七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
決闘(デュエル)、スタンバイ!


第二十八話「矢矧は必ず、私『達』が取り返します!」

 

 決闘(デュエル)の日の朝がやってきた。

 

「寝癖よし、洗顔よし、朝食よし、歯磨きよし、体調よし、艤装接続よし、主砲よし、電探よし、タービンよし、目標よし、作戦展開よし、演習情報よし――――」

「あら、早いのですね?」

「……昨日はよく眠れたかしら?」

「ええ、おかげさまで」

 

 ドックで演習前の最終確認をしている私に神通と夕張が姿を現した。

 神通はいつも通り笑顔を浮かべているが、夕張は若干顔が青い。

 

「夕張さんは大丈夫なの?」

「ああ、この子あまり戦闘にはでないので緊張で固まってるみたいで」

「うう……お腹痛い」

「……よくそれで深海棲艦の駆逐任務を引き受けたわね」

「返す言葉もございません……うう」

 

 しかし、これまでの艦隊指揮の中でこういうことがなかった訳じゃない。むしろ、何一つ問題のない艦隊の方が珍しいのだ。

 過去には自分以外が全員戦砲雷撃戦未経験者ということもあった。

 

「まぁ、いいわ。問題ない」

「それは頼もしい限りです」

 

 それに、癪ではあるが、最悪この目の前で笑っている神通が一人でもなんとかするだろう。

 大和が戦えない以上、今回の演習参加艦の中で最強は間違いなく彼女だ。

 

「……来たわね」

「おはようございます、矢矧」

 

 ドックの扉が開き、大和達が入ってくる。私を除く、七丈島艦隊全員の視線が私に突き刺さる。

 

「それでは、そろそろ演習場に行きましょうか」

 

 私を説得しようと話しかけてくるかと思ったが、大和は手短にそう呟いていち早く海上へと抜錨する。

 他の皆も同様にして続く。

 

「あら、冷たいですねぇ。昨日までは同じ艦隊の仲間だったのに」

「……私達も行くわよ」

 

 大和達が何も言わないのならばいい。

 私も何も言うことはない。

 全ての決着は海の上で、砲火を交えてつけよう。

 私は冷たい海水に足をつけた。

 

 

 大和達についていった先には、半径500メートル程の円形を描くように浮きを設置して作られたステージが用意されていた。

 

「ここで演習を行います。よろしいですか?」

「ええ、構わないわ」

 

 昨日の今日で作っただけに作りは単純かつ雑であるが、周辺の住民への被害を考えて事前に戦闘範囲を決めておくのは演習の鉄則だ。

 全員その点は理解しているので誰も口を挟む者はなかった。

 

「ルールは演習弾を使う通常の演習と同様です。轟沈判定が出ればステージの外に出て片方の艦隊全員がステージ外に出た時点で演習決着。双方が燃料、弾薬が尽きるまで決着がつかなかった場合、その時点でどちらの艦隊が優勢かで勝敗を判定します」

「あ、ダメージに関係なくステージの外に出た場合もその時点で轟沈判定よ。私の艦載機がちゃんと空から見張ってるから不正はさせないわ」

「私もステージ外から監視していよう」

 

 瑞鳳と磯風が付け加えて言った。

 上を見れば、艦載機がはるか上空を旋回しているのが視界に映った。

 

「こっちの艦隊の旗艦は大和だ」

「横須賀艦隊の旗艦は矢矧さんです」

 

 天龍と神通がお互いの旗艦を宣言しあう。旗艦は演習戦において勝敗を決する重要な存在。故に、あらかじめ公言しておく必要がある。

 あらかたルール説明も終わり、あとは演習を開始するのみとなった。磯風が両艦隊の間に割って入る。

 

「よし、決闘(デュエル)開始時間が近い。演習を開始するぞ。お互い距離を取ってくれ」

 

 磯風の誘導で円形のステージの中心から十分に離れた所で互いの艦隊が並ぶ。

 七丈島艦隊は大和、天龍、プリンツ。

 横須賀艦隊は矢矧、神通、夕張。

 数十秒の睨み合いの後、磯風がまっすぐ上に伸ばしていた手を振り下げた。

 

「戦闘、開始ッ!」

「――戦艦大和、推して参ります!」

「――横須賀艦隊、預かります。矢矧、抜錨する!」

 

