かつて、怪獣ゴメスの登場を機に地球に現れた怪獣たち、ベムラーの来訪により襲来してきた宇宙人たち、彼らが現れるのが少なくなった今日、世界は平和を謳歌していた。
別に地球が統一された訳でも環境問題を完全に駆逐できた訳ではない。それでも昨日より良い明日へ向けて人々は精一杯生きていた。
「ふんふん、ふふ~ん」
新宿にあるとあるCDショップである少年が音楽を試聴していた。今、流行りのアイドルが出した新曲だ。
少年の名は、早田進次郎。かつて科学特捜隊の隊員であり防衛軍幹部を務め、現防衛大臣を父に持つ、中学生だ。父に憧れ、空手を習ったり、防衛大に向けて勉強をしたりしている、ごく普通の少年である。
今日は、自分が贔屓にしているアイドルの新作CDが発売されたと聞いて、駒王町から離れた新宿までやってきたのだ。一通り音楽を試聴すると予想通り満足のいく曲だったので進次郎は、CDを手に取り、レジへ向かう。
「すいません、コレください」
CDを購入すると店を出る。あたりの天気は晴れだ。サンサンと輝く日光、気持ちの良い風が吹いている。一昔前だったら排ガスなどで空気が汚れていたが、戦争は技術の発展を促すという言葉の通り、度重なる宇宙人の襲来により科学技術を向上、昔よりはエネルギー問題、大気汚染問題について改善されていた。
そんな青空を持つ事になった都会を進次郎は歩く。道には、様々な人が降り、噴水の周りでは小さい子供が走り回っていた。
そんな時、体に違和感を感じる。正確には、揺れているのだ。
「っと、また地震か。最近、多いな」
外国人なら目を剥く様なことだが日本人なら至極当たり前のことを言う。もっとも、それでも最近の地震の多さは人々に不安を与える。
「ん?ちょっと長くないか?というか段々大きく・・・っ!?」
揺れが連続的に続くどころか段々と大きくなってきた。普通の地震ならこのような事は起きない。だが、この世界では何度かこのような地面の揺れ方が観測されていた。進次郎も学校の授業で習っていた。
「これって、この揺れ方って!!」
地面が弾ける。コンクリートや土砂、それに人間が空高く吹き飛ばされた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
進次郎は奇跡的に生きていた。と言っても自身の体は宙を浮き、しばらくしたら地面に叩きつぶされて、ただの肉塊になるだろう。
(何?浮いてる?・・・・あれは・・・怪獣!?・・・ボクは、このまま・・・死ぬのか?)
地面の振動それは、怪獣が地下から現れるときによく観測されるパターンだったのだ。地面の下から出てきた怪獣は甲羅の様な硬い皮膚を背に持つ四つん這いの怪獣だ。その額に生えている一本角が怪獣の力強さを表してるかのようだ。
突然の怪獣の出現、空高く舞い上げられた自身の体、進次郎は死を覚悟する。だが、ふと視界に映るものがあった。
(あれは・・・)
自分と同じく怪獣の出現により吹き飛ばされた人間が近くにいた。彼女も奇跡的に負傷はしてな無いようだが、気を失っていた。その時、彼の体が動いた。自由落下する自分を少しでも彼女に近づけるよう四肢を動かす。
(届け・・・)
助かる可能性は、ほぼ0パーセント、それでも助けたいと思った。力の限り、体を動かし、少しでも近づけようとした。そして、自分の肉体をクッションにしてでも助けたいと思った。
(届け・・・とどけぇぇぇぇっ!!」
口から叫びが出た瞬間、自分の体が光った。いや、体が光ったのではない。胸ポケットに入れている父から受け取った懐中電灯のようなお守り、それが光っているのだ。思わず、彼は胸に、ポケットにあるベータカプセルに手を触れたのだ。
そして、彼は光になる。
***
新宿にあるあまり見られなくなった公衆電話で、その男は叫んでいた。
「だから!怪獣が現れたんですよ!新宿の地下から四つん這いのデカいのが!」
新宿に現れた怪獣の事を電話で伝えるようだ。だが、叫んだ後に気付いたようだが、公衆電話の回線がやられたようだ。舌打ちしつつ受話器を乱暴に戻すと公衆電話から出てきた。暴れている怪獣に眉を顰めながら眺めていると自分の同僚のカメラマンが寄ってきた。
