七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
エドモンドロッソとプリンツのロザリオ




第百九話「そうだ、私も艦娘になる!」

 

「おや、天龍じゃないですか。何やってるんです?」

 

 港の倉庫街に入っていく天龍を見かけた大和はふと声をかける。

 天龍もこちらに気が付き陽気に手を振り返す。

 近づくと、天龍は何やら手に袋を抱えている。

 

「よぉ、大和! 奇遇だな、港で会うとは。お前こそ何やってんだよ」

「ビッグスプーンでお昼いただいてたんです」

「おいおい外食かよ、珍しいな」

「ええ、今日の昼食当番がサボってしまったので」

「はっはっは、そいつは災難だったな!」

「あなたの話ですからね?」

 

 まったく自覚がないらしい天龍に大和の目が笑っていない微笑みが炸裂する。

 

「あれ、俺だったっけ?」

「お前ですよ」

「口悪いな、おい」

「怒ってるので」

「すまんて」

 

 ただならぬ剣幕にとりあえず天龍は頭を下げた。

 

「罰として磯風ラザニアの刑です」

「死刑宣告やめろや」

「天龍がいないせいで『じゃあ、私が』って磯風がエプロン取り出した時の私達の絶望感がわかります?」

「マジですまねぇ」

「磯風ラザニアと磯風プリンの刑です」

「首吊りの後に電気椅子みたいな死体蹴りはやめろォ!」

 

 大和の目は、実に据わっていた。

 天龍を土下座に至らせる程度には据わっていた。

 そして、大和の溜飲も下がりつつあった昼下がり。

 

「で、話を戻しましょうか」

「これ以上の罰は勘弁してつかぁさい!」

「そっちじゃないです。天龍どっかいこうとしてたんでしょう?」

「ああ、その話か」

 

 天龍は袋を開けて中のものを取り出して大和にしたり顔で見せつけた。

 それは、キャットフードであった。

 

「野良猫共に差し入れしに行ってやるのさ」

「ああ、天龍猫に懐かれてましたもんね」

「今は特にある一匹によく懐かれててな。こうやって近くに来るだけで――お、噂をすれば」

 

 天龍の視線の先を見ると、倉庫の屋根を器用に下りてくる一匹の黒猫の姿があった。

 ふてぶてしい顔に少し丸い身体に野良猫らしいけば立った体毛。

 確かこのあたりのボス猫的なやつだったか。いつも一匹でいるのが放っておけないのか幾度となく矢矧からアプローチを仕掛けるも全て玉砕しているという難敵である。

 生真面目な矢矧には懐かず、適当な天龍に懐くあたりなんだか猫らしい。

 

「ブサ可愛いって感じの黒猫じゃあないですか」

「だろ? 俺も気に入っててさ、名前つけてんだよ」

「へぇ、なんていうんですか?」

「やまと」

「宅急便か」

 

 安直かつ、自分と名前がかぶっていること、二重で天龍のネーミングセンスが許せない大和であった。

 

「ほら、やまとの大好物のキャットフード持ってきたぜー、いつもの魚より旨いぜ」

「ビャアァアアア」

「鳴き声が汚い!」

「やまとの声は汚くなんかねぇ!」

「ちょっ、ていうか名前変えてくださいよ! 私の大好物がキャットフードみたいな噂になったらどうするんですか!」

「もうなってるよ」

「何やってんだ」

 

 大和の両腕が天龍の胸倉に伸びた。

 

「落ち着け落ち着け、はっはっは」

「何笑ってんですか!?」

「お前、あれだぞ? 噂になるって時点でお前もお前だからな?」

「黙れ、小僧ッ!」

「せめて小娘にしてくれ」

 

 事態の深刻さに天龍の胸倉に伸びていた手を今度は自分の頭に伸ばす大和。

 天龍は少し申し訳なさそうにその肩を叩く。

 

「いや、その、まぁ、俺も軽率だった」

「私、この島の人達にキャットフードだって食べるって思われてるんですね……大食いキャラは仕方ないとしても、もう少し皆信用してくれているかと思ってたのに」

「いや、そこは全然信じてくれなかったから、俺が一生懸命説得して信じ込ませたんだよ」

「絶対磯風フルコース食わせてやる、覚悟しろ」

「即死コンボやめろぉ!」

 

