ROCKMAN X : BOY OUT OF NIJIGEN DREAM - ANOTHER CRITICAL FIRST   作:あやか

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WARNING


今回は人間(ホモ・サピエンス)の死亡描写が存在します。
閲覧には多少の注意を払ってください。


STAGE 2:雷拳男爵は如何にして己の意地を括目させたか?

フランス、パリ。

シャンゼリゼ広場で俺は完全戦闘モードに移行してから地図を広げていた。

郊外にある廃屋「チャット・ブラン発電所」の位置を改めて確認するためだ。

よし、ルートの確認もできたぞ。

ただ、不安要素もある。

 

「現在、パリにいます。この後郊外に出向き、チャット・ブラン発電所に潜入する恵玖須君に追走して内部を中継することになると思われます。チャット・ブラン発電所は安全性を向上させた新機軸の原子力発電所として1985年に建造されました。

 

 レプリロイドに使用される集束コンデンサー式太陽光モーターの技術を応用し、『常温核融合』とも言われる低温での熱核融合を実現して放射能問題を解決する画期的な発電所になるはずでした。しかし、チェルノブイリ原発事故の巻き添えで計画は頓挫。

 

 チャット・ブラン発電所は数回の試運転を行っただけで閉鎖されて立ち入り禁止区域となり、建物及び設備は現在も放置されたままです。今回、恵玖須君は件の発電所がワールドスリーに利用されている疑惑を掴み、事実確認のためはるばるフランスまで足を運んだのです。

 

 去年、元職員が全員行方不明になったことで様々な噂がたっていましたが、それの延長線のように今回のワールドスリーの蜂起から数日前に同発電所は心霊スポットと化しており、肝試しに入った若者が敷地外で死体になって発見される事件が頻発しています。

 

 そのため地元では『あの発電所の明かりに誘われたら命を落とす』とまで噂されています。」

 

横山さんたちがまた同行すること? 違う。

別の要因だ。

それ……訂正、『彼女』は俺の隣にいる。

黒いレオタード姿に黒い仮面という目立つ格好をして。

今が真夜中だから良かったものの……。

 

「エックスさん。あの発電所にはいつになったら向かわれるのですか?」

 

「……色々と準備もある、シャ……」

 

「怪盗の本名を人前で言うのは迂闊なことでしてよ!」

 

「……黒猫さん、色々と準備もある。まともに準備をしないとまたフレイアの思う壺だよ」

 

「素直で何よりですわ。それはそうと、エックスさんの意見もごもっともですわね」

 

彼女は、シャーロッテ・マグルゲーテ。

異世界にある王政国家、マグルゲーテの第三王女だ。

彼女が王女様であることは、この間華鈴さんに関する記憶が戻った余波で思い出せたけど。

一応、彼女は国内の暗部に立ち向かう義賊をしているそうな。

不安なのはその性格。

やいとより高飛車な気がするんだ。

俺、ただでさえやいとの性格が苦手なのに、それ以上の人が相手だと……。

 

「不安だ」

 

「何がですの?」

 

「黒猫さんの高飛車なところが。……!!」

 

「素直なのがあなたの美点ですけど、それが良きことばかりもたらすとは限らないことを忘れていましたわ」

 

俺の一言が思いっきり気に障ったらしく、シャーロッテさんが俺の頬を思いっきりつねる。

そう言えば、俺があの時いなくなるまで、シャーロッテさんは俺の頬をつねるのが好きだったな。

 

「手に油が着くことなく、柔らかな肌触りを堪能できるから、だったっけ? 事あるごとに俺の頬をつねる理由は」

 

「……まあ! 思い出したのですか!?」

 

「少しだけ……。完全には思い出せていないけど」

 

 

 

 

 

STAGE 2:雷拳男爵は如何にして己の意地を括目させたか?

 

ステージボス:『豪速の雷拳男爵 スパーク・マントヒッター』 『猛欲の害士官 フレイア』

 

 

 

 

 

時は数日前、所は東京の大きな病院。

前回、マルスの仇をとった俺たちは何とか戻ってこれた。

凍傷が思ったよりも重傷だった華鈴さんはハンター本部のツテで警察病院での短期治療を希望したが、御両親に捕まって民間の病院に入院させられたのである。

おかげで戦線を一時離脱状態。

俺が見舞いに来た際、俺の顔を見るまでかなり無念そうな表情でベッドに寝転がっていた。

 

「魔法で治せるのに」

 

「魔法で出来た特別な傷だから、自然治癒の方が確実に治るってエミットが言っていたよ。それに、名誉の負傷じゃないか。渚さんたちを冷気から守るために、自分の防御に回す分まで渚さんたちに貼った防寒フィールドの魔力に割いたんだから。ところで、渚さんは?」

 

「……あの戦いが中継されてた時に、ボクの魔力が光に戻るのを見て物凄く興奮してるところが全国に流れてね。家の人たちにもバッチリ視られて、それでしばらく接近禁止にさせられたんだって」

 

「いかにも同性愛的な仕草だったからなぁ……」

 

実を言うと、華鈴さんは渚さんとは同性間の恋愛関係なのだ。

それがあの生中継での渚さんの表情で暴露されてしまったようなものだから、非常に微妙な立場にさらされているのだ。

更に言うと、俺に対する愛の告白が華鈴さんの立場を更に微妙なものにしていた。

渚さんと恋愛関係とはいえ、それは渚さんに半ば強引に嗜好を捻じ曲げられた結果に過ぎない(作者注:R-18に該当する事項が含まれているため、何があったかはキルタイムコミュニケーションから発売中の「魔法少女エンジェリックカリン」を買ってご確認ください)。

故に、男(この場合は俺)への恋心も発生する訳で……。

おかげで華鈴さんは現在、下世話なネタ聞きたさにやって来る級友たちの追及を避けるために条件付き面会謝絶状態だ。

面会できるのは現在のところ、御両親、そして俺の3人。

 

「渚ちゃん、飛行機の中で浮気よ、とか大声出してたよねー」

 

「アレはいたたまれなかったね」

 

かく言う俺も、華鈴さんの愛の告白のせいで少々微妙な立場にいる。

クラスメートたちからの質問が凄まじい。

女子生徒たちの視線が凄く痛い(しかも全学年。俺ってそんなにモテていたのか?)。

やいとからは何度もコンパスの針で刺されそうになった。

 

「エックス。そこにいたのか」

 

「ゼロ!?」

 

いきなりゼロが病室に入ってきた。

いいのかな? ここ、条件付きとはいえ面会謝絶なんだけど。

 

「2組目の所在と思しき場所が推定できた」

 

「え!?」

 

 

 

数分後。

 

「……フランス!?」

 

「パリ郊外の閉鎖された発電所だ。スパーク・マントヒッターは覚えているか?」

 

その名前を聞くのは1年ぶりだな……。

 

「去年から、第11調停部隊に出張中の?」

 

そう言えば、あの時表示された写真には彼もいたな。

あ、確か第11調停部隊は……。

 

「フランスに基地があったんだ!」

 

「……スティグマが反乱を起こしたのと前後して、第11調停部隊の中で奴だけが行方をくらましている」

 

でも、それでどうしてパリ郊外にいるってことになるのだろう?

