七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
宇宙戦艦にされかけた。


第十三話「パジャマパーティーしようぜ!」

 

 瑞鳳と七丈小島に行って来てから数日が経った夜。

 突然それはやって来た。

 

「おう、大和! 突然だけど邪魔するぜ?」

「へー、ここが大和の部屋かぁ。まぁまぁ綺麗じゃない」

「うん、当たり前のように鍵開けて入ってこないでくださいね?」

 

 スペアキーを片手に天龍と瑞鳳が私の部屋に乗り込んできた。

 

「こんな夜中になんの用ですか?」

 

 時刻は現在0時を回ったところである。そろそろ私も就寝しようと寝間着に着替えていたのだが、そこに同様に寝間着姿の二人が入って来たのだ。

 

「パジャマパーティーしようぜ!」

「突然ですね」

「いいじゃない、ほらお酒とおつまみもくすねてきたからぱーっとやるわよ!」

「うわ、瑞鳳は既に出来上がっちゃってるじゃないですか」

「おう、言い出しっぺがこいつでな、私を誘いに来た時点で既に酔ってた」

 

 初対面の時から言いたかった事だが、私の知っている瑞鳳はこんなのじゃない。

 

「ま、お前もしばらく酒なんてやってなかったろ? 親睦会だと思って、今夜は色々語り明かそうぜ?」

「まぁ、いいですけど」

 

 確かにしばらくお酒なんて一滴も飲んでいない。

 それに、折角こうして来てくれたのを無下に返すのも忍びない。何より、パジャマパーティー、良い響きではないか。

 一回やってみたかった、そういうの。

 

「よし、三人か。もう一人くらいいるといいんだけどな」

「矢矧とか磯風は駄目なんですか?」

「馬鹿、磯風は酒飲めねぇし、そもそもあいつは二十一時にはもう寝てんだよ」

「矢矧は?」

「あいつは飲めるが、この酒見せた途端に俺達説教だぜ?」

「ああ、成程」

 

 そういえば瑞鳳がくすねてきたとか言っていたのを思い出して私は納得した。

 

「それにあいつも二十二時にはもう寝てるしな。全く健康家が多くて困る」

「じゃあ、仕方ないですね。プリンツを呼びますか」

「あいつの部屋も行ったけど反応なかったぜ?」

「大丈夫です、きっとすぐに来ますよ」

 

 私は本棚の奥の方に手を突っ込み、本を取るでもなく、本棚の内壁に付いていた小さなスピーカーを取り出した。

 

「あった、盗聴器」

「え」

「プリンツ、聞いての通りなんですけど、こっち来れますか?」

 

 その数秒後、私の部屋の扉が開け放たれ、ネグリジェ姿のプリンツが飛び込んできた。

 

「ずっと部屋の前でスタンばってました!」

「風邪ひきますよ?」

 

 プリンツは依然として私の部屋に盗聴器を仕掛けて来ている。最初の方こそ頑張って撤去していたが、流石に日数が経つと私も慣れ初めて気にならなくなってきていたので、今はそのままにしてあるのだ。

 それに、こういうプリンツへの用事がある時に便利だし。

 

「ほら、ね?」

「いや、 ね? じゃねぇよ」

「なんでストーカーに慣れてんのよ」

 

 天龍と瑞鳳の目が割と本気で私を心配している目だった。

 

 

「――ま、そういう訳で改めて、第……何回か知らんけど七丈島艦隊親睦会だぜ! 乾杯!」

「乾杯!」

「かんぱーい!」

「カンパ~イ」

 

 それぞれ盃や升、おちょこなどそれぞれの器に日本酒を注ぎ、乾杯した。

 

「それにしても、随分と寝間着で個性が出ますね」

「そうか? 皆似たようなもんだろ?」

「あんたの目は節穴みたいね」

 

 天龍はジャージ、瑞鳳は甚平、プリンツはネグリジェ、私はパジャマである。

 作為的な意図を感じる程度にはバラバラであった。

 天龍の目は節穴に違いない。

 

「そんなんだから、あんたは男が寄り付かないのよ」

「あん? 別にいらねぇよ。お前みたいに俺は男と買い物行くような趣味はねぇよ」

「そういえば、瑞鳳とプリンツは男の人達からモテますよねぇ」

 

 瑞鳳もプリンツもどちらも男に言い寄られる場面を見てしまっている私としては、二人は天上人である。

 

「まぁ、私なら当然よ」

「大丈夫ですよ、私はお姉様以外に興味何てありませんから!」

「瑞鳳はともかく、プリンツはもったいないですよね。折角モテてるのに興味がないで断っちゃうだなんて」

「大和、今の発言はスルーなのか!?」

「だって本当に興味ないんですもん」

「あまりに興味なさ過ぎて男の人の顔全然覚えられないんでしたっけ?」

「はい、でも何人かは覚えてますよ!」

「へぇ、お前でも顔を覚えられる男がいたのかよ」

「私だって少しは覚えられるもん!」

「で、誰なんですか?」

「えっとですね、先ず一人は提督!」

 

