七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
超弩級盛り海軍カレー、五杯完食。


第三話「大和型一番艦、大和、只今着任致しました!」

 どうも、私の名前は大和です。

 この度、七丈島鎮守府に配属になった艦娘なのですが、配属初日から迎えが来なかったので大食いメニューにチャレンジをしていたら、どうやら七丈島鎮守府から迎えに来てくれたらしい艦娘がわざわざ店の中まで私を探してやってきてくれました。

 

「――全く! 確かに予定時刻に来なかった私達に非があるけれど、かといって待ち合わせ場所から不用意に動かないで頂戴」

「そ、それは、すみませんでした」

「本当に心配したわよ」

 

 矢矧、私の身を案じてくれていたのでしょうか。

 

「あなたが再犯を犯して私まで連帯責任なんてまっぴら御免よ」

 

 と、思いましたがそんなことはありませんでした。

 

「とりあえず、もうチャレンジは終わりよ。問題ないでしょ? 店長?」

「ええ、何も問題ないわ……大和ちゃん、あなたの勝ちよ……」

 

 依然としてうなだれて力なくそう呟く店長。

 少し可哀想なことをしてしまったかもしれません。今日は久々にお腹一杯カレーを食べられそうで思わずはしゃいでしまったのです。

 若気の至りなのです。どうか許してください。そして、めげずに新しい大食いメニューを是非、作って戴きたい。そう心から願っています。

 主に、私の今後の食生活の充実のために。

 

「さぁ、あなた達も散った散った! 大食いチャレンジは終わりよ!」

 

 その声と共に矢矧は店に入った野次馬達を退散させていく。

 厳格ですが、人を纏める力のある方のようです。

 

「あ、ついでに店長。カツカレー大盛り、甘口を持ち帰りで至急お願い」

「え、でももうウチのカレー鍋は……」

「一食分位の材料は残っているでしょ? なければ作る! お金は払うし、多少時間はかかっても構わないわ」

「でも、アタシ、今日はもう……」

「甘えないで。料理人は客の注文を受けたらさっさと動く! プロなら自分の為すべき責務と努力くらい、全うしなさい!」

「わ、わかったわよぉ!」

 

 というか、どちらかというと鬼教官、でしょうか。

 矢矧の厳しい罵声に店長が慌てて厨房に駆け戻り、調理を始め、他の野次馬達もそれを見てそそくさと逃げるように退散していってしまう。

 私はその場面を見て、人々から彼女に向けられる畏怖の念を感じ取らざるを得ませんでした。

 その後、おおよそ待つこと三十分、店長からプラスチック容器に入れられたカレーを受け取ると、決められた料金を支払い、私と矢矧はようやく店の外に出た。

 熱気の籠った店内から外に出ると、涼しい潮風が私の身体を撫で、気持ちを爽やかにしてくれる。

 

「さて、それじゃあ、さっさと鎮守府に戻るわよ」

「え? あ、はい!」

「…………」

「……あの? どうかしました?」

 

 身体を思い切り伸ばす私を矢矧がじっと難しい顔をして見つめていました。

 少し怖いです。

 

「あなたみたいなのが、なんで…………いえ、なんでもないわ。早く鎮守府に向かいましょう。大分当初の予定からずれているし、色々と説明したいこともあるから」

「は、はあ」

 

 なんだか煮え切らない返答でうやむやにされた感じがします。

 しかし、かと言って話を引っ張る勇気もなく、取り敢えず私は先行する矢矧の後を着いていくしかなかった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 うわ、すごく気まずいです。

 歩き始めて三十秒、早速お互いに無言。流石にこれから生活を共にする仲間同士、これは良くないのではないでしょうか。

 私は必死に話すきっかけを模索する。

 

「こ、この島は海がきれいですね!」

「そう? 私にはどこも同じにしか見えないわ」

「あ、そうですか……すみません」

「ええ」

「…………」

「…………」

 