それが凄く気になる。

ゼロは何となくそれを察してくれたのか、説明を続ける。

 

「奴は向こうに渡って早々、さっき言った発電所の元職員全員と接触したことがある。詰問された際に、『発電所に何があったのかが個人的に気になったから』と答えたそうだが……。問題はその後だ。

 

 全員が、マントヒッターと接触後3日以内に失踪。当然マントヒッターが疑われたが、ご丁寧なことにアリバイは完璧だったため追求できず、逆に向こうからフランス政府の陰謀論を持ち出された。

 

 そしてマントヒッターが姿を消した後、発電所がある土地に『勝手に稼働している』『中に入ったら生きて出られない』なんて噂が流れ出している。

 

 大方、ワールドスリーが表だって動きだしたのにかこつけて、興味本位んで入り込んだのを獲物にしたハンティングでもしているんだろう」

 

……そうなると、どうしてもその発電所が怪しいな。

そう言えば、マントヒッターは誰と組んでいるのだろう?

 

「マントヒッターとタッグを組んでいるはマグルゲーテ軍の元士官、フレイアですわ」

 

いきなり、華鈴さんとは違う女性の声が俺の隣から響いた。

驚いて隣の方を向くと、目元を黒い仮面で隠した、黒いレオタード姿の女性がいる。

あの時、ゼロと一緒に駆け付けてくれた人達の一人だ。

刹那、華鈴さんが彼女の名前を教えてくれる。

 

「あ、黒猫ちゃんだ。恵玖須ちゃんは覚えてないかもしれないから教えておくけど、この人は『シャーロッテ・マグルゲーテ』って名前なの。であその恰好の時は『黒猫』って別名を使ってるの」

 

「そうなのか……」

 

何となくやいとと似たような雰囲気を醸し出しているような気がする。

言った瞬間に怒りそうだけど。

 

「あの女とは因縁がありますので、今回は私が同行いたしますわ」

 

 

 

 

 

それから現在。

俺達はパリ郊外にあるチャット・ブラン発電所の前に来ていた。

空は薄らと明るくなりかけている。

 

「テレビをご覧の皆様、私たちはチャット・ブラン発電所の玄関にたどり着きました。予測通り鍵がかかっていますが、現在黒猫さんがピッキングで開錠中です。……今開きました! 恵玖須君と黒猫さんが突入します!」

 

 

 

横山さんたちを尻目に、俺たちは発電所内に入る。

玄関からも確認できたけど、中は完全の平常運転と言わんばかりに電気がついているな。

 

「いましたわね」

 

「向こうから出て来てくれたね」

 

ご丁寧にも俺たちが入ってきた直後に向こうから大挙して姿を見せてくれた。

マントヒッターが単身合流したせいか、ガンボルトばっかりだけど。

っと、危ない!

いきなり電気弾を発射してきた。

 

「いきなり危ないことをしてきましたわね!」

 

「侵入者に対しては普通の対応だろうけど、危ないのには同意できる!」

 

エネルギー弾を連射して、ガンボルトの1体を破壊する。

その爆音と閃光を隠れ蓑にしたように黒猫さんが別の1体がミサイルを発射する隙を突いて、ハッチをキックで強引に閉じて、バク転で交代。

直後にミサイルが暴発して、ガンボルト自体も爆発。爆発の勢いのせいか破片や爆風で他のガンボルトもダメージを負う。

それに続くようにして、俺はチャージショットで残りを吹き飛ばした。

……ガンボルトは全滅か。

これで先に進める、そう思った瞬間に、黒猫さんの手が俺のバスターに触れた。

 

「……そのお手で、貴方は私を救ってくださいました。でも、貴方はそれをお忘れになっている……」

 

「……黒猫……さん?」

 

黒猫さんの表情は凄く悲しげになり、目も完全に潤んでいる。

しかも抱きついてから上目づかいで俺を見つめてきた。

俺も思わず黒猫さんを抱きしめ、その顔に見入ってしまう。

こういうのって、ラブシーンっていうんだっけ?

 

「でも状況的にいいのだろうか?」

 

 

 

 

 

イレギュラーハンター本部。

 

「良くないわよ! 戦闘中なのよ! 沙枝ちゃんたちがテレビ越しにあなたを睨んでて怖いのよ!」

 

エイリアの言う通り、沙枝(と華鈴を除いた6人)は表情を見ただけで怒っているのが分かる。

かく言うエイリアも怒りが顔に出ているが。

 

 

 

 

 

綾小路邸。

やいとの部屋。

 

「最低!! 節操なし!! 浮気者!! ヤリチン!! 女の敵!! 女たらし!! スケコマシ!!」

 

自室のテレビをそれを見ていたやいとに至っては罵声を飛ばしている。

声も凄まじく荒い。

 

「監禁よ! 帰ってきたら監禁して躾け直しよ!!」

 

 

 

 

 

都内の病院の個人病室。

 

「おいで! スターライトロッド!」

 

沙枝たちや、やいとと同じ光景をテレビで見てしまった華鈴は、これまた怒りに駆られてスターライトロッド(前回で説明していなかったが、これがヴァンパイア・ロッドの光側に属性チェンジした時……もとい、本来の姿である)をその手に握る。

やはり表情は怒り以外の何物でもない。

条件付き面会謝絶が解除され、渚やクラスメートたちがお見舞いに来ているのにも拘らず、フランスまで駆けつけるつもりになっていたのだ。

が、流石にまだ安静にしないといけないので、渚が慌てて抱きしめることで拘束(抱きしめた瞬間に鼻の穴を膨らまして恍惚とした表情になった)。

渚の呼びかけに1テンポ遅れて呼応したクラスメートたちも一斉に華鈴を取り押さえる。

 

「離せー! 離してー!」

 

「ダメよ! 安静にしなきゃダメ!」

 

この騒ぎは、見舞いに来た華鈴の両親が病室についてもしばらく続いた。

 

 

 

 

 

「あのー、恵玖須君。これ生中継ですから、多分学校のお友達とかも見ているかと……」

 

「…………!!」

 

やばい!

もしやいとがテレビで今のを見ていたら最悪だ!

手遅れかもしれないけど、俺は慌てて黒猫さんを引きはがした。

 

 

「無粋で貴方らしくありませんわよ、もう!」

 

「今は戦闘中です!」

 

『エックス。聞こえますか?』

 

今度はレイヤーから通信が来た。

どうしたんだろう?

