七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
遠征艦隊、出港






第百十八話「はい、すみません! 私が弱味噌です!」

 

「どういうことだ、さっきのは。ああん?」

「いえ、その、はい、大変申し訳なく……」

 

 大和達遠征艦隊は当初の予定通り佐世保港から出発し、現在香港の地へと立っていた。

 一同が陸に上がって一息ついた矢先、ずっと黙り込んでいた木曾が突然、怒声をあげながら大和を睨みつけてきたのであった。

 しかしながら、大和を含め、他の者達もこの木曾の怒りの原因に心当たりがあるために何も言わない。

 気まずそうな顔やら、苦笑やら、溜息やらで各々茶を濁すばかりであった。

 

「俺が言いたいことはわかってるよなぁ? 自覚あるよなぁ? 戦艦大和?」

「ええ、その、はい、勿論です、木曾さん……」

「香港向かう途中で遭遇した深海棲艦、駆逐五隻に軽巡一隻の哨戒艦隊。ちょっと鍛えりゃ駆逐艦だけでも十分に突破可能な雑魚だ」

「はい……」

「ましてやこっちには空母に戦艦までいる。敵の射程外から殲滅可能だよなぁ?」

「はい……」

 

 大人と子供を思わせる身長差のある大和と木曾が並び立ち、小さい木曾が大きな大和に頭を下げさせている構図はなんとも珍妙に見える。

 

「まず大鳳と瑞鳳が四隻仕留めた。次に山城が一隻。じゃあラストはお前が仕留められた筈だよなぁ?」

「はい……」

「じゃあなんで撃たねぇんだよ!」

「すみません……」

「阿武隈が辛うじて先制雷撃で仕留めたから良かったが」

「あれ、木曾さん、今若干私のことディスりました? あれ!?」

「下手したら向こうから反撃を受けてたかもしれねぇ。お前の怠慢が仲間を危険に曝すってのがわかんねぇのか? ああ!?」

「ちょ、ちょっと待って! 大和にはちょっと事情があるのよ!」

「事情だぁ?」

 

 一方的に怒鳴られ続ける大和を見かねて瑞鳳が二人の間に割って入った。

 

「大和は――――」

「待て、テメーのことはテメーの口から話すのが筋だろうが、大和」

「はい……すみません、実は、私は……砲を撃つことができないんです」

「……は?」

 

 木曾だけではなく、他の山城、阿武隈、吹雪、川内、大鳳からも驚愕の声が漏れた。

 不意に、木曾が大和の真正面まで跳躍し、その拳は大和の顔面に向けて振り抜かんと握り固められていた。

 

「――――っ!」

「木曾さん、それはダメです」

 

 殴られる、そう思い大和は目を瞑ったものの。結局顔面に拳が飛んでくる気配はやってこない。

 恐る恐る細目を開くと、そこには木曾を羽交い絞めする大鳳の姿が見えた。

 

「テメー! 大鳳! 離せ、コラ!」

「だーめですって! ちょ、ほら、暴れないでって――――いたぁっ!」

「あ、あの、私」

「なんで言わなかったっ!」

「ひっ!」

 

 一際大きな怒声が周囲に響き渡る。

 港周辺を歩く人々が何の騒ぎかと集まってくるのも無視して、木曾は大和だけを睨んでいる。

 

「言うタイミングはいくらでもあったはずだ! 何でそんな大事なこと言わなかった!?」

「その、皆さんを落胆させてしまうのが、申し訳なくて……」

「落胆なら初対面の時に十二分にしてるわ、ボケが! いいか!? 糞雑魚とはいえ大和型の火力があるのとないのじゃ戦力計算だとか作戦にそこそこ差がでてくんだよ! 下手すりゃ勝てると思い込んで突っ込んだ結果、テメーのおかげで全滅するまであるじゃねぇか!」

「はい、仰る通りです……」

「瑞鳳、テメーも知ってて黙ってたな?」

「……何か問題があれば私がサポートしようと考えてたのよ、ごめんなさい。一言相談すべきだったわ」

「テメーら……人をおちょくるのも大概にしとけよ?」

 

