ROCKMAN X : BOY OUT OF NIJIGEN DREAM - ANOTHER CRITICAL FIRST   作:あやか

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WARNING!
前半部分に主人公を対象としたセクハラ未遂描写があります。
「エックスはそんなに女々しくない!」と考えている方はご用心ください


STAGE 5:ドバイ・コーヒーポット・コネクション

「日差しが強いな……」

 

ここは西アジア(中東とも言う)のアラビア半島南東にあるアラブ首長国連邦、通称ア連(作者注:この通称は作中オリジナル設定)の構成国が一つ、ドバイ首長国。

国内総生産の総額こそア連の首都国であるアブダビに劣るが、その成長率の高さと経済政策の巧みさからア連のマネーシンボルとなっており、西アジア1の金融センターとして不動の地位を確立している。

この国は宗教的制約がア連全体は勿論のこと、西アジア全域から見ても極めて薄く、おかげで西アジアの国でバーレーンの次にレプリロイドを受け入れることができた。

その影響なのか、ア連はバーレーン共々今のところワールドスリーの攻撃を不自然なほど受けていない。

経済の多角化にも成功しており、近年では工業力強化の一環としてインダストリーオアシスなる大工業街も作られた(この点はここに行く前にゼロに教えてもらった。

今回、俺たちが調査に向かう街でもある……。

 

「それにしても、あのお2人がですか? いくらなんでも信じられない。ドバイのために尽くしてくれたあのお2人が?」

 

「疑う気持ちは分かります。俺も、信じたくはないから」

 

ドバイ総合大豆事業株式会社の社長で今回の案内役である、アイユーブ・サイード・タージルソーヤー(苗字はアラビア語で『大豆商人』らしい)さんが疑いの感情むき出しで訪ねてくる。

 

「信じられないなら、なおさら実際に見て確かめるべきです。イレギュラーハンターの調査が間違っているかどうかをその目で確かめれば確実だと思います」

 

「……お嬢さんの言う通りですね。まあ、いいでしょう。あのお2人がどれだけドバイのために尽くした立派な方たちかをお見せするいい機会ですから、そちらのアジテーションに乗ってあげますよ」

 

真田(さなだ)理瀬(りせ)さんがアイユーブさんを挑発染みた言葉で説得しだす。

それを聞いて内心ムッとしたのか、アイユーブさんは納得しつつも急に偉そうな態度になった。

理瀬さんはそれが最初から狙いだったのか、俺の方を見て少し得意げな表情を見せる。

 

「案内役さんが俄然やる気になってくれたわ」

 

「言い方があると思うんだけどなぁ……」

 

確かにアイユーブさんはやる気を出してくれたけど……。

どうしてこう毎回毎回不安要素が付きまとうのだろう?

雲一つない青空が多少は不安を薄めてくれる。

だけど、灼熱の空気にそれが相殺されていくような感覚が走った。

 

 

 

 

 

STAGE 5:ドバイ・コーヒーポット・コネクション

 

ステージボス:『紅蓮のインダストリアルウィッチ バーニン・エコエコアザラク』 『砂漠の花園の庭師 フラワリーローゼ』

 

 

 

 

 

「プロパガンダですか?」

 

「悪意を多分に含んだ言い方じゃのう。ワシとしてはおぬしの活躍を純粋に評価したまでじゃ。ワールドスリーの最高幹部の内、8人を撃破。そのうち4人は元特A級ハンターじゃ。最早おぬしをB級のままにしてはおけぬのじゃ」

 

「俺の記憶に変な鍵を何重にもかけておいて……」

 

俺のストレートな批判を受けてもDr.ケイリーは全く悪びれていない。

ここは霞ヶ関の真横、日比谷公園の敷地内にあるイレギュラーハンター本部内の第17精鋭部隊隊長用執務室。

本来はスティグマが使っていたが、奴が裏切った今、この部屋はDr.ケイリーのプライベートルーム状態だ

俺は今、この部屋で辞令を下された。

特A級への昇格と…………第17精鋭部隊2代目隊長への就任を。

 

「その鍵のベースを作ったのは、ライト博士じゃがのう」

 

「!? ライト博士を知っているのですか?」

 

「その様子じゃと、出生のことはある程度まで思い出したようじゃのう。知っておる。おぬしを封じておったカプセルに遺したメッセージで存在を知ったのじゃ。メッセージの内容は……今は言えぬ。

 

 なお、出生に関しては他言厳禁じゃ。追ってシグナスから同じ内容の命令が来るから心しておけ」

 

「……了解」

 

メッセージの内容は恐らく、ライト博士があの時言及した『危険』についてだろう。

何となくだけど、そうだと思ってしまう。

俺の出生……。

俺は、レプリロイドに「当てはまる」のだろうか?

異世界で作られた「ロボット」である俺は……! 俺は!!

 

 

 

 

 

「メディ。ゼロからの連絡は?」

 

「先ほど、ア連にて手がかりを見つけた、との報告がありました。決定的な情報を入手次第、確実にこちらへ渡すため帰国するそうです。隊長、別件ですが、マスコミが入口に大挙して足寄せているそうです。ランク昇格と就任の件に関してとのことです」

 

「JLBG(※日本ローカル放送局ギルド=Japan Local Broadcast stations Guildの略)以外は追い払ってくれ。俺はJLBG以外の取材は受けたくない」

 

「彼らはDr.ケイリーから正式に許可をもらったと主張しています」

 

またあの人か……。

恐らく許可の件は完全に本当のことだろう。

仕方ないな……。

 

「分遣親衛隊に通達。間に合わせでいいから記者会見の準備をするように伝えてくれ」

 

「了解」

 

やれやれ……。

本当にJLBG以外の取材は受けたくないんだけどな。

あの人の思考は理解できない。

 

 

 

間に合わせの記者会見の場。

横山さんたちは……よかった、来ている。

だけど、砂山さんの姿が見えないな。

JLBG以外のテレビ局の連中の目つき顔つきがとても嫌らしく見えてしまう。

横山さんたちが来ていることに安心した分、余計にそう感じる。

そう思っていたら、一番槍とばかりに横山さんが口を開いた

 

「今回、特A級への昇格と同時に、第17精鋭部隊の隊長に就任したそうですが、その件についてのご感想はありますか?」

 

「今日、いきなりDr.ケイリーから直接通達されたので、これといった実感はまだありません」

 

とりあえず、当たり障りのない質問だけ出てくる。

なので俺も当たり障りのない答えだけで返す。

記者会見は、それから数十分後に終わった。

なので俺は変えることにしたのだが……ここ最近、家に帰れない日が断続的に続いたので今日は銀座でお土産でも買っておこう。

 

 

 

 

 

というわけで、ここは銀座。

日本が世界に誇る超高級商店街で、地価の高さも日本一。

そんな銀座の高級洋菓子店でお土産を買いました。

少し気分よく店を出ると、見知った顔がありました。

 

「桜樺」

 

「恵玖須か。どうしたんだ? 銀座(ここ)にいるとは珍しい」

 

「家族にお土産を、と思って」

 

そう言ってケーキの入った手提げ箱を見せたら、桜樺はあっさり納得してくれた。

 

「そうか。私は、依頼で来た。ちょうど標的の内の片方を追っているところでな」

 

片方?

複数の敵が相手、という意味だろうか?

 

「先に片づけたもう片方は妖怪たち。今追っているのは、銀座にそいつらを紛れ込ませた『人間』だ」

 

「人間がどうしてそんなことを……!?」

 

俺が驚くのは想定内だったらしい。

桜樺は冷静に説明してくれた。

 

「世の中には、悪い妖怪と徒党を組んでいる悪い人間もいるということだ。人間の中にも悪い奴がいることぐらい、分かるはずだ」

 

「うん」

 

力強くうなずいたのを見て安心したのか、桜樺は柔らかい笑顔を見せてくれた。

しかし、後ろを振り向いた瞬間、銀髪赤眼になってから真後ろにいた人を蹴とばした!

 

「祓い給えー!!」

 

「どぅーん!?」

 

「だぁあああああー!」

 

蹴とばされた人はビルの外壁に思いきり激突!

手足が変な方向を向いている……。

 

「……言っておくが、そいつは片方の内の1人だぞ。ぬおおおお!」

 

振り向くことなくそう言った直後、今度は正面から突っ込んできた「片方」の内のもう1人を銀鬼を叩きのめした時のように鉄拳の嵐で容赦なく滅多打ちにする。

銀鬼に対しての時ほどじゃないがかなりの勢いだ。

流石に大勢の人たちが見ている場所で殺したら色々とまずいから止めないと!

 

「お、落ち着け私の恵玖須……。お前の桜樺は至って…………冷静だ」

 

誰がどう見ても極度の興奮状態じゃないか!