 

『……今のラブシーンをテレビで見てしまった沙枝さんたちが怒っていました』

 

「…………」

 

姉さんたちのことを忘れていた……。

 

 

 

それから、俺と黒猫さんは襲い掛かってくる敵を蹴散らしながら発電所内を突き進んでいた。

 

「この発電所の元職員たちは、去年から相次いで失踪しています。拉致されたのか、それとも自分たちの意志でワールドスリーに協力しているのか、それはまだ分かりません。ただ、いずれもこの発電所に閉鎖に対して強い恨み言を残していたとのことです」

 

そうなのか……。

俺はそこまで詳しく調べなかったから、そいう点までは知らなかった。

 

『エックス! 緊急連絡です! マントヒッターに関して厄介な情報が入りました!』

 

「どうした?」

 

『マントヒッターは「サンダースライマー」という実験用に開発された元メカニロイドをペット兼私兵として飼っています。マントヒッターが第11調停部隊に出向した際に、安全面の問題から冷凍睡眠処理をした上で拘束されたはずでした。

 

 しかし、一部のハンターがマントヒッターへの人質に使うために目覚めさせようとしたところ……冷凍睡眠ユニットはもぬけの殻だったそうです。おそらく、今回の反乱でもマントヒッターに付き従っているとみて間違いないでしょう。

 

 サンダースライマーはマントヒッター個人に対して絶対の忠誠を誓っています。戦闘力だけでなく、その点にも気をつけてください』

 

「了解。警戒する」

 

「本部からの通信ですの?」

 

「ああ……。マントヒッター直属の部下がこの発電所に潜んでいる可能性があるって」

 

それから、俺は黒猫さんや横山さんたちにサンダースライマーについて説明した。

サンダースライマー……。

イギリスの『国立マンチェスター・総合工学研究所』の『バイオ工学部門』と『ロボット工学部門』、『電気工学部門』が10年前に共同開発した実験用大型メカニロイドだ。

「1つの細胞をどこまで大きくできるか」「大きくなった細胞を分裂させたらどうなるか」「ロボットとして完成できるのか」「発電機として機能できるのか」といった、複数のテーマを照明できるかの実験のために生まれたと。

完成したサンダースライマーは自体は課せられたテーマを全部クリアするほどの性能を発揮したが、元々失敗前提のプロジェクトであったため研究員たちは恐れをなし、一通りの実験に使った後でサンダースライマーを廃棄処分した。

しかし、偶然にもスティグマの見学に付き添っていたマントヒッターがそれを見咎め、口論の末にサンダースライマーを引き取ってレプリロイドに改造したと聞く。

 

「並々ならない恩義を感じているんだろうな……」

 

「道を踏み外した主に愚直なまでに付き従うほどの恩義ですもの」

 

「サンダースライマーとは、戦いたく……ないな」

 

つい、口に出してしまった。

そう言わずにはいられなかったとはいえ。

 

「戦わざるを得ない気がしますけどー」

 

「そんなこと、分かってるさ。でも、境遇を知っているとちょっと、ね」

 

横山さんからツッコミが来た。

分かり切ってはいるさ。

戦わなきゃいけないって。

でも……。

 

「理解と納得は違うんだ」

 

「その優しさに身を滅ばされる可能性がありますよー」

 

「クラスメートに似たようなことを一度言われた」

 

発電所内をひたすら突き進みながら、俺は横山さんのツッコミに言葉を返す。

隣にいる黒猫さんは、自分以外の女性との会話に対してチョッと妬いていそうな表情だ。

 

「ヒロインを放置して他の御婦人と会話なんて、感心しませんわね」

 

「今は戦闘中だってば」

 

 

 

 

 

それから数分間、俺たちは歩き続けた。

そして、妙に間取りの広い部屋に入る。

直後、入口が閉ざされた!

 

「閉じ込められた!?」

 

「出月ちゃん! 上! カメラ上に向けろ!」

 

砂山さんの怒声に応じて出月さんがカメラを向けた先…・・・天井を俺と黒猫さんも見る。

……やはり、避けては通れなかったか!

 

「オレ、サンダースライマー。マントヒッター様の用心棒だから、マントヒッター様の邪魔する奴、殺す!」

 

「……レプリロイドに改造された、とはお聞きしましたけど。なんというか……妾代わりの御稚児さん?」

 

……黒猫さんの呟き通り、サンダスライマーの姿は閲覧したことのある資料の写真とは完全に違っていた。

なんというか、マントヒッターの性癖をリアルで疑いたくなる。

それほどまでに今のサンダースライマーは可愛らしい容姿をしており、同時に身に着けているアーマーのデザインもおかしかった。

 

「お前はその姿を恥ずかしいと思ったことはないのか!?」

 

「今の俺の姿をデザインしてくれたのはマントヒッター様だ! だからケチつける奴はマントヒッター様を侮辱する奴! 殺す!」

 

「でもその可愛らしい姿を見る限り、奴専用のセクサロ……」

 

「小学生が汚い言葉を使うなぁー! 特に恵玖須君みたいな綺麗な子は絶対ダメぇぇぇぇぇ!!」

 

セクサロイドって言おうとしたら横山さんに遮られた。

え? 汚い言葉なの!?

横山さん、なんか必死の形相だし。

 

「せめてペットと言いなさいな!!」

 

黒猫さんまで!

なんなんだよ!

 

「みんなバカだ!! この非常時に下らない横槍を入れるなんて!」

 

「入れる身にもなってくださいまし!」

 

「そうですよ!」

 

ああもう!

緊迫しているってのこの2人は……。

 

「このシリアスな状況下で『ハーメ○ンのバイオリン弾き』みたいにギャグシーンを挟むなぁっ! 殺す! 改めて殺す!!」

 

……サンダースライマーの方が痺れを切らしてしまった。

仕方ないよね?

 

「その怒り、少しは俺も分かるよ」

 

「…………どうして敵のお前が共感するの!? しかも何? 共感させてって言いたげなその目!? オマケに女難の相も見えてるし!」

 

サンダースライマーが困惑している。

俺が困惑させただけなんだけどね。

これ以上コントをしていても仕方ない。

不本意だけど意を決して戦う!

サンダースライマーも俺の戦意を感じ取ったのか、体の各所からスライムを出してきた。

 

「マントヒッター様には近づけさせない!」

 

「撃たれる覚悟がある以上、俺は奴を撃つ!」

 

その前に、サンダースライマー目掛けてエネルギー弾を発射。

流石に3、4発では倒れないか。

 

「その程度か? 次はオレの番だ! マントヒッター様に教えてもらったこの戦い方を見ろ!」

 

スライムの質量に物を言わせたボディプレス。

俺と黒猫さんは咄嗟に回避。

スライムで衝撃を殺いで安全に着地したサンダースライマーは、スライムを天井に張り付かせ、それの引っ張る力で天井へと戻った.。

更に、電撃を飛ばしてくる。

 

「で、電撃です! 電撃を飛ばしてきました! 電圧はどれぐらいあるのでしょうか!?」

 

「最低でも1万ボルト以上!」

 

「意外と親切です。私が疑問を呈したら素直に答えてくれました」

 

横山さんも必死にリポートしている。

スライムも結構飛ばしているから避けるのも一苦労だ!

 

「嫌ぁー!」

 

!? 黒猫さんの悲鳴?

あ! スライムが直撃して黒猫さんが餡かけ状態になっている!

 

「こ……のぉっ。と、取れない……! お願いですから取れてぇ!」

 

「オレのスライムはしつこいんだぜ! ほらよ、痺れな!」

 

サンダースライマーが黒猫さんに狙いを定めて電撃を放つ体勢に入った!

