七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
天龍VS龍田、決着……?




第百四話「本当に、強くなったわねぇ」

 

 私の過ちの話をしよう。

 事の始まりは私自身の覚醒だった。

 一体いかなる手段で私が再び目覚めたのかは定かではなく、興味もさしてない。

 とにかく、天龍に首を斬り落とされた舞鶴の夜から止まっていた私の時間は突如として再び動き出した。

 しかし、ここで問題が起こった。

 私は、眠りに着く直前、海底に沈みながら龍田の記憶、研鑽、停滞、感情、それらをできうる限りかき集めた。

 しかし、捨てたものを再びかき集めるなんて無茶を死に際にやったせいか、目覚めた私の記憶は混濁の中にあった。

 あろうことか、私は、自分を龍田だと誤認していたのだ。

 私は陸軍の研究所を破壊しつくして、海に出た。

 冷静に考えればあれは深海棲艦特有の殺人衝動、破壊衝動だった。

 七丈島にいつの間にか辿り着いたのも偶然ではないのだろう。もしかしたら無意識に天龍の気配を追って辿り着いたのかもしれない。

 しかし、私はそれらの事項を見て見ぬふりをした。

 自分は『龍田』で、『艦娘』なのだから、そんなことができるはずはないと思考を停止させたのだ。

 

『――これはこれは、まさかそちらから網にかかりに来るとは僥倖でありますな、DW-1』

 

 蜻蛉隊の襲来がきっかけだった。

 彼らのDW-1への敵意が、更には綾波との死闘が、深海棲艦としての私を呼び起こした。

 そして、私は全てを思い出し、全てを理解した。

 しばらくは考えがまとまらなかった。

 一晩考えつくして、ようやく答えが出せた。

 私は、深海棲艦DW-1に戻り、天龍と殺し合うことに決めたのだ。

 

 

「――――」

 

 天龍の刀が私の身体を袈裟斬りにした。

 まだ意識はあるが、あと一刺しもすれば私の核ともいうべき部分は破壊される。今、私の死はほぼ必定のものとなった。

 緩やかに私という意識は消滅し、海に還るだろう。

 瞼を落とす時だ。そう青空を見上げながらも虚ろな目を閉じようとしたその時だった。

 

「――あら、壊しちゃったの? それ」

 

 その癇に障る声を、私は知っている。

 

「叢……雲……ッ!?」

 

 彼女の姿を見て天龍の表情に驚愕が加わるのがわかった。気付いたのだろう、この叢雲は、あの叢雲なのだと。

 

「はぁい、天龍、お久しぶり。龍田も、ね」

 

 そう言って海面に伏している私に手を振る彼女に敵意の籠った視線を返した。

 

「あら、何その目、怖いわねぇ。折角あなたに代わって私が種明かしをしに来てあげたのに」

 

 どういう意味だ。私の背筋を悪寒が走る。

 嫌な予感がしたのだ。

 やめろ、と視線を投げかけるも叢雲は楽しそうに首を振った。

 

「あなたの都合なんてどうでもいいのよ。だって苦労して研究所から助けてあげたのにこれで終わりなんて勿体ないじゃない」

 

 私は言葉に詰まる。

 この叢雲が、私を研究所から逃がした張本人だと。何故、一体何のために。

 次々と湧き出る疑問に脳裏が支配されてった。

 

「それは勿論、我らが司令官、鏑木美鈴の指示よ」

「鏑木、美鈴……!」

「当時はあなたを療養かつ秘匿するだけの施設とお金がなかったから仕方なく陸軍に貸していたんだけれど、もうその必要もなくなったからね。でもあいつら返せって言っても絶対引き渡さないでしょう? だから、秘密裏に奪い返す手筈だったのよ」

 

 その言い方だと、実際計画通りにはいかなかったという意味だろうか。

 そこで言葉を一度切った叢雲は突然、口元を手で押さえる。

 その隙間から噛み殺した笑いが漏れ出て聞こえてくる。

 

