ROCKMAN X : BOY OUT OF NIJIGEN DREAM - ANOTHER CRITICAL FIRST   作:あやか

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STAGE 4:武士道と云ふは死ぬことと見付けたが故に死狂ひ也!

中華統合共和国江西(じゃんしー)九江(じゅーじゃん)市南部、廬山(ろざん)に位置する市街地、牛古嶺(くーりん)街(※「くー」に該当する漢字が環境依存文字のため、当該箇所は「牛古」と表記させていただきます)。

中合国屈指の名山の山上に位置する市街地であり、国内の上流階級御用達の別荘地でもある。

そこにいるのは、俺と退魔師兼巫女である山守(やまがみ)桜樺(おうか)

俺たち以外にも、いつも通り横山さんたち、ビート、中合国が雇った賞金稼ぎが二人(俺は既に戦闘モードに移行している)。

 

「視聴者の皆様。中合国の伝統長き別荘地の街並みに桜樺さんの巫女服が最高にマッチしていません」

 

「うるさい」

 

桜樺はどこか不機嫌そうだ。

それはそうと今回は中合国政府の要望で、政府が超常現象対策に雇った賞金稼ぎ集団『レッドアラート』のメンバーが助っ人として参加している。

リーダーであるレッドと、最年少メンバーのアクセルだ。

 

「俺達としては御宅らの取り分を盗る気は無かったんだが、何せ超常現象が相手だとな」

 

「そういう契約だからね」

 

「中合国にはその道のプロはいないの?」

 

わざわざレプリロイドだけの集団に頼んでいるあたり、切羽詰っているのは分かるけど……。

中合国ってその道のプロがたくさんいるイメージがあるからちょっと混乱してしまう。

 

「その道のプロの大部分は、(まお)沢東(あるしぇん)が大陸の天下を獲った時に香港や澳門にシンガポール、日本に渡ったぞ」

 

共産主義(コミュニズム)は宗教を否定しているんだよ? 宗教と密接に繋がっている人たちが協力する訳ないじゃん。黒帝(ツァーリ・チョールヌイ)が文化大革命を潰したおかげある程度残ってくれたようなもんだし」

 

そういう事情か……。

ロシア第二帝国の共産主義嫌いは俺も知っているけど……。

今回、廬山に秘密裏に存在し、長らく忘れ去られていた匡廬甲天下(くぁんるーちゃーてんしゃー)絶秘鉱山を占拠している敵を統べる者の一人との果たし合いに赴く。

それが、俺達が集まった理由だ。

 

 

 

 

STAGE 4:武士道と云ふは死ぬことと見付けたが故に死狂ひ也!

 

ステージボス:『鋼鉄の甲弾闘士 アーマー・アルマージ』 『新月の暴虐将 銀鬼』

 

 

 

 

 

遡ること昨日。

イレギュラーハンター本部。

メンテナスルームで俺は来須博士と話し合っていた。

 

「アップグレード? 麻希奈さんと亞里亞さんが?」

 

「……私としても、というよりは私個人が一番使いたくない表現だが、そう言うしかないのだ」

 

来須博士はかなり苦い表情で呟く。

 

「麻希奈は感覚過敏化の抑制、亞里亞は変身後の姿の健全化。それを終えないことには、二人の戦いを素直に応援できない。察してくれ! 父親である以上、娘たちにこれ以上はしたない真似をさせたくないんだ!」

 

麻希奈さんの感覚過敏化はアッチの感覚にも該当するし、亞里亞さんの変身後の姿は言わずもがな。

アップグレードでどうにかしたくもなるか。

来須博士の表情は物凄く心配そうだ。

俺が戦っている間、父さんと母さんもこんな表情で心配してくれているのかもしれない。

 

「恵玖須!?」

 

「……麻希奈さん」

 

私服姿の麻希奈さんがいつの間にか立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「来須博士から、麻希奈さんと亞里亞さんのアップグレードをするってさっき聞かされたんだ」

 

「そうなの……。本当ならワールドスリーを何とかしてからでもよかったんだけど、父さんが譲らなくて」

 

まあ、それは仕方ないと思う。

ちゃんとした理由を来須博士本人から聞いた以上は、ね。

 

「それより、今日は学校でしょ?」

 

「ああ。麻希奈さんのことが少し気になって、少し寄り道したんだ」

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、遅刻したら元も子もないでしょ? 私と亞里亞なら、大丈夫よ。父さんだけじゃない。コサック博士やライトット、ケイリー博士もいるんだから」

 

「……うん」

 

麻希奈さんの言うとおりだな。

遅刻したら格好が付かない。

駆け足で急ごう。

 

「行ってらっしゃい」

 

「行ってきます」

 

 

 

 

 

「南極じゃ魔法少女、フランスに行ったときは怪盗、そしてカナダの場合は改造人間! どういうことなの!?」

 

「綾小路さんから聞いたけど、他にも4人いるそうじゃない! それも殆ど年上!」

 

「七股かけるなんていったい何考えてるのよ! あたし達のことは散々あしらったくせに!」

 

あれから数時間経過し、昼食(この学校は初等部から学食方式なのだ)を食べ終えてさあ図書室に行こうと思った矢先、クラスの女子達に捕まってしまった。

それはもう、轟々たる非難。

席に座っている俺を取り囲むように女子達が集まっている。

ここまで言われる覚えはないはずなんだけど。

逃げようにもやいとに頭を掴まれ、他の女子たちに囲まれてしまったので逃げられない。

 

「で? 申し開きはあるの?」

 

「七股どころか、俺、あの人たちの内の誰とも付き合った覚えはないよ……」

 

やいとの質問に正直に答える。

それなのに、やいとは思いっきり爪を立てた。

 

「ふざけてないでちゃんと答えなさい!」

 

「ふざけてないよ!」

 

「ああ、もう! 埒が明かないわね! このまま茶道室に連れて行きましょう! 真面目に答えたくなるようにするわよ!」

 

やいとの怒号に、女子達が呼応して吼える。

それって、セクハラするって言ってるのと同じじゃないか!

嫌だよ、そんなの!

困り果てていたら、何故かその場に巫女さんが現れた。

 

「やれやれ……」

 

後ろ髪を緑色のリボンで束ねていた巫女さんはため息をついて少し間を空けた後、やいとの腕を掴む。

物凄い力で掴んでいるらしく、俺の髪を鷲掴みにしているやいとの手の握力が一気に弱くなった。

これに乗じて俺はやいとの手を振り解いて席を立つ。

 

「恵玖須。私か誰か、分かるな?」

 

「山守桜樺だろ?」

 

そう、彼女の名は『山守桜樺』。

名前は思い出せないけど、大きな退魔組織にいたことのある人だ。

妖怪と人間の混血児で、その出生のせいかどこか一線を引いた態度でいることが多い。

相当の実力者で、今はフリーの退魔師として政府と直接契約している傍ら、都内の大きな神社に勤務している。

俺が封印された箇所から辛うじて引きずり出した記憶は、今のところこれで全部だ。

 

「思い出せてはいるようだな」

 

「ありがとう。でも、どうしてここに?」

 

「……ワールドスリーの最高幹部の一人・元第8機甲部隊隊長が直接こっちに連絡を入れてきた。お前に物申すためにこの学校に参上する、と」

 

そうなのか……。

しかし、俺に何かを言うためにわざわざこっちにまで来るというのは不自然だ。

余程の物好きなのだろうか?

第一、どうやってこっちにまで来る気なのか。

そう思って窓の方を見た瞬間、俺は妙に納得できていた。

第7空挺部隊の旗艦、デスログマーが低空飛行でこっちに接近していたからだ。

 

「アレをハイヤー代わりにしたようだな」

 

「間違いなく世界一目立つハイヤーだけどね」

 

桜樺の言葉に、俺は妙に冷静な状態で答えた。

 

 

 

校庭。

デスログマーから大勢のレプリロイドやメカニロイド達が降りてくる。

装備からして、第8機甲部隊であることが分かる。

最後に降り立った、日本刀を持っているアルマジロ型のレプリロイドが俺と桜樺の目の前に姿を現す。

 

「ロックマンエックスと鬼巫女桜樺の御両名とお見受けする。某(それがし)は元・第8機甲部隊隊長、現・ワールドスリー『8対の最高幹部』が一人、アーマー・アルマージ。本日は人質の解放も兼ねて、ロックマンエックスに果し合いを申しに来た!」

 

「!? 果し合い?」

 

そのためにわざわざ来たと言うのか!?