1万ボルト以上の電撃を普通の人間が受けたら大変なことになる!

 

「黒猫さん!」

 

俺は大慌てでダッシュして、黒猫さんを守る。

自分自身を盾にして。

瞬間、全身に衝撃が走る。

 

「わぁぁっ!」

 

「エックスさん!」

 

確かに強力な電撃だ。

だが、俺はレプリロイドだ。

ダメージは受けても、すぐに動ける!

黒猫さんを抱きかかえて、ダッシュ。

黒猫さんを床に張り付いたスライムから強引に引きはがす!

直後、電撃がスライムを飛び散らせた。

 

「危なかった……」

 

「オ、オレの必殺の戦術を破っただと!?」

 

サンダースライマーが驚いている隙に、俺は黒猫さんに張り付いているスライムを取り除く。

狙い澄ましたように変なとこにべっとりと!

 

「我慢してくれよ!」

 

「剥がしていただけるのなら喜んで」

 

黒猫さんの顔が赤くなっているけど、気にしないで剥がさないと。

よし、剥がし終えた!

ここから反撃だ。

チャージも完了済み。

 

「チャージショットだぁっ!!」

 

「あだぁー!? マントヒッター様の……愛人を舐めんなー!!」

 

「スライムの塊なんか……こちらこそ願い下げですわ!」

 

黒猫さんがいつの間にか手に持っていたグレネードランチャーの引き金を引く。

弾を複数装填できるタイプらしく、よろけながらも連射していた。

だが、大量のスライムに遮られ、爆発はサンダースライマーには届かない。

 

「そこのB級のエネルギー弾ならともかく、普通のグレネード弾はオレには効かないぜ!」

 

「オーホホホホホホ! 普通のグレネード弾ではなくて、貴方の飼い主用に用意してもらった冷凍弾ですわ! 貴方が出しているそのネバネバ、寒さには弱そうですわね」

 

「何? ……あ! オ、オレのスライムが……!?」

 

サンダースライマーの体を覆うスライムの大部分が凍りつき、張り付く力が失われていく。

自重に耐えきれなくなったスライムが砕け散り、宙を舞ったサンダースライマーは地面に叩きつけられた。

 

「オ、オレが……負ける? マントヒッター様から侵入者の処刑を任されたオレが失敗するっていうのか!? しくじってたまるか! ここで俺が倒れたら、マントヒッター様をあの女から守れるのがいなくなっちゃう!!」

 

「やめるんだ! それ以上は危険だぞ!」

 

「やめてたまるか! オレはマントヒッター様の1の子分兼愛人なんだ! マントヒッター様を守る最後の壁なんだぁっ!」

 

「やめてくれぇぇぇぇっ!」

 

俺は……セミチャージショットでサンダースライマーを撃ち抜いた……!

これ以上撃ちたくなかったのに……撃ってしまった!

サンダースライマーの執念に怯えて……。

 

「もう撃ちたくなかったのに……俺は! 俺は、殺したくなかったのに!」

 

ショックで泣きそうになる俺を、黒猫さんが抱きしめた。

今度は、とても優しい顔で。

 

「これで良かったのですわ。これで……」

 

「…………」

 

黒猫さん……。

しかし、黒猫さんの顔を見つめていた俺の視界の端は、サンダースライマーがまた動き出すところを捉えた。

 

「まだ動けるのか!?」

 

俺は黒猫さんを庇おうとしたが、それより先に黒猫さんが俺を守るように身構えた。

 

「黒猫さん!?」

 

「これ以上、貴方に辛い役回りを押し付ける気はありませんの」

 

俺は、何も言えなくなった。

サンダースライマーは、足を引きずりながら俺たちに近づいてくる。

 

「ま、負けてたまるか……。遊び半分でオレを造って、性能にビビッてオレを捨てようとした味覚障害のライミーどもから、マントヒッター様はオレを救ってくれた! それだけじゃない! 俺がオスだと知ってもこんなに美しくしてくれた!

 

 女のボディが嫌だって言ったら、ちゃんと美少年のボディにしてくれた! 愛人にもしてくれた! 俺のことを大事にしてくれたんだ!! だ、だから……マントヒッター様の……所には行かせな……い……。オレが……守るん……だ……!

 

 でも…………もう、体が……動……かない。マントヒッターさ……ま…………、ごめんなさ……い。オレ、言いつけを……守れませんで……し……た……」

 

それで最後の力を使い切ったのだろう。

サンダースライマーは煙を身体の各所から吹き出しながら、事切れた……。

 

「この方、最期の最期まで……」

 

「マントヒッターのことを一途に想って……」

 

 

 

 

 

発電所の最深部。

サンダースライマーがいた部屋を映していたモニターを、大きな拳が叩き割る。

同時に激しい方向が室内に轟いた。

 

「俺のサンダースライマーをよくもぉぉぉぉぉっ!! 仇討ちだ! サンダースライマーの墓にあの2人の雁首を揃えてやる!」

 

「落ち着きな。マスビュームとエレベスを殺ったあの小僧が相手だった時点で詰んでたんだ。むしろ時間を稼いでくれた方さ」

 

拳の持ち主であるレプリロイドが怒り狂う様を、顔の左半分に大きな火傷の痕が残っている人間の女性が冷ややかに諌める。

レプリロイドは言い方が癇に障ったのか、女性を睨みつけた。

 

「……サンダースライマーの悪口にはなってないだろ? なんせ命は大事にする性分なんでね」

 

「精々気をつけるんだな」

 

レプリロイドは『スパーク・マントヒッター』。

女性は元マグルゲーテ軍人『フレイア』。

前回のマスビューム&エレベスとは違って相性は良くなさそうだ。

 

(しかし、エックスは何かあの時とは印象、というか見た目が微妙に違う気がするね。下半身周りは白かったような)

 

フレイアは、ふと心の中でそんなことを思っていた。

 

 

 

 

 

発電所の中を、俺たちはまだ進んでいる。

元々サンダースライマーで侵入者を確実に始末できていたためなのか、それ以降は敵らしい敵が見当たらない。

 

「またしても寂しげです。そのせいで我々はお通夜ムードになりかけています。どうも敵は兵力の殆どをサンダースライマーより前のフロアに偏重させていたようです」

 

しかし、いないとは限らない。

用心はして……おいて正解だったな!

 

「ヴァァァァァァァッ!」

 

人間が鈍器を振りかざしながら突撃してきた!

黒猫さんがキックで軽くあしらったけど。

 

「……人間が出てきました。あら? この人の顔、写真で見たことがあります。あ! この発電所の元職員です! 元所長です!」

 

ええ?

ここの関係者!?

 

「本当なのか?」

 

「間違いありません。資料で確認済みです」

 

この発電所の中にいたのか……。

 

「お前ら……よくもサンダースライマーを!」

 

日本語は喋れるようだ。

俺達を見る目は殺気に満ちている。

 

「俺一人だけじゃないからな!」

 

ヴァァァァァァァァァァァァァァァァッ!

 

! 他にもいた!