 決闘(デュエル)の火蓋がきって落とされた。

 

 

「神通、夕張さん、まずは天龍から獲りに行くわよ」

「ん? ここは戦えない上に旗艦である大和さんからでいいのでは?」

「戦えないとはいえ、相手は大和型。私達の全火力を合わせてようやく轟沈判定を取れるかどうか。今の状況じゃ随伴艦に邪魔されて火力が分散する可能性が高い。装甲を抜けずに無駄な弾薬を消費するのを避けるためにもまずは獲りやすい所から一人ずつ仕留めましょう」

「成程……それも一理ありますね」

 

 確かに一見、攻撃してこない上に旗艦をしているなどカモがネギを背負ってやってきたような展開で、すぐにでも飛びつきたくなる。

 ただ、相手が大和型で随伴艦が二隻いる。装甲と護衛という大きな二つの障害があるのだ。

 ならば、ここは無理に旗艦を仕留めにいく必要はない。随伴艦二隻を殲滅すればその時点で勝利したようなものなのだ。

 随伴艦二隻に邪魔されながら旗艦を落としに行けば戦力図は三対三。しかし、旗艦を無視して随伴艦を落としに行けば大和が戦えない以上、戦力図は三対二だ。

 つまり、この状況の最適解は大和ではなく随伴艦、特に装甲も薄い軽巡洋艦の天龍を仕留めにいくこと。

 

「……珍しいですね。神通さんが論破されるのって」

「私も艦隊指揮に関してはまだまだ未熟ということですよ」

 

 神通も決して場数を踏んできていないわけではない。戦況の判断力も相当に優れているはずだ。その彼女をして己を未熟と言わせるのだから、矢矧の艦隊指揮のレベルの高さたるや想像もできない。

 夕張は矢矧の『軍神』という別称にここで初めて心から納得した。

 

「やはり、あなたは横須賀艦隊に必要な人材ですね」

「艦隊、単縦陣をとって前方の敵艦隊に突撃! 第一攻撃目標は天龍!」

 

 流れるように矢矧を先頭に単縦陣を取りながら神通は悔しがるどころかむしろ満足気な笑みを浮かべている。

 一方、完全に後手に回った七丈島艦隊もただその場で棒立ちをしている訳ではない。

 

「へぇ、狙いは俺か。面白れぇ、全員返り討ちにしてやるぜ!」

「重巡洋艦を無視して痛い目見ても知らないんだからね!」

 

 好戦的な笑みを浮かべて迎撃態勢をとる天龍とプリンツ。

 そして、その後ろには大和がある準備をして控えている。

 

「やはり、大和さんは前に出す気がないみたいですねぇ」

「構わないわ。むしろ余計な邪魔が入らなくていい。全員主砲、構え!」

「よし、大和、今だ!」

「はい!」

 

 天龍達が矢矧達の砲撃射程に入った瞬間、それは起こった。

 

「――! これは、煙幕ッ!?」

 

 突然大和の居た場所を中心に大量の真っ白な煙が噴出し、大和達を覆い隠していく。

 当然、煙幕など予想もしていない矢矧はその事態に驚き、反射的にブレーキをかけた。

 その隙を天龍とプリンツは見逃さなかった。

 

「天龍様の攻撃だ! うっしゃあッ!」

「砲撃、開始! Feuer(ファイアー)!」

「くっ! 散開!」

 

 攻勢だった戦況は一瞬にして覆され、矢矧は致し方なく、艦隊を散開させる。仕方ない、今煙幕に巻き込まれては、矢矧達は敵の位置が掴めぬままに孤立させられかねない。

 それをステージ外から見て瑞鳳は勝ち誇ったように高らかに笑っていた。

 

「ふっふっふ、はーはっはっは! どんなもんよ! 煙幕なんて予想もしてなかったでしょうねぇ! ざまぁみろってんのよ!」

「そりゃ、ウチの鎮守府に発煙装置なんてありませんからねぇ。矢矧もありえないものまで想定できませんよ」

「ふ、『ありえない』なんて事はありえない、のよ?」

「なんでもいいですが、あの発煙装置と天龍達の整備の行き届いた装備の出どころは後で白状してもらいます」

「むむむ……」

 