しかし、人質とは何のことだろうか?

桜樺も気になるらしく、問い質した。

 

「人質? まだデスログマーから降りていないと思われるが」

 

「……笑止。某以外の第8機甲部隊隊員一同の事よ」

 

……え?

 

「ええ!?」

 

「ロックマンエックスよ、貴殿が驚くのも無理はない。しかし某はワールドスリーに合流する際、御大将であるスティグマ殿への忠誠の証の一つとして、部下達を差し出した。それだけである」

 

アルマージは微動だすることもなく、毅然とした態度で答える。

しかし、アルマージの部下達にも寝耳に水だったらしく、彼らの間にも激しい動揺が広がった。

 

「アルマージ様!? 我々は……」

 

「口を挟むでない! イレギュラーハンターを裏切った某を慕う貴様らを、これ以上虜囚のままにするという所業を続けるわけにはいかぬ。もっとも、スティグマ殿はお怒りになるだろうが」

 

彼らの反応からして、どうやら人質云々はアルマージが勝手に言っているだけのようだ。

この男は俺に果し合いを申し込むついでで、部下達を守るために……。

この点は桜樺も気になったらしく、待ったをかけるように口出しした。

 

「アルマージ。当の部下達にも寝耳に水のようだが?」

 

「……某がこの者達を欺いただけの事。御両名、某はこれから中合国は廬山の忘れ去られた鉱山へと戻る、御両名が乗り込むのを待たせてもらうために。鬼巫女桜樺よ、貴殿の『父親』もそこにいる……。これにて、御免」

 

「……!!」

 

桜樺の父親は、強大な力を有する凶悪な妖怪だ。

その妖怪は昔、ある退魔師兼巫女さんを(年齢宣言に抵触するので中略)し、巫女さんはその妖怪の子供を身ごもってしまったのである。

件の巫女さんが生んだ子供、それが桜樺なのだ。

そのため、桜樺は父親に対して並々ならぬ敵意を抱いている。

だから桜樺はアルマージに対しても敵意むき出しで身構えた。

 

「やめておけ。学校を火の海にするつもりか?」

 

「!?」

 

そんな桜樺を諌めるように、元・第7空挺部隊隊長にしてデスログマーの主でもあるイーグリードが姿を現した。

 

「イーグリード!?」

 

「久しぶりだな。……こんな形で再会するとは思ってもみなかったがな」

 

「どうしてあなたまで!? ゼロが『ハンターの鑑』とまで言っていたあなたまで、どうしてスティグマに……!」

 

「あいつ、俺のことをそこまで……。だが、俺はそこまで讃えらる資格を当の昔に失った。ましてや、ハンターの資格すらもスティグマに敗れた時に失くしている」

 

俺の問いかけに、イーグリードは只静かに答える。

スティグマに敗れた?

一体どういうことなんだ!?

 

「エックス、一言だけ言っておく。俺はアルマージを確実に連れて帰るようスティグマに厳命されている。故に、もしもお前とそこの巫女さんがここで事を構える気なら、俺は躊躇うことなく学校やお前の学友たちを巻き込む」

 

「本気なのか!?」

 

「ワールドスリーに参加することとは、そういうことなのだ」

 

その一言とともに、イーグリードは自身の飛行能力でデスログマーに帰艦。

デスログマーの方もアルマージを回収してそのまま低空飛行で逃走した。

 

 

 

 

 

イレギュラーハンター本部。

ディスプレイにアルマージと、桜樺の父親である妖怪の顔写真が表示される。

 

「南アジア(主にインド近辺からチベットまでのことを指す)の治安維持協力を主任務としていた第8機甲部隊は、スティグマが蜂起する数日前に極秘任務の名目でインドのアルナシャール・プラデーシュ州にある、中合国との国境付近で消息を絶っているわ。

 

 消息に関してはアルマージがワールドスリーの最高幹部になっていることをゼロが辛うじて突き止めることができただけで今まで全くの謎だったわね。まさか、国境を越えるどころか更に数千㎞離れた場所に潜伏していたなんて……。

 

 でも、どうしてアルマージは自分の部下たちを『人質』と言ったのかしら?」

 

エイリアも同じ点に首をかしげている。

確かに、どうしてあんなことを言ったのだろうか?

……まさか。

 

「俺との果し合いに巻き込みたくない、から……?」

 

「…………それだけのためとは、考え難い気がするわ」

 

さすがに、理由としては弱いか。

エイリアにダメだしされてしまった。

 

「もしかしたら、ワールドスリーに部隊ごと合流したこと自体、アルマージさんにとっては予想外だったのかもしれません。適性の問題で第8機甲部隊から第11調停部隊に転属した元隊員の方に聞いたことがあるのですが……。

 

 第8機甲部隊はアルマージさんを頂点としたとんでもなく強い結束で繋がっているのですが、その結束自体アルマージさんの尋常じゃない漢気に惹かれた部下の皆さんが勝手に作っただけのものだったので、アルマージさん御自身はちょっと困惑していたそうです。

 

 だから、第8機甲部隊の皆さんはスティグマさんには全く忠実ではなかった可能性があります。アルマージさんって武士道が実体化したような方ですから、自分の主君に忠実じゃない部下を心のどこかで邪魔に感じていたのかもしれません」

 

「パレットの推測が正しいという前提で意見しますが、アルマージは自分の部下たちを危険視していた可能性もあります」

 

パレットとレイヤーも、別の可能性を主張する。

どれが正解なのだろうか?

全部正解、という可能性も……。

それが気になって首をひねる俺を余所に、エイリアは妖怪の説明に入った。

 

「この妖怪の名前は『銀鬼(ぎんき)』。かつて、歴史の陰で悪逆非道の限りを尽くして悪名を轟かせた文字通りの悪鬼羅刹よ」

 

「……かつて?」

 

『かつて』という点が気になった俺は思わず訪ねてしまった。

エイリアにとっても思うところがあったらしく、険しい表情で説明してくれた。

 

「こいつの所在を把握していた退魔組織があんまり非協力的だったから、スティグマがゼロを含む特A級ハンター、果てはVAVAや私まで引き連れて激しい掃討作戦を実行したのよ。その退魔組織もガタガタになったから個人的にはスカッとしたけど。

 

 ……あ、ごめんなさい。まかりなりにも、桜樺がいた組織のことなのに……」

 

「構わない。あんな連中に未練などないさ。むしろ、お前とVAVAに感謝しているぐらいだ」

 

エイリアならともかく、VAVAにまでそんな感情を……。

その退魔組織は何をやらかしたのだろうか?

 

「……その退魔組織は何をやったんだ?」

 

「エックス。思い出せない、っていう幸せもあるのよ」

 

「エイリアの言う通りだ」

 

俺も関わっていたのか……。

きっとそれに関する部分は、Dr.ケイリーに封印されているんだろうな。

 

「銀鬼に関しては……実は桜樺の父親よ。どういうことかは本人の許可は事前にもらったから説明はできるけど……。エックスにも言っていいかどうか」

 

「……レイヤーやパレットもいる時点でその意見は成立しないと思うけど。それ以前に、俺は既に桜樺から聞いている」

 

レイヤーは10歳(俺同様に蘭ヶ峰学院の初等部4年生で、俺ややいととは違うクラス。誕生日は俺より早い)、パレットに至ってはまだ3歳(蘭ヶ峰学院の幼等部に通っている)だ。

ちなみにエイリアは14歳(姉さんのクラスメートでもある)で、ゼロは12歳(蘭ヶ峰の中等部1年生)だ。

 

「言われてみればそうだけど……。仕方ないわね」

 

 

 

それから数分後。

桜樺の壮絶な出生にみんな固まってしまっている。

俺は既に知っていたけど、思い出すだけじゃなくて他者の口から聞いても気分のいい話じゃないな。

流石に不味いと思ったらしく、エイリアは即座に話題を変えた。

 