羽交い絞めにして止めようとしているのにまだ相手を殴るつもりだ。

こうなったら、禁じ手だけど……!

 

「ごめん!」

 

「ひゃあっ!?」

 

後ろから胸をもむついでに耳たぶを唇だけで甘噛み!

分かってるよ、言いたいことは。

誰がどう見ても痴漢かセクハラだよね!

そんなの承知済みだよ!

 

「落ち着いた?」

 

手と口を離して距離を少し置き、俺は桜樺に問いかける。

桜樺みたいなタイプの女性なら、セクハラされた挙句しれっとこんなことを言われたら普通は確実に怒る。

しかし、桜樺はどちらかというと年頃の少女みたいに顔を赤らめて恥らっていた。

 

「とりあえずはな。……ああいうのは、せめて二人きりの時にしてくれ」

 

「善処させてもらいます……」

 

結局、この時は桜樺に促され帰宅した。

あの光景は当然ながらその場にいた人たちに目撃されており、帰宅直後は(恐らく翔子さんかエミット経由で)事態を知ったらしい姉さんがちょっと不機嫌だった。

お土産を見せたらすぐに機嫌を直してくれたけど。

 

 

 

 

 

次の日、蘭が峰学院。

昼食を済ませて図書室で本を読もうと畳が敷かれているフロアで座った瞬間、何かがぶつかって倒れてしまう。

何事かと思ったら、やいとや上級生下級生を含む他の女子たちがのしかかっていたのだ。

瞬間、やいとが吼えた。

 

「昨日! 銀座にいたでしょ!」

 

「! どうしてそれを!?」

 

「私が説明してあげますわ」

 

そう言ったのは、初等部5年生の伊集院杜論(いじゅういん トロン)。

やいとの家に並ぶ大金持ち・伊集院家の長女だ。

弟である炎山(えんざん)も初等部の3年生として在籍している。

 

「昨日、お兄様が銀座でのお仕事を終えて帰宅しようとしたところ、この間妖怪相手にあなたと一緒に戦っていたあの巫女さんが悪者を殺しそうになっていたのを誰かが止めていたところを見ていたのよ。

 

 それで後ろから抱きつくように胸を鷲掴みにした挙句耳を甘噛みして止めるを見て唖然とした、って呟いていたわ。それなら普通の『エロガキ』の目撃談で終わるんだけど、お兄様が言っていたそのエロガキの特徴を聞いてビックリしましたわ。

 

 よりにもよって、髪の色がとぉおおおおおおっても綺麗な! あ・か・む・ら・さ・き・だったんですから!!」(※忘れている読者がいる場合に備えての補足:カメリーオ撃破以降のエックスの髪は赤紫(マゼンタ)です)

 

……ま、まさか杜論のお兄さんである流捉符(ルドルフ)さんがあの場にいたとは!

桜樺を止めるのに必死で全然気づかなかった。

なんて思っていたら、やいとが自分のお尻を俺の顔に押し付けてきた!

 

「で、どうする? お仕置きしちゃう? まずは軽く強制ストリップ」

 

「ナイスアイデア。綾小路さん、その後はデッサン会でもします? 一糸まとわぬ恵玖須君をモデルにして」

 

トロンがすごく怖いことを言っている!

何とか振りほどこうとするけど、レプリロイドの力でそれをやろうとするとやいとたちを怪我さでせかねない……。

そうこう考えている内に、他の女子たちに手足を掴まれてしまう。

 

「そ・れ・じゃ・脱いじゃいましょ……」

 

やいとが言い終わる前にいきなり引っ張られ、壁に叩き付けられる音が響く。

黒髪に緑色のリボン……。

 

「桜樺!?」 

 

「大丈夫か?」

 

「俺もいるぞ」

 

ギリギリのところで桜樺と……ゼロが駆けつけてくれた!

助かった……。

 

「ゼロ!」

 

「しかし、油断も隙もないな。こいつらは」

 

自分が蹴ってダウンさせた女子たちを見て、ゼロは呆れながら呟く。

流石にレプリロイドであるゼロに蹴られたから、ちょっと心配だ。

 

「加減は、したよね?」

 

「お前を助けるのを優先したから、少し緩くなってはいた」

 

あまり悪びれていないように聞こえる。

確かに、ゼロはこういうことになるとちょっと熱くなることもよくあったけど……。

一方、桜樺はやいとを思いっきり睨んでいた。

やいとの方もかなり険しい表情で桜樺を睨んでいる。

 

「この間といい、今回といい……!」

 

「惚れた男を助けることの何処に問題がある!」

 

助けてもらっておいてこう思うのはあれだけど、かなり空気が悪い。

杜論は、こことは違う学校の制服を着た人に羽交い絞めにされている。

よく見たら、俺がわずかに知っている人だ。

 

「……理瀬?」

 

「呼び捨ては感心しないわね」

 

間違いない。

この人は真田理瀬。

姉さんと華鈴さんに次ぐ、もう一人の魔法少女……。

 

「放してくださいません?」

 

「恵玖須の身の安全を確保でき次第、になるわね」

 

理瀬さんと杜論の方も険悪な雰囲気だ。

そんな状況何するものぞ、と言いたげに薄手のワイシャツとカジュアルなスラックスを着こなした男が立っていた。

何故だろう? どうにも日本人とは違う雰囲気を感じる。

 

「お前が恵玖須か。俺は第16装甲交通部隊の隊長、フィスター・ハン。よろしくな、第17精鋭部隊の2代目隊長さん。人間だが、正真正銘の特A級さ」

 

ハン?

苗字からして……。

 

「韓王国人?」

 

「まあ、苗字を聞けばそう思うよな。でも外れ。俺はコリア系アメリカ人さ。親が軍事独裁国家になった旧大韓民国からアメリカに逃げて、それから大分経って生まれたんだよ。ちなみにシアトル出身のシアトル育ちだ。

 

 名前に関しては、半島から決別するために俺の名前を英語っぽい響きのにしたって親の遺品の日記に書いてあった」

 

フィスターは苦笑しつつも自分がアメリカ人であると明かしてくれた。。

韓王国(正式名称は大韓王国)より以前にあった『大韓民国』は、軍事独裁政権を嫌った黒帝の介入で朝鮮民主主義人民共和国ごと瓦解。

その後、空白地帯となった朝鮮半島で建国されたのが韓王国だ。

建国時から「儒教を世界に誇れる正しい宗教に昇華しよう」をスローガンとした文化更生政策による、民族意識の改善を長期スパンで実行中と聞いたこともある。

……授業の内容を思い出していたら、ゼロが真剣な表情で語りかけてきた。

 

「5組目の所在がやっと分かった。ドバイだ。そいつらにセクハラされてる暇はないぞ」

 

 

 

「インダストリーオアシス?」

 

「第二次メッカ戦争後の西アジアでの経済におけるイニシアチブを取るため、ア連構成国の一つであるドバイが市街地の南、ちょうど領地のど真ん中辺りに作った大工業街だ。第二次メッカ戦争における第4陸戦部隊の奮戦を讃え、同隊の拠点にもなっている。

 

 あの隊は現在、隊長がワールドスリーに合流して行方知れずになっているがな」

 

なるほど……。

60年代、人権問題に加えてレプリロイドの存在の是非が引き金となって勃発した第一次メッカ戦争。

4年前のアメリカ同時多発テロ未遂事件の延長線上で発生した第二次メッカ戦争。

いずれも、レプリロイドの力を借りることができた容認派の勝利で終わった。

第4陸戦部隊はドバイから特別に活動拠点をもらったことは聞いていたけど……。

 

「そういえば、“彼女”がワールドスリーに合流したことに関して、第4陸戦部隊はどんな反応をしていた?」

 

「本部の極秘任務で姿を消している程度にしか考えていなかったな。ドバイの住人達は一人として、あいつの離反を信じていない。第二次メッカ戦争で活躍した女傑が、世界征服をたくらむ悪の軍団に協力するわけがないと思っている」

 

ゼロは吐き捨てるように言う。

けど俺は、ドバイの人たちや第4陸戦部隊の隊員たちの言い分もなんとなく分かる。

ア連のために我が身を犠牲にする勢いで戦った彼女を、バーニン・エコエコアザラクを信じたいと思うのは当然だから。

問題はもう1人。

人間の女の人の方だ。

 

「ゼロ、アザラクの相棒の方の詳細は?」

 

「去年の秋ごろ、ふらっとインダストリーオアシスにやって来て、どんな魔法を使ったのか街の周辺を瞬く間に緑化してみせたそうだ。奇跡を目の当たりにした住人や第4陸戦部隊の連中に歓迎され、最終的には街の緑化計画課の課長にまでなったと聞いたぞ。