 木曾の声は怒りの余り震えていた。

 それに対し、大和も瑞鳳も何も言わない。黙って俯くばかりだった。

 

「木曾さん、もうそれくらいにしましょう。人目があります」

「…………チッ! おい、弱味噌ぉ!」

「え、あの、私ですか?」

「テメェ以外に誰かいんのか? 言ってみろ、ゴラァ!」

「はい、すみません! 私が弱味噌です!」

「いいか、テメーは弱い。一人じゃなんもできねぇんだろうが。申し訳ないだとかいっぱしに変な気遣ってんじゃねぇ! 逆に迷惑だ! 弱味噌は弱味噌らしくしてろ!」

「……はい、すみません」

「おし、じゃあ行くぞ。無駄に時間を食った」

 

 その言葉を最後に、木曾は周囲を取り囲む人だかりを一睨みで散開させると先へ歩いていく。

 それに他の面々もついていき、最後に大和と瑞鳳が若干沈んだ表情のまま後を追った。

 

「で、木曾さん。これからどこ行くのさ?」

「昔馴染みの知り合いを尋ねてドイツまでの陸路を確保する」

「木曾さんにはそんなお知り合いがいらっしゃるんですね」

「まぁ、昔色々な。安心しろ、俺が全部話をつけてくる。大鳳と山城は俺と一緒に、残りは待機だ。飯でも食ってろ、ほれ」

 

 そう言って木曾は懐から革の巾着袋を取り出し、阿武隈に放り投げる。

 

「うぇ!? 結構重い!」

「それなりのモン食えるだけの額は入ってるが、無駄遣いすんなよ?」

「よっしゃー! 木曾さん太っ腹!」

「吹雪、通信機持ってるな? 終わったらこっちから連絡するから電源入れとけ。なんかあったらすぐに連絡しろ、いいな?」

「了解しました」

「おし、じゃあここで一旦解散だ。大鳳、山城、ついてこい」

「はい」

「ええ、私もご飯行きたいんですけれどぉ……不幸だわぁ」

 

 そう言って、木曾達は別の方向へ歩いていき、人混みの中に消えていった。

 そこで緊張感から解き放たれ、大和は大きく息を吐いた。

 しかし、依然としてその表情は暗い。瑞鳳はその横顔を見て何か話しかけねばと話題を探した。

 

「……あー、軽いわね、なんだか!」

「え?」

「ほら、手! スタンリング一時的に外してもらったでしょ? まぁ、正直そんなに重さは感じてなかったけれど、なくなったらなくなったで違和感あるわね!」

「あはは、確かにそうですね」

 

 久々に何も付いていない右手首を見て笑う大和の表情はやはりどこかどんよりと暗かった。

 そこに、川内と吹雪も歩み寄ってきた。

 

「もー、大和いつまで暗い顔してんの! ほら、切り替えよ!」

「う、うん! 気にしなくても大丈夫だよ! 私だって大して戦力になってるわけじゃないし! あれ、自分で言っててなんか悲しくなってきた」

「失敗は誰にでもあるものです。重要なのはその失敗から学ぶことですよ」

「お二人とも、ありがとうございます」

「さーて、折角香港来たんだし、ぱーっと豪遊しよ! お金はたんまりあるしね!」

「あー! 私が預かった財布! かーえーしーてーくーだーさーいーっ!」

 

 川内が悪戯っぽく笑いながら阿武隈から巾着袋をひったくって走り出す。

 それを慌てて追う阿武隈、吹雪、瑞鳳。

 少し遅れた大和と他の四人との距離が僅かに開く。

 その瞬間だった。

 

「うわ!?」

 

 突然大和は路地から伸びてきた手に引っ張り込まれた。

 四人に助けを求める暇もなく、その背中は人混みに覆われ、見えなくなった。

 

 

「私は正直反対なんですけど」

「大和か?」

「いやだって撃てないって、もうそれ岩礁とかと変わらないですよね?」

 

 山城が不満げに木曾に抗議の声をあげる。

 