「田畑さん!」
「リンブン!そっちはどうだ?」
同じNCBに勤める門屋倫文だ。ディレクターである田畑健一は、怪獣の出現の衝撃で横転した報道用の車両が使える部分があるか、倫文ことリンブンに調べさせていたのだ。
「なんとか回線は繋がりました。中継できます!」
「そうか。有線の方はやられたみたいだ。地下から現れたからな。それよりもキャメラ回せ!」
田畑の連絡していたのは、放送局の方だった。怪獣出現の衝撃で自身の携帯を紛失した彼は、公衆電話で何とか連絡を取ろうとしたのだが、地下から現れた怪獣の影響で地下の回線関係はめちゃくちゃになっていた。現在、怪獣は地上を蹂躙しているが、出現地点はライフラインや地下鉄が破壊されている影響で水やらガスやらなど大変危険な状況になっている。
「はいっ!」
そんな危険な状態でも彼らは報道しようとしている。事実を正しく報道すると言う信念を持つ彼にとって怖いからと言って、此処から逃げ出す訳にはいかなかったのだ。リンブンもそんな彼を慕っているため、恐怖で足が震えながらも田畑についていく。
「防衛軍は、いったい何をしているんだ・・・」
怪獣が出現したにも関わらず、まだ防衛軍は到着していなかった。少し前ならもうすでに先行する戦闘機隊の姿が見えるぐらいだ。だが、怪獣の出現が減った事で防衛軍の活動は地上の防衛任務から宇宙開発護衛任務へと推移しつつあったのだ。その組織改編の煽りを受け、初動が遅れていた。現場や当時を知る人間は、行動を起こしているが、今の世代は経験が少ない為、それが遅れの原因の一つとなっていたのだ。
「久しぶりの怪獣騒動ですからね。・・・田畑さん、あれ!」
怪獣の目の前の通りが光っていた。赤い色の光の球状のモノが発光しているのだ。その赤い光は恐怖を与えるような色合いではなく、温かみを感じる柔らかい、それでいて眩しいほど輝いている光だった。
「何だ、あの光は・・・いや、まさか、あれは!!」
田畑が光の正体に思いついた瞬間、光の為は辺りを一瞬白く染め上げた。そして、光が弱まった後には、白い光に包まれた人型が存在していた。
「ウルトラマンだ!!」
白い光が薄れていくと、それの肉体を明らかにした。銀色の肉体に赤い模様の様なモノが銀の肉体を強調しており、その胸の中央には燦然と輝く蒼の宝玉があった。その顔は、人に似ていて、決して人では無い能面、だが、見る人に仏像のような人を慈しむ印象を与えていた。
彼の名は、この地球では、こう呼ばれている。光の巨人『ウルトラマン』と。
突然のウルトラマンの出現に田畑は茫然としていたがハッと我に返り、リンブンを揺すって促す。
「いくぞ、リンブン。もっと近づくぞ」
「はい、ウルトラマン撮るんですね」
「決まってるだろう。俺たちの希望が帰ってきたんだ。そんな奴を取り損なったら一生後悔するぞ!」
「はいっ!」
彼らは走る。希望を世界に届けるために。
***
ウルトラマンは手の中の少女を近くに逃げ延びていた人の近くに下す。突然のウルトラマンの出現に周囲の人間は茫然としていたが、少女が下されるとハッと我に返ると再び怪獣から逃げ出す。だが、さきほどとは違う。先ほどは我先にと逃げ出し、他人を押し出しても逃げだろそうとしていたが、今は違う。負傷した人に手を貸し、体が不自由な人をおぶったりなどお互い助け合いながら逃げていた。その中にはウルトラマンが助け出した少女の姿も居た。
その様子を満足げに頷くと光の超人は怪獣に向かって構える。
(これは・・・体が大きく・・・自分という存在が薄く・・・いや、違う・・・私「ルビ」の存在が大きくなりすぎているんだ・・・)
光の巨人へと変異した進次郎は、己というものを持て余していた。強力な身体能力、聡明すぎる頭脳、通常の人間にはもちえない超能力などの超感覚。どれも今までの少年には持ちえなかったものだ。光の巨人と融合した訳でも、アークの肉体を持った訳でも、地球の光を得た訳でもない。彼そのものが光となり、巨人となったのだ。
(・・・だが、することは分かる!!)
