敵と呼ぶには弱すぎる。貧弱すぎる。わざわざ時間をかけて戦わなければならない相手ではない。
それなのに、戦わなければならないのは苦痛だ。弱いと分かっている奴とわざわざ戦わなければならないことは退屈でもある。時間ばかりかける戦いなんて余興にも足りない。
そんな試合を何回も行わなければならないのは面倒でしかない。
学年別タッグトーナメント。それはくだらない余興だ。実力のない奴らが何人も何人も戦うだけでは飽き足らず、そいつらと徒党を組んで戦わなければならないというのは何の冗談だ。
私は強い。それは事実だ。生まれ変わる以前の私も圧倒的に強かった。不意を突かれ、多勢に無勢な戦いによってママの仇討ちを完遂する前に尽き果ててしまったが、それでも私はママのように強い。
だからこそ、隣で不機嫌そうな顔をしている足手まといを鬱陶しく思う。不機嫌なのは私であってお前じゃない。一人でも余裕で勝てる試合の数々を、邪魔なお供を引っ提げていかなければならないというのは、周囲を鬱陶しく飛び回るハエを我慢しなければならないのと一緒だ。
私という強者に縋るだけの能無しが自分の強さと錯覚して増長する雑魚は、対戦相手である織斑一夏とシャルル・デュノアを睨み付けてはブツブツと何事かを呟いていた。
「黙れ」
耳障りな呟きを注意してやると、雑魚はキッとこちらを睨みつけて「五月蠅いぞ」と私に怒鳴ってきた。せっかく注意してやったのにその言い様は気に食わないな。
早く試合開始の合図を鳴らせ。目の前の身の程知らず共と一緒に隣の雑魚も葬ってやる。私にはこんな雑魚は必要がないのだから。
私が一番に必要としているのはママだけだ。私のために命までもかけてくれた大切なママ。私がこの世界にいるのだから、きっとママもこの世界にいるはずなんだ。私が強くなって名声を得れば、ママは気がついてくれるはずだ。こんなに強いのは娘に違いないって。
だから、私は面倒でも苦痛でも退屈でも戦ってやる。倒せば倒すほどにママを見つけるのが早くなる。
試合開始のカウントダウンが始まる。ようやく始まろうとするわけだ。私の為だけの試合という奴が。
織斑一夏とシャルル・デュノアは自信たっぷりといった面構えをしている。己の非力さを正しく理解できていない奴の顔だ。これから真の恐怖を沢山刻み込んでやる。二度と自信なんぞ持てなくなるようにな。
カウントダウンがゼロを表示する。試合の始まりだ。
「行くぞ!」
先走る篠ノ之箒。好都合だ。当たって無惨に砕けてこい。邪魔だ
私は少しだけ後退して成り行きを眺める。加勢はしない。
傍観者の立場に甘んじていれば、篠ノ之箒はやはり無惨に敗退してしまった。銃は剣より強し、という言葉を知らんと見える。所詮は猪武者だ。頭の使い方を知らないな。
篠ノ之箒が負けたとなると、奴らは勢いに乗ってこちらを攻撃してくる。
織斑一夏が正面切って攻めてくるのを、私は余裕を以て待ち構える
そして、織斑一夏の攻撃を回避して、無防備な身体へとレールカノンを向ける。
破壊音が耳を刺激した。
半信半疑だった。
少なすぎる情報は判断することをさせてくれないし、情報提供者はまったくをもって説明をしない。
それでいて協力ばかりは求めてくるものだから、半信半疑どころか一信九疑の心持ちだった。
疑いしかない心で、よくもまあ試合会場に足を運んだものだ。我ながら理解できない行動だと思う。
ただ、薫子の言った最後の言葉が頭から離れないのが理由なんじゃないかとは考えている。
分からないけど、私に考えられる理由はそれだけだ。
織斑一夏とシャルル・デュノア対篠ノ之箒とラウラ・ボーデヴィッヒの試合は素人レベルだ。少なくても一夏、シャルル、箒はそこから抜け出せてはいない。
ラウラに関しては知らない。ただ、軍人であることを考えれば弱くはないだろう。あのセシリアを倒したのだ。弱いは当てはまらない。
箒がやられるのにはさほど時間はかからなかった。集中力を欠いているのは明らかだったし、二対一の戦いでは勝ち目はない。
残るはラウラだが、焦った様子を見せないことを考えてみると、箒のことは最初から捨てる気だったみたいだ。
一夏の突撃に対して、ラウラは苦もなく回避して、肩のレールカノンを可動させる。
そこまでだった。ラウラは攻撃を行うことを止め、一夏も防ぐことを忘れ、シャルルは助けに入ることを戸惑ってしまった。
轟音と言うべきか。鋼鉄の扉がアリーナへと滑り込み、会場全体の注目を集める。
私の記憶が正しければ、あの扉はISの射出口の扉だった気がする。それもそんじょそこらの力では壊せない類いの扉だった気もする。
それが吹き飛んだ。普通なら考えられない。ISの攻撃に耐えられるものなのだから。
会場は時間が止まったかのようだ。試合中に突然あらぬ方向から扉が飛んでくれば誰だって思考停止になってしまう。私だって試合中に何かが起こるかもしれないと心構えをしていなければ群衆と同じになっていた。
時間が再び動きだしたのは、扉の無くなった射出口からセシリアが出てきてからだ。