「何でまだ連れてくんです? 港で置いてけば良かったんじゃないですか? これ以上ついていってもあの子が不幸になるだけですよ。ついでに私達も巻き添え食って」

「俺は大和を連れていくと一度決めた。ここで放り投げるのは筋が通らねぇ」

「あの子、このままドイツ連れて行ったら死にますよ」

「それはねぇよ、俺は強いからな。任務を遂行し、かつ全員生きて帰す。俺ならそれができる」

「自信過剰なんですね、私と正反対で羨ましいです」

 

 険悪になっていくムードに困り顔で大鳳が言葉を挟む。

 

「まぁまぁ、山城さん。木曾さんにも考えがあるみたいですから。ここは旗艦の顔を立ててあげてください」

「……まぁ、木曾さんが責任持つなら私も何も言いませんけれど。私はアテにしないでくださいね。木曾さんと違ってそこまで強くないし、なにより不幸なので!」

「わかったわかった、ほら、目的地についたぜ。こっからは気引き締めろよ。何せ、マフィアの本拠地なんだからな」

 

 目の前の天まで届くのではないかと思われる高さのビルディングを見上げながら、木曾はニヤリと笑ってそう言った。

 対照的に、反抗的だった山城の表情が一気に青ざめる。

 

「え、マフィア!? 香港マフィア!? なんでそんなとこ行くの!? 昔の知り合いってそんなヤバい奴らなわけ!?」

「まぁ、昔はそもそもマフィアじゃなかったんだが、今はここの幹部やってるらしい」

「なんでそんな超危険なとこに私連れてくんですか!?」

「お前、姥鮫提督のとこだろ? あの中じゃ一番こういうとこに場馴れしてそうだからな」

「その評価のされ方は不幸!」

「まぁまぁ、そう仰らず。ここまで来てしまったんですし、お互い腹を括りましょう」

 

 山城の抗議の声を聞き流しながら、木曾達はビルの中へと入っていくのであった。

 

 

 私は何故ドイツに行きたいのだろう。

 プリンツを助けに行きたい。その気持ちは本当だ。

 しかし、それは果たして皆に迷惑をかけてまで、危険に曝してまで通しいていい我儘だったのだろうか。

 出港前に覚悟はしていた筈なのに、再びそんな憂欝が私を襲っていた。

 木曾の言葉だけではない。他の面々の私を見る気まずそうな表情を見て余計にそんな後悔がぶり返していた。

 そんな考え事をしているから、一足先に駆けていく川内達に遅れた。

 そして、狭い路地裏から私の眼前に四本の細い腕が伸びてあっという間に私の身体を引っ張り込んだのであった。

 

「む、むごー!?」

 

 すぐに口に布を挟まれて手足は縄か何かで拘束されている。かなり熟達した手際だ。

 訳も分からずもごもごと呻くことしかできない私の目の前にそのならず者が姿を現した。

 

「へっへっへ! 観光客ゲット!」

「やったね、お姉ちゃん!」

 

驚くべきことに賊の正体は少女であった。しかもどうやら姉妹らしい。

妹の方は磯風や美海と同じくらい、姉の方は成人前くらいだろうか。

二人とも英語で話しているので辛うじて私にも言葉は聞き取れた。

 

「やい、お前観光客だろ! 金を出せ!」

「むぐー!」

 

 金はないと返そうとしたのだが、布が邪魔で言葉が出ない。

 それに気付いたらしい姉妹が困ったように顔を見合わせた。

 

「どうしよう、お姉ちゃん。これじゃ何言ってるかわかんないよ」

「でも大声だされても困るしなー。参った、師匠にこういう場合の対処法も教えてもらえば良かった」

「あ、じゃあ筆談にしようよ!」

「手の縄解いたら暴れられちゃうだろ」

「うーん」

「しょうがない! 家まで持って帰ろう!」

 

 まずい。持って帰られようとしている。

 初めて来た香港でどこぞと知れない場所に連れて行かれては下手したら一文無しで迷子である。

 

「もごー! もごー!」

「こら、暴れんな! 抱えにくいだろうが!」

「この人重いねー、お姉ちゃん」

「むごおおおお!?」

「ぬお!? 暴れんなって、この!」

 