高すぎる思考能力で頭が朦朧としつつも、彼が定めたある目的の為に、それだけの為に彼の意識、いや闘志だけは、ハッキリとしていた。
「シェァッ!」
ウルトラマンが怪獣に向かって走り出す。怪獣も対抗する様に叫び、ウルトラマンに向かって突進する。
「ぐぅあああおぉぉぉぉっ!!」
四本足故に俊敏な動きで狭い大通りを走るが、ウルトラマンには届かなかった。
「テェアッ!!」
キックだ。強力な蹴りが怪獣の横っ面に刺さる。それは、怪獣の頭を揺らし怯ませる。
追撃しようと手刀を構えるウルトラマン。だが、怪獣はウルトラマンの蹴りによって浮かんだ巨体を光の巨人に向かって倒れこむことで反撃しようとしてきた。
「ハァッ!」
倒れこんできた、怪獣を受け止めようとするが咄嗟に掴んだのは、相手の角だった。だが、その判断は悪手であった。
(熱っ!)
角が熱を帯びたのだ。この怪獣の角は攻撃手段でもあった。普通の動物の様に威嚇をメインにだけの為ではなく、純粋に敵を排除するためのモノだったのだ。そして、その熱さにウルトラマンの能面が歪んだ様にも見えた。進次郎は、熱の痛みで一瞬気を逸らしてしまった。それは大きな隙となる。
「ウァア!?」
怪獣に吹き飛ばされビルに叩きつけられた。ビルは倒壊こそしなかったがビルにめり込む。その衝撃で窓ガラスという窓ガラスが割れて空中に飛び散るが、超人となった進次郎に傷をを与えるものではなかった。
「ぐぅあぉおおぉぉぉっ!」
叫びをあげる怪獣、再びウルトラマンに突撃しようとする。
「ダァア!」
ウルトラマンは顎を蹴り上げた。助走距離も足りず、先ほどの攻撃も合わさり、完全に怪獣は怯んだ。その隙を見逃さず、ビルから体を退かし、怪獣に肉薄、その巨体を掴む。
「ヘェアッ!!」
背負い投げだ。ウルトラマンはその超人的に能力で自身よりも一回り大きい怪獣を地面に叩きつける。
怯んで居た時に地面に叩きつけられた怪獣は、さすがに堪らない。そして、投げられたことで体がひっくり返り、柔らかい腹の部分をウルトラマンにさらけ出すことになった。
ウルトラマンは、右手に力を集中させて、光輪を作り出した。手のひらを中心に回る光輪。それは八つ裂き光輪ともウルトラスラッシュとも呼ばれる技だ。ウルトラマンは、八つ裂き光輪を怪獣に向けて放つ。虫とは違い、亀のように背中の甲羅とも呼べる皮膚が邪魔して怪獣は、光輪を躱すことが出来なかった。
「ぐぎゃあああぁぁぁぁぉぉおおおおおおっ!?」
怪獣が叫びをあげる。光輪によって切り裂かれた腹から怪獣の体液が噴出した。己の命の危機を感じた怪獣は、四肢や尻尾を振り回すが、ウルトラマンには届かない。そして、彼は止めを刺すために両腕を交差させる。
ウルトラマンの代表的な技・・・『スぺシウム光線』だ。
交差した右腕から放たれて光の光流は、光輪によって切り裂かれた怪獣の腹を正確に撃ち込まれた。
爆散。
スぺシウム光線を受けた怪獣は、爆散した。ウルトラマンは怪獣の撃破を確認すると構えを解いた。ふと、辺りを見渡すと、今まで意識していなかった歓声が彼の意識に聞こえてきた。地面で、そして空に浮かぶヘリコプターの中で、建物の屋上の上で人々はウルトラマンを応援してたのだ。
ウルトラマンの勝利に沸く人類、それをしばらく眺めると光の巨人は空を見上げ、重力からその身を切り離した。
「シュワッチッ!!」
空に消えていく、ウルトラマンに人々は感謝の声を掛ける。『ありがとう』『助かった』、そして『お帰りなさい』と。
***
怪獣が出現した地点から少し離れた路地裏で進次郎は壁に背持たれていた。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・ボクがウルトラマン?」
息を切らし、手を震えながらジャケットの内ポケットに入れているベータカプセルを取り出す。ベータカプセルを信じられないものを見るように彼は呟いた。
「・・・そんな、馬鹿な・・・」