姫騎士アイーシャの野望~愛する王子様を玉座につけるのだ!~   作:rimaHameln

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いきなりヒロインを出さないという暴挙。
次回からまた出ます。


三幕

【ハリード】「クルジュの件は今の通りだが、それともう一つある。分かっている事と思うがナグハ族に関してだ」

 

 ナグハ族は王国北東の騎馬民族である。荒野に住まう彼らは豊かなバラバ王国を狙って侵入してきたのだ。

 近隣のオアシス都市群を荒らしたナグハ族はそれだけで飽きたらず、遂にバラバ王国領のソグディノ州へ侵入し略奪と襲撃を繰り返していた。

 王国を再統合したとはいえ未だ戦乱冷めやらず、戦争の傷跡が多く残るバラバ王国にとっては決して見過ごすことの出来ない侵入者達であった。

 

【ダリウス】「ナグハ族など俺が蹴散らしてやる! 少しは骨のある連中だろうな!」

 

【ハリード】「静まれ、ダリウス。今回の戦はマルドゥーンに任せる。儂もハサンもお前も出征せぬ」

 

【ダリウス】「な!? 親父!!」

 

【ハサン】「……」

 

【マルドゥーン】「自分だけ、ですか。連中は2万は下らない程の数と思われますが、此方の兵力は如何ほど使えるのです?」

 

【ハリード】「お前のバクトラ州の兵は最大限使って構わん。必要があれば近衛兵も貸そう」

 

【クルジュ】「近衛兵! 凄い!」

 

 大王ハリードの近衛兵は精鋭を以って知られる王国最強の部隊である。強兵で名を馳せるバクトラ兵も近衛兵には後れを取る。

 大王の行所には常に共にあり、数多の戦場を駆け抜けて武勲を立ててきた英雄達だった。

 真紅のマントをたなびかせる彼ら近衛の騎士達に憧れる若者は多い。クルジュもその一人だ。

 

【マルドゥーン】「近衛も? そこまでの事態にはならないと思いますが」

 

【ハリード】「いいのだ。それに必要があればだ」

 

【ダリウス】「親父! 何だってマルドゥーン兄だけなんだ! 俺も戦わせてくれ!」

 

【ハリード】「静まれ、ダリウス」

 

【ダリウス】「だが、親父! 今までは俺達も戦ってきたじゃないか! なんで今度だけ!」

 

【ハリード】「静まれと言っている。これは命令だぞ」

 

【ダリウス】「う、むう……」

 

【ハサン】「……つまり、総司令官の代理というわけですか」

 

【ハリード】「そういう事だ。皆良いな。マルドゥーンも心して掛かれ。決して弱体な敵ではないぞ。荒野を住処とするナグハ族は生活全てが戦いの様なものだ。これまで戦ってきた叛徒共ともまた違った強さがある」

 

【マルドゥーン】「分かっております。必ずやナグハ族を打ち破り、王国の平和を確かなものにしてみせます」

 

【クルジュ】「マルドゥーン兄さん! 御武運をお祈りしております!」

 

【ダリウス】「ウムム……父上の命令なら仕方ない……」

 

【ハサン】「……」

 

【ハリード】「頼んだぞ、マルドゥーン」

 

【ハリード】(マルドゥーンよ、我が第一の息子、王太子よ。今回の戦で勝利すればお前は外敵から王国を守った英雄として記憶される。ナグハ族がこれまで儂らが戦ってきた様な叛徒や王位僭称者と最も違う点はこれだ)

 

【ハリード】(臣民はお前こそを真なる王者として見るだろう。そうすればお前は弟達とは決定的に上位に立てる。そう、儂すらも超える王になれるのだ。儂はお前にこそ、愛するシーリーンの子であるお前にこそ王国を受け継がせたいのだ)

 

【ハリード】(そして、王国を受け継がせ、平和に導かせるためには兄弟同士の争いだけは何としても避けなければならん。儂もこれまでの戦でどれ程肉親の血を流してきたか……)

 

 長い戦乱の中で兄弟親戚と争ってきたハリード王は身内同士の骨肉の争いに嫌気が差していたのだ。

 王位や領地を巡って殺し合いを続け、それが如何に愚かしく哀しい事であるか、身を持って思い知らされていた。臣民にも多大な害をもたらす事も理解していた。

 少なくともハリード自身はそうであった。

 

【ハリード】(戦しか見ないダリウスと幼いクルジュは兎も角として、ハサン……あの毒婦の倅に王位を取られないためには儂も出来る限りの事をしてやらねばならん。心して掛かれよ、マルドゥーン)

 

 ◇ ◇ ◇

 

御前会議の後。宮殿の廊下を歩く王子二人、ハサンとダリウス。片や鋭い目付きで何かを思案し、片や震える程に怒気を発散している。

 

【ダリウス】「ぐぬぬ! 何故親父は俺を戦争に行かせてくれんのだ! 何故マルドゥーンだけなんだ!」

 

【ハサン】「そんな事も分からんのか、ダリウス」

 

【ダリウス】「分からん! ああ分からんとも! 一体どういうことなんだ、兄者!」

 

【ハサン】「今回の戦はな、何よりもマルドゥーンの為の戦なのだ。彼奴に王太子としての泊をつけるためのな」

 

【ハサン】(そして俺達が王位を狙えないように彼奴に権威をつけて、偉大にさせておくつもりなのだ、父上は)

 

【ダリウス】「何だと! そんな事せんでもマルドゥーンが長子なのだから、彼奴が次の大王だろう! 面倒なことを! それより俺を戦に出すべきだ!」

 

【ハサン】「……そうだな」

 

【ダリウス】「そうだろう! 全く! 俺が戦争に行かなくてどうするのだ!」

 

【ハサン】(どうもせん。ただの猪として朽ちていくだけだ。此奴と話していても何の益も無い。半分は俺と同じ血が流れているとはとても思えんよ)

 

【ハサン】(それにしてもマルドゥーンめ。奴隷の子は奴隷らしくしておれば良いのに、許せん。大王には俺の様な人間こそが相応しいのだ……マルドゥーンでも、父上でも無くな)

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