 乙女の心をいたく傷つけられながら、私には対処する術もなくゆっくりと路地裏のさらなる闇へと引っ張り込まれていってしまうのであった。

 

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇか。ええと、今は木曾って呼べばいいか? 変わりねぇようで何よりだよ」

「おう、お前は随分変わったな。偉そうに葉巻吸いながらソファにふんぞり返りやがって。骨と皮だけのガリガリ野郎が随分とまるまる肥えたじゃねぇか、一瞬わかんなかったぜ」

「はっはっは! 出世したんだよ、出世! もうスラムの端っこでしけた煙草吸いながらしけた玩具売るのは飽きた」

 

 ビルの上層階。

 広々としたスイートルームを思わせるオフィスの一室で、葉巻の煙をくゆらせながらニヒルに笑う恰幅の良い男性は、向かいのソファを葉巻で差して木曾達に座るよう促す。

 それに対し、木曾も真ん中にどっしりと腰掛け、他二人もその両端に続いて腰を下ろした。

 

「なんか飲むか? ウイスキー、スコッチ、ワイン、シャンパン、ウォッカ、日本酒までなんでも置いてあるぜ。酒、嫌いじゃなかったよな?」

「酒は好きだ。だが、仕事の時は飲まねぇって決めてる。こいつらもだ」

「え」

 

 山城が小さく抗議の声をあげるものの、木曾の横睨みで一瞬にして黙らされた。

 男はつまらないとでもいいたげに首を振ると、上げかけた腰を下ろし、まだ吸いかけの葉巻を灰皿に押し付けた。

 

「で、十数年ぶりに急に押しかけてきやがって何の用だ?」

「陸路を用意して欲しい。八人分だ」

「どこまで?」

「ここからドイツまで。ハンブルクまで行けりゃ大分助かる」

「大陸鉄道か。まぁ、他ならぬお前の頼みだしなぁ、融通できんことはない」

 

 男はそこまで言って新しい葉巻を取り出すとシガーカッターでその先端を切り落とす。

 

「で、いくら出せる?」

「今回俺の財布は日本海軍持ちでね。希望に見合った額は出せると思うぜ」

「へぇ! 軍のワンちゃんは金持ちだねぇ!」

 

 ぐもった声で嘲笑する男に思わず山城の顔が怪訝に歪む。

 

「いつまでに用意できる?」

「まぁ、早けりゃ明日か、明後日には確実にってとこか」

「オーケーだ。小切手に希望の額を書いとけ。また明日来る」

「おいおい、待て待て待て、話を急ぐな、まだ終わっちゃいねぇだろうが」

 

 早々に話を切り上げ立ち上がる木曾を制止する男。

 男は葉巻に火を付けて深く吸い込み。紫煙を吐き出して再度席につくよう手で示した。

 気怠そうに仕方なくもう一度ソファに座る木曾に満足げに男は頷いた。

 

「まだなんかあんのか? 俺は腹減ってんだよ」

「飯くらい奢ってやるよ。三ツ星の中華料理店でいいか?」

「三ツ星……!」

 

 山城が思わず目を輝かせるのを肘で小突きながら木曾は手を前に出して首を振った。

 

「結構だ。マフィアと必要以上に仲良くしてもろくなことがねぇ」

「マフィアとしてじゃねぇよ。俺個人として、旧友のお前とその仲間をもてなしてやろうってだけさ」

「そんな深い仲でもねぇだろ。昔からお前が武器、情報、足を用意して、俺が必要な時にそれを買う、それだけだろ」

「冷たいねぇ。それがこれからお前らのために大陸鉄道の切符用意してやる俺への態度かよ?」

 

 うんざりした様子で木曾が溜息を吐いた。

 

「何をご所望だ。はっきり言え」

「金は勿論もらう。ただ、加えて一日、お前らが俺の苦労を労わって欲しいわけだよ、誠意ってやつさ」

 

 男の表情が下卑た笑みを呈する。

 その視線が木曾達の胸や太腿に容赦なく向けられている。

 流石にここまで微笑を保っていた大鳳も嫌悪感を露わにした。

 