 

 名前については、『フラワリーローゼ』と自称していたことぐらいしか分からなかった」

 

「私はその人のことを知っているわ」

 

ゼロの説明を補足するかのように、今度は理瀬さんが口を開く。

 

「栗実女学園に勤務していたけどある時姿を消した教師、芝月(しばづき)京子(きょうこ)先生。それがその人の正体よ。以前は『マジカルローゼ』と名乗っていたけど。何故ドバイに行ったのかは検討が付かないわ」

 

その言葉で、俺は思い出した。

理瀬さんが魔法少女になったきっかけも。

そしてファーストコンタクトも。

 

「そうか、ミーマが言っていた『不良品のバトンを手にしてしまった』人たちの1人だったんだね。今回はすぐに思い出せたよ。ゼロたちは知らないと思うから説明するけど……」

 

 

 

数分後。

俺の説明を聞いたゼロの表情は極めて険しくなった。

桜樺やフィスターも似たような表情だ。

 

「1人の馬鹿のせいでとんでもないことになっていたんだな」

 

「スーサもまさかあそこまで取り返しのつかない事態になるとは思わなかったんだ。それに、今は必死に償っている」

 

「洒落にならない犠牲が出たのは事実だ」

 

「ゼロ!」

 

確かにスーサの軽率な行動のせいで多大な犠牲が出たのは本当だけど……。

だけど……。

そんな「償う資格もないから死ね」みたいな言い方は!

 

「ゼロと桜樺からお前の優し過ぎる性格は聞いていたが、聞きしに勝るな」

 

「フィスター……」

 

「マジカルディーバの犠牲になった人たちにしてみれば、奴に力を与えてしまったスーサも死んでほしいと思えるぐらいの極悪人なんだ。価値観っていうのは、そういうもんさ」

 

フィスターの言う通りかもしれない。

けれど、その主張には納得しかねる自分がいる。

そんなことを思いながら落ち込んでいたら、理瀬さんが穏やかな目で俺を見つめていた。

 

「是魯とフィスターさんの言い分も正しいけど、私はあなたが今思っていることも正しいと思うわ」

 

「理瀬さん……」

 

「行きましょう。砂漠の大工業街へ!」

 

「うん!」

 

俺は力強く頷く。

俺のその反応に安心したのか、理瀬さんは直後に柔らかい笑顔を見せてくれた。

その一方で、桜樺とゼロは少し残念そうな表情をしている。

 

「本当なら私も同行したいが依頼が溜まっている。しばらくはそっちを片付けないといけない。すまないな」

 

「俺もデスログマーの行方を突き止めるようにシグナスに命令されていてな。気をつけろよ」

 

「桜樺……、ゼロ……。大丈夫だよ。理瀬さんが同行してくれるから」

 

 

 

 

 

時は現在。

俺たちはフィスターが運転する車でインダストリーオアシスを目指していた。

 

「今気づきましたけど、この車って後部座席が恐ろしく広いですね」

 

「Dr.ケイリーが開発した強化乗用車の一種で、部分的な圧縮空間になっているんです。ただ、大破したら最後、内部が爆発的な勢いで飛び出すから、普通の車より運転に慎重にならざるを得ませんけど」

 

「その割には、運転している人はオフロードのRCカーを動かすように物凄いスピードを出していますがね」

 

アイユーブさんが少し不機嫌そうに呟いた。

確かに、フィスターの運転はかなり激しい。

スピードの方も風景の流れる速さから目算して、200㎞近く出していることが分かる。

 

「俺はケイリーのばっちゃんに目をつけられるまでは走り屋をしていたからな。こういうだだっ広いところをトロトロ走る気になれないだけさ」

 

アメリカは、州によって異なるけど運転免許を得る際の年齢が日本より低い。

きっとフィスターは高校生の頃から乗り回していたに違いない。

じゃなきゃ今みたいなことは言えない。

 

 

 

インダストリーオアシス。

俺たちは唖然とするしかなかった。

まるで森の中に多数の工場がひしめいているかのような状態になっていたからだ。

 

「これがあのお二人の働きぶりの一端ですよ。この街は工業力強化だけでなく、ア連におけるレプリロイドの地位向上と緑化のシンボルでもあります! 街そのものが治安安定に貢献したアザラク女史と、緑化に貢献したローゼ女史の功績でもあるのです!」

 

アイユーブさんは目を輝かせながら語りだす。

よほど尊敬しているのだろう。

しかし、すぐに表情を曇らせる。

 

「……これで、ローゼさんが清い体だったら何の問題もなかったんですけどね。ローゼ女史がここを緑溢れる街にした際、私の部下がトチ狂って彼女にプロポーズしたんですけど、『非処女』を理由に断られたんですよ。

 

 ほら、ここってイスラム教国じゃないですか? 部下は大ショックですよ。でもね、非イスラム系の国でネンネを辞めちゃってるから、表だって文句も言えなかったんですよ!」

 

「……『敬虔な』ムスリムの女性観がよく分かる主張ですね」

 

「あ? 何ですか? その悪い意味の含みを持たせたような言い方」

 

「真実を言っただけですけど。それにムスリムは女性の性犯罪被害を全面的に被害を受けた女性の非にしているじゃないですか!」

 

「いつの認識ですかそれ! そんな認識はもうドバイじゃ通用しねえんだよ! ていうか、そうなるまでの経過がどんだけ大変だったか知らねえガキが語るんじゃねえよ!」

 

「そのガキ相手にムキになるような子供っぽい大人の言葉に説得力なんかありません!」

 

「それどういう意味だよ!? 説明しやがれ! 目の前にいる日本の女子中学生めがー!」

 

理瀬さんのツッコミにヒステリーを起こしたアイユーブさんが、彼女に掴み掛らんばかりの勢いで更に激昂しだす。

あまりの大人げなさに、フィスターが羽交い絞めにしてまでアイユーブさんを止めている。

売り言葉に買い言葉とはこのことだ。

だけど、理瀬さんがあそこまで刺々しくなったのも仕方ないと思う。

 

「アイユーブさん。確かに理瀬さんはあなたが言った、ドバイがたどった女性観を改めるための苦労の数々を知りません。けれど、性犯罪の被害者の心境は嫌というほど知っていますよ」

 

「……。…………!」

 

一瞬呆けた後、アイユーブさんはすぐに俺の言葉の意味に気付いたのか、急に気まずそうな顔になる。

 

「この話はこれで打ちきりです! 今は真偽の確認を優先しましょう」

 

 

 

「完全屋内型で、なおかつ冷房完備、か……」

 

「気候が気候ですからね。緑化の影響で不快指数も大幅に上がっているので、却ってこういう方式で正解でした」

 

間接的な日光取入れ式の窓により、陽射しの強さを緩和しているので冷房による冷却効果が強化されている感じがする。

そして内部にも植物が溢れかえっている。

そのいずれもが果物や、本来は繁殖力の低い貴重な花ばかりだ。

 

「食べても害はないですよ。ここら辺に生えてるのからなっている果物は自由に採ってもいいことになっていますから。ほら、手洗い用の蛇口で水洗いもできますよ」

 

確かに、工場に勤務しているらしき人たちが果物を水洗いしてから食べている。

今不意に思い出したが、今回は横山さんたちが同行していない。

そう思って内部を見まわしていたら、なぜか横山さんたち3人と一緒に杜論がいた。

 

「ほら、合流できた」

 

「本当でしたねー。でもよくここに来るって掴めましたね」

 

「図書室でドバイの子の工業街に行く、みたいなことを言ってましたから。あなた方が取材で用があることを覚えておいて正解でしたわ」

 

何だろう、一気に不安になってきた。

理瀬さんとフィスターも不安が顔に出ている。

 

「ロックマンエックス御一行様ですね。お待ちしていました」

 

そんな中、ディグレイバーが突然現れた。

 

「私はディグレイバータイプで、ここの警備部立入禁止区画担当班の班長をしているサイオッサです。10名様、ご案内ですね……」

 

「10名?」

 

俺と理瀬さんにフィスター、アイユーブさん。

それに砂山さん、出月さん、横山さん、杜論。

……8人じゃないか?

 

「ちゃんと10名おられますよ。ほら、後ろに9人目と10人目が」

 

「? ……! ミーマ! 望さん!」

 

どういうことかと思って振り向いたら、理瀬さんの後ろにミーマと開明(かいめい)(のぞみ)さんがいつの間にか立っていた!