恐らく、彼らも発電所の元職員だろう。

相手は人間だけど・・・・・・

 

「エックスさん」

 

「黒猫さん?」

 

「盾役をお願いいたしますわ。攻撃は私が引き受けますので」

 

 

 

数分後。

俺が盾となって攻撃を全部受け止め、その隙をついて黒猫さんが元職員たちを鎮圧した。

ちなみに、鎮圧後は砂山さんが手足を縛り上げてくれた。

 

「うっわぁ・・・・・・。ここの元職員全員じゃないですかー」

 

「発電所の職員にしては少な過ぎるような・・・・・・」

 

横山さんのぼやきにして俺が質問したところ、横山さんではなく出月さんが答えてくれた。

 

「この発電所は核融合炉式だったから安全対策を普通の原発ほど重視しなくてよかったんだ。だから、自動化の実験を兼ねて意図的に職員を少数化してたんだよ」

 

「へえ」

 

そういうことだったのか。

 

「お前ら、フランス政府にでも雇われたのか!?」

 

「……イレギュラーハンターと日本のテレビ局ご一行ですけど。フランス政府の意思抜きでこの発電所に潜入したんですけど」

 

元所長以下、元職員全があっけにとられた表情になる。

俺たちのことをフランス政府の回し者と思い込んでいたようだ

 

「聞いていいか? あなた達は、自分の意思でマントヒッターに協力していたのか?」

 

「……当然だろ。彼は、俺たちを頼ってくれたんだ! この発電所を閉鎖させられた挙句、閑職で飼い殺しにされた俺たちが必要だって言ってくれたんだ! 協力してくれたらをワールドスリーの戦力で指定された場所や人物を殲滅するって約束してくれた。

 

 俺たちには願ったりかなったりさ。家族にも腫れ物扱いされ、くすぶるしかなかった俺たちはその条件に飛びついた。裏切り者とか言わないでくれよ。向こうが先に裏切ったんだ! 仕返しして何が悪い!? 文句はフランス政府にでも言ってくれ!」

 

「ふざけるな!」

 

元所長の言葉に、俺は声を荒げていた。

彼の言い分に怒りを覚えたから。

 

「政府と自分の家族以外の人たちや街を巻き込むな! 巻き込んだ時点で正当性の欠片もない、ただの八つ当たりじゃないか!」

 

「……復讐を否定する気は、ないのか?」

 

「俺も仇討ちのために戦ったことがあるから、否定はしない。それなりに手段を選べって言っているんだ! 色々方法が遭っただろう!? 色々と!」

 

俺の方も既にかなり熱くなっている。

ところが、さらにヒートアップしそうになる直前に黒猫さんから横槍が入った。

 

「一旦フレームアウト! リポーターさん、続きをお願いしますわ」

 

「ラジャー」

 

黒猫さんが俺に抱きつき、強引にカメラの視界から押し出す。

流石に引きはがすわけにはいかず、黒猫さんと壁にサンドイッチにされる格好となる。

 

「それでは、この発電所で作った電気はどこに送られているんですか?」

 

「知らないね。マントヒッターは協力してくれたよしみで教えてくれようとしたが、俺たちの口から機密が漏れたらシャレにならないから辞退したよ!」

 

この調子だと、彼らは本当に知らないようだ。

やはりマントヒッターに聞いた方がいいな。

 

 

 

 

 

発電所の最深部。

炉心の制御室であるこの部屋の窓から、核融合炉が見える。

明かりはついていない。

辛うじて、炉心があるところの照明の光が窓から入ってきているだけだ。

突然、俺たちを待っていたかのように窓がシャッターで遮られ、室内が暗くなる。

そして天井に数個の色とりどりの光球が浮かんで数秒してから、1ヶ所を除いて室内の明かりがついた。

光球の正体は……。

 

「マントヒッター!」

 

天井のワイヤーにぶら下がっていたスパーク・マントヒッターだった。

マントヒッターがワイヤーから手を放して着地した瞬間、部屋全体が揺れる。。

直後に、1ヶ所だけついていなかった明かりが点灯。

照らされた部分には軍服を着た女性がいた。

アレがフレイアか。

 

「よく来たな……。ワールドスリーの目的とサンダースライマーの仇討のため、死んでもらうぞ! ちなみにそっちが聞きそびれないように説明しておくが、この発電所で作った電気は電子コロイドに変えてワールドスリーの各拠点に送っている。

 

 すでにワールドスリーが100年戦えるだけのエネルギーは生成し終えているので、今は所長たちとの約束を果たすために必要な分を生成し、あるところに送っている。ちなみに送り先は機密の都合で自主的に知らない」

 

……サンダースライマーの飼い主だけあって、意外と親切だ。

流石に全部をベラベラと、とまではいかなかったが。

 

「黒猫の方は半殺しにしといてくれよ。利用価値がある」

 

フレイアは下卑た表情でマントヒッターに意見している。

もう2度と見たくないと思っていたんだけどな。

……!?

 

「……あ、思い出した。黒猫さんとのことをやっと思い出した!」

 

「エックスさん!?」

 

「そうだ……俺は、あの時黒猫さんを助けるために人間だと分かっていながらフレイアを殴ったんだけど、逃げられたんだ」

 

『レプリロイド用国民権利法』には、「同法で国民として認定されたレプリロイドには決してロボット三原則を適用することなかれ」とある。

つまり、正当防衛やボクシングでの対戦など、法律に抵触しない範囲であればレプリロイドも人間を攻撃できる、ということだ。

でも、レプリロイドは人間よりはるかに力が強い者が非常に多い。

だから俺は、自分の力が人間を傷つけてしまうのが怖くて……意識しないで『ロボットは人間に危害を加えてはならぬ』を自分自身に楔として差し込んでいた。

けれど、あの時の俺は黒猫さん……シャーロッテさんを助けるために楔を引き抜いて、フレイアを殴ったんだ!

俺の言葉を聞いて、黒猫さんはかなり嬉しそうな表情になっている。

喜び過ぎのような気もする。

その一方、フレイアの方は顔にある火傷の痕を歪ませながら俺を睨んでいた。

 

「お前があの場にいなけりゃ、全部上手くいっていたのに……!」

 

「貴様のような悪党に、マグルゲーテという国そのものも、黒猫さんも好きにはさせない! 人を守るためにロボットが人に危害を加えることが、問答無用でロボットだけの罪になるというなら、俺は死んだ後で償う!」

 

「訳の分からないことを!」

 

「貴方のような方には分かる資格すらありませんわ。エックスさんが自ら背負うと決めた物は!」

 

黒猫さんがすかさず割って入ってきた……というよりは援護射撃を出してくれた。

それを聞いてさらに熱くなり出してきたフレイアを諌めるように、今度はマントヒッターが前に出て来て俺を睨む。

 

「マントヒッター。どうしてスティグマに従う!? 恩義があるとでも言うのか?」

 

「正解だ。俺が出張した後で強制的に冷凍睡眠させられるはずだったサンダースライマーを、ご自身の立場が悪くなるのを考えずに助けてくれただけでなく、俺の元へと送り届けてくれた。だから俺とサンダースライマーは誓った。

 

 俺たち二人が引き裂かれないように尽力してくれたスティグマさんの力になると、スティグマさんの目の前でな! しかし、俺のサンダースライマーは死んだ。エックス、貴様に殺されたんだ! 貴様の首をサンダースライマーの墓前に供えないことには腹の虫がおさまらん!」

 

怒り、悲しみ、憎しみ。

マントヒッターの表情にはそれが溢れんばかりに現れている。

 

「さあ、死刑執行だ! 『豪速の雷拳男爵 スパーク・マントヒッター』と!」

 

「『猛欲の害士官 フレイア』が執行人だよ!」

 

マントヒッターは天井までジャンプしてワイヤーを掴んだ。

そして天井に足をつけ、バネの要領で足を引きの場のすのと同時にワイヤーを手から離し、高速でこっち目掛けて突っこんできた!