「香港なら俺ら以上の女なんていくらでもいるだろ」

「もう飽きたんだ。偶には違う刺激が欲しいんだよ」

「悪いが俺らは娼婦じゃなくて艦娘だ。他を当たれ」

「じゃあ、この話はなしだ」

「はぁ?」

「まぁ、安心しろよ。そもそもお前は女として見ちゃいねぇ」

「……殺すか」

「落ち着いて木曾さん、落ち着いて」

 

 腰の軍刀を抜きかけた木曾を大鳳が止める。

 

「そこの女は、顔立ちは悪くねぇが、胸がなぁ」

「撃ち殺していいですか?」

「落ち着け大鳳、落ち着け」

 

 今にもボウガンに手を伸ばしかねない大鳳を木曾が止める。

 

「やっぱお前だな。顔もいいし、胸も尻も俺好みだ」

「うぇ……不幸……」

 

 容赦なくいやらしい視線を向けられ、山城はあまりの嫌悪感にえづきそうになるのを口元に手をさて必死にこらえていた。

 

「別に悪いようにはしないぜ? タダで最高級のもん食わせてやるし、酒もいくらでも飲めばいい。ホテルもスイートルームだ。ただし、俺も一緒の部屋だがな」

「最後で全部台無しなんですけど! 嫌! 死んでも嫌!」

「気性もいいねぇ。従順な奴よりそっちの方が仕込み甲斐がある」

「嫌ぁああああああ!」

 

 山城の悲鳴に木曾も手で顔を覆った。

 

「おい、テメェ、流石にいい加減にしねぇと――――」

「――失礼します!」

 

 木曾の言葉を遮るように黒服の男が慌ただしく部屋へ飛び込んできた。

 突然の乱入者に、男は般若の表情で罵声を飛ばした。

 

「大事な商談中だって言っただろうが! 殺されてぇのか!」

「す、すみません、非常事態で……」

「なんだ? 何があった?」

 

 黒服に何事か耳打ちされると、男も片手で顔を覆ってその後木曾の方を見た。

 

「おい、お前、切符は八人分って言ったよな? ってことはここにいる以外にも仲間連れてきてるんだよな?」

「ああ、そうだ」

「大和ってのはお前の仲間の一人か?」

「ああ?」

 

 木曾がその名前を聞いて固まる。

 

「そいつが俺の部下殴り倒してくれたらしい。今こっち向かってるってよ」

「何やってんだあいつ!?」

 

 

 遡ること一時間程前。

 

「はぁ、やっとついたぁ!」

「重かったぁ」

「むごー! むごー!」

 

 絶賛拉致されている私、大和は見知らぬ地で一人はぐれてしまっている。

 この姉妹達にかつがれ、半ば引きずられながら十分程裏路地を行き、少し開けた場所に出たかと思うと、まるでゴミのように捨て置かれたのであった。

 

「師匠ー! 帰りましたー!」

「師匠ー! お姉ちゃんとカモ捕まえてきたー!」

 

 見れば、今にも崩れそうなボロボロのトタン小屋があり、姉妹はそこに走っていくのであった。

 

「――そんなことするためにお前達に捕手術を教授したのではないのでありますが」

 

 姉妹とは違う、おそらくは彼女達が師匠と呼ぶ何者かの声が聞こえてきた。

 気のせいだろうか、聞き覚えのある声の気がした。

 

「全く、とにかく早々にその人を離してあげなさ――――」

 

 トタン小屋から出てきた師匠と目が合った。

 お互いに、表情が固まった。

 

「む、ご……!?」

「……こんな所で会うとは、縁とはわからないものでありますな」

 

 今まで英語で喋っていた口調が日本語に変わる。

 そして、その人物はおもむろに私に近づくと、まるで魔法のようにその手刀で手足の縄と口布を切って私の身体を解放する。

 私はその瞬間、素早く、距離を取る。

 

「なんで、あなたがここにいるんですか?」

「なんで? こっちが聞きたいでありますな。貴様こそ何故こんな場所にいる?」

「あきつ丸、さん……!」

 

 そこに立っていたのは、蜻蛉隊隊長、あきつ丸に間違いなかった。

 

 

 


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