「でも、ほら、あなた面白い勘違いをしてくれていたじゃない? 自分を、龍田だと思い込むなんて、ねぇ?」

「…………っ!」

「だからね、ちょっと面白そうだなと思って。気絶させてから七丈島の近海に置いてきたのよ」

「全部、てめぇが仕組んだことだったのか……!」

「ええ、案の定、この子は天龍と再会し、まるで龍田本人のように振る舞っていた。いやぁ、蜻蛉隊に潜入して七丈島に来た時は笑い声を抑えるのが大変だったわよ。仮面を付けていて助かったわ」

 

 どす黒い感情が体の底から湧き上がってくる。

 

「いい加、減、に……しやがれッ!」

 

 天龍が激昂し、叢雲に対して刀を振る。

 彼女の後退と共に、力尽きたのか天龍は海面に膝をつき、荒い呼吸を繰り返している。

 

「あはは、天龍。あまり動かない方がいいわよ? そんなに頑張っていると死んじゃうわ」

「ぐ、ふ」

 

 私との戦闘でのダメージは決して少なくはない。今の天龍は辛うじて叢雲を睨みつけるので精一杯のようだった。

 

「ねぇ、龍田。あなたを見ていて私凄く心が躍ったわ。自分が艦娘だと思い込んでいた深海棲艦。その認識が正された時、あなたは一体どんな結末を描くのか。楽しみで仕方がなかった」

 

 叢雲が私を見て笑う。

 

「でも、まさかこんな結末を選ぶとはねぇ」

 

 この女、どこまで気付いている。

 そうだ、私は考えた。私という生命はどう振る舞うべきなのかを。

 深海棲艦と自覚しながらそれでも龍田を演じるのか、深海棲艦としての自らを受け入れ敵対するのか。

 私は深海棲艦として敵対を選んだ。そこまでは見透かされていい。

 

「深海棲艦としての自分を受け入れたのに、奥底では龍田を捨てきれなかった」

「――――っ!」

「どういう意味だ……?」

 

 やめろ。

 

「わからないかしら? 結局、これは深海棲艦に戻れなかったのよ。いくら龍田の外装を貼り付けようが、その核は変わらない。あなたが龍田の贋物である事実は変わらないのにね」

 

 やめて。

 しかし、最早叢雲の口を塞ぐには遅すぎた。

 

「あなたは天龍を殺すことを願ったんじゃない。深海棲艦として天龍に殺されることを選んだのよねぇ」

 

 そして、一番知られたくない事実を、彼女は惜しげもなく吐き出した。

 

「…………」

 

 絶句する天龍の表情は見ていられない。

 それを見てまた愉快そうな笑みを浮かべると、叢雲は槍を必要以上にちらつかせながら呟いた。

 

「ねぇ、龍田。今天龍を殺すって言ったらどうする?」

 

 

 私は間違えたのだ。

 私は、一晩考えた。

 深海棲艦としての自分と、龍田として振る舞っていた自分。どちらが本物なのか。

 頭ではわかっている。

 私は深海棲艦なのだと。頭の奥底でガンガンと叩きつけてくる際限なき憎悪と殺戮衝動が何よりもそれを顕著に表している。

 だが、そこまで理解してなお、何故私はそれを理性で押さえつけようとしているのか。

 何故、深海棲艦の本能を拒絶しているのか。

 そう、私の過ちは龍田になろうとしたこと。

 龍田の残滓を、取り込み過ぎてしまったことだ。

 そのせいで、こんなにも苦しい。

 そのせいで、こんな答えに満足してしまった。

 

――私は、深海棲艦として天龍と戦い、そして殺される

 

 天龍が私を殺せばその武勲はきっと七丈島鎮守府を守ってくれる。蜻蛉隊も引き上げるしかなくなる。

 また、彼女達の日常が戻ってくる。

 ああ、私はどうしようもなく壊れてしまっている。

 私には眩しすぎてかえって居心地の悪かったあの日々を、私の手で守ることができる。そんなことが、私には何よりも大切で誇らしく思えてしまっているのだから。

 

