ダウナー君と遊戯王な人達   作:零円

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002 決闘同好会な人達

 職員室から出て暫く歩いて。部活棟へと入る俺と先生。

 先生の後を付いて歩く。逃げ出したいけど、先生の手前、それはできない。逃げ出したいけど。

 部室棟内も暫く進んで、漸く先生は、ある教室の前で足を止めた。釣られて立ち止まる。視線を上げて下げられているプレートを確認した。

 『決闘同好会』。間違えていないらしい。

 

「一応聞くけど、本当にいいの? 顧問のあたしが言うのもあれだけど、面倒な子ばっかりよ? 入るなら、部活としてある遊戯王部の方が今後楽だしいいと思うけど」

「カードも対人関係も積極的に頑張るつもりはないので大丈夫です」

「……ああそう」

 

 コイツも同類だったなみたいな目を向けられる。慣れてるから何ら気にならなかった。

 俺が入ろうとしている同好会は、決闘同好会である。

 決闘というのは、遊戯王というゲームによる対戦の通称。遊戯王というのは、正式名称『遊戯王デュエルモンスターズ』というトレーディングカードゲームだ。遊戯王的にはオフィシャルカードゲームというのが正しいのかもしれないが。

 かれこれ十年以上続いているゲームであり、詳しいことは知らないが、五年前から決闘盤(デュエルディスク)という二次元から出てきた二次元を三次元に変える不思議機械の登場により、今までも行われていた世界大会の他、高校生の大会であるIH(インターハイ)も始まり、それに合わせて部活動も少しずつ増え始め、まだマイナーながらもプロデュエリストなんて職業もできた位だ。すげー。

 ウチの学校にも遊戯王部が存在する。結構ガチ勢で、部員数もさる事ながら、IHの常連である。それもあって色々と面倒な決まりが多いと、同じクラスの遊戯王部員が愚痴っているのを盗み聞きしたことがある。学生のルールなんて校則だけで十分だ。

 決闘同好会は、やってることは遊戯王部と同じなのに、何故かわざわざのれん分けされている部活である。大きな大会への参加経験は無し(IH他、学校単位の大会は基本的に1つの学校から1つの部活しか出れない)、人数はギリギリ(そりゃ、この学校で真面目に遊戯王をやろうと思えば、遊戯王部に行くだろう)というポンコツ同好会だ。そのくせなんで残っているのかといえば、会長に秘密がある。

 決闘同好会の会長は、より世界規模になってもまだまだ珍しい女性ユーザーである。名前は『藤代 静加』。因みに藤代学園の藤代の名前が、創設者にして代々理事を務める藤代一族から来ているといえば、察しのいい奴なら誰でも気づくだろう。そういうことだ。

 

「入るわよー」

 

 ガラリと、先生が扉を開けた。視界に飛び込んでくる部屋の様子。

 中央には2×6の形で机と椅子が並べられ、奥にはホワイトボード。その向こうに夕焼け空の広がる窓。片方の壁には棚が置かれ、もう片方の壁には隣の教室につながる扉。

 中にいたのは四人。真っ先に目があったのは、上座に座る女生徒。二年生が付ける青色のタイを付け、説明会では壇上に昇って説明を行った、件の理事の一族、藤代静香。その右斜め前の席に同じ色のタイを付け、説明会では女生徒の脇に控えていた同じく女生徒のメガネをかけた先輩。

 手前に来て、左側4番目の机についているのは、同じクラスである神谷未来。こいつも女。

 そして、その対面、右側4番目の机につき、神谷と今まさにデュエルを行っているのはやっぱり同じクラスの菅原武である。最近たまに神谷さんと話をしている姿を見かけていたが、どうやらこれが理由のようだ。

 

「きちんと活動してる?」

「ええ。宮路女史。決闘同好会一同、切磋琢磨している所です」

 