「廬山の鉱山に関して中合国政府に問い合わせてみたところ、本当に忘れ去られていたらしくて、担当の人がしどろもどろになっていたわ。第8機甲部隊はアルマージを除いて全員こちら側が保護という形で確保。

 

 アルマージと銀鬼を除いた鉱山内の戦力は、銀鬼に従う妖怪だけと考えた方がいいわね。前回同様に少数での殴り込み作戦になるけど、今回は相手が相手だからビートにも同行してもらうわ」

 

「ビートはこう見えても攻撃的広域支援ロボットだ。攻撃力は中々のものだぞ」

 

エイリアの言葉に相槌を打つように、コサック博士が説明してくれる。

 

 

 

 

 

そして現在。

舞台は廬山に戻る。

 

「まさか、廃屋の地下に入口があるとは」

 

国有の敷地内にある一軒の廃屋。

全くの手つかずだったそれの地下に、鉱山への入り口の一つがあった。

 

「それにしてもさ、いい加減過ぎない? 今の今まで忘れててた、なんてさ」

 

「黒帝の介入で文化大革命が潰れたドサクサで関係者の大半が亡命同然に海外移住して、詳細を知っている人が政府内にほとんどいなかったそうだ」

 

「人材管理までザルじゃん」

 

アクセルが呆れたように毒づく。

エイリアが中合国政府から聞き出せた情報によると、この鉱山みたいに黒帝の介入の煽りで詳細が分からなくなった中華人民共和国時代の秘密施設が国内には大量に存在しているそうだ。

中合国政府にとっても悩みの種らしい。

とにかく、鉱山に入ろう。

 

 

 

鉱山内部。

俺たちは思いの外近代的な設備が揃えられている内部に少し驚いている。

 

「視聴者の皆様、ワールドスリーはかなり前からこの鉱山を掌握していたのでしょうか? かなり近代的な設備で整えられています。不思議でなりません」

 

横山さんの言うとおりだ。

これだけの設備を秘密裏にそろえるとなると、一朝一夕では済まない。

しかし、ワールドスリーはどこまで綿密に事を企てているのやら。

 

「……悪しき気配が漂っているな。間違いなく、奴はこの先にいる」

 

桜樺は一層険しい表情で呟いている。

俺にもなんとなく分かる。

吐き気を催しそうなぐらいの邪念が鉱山中に漂っていることが。

一気に駆け抜けたい気分だ。

 

「……トロッコ?」

 

おあつらえ向きにトロッコが放置されている。

トロッコにしては妙に横幅が広くて自動車よろしくシート完備、更にはハンドルまでついているけど。

あれに乗るか。

 

「これで一気に駆け抜けよう」

 

「流石に幾らなんでも軽率なんじゃね?」

 

砂山さんの突込みが飛んできた。

それが普通だよな。

 

「ディレクターのツッコミは極めてごもっともですが、奥の方から直視したくないのがわらわらと出てきてますよ」

 

横山さんの一言に呼応するように、奥から妖怪達が大挙して湧き出てきた!

確かに直視したくないな。

 

「鉱山の中をあれだけの数の妖怪相手に進まなきゃいけないが、流石にあんた達を守りながらとなると足がいるぞ」

 

レッドも険しい表情だ。

これ以上迷っている暇はないな。

 

「早く! このトロッコに乗って!」

 

「…………分かったよ! 肚括ればいいんだろ!」

 

砂山さんが居直ったかのように真っ先にトロッコに乗り込む。

それを皮切りに他のみんなも一斉に乗り込んだ。

 

「私達も乗るぞ!」

 

「うん!」

 

最後に、俺と桜樺が乗り込んだのを見計らったかのようにトロッコが動き出す。

 

「このトロッコ、何を想定して作ったんだ? ハンドルだけじゃなくてアクセルペダルやブレーキペダルまであるぞ! こうなったらベタ踏みしてやる!」

 

そんな砂山さんが絶叫と共にアクセルペダルを踏んだ瞬間、トロッコが急加速した!

 

「く、口が! 風圧で口が勝手に開く!」

 

「口元を手で隠せばいいでしょ!」

 

出月さんの悲鳴にアクセルが文句を言っている間も、トロッコは加速を続ける。

相当な速さになっているらしく、レール上にいる妖怪たちを跳ね飛ばしながらトロッコはレールの上を爆走しだした!

 

「にゃあああああ! タダでさえ名状しがたいのが更にキモい状態になって飛び散っていくぅぅぅぅ!! 『インディー○ョーンズ ○宮の伝説』どころの話じゃありませぇぇーん!」

 

「『レール○ェイス』よりもひどいことになってるよコレ! ……今、跳ね飛ばされた妖怪と目が合ったよ、ギャー!!」

 

「ヘイヘイヘェェェェェェェイ!!」

 

横山さんと出月さんの悲鳴が響く。

砂山さんに至っては極度の興奮状態だ。

 

「正気じゃないな! あのテレビ屋は!」

 

「こんな状況で正気でいられる人なんて限られてるよ!」

 

レッドとアクセルの怒号も聞こえてくる。

そんな中、桜樺の怒号が俺の隣で響いた。

 

「恵玖須! 後ろから追いかけてきたぞ!」

 

本当だ。

しかも集団な上にかなり速い。

追いつかれる前に……。

 

「撃っておく!」

 

「うげぇー!」

 

人間の紅い血よりおぞましい色の液体を吹き上げながら、追いかけてきた妖怪の内の一人が盛大に転がる。

 

「あれだけの数なら、僕に任せなって!」

 

アクセルは言うや否や、両手に持った銃でエネルギー弾をばらまきだす。

余計にガンシューティングゲーム染みた光景になってきた。

だが、アクセルの銃はそれほど火力は高くないらしく、追いかけている集団はそこまでダメージを受けているようには見えない。

そう思った直後、桜樺の声が聞こえたと思ったら激しい炎が、追いかけてくる集団をあっという間に火だるまにした

 

「これで追手はしばらく来れないだろう」

 

「今の炎は?」

 

「退魔術の一環だ」

 

魔法とは微妙に違うのだろうか?

……今はそんなことを気にしていい時じゃないな。

 

「えええええええええ!? れ、レールが途中で途切れてるぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「大丈夫だ! ○ールチェイスじゃレールが敷かれてないとこもトロッコは爆走していた!」

 

横山さんの悲鳴に対して、砂山さんは開き直った答えを返す。

確かにあのゲームではそうだったけど……。

 

「あのテレビ屋は何の話をしているんだ!?」

 

「切羽詰まり過ぎてゲームと現実がごっちゃになっているみたいだ!」

 

砂山さんがテンパっている姿を見て桜樺も若干の不安を感じているようだ。

それに対してアクセルは的確な言葉で返す。

トロッコはかなりの速さで走っおり、乗っている俺たちはかなり強い風を浴びる格好となっている。、

が、邪念が満ち満ちているためちっとも爽やかじゃない。

……気のせいだろうか?

どう見ても数mほどの段差が目の前に広がっているのだが。

 

[一定数値以上の段差を確認。ジャンプ装置を自動で起動します]

 

……トロッコになぜか設置されているスピーカーから電子音声が響く。

瞬間、トロッコは電子音声通りに盛大にジャンプ。

段差をあっさりと乗り越えた。

 

「なあ、俺たちが乗っているコレって本当にトロッコなのか?」

 

レッドが問う。

 

「車輪の形状からして、トロッコだとは思うよ?」

 

俺が答える。

 

 

 

 

 

乗り出してから10数分。

トロッコは鉱山のかなり深いところまで進んでいた。

邪念から感じる不快感も更に強まっている。

 

「視聴者の皆様、こちらは吐き気を催しそうなおぞましい気配を感じています。それも複数!」

 

「横っち、テンパってるなぁ」

 

「開き直って適応してしまったプロデューサーに言われても……」

 

砂山さんたちの会話がだんだんと殺伐なものになっていく。

しかし、空気の淀みが気のせいか薄まってきたがする

 

「あれ? 何だか、奥が眩しくなっている気がする」

 

「? ワールドスリーが今になって新規採掘ルートでも……。違う! あの明るさは人工のものじゃない!」

 

俺の疑問に答えようとした直後、桜樺は答えを翻した。

確かにあの眩しさは電気の明かりではない。

そう思った直後、一気に太陽の光と外の風景が目に入る。

 

「で、出ました! なぜか外に出てしまいました!」

 

横山さんの悲鳴がまた響く。

しかし、今度は山間を流れる風の音で少し勢いが殺がれている。

あまりの強風とトロッコが走る際の振動で浮き上がりそうな錯覚に襲われる。

それに耐えて前方を見ると……。

 

「れ、レールが途切れてる! しかも崖になってる!」

 

「ふふふ……ふへへへ…………ああっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃぁっ! ………………恵玖須君のバカー!!」

 

俺がそう言った瞬間に横山さんが発狂した。

それもそうだよな……。

しかし、そんな状況で無我の境地になる暇すらなかった。

 

[ソーラーロケットブースター起動。着地時の衝撃にご注意ください]

 

また電子音声が。

そう思った瞬間にトロッコが急加速!