 今再び、天龍の土下座が繰り出された。

 

「というか、本当にやまとって名前なんですか? さっきから全然反応しませんよ」

「そりゃ、お前、遠慮してんだよ。同じ名前のお前がいるから」

「慎み深っ! 猫なのに!」

「お前、やまと舐めてんじゃねぇぞ。賢いんだぜ、やまとは」

「なんか馬鹿にされてる感じがします」

「お前のことじゃねぇよ! ややこしいな!」

「天龍が名付けたんでしょうが!」

 

 ひとしきり怒鳴り合ってお互い息があがる。

 

「名前変えません?」

「だってよ、どうする、やまと?」

「…………」

 

 黒猫は横たわって体を伸ばしている。天龍の呼びかけに対する反応らしきものはない。

 

「あれ、名前呼ぶと反応してくれるんだけどな」

「慎み深いから私がいる前では鳴かないって話では?」

「バッカ、お前、そんなん冗談に決まってんだろ、バッカ」

「あんまり私を舐めない方がいい」

「はっはっは、締まる、締まる」

 

 笑顔で天龍の胸倉を掴んで持ち上げる大和に、天龍は笑顔を繕いながらも必死で腕を叩いて降参の意を示し続けた。

 

「やまと~、おい、やまと~」

「…………」

「これは、あれだな。名前を認識してないってやつか」

「本当に懐かれているのかという根本から怪しくなってきましたね」

「……飯」

「ビャア~」

 

 即座に起き上がって天龍の足元にのそのそと歩み寄ってくる。

 

「こいつ……」

「とりあえずキャットフードあげたらどうです?」

「くそぉ」

 

 買ってしまったキャットフードを無駄にするわけにはいかないので複雑そうな表情で天龍はキャットフードを与えた。

 結局、野良猫なんてそんなものである、と大和は思った。

 

「そんなに好きならもうお前の名前は『飯』だ、この野郎!」

「ビャア~」

「返事してんじゃねぇ! お前にはプライドってやつがねぇのか!」

「猫にマジギレしないでください」

 

 飼い主気分で接していたが、結局猫の中では給仕係的な存在にしか留められていなかったことが割とショックだったらしい天龍は悔し気である。

 一方で腹を満たしたらしい黒猫は欠伸などしてまた寝そべっている。

 

「くぅ、誰がお前をそこまで丸くしてやったと思ってやがる! 豚みてぇにぶくぶく太りやがって! あれだ! お前の名前なんざ豚飯だ!」

「飯より少しグレードアップしてません?」

「ビャア~」

「てめぇ、さっき食ったろうが! 食い意地張ってんじゃねぇ、大和か!」

「え、なんですって?」

「ぬぐおおおおお、悪かった! 悪かったって!」

 

 胸倉を掴まれ宙に浮かされるのは本日三度目である。

 

「――落ち着きましたか?」

「ああ、悪い、取り乱したぜ」

「結構な時間を無駄に過ごした気がします」

「今回、猫見てるだけだもんな。ここまで動きのない回も珍しいぜ」

「回とか言わない。それに大丈夫ですよ、今回は後半がありますから」

「お前も後半とか言ってんじゃねぇよ!」

 

 黒猫は依然、大和と天龍の目の前でねそべっている。

 たまに寝返りを打ちつつ、こちらをチラ見したり、何もない所を凝視したりしている。

 一体何を考えているのか到底理解することは叶わない。

 そもそもさっきから野良猫にあるまじき無警戒さである。

 

「まぁ、あれだな。こういう無駄な時間過ごしてられるってのは、平和な証拠だな!」

「良い感じにシメましたね」

「取りあえず、こいつの名前は『豚飯』決定だ、この野郎」

「ビャア~」

「……っくそ! 可愛いな、くそ!」

「あはは」

 

 このあと、数時間猫と戯れつつ、天龍と大和はとりとめのない話で盛り上がるのであった。

 

 

「磯風ちゃん、ありがとね。折角の休日なのに私につき合わせちゃって」

「問題ない、私達は毎日が夏休みだ」

 

 鎮守府の食堂に座っているのは美海と磯風。

 そして、もう一人――――

 

「まぁ、たまにはこういう休日の過ごし方も悪くはないでち」

 