 流石に提督は毎日顔を合わせているような存在だし覚えているのも当然だろう。

 

「あと、何故かビッグスプーンの店長さんはすぐに覚えられた」

「オカマだからか」

「オカマだからですね」

「オカマだからね」

 

 満場一致であった。

 

「で、それ以外は?」

「…………」

「え、終わり!?」

「二人だけですか」

「私にはお姉様がいればいいもん!」

 

 そう言って、プリンツはおちょこに日本酒を注ぎ、それを一気に飲み干した。

 

「男に興味がないのに男にモテるってのも難儀ねぇ。モテたくてもモテない奴もいるのに」

 

 そう言って瑞鳳は私と天龍の方に意味深な視線を向ける。

 

「おう、瑞鳳、勘違いしてるぜ? 俺達は別にモテたいだなんて思ってねぇよ」

「えっ……」

 

 ごめん、私はモテたい。

 しかし、そんなことを口に出せる筈もなく、私は天龍の言葉の行く末を見守る。

 

「お前みたいに金がありゃいい、身分が良けりゃいいってんじゃないんだよ。私達は心から信じあえる相棒、そんな奴が一人いりゃ満足さ」

 

 ブラボー、おお……ブラボー。

 いい感じではないか。そうだ、誰でもいいという訳ではない。見てくれに大した意味はない、恋愛とはお互いの心が大事なのだ。

 よく言った、天龍。私は満足げに盃の酒を口に含んだ。

 

「つまり! 心さえ通じ合えば性別の壁なんて関係ないってことですね! お姉様と私は合・法!」

 

 私は口に含んだ酒を噴き出した。

 

「……あんた達、さっきから黙って聞いてれば、こっちだって大変なのよ!? 『モテない』あんたらにはわからないでしょうけど!」

「ぐはぁ!」

 

 やめろ、その単語は私に効く。

 瑞鳳の顔がより赤みを増して、甚平がはだけ始めていた。この面倒な感じの絡み方は間違いなく悪酔い特有の症状である。

 このパジャマパーティーが始まる以前から飲んでいた上に升酒をかっくらっている彼女が酔いの回るのが早いことはわかりきっていたが、まさか絡み酒とは。

 

「私だってね! いつ誰にデート誘われてるか確認してスケジュール調整したり! お洒落もしなきゃだから朝早いし! しまいにはダブルブッキングした時はどうしようかと思ったわよ!」

「いや、完全に自業自得じゃないですか」

「どれか一人に絞れよ」

「しょちゅう告白されるんだから仕方ないじゃない! しかも二股でもいい、とか言うし! 既に八股はかけてるっつーの!」

「今更ですけれど、なんでこんな人がモテるんですか? 私納得できません」

「世も末だよな」

「そこ! うるさいわよ!」

 

 空になった升を投げつけてくるが酔っているためか勢いが全くない。あっさり天龍にキャッチされ、投げ返された升は瑞鳳のおでこにクリーンヒットした。

 少しスカッとしたのは秘密だ。

 

「うう……この前なんか……女にまで告白されたし……」

「え!?」

「座ってろ、プリンツ」

 

 仰向けに倒れながら涙声で呟いた一言にプリンツが立ち上がった。落ち着け。

 

「そ、それで! どうしたの!? 受けたの!? 告白!」

「うう、私、頭真っ白になっちゃって……うう……ついオーケーしちゃったよおお、うわああああん」

「泣いた!」

「やったあああああ! ここが! 私の! 理想郷!」

「座れっつってんだろ、変態!」

 

 小躍りを始めるプリンツに泣き始める瑞鳳。徐々に部屋の中がカオスになって来た。

 

「ていうか、瑞鳳何で断らなかったんですか?」

「だってえええ! なんか目が本気だったんだもおおおん! 真剣な顔で告白されると断れないんだもおおおおおん!」

「ええ……」

「こいつ八股とかかけてるのも単に今までの告白全部断れなかっただけじゃね?」

「とんだシャイガールじゃないですか」

 

 可愛い顔して腹黒かと思えば、酒が入ってより可愛い部分が露見してきた。なんだこの可愛い生き物。

 

「うわあああ、来週デートだああああ、どうしよおおおお!」

「なんか、そうとわかると可哀想に見えてきたな」

「なんでしょうね。この悪役にも実は優しい所があった的な、映画版ジャイアン的な親しみを感じます」

「私の信じたやま×プリはここにあったんだ!」

「うるせぇぞ、変態!」

 