 したり顔で、藤代先輩がそう言った。その近くに座るメガネの先輩は興味なさそうに視線を逸らし、神谷さんと菅原君は、後ろに立っている俺の方に視線を向け、どっかであったことがある気がするなーという様子で首を傾げている。

 因みに女史というのは、先生とかそんな感じの意味で、断じて先生の名前というわけじゃない。先生の名前は宮路明美だ。

 

「ならいいわ」

「ところで、宮路女史。そちらの彼は?」

 

 藤代先輩が俺の方へ視線を向けた。一応年上なので、黙して一礼。

 

「入部希望者。今日のところは見学ね」

「ほう!」

 

 藤代先輩が嬉しそうに立ち上がった。部員に飢えているのは、先生の言うとおりのようだ。

 入ってと、先生に言われたので、素直に入る。ここに来て、漸く俺が何者なのかにたどり着いたのか、「ああ!」と神谷さんが手を打った。一方の菅原君は未だゴールにたどり着いていないらしく、首をかしげたままである。

 改めて部屋を見渡せば、遊戯王関係のポスターもそれなりに貼ってあるようだった。私物化しすぎだろう。

 

「自己紹介して?」

「――ああ、はい。柏木遊です。木白木って書いて柏木、遊は遊ぶって書きます。クラスはそこの2人と同じく1-B。遊戯王のプレイ経験は0です。よろしくお願いします」

「……」

 

 必要最低限ながら、だからといって何かを加えろとは言いづらいレベルの自己紹介を済ませると、うんうんと、藤代先輩が嬉しそうに首を縦に振る。どうしたというのか。

 

「全く飾ろうとしないな、君は。嫌いじゃないぞ、そういうの」

「そうですか」

「私の名前は藤代静香。知っているかな?」

「はい」

「なら結構。1年2人も知っているなら、自己紹介は必要ないな。岬。後はお前だけだぞ」

「ん」

 

 藤代先輩の言葉に、のっそりと岬と呼ばれた先輩が顔を上げた。視線はそのまま俺の方を見る。

 

「志村岬。よろしく」

「志村先輩ですね。分かりました」

 

 藤代先輩、志村先輩、神谷さんと菅原君。そして宮路先生。多分だが、この四人が現在の決闘同好会のメンバーなのだろう。女性比率の方が多いとは、中々珍しいのではないだろうか。

 

「さてと。では柏木君。遊戯王初心者ということなら、先ずはデッキをプレゼントしよう」

 

 そう言うと、藤代先輩が棚へと近づき、一番下に置かれていたダンボールを持ち上げると俺の方へと持ってきた。それを足元に置くと、彼女は封を切る。中にあったのは、俗に構築済みデッキと呼ばれる、未開封のそれらであった。

 新しいものから古いものまで。既存のデッキだったら全部入っているのではないだろうかとすら思えるほどに多い。

 

「好きなものを1つ、持っていくといい」

「……いいんですか? それなりにするんじゃ?」

「見学に来たとは言え、カードに一切触れない、というのでは見学にならないだろう。来てくれた礼だ。それに、私は気に入った相手への点数稼ぎに関しては金に糸目をつけない主義。これくらいならいくらでもプレゼントするさ」

 

 いつの間にか、気に入られていたらしい。

 

「――そういう事でしたら、遠慮なくいただきます」

「うむ」

 

 竹を割ったような人だ。話していて楽だから、そういう人は嫌いじゃない。

 俺は屈んで、ダンボールの中を漁る。しかしながら、好きなものをくれてやると言われてもどのデッキがどんなデッキなのか、一切知らない。『ダーク・リターナー』とか名前が凄く恰好いいけど、どんなもんか全くわからん。

 

「……あの、藤代先輩」

「静香と呼ぶがいい。そちらの方が好きだ」

「では静香先輩」

「何かな?」

「お手数だとは思うんですが、先にルールブック見せて貰えませんか? 簡単なやつでいいんですけど」

「デッキを選べば、その中に入っているが。先に読みたいのか?」

「デッキ名だけだと、どんなデッキだか要領を得ないもので」

「成る程。それなら、君に私が質問をしよう」

「はい?」

 