 佐世保鎮守府の伊58が二人の対面に座っている。

 三人の片耳には共通して、真珠のイヤリングが見えていた。

 

「ゴーヤちゃんもありがとう!」

「お、お礼とか別にいいでちから」

 

 顔を真っ赤にしてそっぽを向く伊58を見て美海と磯風は顔を見合わせて笑った。

 

「で、今日は相談があるということだが」

「うん」

「なんでちか?」

 

 少しうつむきがちに、しかし覚悟を決めたのか磯風と伊58の正面に座る美海は二人の顔を見つめ、口を開いた。

 

「私、自分の将来が不安で」

「早いな」

「あまりに早すぎる悩みでちな」

 

 小学生にして将来への不安を抱える少女、美海。

 もうすぐ13歳である。

 

「そう急ぐことはないんだぞ、美海はまだまだ子供なんだから」

「子供にはまだ早いでち」

「私子供じゃないもん!」

 

 あからさまに不機嫌に頬をふくらませながら、美海は事の顛末を語り始める。

 きっかけは、発端は、父親であるところのカレー専門店ビッグスプーンの店長と彼女の会話だ。

 

『美海、そういえばあなた将来の夢とかあるの?』

「え、うーん……なんだろう? やっぱりこのお店を継ぐこととか?」

『なんでそう考えたの?』

「え、いや、なんとなくかなぁ? 私このお店のお仕事慣れてるし、お父さんとずっと一緒にいられるし! お父さんだってその方が寂しくなくていいでしょ?」

 

 美海としては、それは思いつきにしてはかなり上出来に思えたらしい。

 また、いつも自分の味方をしてくれる優しい父親が、父親のことを思って選んだ将来を応援してくれないはずがない。例えそうでなくても、頭ごなしに否定されることだけはない。

 そう踏んでいたのだ。しかし、現実は違った。

 

『それは、本当にあなたがやりたいことなの?』

「え?」

『美海。このお店だけが世界じゃないのよ? 私だってよく本島の方に出かけてるでしょ? 何も、この島に縛られる必要なんてないのよ』

「え、なんで、そんなこと言うの? 私、お父さんのために――――」

『まぁ、今すぐ決める必要なんてないし、もう少しよく考えてみてもいいんじゃないかしら?』

 

 父親からのその言葉に、訳も分からず考え込みながらふらふらと歩き続け、いつの間にか、七丈島鎮守府へ辿り着いていたと言う。

 

「で、もうなんかわかんなくなっちゃった」

「それで、私達に相談か」

「美海らしい生真面目さでちな」

 

 美海は小さく頷く。

 

「で、私将来何になりたいのかな!?」

「うん、私達に聞かれてもな」

「中々にパニくってるでちな」

 

 そういうわけで、美海の将来の話をすることになった。

 

「そもそも自分が何をやりたいかなんて、簡単に決められるものじゃないでちよ」

「店長の言うように別に今決めることないんじゃないか?」

「でも、磯風ちゃんとゴーヤちゃんは私と同じくらいの年にはもう艦娘になるって決めてたんだよね?」

「私や磯風はそれ以外道がなかっただけでち」

「そうだな、選択の余地もなかったから、悩むこともなかった」

 

 そこまで言って、自分達がいかに進路相談に不適格か、磯風と伊58は実感したのだった。

 将来への悩みは同じく将来への不安を抱いた経験のある者にしかわからない。

 それがなかった彼女達には、美海にどうしてやればいいのか見当もつかないのである。

 

「まぁ、とりあえず想像しやすい近い将来から考えてみよう」

「中学進学はするでちか?」

「するよ!? まだ義務教育だよ!?」

「ああ、そうだった」

「そういうのもあったでちね。学校って行ったことなかったから失念してたでち」

「二人の過去の闇が思った以上に深い!」

 

 磯風も伊58もよく考えたら学歴はない。

 磯風は孤児院で最低限の学だけを積み、伊58は鎮守府内で年長者から教わる形で必要な知識を得た。

 一般人の美海とはあまりにかけ離れた人生である。

 

「じゃあ、分岐点の一つ目は高校進学だな」

「高校は、まぁ、行きたいなって思うけど」

「どこの高校でちか? この島にはないでちよね?」

「あ」

「すると、本島の方に行く必要があるな」

「やっぱりやめる」

「なぜ!?」

 

