べつじんすと~む改   作:ネコ削ぎ

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一話

 生まれてこのかた愛が何であるかを知らなかった私は、愛を与えられてそれを知り、愛を与えることでもっと知り、愛を奪われることで全部知った。

 愛は幸せで苦労で辛い。それが愛だ。受ける愛は幸せで、与える愛は苦労で、奪われる愛は辛いもの。この三つを感じた時、私は愛はとても素晴らしく、同時に間違えられやすいものだと思った。

 

 

 

 

 そして……私は全てを失っていた。

 

 

 

 

 

 

 転生と呼ばれる現象があるらしい。ガイネンだったり妄想だったり罪だったりと。分からないけど、言葉として転生が存在し、今現在その言葉は現象として一部の人間から理解されているらしい。意味分かんないけど。

 私は一度死にかけた。敵対組織とのドンパチで。そして捕らえられ、何かされて、かつて所属していた組織に討たれてようやく死んだ。

 かと思えば、いつの間にか別人として生まれ変わっていた。

 名前はセシリア・オルコット。イギリスとかいう国の名門貴族で、母親が大企業の女社長だ。要は立派な家の人間みたいだ。全然関心ないけど。

 名門だろうが貧民だろうが私には関係ない。そんな小さなことになんか関心している暇なんてないし。

 空を見上げれば綺麗な青い空、眩しいほどに光輝く太陽、むせかえりそうな空気に、心地の良い風。足元には緑の大地があって、土の匂いが鼻腔を擽る。ラジオでしか知らない世界が全面に広がっている。これを前にして大企業の令嬢だなんだとはしゃいでいる奴は、何にも不自由したことのないアホに違いない。

 空を見上げるのも地面を見下ろすのをやめて背後を見る。そうすれば、やけにごてごてとした屋敷が目につく。周りにある建物を見る限りだと、そこまで飾りたてているわけじゃないけど、一線を駕す豪華さだけは見て取れる。名門を語るだけあって質が良いな。豪華絢爛でないのが本当の名門っぽい。っぽいだけ。今の私の家なんだけど。

「お嬢様。そろそろ戻りませんと」

 従者もいる。黒いスーツとサングラスの青年だ。あんまり強そうじゃないのが残念だけど、そこは気にしないでおく。端からそういう面では期待していないからな。

「はいよ」

 従者の言うことに素直に従っておく。別に逆らうほどのこともないし、逆らってまで何かをしたいということもない。この世界で私が一番にやりたいことなんて存在しないだろうしな。

 屋敷に戻れば侍女や執事たちが一斉に頭を下げてくる。金持ちの生活というのは大概こんなものみたいだ。母親の時はもっとすごいけど。

 肌に合わない生活に段々と疲れや苛立ちが募ってくる。従者が居ようが金持ちだろうが関係ない。息の詰まる生活は気力を奪っていく。そのうち苛立ちが萎んでいって疲れだけが残ってしまいそうだ。

 こんな空気中埃まみれのような生活がいつまでも続いていくのだとしたら、今すぐにでも命を絶ちたくなる。

 だけど、私にその選択肢は存在しない。考えることはあっても選択肢として出てくるは絶対にあり得ない。だって、私の人生を愛してくれた人が居たから。シルヴィアが全身全霊で愛を与えてくれたから、それなのに自殺を選べるほど薄情じゃない。

 だから、私は今日も明日も窒息しそうになりながら生きていくしかない。せめて、この鬱陶しい生活から逃れられることを願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転機はどこかで訪れる。だから転機って言うんだけどな。

 両親が列車事故で死んだ。不吉なことだけどこれも転機だ。両親と言ってもそんな愛着はないから、全然悲しくもないしな。

 母親は貴族のなんたるかとか、男共はとか、庶民はこれだからとか、高慢で尊大なところがあり、私には到底似合いそうにもない母親だった。

 父親は父親で気が小さくてどうして母親と結婚したのかも分からないような忠犬ぶりだった。忠犬らしく自分の意見は絶対に述べず、母親の言動にビクビクとしていて、これも私には合わない父親だった。