ミーマは若干気まずそうな顔で、望さんは険しい顔で俺を見ていた。

 

「理瀬さんからこっちに行くと聞いたので、いてもたってもいられず追いかけてしまいました」

 

「……私も」

 

望さんは理瀬さんを抱きしめる。

困惑する理瀬さんの表情を見る限り、かなり力を込めて抱きしめているようだ。

 

「浮気者……!」

 

「えっと、その、……せめて二人っきりの時にして?」

 

このまま放置してたら埒があかない。

止めないと。

そう思った瞬間、アイユーブさんが一足先に止めに入った。

 

「おほん! お嬢さん、そういうのはここでは控えてもらえませんか? シャリーアに記された罪の中には同性愛も含まれますので」

 

「それはヨーロッパの悪い部分を学んだ愚かな人たちの押しつけの結果だと思います」

 

「文句あるならサウジアラビアで言えよ! ていうかそれ以前に公共の面前でそういうことするな!」

 

「ヒステリー……」

 

「こっちでだって好きでヒステリー持ちになったわけじゃねえんだよ! バカー!!」

 

結局、アイユーブさんのヒステリーが治まったのはそれから数分後。

見かねたサイオッサさんが食堂から持ってきたシャワルマ(理瀬さんがドルネケバブと言った瞬間にアイユーブさんとサイオッサが訂正していた)を平らげてから、俺たちは突入することになった。

 

 

 

 

 

俺たちはサイオッサの案内でここの心臓兼頭脳である立地上の中心部、立入禁止区画へと入った。

機密の関係で、出入り口に入る際は砂山さんのカメラに布が被せられたけど。

ここにも一応、生産ラインは用意されているけど、作れるものは他の区画で作っているため、ここにある分は余剰設備として埃を被っているとアイユーブさんから聞いていた。

しかし……。

 

「あり得ない! どのラインもフル稼働している!」

 

「でも、作ってるのはオモチャだったり袋入りの食品だったりで、そんなに怪しいものは作っているようには見えないっすよ」

 

狼狽するアイユーブさんを余所に、出月さんは少し呑気な言葉で返した。

チーズに缶詰、食玩、『サウジシャンパン』(リンゴジュースの炭酸割のこと)と書かれている缶ジュースまである

だが、オモチャの銃を見ていた杜論が急に声を荒げる。

 

「このトイガン……、うちの会社の製品じゃないの! オマケにコストの都合で東南アジアでしか生産していないモデル! それにあの袋入りのチーズは、綾小路さんの御実家の会社がエジプト近代王国から輸入しているやつよ!」

 

何だって!?

みんなも同じ心境だったらしく、その言葉に動かされたかのようにミーマがチーズの袋を手に取り、中身を触る。

 

「このチーズ、偽物です! 袋越しにに押しつぶしても千切れません! オマケに何か別の物も袋に入っています!」

 

ミーマから受け取ったチーズの袋の手触りを確かめる。

嫌な予感がする……。

この袋を開けちゃだめだと、勘が訴えかけている。

俺は、すぐ横のラインを流れる缶詰を手に取って、少し距離が離れている壁目がけて缶詰を思いっきり壁に投げつけた。

瞬間、壁に叩き付けられて壊れ、大きな隙間ができた瞬間に爆発した!

 

「…………!! 爆発した!?」

 

「何てこった……。プロデューサー、地雷ですよ! チョコレート地雷と全く同じ原理だ!」

 

砂山さんと出月さんが悲鳴を上げる。

他の面々も唖然としていた。

アイユーブさんに至っては生気が抜けたような表情になっている。

そんなアイユーブさんを尻目にフィスターがトイガンを手にし、壁に向けて引き金を引いた瞬間にエネルギー弾が発射された。

フィスターは物凄く苦い顔になっている。

 

「トイガンの方はオモチャに見せかけた本物か……」

 

「か、確定です! この区画はワールドスリーの手で兵器工場に作り変えられたことが今この瞬間に確定しました!」

 

横山さんの、テレビの視聴者たちに向けたリポートが再開される。

まさか人知れず巧妙に潜り込んでいたなんて……。

しかも、こんな卑劣な代物ばかりを……!

 

「こんなものを作らせるような奴の名誉のために、アルマージは切腹したというのか!? 俺の目の前で死んでしまったというのか!? ふざけるな! システム・オールメガミックス!」

 

俺は、戦闘モードに移行。

機械で箱詰めされているチーズ地雷や缶詰地雷をエネルギー弾で破壊する!

 

「俺は、誰かを少しなりとも憎んだことはあった。だけど! 組織というものをここまで憎いと思ったのは今日が初めてだ!!」

 

そんな怒り狂う俺に対して、サイオッサが話しかける。

 

「ロックマンエックス……。どうか、その憎しみはあのお2人には向けないでください……。彼女たちも、ワールドスリーの犠牲者なんです」

 

「それは一体……?」

 

「彼女たちは、ドバイはおろかア連や周辺諸国そのものの安全と引き換えにワールドスリーに協力させられたのです。ですから、どうか……」

 

「教えてくれて、ありがとう。おかげで、ワールドスリーを憎む気持ちをより強くすることができた」

 

多少は冷静さを取り戻すこともできた。

直後、気配がした。

だが、その気配はミーマも感じ取っていたようだ。

 

「誰ですか!?」

 

【流石にこれ以上は姿を隠しきれなかったようだな……】

 

瞬間、ライト博士のホログラムが現れた。

今回は俺以外にも姿が見えるらしい。

 

【エックス……。それでいいのだ。真に憎むべき存在を見誤ってはいけない。怒りも憎しみも非常に危うい力だが、決して悪いことばかり招くものではない。矛先と使い方を間違えずに昇華させれば、正しい力の一部となるのだ】

 

「博士……」

 

俺の両手が白く輝く。

光が収まった後、俺の両腕は白い装甲で覆われていた。

 

【今回は、アームパーツだ。敵から入手したチップにプログラミングされた武器のチャージが可能となる。また、左手の部分はチャージショット機能を強化した予備のXバスターとなっている。

 

 構造上の問題で時間はかかるが今までよりも強力なチャージショット、『スパイラルバスター』の発射が可能だ。左右同時チャージをした場合はより時間がかかってしまう代わりに、短距離ではあるが背後の敵を攻撃できるビームソニックブームが展開される。

 

 すまない。今の私には、お前の戦う力を強めることしかできない……】

 

「博士。私はあの時、あなたに誓いました。『戦うための力を正しいことに使います』と! あなたが私を戦闘用として創ってくれたからこそ、私はみんなを守るために戦うことができるのです!」

 

【……お前は本当に優しい子だ】

 

ライト博士の表情はひどく悲しげだ。

しかし、感慨にふける間もなく、理瀬さんが声を発した。

 

「待って! あなたは誰なの!? どうして恵玖須にそんな力を与えられるの!?」

 

【私はトーマス・ライト。エックスの生みの親たる科学者だ】

 

「恵玖須を造った人……! つまり、いずれはお義父さんって呼んだ方がいいの?」

 

……この人、今何て言った!?

 

「それってどういう意味だよ!? 理瀬さん!」

 

「ライト博士はあなたの生みの親なのよ! だったらいずれは私のお義父さんになるってことでしょ!」

 

「それはこちらの言葉ですわ、真田さん! その方は私未来のお父様になるのですわ!」

 

ただでさえとんでもない状態なのに杜論まで割って入ってきた!

この非常時に!

 

「ならないよ! 第一俺は結婚する気なんてない! レプリロイドは子供を作れないんだよ! 結婚したら相手が惨めじゃないか!」

 

「それ、本気で言ってるの?」

 

「……ふーん。そ・う・い・う・考え方なんだぁ……」

 

あれ?

なぜか2人とも表情と言葉に怒気が滲み出ている。

俺、そこまで失礼なこと言ったかな?

 

【エックス。お前は彼女たちを気遣って言ったのだろうが、その優しさは人を傷つける優しさだ……】

 

そ、そうなの?

そう思った瞬間、横山さんに頭をはたかれた。

 

「それ、恋人持ちのレプリロイド全員にケンカを売る言葉ですよ! 付き合う気がないなら一言『付き合うつもりはない』っていえば済むでしょうが!」

 

 

 

数分後。

横山さんが落ち着きを取り戻したところで、俺たちはようやく中心部へ進むことになった。

 

(エックス。お前は、レプリロイドは子供を作ることができないと言った。だが、私はお前に人間との間に子孫を残せる能力にして、自分以外のロボットに人間と同じ方法で子孫を残せるようにするデータボックスでもある『パンドーラー』を組み込んでいる)

 

(……俺に!?)