『ああ、この感情は何なのかしら』

 

 これは、きっと深海棲艦にはない感情だ。

 きっと不要なものだ。

 この感情の名前は――――

 

 

「ぐ、う、あああああッ!」

 

 私は薙刀に全重心をかけ、叢雲を押しつぶさんと力を籠め、叢雲に叩きつける。

 完全な不意打ちのはずだった。予想外の反撃のはずだった。

 

「あはは、なんて底深く愚かなのかしら」

 

 三連突。

 私の身体に三つ穴が空いた。

 一切見えなかったが、おそらくはどれも叢雲の槍によるものだった。

 おかしい、私は最速をもって叢雲の命を脅かしていた筈だった。

 それが、何故、掠りもせずあろうことか反撃まで許しているのか。

 

「私の眼の前では時すら止まる」

 

 叢雲が両膝をつく私に勝ち誇った笑みと共にそう言った。

 

「天龍の持つ天眼。それに匹敵する目を、私も持っている。そうねぇ、神眼とでも名付けましょうか」

「神の目とは、また大げさ、ね……」

「如何なる速度の攻撃も、私には総じて止まって見える。そして、止まった時間の中で動けるだけの神速を、私だけが持っている」

 

 叢雲が海面を蹴ると同時に私は彼女の姿が消えたものだと錯覚した。

 次の瞬間、叢雲は私の懐に飛び込み、槍を突き立てたのだ。

 私の猛攻すら止まって見えるほどの動体視力。そして、その艦娘離れした機動力。

 神眼と神速。二つが合わされば、彼女は止まった時の中で動いているも同然というわけだ。

 そこには速度も、不意打ちも関係ない。

 

「ああ、残念。底が知れたわね、龍田。所詮は『ワルキューレ』になり損なった失敗作」

 

 私の眼前で、叢雲が笑って槍を構える。

 叢雲は、全てを台無しにするつもりなのだ。

 私のたった一つの想いも、容赦なく踏みにじって、強制的に私を終わらせに来たのだ。

 しかし、抗う術はない。どう足掻いても目の前の槍を私は避けることができない。

 やめてくれ、私はおそらく、生まれて初めて神というものに懇願した。

 こんな終わり方は認められない。

 誰でもいい。頼むから、この状況を、なんとか引っ繰り返せる誰か。

 

「私を、助けて――――」

『――ヲヲ……その慟哭、確かに聞き届けた……』

「っ……! この気配は!?」

 

 初めに、周囲を不自然な霧が包み込んだ。

 同時にその気配を知覚できたのは私と叢雲だけのようだった。

 姿が見えずともその気配の強大さが嫌でも私達の身体を硬直させ、警戒レベルを最大まで引き上げる。

 来る。そう思った時、それは霧の中から私達の目の前に姿を現した。

 

「こ、いつ、は……!」

 

 禍々しい大口が特徴的な異形を帽子のように頭に乗せ、黒いマントを羽織る青白い肌とアイスブルーの瞳を持つ少女のような姿をしたそれを、その場の誰もが知っている。

 空母ヲ級。艦娘ならば一度は交戦したことのあるであろう敵正規空母だ。

 

「聞いてない……聞いていないわよッ! こんなの!」

 

 叢雲の狼狽も相まって私は疑問を浮かべる。

 空母ヲ級。flagshipでも改でもましてや新型艦載機搭載型でもない。普通の空母ヲ級。

 おおよそ、雑魚敵、精々中ボス程度に収まるような深海棲艦の筈。とても私と叢雲が感じた強大な気配を発するような個体ではないはずだった。

 このヲ級は、何かが違う。

 

「ヲヲ、どうやら間に合わなかった。ほんの一瞬だけ確かに感じた『姫』の気配。また消え失せてしまった」

「…………ッ!」

「だが、こちらはまだ間に合いそうだ」

 

 瞬間、叢雲が吹き飛ばされ、霧の中に消えた。

 それが、ヲ級の手に握られていた黒い杖に仕込まれていた刀身による斬撃だったことに気付くのに、私は数瞬の時間を要した。

 