 やま×プリってなんだ。カップリングか、大和×プリンツなのか、セルフカップリングなのか。

 

「取り敢えず、なんか収拾つかなくなってきたし、もう寝かせます?」

「じゃあ、私はお姉様と一緒にベッドで寝ます!」

「何で居座る気まんまんなんですか!?」

「え? ここで雑魚寝でよくね?」

「部屋近いんだから帰ってベッドで寝ればいいじゃないですか!」

「おいおい、それじゃパジャマパーティーにならんだろう。誰かの部屋で飲み散らかして、雑魚寝までがパジャマパーティーのルールだぜ?」

 

 そうだったのか、初めてだから知らなかった。

 

「じゃあ、仕方ないですね」

「え?」

「え? 何で天龍が驚くんですか?」

(え? なんかツッコミ待ちだったんだけど……あれ? こいつ、もしかしてこういうパジャマパーティーとか……あっ)

 

 天龍は私の肩に手を乗せて言った。

 なんだろう、なんというか、笑顔が気持ち悪い。何でだろう。

 

「今日は、俺が一緒に寝てやるよ」

「いや、何でですか。別にいいですよ、気持ち悪い」

 

 天龍の生ぬるい気遣いとどこか私を憐れむような視線が本当に気持ち悪かった。というかイラッとした。

 

「つまり、私はお姉様と天龍の間に挟まれて寝れるって訳ですね! 桃源郷はここにあったんだ!」

「変態は黙ってろ!」

「大丈夫! 私天龍のことも放っておきませんよ!」

「うるせぇ、お前は黙って床に寝てろ。大和とは私が寝る」

 

 ちょっと待て。え、何で。

 

「お姉様と寝るのは私! 妹特権!」

「なんだとぉ?」

「いや、どっちもお断りですから!?」

 

 どうしたというのだ。特に天龍。

 さっきから様子がおかしい。普段の天龍なら決してこんなことは言わない筈だ。

 徐々に険悪さを増す両者。それを止めようとする私の手を誰かの手が掴んだ。

 瑞鳳だった。

 

「うう……私も、ねりゅ」

 

 なんか可愛いこと言い始めた。何だこの可愛い生き物。

 

「しっかりしてください、瑞鳳! ちょっとプリンツと天龍が収拾つかないんですってば」

「てめぇ、口で言ってもわからねぇみてぇだな!」

「そっちこそ。私とお姉様の恋路を邪魔するなんていい度胸だよ!」

 

 二人共酒が回ったのか完全に酔っている。このままでは下手をすれば殴り合いにまで発展するかもしれない。

 

「私はね! 妹なの! お姉様の隣をいただく権利人なのよ! お姉様の隣で寝るのが私である、これは決定事項なのよ!」

「お姉様の意向はガン無視ですか!?」

「てめぇ、権利なんて関係ねぇ! 大和が誰と寝たいかだろうが!」

「一人で寝たいです!」

「俺と寝たいに決まってんだろうがぁ!」

「誰が言った、そんなこと!?」

 

 最早当人達にその争いの中心である私の声は届いていなかった。

 

「大和ぉ、来週私女の子とデートだぁああ、どおしよおおおおお!」

「何でまた急にその話!?」

 

 瑞鳳も酷い状態だ。最早この空間のカオスは終わらない。

 救いは、ない。と思ったその時であった。

 

「――スタンリング、発動」

「ぎゃああああああ!?」

「ひゃああああああ!?」

「ぴゃああああああ!?」

 

 突然、雷にでも打たれたかのように三人は奇声を上げると、その場に倒れて気を失った。

 後ろを見ると、いつの間にかドアが開け放たれ、そこに黒髪をはためかせる黒い鬼が立っていた。

 というか、矢矧だった。目に殺意が宿っているのを感じる。

 

「あんた達、夜中にギャーギャー五月蠅い」

「……す、すみませんでした」

「次騒いだらただじゃおかないわよ」

「既にただじゃ済んでないんですけれど」

「あん?」

「すみません! 気を付けます!」

 

 矢矧は扉を閉めて部屋へと戻って行った。

 あんな矢矧は初めて見た。髪を下ろしていて、かつ寝癖でぐちゃぐちゃで、まるでどこぞのテレビから這い出てくる幽霊を思わせる恐怖があれにはあった。

 

「…………寝よう」

 

 気絶して床に転がる三人をそのままに毛布だけかけてやると、私は部屋の電気を消して布団に横になった。

 こうして、いくつかのトラウマを私に与えながら、初めてのパジャマパーティーは幕を下ろしたのであった。

 私は当分リングを観れそうにない。

 

 




貞子が怖すぎて当時テレビを直視できない時期が、私にもありました



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