レールの切れ目からさっき以上の大ジャンプでがけを飛び越え、別の坑道の入り口まで大ジャンプした!

猛スピードでトロッコは着地し、回転しながら急停車。

俺たちの視界には、廬山の雄大な風景が広がっていた。

 

「い、生きてます! 私たち生きてます!」

 

横山さんも狂喜乱舞同然の状態だ。

砂山さんと出月さんも同様の状態となっている。

その一方で俺たちは廬山の雄大な景色に見とれていた。

 

「祖父から聞いたことがある。廬山は聖山であり、中合国とそれ以前にあった数多の国々において芸術と文学、政治の重要拠点であったと」

 

「スティグマは一体どうやってこの廬山にある鉱山のことを知ったのかな?」

 

「簡単です。数年前にアルマージ様と一緒に横浜中華街のレストランに行った際、元関係者から偶然聞いたんですよ」

 

そういうことか……誰!?

背後から声が聞こえたので、俺と桜樺は大慌てで振り返る。

そこにいたのは、ナースみたいなデザインのアーマーを着た少女。

トロッコのエンジンの部分から顔を出している……。

……彼女もレプリロイドか。

 

「私はメディ。第8機甲部隊時代からのアルマージ様の秘書です。このトロッコの制御装置も兼任しています」

 

「……なぜ制御装置を兼任しているんだ?」

 

「私も覚えていません。とにかく、アルマージ様と銀鬼のところまでご案内します」

 

 

 

 

 

鉱山の最深部。

俺たちはメディの案内でここまで来た。

自然の洞穴なのだろう、大小多数の外に繋がる穴が開いている。

そして、奥の何十畳もの畳が張られた箇所にいた。

 

「参られたか、御両人。改めて名乗ろう。某が『鋼鉄の甲弾闘士 アーマーアルマージ』。そして某の隣にいる……」

 

「見届け役の俺こそが『新月の暴虐将 銀鬼』だ。随分と久しぶりだな」

 

アーマー・アルマージと銀鬼が。

銀鬼の姿はおぼろげながら覚えている。

鋼のような鈍色の肌に赤眼、そして名前通りの銀髪。

 

「見届け役を不快に思われるかもしれんが、そろそろ始めようかな。エックス殿!」

 

「メディのトロッコは、あなたの差し金なのか?」

 

「メディは部下たちの中で唯一人、スティグマ殿への従属の意思を持っていた。故にここまでの案内役を任せたまで。……心が躍るな。武人としての血が騒ぐのだ。強き者を見ると戦いたくなる……」

 

アルマージは立ち上がり、一歩ずつ徐々に俺たちの方へ近づいてくる。

暗くて全体の輪郭しか見えなかった姿が、近づくにつれて段々とハッキリ見えてきた。

 

「たとえ、“咎”を受けようともな!!」

 

「そ、その目は!?」

 

アルマージの左目に大きな刀傷が走っている!

一体何があったんだ!?

 

「アルマージの刀傷はスティグマがつけたものだ。貴様と戦う許可を得たはいいが、少々羽目を外してしまってな」

 

「何があったか、某が委細を話そう」

 

 

 

「大馬鹿者めがぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

スティグマがビームサーベルの一太刀をアルマージの顔面に当てる。

直後、アルマージの左まぶた辺りに大きな刀傷ができていた。

 

 

「第8機甲部隊の隊員総員を人質解放の名目でイレギュラーハンターに引き渡した挙句、廬山にある絶秘鉱山の存在を暴露! あの鉱山に残っている金銀財宝や採掘済み鉱石資源の持ち出しはまだ終わっていないんだぞ!

 

 果し合いの許可は出したがあそこまでやって良いとは言っておらん!!」

 

「……鉱山の存在暴露については言い逃れはできませぬ。しかしながら、あれらまで我々に合流したのは、某はおろかスティグマ殿にも予想外でありました。ましてや、その動機自体もスティグマ殿ではなく某への忠義から。

 

 如何な理由があれど、スティグマ殿への従属の意思なき者はワールドスリーにとって大きな内患となります!」

 

「ならばなぜ粛清しなかった? 人質解放はあれらを守るために敢えて吹いた大法螺でもある、その通りであろう?」

 

「…………まかりなりにも某を慕い、共に道を踏み外してくれた者たち。某にはあれらを斬ることはできませんでした……」

 

アルマージの言葉にスティグマは黙り、少しだけ思案に暮れる。

そして思案の後に発した声は、意外なものであった。

 

「鉱山の存在暴露については看過できん! 銀鬼! VAVA!」

 

「呼んだか?」

 

「どうした?」

 

部屋の隅で待機していた銀鬼とVAVAに、スティグマは命じた。、

 

「銀鬼にはアルマージとエックスの一騎打ちの見届け役を頼む。VAVAにも見届け役を担ってもらうぞ!」

 

「まあ、コンビを組んでいる以上、首を縦に振るしかないな」

 

「……エックスの力が本物かどうか直に見られるなら、別に文句はないさ」

 

銀鬼とVAVAは、簡単にスティグマの命を受け入れる。

それを聞き終えてから、スティグマは改めてアルマージに視線を移した。

 

「貴様への咎は以上だ! 第8機甲部隊隊員を引き渡した件については、貴様の漢気に免じて不問とさせてもらう。勝って漢を上げるまでこれ以降の謁見はかなわぬと知れ! さっさと廬山に戻れ!!」

 

「スティグマ殿……。では、これにて失礼つかりまつる」

 

 

 

そんなことがあったのか……。

 

「ということは、ここにはVAVAもいるのか?」

 

桜樺がアルマージに尋ねる。

アルマージが答えるよりもずっと早く、答えは明かされる。

室内の暗がりの一部から、奴が……、VAVAが現れたからだ!

 

「よく分かってるじゃないか。あの連中とは十味以上も違うだけあって」

 

「久しぶりだな」

 

VAVAも桜樺も、懐かしい知人と再会できたかのような態度だ。

心なしか、VAVAが少し嬉しそうな反応をしていたような気もする。

 

「まあな。だが桜樺、何故お前ほどの女がエックスに入れ込む? あの時、銀鬼を死の寸前にまで追い込んだ程の退魔師であるお前が!」

 

「諭してくれたからさ。力とは出自ではなく、使うものの心次第で善悪が決まると。だからこそ、私は鬼の血の力でそこにいる鬼を完膚無きにまで叩きのめせた。それだけじゃない、恵玖須はあの時、私を助けてくれた。惚れるには十分過ぎる理由だ。

 

 お前も分かっているはずだ、VAVA。恵玖須の今の力を。優し過ぎるが故に得た、眩しい力を!」

 

そう言い切る桜樺の表情はごく自然な笑顔だった。

綺麗だ……。

 

「確かに、そいつは既にB級とは言い難い強者だ。だが優し過ぎるのが気に食わない……! エックスを倒して最後に笑うのは俺だ! VAVAだ!! しかし大将から銀鬼共々見届け役を任されている。……というわけで、今回は見学させてもらおうか」

 

VAVAはそう言って妙に大人しく畳の上に座った。

それに合わせたかのように、銀鬼は立ち上がり、こちらに近づいてくる。

 

「貴様、何を考えている?」

 

「安心しろ。見届け役だからお前とその忌々しき蒼い小僧の一騎打ちは邪魔しない。俺は娘の方に用があるだけだ」

 

「よくもそう言う。桜樺殿を手籠めにしておきながら」

 

抜け抜けとほざく銀鬼の言葉に対して、アルマージは蔑みの言葉を吐き捨てる。

そして気を取り直すように俺の方に視線を向けた。

左目の刀傷が……。

 

「俺と、戦うために……」

 

「下らぬ話で貴殿の勢いを削いでしまったようだ。我らの戦いに言葉はいらぬ」

 

直後、アルマージの頭部装甲が展開し、光線銃がせり出す。

……あれが火を吹いた時が、一騎打ちの開始を告げる合図だ!!