 ステージ外に浮かぶ一隻の船艇。そこに提督と瑞鳳はいた。

 双眼鏡で戦闘の様子を見ながら瑞鳳は歓喜の声を上げ、提督は隠れて装備を開発していたらしい瑞鳳に白い眼を向けている。

 

「今回は見逃しなさいよ! 矢矧のためでしょ!」

「それとこれとは話が別です」

「……ところで提督、私の作った伊達巻、食べ――――」

「騙されませんよ、それは瑞鳳ではなく磯風が作った伊達巻でしょう!」

「チッ!」

 

 磯風料理による記憶消去は失敗した。

 

「……私の料理がどこかでディスられている気配を感じる」

 

 ステージの外周を周回しながら磯風はムスッとして呟いた。

 

 

「……まるで入道雲ですねぇ」

 

 一旦、後退して距離をとった横須賀艦隊。尚も拡散し、既にステージの半分程を覆い隠してしまっている煙幕を見て神通は感心したように呟いた。

 あまりに巨大すぎて煙幕の中の七丈島艦隊の位置は見当もつかない。

 

「ど、どうします? これじゃ攻撃しようにも敵の姿が……」

「……まぁ、いいわ。大丈夫よ、私達からも相手が見えないように、向こうからもこちらは見えない筈――――!?」

 

 突然、矢矧は血相を変えて最大船速で飛び出すと、悠長に広がっていく煙幕を見上げる神通にタックルする。

 

「ぐっ……!?」

「え!? ちょ、矢矧さん!?」

 

 神通は突然の不意打ちに声を洩らしながら真横に吹き飛ばされた。

 夕張が突然の矢矧の奇行にパニックになったその時、爆音と共に矢矧が巨大な水柱で包まれた。

 

「こ、これは……!」

「魚雷!?」

 

 間違いなく魚雷だ。

 しかし、煙幕によって七丈島艦隊から横須賀艦隊の姿が見えない以上、攻撃を当てるなどほぼ不可能だ。

 しかも、ただでさえ当たりにくい魚雷を、たった一発、ピンポイントで放ってきた。矢矧が神通にタックルをしていなければ、あの魚雷は間違いなく神通に直撃していただろう。

 

「く、魚雷直撃で小破、か。運がよかったわね」

「すみません、矢矧さん。庇ってもらってしまって」

「……そ、そうですよ! なんで旗艦の矢矧さんが随伴艦の神通さんを庇っているんですか!? 普通逆でしょう!」

 

 繰り返しになるが、旗艦は演習の勝敗を左右する重要な存在である。

 だから、旗艦を随伴艦が庇うというのは戦術の一つとして珍しくはない。ただ、随伴艦を旗艦が庇うという図式はまず考えられない。

 しかし、矢矧は平然と説明を始める。

 

「これでいいのよ。私は戦闘力的には並みの軽巡に毛が生えた程度。大破したって戦力はさして減少しないし、艦隊指揮はできる。でも、神通はこの艦隊の主戦力なのだから今ダメージを受けさせるわけにはいかない。その優先度に従って動いたまでよ」

「光栄です」

「庇った分、しっかり戦果は挙げてもらうわよ」

「……え、ええ? そういうものなんですか?」

 

 矢矧の言い分は確かに理に適っている。しかし、夕張にはそれがどうにも言い訳のようにも聞こえた。

 まるで、自分が随伴艦を庇う理由をそれらしくでっちあげたよう。

 だが、それ以上の追及をしても仕方がないし、そんな場合でもなかった。

 

「――きゃあっ!」

「また!」

 

 今度は主砲による砲撃が二発、見事に夕張の艤装に直撃する。

火力を見るにプリンツの砲撃だろう。流石に無防備な状態での直撃はダメージも大きく、夕張は中破まで追い込まれてしまった。

 矢矧の額に汗が流れる。

 

「どういうこと? 向こうの装備に電探なんて見えなかった。どうやってこっちの位置を把握しているの?」

「…………成程、どうやら別に『目』があるようですね」

 

 神通はそう言って、上を見上げた。

 

『――よし! 夕張にプリンツの砲撃が着弾! 夕張中破! 相手は手も足も出ないみたいね! 作戦通り! 流石私ね!』

「っしゃあ! 瑞鳳、次は!?」

『次の目標は矢矧よ! 二時の方向、距離は717! まだあいつらは動いてない、今度は魚雷と砲撃で攻撃! そろそろ仕留めないと勘付かれるわよ!』

「わかってんよ!」

「お姉さま! 発煙装置はあとどれくらい持ちそうですか!?」

「もってあと五分が限界です!」

 