俺と黒猫さんは間一髪で回避。

更に激しい揺れが部屋全体に響く。

 

「ぬぅん! 我ながら凄いストレートだ!」

 

マントヒッターの強烈なストレートを俺はかすりつつも何とか避ける。

壁に大きな穴が空いている。

かすった俺の方も、強烈な衝撃を受けた。

流石に自画自賛するのも納得できる威力だな。

そう思っていると、別方向からエネルギー弾が飛んでくる。

飛んできた方向を向いたら、フレイアがメーザー銃を構えていた。

 

「この日を待っていたよ、アタシは! 大事な顔を焼かれたあの日からね!」

 

フレイアは吠えた直後、何かに気づいてその場を離れる。

瞬間、手榴弾が転がってきて爆発、破片をまき散らした。

 

「ちょっとタイミングが遅かったようですわね」

 

「殺す気か!?」

 

フレイアが自分のやろうとしていることを棚に上げて黒猫さんに抗議しだす。

黒猫さんは案の定というか、どこ吹く風だ。

 

「こちらも積もり積もった恨みがありますから」

 

そう言いたくなるのも分かる。

人間の相手は、同じ人間である黒猫さんに任せよう。

俺はマントヒッターの相手をしないと。

エネルギー弾を当てるが、流石に図体のせいかそこまで効いているようには見えない。

 

「その程度か? なら今度はオレの飛び道具の番だ!」

 

マントヒッターが地面を殴った瞬間、電撃……というよりは電気の塊が走ってきた!

しかも前方だけではなく、マントヒッターの後ろにも。

すぐ後ろで黒猫さんと戦っていたフレイアはそれに気づいてすぐに回避し、黒猫さんもそれに気づいて紙一重で避けた。

それを見ている内に、電気の塊はかなり近くにまで迫っている。

だったら!

 

「壁です! 恵玖須君は飛び越えるのではなく、壁に掴まってやり過ごすつもりで……。恵玖須君、危なーい! その電気の塊は壁を登ってますよー!」

 

「え?」

 

俺が横山さんのアドバイスに気づい時には、壁を登ってくる電気の塊が目の前にいた。

当然、直撃。

 

「うわっ!?」

 

威力はサンダースライマーの電撃以上だ!

ダメージで動きが鈍ってしまい、そのまま落ちて床に叩きつけられてしまう。

だけどやられてばかりではいけない!

セミチャージショットをマントヒッターの膝に当てる!

思わぬダメージになったのか、マントヒッターは膝をついた。

 

「……お、俺が膝をついただと? サンダースライマーの仇討という最も神聖な戦いで、失態だと!? 許さん……許さんぞぉ、B級止まりのお人好しがぁっ!!」

 

「スティグマに従って仲間を裏切ったお前に、弔いのために戦う資格などない!」

 

マントヒッターは更に激昂している。

それに対して頭を冷やせと言わんばかりに冷凍弾がマントヒッターに直撃した。

瞬間、マントヒッターが一気に凍りつく。

グレネードランチャーを手にした黒猫さんが、今度はマントヒッターを撃ったのだ。

 

「レプリロイドが相手である以上、最低限の飛び道具は必要ですわ」

 

「黒猫さん!」

 

「マントヒッターは『超電導』という現象を使って電気を自在に操っていますが、それ故に寒さ自体には弱いとお聞きしましたので」

 

なるほど。

電気は低温の方が通りやすい。

マントヒッターは寒冷地仕様には見えないから、超電導発生に使った冷気は可能な限り体の冷却にでも流用しているのだろう。

そこに追い打ちをかけるように外部から冷やされれば……凍りつくわけか。

 

「凍りついていられるかぁー!」

 

! マントヒッターが自分の周りを覆っていた薄氷を粉砕してまた動き出した!?

だったら、俺も冷えるので攻撃だ!

 

「ショットガンアイス!」

 

「ぐぉ!?」

 

もう一度氷漬けにする!

やられっ放しでなるものかとフレイアもメーザー銃を撃ってきたので、フレイアに対しても発射。

フレイアは意外と身軽なのですぐに避けたが、ショットガンアイスは着弾した瞬間に散弾化。

命中とはいかなかったが、散弾の何発かはフレイの皮膚を微かに切り裂いた。

 

「クソガキが! 一度ならず二度までも!」

 

「この死刑、どうやら執行人は貴方たちではなく私たちのようですわね。それも2か国ライブ中継の公開処刑」

 

「はぁ? 生中継してるのは日本だけだろ?」

 

「オーホホホホホッ! ごめんあそばせ。実は今回の戦い、エーテルランドの魔法使いやイレギュラーハンター本部の方々に協力してもらって……こことは違う世界にあるマグルゲーテ王国にも中継されていますの。

 

 向こうは『テレビ』が無いので『スクリーン』を1から用意して大変だったそうですけど」

 

「……はい!?」

 

え? そうなの!? 今初めて聞いた!

ビックリして横山さんたちの方を見ると、横山さんと出月さんが「知らなかった!」とジェスチャーしてきた。

そして砂山さんはその隣で手を合わせて俺に謝っている。

 

「伝えるの忘れてた! ごめん!」

 

忘れないでほしかったな……。

気を取り直してフレイアの方を見ると、奴は急に余裕が戻ったような表情になっていた。

 

「こいつは傑作だね! まさかあっちにまで中継するとは! あんた、私に正体知られてるのを忘れたのかい?」

 

「嫌と言うほど覚えていますわ。マグルゲーテにも中継する様に意見したのは私ですもの。貴方が重ね続けた罪と、私自身の直視すべき罪、その両方をここで清算するために!」

 

黒猫さんは不敵な笑顔のまま、正体を隠すための仮面に手をかける。

案の定、仮面を外して自ら素顔を晒した!

 

「しょ、正気かい!?」

 

「シャーロッテさん! 何てことを!」

 

フレイアの驚愕の声にも、俺の悲鳴にも、シャーロッテさんは動じていない。

まさか、最初から……?