 会話、終了。

 五秒と持ちませんでした。嘘みたいです。

 というか、今のは私だけじゃなく彼女にも責任あるでしょう。なんですかあの受け答え。もう少し私の努力を買って話合わせたりしてくれてもいいじゃないですか。

 もう、彼女話す気ゼロだったじゃないですか。

 そもそも、この辺、海沿いを道なりに進んでいるだけで話す話題になりそうな物がなさすぎるんですよ。左手には海、右手には森林。それ以外は無機質なコンクリート道路だけって、これでどうやって話題を作れというのですか。

 

「~~~~!」

「……はぁ、そんなに話がしたいなら、この鎮守府について少し説明してあげるわ。本当は鎮守府に着いてからゆっくり話すつもりだったのだけど」

「――! 是非お願いします!」

 

 私が頭を悩ませていることを察してくれたのか、向こうから話題を提供してくれました。

 

「この鎮守府がどういう所なのかについてはあなたも知ってるわね?」

「ええ、勿論です」

 

 過去に重罪を犯した艦娘が戦力保持という名目の元、隔離的に配属される流刑地。それがこの七丈島鎮守府。

 流石に、ここに配属された身としてそれくらいのことは理解している。

 

「今、この鎮守府にはあなたと私を合わせて全六名の艦娘が在籍しているわ。挨拶は後日自分で済ませて頂戴。この六人のうち、あなたを含めた五人は罪人、でも私だけは罪人ではない、普通の艦娘なのよ」

「あ、そうなんですか」

 

 カレー屋での立ち回りを見るに、罪を犯すような艦娘には見えませんでしたから、私の中ではさしたる驚きはありませんでした。

 

「私は監察艦といって、あなた達の島内での行動を監視、監督する役割の艦娘よ。まぁ、囚人と刑務官の関係みたいなものね。規律違反は厳しく取り締まるから覚悟なさい」

「は、はい」

 

 そう言いながら不敵な笑みを浮かべてこちらに顔を向ける矢矧に私は緊張気味に返事をしました。

 彼女が監視役ならば、相当厳しい生活になりそうです。

 

「まぁ、でも、基本は島内では何をするのも自由よ。他の艦娘達も好き勝手にやっているしね。あくまでも規律を破らない前提の話だけれど」

「え、監視役なのに自由にさせていいんですか?」

「ええ、問題ないわ」

 

 監視とはなんだったのでしょうか。

 まぁ、彼女の笑みを見るに何か対策のようなものがあるようですが。

 と、色々話している内にいつの間にか立派な鎮守府の目の前に私達は立っていた。

 ここが、これから私が生活する七丈島鎮守府なのだろう。

 矢矧は正面玄関から入ると、私を最初に執務室へと案内した。この鎮守府の責任者である提督がいる部屋である。

 矢矧は洋風の装飾が施された扉を四回ノックし、中からの返答を待ってから扉を開き、中に入る。

 

「提督、失礼します。矢矧、本日着任する大和を連れ、只今戻りました」

「大和型一番艦、大和、只今着任致しました!」

「はい、どうもお疲れ様でした。矢矧、大和」

「ついでに、カレーです」

「ありがとうございます!」

 

 扉を開けると、そこには以前裁判でも見た、眼鏡を掛けた青年が、執務机に座っていた。

 机の上に無造作に散らばる書類の上に矢矧がビニール袋に入ったカレーを置くと、彼は嬉しそうに顔を綻ばせてから、私の方を見て申し訳なさそうに突然頭を下げた。

 

「あ、大和。道中お疲れ様でした。すみません、こちらの手違いで待ちぼうけをさせてしまったようで……」

「い、いえ! 全然そんなことはありませんでしたから! 顔を上げてください!」

 

 そんなことは全然あったのですが、私は頭を下げる提督につい、そう叫んでしまいました。

 

「提督はこれからは重要な書類は必ずわかる場所に保管するよう心掛けてください。そもそも机の上が汚いからこんな重大なミスを易々とするんです。整理整頓をしなさい、整理整頓」