 煙幕の中、大和、天龍、プリンツはイヤホンマイクから瑞鳳の指示を受け取りながら次の射撃準備を進めていた。

 横須賀艦隊の位置は監視用と銘打って堂々と上空を旋回させている瑞鳳の艦載機。そこから送られた情報を基に瑞鳳が無線指示を出す。

 方角、位置の起点は発煙装置を起動した時に大和が向いていた方角と立っていた位置とし、大和は発煙装置の様子を見ながらそこに留まり続けることで指標となる。

 これが、大和達の作戦であった。

 

「――な! 艦載機を使って私達の位置を!? 卑怯すぎますよ!」

「高度的に私達の主砲じゃ落とせそうにないわね」

「煙幕に隠れての弾着観測射撃とは。いや、悪くない戦術ですねぇ」

「なんで神通さんはそんなに楽しそうなんですか!?」

 

 相変わらず神通の表情から笑みは消えない。

 神通は視線を矢矧に戻して尋ねる。

 

「さぁ、どうしましょうか?」

「……決まってるでしょ」

 

 矢矧が視線を煙幕へ戻した瞬間、煙幕が揺らぎ、砲弾が発射されたのがわかった。

 矢矧は最大船速で斜めに動きながら煙幕に向けて走り出す。

 

「煙幕の中に突っ込むわよ! 神通と夕張は私の後ろに付いて単縦陣を保って!」

「了解!」

「了解、です!」

 

 砲撃と魚雷を避け、矢矧達は煙幕へ突っ込んでいく。

 

『十時の方向! 矢矧達が煙幕に突っ込んでくるわよ!』

「こっちも迎撃だ!」

「Feuer! Feuer!」

 

 天龍とプリンツも簡単には近づけさせまいと主砲斉射で迎撃する。

 

「迎撃してきたわね。神通、私が盾になるから奴らの居場所を突き止めて。位置を特定で来たら単艦離脱して先制。できるわね?」

「なんなら、全員倒してきましょうか?」

 

 煙幕の中から次々と放たれる砲火を前に、むしろ嬉々として笑う矢矧と神通。

敵の位置がわからない以上、煙幕に突っ込んでいくのは得策とはいえない。しかし、こうして艦載機によって一方的に攻撃されるならば、ここは煙幕に入った方が索敵を避けられるのでまだいい。それに、向こうが迎撃のために攻撃をしかけてくるのなら、砲撃、雷撃位置から敵の所在を割り出せる。

最悪、煙幕の中での遭遇戦。しかし。上手くいけば敵艦の位置を特定し、先制攻撃まで可能だ。

 最悪、対等条件下での戦いにはなるが、劣勢にはならない。故に矢矧達にとってこの選択がベストであった。

 それに、横須賀艦隊には規格外の戦力が一人いる。決して分の悪い賭けではなかった。

 

「――神通、行きます」

 

 静かにそう言って、神通は船速を保ちながら左に飛び出し、速力を上げて単艦、煙幕の中にいち早く突入した。

 

「くそ、おい! 瑞鳳! 俺らの砲撃は当たってんのか!?」

『拙い……神通が、煙幕に突入したわ! 全員砲撃を止めて即離脱しなさい!』

「は?」

 

 その時、白煙を切り裂いて天龍の目の前に、巨大な殺意の塊が現れた。

 

「見つけました」

「――――ッ!?」

「出たぁッ!」

 

 プリンツが悲鳴を上げ、天龍が主砲を向けるよりも早く、神通の掌底が天龍の腹部を貫いた。

 

「まず一人」

 

 天龍は体をくの字に曲げて吹き飛び、大和後方の煙幕に消えた。

 

「お姉様、逃げてッ!」

 

叫びながらプリンツが神通に主砲を向ける。

しかし、神通は即座に煙幕の中に身を隠してしまう。煙幕がここに来て仇となった。プリンツはしきりに周りを見回すが、まるで神通の気配は感じられない。

 

「これで二人」

「――うぐっ!」

「プリンツ!」

 

 今度は背後から上段蹴りがプリンツのこめかみに直撃し、天龍同様、その身体は煙幕の中に消えた。

 