 

「どうして!? 正体を知られるわけにはいかないって、自分で言ってたじゃないか!」

 

「……そう。世のため人のためであろうと、私のやっていることは犯罪。王家の名に傷をつけるやり方ですわ。だからこそ、私はあの女を私たち自身の手で裁いた後で、自らも裁かれることにしましたの。

 

 私自身が裁かれれば、王家の名もそれなりには回復するはず。それに、土壇場で潔くなれる女でなければ、胸を張ってエックスさんを愛せる女とは言えませんもの」

 

また愛の告白だ……。

これ、二股にはならないよな?

むしろ二股と見なされたら迷惑だ!

フレイアどころか、横山さんたちも固まっている。

 

「神聖な仇討ちの場で色恋沙汰を起こすとは何事だ!!」

 

! マントヒッターがまた動き出した!

一方、そんなのお構いなしにとろけた表情で俺を見ていたシャーロッテさんの方は、表情が急に変わる。

 

「エックスさん。認証コードをお願いいたしますわ!」

 

シャーロッテさんの頭の中にもか……!

こうなったら認証あるのみ!

 

「発動要請コードを頼む!」

 

「エックスさん! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

シャーロッテさんの身体に、蒼い追加装甲が装着される。

下腹部周りのが白い半ズボン状なのが微妙に気になるな。

最後に、再び仮面が顔に装着された後で頭部飾りが頭に装着された。

 

「な、何が起きた!?」

 

「ちょっと待て! どういう展開なんだい!?」

 

マントヒッターとフレイアはお決まりの反応だ。

しかし俺は慣れた。

 

「オーホホホホホホホホホホホ! 愛が成した業以外の何物でもありませんわ!」

 

「シャーロッテさん、ここからが正念場だ!」

 

「お任せあれ」

 

黒猫さんはそう答えた瞬間、レプリロイドもビックリの速さでフレアに肉薄し、豪快なミドルキックで壁に叩きつけた。

 

「が……っ!?」

 

フレイアがくぐもった悲鳴を上げる。

追撃をさせまいとマントヒッターはシャーロッテさんに狙いを定めようとしたが、俺が阻止した!

 

「サンダスライマーの仇はこっちにいるぞ!」

 

「おのれぇ……!」

 

怒り狂うマントヒッター相手に俺はショットガンアイスで応戦。

しかし向こうもさるもの。

凍ってもすぐに復活する上に、避けてくる。

 

「畜生! サンダースライマーの奴、あっさり死にやがって! 予想を裏切って時間稼ぎにもなってなかったじゃないか! だいたいアタシには何かとつっかかてきて可愛げがないと思ったら役にも立たないなんてね!」

 

形勢が一気に不利になったことにイラついたらしく、フレイアはサンダスライマーを罵倒しはじめる。

それが、奴の運命を決めた。

マントヒッターの拳が、奴の鳩尾に直撃したんだ。

 

「マントヒッター…………!?」

 

「悪く思うなよ。そっちがサンダースライマーの悪口を言ったからだぞ。言ったよな? 『サンダースライマーのことを悪く言ったら命の保証はしない』ってな」

 

派手に血を吐き、もうろうとした表情になって壁にもたれかかるフレイアを、マントヒッターは怒りに満ちた目で睨んでいる。

マントヒッターには思うところがあったからなのだろうが、俺達には絶好のチャンスだ!

 

「シャーロッテさん、今だ!」

 

「エスコートのご心配は無用ですわよ!」

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

俺とシャーロッテさんが光り輝きだす。

この連携で決める!

 

「あなたへの想いは私自身の罪故に禁じられ、私は裁かれるのでしょう」

 

「その柔肌が包む首目掛けてきらめく断頭の刃で、貴方は散ってしまうかもしれません」

 

「いつかの時に見た夢も、涙と共に零れ落ちるかもしれませんわ」

 

「そうなる前に守ってみせましょう、立ちはだかる影を蹴散らしながら」

 

「「『GO-Round』!!!」」

 

光の楔が集い、俺達の周りを回転しながら散開。

そのすべてがマントヒッターを突き刺した。

 

「え!? ちょっと待ちな! 今こいつが吹っ飛んだらアタシが巻き込まれるじゃないか! ちょっと!」

 

「……フレイアを始末するのは仇討ちを果たしてからにすべきだったな。ごめんなぁ……サンダースライマー。お前の仇討に失敗しちまったよ。今詫びに逝くからな……!!

 

 さらば大恩あるスティグマさん! さらばむかつくお前ら一同! さらば好きか嫌いかよく分からなかったこの世! スパーク・マントヒッターの最期は潔いのだ!!」

 

「待てこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

マントヒッターは不敵な笑顔を浮かべながら爆発。

ほぼ至近距離で真後ろにいたフレイアに爆風の衝撃と、マントヒッターの身体だった破片が襲いかかった……。

 

「マントヒッターの意地を頭に入れていなかったのが、この女の不幸でしたわね」

 

「VAVA以上のVAKAだった、ってことだろうな。この女に限っては」

 

「救えない下衆でしたわね」

 

「救う気はなかったけど」

 

俺達は、顔を中心に見るも無残な状態になっているフレイアの死体を見て、呟きあう。

その酷さは、横山さんが思いっきり顔を背けるほどだ。

……生中継で流せる代物じゃないな。

さて、と……。

俺は、なんとか原型をとどめているマントヒッターの首を抱える。

それを見た横山さんが、血の臭いに辟易しながらも聞いてきた。

 

「……何をする気なんですか?」

 

「せめて、サンダースライマーの側に置いた方がいいかな、って……」

 

悪党ではあったけど、マルスの仇だったマスビュームやエレベスよりはマシな方でもあった。

それに、サンダースライマーのことを本気で愛していたのも確かだったから……。

フレイアの死体? 放置して問題なし。

数十分後、俺達はマントヒッターとサンダースライマーを弔い、おっとり刀でやって来た警察を出迎えた。

元所長たちは、最後までフランス政府の非を訴えながら連れて行かれた。

それから、アレだコレだと俺たちも取調べを受け、パリに戻った時には朝。

……何か口にしないとな。

 

 

 

 

 

パリのラフな感じの飲食店。

俺達はここで朝食にありついていた。

そう言えば俺がかなり食べているけど、代金は大丈夫なのだろうか?

 

「ご心配なく。経費の名目でかなりせしめておきましたから。ユーロ札で」

 

なんだか腹の底を読まれたようでいい気分はしない。

 

「そう言えば、あのフレイアってのは本当にどうするんだ? あのまま発電所に放置し続けるのは……」

 

「問題ありませんわ。マグルゲーテ王国軍が確保することになっていますから、最初から生死問わず」

 

砂山さんがフレイアのことを気にし出した瞬間、何気に凄い言葉がシャーロッテさんの口から飛び出してきた。

シャーロッテさん、最初からいろいろ張り巡らしていたのか……。

 

「後は、シャーロッテさんだね」

 

「まー。お国には帰れないでしょうから、亡命が妥当ですねぇ」

 

「だよなぁ……」

 

俺の言葉に横山さんがもっとな例を出し、出月さんが同意する。

だが、それを他ならぬシャーロッテさんが一蹴した。

 

「あら? 私は大人しく捕まるつもりですわよ? 最初から」

 

「「「………………えー!?」」」

 

俺達は驚いたが、シャーロッテさんはどこ吹く風だ。

まさかとは思うが、最初からどの道自分も捕まる気だったのだろうか?