 

(すまない。知ってしまったらそれでお前が悩むのではないかと思って、あの時は言えなかった。だが、お前を封印する時に、伝えておけば良かった……)

 

(博士は、俺のことを案じて敢えて教えなかったはずです。だから、博士には責任はありません。このことは、俺はもう少しの間自分の胸の中にしまいます。明かすかどうかは、一人で悩み続けてそれから決めます)

 

(……ありがとう。願わくば、この戦いの果てに、お前に平穏が訪れることを)(※ここまでの会話はライト博士とエックスが電波通信式の疑似テレパシーで行っているため、2人以外には聞こえていません)

 

ライト博士の表情が、ようやく明るくなる。

良かった……。

ライト博士は、安心したように今度は理瀬さんたちの方を向く。

 

【申し訳ないが、今回はここで失礼しておく。あなたたちがエックスの心強い味方であることに、ありがとう】

 

ライト博士は柔らかい笑顔のまま、姿を消した。

少し寂しいとは思うけど、今はそんな気持ちに浸っている暇はないから。

 

「! ロックマンエックス。ここの爆発に感づいて敵が駆けつけたようです!」

 

サイオッサが思わず怒鳴る。

少し遅すぎる気もするが、やっぱり敵が来たか。

試し撃ちのような気もするけど、左手の予備バスターをチャージ。

 

「スパイラルバスターだ!!」

 

ピンク色の回転するエネルギー散弾が左手から飛び出す。

サイオッサとは違うタイプのディグレイバー達を貫通粉砕。

このまま突き進もう!

 

 

 

 

 

工場の中を突き進む俺たち。

道中では偽装兵器の数々が作られている。

思わず生産ラインごと破壊しようかと思ったが、中枢の設備なのでアイユーブさんに止められてしまった。

歩き回る内に、アラビア文字で書かれた注意書きが貼られたエリアにたどり着く。

アイユーブさんが注意書きの内容を読み上げてくれた。

 

「何々? 『軍事用サイボーグ研究班の使用エリアにつき、所属者は資料は他のエリアに持ち出さないこと』ぉっ!? えー! なんでそんなものを作るフロアまであるんだよ!」

 

「ドバイ人じゃないあたしたちに言われましても」

 

「それはそうですけど……」

 

ミーマのツッコミを受けて納得するアイユーブさんの表情はかわいそうなぐらいやつれている。

信じたくない事実を受け入れていくにしたがって消耗しているみたいだ。

 

「彼女たちの無実を証明するために案内するはずだったのに……。この国やア連を守るためだからって、なんであんなものを作る連中に……」

 

壁を叩きながら、アイユーブさんは呻くように呟く。

精神的なダメージが相当に大きいようだ。

 

「だったら、彼女たちに会って気持ちをぶつけるべきです。説得するべきです」

 

「エックス……。そう、ですね。そうしましょう。じゃなきゃ、あの人たちに救われた私たちが報われない」

 

 

 

それからそれから。

少しだけ立ち直ったアイユーブさんにホッとしつつ、俺たちはサイオッサの案内で進軍を続ける。

 

「ロックマンエックス。実は、軍事用サイボーグの試作実験体がこの先にある班長室に囚われています。可能なら……」

 

「助けるに決まっている!」

 

 

 

軍事用サイボーグ研究班の班長室。

そこには、確かに拘束具に繋がれている人がいた。

体格からして、中学生ぐらいだろうか?

スティグマめ……!

俺は全力で拘束具を破壊する。

顔を覆っているカバーを引っぺがして……。

よし! 救助完了!

……女の子か。

? どこかで見たような顔つきと髪型な気がする。

どこで見たのか思い出そうとした直前に、理瀬さんが言葉を発した。

 

「目を覚ますわ」

 

「……? ……! 恵玖須……ちゃん!? 恵玖須ちゃん!」

 

助けた少女の声に、俺は聞き覚えがあり過ぎた。

 

「灯留手!? 灯留手なの!?」

 

「え゛っぐずぢゃーん゛!」

 

灯留手が泣きながら俺に抱き着く。

……それもかなりの力で。

それは、既に灯留手がサイボーグであることを証明していた。

ちょっと興奮気味になっている理瀬さんと杜論をなだめる筒も、フィスターが訪ねる。

 

「恵玖須。その子は?」

 

「……この子は、円井(まるい)灯留手(ヒルデ)。俺の……俺たち楠姉弟の幼馴染だよ」

 

そう。

灯留手は姉さんと俺の幼馴染。

年齢は俺と同い年位だけど、俺が起動してから4か月ぐらい後の生まれなので学年は1個下ほどになるはずだ。

俺が1年生の頃にB級に昇格して少し経ってから、ご両親の仕事の都合でドバイに引っ越してしまった。

そんなことをみんなに説明する。

その間中、灯留手は俺に抱き着いたまま震えていた。

説明が終わった後、サイオッサが灯留手に降りかかった災難のいきさつを教えてくれた。

 

「彼女は、インターナショナルスクールの社会科見学の際、運悪くここの一部を偶然見てしまい、口封じもかねて実験体にされてしまったのです。このお嬢さんは軍事用サイボーグとして極めて高い完成度を発揮してしまいました。

 

 故に成功作としてこのままワールドスリーの本拠地に贈られる予定でした。そうなる前にあなたたちが殴りこんで来てくれて、本当に助かりました」

 

サイオッサの言葉にみんなが感慨にふける中、俺を抱きしめる灯留手はずっと怯えたままだ。

灯留手を抱き留めている俺は、ワールドスリーへの、スティグマへの憎悪と怒りがさらに激しく燃え上がらせる。

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 侵入者が軍事用サイボーグの試作実験体を解放した! 大至急軍事用サイボーグ研究班の班長室に急行せよ! 繰り返す! 急行せよ!』

 

破壊された拘束具からけたたましいサイレン音が鳴り響くのと同時に、放送が響き渡る。

無理に拘束具を破壊したら警報が発生する仕組みになっていたのか!

押し寄せてくるのなら、全部迎え撃つ!

 

「恵玖須」

 

「ここからは私たちに任せて」

 

そう思っていた矢先に、理瀬さんと望さんに出鼻を挫かれる格好となった。

2人の手には、魔法のバトンが握られている。

 

「「マジカルパワフルトラーンスッ!」」

 

ピンクと青、2つの光が渦巻き、それが消えた後には変身を終えた2人が立っていた。

望さんは肉体そのものを別方向の美少女へと変異させ、青を基調とした衣装を身にまとい、2丁ボウガンに負けじと存在を主張するように背中には純白の翼が生えている。

一方の理瀬さんは肉体は変化していないが、衣装の方は赤とピンクのツートンカラーでセパレート式の袖と複数のリボンをあしらった、理瀬さんのセンスとは対照的な少女趣味全開のミニワンピース。

 

「魔法の斬姫スプラッシュリセ!! 推参!」

 

「魔法の射手マジカルアンジェ改めアジュールアンジェ!! 降臨!」

 

両方ともかなり可愛いな。

そう思っていた矢先、望さんが壁を魔法の巨大ボウガンで破壊した。

 

「ここは私と理瀬さんに任せて、あなたはあの2人のところへ!」

 

「必ず追いつくから!」

 

俺たちは殿を2人に任せてさらに奥へと突き進む。

理由は1つ!

これ以上アザラクとローゼに馬鹿な真似をさせないためにだ!

 

 

 

 

 

インダストリーオアシスの最深部。

この部屋はインダストリーオアシスの全機能を司っている。

部屋の破壊はすなわち、この工業街の破滅を意味する。

……そんな大事なところに陣取るなんて!

灯留手をおぶさりながらここまで案内してくれたサイオッサの視線がある個所に動く。

そこにいたのは……!

 

「ふん! スティグマはつくづくいかれてるね! こんな甘ちゃんのことをさ!」

 

「でも銀鬼たちはあの子に負けて死んだのよ。油断も隙もない坊やなのは確かよ」

 

「そちらがそのまま大人しく武装解除してくれるのなら、俺は戦いはしない。そうじゃないなら、武力の行使も辞さない!」

 

まずは形式的かつ遠まわしに投降を促す。

事情が事情だから、いきなり攻撃するわけにはいかない。

しかし、2人の返事は残念ながら予想通りだった。

 

「残念だけど事情抜きにしてもこっちは話を聞く気はないのさ。『紅蓮のインダストリアルウィッチ バーニン・エコエコアザラク』と!」

 

「『砂漠の花園の庭師 フラワリー・ローゼ』の2人はね! わたしたち2人、スティグマも気に入らないけど、あなたのことも気にくわないのよ」

 

この言葉に遂に忍耐の限界を迎えたアイユーブさんが、感情を爆発させた。

 

「アザラク! ローゼ! この国そのものや周辺諸国を盾にされたとはいえ、あんな馬鹿なことに加担するなんて! スティグマみたいなとんでもない奴に従うなんて!」

 

「確かにスティグマはイレギュラー程じゃなくても頭のネジが大分飛んでる異常者さ」

 

「あの細目、そこの坊やがこの世界の未来を左右する無限の可能性にして無限の危険性だとか言っていたわね」

 

アイユーブさんの必死の言葉にも、耳を貸しているようには見えない。

そこまで俺へのマイナス感情が優先されるというのか!