「ヲヲ……」

 

 ヲ級も叢雲が飛んで行った方にゆっくりと足を動かし、同様に霧の中に消える。

 数秒して、再び私の目の前に数多の切り傷を負った叢雲が吹き飛ばされてきた。

 

「くそ! この霧さえなければ!」

 

 そうか、この濃霧ではヲ級の攻撃が見えないのだ。

 見えないものは避けられない。

 私が手も足も出なかった相手をいとも容易く蹂躙するヲ級に背筋が寒くなる。

 

「ヲヲ……」

「忌々しい……撤退するしかないみたいね」

 

 一瞬、私の方を見て悔しそうに舌打ちをすると、叢雲は海面を蹴り、霧の中に姿を消した。

 すると、すぐに霧が消え、目の前にヲ級が立っていた。

 

「すまない同胞よ。あれは随分と逃げ足が早い。討ち取り損ねた」

「……あなたは、何?」

「私は、『姫』の侍従。それ以外に存在価値ヲ見出せないもの」

 

 どこか自虐的な語りに私は困惑しながらも、とにかく叢雲という脅威が去ったことに一先ず胸をなでおろした。

 

「深、海棲艦……」

 

 天龍が、必死に戦闘態勢を整えようと歯を食いしばっているのが見えた。

 それを見て空母ヲ級は首を振った。

 

「やめてヲけ、艦娘。私は他の同胞とは違う。ヲ前達の殺戮ヲ目的とはしていない」

 

 そう言いながら、ヲ級は仕込み刀を杖に収める。

 

「同胞よ。理解しているだろうが、ヲ前に残された時間は短い」

「ええ、わかっているわぁ」

 

 既に叢雲の攻撃によって私の中の『核』は壊された。

 私の意識は少しずつ崩壊を始めている。

 

「では、これからどうする?」

「為すべきことを為すわ」

「……よろしい。私の助力は必要ないようだ」

 

 ヲ級は何かを察したように薄く微笑む。

 同時に、再び霧がヲ級を包み込むように現れた。

 

「ヲヲ、姫よ……御身は何処にあらんや――――」

 

 その哀愁の入り混じった声を最後に、ヲ級は霧と共に跡形もなく消え去った。

 

「お待たせ、天龍ちゃん。さぁ、仕切り直しといきましょうか」

 

 私は、ゆっくりと薙刀を構え、そう天龍に微笑んだ。

 崩壊が始まっている。もう薙刀を二本振れる余力は残されていない。

 だから構えるのは薙刀一本だけだ。

 

「悪いけれど、もう時間がないの……早く、刀を構えなさい」

「…………」

 

 ああ、あなたのその表情が見たくなかったから。

 私は、深海棲艦であることを受け入れたのに。

 

「早、く」

「嫌、だ……」

 

 天龍は首を振り構えない。震えているようにも見えた。

 見ているだけで、私も辛くなった。

 でも、それでもこのままでは駄目だから、私はあえてあなたに厳しい言葉をかけるべきなのだろう。

 

「そんな甘えは許さない……刀を構えなさい、天龍……ッ!」

「――ッ!」

「全部、あなたの――あなた達のせいよ」

 

 恨み言のように、私の口から言葉が漏れ出る。

 

「あなた達のせいで、私は深海棲艦()じゃいられなくなったのよ。あなたのせいで、私はこんな結末を選んだの。その責任を取りなさい……ッ!」

「龍、田……」

 

 それほどに、七丈島で龍田として過ごした時間は温かすぎて。氷よりも冷たい世界で生きる深海棲艦には耐えきれなかったのだ。

 だから、本来選ぶはずのない自殺という結末を選んでしまったのだ。

 

「私ね、どうあれこの七丈島で殺される運命だったと思うのよ」

 

 それに結局、全ては仕組まれたことだった。

 ならば、きっと私がどういう道を選んでも生存という道は最初からなかった。

 私が目覚めたあの時から、私の死は決定していたのだ。

 