 急に首を横に振る美海。

 

「だって、二人に会えなくなるのは……」

「全く、美海は寂しがり屋さんだなぁ」

「でちなぁ」

「そうだ、私も艦娘になる!」

「ぶふぉっ!?」

「でちっ!?」

 

 唐突な爆弾発言に、磯風と伊58が同時に噴出した。

 

「な、なんで、そうなったんでち?」

「私、磯風ちゃんや、ゴーヤちゃんと一緒にいたいから」

「…………」

「決めた! わかったよ、私のやりたいこと! 私、艦娘になる! それで、磯風ちゃんやゴーヤちゃんと一緒に戦う! それが私のやりたいこと!」

 

 磯風と伊58は顔を見合わせる。

 まずは、伊58の方から美海に語り掛けた。

 

「やめたほうがいいでちな」

「なんで!?」

「ぶっちゃけブラックでちよ」

「ぶらっく? 黒?」

 

 言葉の意味を図りかねて単語を反芻しながら首をかしげる美海に慌てて伊58は追加で説明を加える。

 

「めっちゃしんどいってことでち」

「私、普段からお店の手伝いとかしてるし、その中で学校の勉強もしてるけど耐えられるよ?」

「はっ! 甘い甘い、そんな程度、私の仕事に比べればまるで苦労にも入らないでち」

「なんでそんなに得意げなんだ」

「私の一日の仕事を教えてやるでち」

 

 そう言って、大きく深呼吸をすると。

 

「オリョクル、オリョクル、オリョクル、オリョクル、遠征、オリョクル、遠征、オリョクル、オリョクル、オリョクル、オリョクル、遠征、演習、オリョクル、オリョクル、演習、遠征、オリョクル、オリョクル、演習、オリョクル、オリョクル、オリョクル、演習――」

「やめろォ! それ以上は精神が壊れるぞぉっ!」

「ひええ」

「24時間働けますか!? イエス、海老名ちゃんの言う通り!」

「帰ってこい、ゴーヤ!?」

「ひええええ」

 

 伊58の目は私達を映してはいなかった、はるか遠くの地獄にトリップしていたのだ。

 あと数秒、磯風の顔面グーパンが遅ければ、きっと伊58は助からなかったに違いない。

 

「――――まぁ、というのは半分冗談でちけど」

「半分しか冗談じゃないのか……」

「ゴーヤちゃん、かわいそう」

「これでも割と前の鎮守府よりかは快適でち! 割と高頻度で休日くれるし!」

「まるで普段からお休みがないみたいな言い方、ひええ」

「あ、美海、そうなんだぞ。私達艦娘には基本休日というものが存在しない」

 

 国を、世界を守るために戦う艦娘に決まった休日など存在はしない。

 戦いに休息はあっても、休暇はない。

 

「福利厚生という面でいえば結構酷いでちよ? いくら艦娘が普通の人間より頑丈だからって酷使しすぎなところが否めない気がするでち」

「でも、ここはほとんど休日だよね?」

「ああ、七丈島鎮守府だけは特別だ。毎日がホリデイだ」

「私、艦娘になったらここに入隊する!」

「あー、残念ながらそれはできないんだ」

「どうして!?」

「ここに着任するには条件があってな。美海ではその条件を絶対に達成できない」

 

 ここには、監察艦の矢矧を除き、罪艦しかいない。

 罪深い咎人、そのほんの一部だけがここに来ることを許される。

 美海は罪など犯さないのだから、ここに来ることなどありえない。そういう意味で、磯風は絶対という単語を使った。

 

「で、でも、それでも私、頑張るよ! どんなに大変でも、磯風ちゃんやゴーヤちゃんと一緒にいられるなら、いくらだって頑張れるもん!」

 

 今度は、磯風の番だ。そう言いたげに伊58は目配せをした。

 それに無言で答え、磯風は美海に向き直って言う。

 

「そういうことなら、私も艦娘になるのには、賛成できない」

「なんで!?」

「危険極まりないからだ」

「そ、そんなのわかってるよ!」

「いや、まるでわかってないよ。でなければ、私やゴーヤと一緒にいたいから艦娘になるだなんて矛盾した結論に辿り着くはずがない」

「矛盾って……二人と同じ艦娘になれば、ずっと三人で一緒にいられるじゃない!」

 