 まぁ、前の両親が人間の屑の一角的な感じだったから、今回の両親が合うわけないんだけどな。

 両親の死は大企業の女社長ということもあって大々的に取り上げられた。それはもう何かしらの陰謀説が出てくるぐらいに暇なゴシップ記事があちらこちらへと。人の不幸は蜜の味とも言うべきだろうな。

 で、社長が死んだ大企業は社長の座を狙って内部抗争をやってガタガタ。名門オルコット家も親戚共があーだこーだと騒いで内輪もめ。名門も所詮は世俗の人間でしかないってことだ。

 私の人生も大きく変わったと思う。親戚共はかねてからの問題児である私を、親戚の中で一番庶民的で発言力のない家へと押しつけて、遺産とかをウハウハ、大企業の椅子もウハウハだ。まぁ、段々と業績が落ちてくているみたいだけどな。

 私は私で庶民的な家に引き取られたおかげで、息苦しさからは解放された。なので、私は平気な顔していろんな奴らに喧嘩を売っては難なく勝利を収めてきた。スカッとする。拳を振るうとスカッとしてストレス解消になる。かつての感覚が戻ってきているような気がした。鉄骨とかも持ち上げられるようになったし、全盛期の力が戻ってきているのはおそらく間違いない。

 昔みたいな力が戻ってきたけど、適当なバカ共を殴りスカッとしても、なんだかやっぱり満たされない。満ち足りてこない。

 困ったことに中途半端な満足感が私を蝕み始めた。何か足りない、何かが欲しい。

 少し考えれば分かる。求めているものが。単純だけど何よりも大切なもの。何が何でも手離したくないものだ。

 私の愛するたった一人の娘。万花だ。やっぱり万花がいないから満ち足りない。

 一緒にこの清々しい青空を、粛々とした夜空を見上げたい。透き通った海で遊びたい。自然溢れる場所を散歩したい。

 想いが溢れ出てくる。辛い。くそ辛い。

 一体どうすればいいんだよ。

 

 

 

 

 

 分からないまま月日が経った。最も必要なものがいない中で、私はIS学園の敷地を跨いだ。イギリスから遠く離れた極東の日本。かつて私が暮らしていた場所だけど、見た目は全くの別物だ。並ぶ高層ビルの群れに、舗装が行き届いた道路。あちらこちらに点在するコンビニ。危機感の足りない国民。どれも私の記憶にある日本とは違う。まるで異世界みたいだ。

 だとすれば私は絵本とかで出てくる迷い混んだ異邦人だな。全然笑えやしないけど。

 IS学園は世界で数百機しか作られていない兵器の取り扱いについて学ぶ場所らしい。女子にとってISの選手への第一歩と同時に、シューショク活動で有利になるようで、毎年多くの女子たちがジュケンして夢破れ去ったり、勝利の美酒に酔いしれていると聞いた。

 私もこんなところにいることから、ISの国家代表選手になれるよう頑張らなきゃいけないみたいだ。そんなつもりはさらさらないのに。

 仕方がない。一文無しの私がせめてものと日本に行くには、IS等という馬鹿げた物を利用しなきゃいけなかったんだ。没落貴族様々だな。

 しかし、たまたま国が求める素質を私が持っていたみたいで、労せず国家代表候補生になることができた。努力組からは睨まれたけど、努力が必ずしも実るわけじゃないこと位は理解してるんだろうが。