 

「これが我らの言葉よ!」

 

その言葉とともに放たれた光弾を俺はジャンプして回避。

俺は空中で迎撃態勢に入る!

 

「だったら俺にできることは、俺の持ってる“力”の全てで……あなたの傷に答えることだけだ!」

 

セミチャージショットを発射!

しかしアルマージは不動のまま左腕の盾を構える。

 

「感謝するぞ……エックス殿!!」

 

アルマージの盾はなんとセミチャージショットを弾いてしまった!

 

「お、恐ろしい頑強さです! 恵玖須君が発射したエネルギー弾を難なく弾き飛ばしてしまいました!」

 

横山さんも只々驚愕している。

そうなるのも無理はない。

単に構えただけで、セミチャージショットを弾き飛ばしてしまうなんて!

 

「……どうされた? 臆されたのか、エックス殿? B級とは思えぬ力でワールドスリーの最高幹部たちを次々と倒した強さは……どこなのだ!? よいか? 戦いというものは! 臆した者に必ず”負け”が訪れるものなのだ!!」

 

アルマージの気迫に満ちた視線が俺の全身を振るわせる。

だが、いつまでも震えてはいられない!

 

「たとえ臆したとしても、俺は乗り越えていく! あなたが盾を構えるなら、防ぎ切れない数の弾を放つだけだ!」

 

エネルギー弾を連射!

 

「確かに、それだけの数のエネルギー弾を盾で防ぎ切るのは難しい。しかしこれでなら……容易いことだ! この姿になった某に、ローリングシールドに死角はない!!」

 

それに対してアルマージはモチーフの如く丸まり球状になってエネルギー弾をすべて弾き、更に回転しながら突進してきた!

俺はボディアーマーで辛うじて受け流す。

 

「うあっ! そう来るなら、ダッシュでしのぐ!」

 

「どこへ逃げようとも無駄なり!」

 

「あうっ!」

 

何とか踏みとどまり、俺はアルマージの次の突撃をダッシュでかわすが、それでも所々に掠ってしまう。

 

「某のこの五体に埋め込まれた数々の複合センサーが……いつでも貴殿をマークしているからだ!! 複合センサーは、貴殿のレプリロイド離れした人肌の如き体温すら容易く感知する!!」

 

あれだけ激しい勢いの突撃がミサイルみたいに曲がって追ってきたのはそのためか!

避けるのが難しいなら……。

 

「真正面から受け止めるのも一つの手だ!」

 

アルマージの突撃を、俺は足を踏ん張って真正面から迎え撃つ!

 

「うおおおぉぉおおおぉぉぉ!!」

 

掴んだ!

ライト博士に造られた自分の五体の力を信じて、このまま止めるんだ、恵玖須!

流石にこのままでは押し負けるほどの勢いだが、俺には武器チェンジ機能がある!

センサーを高圧電流で吹き飛ばす!

 

「ぬおおおおおぉぉぉぉぉっ!! エレクトリックスパーク!」

 

密着射撃だ…………弾かれた!?

 

「それで某の回転とローリングシールドを止めたつもりか!?」

 

「ぐっ……。うわあぁぁっ!」

 

動揺した一瞬の隙を突かれ、俺は真正面から吹き飛ばされてしまう。

その勢いで俺はそのまま壁に叩き付けられてしまった。

バスターどころかエレクトリックスパークまで効かないとは……。

勢いも腕力だけでは止められないほど。

どうすればいい?

あれこれ関げている今もアルマージの突撃は続いているんだぞ!? 恵玖須……!

 

「肚を括られたか? エックス殿!」

 

ギリギリのタイミングでダッシュして回避。

……何だ? 回転しながら周囲を飛び回るアルマージからエネルギー弾が飛んできた!

 

「へうっ!」

 

「今の某を鉄壁の珠と変えている光の盾だけがローリングシールドではないぞ!!」

 

うまく引き付けてから避けても、向こうのエネルギー弾が四方に飛んでくる。

避け切れない……!

 

「ぐあっ! うああぁぁぁぁああぁっ! んぅっ!」

 

ボディアーマーがかなりダメージを削いでくれてるけど……流石に3回連続で突撃を食らうとかなりきつい。

どうすればいい? 考えるんだ!

……しかし、考えようとする前に嫌な気配が一体に満ちてくる感覚に襲われる。

 

「……貴殿も感じ取られたか」

 

どうやらアルマージもこの気配を感じたらしく、回転を止めて物と形態に戻った。

そして、銀鬼の方を睨む。

 

「貴様、基地中の配下をここに呼び寄せたな!」

 

「それが? 一騎打ちの邪魔はしないが、残りの連中に手を出さないと言った覚えはないぞ」

 

やっぱり銀鬼の差し金か!

そうだ、今になって思い出した。

血の繋がった娘である桜樺に自分の子を新たに生ませようとするような奴が、大人しく一騎打ちの見届けをするはずがなかったんだ!

かつて桜樺が所属していた鳳蓮の連中といい、こいつといい!

 

「……思い出したよ。鳳蓮の連中も大概だったけど、貴様も相当に腐っていることを! 銀鬼! 貴様には戦士の誇りは無いのか!?」

 

「何を当たり前のことを聞く! 無かろうが生きていけるわ!」

 

醜悪な嘲笑を顔に浮かべて銀鬼は即答した。

しかし、銀鬼の表情は文字通りの鬼気迫るものへとすぐに変わる。

 

「貴様のせいで俺は思わぬ屈辱を味わっただけでなく、娘の手でひどい深手を負わされたのだぞ、小僧! 今こそその恨みを晴らす時よ!」

 

直後、桜樺が銀鬼の前に立ち塞がる。

 

「だったら貴様の娘である私の恨みで捻り潰されろ」

 

すでに銀鬼に迫るほどの気迫を放ちながら。

 

「視聴者の皆様、桜樺さんの気迫が物凄いです。でもそれがとっても頼もしいです!」

 

横山さんは結構安心した表情になっている。

確かにかなり頼もしい。

 

「アーマー・アルマージ。この一騎打ち、一時小休止を挟ませて欲しい」

 

「邪魔者が多過ぎる故、致し方あるまい」

 

アルマージは銀鬼の悪質さに怒っているらしく、あっさりと桜樺の提案を了承してくれた

そして、そのまま畳が敷かれているところに戻って座り込んでしまう。

 

「まるでボクシングの試合だな」

 

VAVAがそんなことを言ったような気がする。

だが、1分そこらで片付きそうにはないな。

そんなことを考えていたら、桜樺に話しかけられた。、

 

「お前も少し休んでいろ」

 

「だけど、相手は数に物を言わせてきているんだよ」

 

「問題ない。アクセルトレッド、ビートもいる。それに…………」

 

桜樺が言い終わる前に、銀鬼に従う妖怪の一人が彼女に襲いかかる。

だが、桜樺は軽く腕を振るっただけでそれを吹き飛ばしてしまった。

 

「“腕”に覚えがあるからな。だからお前は少し疲れをとった方がいい」

 

笑顔で俺にそう言い聞かせ、綺麗な黒髪黒眼を煌びやかな銀髪赤眼に変えた桜樺は銀鬼とその配下たちを睨む。

半人半鬼の桜樺は正真正銘の鬼である銀鬼の娘でもあるため、その力を開放すると髪と眼の色が銀鬼そっくりになるのだ。

緑色のリボンが銀髪に映えて絶妙なアクセントになっているな。

気が付くと、アクセルが二丁拳銃を、レッドが大きな鎌を手にしている。

 

「そのお姉ちゃんの言うとおり、少し休んでなよ」

 

「安心しろ、仲間たちにはここの場所をとっくの昔に教えた。その証拠に、テレビ屋たちの隣を見てみろ」

 