「プリンツ!」

「さて、後は大和さん、あなただけですね」

「ちょっと、あなた強すぎませんか……?」

「あら、もう決着かしら?」

「矢矧!?」

 

 煙幕の中から矢矧と夕張まで現れる。横須賀艦隊三隻に囲まれ、対するは戦えぬ大和一人。絶体絶命である。

 

「流石ね、神通」

「いえ、それ程でもないですよ。結局大和さんは仕留めきれませんでしたし」

「…………」

「大和、あなたの負けよ。随伴艦もいなくなり、じきにこの煙幕も晴れて完全に勝機はなくなる。これ以上の戦闘に意味はないわ。降参して」

 

 はっきりと大和の敗北を断言する矢矧に対し、大和は顔を俯けた。

 

「矢矧、私昨日言いましたよね?」

「ん?」

「矢矧は必ず、私『達』(七丈島艦隊)が取り返します!」

「――ッ!」

 

 再び上げた大和の顔には、まだ笑みが浮かんでいた。

 その声と共に、大和の後方から煙を裂いて二つの影が横須賀艦隊にとびかかる。

 

「おらぁあああああああッ!」

Feuerrrrrrrr(ファイアアアアアアアア)!」

 

 それは先刻吹き飛ばされた天龍とプリンツだった。

 天龍は刀を振りかざし、プリンツは主砲を向ける。

 

「ぐっ!」

「矢矧さん!?」

 

 天龍の斬撃は神通が魚雷を小刀のようにして受け止めたが、夕張に向けられたプリンツの砲撃は矢矧が庇い、直撃した。

 矢矧の艤装が大破する。

 

「矢矧さん! なんで私なんかを!?」

「言ったでしょう? 私よりもあなたの方が、戦力的に優先度が、高い……それだけよ」

「いや、そんな訳ないでしょう! と、とにかく一時退避――――」

「私から逃げられると思う?」

「な、なんですかこの人……なんか、急に背筋が寒く……」

「最凶のストーカーですからね、プリンツは。ストーカーされてる私が保証します」

「今度こそ逃がさないからねぇ、夕張?」

「ひっ!?」

 

 じりじりといやらしい笑みを見せながら夕張に迫るプリンツと、彼女から顔を青ざめさせて逃げ腰になる夕張の姿があった。

 一方で、天龍と神通の方も状況は緊迫している。

 

「まさか、さっきの一撃で仕留めきれなかったなんて、少し自信をなくしますね」

「その程度の実力ってことだろ?」

 

 天龍が煽るように笑みを向ける。

 反応はしないものの、癇に障ったのか神通の刀を押し戻す力が増した。天龍はより刀を握る力を強める。しかし、押しきれない。

 尚も続く膠着状態に天龍は嘆息した。

 

「俺様の斬撃を魚雷一本で受けるなんざ、随分と舐めたことしやがるじゃねぇか」

「その程度の実力ってことですよ」

「へっ、この野郎!」

 

 プリンツと夕張、天龍と神通。見事に戦況は三分割され、大和と矢矧もまた対峙する。

 

「流石に、しぶといわね」

「なかなかやるでしょう、私達も?」

「そうね、まるでゴキブリね」

「その表現には悪意しか感じませんよ!」

 

 大和と矢矧は笑う。片や戦えぬ戦艦、片や大破した軽巡洋艦。この状況はお互いに最大の好機でもあり、最大の危機でもある。

 そして、それ故に、決着にはふさわしい状況とも言えた。

 

「さぁ、決着をつけましょう、矢矧」

「ええ、決着をつけましょう、大和」

 

 しかし、演習が白熱する最中、脅威が、すぐ目の前まで迫りつつあったのを彼女たちはまだ知らない。

 

「――――前方ニ、艦娘ヲ発見。タダチニ殺戮ヲ開始スル」

 

 




読者の皆様、あけましておめでとうございます。
新年を迎えての初投稿となります。今年も『七丈島艦隊は出撃しない』をどうぞよろしくお願いいたします!

さて、矢矧編もいよいよクライマックスでございます。
果たして大和達は矢矧を取り戻せるのか。そして、迫りくる深海棲艦を前に七丈島艦隊はどう動くのか。
次回、近日中更新予定(更新するとは言ってない)

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