べつじんすと~む改   作:ネコ削ぎ

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六話

 日曜日のIS学園校舎は閑散としていた。それはそうだ。日曜日だっていうのに校舎で過ごそうなんて変わったことを考える奴なんて部活動で忙しい奴くらいだ。帰宅部からしてみれば奇異に見える。

 しかし、校舎については不人気であっても学園内の各アリーナは人気殺到で人が溢れるほどだ。明日を学年別タッグトーナメントと意気込んで練習に明け暮れている女子たちが居るからだ。端から勝ちを求めていない私には訳の分からない熱意だ。

 空き教室の一つで私はぼんやりと夕日が沈んでいくのを眺める。門限が近くなりつつあるが、そんなものに怯えていたら、かつての世界でやりたい放題に情報をばら撒いて遊んでいたりはしない。門限がなんだ、正座がなんだ、内申点がなんだ。そんなにいい子ちゃんが好きなら、テスト前日にテスト問題の内容を全校生徒にぶちまけて悪い子の集団でも作り上げてやろうか。

 落ち行く夕日を見るとたそがれてしまいそうになる。かつての私が欲しかったもの、見ていたかったもの。どちらも手に入らずに死んでしまったあの日。私にとっては最悪の日であり、今の最高の日々のきっかけでもある。

 しかし、私を殺しちゃってくれた奴には感謝なんてするはずがない。このグレイト・リッチ様は案外執念深い生き物だ。あのセンカと偽るクソ豚女を心身共にボロボロに八つ裂いてやらなきゃ気が済まない。

 さて、どうしてくれようか。どうやればボロクソに追い詰めてやれるか。

 そして、私がもっとも欲しいと思うと同時に憧れて見ていたかった戦花の復活にはどうしなきゃいけないかな。今のセシリアとしての戦花も嫌いじゃないが、やはりかつての世界で見ていた情け容赦なく敵を惨殺していく戦花の方が何倍も見ていたい。あの戦花はまさしく最強という名前が似合うんだ。

 でも、その最強で残忍な彼女も、万花という重荷を背負いこんでしまったために、その残忍さに陰りを見せ始めていた。完結に簡単にサクッと相手を仕留めては万花と一緒に過ごす時間を作る彼女にはファンとして辛かった。

 あの残忍残酷な人類最強の姿を二度と見ることができないのかと。あの小娘がいなきゃ、私は当たり前のように戦花の真の姿をずっと見続けることができたというのに。

 セシリアには私の求める本来の戦花に戻ってもらうとしてだ。一体全体どうやってやれば彼女は自分自身の内に眠っている本来の姿を取り戻すことができるのか。

 血の匂いと肉の潰れる感触を思い出せるようにするか。生贄は既に用意ができているわけだから、後はちょっと一押しすれば完了することだ。

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。アイツには犠牲になってもらおうか。戦花が血の匂いと肉の感触が思い出せるように。

 都合のいいことに、明日は学年別タッグトーナメントだ。奴とセシリアがぶつかれば全て解決する。後はセシリアが奴をぶっ殺す動機づけをするだけ。

 それも簡単だ。単に奴が万花を殺した本人だと告げてやればいいだけだから。

 こんなに簡単なものがあっただろうか。単純だけどピッタリと当てはまった見事なアイデアだ。残るはセシリアに真実を伝えるだけだ。私が何かを隠していることは感づいているみたいだし、けっこう簡単に行きそうだ。

 というわけでセシリアにでも会いに行こう。校舎にはいないとして、この時間ならば寮のどこかにいるはずだ。

 空き教室などにはもう用はないのでそそくさと出ていくつもりだった。だったけど、空き教室から出た瞬間に服の襟首を掴まれて空き教室に逆戻りする。引っ張られる力は尋常じゃなく一瞬だけ首がしまった。

 誰だ、と思った瞬間に背後の人物が私の首に手をかけて絞め上げ始めた。皮膚同士の接触により背後の人物が何者で何を目的に私を襲撃してきたかの理由が頭の中に包み隠さずに入って来る。

「せ、せしぃ……」

 私の気道を締め上げているのはセシリアだった。どんな顔をしているのかは分からないが、彼女の感情や考えがこれでもかと流れてくるために、想像だけはついた。

「無駄話はすんな。質問にだけ答える。お前は何を知っているんだ」

 分かる分かる。セシリアは追い詰められてしまっている。追い詰められ過ぎて自分に都合の良い理論を振りかざして、私から万花やシルヴィアの居場所を聞き出そうとしている。私が本当のに情報を持っているのかどうかの確認もせずに。