そう言われて砂山さんたちの隣を見たら、9人のレプリロイドがいた。

あれがレッドアラートのメンバーか。

 

「ついでに言っておくが、あの全身ピンク色のはアーマーを着込んでいる人間だからな」

 

……思っていることを見透かすような言い方はちょっと嫌いだ。

でもとりあえず少し休んでおこう。

そうこうしている内に妖怪の群れVS桜樺+ビート+レッドアラート一同の殺し合いが始まった。

レッドアラートの面々もかなり強いな。妖怪たちをバッタバタと蹴散らしている。

ビートの方も体当たりで妖怪たちのどてっぱらに風穴を開けている。

桜樺に至っては軽く腕を振るっているだけで妖怪たちを叩きのめしているな。

 

「“その姿”でそこまで力を制御できるようになったとはな……。随分と強くなったな! だがその両手だけでどこまでしのげる?」

 

「だったら要望に応えてこの刀を使わせてもらうか」

 

銀鬼の挑発に余裕の態度で乗った桜樺は、腰に差してあった刀を遂に抜刀する。

それは正に、剣ならぬ刀の舞。

ただ舞に合わせて振るっているだけで、妖怪達にはまるで掠っていない。

だが、不安は感じない。

そして舞が終わり、桜樺は刀を収める。

しかし、刀はハバキ(刀の刀身と束の間にある金具。鞘と刀身を固定するための物)の部分が鞘に収まっていない。

 

「ただ舞っていただけじゃないんだぞ」

 

桜樺は俺に向かってそう言って、ハバキの部分を意味ありげに鞘に収めた。

瞬間、妖怪たちが一瞬で八つ裂きになる。

 

「山守静流剣技、『百花時間差逝き造り』!!」

 

結構えげつない技だ。

よく見たら、銀鬼の胸板や腹筋にも大量の刀傷ができている。

 

「お、おのれ……!」

 

「どうした? それで私の父親とは聞いて呆れるな」

 

そんな皮肉を吐き捨てた直後、桜樺が再び俺の方を見る。

何を言おうとしているかは、何となく気づけた。

 

「恵玖須、認証コードとやらを頼む!」

 

予想通りだった。

そう言われたら認証するしかないじゃないか。

 

「任せて!」

 

「恵玖須! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

桜樺の身体に蒼い追加装甲とバイザーが装着される。

下腹部の部分が今までより変に目立っている気もするけど、言わないでおこう。

 

「そんなハッタリで俺がひるむと思ったか! 戦いはこれからだぁっ!」

 

「言いたいことはそれだけか……」

 

銀鬼の言葉に冷笑で返した桜樺の表情が、瞬時に険しくなる。

そして銀鬼めがけて殴りかかる。

その気迫は、既に銀鬼を完全に超えていた……!

 

「ぬぅあああああああっ!!」

 

「何!?」

 

!?

桜樺の拳が巨大化&分身して銀鬼に襲いかかるかのような幻覚が一瞬見えた気がした。

瞬時に銀鬼は両腕で顔をガードするが、桜樺の拳はそのガードを簡単に崩して顔面に数十発も入る。

 

「げぼー!?」

 

「ああたたたたたたたたたたたたたたたたたたた! ああたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた!」

 

顔面だけじゃない。

銀鬼の全身を、まるでカツレツ用に肉を引き延ばすかの如く万遍無く殴っている!

 

「………………!」

 

あまりの凄絶さに思わず後ずさりそうになる。

レッドアラートの面々もこの光景にそれぞれ引いている。

ついに銀鬼はダウンしたが、それでも桜樺は止まることなく銀鬼を殴り続ける。

 

「ぬわー!」

 

「ギャー!」

 

「にゃー!」

 

砂山さんたちも悲鳴を上げている。

一方、VAVAはどことなく嬉しそうな反応を示し、アルマージは終始平静を保っていた。

 

「ああたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたぁっ!」

 

殴る勢いの余りの激しさに衝撃が銀鬼の体を伝って地面にぶつかり、銀鬼の体を浮かび上がらせてしまう。

銀鬼の口からくぐもった呻き声が聞こえる。

やがてその呻き声が掠れてきた頃、桜樺は最後の一撃を股間に叩き込んで銀鬼を吹き飛ばした

 

「あたぁっ!!」

 

銀鬼が物凄く盛大に地面に転がる。

 

「秘技! 惚れた男と身内には見せられないパンチ!!」

 

「見てしまった……」

 

「見せちまったかも」

 

俺が呟いた後に、出月さんも呻くように呟いた。

桜樺から聞いたことがあるが、彼女の身内は既に祖父だけだと。

一応、血の繋がりがある存在だけなら結構いるが、桜樺の母親である『山守(しずか)』さんが銀鬼に乱暴されて桜樺を産まされた件で軒並み彼女と一方的に絶縁したため、桜樺の身内は祖父だけということになる。

しんみりしてもしょうがない。

 

「アルマージ。一騎打ちの続きだ!」

 

「待ちわびたぞ……!」

 

アルマージが立ち上がり、こちらに向かってくる。

あの鎧をどうにかすれば、勝機は見えてくる。

しかし、回転中は完全に隙がない。

エレクトリックスパークでセンサーを吹き飛ばすとすれば、元の形態に戻った後だ。

その時を作るには……。

考えを巡らせていた中、不意に桜樺が耳元で話しかけてきた。

 

「……恵玖須。奴の複合センサーは、恐らく熱探知がメインだ」

 

「アルマージも、俺の微かな体温を探知できると豪語していたから、俺もそうだと思う」

 

「それなら、付け焼き刃だが作戦がある。いいか……」

 

 

 

「ではこの一騎打ち、いざ尋常に再開!」

 

「来い!」

 

アルマージが頭部の装甲を展開して再びエネルギー弾を発射。

俺はそれを回避。

直後、アルマージは再び球状になって回転・突撃してきた。

真正面から来たアルマージを引き付けて、ダッシュジャンプで回避!

そしてダッシュでアルマージが飛んでいく方とは別方向へ急いで移動する。

この時にもう一度武器チェンジしておく。

 

「避け切れたとしても無駄なり! それほどの手傷ならばいずれは力尽きるという……何事!?」

 

桜樺の教えてくれた作戦通り、アルマージは回転形態を解除した!

今が勝機だ!

アルマージが振り向くよりも早く……!

 

「エレクトリックスパーク!」

 

高圧電気の塊が少しゆっくりと、アルマージめがけて飛んでいく。

俺の咆哮に反応して振り向いたアルマージが攻撃に気付いて盾を構えると同時に、エレクトリックスパークは盾に命中!

弾かれることなく、盾を伝ってアルマージの全身に電流を走らせた!

 

「うぐがぁああああああ! ぬ……ぬかったわーっ!!」

 

アルマージが吼えた瞬間、複合センサーを内蔵した鎧と盾が吹き飛ばされた!

吹き飛んだ鎧と盾を一瞥した後、アルマージは俺“たち”がいる方を見て、一瞬の隙を作ってしまった理由を悟る。

 

「なるほどな……。某自慢の複合センサーの性能を逆手に取ったわけか。某に指摘された、人間と同レベルの……レプリロイドとしては低過ぎる己の体温を利用し、桜樺殿と並び立つことで某の複合センサーを鮮やかに欺いて隙を突いたか!!」

 

そうだ……。

桜樺が咄嗟に教えてくれた作戦、それはアルマージの複合センサーの性能を逆手に取ること。

俺の体温が人間と全く同じレベルなら、人間の隣に立てばセンサーは俺と人間の判別ができなくなるかもしれない。

失敗の可能性もあったけど、俺は一か八かに賭けて砂山さんたちとは離れたところに立ってくれた桜樺の隣に待機したのだ。

そして、成功した!

 

「聞かせてもらいたいことがある……。何故、マントヒッターの武器で仕掛けてきた?」

 

「物の試しだよ……」

 

「物の試しとな?」

 

「俺の低過ぎる体温すら感知して追尾できるほどのセンサーだ。だから、高圧電流には意外と弱いと思ったからエレクトリックスパークを使っただけさ。最初はローリングシールドに弾かれたけど、今度は予想以上に上手くいったよ!