 唐突な提案についていけず、俺は首を傾げる。楽しそうに藤代先輩――静香先輩は言葉を続けた。

 

「その質問の答えを聞いた上で、君にあったデッキを私が選ぼうではないか。どうかな?」

「そういうことですか。そうですね。分かり易いですし、ではそれで」

「うむ。では、この日のために温めておいた、デッキ選択用質問をしていこう」

「温めてたんですか?」

「使う機会が無かったのだ」

「へぇ」

 

 だろうな、とちょっと思ったが、はしゃぎまくっている静香先輩に茶々を入れる気もないので、お願いしますとだけ言って、頭を下げる。

 

「ではまず、シンプルなのと複雑なのだったらどっちが好きかな?」

 

 そんな質問から始まり、計十問。全てAとBならどちらが好きかという簡単な質問だったのでさくさくと答えられた。こんな質問でその人にあったデッキが分かるのかーと感心してしまう。

 答えを聞いた静香先輩が、顎に手を当てた。やたら様になった思考ポーズを十秒ほど挟んだ後、結論付けるように首を縦に、一度振る。

 

「分かったぞ。君にあったデッキはこれだ」

 

 そう言って渡されたのは、白い箱のデッキ。箱には、ロボットみたいな戦士と共に、『シンクロン・エクストリーム』と書かれていた。ダーク・リターナーについで、イラストが好みで興味があった物である。

 

「開けて中を見てみるといい。多分、気に入って貰えると思う」

「はい」

 

 封を切り、中にあったデッキを眺める。カードのテキストを覚えたのはいいが、流石にどうすればいいのかはわからない。なのでルールブックと、プレイングガイドも揃えて読む。

 時間にして五分くらいだろうか。読み終え、シミュレーションを軽くしてみて、満足して頷く。

 

「多分大丈夫です。俺好みだと思います」

「もういいのか?」

「はい」

「……そうか」

 

 なんか物足りないみたいな顔してる。何故かは知らないが。

 44枚のストラクチャーデッキ。その内4枚の白枠――シンクロモンスターのみで構築されたエクストラデッキのみをより分け、向かって左側に置いてから、残った40枚――効果モンスターと魔法・罠カードで構築されたメインデッキを、4枚ずつの束10個に分けて、ランダムに重ねる。

 それを何度か繰り返してから、普通にシャッフル。これで均等に混ざったはずである。

 

「エクストラデッキをより分け、メインデッキはきちんとシャッフル。しかもそれぞれを置く位置にも間違いがない……。遊。お前、本当に初心者か?」

「はい」

「……シンクロ召喚のルールは?」

「チューナーと非チューナーを(フィールド)に用意して、そのモンスター達を墓地に送ることで、レベルの合計と等しいレベルのモンスターがエクストラデッキから出せるんですよね。ルールブック程度のルールは覚えてるんで、後は実際に戦ってやってみれば、完璧に理解します」

 

 シャッフルを終えたメインデッキを右側に置いて、山札の上から試しに5枚のカードを引く。全部モンスターだった。先攻の1ターン目はドロー無しらしいので、選択肢はこの中にしかない。

 一先ず墓地に置いておきたいモンスターを裏守備表示で出して、ターンを終える。相手ターンに攻撃されたことにして、モンスターを墓地。次のターンにデッキからドロー。チューナーを召喚し、墓地からモンスターを蘇生して、それに合わせて手札からモンスターを特殊召喚する。

 この流れを試して、感触を確かめる。いい感触だ。シンクロ先に選択肢があればもっといい。この組み合わせで行えるシンクロ先のレベルは5。エクストラにいるレベル5のモンスターは3体で、その内この組み合わせで出せるのは2体だ。シンクロするとトークンが並べられる。そこで疑問が沸いて、尋ねようとしたところで、対面の席に誰かが腰を下ろした。