 国家代表候補生になるのは簡単だったけど、問題はその次にあった。

 IS学園に入学するためには面倒で吐き気がするほどの学力が必要だったというわけだ。

 ダルいしめんどい。勉強なんでかつての世界じゃ欠片も必要なかったのに。あっちは力一つでどうにかなったぞ。

 気分が沈みこみそうになったけど、そこは日本に行きたい気持ちを屋台骨にして頑張った。屋台骨だから折れたら人たまりもない背水の陣だ。

 おかげでヒィヒィ言いながらも無事IS学園へのチケットを手にいれた。代表候補生特権で基準値満たせば合格扱いみたいだけど、どうせならシケン免除にしてくんない。

 ま、終わったことにグチグチと文句を言う必要はないな。だって合格したんだし。

 入学式は滞りなく終わり、クラスメイトたちと顔合わせ。ドイツもコイツもひょろっちくて叩けば簡単に倒せるし、殴ればきっと死ぬな。向こうの世界と違って脆いんだし。

 しかし変な空気が流れてんな。原因はなんだ。最前列真ん中で干からびた虫の様に固まっている男子が原因か。ま、IS学園は女子校だからな。男の存在におかしな空気が流れるのも仕方がない。

 それよりも私は、さっきから隣の席でニコニコとこっちを見てくる女子の方が数倍気になる。私が何かしたのかよ。

 こっちが視線を向けても、物怖じせずにニコニコしているソイツは暫くすると、私の手を取って自己紹介を始めた。

 布仏本音。それがソイツの名前らしい。

「ええと、セシリアだから……せっしーだ。よろしく、せっしー」

 了承なしの命名がけっこう安易だ。よく分からないけど、これが普通なのか。

 というか、名乗った覚えがないのに名前を言われた。なんで知ってんだ。もしかしていつの間にか名乗っていたっけか。

 ま、何か名前が書いてあるもんでも見たんだろ。不思議な力でも持ってない限りそうでもしなきゃ無理だしな。

「ハイハイ。せっしーでもなんでもいいからよろしくな」

「よろしく~。私は布仏本音なんだ~」

 なんだー、とか言われても困るんだが。ぼんやりとした雰囲気を持っている本音は気にせずにぽやぽやと笑っている。危機感がないと言えばいいのか、肝が据わっていると言えばいいのか。分からないけど、あんまり嫌な奴じゃないことだけは確かだ。直感的なものだから説明できないけど、この直感を信じて生きてきた私にとっては頭でっかちが並べ立てた理由よりもよっぽど信頼できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑一夏の人気はうなぎ登りと言っても過言じゃない。歩けば振り向かれ、何か行動を起こせば視線を集める。女子しかいないような場所だから当然と言えば当然だ。しかしそれは一夏へのストレスとなって襲い掛かっているのかもしれない。所詮は他人でしかない私に彼の内面を理解しろというのは無理難題だ。ま、どうやら幼馴染とやらがいるようだからそっちに任せておけばいい。私の知った話じゃない。

 一夏の幼馴染は篠ノ之箒とかいう。一見すれば大人しげな奴だけど、頭に血が上りやすいけっこう危ない奴だ。それも暴力を振るう系の。ま、今のところは一夏だけに発動するようだから、他の人間は安心していい。一夏は心休まらないけど、それこそ私の知ったことじゃない。

 そして一夏にはもう一人幼馴染がいるようで、ソイツは中国とかからの代表候補生でもある凰鈴音だ。どこがどの辺までの幼馴染かは知らないが、親しい様子を見る限りは言葉通りに幼馴染なんだろう。気の置けない友達か言うべきだな。ま、それ以上を望んでいるみたいだけどさ。

 箒も鈴も一夏に恋愛感情を抱いているように見えなくない。なんとなく態度がそれっぽいし。というわけで、誰かがそこに割って入ってあれこれと口を挟むのは駄目だ。女の嫉妬は恐いらしいからな。

 学園生活も少し経てば慣れてくるもんで、勉強を真面目にやったりサボったり。こうやってどうでもいい人間関係に目を向けたり向けなかったりだ。悪くはないけど、やっぱり物足りない。満ちた生活じゃない。足りないものを他の何かで埋めることも限界がある。

「せっしー。どうかしたの~? もしかしてお腹空いているとか?」

「どーもしてねーよ。腹は減ってるけどさ」

「おー。お腹空いているならご飯食べに行こうよ~」

 本音が引っ付いてくる。彼女はやたらと引っ付いてくる癖がある。私だけにしてくる行動じゃなくて親しいもの親しくないもの関係なくスキンシップを図る。人肌が恋しいのかもな。うー、ちょっとだけ万花のことを強く思い出してしまった。もうどこにも居ないのにな。