 

「いい加減にしろ! お前たちは自分がどれだけドバイの人たちから愛されているのか、分からないのか!?」

 

「お前のそんなところが余計に気に入らないのさ! みんなに愛されることしか知らなかったお前のそんなところが!」

 

「みんなから愛される坊やにはわからないでしょうね! 愛されたくても愛してもらえなかった者たちの惨めさなんて!」

 

なんなんだ?

この2人の尋常じゃない嫉妬の感情は!

憎しみを引き寄せているみたいだ。

 

「芝月先生! アザラク! もう止めて! 抵抗しても無駄なのに!」

 

理瀬さんと望さんも追いついたみたいだ。

しかし、アザラクとローゼは理瀬さんにも嫉妬の眼差しを向ける。

 

「愛されている奴がまた1人! ちょうどいい。明日辺りにルールアンがここの様子を見に来る日だからね。手土産にしてやるよ!」

 

「あの人、真田さんみたいな可愛い子が大好きだものね。可能性と危険性を解体処分するついでに躾けちゃいましょうか」

 

ルールアンが来るのか……!

だたしたら、かなり危ないな。

今日中に急いでケリをつけないと!

 

「望さん。アザラクとローゼは俺と理瀬さんがどうにかする。望さんは万が一に備えて警戒してくれ」

 

「やってみるわ!」

 

よし、これであの2人の相手に集中できる。

俺と理瀬さんがファイティングポーズをとったのを見計らって、アザラクとローゼは開戦の咆哮を上げた。

 

「「ツープラトン!」」

 

アザラクが口から火球を発射。

ローゼも手に持ってるじょうろで室内の植物を操って攻撃してきた。

 

「エンタイトル2ベース!」

 

「どの辺がエンタイトルなのか分かりませんが、綺麗なフォームで打ち返しました」

 

理瀬さんが火球をチェーンソーのガイドバー(刀剣類で言う、刀身にあたる部分)で打ち返す。

横山さんの言うとおり、中々綺麗なフォームだったな。

それが襲いかかってきた植物の一部に直撃。

盛大に燃え上がってそのまま激しく動いてバラバラになり、大きな火の粉として降り注ぐが、俺たちはすんでで回避する。

 

「言っとくけど、この子たちは高純度のエタノールと白リンを大量に含んでいるから、火が付いたら大変よ」(エタノール:無機アルコールのこと。エチルアルコールとも 白リン:リンの基本状態。黄リンはこれが変色したもの。かなり扱いが難しい)

 

く! 下手に攻撃すれば燃え上って火の粉が飛び散る。

しかし、放置するわけにもいかない。

こうなったら……。

 

「申し訳ないけど、手足の1本か2本を吹き飛ばして無効化する!」

 

左右同時にチャージショットを発射!

アザラクの脇腹を左手ごと粉砕し、ローゼの右手と顔の右半分も吹き飛ばす。

やり過ぎてしまった……と思った瞬間、アザラクとローゼは不気味な笑顔を浮かべた。

 

「残念だが、私ら2人は怪我の治りがとんでもなく速くてね」

 

アザラクがそう言った直後、アザラクとローゼの肉体の内側から植物の根みたいなものが出てきて、それを起点にして欠損した部分があっという間に再生した!

 

「ベイビーちゃんたち! あのおませな坊やをほぐしてあげなさい!」

 

植物が俺目がけて大挙して襲いかかる。

しかし、そうはなるものかと理瀬さんがチェーンソーで残らず切り刻んだ。

 

「伐採完了!」

 

「切り刻んでも燃えることに変わりはない!」

 

刹那、アザラクが刻まれた植物目がけて火炎を発射。

激しく燃え上がり、理瀬さんが炎に包まれてしまう!

俺は大慌てでその中に飛び込み、理瀬さんを回収。

衣装は所々焼け焦げ、体の各所に火傷ができてしまっている……。

 

「理瀬さん!?」

 

「バトンの力のおかげで、痛みは大分抑えられているから大丈夫」

 

そうは言っても、若干やせ我慢が混じっているのが分かる。

こうなったら……。

 

「再生できるのなら、可能な限りボロボロにして勢いを削げるだけ削ぐ!」

 

俺は一心不乱にエネルギー弾をアザラクとローゼ目がけて乱射。

ハチの巣になりながらも、2人は直後に再生していく。

それどころか、攻撃の手も緩くならない。

幸い、植物の方は望さんと、こっそり光線銃をあのラインから何丁か失敬したアイユーブさんとフィスターの援護射撃のおかげで何とかなっている。

あの2人の攻撃の方も、突撃して懐に潜り込んだ理瀬さんがチェーンソーを振り回して切り刻むことで可能な限り妨げてくれている。

しかし、さっき乱射した際にアザラクとローゼは本来なら外れるはずだった流れ弾の内の何発かを自分から食らったように見えた。

一体なぜ?

しかしそれを考える間もなく、形容しがたい状態で仁王立ちするアザラクとローゼが勝ち誇る。

 

「このドンパチ、私らの勝ちだよ!」

 

「わたしたちはいくらでも再生できるのよ!」

 

やはり、いくらズタボロにしても攻撃の手が緩めば再生する。

しかし自信満々な2人の顔で爆発が発生する。

 

「だったら、力尽きるまで撃つだけよ! 勝たせてなるものですか! うちの会社の製品に偽装して本物の武器を密造するような連中の味方なんかに!」

 

どうやら拳銃型の偽装光線銃を失敬していたらしく、杜論が震えながらそれを構えていた。

 

「小娘……。どうやらローゼのベイビーたちの栄養源にされたいようだね!」

 

「ベイビーちゃんたち! あの生意気なお嬢ちゃんをじっくり堪能なさい!」

 

ローゼが吼えた瞬間、杜論の背後から壁を突き破って植物たちが襲い掛かった!

ダッシュで助けようにも、別の個所から出てきた植物に邪魔されて間に合わない!

しかし、そんなピンチは意外な形で切り抜けられた。

サイオッサがおぶさっていたはずの灯留手がいつの間にか自分の足で立ち上がり、全身を銃火器と鎧に包んだような姿になっていた。

そして、鎧にくっついている重火器を駆使して杜論を襲うとした植物を吹き飛ばしたのである!

 

「灯留手!?」

 

「杜論さんも……怖いのを我慢して恵玖須ちゃんに加勢したから……! だから、私も、怖いのを我慢して加勢する!」

 

そう言い切った灯留手の声には泣きが入っている。

実際、怖くて泣きそうになっているのを必死にこらえている。

必死に勇気を振り絞って、改造人間としての力を発揮したのだろう。

それを見た俺は自分の胸の奥が熱くなるのを感じた。

勇気を出してくれた灯留手のためにも、なおのこと負けられない。

そう思ったのと同時に、理瀬さんが話しかけてきた

 

「恵玖須。認証コードの方、頼むから」

 

「メッセージ、聞こえたんだね?」

 

理瀬さんは、ゆっくりとく頷く。

それは、この戦いも山場を迎えてきたという合図でもあった。

 

「発動要請コードを!」

 

「了解! 恵玖須! R.O.C.K-SET.T.E.R!!」

 

「システム・コンファーム!!」

 

認証コードを叫んだら、蒼い光が理瀬さんを包む。

左右一対の髪飾りがいったん分離。

蒼い追加装甲が展開され、頭部にバイザーが装着された直後に髪飾りが元の位置に再度装着される。

 

「ちぃっ! その機能のことを忘れていたわ!」

 

「本当に忌々しい人ね!」

 

アザラクとローゼは一瞬で苦い顔になって更なる攻撃に打って出た。

火柱と火球と火のカーテンが、選り取り見取りの多数の植物の蔓とともに一斉に襲い掛かってくる。

 

「チェーンソー……大! 車! 輪ぃいいいいん!」

 

波状攻撃に対して理瀬さんが放ったのは、まさかのチェーンソー投擲。

しかし、投擲されたチェーンソーは回転しながら火を掻き消し、植物を薙ぎ払い、そしてアザラクとローゼを切り刻む。

かなり滅茶苦茶な刻まれ方をしたせいか、流石に再生には時間がかかるみたいだ。

そのあいだに見つけるんだ! 勝利の鍵を!

……そういえば、あの2人は何回か流れ弾をわざと受けていた。

アザラクは左手足で、ローゼは右手足で。

俺たちが見ている側からして、アザラクは右側、ローゼは左側。

……そうか! あの二人は自分たちの間の隙間の先、つまりそこの「壁」を庇っていたんだ!