 

「あの時も言いましたけど、貴方を愛せる女は土壇場で潔くなれる女ですのよ。そ・れ・に・もうお迎えが来てますもの」

 

その言葉にハッとなって店の入口を見ると、そこにはフレイアが着ていた物とよく似た軍服を着ている集団が並んでいた!

 

「マグルゲーテ王国軍! 異世界の人たちがどうやってこっちの世界に大挙して!?」

 

「あの戦いをマグルゲーテ王国にライブ中継する際に協力してくれた方たちに頼みましたの。中継協力と同時に、王国軍の方たちをこちら側に転送してくれるように。そろそろお別れの時ですわね」

 

「待って! 捕まったらどうなるか分からないのに!」

 

自分たちを散々コケにしたシャーロッテさんに何をするか……!

最悪、フレイアに利用されたあの大臣みたいな手段に出る奴もいるかもしれない。

 

「土壇場で潔くなれる女に愛される男は、女程でなくとも潔くあるものですわ。その時はその時、王女をどうこうするなんて命がけですもの。それでは、またお会いしましょう、エックスさん」

 

「……………………うん。またね、シャーロッテさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『エレクトリックスパーク』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

カナダで動物兵器による都市奇襲が相次いだ。

余りの甚大な被害に、カナダ軍は手を焼いているという。

警察も混乱に乗じた火事場の犯罪の対応に追われて身動きが取れない。

事態打開のため、動物兵器の拠点であるウッド・バッファロー国立公園への突入が決定した。

次回! 「カーテンコールの主役たちは砕けて散った」。

信じる心を力にして、反逆の女神は悪を追い詰める!

 




オマケ:ボスキャラファイル


豪速の雷拳男爵『スパーク・マントヒッター』

第11調停部隊に出張していた、元第17精鋭部隊隊員。
マントヒヒをモチーフとした接近戦型レプリロイド。
元から有している高い発電能力を超電導で応用することで電撃による攻撃も可能。
面倒臭がりでグータラなためデスクワークは他人任せだが、前線での戦いとなると一転して勇猛果敢な戦士となる。
義理堅く情に篤い面もあるため、スティグマの海外視察に同伴した際に廃棄されるはずだったサンダースライマーを不憫に思って引き取り保護下に置いた。
性癖自体は至って普通なのだがサンダースライマーをレプリロイドに改造する際、女性型のボディを拒否した彼の意思を尊重して幼い美少年型ボディを用意した上で愛人としても扱っていたため、それを知る一部の仲間からは誤解されることに。
サンダースライマーとの絶対の絆故に、離れ離れにならないように配慮してくれたスティグマへの恩義から第11調停部隊が駐屯しているフランスに出張している間中、水面下でスティグマの反乱のために動き、閉鎖されていたチャット・ブラン発電所を秘密裏に占拠して再稼働させる。
作った電気を電子コロイドに変えてワールドスリーの各拠点に発送する任務に就きつつ、サンダースライマーと一緒に発電所内でだらける日々を過ごしていた。


猛欲の害士官『フレイア』

元マグルゲーテ王国軍大佐であり、異世界の人間。
文武両道で非常に優秀な人物だが正義感や軍人としての矜持が完全に欠如した、「非常に悪い俗物、または相当の悪女」の一言に尽きる性格をしている。
巷を騒がせる義賊・黒猫こと同国の第3王女シャーロッテ・マグルゲーテを罠にはめてここでは書けない手段で辱め、更には結託していた同国の元大臣を利用して漁夫の利を得ようとするも、その手際の良さに対するエックスの疑問に対して馬脚を出してしまう。
エックスの(文字通りの意味の)熱き鉄拳制裁で顔の左半分に大きな火傷を負いつつも逃走し、手段は不明だが作中の舞台となる世界にまで逃亡、手腕と悪知恵を使って裏社会に潜んでいた。
マントヒッターがフランスに出張した前後に、その優秀さとそれを引き延ばす欲の強さを評価したスティグマにスカウトされ彼に従属。
それ以降はスティグマの裏の秘書的な立場に収まっている。
マントヒッターとコンビを組んでいた(マントヒッターがグータラを決め込むことを見越したスティグマが、ボロが出ないようにとデスクワークも優秀な彼女をマントヒッターの相棒に割り当てた)が、義理堅いマントヒッターと自分以外を利用することを最優先に考える彼女の信頼関係は、ふとしたことで崩れる非常に脆弱な代物であった。




ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

マントヒッター
・コンセプトは「綺麗な岩本版マンドリラー」。以上!
・岩本版Xでのマンドリラーの情けなさや見苦しさに対するある種の個人的抵抗感から、愛人(スライマー)が大好きで妙に潔い、どこかユニークなキャラになりました。

フレイア
・この人は二次元ドリームノベルズの1つ『怪盗王女シャーロッテ』本編の悪役。美人なんだけど18禁作品の悪役なので内面は卑怯卑劣下卑で説明がつきます。
・原作では一人勝ちしていたが、本作ではエックスの介入(彼女の台詞や地の文に分かり辛いですが、「マグルゲーテにいた時と作中ではエックスの容姿が微妙に異なっていた」ことを示すヒントがあります)が運の尽きとなり、最終的に命を落としました。世の中、そう上手くは行かないね。
・原作でのキャラクターと比べると本作での死に様は非常に情けないが、これはマントヒッターの死に様との対比のため。

他のキャラクターや設定あれこれ
・砂山昇、出月一史、横山陽菜の名前の由来は、それぞれ「ロックマンエグゼのキャラクター(実は職業もほぼそのまんま)」「出月こーじ先生と有賀ヒトシ先生」「苗字は横山智佐さん、名前は適当な思い付き」。
・日本ローカル放送局ギルドはぶっちゃけ「他のローカル放送局を傘下に収めて強引に全国区になったテレ○東京」。ギルド、という名称は『ガン○ムS○EDシリーズ』の組織「ジャ○ク屋組合(ギルド)」から。
・敵組織の名前「ワールドスリー」はハッキリ言ってはぐらかせない。ロックマンエグゼに出てくる悪の組織の物をそのまま流用。『X2』の時の「ムカデは漢字で『百の足』って書くからムカデ型ボスの名前は『ヒャクレッガー』」だの、エグゼ版ワイリーの率いる組織の名前がワイリー当人の頭文字が三つ並んだ「ワールドスリー」だの、カプコンのネーミングセンスってパネェ。
・サンダースライマーは別の方が執筆された二次創作で微妙ながらも女性型レプリロイド化したような描写があったので、被らないように本作では「男の娘」型レプリロイドに改造された、という設定に。
・今回の舞台となった発電所の名前「チャット・ブラン」はフランス語で「白猫」の意。シャーロッテの怪盗としての別名「黒猫」と対になっています。



普通のあとがき
・気分転換と、ここ以外に投下している別のSSの続きを書くため、次回の投下は早くても来月の初めになるかもしれません。謹んでお詫び申し上げます
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