 視線を向ければ菅原が腰を下ろしていた。したり顔でデッキをシャッフルしている。どういうつもりなのだろうか。一瞬だけ悩んでスルーする事に決める。

 

「静香先輩。ちょっと聞きたいんですけど」

「ああ。なんだ」

「無視すんなよ!」

 

 手にとったシンクロモンスターを静香先輩に見せようとしたところで、菅原から怒声。やかましいなと思って視線を戻すと、メインデッキとエクストラデッキ、そして初手手札5枚まできっちりと用意した菅原の姿があった。

 カードの背面が萌えイラストになってるが……多分、あれがルールブックにあったカードプロテクター。スリーブとか言う奴なのだろう。色々バリエーションがあるようだ。俺も買う機会があったら、色々吟味したい所である。

 

「何か用か?」

「デュエルしようぜ。ルール覚えたんだろ?」

「ルールを覚えたこととお前とデュエルすることには何ら接点が無いんだが。それより今は中途半端な部分を色々と補強したい」

「ゲームやりながら覚えればいいだろ」

「……成る程。一理ある」

「待て」

 

 菅原の言葉に頷き、俺がデッキを用意しようとしたところで、静香先輩から待ったがかかった。

 

「公彦。遊の初めてを貴様が奪うなぞ、断じて許さん。ひっこめ」

「言い方考えて貰えませんかねぇ!?」

「ひっこめー」

「岬先輩から、まさかの野次!」

「ひ、ひっこめー」

未来(みく)までだとぉ!?」

 

 まさかの援護射撃に菅原が過剰な反応を見せる。こいつ、異性の同級生と先輩の事、下の名前で呼んでるのか……。

 

「いいじゃないですか! 男同士なんですから!」

「考えてみろ。お前、自分の初めてが同性に奪われて嬉しいのか」

「だから言い方ぁあああああああ!」

 

 やかましい男である。

 

「初心者らしくないが、初心者だぞ。いきなり一人回しを始めるくらいだが、初心者なんだ。初々しいんだ。そんな奴の初めての貴様が奪うだと。恥を知れ」

「そこまで言われる程のことじゃないと思うんですけど!?」

「兎に角、先ずは希望者を募ろう。遊と初デュエル。対戦相手をやりたい者は挙手――成る程。3人だな」

「待ってくれ、静香先輩。今誰を抜いた」

「そうだ。誰を抜いたんだ藤代。先生だったら許さないぞ」

「無論、自覚のある二人。ホモと年増は帰れ」

 

 ていうか、先生も参加してたのか。デッキあるの?

 

「良いだろう藤代。貴様は私を怒らせた」

「デュエルだ! 俺が勝ったら俺がデュエルするからな!」

「それなら、私が勝ったら私が行っていいということだな」

「待ちなさい。勝手にルールを決めるものじゃない」

「大会するしかない」

「よし。チキチキ遊の初デュエルの相手獲得選手権だ! 5人の総当りで一番勝ち数の多い者とする!」

「おっしゃぁああああ!」

「おー」

「が、頑張ります!」

「先生に譲るって発想はないの」

 

「……」

 

 本人を置き去りに異様な盛り上がりを見せる五人を置いて、音をなるべく立てないように気をつけながら戸を閉め、俺は溜息を一つつきながら部室を後にする。

 五人の総当り。計算に間違いがなければ、総試合数は十試合だ。流石に長過ぎる。何よりあの熱気は今の俺には毒以上の何者でもない。

 

「帰るか」

 

 一応扉の方に一礼してから、歩き出す。『デュエルッ!』と扉の向こうから掛け声が聞こえてきた。

 優勝賞品が脱走していることに、彼女達はいつ気が付くのだろうか。

 




まだデュエルしないスタイル
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