 首が締まって呼吸ができない。このままじゃ死んでしまう。そう思った時、セシリアは不意に首の絞め上げを解いてくれた。

 私は咳き込みながら必死に深呼吸をすると、セシリアは再び私の首を絞め上げ始めた。マズい、セシリアの考えが読めてしまう。私が彼女の求める情報を吐き出すまでコレを続ける気だ。下手すれば死ぬ。

 首を絞められ、また放され、また締め上げられる。繰り返し行われる地獄に私は生命の危機を嫌でも感じ続けた。

「言えよ。お前が持っている情報を。私の為になる情報を。全てを吐き出しちまえ」

 絞めては放され、呼吸を整えようとする間にまた絞められる。情報を話すどころではない。このままじゃ死ぬ以外の先がない。セシリアの思考は情報を聞きだすことしかない。手加減とかどのくらいでやめてやろうとかもない。ただ、情報を聞きだそうと首を絞めてくるだけだ。

「い、いう……言うからぁ」

 何度目になるか分からない絞め上げの最中、何とか言葉を搾り出す。これでセシリアが止まってくれなければ確実に死ぬな。

「じゃあ言えよ」

 背後から伸びていた手が首から離れる。解放されたと気がついたのは四つん這いになって呼吸を整えた時だ。

 情報を話す前にまずは肺の中に空気を取り入れて思考を回復させなくては。数十回の呼吸でなんとか落ち着きを取り戻すことができたので、立ち上がってセシリアと向かい合う。

 そして、私は思わず笑みを浮かべてしまった。必死に真剣なっ顔を取り繕うとしても、心の底から這いあがって来る歓喜に表情が釣られてしまう。仕方がない。だって、私の目の前には凄くカッコイイ顔をしたセシリアがいるのだから。これを喜ばずにはいられない。

 獣だ。無慈悲で圧倒的な強さを携えたセシリアが目の前にいる。私が昔に見た戦花の雰囲気を少しずつ取り戻している。後一歩というところまできている。

 勝った。私の勝ちだ。何がどう勝ちなのかは分からないけどとにかく勝ちなんだ。

「セシリアの求める情報。確かに私は求める情報に近いモノは持っている。それはねぇ、セシリア……いいや、戦花の愛する愛する大切な存在を殺めた人物のことさ。私が知っているのそこまで。教えてあげるよ。万花を殺した憎き奴の存在をさ。ソイツはこの学園でのうのうと生きている。生きているんだよ。ソイツの正体はね、ラウラ・ボーデヴィッヒ。ラウラこそが万花を殺した屑野郎ってことさ」

 どうだ。怒りを解放しろ。かつての戦花を取り戻せ。圧倒的な暴力を呼び起こせ。私の求めた戦花を見せてくれ。

「……そうか」

 セシリアは小さく呟くだけだった。怒りを爆発させるかと思えば、拍子抜けだ。もしかして選択を誤ったか。

「お前の正体はなんだ?」

 冷静さを取り戻させてしまったか。失敗してしまったか。せっかくかつての戦花を拝むことができるかと思ったというのに。

「アンタがよく耳にしていたグレイト・リッチ・ラジオ様だ。いつも清聴ありがとう。このグレイト・リッチ様の偉大なるリスナー共が」

 うんうん。失敗してしまったのは仕方がない。こうなったら違う手で攻めるしかないな。待っていてくれ、私の憧れる戦花。今は本当の自分を名乗るだけでやめるけどさ。いつかはこの名前でいっぱいにしてあげる。憧れを超えて、私に依存させて素晴らしい関係にしてみせるさ。

 万花やシルヴィアには悪いけど、永遠に戦花の存在に気がつかずに果てろ。もう時代はお前らじゃなくて私だ。このグレイト・リッチ様だ。

「楽しみだなぁ」

 やばい、顔がニヤついてくる。どうやら、私も自分の欲望の為になりふり構っていられなくなってるみたいだ。最初のセシリアを助けたいとかいう想いが違う方向に向かっている。

「しかしだがね、そんな脱線を知る人間は私以外には存在しないわけなんだよ」

 だから気にしない。人間は都合だけで生きるから。

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