 

 センサーの性能を逆手に取る作戦自体は、桜樺が土壇場で教えてくれたけどね」

 

俺は毅然と言い切る。

それを聞いたアルマージは、どこか嬉しそうな気がする。

 

「そうか……、物の試しか……。そして、某を欺いた手は桜樺殿から教わったものか……。ふふふ……。捨て身の戦法と勝負運の強さ、助言を受け入れられる判断力、何よりもそれらを全力で活かせる戦闘能力……。

 

 それらを兼ね備えた貴殿もまた、特A級に値する素晴らしき強者であろうな! ロックマンエックス殿、この一騎打ちは貴殿の勝ちに候!」

 

「アルマージ……。俺には分からない。あなたほどの侍が、どうしてスティグマの手先になってしまったんだ!?」

 

「それは、アルマージが侍だからこそだ。侍であるアルマージにとって、スティグマはいわば総大将。武士道に則って奴に従うことにしたのだろう」

 

俺に疑問に、桜樺が推測で答えてくれる。

そしてアルマージはその推測を肯定した。

 

「半分は桜樺殿の推測通り。残りの半分は、かつてパキスタンの反レプリロイド主義の政治家の陰謀から、命がけで第8機甲部隊を守り抜いてくれたことへの御恩返しだ」

 

「だからと言って! 道を踏み外した奴に従うなんて間違っている!」

 

「確かに、スティグマ殿は道を踏み外した文字通りの外道……。されど、某の願いを聞き入れてくれただけでなく、勝利も願ってくれた“漢”でもあられる!」

 

「それでも、あなたまで道を踏み外して従うほどの価値なんかないよ! これからは一緒に戦おう! ワールドスリーからみんなを守るために!!」

 

俺は、認めるわけにはいかない!

アルマージが道を踏み外してまで従う価値が、スティグマにあるなんて!!

認めてたまるか!

そんな俺の言葉を意外に思ったのか、アルマージは畳の上に置いてあった刀を拾い、俺の方へと近づいてくる。

 

「スティグマ殿もまた、特A級に相応しい。名刀『紫炎』。某が知る限りで、レプリロイドを切り裂いて刃こぼれ一つせぬはこの妖刀一本のみよ……。一緒に……、みんなを守るために……か……」

 

アルマージは呟いた後に抜刀。

その刹那………………「切腹」した!!

 

「ア……アーマー・アルマージ!!!」

 

「狼狽えるな……エックス殿。某はワールドスリーに合流した際、忠誠の証としてスティグマ殿の了承を得て秘密裏に爆弾を己の身に仕掛けた。その起爆コードを切るには……これしか、方法が……無かっただけに過ぎぬ」

 

俺は瞬時に駆け寄る。

俺だけじゃない。

桜樺も、アクセルとレッドも、メディも駆け寄ってくる。

 

「急いで運ぶんだ!」

 

「その前に応急処置しなきゃ!」

 

桜樺とアクセルが焦る中、レッドとメディはひどく沈痛な表情になる。

 

「無理だ。動力炉まで貫通している。……チクショウが!」

 

「そんな……、いつの間にか各部位も激しく損傷している。間に合わない…………!」

 

たとえそうだとしても……!

俺はあきらめない。

 

「死んじゃダメだ! アルマージ!」

 

「これで……よいのだ。この爆弾は、某がスティグマ殿を裏切った瞬間に起爆するようになっている上に、無効化すれば制裁として体内の各所に仕込んだ超小型爆弾が起爆して内部から某を抹殺する仕組みにしてある。

 

 このような厄介な物を抱えたまま寝返るより、ここで自害する方が貴殿の迷惑にはならぬというもの……。某は侍。どうせ死するなら己が手で堂々と死に逝く方が貴殿とスティグマ殿への礼儀であろう。

 

 『葉隠』が一文に『武士道とは死ぬことと見つけたり』とある。意味は、腹を括って進むだけのこと、常に死ぬ覚悟をしておくこと。同時に『葉隠』は、武士道とは死に狂いであるとも説いている。某はその通りの生き方をしたまでのこと。

 

 某は……最後に貴殿のような素晴らしき戦士と戦えた。武士道とは死ぬここと見たからこそ死に狂い。十分すぎるほど満足している。……!?」

 

たとえ、覚悟していたしても、俺は……。

俺は……!

 

「俺と戦うためだけにそこまで覚悟したのか……。俺と……」

 

「涙……。スティグマ殿が貴殿の無限の可能性を信じていた理由を今になって完全に理解できた。涙を流せる貴殿こそ、レプリロイドの新たなる可能性そのものかもしれんな。受け取られよ、某の武器チップと紫炎を」

 

そう言って、アルマージは刀を引き抜いて鞘に収め、武器チップと共に俺に差し出してくれた。

俺は、ただ、無言で受け取る。

言葉はいらない。

受け取ることが、今の俺の言葉だから……。

 

「メディよ。元第8機甲部隊員総員への最期の命令を伝えて欲しい。一同、某亡き後はエックス殿に従うように、と……。そして貴様も、これからはエックス殿に従うのだ」

 

「了解しました………………」

 

アルマージはメディへの最後の命令を終え、桜樺にも語りかけた。

 

「桜樺殿。エックス殿のことをよろしく頼む。エックス殿には貴殿のような強き女性の守護が必須だからな……」

 

「任せておけ……。? そういえば……VAVAの気配が消えている!?」

 

桜樺が思わず声を上げた直後、俺はVAVAが座っていたはずの畳の方を見る。

……いない!?

直後、驚いている俺たちをあざ笑う声が聞こえる。

声の主は……銀鬼だ!

 

「お、お前たちが浪花節をしている間に、奴なら『浪花節は苦手だ』と言って一足先に帰ったぞ……! な、何が武士道だ! 最後に笑うのは最後に生き残った奴、つまり俺のことなのだ!!」

 

貴様……!

どこまでアルマージの覚悟を愚弄すれば気が済む!

 

「恵玖須。アルマージへのせめてもの手向けだ。奴に引導を渡すぞ!」

 

「了解!」

 

悪足掻きで立ち上がり、突撃してくる銀鬼を睨みながら俺たちは言葉を交わす。

静さんを……、今まで多くの人たちを手にかけてきた代償をここで払って死ね! 悪鬼羅刹め!

 

「「ダブルアタック、スタート!!」」

 

俺たちの怒りが、力に代わる!

火傷しそうなほどの熱気を感じさせながら!

 

「私は感じたい、お前の命を」

 

「俺は分かりたい、あなたの勇気を」

 

「この刀に込めるは明日が平穏であるようにとの願い」

 

「振るうは誰かを愛するみんなを守ると誓ったから」

 

「「『つつみ込むように…』!!!」」

 

桜樺と俺が一緒に握った刀が光り輝く。

縦一文字で振るった瞬間、光が刀身状の光線になって銀鬼を真っ二つにした。

 

「お、俺が……死ぬ? こ、こんなのあり……かよ!? 俺が、俺が最後に笑うはずだったのに……! 何故俺がお前ら如きの手で死ぬのだぁあああああああああああああああああああーっ!!」

 

銀鬼は自分の死を受け入れられぬまま、眩い閃光に消されるようにその肉体をバラバラに粉砕されて死んだ。

静さん、あなたの無念は今、あなたの娘と俺が祓いました。

 

「これで、安心してこの世を去れる。……一つだけ気がかりを言えば、我らレプリロイドは死した後にどこへ逝くかが気になることぐらい。……それも、じきに分かる。ロックマンエックス殿、鬼巫女桜樺殿、御両名、御美事なり!!」

 

俺たちが振り返った直後のことだった。

彼が、アーマー・アルマージが笑顔で向こうへ逝ったのは………………。

 

「アーマー・アルマージ様の死亡、……確認…………されました」

 

「アルマージ……!」

 

泣いちゃ……ダメだ……!

アルマージは満足して死んだんだ。

だから……!

