土煙の中から出てきたのは幽々子本人だった。攻撃手段を失ったのになぜ?優華は理性を失っていたものの、困惑せざるを得なかった。
「私が相手しましょう。吸血鬼の使い魔さん。」
静かな笑みを浮かべて、優雅に散歩を楽しむかのように優華に向かって歩いていく。四つん這いの優華が飢えた狼のように襲い掛かる。しかし、ゆらりと回避し、必ずしも力任せとは言えないようなパンチで優華の背中に拳をたたきつける。その拳には大量の霊魂が拳を覆うように宿っていた。石畳にめり込んだ優華を見ながら話を続ける。
「攻撃手段を減らしたところまでは褒めてあげましょう。けれども、攻撃手段が完全になくなったわけではないということも警戒しておけばよかったかもしれないわね。」
そこまで言うと、今度は霊魂を使って優華を空高く蹴り上げた。そのまま空中で蹴り飛ばし、西行妖の幹にたたきつけた。すると、西行妖の幹が波打ち、優華を飲み込んでいく。
「これまでの中で一番いい生贄になるでしょう。感謝しないといけませんね。」
西行妖が優華を完全に取り込むと、どこからともなく鐘のなる音が低く響き渡った。まるで、死者の魂を鎮めるかのように何度も、何度も鳴った。同時に、西行妖が満開の桜の花を咲かせる。
「これで私は、普通の人間として甦る……」
1000年という永い時を経て、ようやく実現する願いに幽々子は感動で涙が止まらなかった。周りを死に至らしめる力を持つがために自ら命を絶ち、そのことへの後悔を抱えながら過ごしてきた。その後悔が今、晴らされる。
西行妖の花が輝き始める。しかし、幽々子の幽体が肉体へと変わると同時に、肉体はすさまじい速度で朽ち始めた。
「な……ぜ……」
その言葉を発するのがやっとだった。妖夢が駆けつけた時にはすでに手遅れだった。そこには彼女の来ていた服しか残っていなかった。同時に、西行妖が音を立てて折れ始めた。そして、幹や枝葉、花が灰燼と化して降り積もった。
~現世、幻想郷~
優華が目を覚ますと、まず目に入ったのは宿屋の天井だった。そうか、俺は負けたのか。しかし、体を起こすと、窓から春風が吹き込んで来る。窓から外を覗くと暖かい春の日差しが幻想郷を優しく照らしている。蝶は舞い、雪の残る川の土手や田んぼのあぜ道には菜の花が咲き乱れている。急いで2階から1階へ駆け下り、祥吾と神崎さんに話を聞く。二人が言うには、異変は終わったらしい。いろいろと問い詰められたが、レーヴァテインを呼び出した後のことは全く覚えていなかった。しばらくすると、霊夢やレミリアたちが見舞いに来てくれた。そこで、いろんな話を聞かされた。幽々子は1000年という時の流れが一度に肉体に押し寄せたため、死んで再び幽霊に戻ってしまったこと、西行妖が枯れたおかげで幻想郷に春が戻ってきたこと、幽々子と妖夢が白玉楼という屋敷を立てて、幻想郷に永住すること、そして残念ながらスカーレットナイフが失われてしまったことなどだ。
「そうだ、優華たち、うちに桜餅食べに来ない?」
「いいのか?霊夢」
「あの幽霊が騒ぎのお詫びと引越しのあいさつを兼ねて大量に持ってきたのよ。」
「やったぜ!」
遅めの春が幻想郷にやってきた。
オリ作の方に注力します。
次回、だいぶ先になるかも…
一旦完結した扱いでお願いします。