じ場所に立つことが息苦しくなるのだ。
元々、消極的な思考を持つ私と何事にも積極的な穂乃果ちゃんでは精神的に対極の位置関係にいる。消極的な私の心は穂乃果ちゃんの理想を受け入れるだけの容量がない。だから、どうしても足を引いてしまう。
近くにいる筈なのに遠く感じてしまうのだ。
スクールアイドルを否定する本当の理由は―――。
貴女達の隣に立てない己の憤りにあった。