 

「撃っても遮られるというなら、貫通するまでだ!」

 

左右同時にフルチャージ!

左手はさらにもう1段階チャージ!

アザラクとローゼは再生が完了したと同時にこちらの意図に気付いたらしい。

火球が飛んできたけど、理瀬さんがまたも打ち返す。

背後からは植物が襲い掛かってきているのが、音でなんとなく分かる。

だが、左手のチャージが済めば問題はない。

よし! チャージ完了!

 

「スパイラルバスター!!」

 

背後に迫っていた植物はビームソニックブームで吹き飛ばされる。

一方、発射された回転エネルギー散弾は止めようとするアザラクとローゼを弾き飛ばし、2人が必死に庇おうとした箇所を粉砕。

砂塵が収まった後に姿を現したのは一台の異様なまでに拡張改造されたコンピュータ。

あの不自然な配置、2人が庇おうとしたこと、それを考えれば、答えはおのずと出てきた。

 

「そういうことか。そのコンピュータが、お前たちの再生能力の本体なんだな!」

 

俺の言葉に、アザラクとローゼは固まる。

図星みたいだ。

 

「恵玖須! やってみる? ダブルアタックを!」

 

「もちろんだよ!」

 

止める! アザラクとローゼを!

2人を殺さずに! 俺たちが!

 

「「ダブルアタック・スタート!!」」

 

この戦いで勝つのは、憎しみじゃない。

道を望まずして踏み外させられそうになる人を止めようとする意志だ!

 

「止めてみせる! 目の前で発動せんとする悪夢を!」

 

「俺たち2人で! お互いの命の輝きを乱反射させながら!」

 

「それは願い。本当に微かな、けれど一途な願い」

 

「叶うのを待つんじゃない。叶うようにと、前へ突き進む」

 

「「『EXTRICATION』!!!」」

 

チェーンソーのガイドバーが大型化し、束にあたる部分に複数のバーニアが出現。

蒼く発行したガイドバーの上にサーフィンの要領で俺と理瀬さんが乗る。

直後、バーニアが火を吹いて再生能力の本体であるコンピューター目がけて突撃!

アザラクとローゼの攻撃をかいくぐり、コンピュータにぶつかる直前に急ターン!

ガイドバーから離れた光のプレートが、そのままコンピュータに突き刺さる。

チェーンソーが木を切り倒す時よりさらにけたたまし音を発しながら、光のプレートはコンピュータにさらに深く突き刺さった。

その直後、コンピュータは蒼い爆風の中に消えた……。

 

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!」」

 

それと同時にアザラクとローゼが金切声の悲鳴を上げる。

瞬間、ちょっと見た目的によろしくない現象が起きた。

 

「い゛い゛っ!? く、崩れていきます! バーニン・エコエコアザラクとフラワリーローゼが無残に崩れていきます!」

 

横山さんの悲鳴通り、2人の手足が、顔が、溶けるように崩れ去っていく。

 

「私のごつい腹筋が! 太い二の腕が!」

 

「わたしのたわわなおっぱいが! ムチムチのお尻が!」

 

「「崩れていく! 自慢の体が! 理想の体がぁ―――――――っ!!」」

 

 

 

バーニン・エコエコアザラクとフラワリーローゼが崩れ去った後には、別の2人がいた。

典型的幼児体型な少女といった姿のレプリロイドと、ほっそりとした体形の地味な見た目の女性。

 

「フラワリーローゼ。本名は芝月京子。芝月先生が持っているバトンは、スーサがこの世界に流出させてしまった5本の不良品バトンの内の1本。その5本のバトンは、持ち主と見定めた相手の願望に反応して、変身時に肉体を持主の理想像に作り変えるの。

 

 望の今の姿が本来とは大幅に違うのも、その5本のうちの1本で魔法少女になったから」

 

理瀬さんが、妙な説明口調で教えてくれた。

一方、レプリロイドの方は俺も見覚えがある。

 

「君は、俺の次に人間の養子になったレプリロイドだね。冷え切った親子仲に耐えきれずに傷害事件を起こしてから家出して行方知れずになっていたって聞いたけど……」

 

「そうさ。元々ナノマシン装甲の実験用に作られた私は、お前が養子になった流れを受けて別の人間の夫婦の養子になったのさ。けどね、すぐに上手くいかなくなった。あいつらは開発用途の結果として得た特殊能力を気味悪がり、気が付いたら私を化け物呼ばわり!

 

 奴らに血の繋がった子供が生まれてから扱いはひどくなる一方。耐えきれなくなった私は奴らを苦しめるために、奴らの子供をボコボコにしてから家出して、ナノマシン装甲を使って姿を大幅に変えて上手い具合にイレギュラーハンターに入り込んだのさ。

 

 イレギュラーハンター『バーニン・エコエコアザラク』になってからは順調だったさ。力の限り暴れて人助けしてたら、いつの間にか第4陸戦部隊の隊長にまで上り詰めて、第二次ドバイ戦争で活躍して、部下からもドバイの人たちからも慕われるようになっていた」

 

「わたしは、ディーバ様が2度目の決戦で真田さんにまた倒されて生死不明になってから、身の振り方で悩んで放浪した末に気が付いたら砂漠のど真ん中に立っていたの。草木のくの字もない荒涼とした光景に無性に腹が立って、魔法の力で緑化していたの。

 

 それを見たこの工業街の人たちにいつの間にやら歓迎されて、身元不明ということであれよあれよという間にビザやらパスポートやらをプレゼントされて……。この工業街でのそれなりの地位までプレゼントされて……。生きていて1番幸せだった。

 

 日本では周りや親からも昔から花がないとか散々な言われようだった私が、ドバイじゃ緑化を大幅に促進した素晴らしい女性扱い。だから、私は決めたの。いっそドバイの砂漠に骨を埋めてもらおうって」

 

在りし日を懐かしんでいるのか、2人とも感慨深げな表情になっていた。

しかし、その表情はすぐに曇る。

 

「そんな充実した日々は、長続きしなかったよ……。ある日、スティグマが私たちに協力を要請してきたのさ」

 

「わたしたちは突っぱねて事の子細をハンター本部に伝えようとしたけど……。あいつはそれを見越してきたわ」

 

「「『了承してくれないと真っ先にア連と周辺諸国に攻め入る』って! そう言って強要してきた! だから従うしかなかった……!」」

 

今にも泣きそうな表情で叫ぶ2人。

やはり、サイオッサの言っていた通りだった……。

スティグマめ!

 

「でもね、それ以外にも理由はあったんだよ。協力させられるようになってから、スティグマはお前のことよく話していたよ。何かを成し遂げずとも、充実した日々を送っていたお前のことを!」

 

「何かを成し遂げなくてもみんなから愛されているあなたのことをね! わたしたちは信頼を勝ち取った結果として愛されるようになったのよ。だから余計に許せなかった……あなたのことがね!」

 

「「妬ましかった! 憎いと思えるぐらい! 殺してやりたいと思えるぐらい! 気が付いたらそう思えるほど妬みの感情が大きく膨れ上がった!!」」

 

2人とも、言いたいことを叫んで気が晴れたのか、憑き物が落ちたような表情になっている。

アザラクが、俺に何かを投げて渡した。

受け取ったそれは、武器チップだった……。

 

「刺しなよ、止めを……」

 

アザラクはそう言ってきた。

だが、俺は……。

 

「俺は、お前たち2人を殺すためにここまで来たんじゃない。止めるために来ただけだ。灯留手。歩ける?」

 

「うん」

 

立ち去ろう。

俺はそう決めた。

止めは刺さない。

誰がどう言おうと刺さない。

 

「情けをかけるっていうの!?」

 

「否定はできないけど……。お前たちが死んだら、ドバイの人たちが悲しむから」

 

そう言った瞬間、2人とも茫然とした表情になる。

けれど、すぐに俺の言葉の意味を理解したみたいだ。

 

「ドバイの人たちに愛されているのは事実なんだ。これから少しは、愛してくれる人たちのことを考えた方がいいと思うよ。アイユーブさん、あとはあなたたちとドバイの司法に任せます」

 

「ま、まか、任せてくだ、ください……。よ、良かった。よ゛がっだよ゛ぉ~!! 最悪の結果にならくて……ぼん゛どう゛に゛よ゛がっだよぉ~!!」

 

アザラクとローゼが死ななくて済んだことに安堵したのか、アイユーブさんは盛大に嬉し泣きしだした。

それを見て、確信できた。

ドバイにいる限り、アザラクとローゼは安心だ。

 

「俺たちは、先にここから出ますね」

 

「こっちは……、一通り泣き腫らしてから、後を追いますので。ごゆっくり……」

 

 

 

 

 

それから約2時間ほど経過。。

俺たちは既に立入禁止区画を出ていた。

 

「これからが大変だよな」

 

「国そのものを盾にされたとはいえ、ワールドスリーに協力しちゃったのは事実ですからね」

 

「司法取引で何とかなればいいんですけどね……」

 

冷房の効いた内部で、砂山さんと出月さん、横山さんがそんなことを話し合っている。

一方、灯留手は駆け付けたご両親に抱きしめられて安心しきったのか、俺に抱き着いてきた時より激しく泣いている。

? そういえば、フィスターは?

