翌日放課後。スクールバッグを肩に担ぎながら、俺はのんびり部室の方を目指していた。
ふわりと、欠伸が一つ漏れる。昨日は結局、夜遅くまでパソコンと睨めっこしながらデッキを回していた。分かったことは、圧倒的にエクストラデッキが足らないことだ。たった4枚では、何も出来ないに等しい。シンクロ特化で、メインデッキの火力が低いから尚更だ。拳銃に例えれば、弾丸が数発しか無いのと同じである。いくら強い拳銃も、弾丸がなければ鈍器でしかない。
昨日の一件の末、もしかしたら大会優勝者が今か今かと待ち構えているかもしれないが、デュエルは明日に持ち越しして貰いたいところだ。今日はエクストラデッキを多少は補強する為に、カードを買える場所に行きたい。
案外提案してみたら、すんなり通るかも知れない。そんな期待を胸に抱きながら、俺はいよいよ部室の前についてしまった。
すーはーと深呼吸を一つして、カードショップに行くことを提案するシミュレーションを入念にこなしてから、俺はいよいよ扉に手をかける。
(いざ)
頭の中に法螺貝の鳴り響く音を聞きながら、俺は戸を開けた。
「お疲れさ――「待ちかねた!」」
そこには、目を蘭々と輝かせた静香先輩の姿。
「さあ、デュエルだ! 決闘盤を使うぞ! ここじゃ狭いから、屋上に移動だ!」
「……あ、はい」
明日にしましょうとか、あの瞳の前で言える訳がなかった。
場所を変え、屋上。直線距離十メートル程の距離を開けて、俺は静香先輩と対峙していた。静香先輩の後ろには、ギャラリーである他の部員と顧問の姿がある。全員がジト目を静香先輩に向けているのだが、静香先輩には一切届いてない。いっそ凄い。
もはやしてきは諦めて、俺は左腕につけた決闘盤に意識を戻す。そこそこの重量。凄く重い訳じゃないが、長く使いたくはない重さだ。そりゃそうだ。昨日調べた限り、現在四バージョン存在する決闘盤の中で、これは最初期の物。骨董品と呼べる程ではないが、其れでも絶版に近い逸品である。
ちゃんと動くのか不安だったが、そこは流石に部の備品。きちんと起動するらしい。デッキを突っ込んだらきちんと受け入れられたので、OSのバージョンも最新の物なのだろう。後はこの重さだが……肉抜きとかしたらまずいだろうか。
「オートシャッフル機能は無いから、自分で切ってからデッキを入れてくれ。本来ならお互いに交換するべきだが、今回は省略だ。君を信じよう」
「はーい」
一度インサートしたデッキを抜いて、シャッフル。その後再装填。決闘盤本体中央のライフカウンターが8000の数字を刻む。
「一応聞いておくが、そのデッキ。何か弄ったかい?」
「いえ。開封した状態のままです」
「そうか、ならよかった。このデッキも君と同じただのストラクチャーデッキだ」
「そうなんですか?」
「流石にノーカスタムのストラクチャーデッキに本気のデッキを使うつもりはないよ。勝負にならないとは思わないが、プレイング云々の問題で無くなってしまうからな」
俺の覚えている限り、若干一名、このデッキに自身のガチデッキをぶつけようとした男がいるのだが。まあ、口にしないほうがいいだろう。既に周囲三名の観客にジト目で見られて針の筵状態だし。少し可愛そうだが自業自得ということで。
「それでは始めよう。本来ならコイントスなりじゃんけんなりで決めるところだが、今回は君が好きに選ぶといい」
「……じゃあ、先攻を貰います」
「承知した」
バッと静香先輩が腕を突き出すと、合わせたように決闘盤が展開される。似たような事をしないといけないのかと思っていると、ボタンを見つけた。そこを押すと、静香先輩同様に決闘盤が展開される。少し物足りないみたいな目で静香先輩がこちらを見ているが、人生省エネが俺の心情。残念ながらそんなキビキビした動きは期待しないで欲しい。
「まあいい。始めるぞ」
「押忍。お願いします」
「では――!」
「デュエルッ!」「デュエル」
✝ ✝ ✝
「俺のターン。ドローは出来ないのでスタンバイからメインへ」
詳しく理解している訳ではないが、優先権の問題でキッチリを宣言しないといけないらしいので、フェイズの移行を宣言しながら、ターンを進める。
「モンスターセット」
横向きに置かれた裏側のカードが俺の場に現れ、その上になんとも形容しがたい変なのが現れた。多分裏守備表示モンスターを表わす何かなのだろうが、何なんだ。
その後手札を見る。赤(?)枠のカード、罠カードが1枚だけ手札にある。このカードは伏せておかないと使えないらしいから、これもとりあえず伏せておく事にした。
「カードをセット」