 

「涙を流せるなら、泣いた方がいい。泣きたくても泣くことのできないメディ達の分も……」

 

必死でこれ以上泣くのを堪えようとした俺を、桜樺は不意に抱きしめた。

そして自分も泣きそうな顔をしているのに……。

だから、俺は、泣いた。

アルマージの名を叫びながら。

 

「うあああああああっ!! アルマージぃっ!!! ああ……わあああああああああああああああああ………………」

 

 

 

 

 

 

牛古嶺街の伝統あるレストラン。

俺たちは一応、祝勝の宴会をしていた。

だけど、俺は全然喜べなかった……。

殆ど茫然自失の状態になっていることは自覚できている。

時折、首を動かして周囲を見ることぐらいしかできなかった。

バーボンを幸せそうに飲む人、俺を見て小声で話し合う親子連れ、心配と好奇心が混ざった表情をしているウェイトレス……。

そして真正面を見ると、当たり前だけどテーブルを挟んで桜樺がいた。

凄く心配そうな表情をしている。

 

「例えば、俺がさっき空にしたグラスの中身がバーボンだったとしても、泥水だったとしても……俺たちには大差ない」

 

不意に誰かが話しかけてきた。

声のした方向に首を動かすと、さっきバーボンを飲んでいた人がいた。

 

「俺もお前も、戦闘用レプリロイドだ……。そこに思想どうこうは関係ない。なあ……エックスよ……」

 

この声は……聞き覚えがる……!

まさか……!

 

「その声! VAVAなのか!?」

 

その声に、桜樺を初めみんなが驚愕する。

しかし、VAVAは落ち着いた態度のまま、本来の姿に戻った。

俺は席を立ってVAVAと対峙するように奴を睨む。

 

「声だけでよく分かったな。そうだその顔だ、その目だ。さっきまでみたいな腑抜けじゃない、今のお前だ! 俺が倒すべき標的は! 甘さを捨てたお前だ!! ロックマンエックス!!」

 

「お前に一つ尋ねたいことがある。お前は自分が飲んでいたものがバーボンでも泥水でも、レプリロイドにとっては大差ないと言った。だったら何故あんなに幸せそうに飲んでいた!?」

 

「…………しばらく見ない内に強くなったついでで随分と生意気になったようだな。いずれ、お前と決着をつける日が来る。その時まで強くなっておいた方がいい。弱いと力の見せつけがいがないからな! フハハハハハ!」

 

VAVAは高笑いを上げて、悠然と外へ出て行く。

俺は、奴の姿が見えなくなるまで、奴の後姿を睨み続けていた。

 

「恵玖須……」

 

桜樺が心配そうに俺の肩に手を置く。

でももう大丈夫だ。

そうだ、VAVAもスティグマもいまだ健在なんだ。

アルマージ、俺は負けない。

 

「どんなに辛くても悲しくても、ここで腑抜けるわけにはいかない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ローリングシールド』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

アラブ首長国連邦の構成国が一つ、ドバイ。

ゼロの懸命の調査で、その国の領内にある砂漠の大工業街の恐るべき秘密が明かされた。

ワールドスリーの軍需工場が紛れ込んでいたのだ。

そこで俺たちは知る、その工場を支配していた彼女たちの悲痛な真意を。

次回! 「ドバイ・コーヒーポット・コネクション」。

砂漠の街に蔓延る悪の花園を八つ裂きにするため、魔法の斬姫はチェーンソーを振るう!

 

 




オマケ:ボスキャラファイル



鋼鉄の甲弾闘士 アーマー・アルマージ

アルマジロ型のレプリロイド。
二足歩行式戦闘装甲車両集団とまで言われた第8機甲部隊の元隊長。
礼と武士道を尊ぶ堅物の侍であり、その高潔な人格から第8機甲部隊では意図せず絶対の地位を築いていた。
以前、パキスタンでのある任務で反レプリロイド思想の政治家の罠にかかり隊が濡れ衣を着せられるも、仲間の無実を証明せんと殴り込んできたスティグマの活躍によって事なきを得ている。
この件に対する並々ならぬ恩義と武士道精神から、スティグマに対して絶対の忠誠を誓った。
その忠誠故にかなり早い段階からスティグマの目的に賛同してワールドスリーに参加。
蜂起から数日前に極秘任務時の事故を装って合流しようとするも、自分に忠誠を誓う部下たちの熱意を無下にすることができず、意図せず第8機甲部隊ごと合流。
これを嬉しく思っていた一方、メディ以外の部下全員がスティグマへの従属の意思を持っていないことも見抜いており、内心部下たちを組織の内患と危険視もしていた。
一騎打ちに敗北した後、これからはワールドスリーからみんなを守るため一緒に戦おうとエックスから説得され、心が揺らぐが…………。


新月の暴虐将 銀鬼

鬼の一人にして、歴史の陰で悪名を轟かしてきた大妖。
強大な力と鬼畜生を体現した性格を併せ持つ文字通りの悪鬼羅刹であり、正に外道。
かつて、鳳蓮の最高位の退魔師だった山上静に勝利し、彼女を虜囚とした。
この時に静が身籠った子供が桜樺である。
つまり桜樺の父親であるが、親としてはクズ以外の何物でもなく、以前桜樺を捕らえた際はとんでもない行為に及ぼうとまでした(詳細はKTCから発売中の『鬼巫女桜樺』で確認されたし)。
その時はイレギュラーハンターが実行した掃討作戦で日本にいられなくなった上、事態に偶然介入してしまったエックスの横槍で桜樺渾身の反撃を受けて深手を負うという、泣きっ面に蜂を絵に描いたような惨敗を喫している。
その後は中合国に潜伏していたが、日本の裏社会の支配権を報酬に協力を求めてきたスティグマの誘いに乗じてワールドスリーに参加し、存在が忘れ去られていた鉱山に残された資源や金銀財宝を回収する任務に就いてた。
スティグマに対して私怨や思うところはあったが、エックスと桜樺から受けた屈辱を晴らさんとする意志の方が強く、スティグマが気前よく支援してくれたのもあってか彼に対する悪感情はかなり薄い。
アルマージとの相性は最悪であり、武士道に生きるアルマージを露骨に嘲笑し、同時にアルマージからも徹底的に軽蔑されていた。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

アルマージ
・これはもう説明不可能。ボンボン版そのまんまです、はい。
・武器チップを渡してからの流れはボンボン版とだいぶ違うものになったけど、これは「切腹までしたのだからそのまま死なせた方がアルマージへの礼儀になる」と思ったから。どっちにしろ、エックスの心に深い傷を残すことに変わりはなかったけど……。

銀鬼
・こいつは『鬼巫女桜樺』本編の悪役。文字通りの鬼畜生。
・原作では大勝したけど、バッドエンドが嫌いな俺が書くこの小説に登場した時点で「むーざんむーざん」な死に様は確定していました。
・本文ではそこまで強大な印象は受け難いですが、それは単に桜樺が強すぎたからです。実際、原作でも腕っ節の方は鬼の力を解放した桜樺の方が遥かに上だったし。

他のキャラクターや設定あれこれ
・メディは『ロックマンエグゼ5』の同名のキャラクターが元ネタ。舞台が舞台なんで出すことに。
・VAVAの台詞に対するエックスの意外なツッコミは、『キャ○テン・○メリカ ザ・ファースト・ア○ンジャー』のオマージュ。
・メディが制御していたトロッコのトロッコじゃないアクションの数々は全部意図して書きました。
・桜樺の秘技「惚れた男と身内には見せられないパンチ」は『史上最強の弟子ケ○イチ』の登場人物、裏ム○タイ界の死神「アパチャ○・ホ○チャイ」の技が一つ「○い子には見せらんないパンチ」のパロディ。あまりの激しさにエックスたちがドン引きする場面もパロディの一環だったりする。更に言うと、桜樺のシャウトは『北斗の○』の主人公「○ンシロウ」が悪党をボコボコにする際の怪鳥音のパロディ。
・アクセルとレッドの登場は、世界観の違いをより分かりやすくするため。ちなみに台詞もないし名前も出てないけど、X7の8ボスたちはちゃんと登場しています。レッドが言及した9人目に関しては、本作中では正体は明かされないので気長に待ってね。
・段々と受けキャラ的な仕草が多くなってきたエックス。どうしてこうなった。(書いてるこっちとしてもああなるとは思わなかった)





普通のあとがき
・PCの故障が連続して起きるなどのとんでもないアクシデントが重なり、投稿が遅れに遅れました。これに関してはひたすらお詫び申し上げるしかない。
・少しでも執筆ペースを元に戻さないといけないな……。
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