「どうせ殺されるなら……私は、天龍ちゃんがいいわ」

「――――っ」

 

 あきつ丸でも、イタリア軍でも、ましてや叢雲なんてまっぴら御免だ。

 どうせ殺されるなら、私は殺される相手は選びたいと思ったのだ。

 殺されてもいいと、そう思える誰かが、幸運なことに私にはいたのだ。

 

「さぁ、構えて」

 

 天龍が、ゆっくりと刀を両手で持ちあげる。私に切っ先を向ける。

 剣先は震え、今にも崩れ落ちそうなくらい弱弱しい。

 でも、それで十分だった。

 

「ええ、それでいいのよ」

 

 私は、倒れるように前に進む。

 そして、天龍の構えた切っ先に自ら身体を預けた。

 天龍からして、何かを貫いた感触はほとんどなかっただろう。

 私の腹部を刀が貫いた瞬間、私の視界が徐々に真っ白に染まっていく。

 いよいよ、終わりの刻限がやってきたのだ。

 

「天龍ちゃん――――」

 

 私はゆっくりと彼女の頬に右手を添えた。

 彼女の熱が、指先を伝わってくる。それが、とても心地よく感じる。

 そして私は、彼女にゆっくりと最期の言葉を贈った。

 

「本当に、強くなったわねぇ」

 

 あなたは誰にだって負けない。

 あなたは何にも押しつぶされない。

 それだけの強さを持っている。

 だから、強く生きなさい。

 そんな激励を込めた、『龍田』の言葉での締めくくりをこそ、私は選んだ。

 

「龍、田――――」

 

――ああ、最後まで、私をそう呼んでくれるのね。

 

 私は何もかもを間違えた。

 しかして、私は満足だった。

 

 

 龍田は最期に嬉しそうに微笑んだかと思うと、ゆっくりと目を閉じる。同時に俺の頬に添えられていた手がだらりと垂れ下がり、彼女は動かなくなった。

 刀をゆっくりと引き抜くと、彼女の身体を抱きしめる。

 温もりは、もう感じなかった。

 その後、七丈小島まで戻った俺は、その堤防に彼女の亡骸を横たえ、隣に座った。

 

「…………」

 

 俺は、一体どんな顔をしているのだろう。

 俺が殺した彼女は、龍田ではない。

 龍田本人は、舞鶴でとっくの昔に死んでいるのだ。これはそれを真似た化物にすぎない。

 だから、こんな感情を抱く俺はきっと間違っているのだ。

 

「――全て、終わってしまったのでありますな」

 

 後ろを振り向く。

 そこには黒い外套と軍服を真っ赤な鮮血で汚すあきつ丸の姿があった。

 驚きはなかった。

 むしろ、俺はその到着を心のどこかで待っていたのだ。

 

「よぉ、お互い満身創痍って感じだな」

「ええ、それに、深海棲艦もうようよしているでありますからなぁ……今襲われればひとたまりもないでありましょうなぁ」

「で、そんな死地に何しに来たんだよ。もう、全部終わっちまったぜ」

 

 その言葉にあきつ丸は乾いた笑い声を返した。

 

「私は、いつだって悪を打倒するため放浪しているであります。それ以外に生き方を知らない故」

 

 自嘲気味にそう呟きながら、あきつ丸は続けて言った。

 

「DW-1を渡すであります。その亡骸、我々が正義のために使い潰して差し上げよう」

「は、断るに決まってんだろうが」

 

 俺の即答に、あきつ丸は心底嬉しそうに笑った。

 

「私が打倒すべき悪となってくれるのでありますね」

「お前とは、絶対に戦うことになる確信があったぜ」

 

 刀を構える。

 あきつ丸も、ゆっくりと縦拳を突き出す。

 

「これが、きっと最後の戦いだ」

 

 龍田の亡骸を背後に、俺はあきつ丸に向けて刀を振った。

 

 

 




次回、天龍編完結……のはず


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