七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
キャッチコピーを作った。
で、映画を作ることになった。




第三十三話「ま! 要は、もっと胸張って生きなさいってことよ!」

 

 どうも、七丈島艦隊所属、戦艦大和です。

 現在、私はこの島に来てから最大のピンチに直面しています。

 

「た、助けて……! わっぷ! だ、誰かぁ!」

 

 今、まさに人が、目の前で溺れているのです。

 鎮守府を出て港まで来た所で防波堤の方からバシャバシャと水を叩く音が聞こえ、一体どうしたのかと思えば、齢十くらいと見受けられる少女が溺れているではありませんか。

 彼女はきっと泳げないのでしょう。必死に手足を動かしてどうにか海面に浮上しようとしますが、力みの入った身体というのはどうしても沈んでいくものなのです。

 

 泳ぎの上手い人はむしろ暴れず脱力します。肺という浮袋一杯に空気を取り込み、力みを取り去るのです。

 そうすれば、元々海水には塩分が含まれており、真水よりも浮力が大きい訳ですからいとも容易く浮きます。

 しかし、脱力というのは難しいものです。何故ならやろうと思ってやれるものでもないのです。

 泳げる人と泳げない人の決定的な差をお教えしましょう。

 ずばり、水が怖いか、否かです。

 人間は恐怖するとどうしても力が入ります。それは自分を守るための本能です。怖い話を聞いていたりすると、だんだん身体が丸まって握り拳を作ってたりしませんか。

 それは恐怖から身を守ろうと防御力を高めるための本能的な反応です。仕方のない者なのです。

 なので、水に対する恐怖がある人は脱力ができません。本能的に力んでしまう。なので、スイミングスクールなどでは最初は水に慣れさせる所から始めます。

 人は恐怖するから、自分を守ろうとするからかえって深く沈んでしまうのです。

 

「ど、どうすれば……近くに人もいないし……!」

 

 ここで、そろそろ皆さん思うことでしょう。

 おい、はやく助けろよ、と。

 何故、人を探しているんだ、お前が海に飛び込んで助けるんだよ、と。

 長々と水の浮き方だの、脱力だの、水への恐怖だのグダグダ言ってんじゃないよ、と。

 あくしろよ、と。

 ごもっともです。反論のしようもありません。しかし、こればっかりは仕方ないのです。

 

「どうしましょう……私、泳げないのに!」

 

 そうです。恥ずかしながら、私、カナヅチなのです。

艦娘の癖にと思いましたでしょう。

でも、実は潜水艦を除く全艦娘は艤装なしでは全員カナヅチなのです。

 

 

 溺れている所に助けが来たと思ったら、その人はカナヅチ。なんと運のないことだろう。

 

「な、何か紐とか! 掴めるものは!?」

 

 何か掴む物さえあれば私の力なら余裕で一本釣りしてやれると、手頃なロープを探すが今日の港にはそれらしいものは一切見当たらない。

 

「いつもは何か浮輪みたいなやつとか綱みたいなのあるのに!」

 

 いよいよ後がない。

 少女の頭が海水から出てこなくなってきている。沈んでいるのだ。

 何をやっている。今まで張り損ね、のうのうと生き長らえてきたこの命、今ここで張らずしていつ張るのだ。

 私はここで覚悟を決めた。

 

「大和、推して参ります!」

 

 私は少女の近くに勇んで飛び込むと、少女の身体を掴む。少女も必死に私の体にしがみついてくる。

 やはり、私の体はみるみる沈んでいく。しかし、この距離なら、いける。

 

――すみません、この際打撲と擦り傷は勘弁してください!

 

 私は、一緒に沈む少女の体を掴み、思いっきり胴上げする要領で防波堤の方へと投げ飛ばした。

 普通の人間ではできない所業だが、大和型の馬力なら可能である。

 

「とりゃああああああああっ!」

 

 少女は海水から防波堤へ弧を描いて飛んでいった。

 きっと全身をコンクリートに打ちつけてしまっただろうが、そこは勘弁してほしい。

 さて、一方の私は当然泳げない。というよりも浮けない。身体に艦の魂を宿したからかは知らないが体が鉛の塊になったように勝手に沈む。

 脱力とかは関係ない。鉄の塊がいくら脱力した所で沈むのと同じで、私達艦娘もどうあがこうと水に浮いていられない。

 夏とか水着を着ていたりするが、実は泳げないので海に出るときは仕方なく艤装を付けて気分だけ楽しんでいるのだ。

 だから、ヤケクソになって深海棲艦との戦闘時でさえ水着で挑んだりする艦娘が後を絶たない。困ったことである。

 

「ああ、これは本当にダメかもですね。こんな所で人知れず死ぬんですか、私……」

 

 私、最後、誰と何と会話しただろうか。

 

『お姉さま! お出かけですか? お供します!』

『……プリンツ、ごめんなさい』

『ん? なんです? 手錠? まさか! 拘束プレイ!? やったああああああ!』

『違います! ちょっと今日は、ストーキング禁止です! それじゃ!』

『え……放置プレイ!? やだ、興奮しすぎて死にそう!』

『プレイじゃないって言ってるでしょう! 私が変な趣味だと思われるからやめてください!』

『私はそういうのも全部受け止めきれますから、一向に構いませんッ!』

『私が構うんですよッ!』

 

――いや、死に切れるか! こんな会話でッ!