「は、はは、善処します」

 

 私が思うにその言葉を発した人のほとんどは言われたことをやらないのですが。

 

「まぁ、私のことはさておき、まずは大和にアレを付けて頂きましょうか」

「そうですね。大和、こっちに来てもらえる?」

「え? はい、わかりました」

 

 矢矧に呼ばれて私は彼女の立つ方へと歩いてくる。一方で、彼女の手には一つの大きめのブレスレットが握られていた。

 

「右手か左手か、好きな方を出して頂戴」

「じゃあ、右手で」

 

 そう言って、右手を差し出すと、矢矧は持っていたブレスレットを素早く私の右手首辺りに通す。

 瞬間、私の手首に合わせてブレスレットが収縮したかと思うと、小さな光が点滅し、やがて消えた。

 何これ、怖いです。特に矢矧のしてやったみたいな顔が余計に不安を煽ります。

 

「こ、これはなんなのですか?」

「これはスタンリング。小型電気拘束装置よ。あなたが島民や私、提督に危害を加えようとアクションを起こすと、そのリングが感知して一定時間痺れて動けなくなる程度の電流を放電するわ。要は、あなた達罪人がこの島で暮らすために最低限必要な安全装置よ」

「成程、島内で自由にしてもいいっていうのはこれがあるからなんですね」

「ええ、それは私以外には外せないし、頑丈な素材で出来ているから壊すことも不可能よ」

 

 つまり、これがある限り私達罪人は大人しくするしかないということですか。まあ、別に暴れる気なんて私には一切ないのですが。

 

「すみません。私は必要ないとは思っているんですが、何せ規則なものですから」

「別に私は構いませんよ」

 

 理不尽に電流を流される訳でもなさそうですし。

 

「とりあえずはこんな所ですかね。後は基本、この島内では自由にしていてください」

「あの、私は、というか私達は出撃はしないのでしょうか?」

「当然でしょう」

 

 矢矧が答えた。

 

「あなた達はあくまで戦力の保持という理由でこの艦隊に隔離されているの。艦隊に入れれば味方側に甚大な被害が出ると考えられているあなた達がこの島から出ることは許されないわ」

「……そうですよね」

「具合的には島から半径10kmより外には出ないでください。そのスタンリングが反応して放電するので」

「わかりました」

 

 仕方がありません。矢矧の言っていることは的を射ていますし。

 まずは今の環境に慣れることから始めましょう。

 

「ところで、私と矢矧を除いてここにはまだ四人くらい艦娘がいるんですよね?」

「ええ、そうね」

「どんな方達なのでしょうか?」

 

 やはり、今の内に他にどんな方がいるのかは知っておくべきでしょう。

 仲良くできるでしょうか。私同様犯罪歴があるとはいえ、やはり新しい仲間というのは楽しみですね。

 

「他の……艦娘達? そう、ねぇ……」

 

 言葉を濁されると不安になるのですが。

 

「…………元気な娘達ばかりですよ、はい」

 

 今までのような具体的な説明が欲しかったです。

 

「まぁ、ここで話すよりも実際に見た方が早いわ。取り敢えず、そこの所は置いておいて、あなたの部屋に案内するわ」

「はぁ、わかりました……それでは提督、失礼致します」

「ええ、これからよろしくお願いします」

 

 そう言って提督に挨拶を終え、私と矢矧は執務室を後にした。

 

「それじゃ、部屋に案内するわ」

「はい、お願いします」

 

 こうして、取り敢えずは正式に私はこの七丈島鎮守府に着任、しいては七丈島艦隊の一員となったのでした。

 しかし、この時私は気付いていませんでした。

 私の姿を影から見つめる謎の人影に。

 

「――へぇ、あれが、新入りか? 面白れぇ、暇つぶしに少しからかってみるとするか!」

 

 

 




次回
新キャラ登場

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