 言葉の意味を理解していない美海に、磯風は心から安堵した。美海のような子供に、戦場の過酷さが理解できてしまうような国は終わっている。

 だからこそ、美海の頓珍漢な発言は、磯風達をいくらか救っていた。

 自分達は、大切なものは失っていないのだということを自覚する。

 同時に、だからこそ美海にその残酷さを突き付けることが大変躊躇われた。

 

「艦娘なんてのは、この七丈島鎮守府が異常なだけで、誰もが明日の命だってわからないんだ。艦娘は戦うのが使命だ。命の駆け引きをしているのに、ずっと一緒にいられるなんて保障はないんだよ」

「で、でも! きっと私達三人なら助け合って――――」

「かつて、私には三人の親友がいた。美海やゴーヤと同じくらい大切な親友が。私も艦娘になったばかりの時は美海と同じことを思っていた。きっと四人なら、助け合って生き抜いていけるって。だが、今生きているのは、私一人だけだ」

「――――っ!」

 

 美海の表情が露骨にこわばる。

 磯風は決して表情を変えない。悲壮の色を浮かべることもなく、淡々と語る。谷風、浜風、浦風との日々を思い出しながら。

 ただ、その親友三人共を、全員自分が手にかけて殺したことまでは言わなかった。

 

「私達と同じになったからって、私達が一緒にいられるわけじゃない。だから、美海の理論は矛盾してるよ」

「うう……」

「まぁ、でも、こうして自分の将来について色々悩めるっていうのは結構幸せなことでちよ、美海」

「そうかなぁ」

「ああ、着実に平和に近づいているんだなという実感が得られる」

「……ごめんね。磯風ちゃんやゴーヤちゃんばかり辛い思いをして、私ばっかりが得してる」

 

 美海は心根があまりに優しく、そして賢い子だ。

 平和というのが、艦娘の戦いと犠牲の果てに得られているものであることを、そして、それを享受するのが艦娘ではなく、戦いとは無縁の一般人ばかりである不合理を理解している。

 それに、罪悪感を抱かずにはいられない。

 しかし、そんな美海を見て、磯風も伊58も嬉しそうに笑うのだ。

 

「美海みたいな子が平和に生きている。それだけで私達は報われているでち」

「それに、勘違いするな。私達は決して平和の犠牲になっているんじゃない。私達が、平和を作っているんだ。私達のために、私達の意思でな」

「二人とも……」

「負い目なんて感じる必要はない。恩義を感じてくれているのなら、それは平和を生きる姿で返してくれ」

「うん、決めたよ」

 

 美海は立ち上がり、磯風と伊58を見つめて言った。

 その顔に、さっきまで刻まれていた眉間の皺はもうない。

 

「私、提督になる!」

「ぶふぉっ!?」

「でちっ!?」

「私、やっぱり二人と一緒にいたいし、何より、二人みたいになりたい! 私も、平和を作りたい!」

「う、うーん……私の期待していた展開とは少し違うんだが……」

「まぁ、提督なら、艦娘程危険ではないでち、か?」

 

 美海のやる気に圧倒され、とても反論できそうな雰囲気ではなかった。

 

「今までも、きっとこれからも、私は二人にたくさん守られて生きていくんだろうけど、私が提督になったら、今度は私が二人を守るから!」

「美海……」

「やばい、泣きそうでち」

「そうと決まれば、勉強だね! 提督になるのって凄い頭良くないとダメなんでしょ? 頑張らないと!」

「ウチの提督を見てるとそうでもない気もするがな」

「私も同意見でち。美海なら絶対なれると思うでち」

「うん、頑張るよ!」

 

 かくして、美海の小さな悩みを通し、三人の絆はますます深まっていくのであった。

 そして、そんな食堂で賑わう三人を、扉の隙間から伺う影があった。

 

「…………ああ、尊い」

「何やってんの、エドぉ?」

「これ事案って奴よね、エド?」

 

 




ここ数話の更新ペース、遅すぎ……
今回は一話分に満たなかった短いお話二本立てでした。

次回はスピンオフです(予定)
今年が終わるまでには投稿します(予定)




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