今度は縦向きの裏側カード。こっちには何も出てこない。
これで、1ターン目にやる事はなくなった。
「ターン終了です」
「私のターン! ドロー!」
のんびりした最小限の動作の俺に対し、ズバッとカードを引いた静香先輩。かっこいいとは思うが、やろうとは思わない。ただでさえ、決闘盤が重いのだ。机でやりたい。
出すカードは決めていたのか、静香先輩は引いたカードをそのまま手札に加えて、代わりに別のカードに手をかけ、それを決闘盤に置いた。
「スタンバイからメイン! 私はミラージュ・ドラゴンを召喚!」
「おお~」
静香先輩の場に表側のカードが現れ、そこから細い体を持った黄色の竜があらわれた。下級モンスターだからあまり大きくはないが、其れでもドラゴン。男子としては多少の興奮はしてしまう。
「……それだけか?」
「え?」
なにかおかしかったろうか。
「ふむ、このモンスターではダメか。まあ、所詮下級モンスターだしな」
ぼそぼそと静香先輩が何か言ったが、聞こえない。まあ、独り言のようだし、気にするだけ無駄だろう。
「バトルだ。ミラージュ・ドラゴンでセットモンスターを攻撃!」
ミラージュ・ドラゴンの口から、ブレスが放たれる。放たれたそれは、真っ直ぐ俺のセットモンスターであるボルト・ヘッジホッグへと向かってきて、そのまま破壊した。
「ボルト・ヘッジホッグだったか。メイン2。私はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
伏せ1。判断がつかないので、思考はしない。
「俺のターン。ドロー」
カードを引き手札に加えてから、静香先輩に習って「スタンバイからメイン」と告げる。多分フェイズの移行を言っているのだろう。きちんと宣言しなさいとルールブックに書いてあったし。
「まずは調律を発動。デッキから「シンクロン」チューナーを手札に加えてシャッフル。その後デッキの一番上のカードを墓地に送る。効果でジャンク・シンクロンを手札に」
その後デッキから落ちたカードは、ターボ・シンクロン。引いても困ったから、ちょうどいい。
「シンクロン・キャリアーを召喚」
オレンジ色の体を持つ小さな機械兵が出てくる。
「シンクロン・キャリアーの効果。1ターンに1度、通常召喚以外に「シンクロン」チューナーを召喚出来ます。ジャンク・シンクロンを召喚」
通常召喚された、眼鏡をかけたような顔の機械の小人。長い付き合いになりそうだと、何となくそんな気がしながら、俺はジャンク・シンクロンの効果を起動する。
「ジャンク・シンクロンの効果。召喚された時、墓地のレベル2以下のモンスターを特殊召喚出来ます。効果で呼ぶのはボルト・ヘッジホッグ」
先程破壊された茶色の毛にボルトを刺したネズミが飛び出し、モンスターは瞬く間に3体。チューナーと非チューナーも揃っているから、シンクロ召喚も行える。
「行きます。レベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング。シンクロ召k「待つんだ」はい?」
エクストラデッキからカードを取り出そうとした俺を、静香先輩が止める。何か間違っていたのかと確認するが、特にミスは見受けられない。
「何か間違えてました?」
「ああ。重要なことを忘れている」
「重要なこと?」
特にルールブックにはこのタイミングで必要なことは書いていなかったが。
少し悩み、思い至る。
「優先権、何かありますか?」
「いや無い」
「そうですか。なら改めて、レベル「違う。優先権の確認も大事だけど、そうじゃない」ん?」
ルールブックに書かれた以上の何かがあるというのか。
「シンクロをするなら口上が必要だろう?」
「そうなんですか?」
「ああ。必須と言っても過言ではないな」
「そうなんですか」
まあ、必須というのなら仕方がない。幸い、分からない所を調べる時にWikiは読んだ。その下の方に、アニメでの口上があったから、それでいいだろう。
こほんと一つ、咳払いをはさんでから、羞恥心を飲み込んで。いざ。
「レベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング。集いし星が新たな力を呼び起こす。光さす道となれ」
リコイル・スターターを引っ張り、バックパックのエンジンを起動させたジャンク・シンクロンが光の輪に変わり、そこに入ったボルト・ヘッジホッグは星に姿を変えた。
やがてその2つが合わさり、光柱へ。
「シンクロ召喚。いでよ、ジャンク・ウォリアー」
ストラク対決