「飯って……楯無が居んじゃん。アイツいちいちめんどいからなー。ま、いいけどさ」

 コイツが言う食べに行くというのは生徒会室に行くことだ。聞いた時は驚いたが、本音は生徒会に所属している。生徒会と言えば全校生徒の頂点みたいなイメージがあったけど、ありゃあ間違いだな。会長の更識楯無も生徒たちの頂点に立つには利口さが見えない。なんか鬱陶しいだけのイメージしかないから全然敬えん。ま、本音の姉が作る飯が美味いから馬鹿生徒会長の存在は我慢しよう。

 本音の姉は名前を虚という。普通には読めない気がする。私の感じ読み取り能力が低いだけかもしれないけど。

 虚は本音の姉らしくどこかほのぼのした印象を受ける。物腰は柔らかなくせに主人である楯無や、妹である本音にはけっこう無関心でどんな人間かが読み辛い。見ること聞くことに干渉を求めていないみたいな無関心さで、楯無もちょっとだけ扱いに困っているほどだ。

 本音はスキンシップ過剰で、その姉は無関心。どんな生き物共だよ。

 生徒会室は生徒たちの頂点に君臨する人間が仕切る場所だけあって、ちょっぴり威厳のある部屋作りになっている。気後れするほどのことじゃあないけど。

「あららら。いらっしゃい、セシリアちゃん」

 生徒会室に入るなり虚と出くわした。相変わらずほのぼのとしている。普段何を考えているいきてんだか。

「うっす。飯食いに来た」

 どうせバレていることだし、正直な用件を言っておく。虚は呆れるでも怒るでもなく四段重ねの重箱を机にならべてくれる。中身は豪華とは言い難いが着飾りを求めなければ十分以上の味を備えている美味い飯だ。そもそもの味付けが好みというのもある。何だか舌が覚えている味なんだ。

「おー。じゃあいただきます」

「じゃあ、じゃないでしょ」

 割り箸と取り皿を手渡され準備万全となったところでストップがかかる。タイミングを狙った制止にちょっと苛々する。飯時のお預けはけっこうくるもんがある。

 部屋の中で一番格の高そうなデスクに収まっている楯無が不満げに割り箸をパキンと割る。

「なんで当たり前の顔をして、当たり前のように一番に手を付けようとしているのかしら、セシリアちゃん。というか、なんで虚も当たり前の顔をして当たり前に箸を渡しているのかしら。そしてちゃっかりと食べ始めている本音はもっとどうなのかしら」

 なんでと言われても、箸と取り皿を渡された以上は食うだろ。作ってくれた人に対して失礼になるし。そして、本音は別にいいんじゃないか。姉妹の関係だし、今更そこまで畏まる必要もないだろ。

「お腹減ってたし~」

「こういうものに余計なシキタリを入れていたら食事が楽しくなくなるわ」

「だったら一番に手を出せばいいだろ」

 本音は卵焼き、虚はプチトマト、私は鶏のから揚げを食べながら反論。真面目感は見受けられない。

 昼の生徒会室ではお馴染みの光景と言ってもいいかもしれない。入学して数日後に、本音に連れられて訪れたここで、虚の料理を気に入ってからほとんど毎日のように通っている。舌が味を求めて脳みそに指令を出しているんだと思う。私ってそんなに頭良くないからな。舌にも負ける脳みそしか持ってないんだろ。

「……セシリアちゃんはともかくとして、貴方たちは仮にも仕える身じゃないの」

「……そういうのは気にしないで、と言ったのは楯無なのよ。私はそれを守っているだけ」

「みぎ……向かいに同じ~」

 従者にあしらわれて崩れ落ちる楯無。昔に言った言葉に首を取られたな。

 それにしても、生徒会は幸せの国かなんかか。

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