 

「フィスターさんなら、向こうで望とミーマをナンパしてる。すぐに玉砕するのが目に見えているけどね」

 

理瀬さんの視線の先に、視線を移したら、確かにフィスターが望さんとミーマをナンパしていた。

でも、望さんもミーマも冷ややかな目でフィスターを睨んでいる。

望さんは理瀬さんのことが好きだし、ミーマにはスーサがいるからね。

 

「……だろうね。ところで、サイオッサはこれからどうするの?」

 

「一応、私もワールドスリーに加担していた1人ですからね。無罪放免で済むように司法取引でもしてみます」

 

「そっか」

 

サイオッサのことだから、案外大丈夫かもしれないね。

これから、ア連や周辺諸国は大変だろう。

アザラクとローゼが協力していたからこそ、ワールドスリーは攻め込まなかった。

その協力関係が瓦解した今、遅かれ早かれ攻撃の手が迫るだろう。

けれど、不思議と大丈夫かもって思える。

そう思っていたら、理瀬さんと杜論が不意打ちで俺を後ろと前から抱きしめてきた。

 

「ア連はこれからが大変ね」

 

「きっと、ワールドスリーの攻勢が伸びてくるだろうね。でも、不思議と不安な気持ちにはならないんだ」

 

杜論のそんな言葉に何とか戸惑いに耐えて答えたら、今度は理瀬さんが相槌を打ってくれた。

 

「そうね。これからは芝月先生とアザラクが先陣を切って立ち向かうかもしれないから」

 

「そうだよね」

 

そうだ。

きっと、そうなる。

確かな根拠はないけど、そう思える。

あの2人がドバイにいるからきっと大丈夫。

だってあの2人は、ドバイに愛されているんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

WEAPON GET! 『ファイヤーウェーブ』!

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

ある日、ノイプロイセン王国の造船所からハンター本部に連絡があった。

ご注文の宇宙旅行用豪華客船が完成したから、受け取りに来てほしいと。

俺と白き鎧の姫騎士、そしてゼロがなぜかDr.ケイリーの指定で受け取りに行くことになった。

だがタイミング悪く、その船を狙って天空の貴公子が……、ゼロのかつての親友が襲いかかってきた!

次回! 「勇者よ、我らは君と果てしなき大空に誓う」。

暴風が吹きすさぶ高空数千mの彼方で、白翼(びゃくよく)の姫騎士が悪を叩き落とす!

 

 

 




オマケ:ボスキャラファイル



紅蓮のインダストリアルウィッチ バーニン・エコエコアザラク(コアラ)

コアラ型のレプリロイド
ドバイを拠点とする第4陸上部隊の元隊長であり、その巨体と戦闘力を武器に立身出世を果たす。
第二次メッカ戦争など、中東の反レプリロイド思想のテロリストたち相手の戦いの数々で活躍。
徹底して容赦しないやり方でその名を轟かせていた。
苛烈な戦い方は結果的にレプリロイドを積極的に受け入れたドバイの立場向上に貢献している。
故に、ドバイではほぼ英雄扱いであり、ドバイの人達から愛されていた。
貫録溢れる巨体は、実はレプリロイドのパーツを大量に取り込んで作り上げた鎧に過ぎない。
その正体はナノマシン装甲展開試験用に開発され、色々あって『人間の養子になったレプリロイド第2号』となった少女型レプリロイドである。
家族から受けた仕打ちで歪んだ末に傷害事件を起こして家出。
高度な知能とナノマシン精製能力を駆使して今の姿を作り上げ、正体を隠してイレギュラーハンターとなった。
ローゼ共々ドバイこそが己の居場所と確信しており、それ故にドバイや周辺諸国の安全を盾にワールドスリーに加担させられてしまう。


砂漠の花園の庭師 フラワリーローゼ

その正体は栗実女学園で教師をしていた女性、芝月京子。
k地味で目立たない自分の容姿と性格に嫌気がさしていた彼女はマジカルディーバに教唆されるがままに配下となる。
結果、魔法の力が込められたバトンと美しい第二の姿を手に入れるが、そのバトンは持ち主の心の隙間を利用して感情を捻じ曲げる危険な不良品の内の1本であった。
この頃は「マジカルローゼ」と名乗っていた。
スプラッシュリセとの最初の決戦(『魔法少女スプラッシュリセ』を参照)時にマジカルディーバが敗北した後も、劣等感と魔法の力への依存心から彼女の側につく。
しかし、マジカルディーバがスプラッシュリセに2度目の敗北を喫して生死不明の状態になったため、形勢不利と見て国外に逃走。
あてどなくたどり着いたドバイの砂漠で八つ当たりのために周囲を緑化した結果、これが幸運を招いてドバイの人達に受け入れられることとなる。
この頃に「フラワリーローゼ」と改名している。
その後はエコエコアザラクと共に充実した毎日を送っていたが、エコエコアザラクとと同じ理由でワールドスリーへの協力を余儀なくされてしまう。
後日、彼女とエコエコアザラクの心の中にある感情が芽生えた。
スティグマに聞かされたエックスへの、みんなから愛され、少し前まで愛されることしか知らなかったエックスへの、憎しみを招き入れるほどの嫉妬、という感情が。





ボスキャラの元ネタ及びその他雑記

エコエコアザラク
・岩本版のナウマンダーのエピソードを元にちょっと自分流にアレンジして作ったキャラです。
・あの名前のどこがコアラ? と言うなかれ。コアラだからエコエ“コア”ザ“ラ”クなのだ。
・再生応力も岩本版準拠。再生描写がキモくなった感は否めないけど。

ローゼ
・『魔法少女スプラッシュリセ』では一応彼女も魔法少女なんだけど……。でもこの人、文中で思いっきり『33歳』って書かれてんだよなぁ……。止めとばかりに文中で『魔法熟女』とまで明記されてるし。
・「マジカルローゼ」から「フラワリーローゼ」に改名したのは、そっちの方が庭師っぽく思える&マジカルって名称が合いそうにないビジュアルだったから。
・当初はマジカルディーバを引っ張り出す予定でしたが、キャラ的にスティグマの配下じゃなくて対等の協力者だよな、と思って変更。マジカルディーバ以外の敵キャラの中で不良バトンの魅入られたきっかけが唯一明かされていた彼女に白羽の矢を立てました。

他のキャラクターや設定あれこれ
・アイユーブはアザラク&ローゼを愛する人たちの代表として作ったキャラ。途中までエックス一行にツンとした態度をしていたのも、そういうキャラたからです。
・サイオッサは急遽入れる形となったキャラ。でも、個人的には入れて良かったとは思っている。ちなみに名前はオアシスのアルファベットのアナグラム(OASIS→SIOSA)。
・フィスターの元ネタはワイル○スピードシリーズのキャラクター、ハ○・ルー。韓国系にあるまじき(褒め言葉)ナイスガイなので個人的に好きなキャラ。故に彼を元ネタにしたキャラとしてフィスターを作りました。『フィスター』は』『Fist』を元ネタとした俺の造語ですあり、アルファベット表記にすると『Fistor』。『Fist』は英語で『拳』、ハンは漢字表記で『韓』、二つ合わせると『けんかん』と読める。すなわち名前の由来は『嫌韓』という皮肉たっぷりなオチ。
・灯留手はね……うん。ぶっちゃけると元ネタは『宇宙○艦ヤマ○2199』のヒルデ・シュ○ツです、はい。余りの可愛さにハートを射抜かれたので、彼女をモデルにしたキャラを出すか、ってことに。当初、名前は流石にアルファベットのアナグラムにしようかなー、とは思っていた。……いたんだけど、完成した名前がなんかしっくりこなかったんで、『ヒルデ』に当て字しまくる結果に。名字はヤマ○2199でのヒルデちゃんの中の人の名字のアナグラム。
・俺の頭の中で段々とエックスがヒロイン体質になっていく……。あれかな? 海外版X4のエックスの声を女性が担当していたってのを知ったせいなのかな?





普通のあとがき
・今回は1か月以内に完成・投稿できたぞ! と。この調子で執筆スピードをもう少し速くしたい。ていうか、速くなるといいなー……。
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