 

 よりによって人生最後の会話が拘束プレイと放置プレイの談義なんて化けて出るレベルである。

 しかし、時既に遅し、海面は既に遠く、身体は海底へ引きずり込まれていく。

 その時だった。

 

「――大変だ! 人が溺れてるぞ!」

 

 そんな声と同時に何か黒い影が私の目の前に飛び込んできたかと思うと私はその黒い影と一緒に海面へと浮き上がっていった。

 

「ぷはぁ! ゲホゲホ!」

「お、おい! 大丈夫か!? ん、ていうかお前大和ちゃんか?」

「あ、あなたは……ゲホ! 確か第一話登場の漁師さん!」

「なんだ、その思い出し方!?」

 

 第一話にてお腹を空かせた私をビッグスプーンまで連れて行ってくれたあのやたらテンションの高い漁師のおじさんが私の体を抱き上げ、防波堤まで引き上げてくれていた。

 

「はぁ、はぁ、死ぬかと思いました……助かりました漁師さん」

「いやぁ、なんのなんの! このお嬢ちゃんが泣きながら助けを求めてきてよ! いやぁ、間に合って良かった!」

「お姉さん……!」

「あ、さっき溺れてた子……良かった、ちゃんと助かってた」

 

 予想通り全身を打ちつけた痕があったが、なんとか助けられていた。

 私はそれに安堵の息をついた。

 

「まぁ、今日は天気もいいし、しっかり乾かして行けよ! その姿で二人共町歩いてたら男たちの注目の的だぜ!」

 

 見れば、私の服はずぶぬれで下着まで透けている。

 

「さ、流石にこれは町歩けない……!」

「ガハハハ! まぁ、ここら辺は今日人通り少ないし、二人で防波堤にでも座っとけば一時間くらいで乾くだろ! じゃ、俺はこれで!」

 

 漁師は陽気な笑い声と共に去っていった。

 

「……えーと、じゃ、そこで座りましょうか」

「はい!」

 

 少女と並んで防波堤に足を投げ出して座る。

 潮風が程よく濡れた髪と服から水分を少しずつ奪っていくのを感じる。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 こんな気まずい状況、前にもあった気がする。

 確か矢矧と鎮守府向かう時もこんな感じじゃなかっただろうか。これはいけない、人生の先輩として私から何か会話を盛り上げる種を――――。

 

「私、美海っていいます!」

「え!? あ、はい!?」

「美しい、海って書いて『みう』と読みます!」

「は、はい!? いい名前ですね!」

 

 突然の自己紹介にビビる人生の先輩。

 

「ありがとうございます!」

「は、はい! どういたしまして!?」

 

 この美海という少女、やたらと声がでかい上に礼儀正しい。まるで軍人のようだ。

 思わずこちらまで声が大きくなってしまう。

 

「え、と、美海さんはどうして海で溺れてたんですか?」

「はい! 私が美海だからです!」

「ごめん、ちょっと意味がわからないです! 後、もう少し普通に喋りましょうか、ね!」

「はい! すみません!」

 

 その大声を止めて欲しいのだが。

 

「私は、親から貰った美海という名前が大好きで、その影響か、海が大好きなんです!」

「あー、それで海で遊んでたら、足とかつっちゃってってパターンですか?」

「いえ、単純に泳げない癖に海に飛び込んだので溺れました!」

「泳げないなら海に飛び込まないでください!」

「はい! 明日は命綱つけて飛び込みます!」

「だから、飛び込まないでください!」

 

 海が好きなのに泳げないというのも中々難儀な性分である。しかし、海が怖いならまだしも海が好きなら案外さらっと泳げるようになりそうなものだが。

 

「泳ぎ、練習しないんですか?」

「…………」

 

 美海は私がそう聞くと俯いて黙ってしまった。私が不思議がって彼女の顔を覗き込もうとした瞬間、彼女は顔を上げて言った。

 

「すみません! 嘘を吐きました!」

「ぐわああああ! 耳がああああああ!?」

 

 美海の大声で私の鼓膜がやばい。

 

「実は、私、最近友達に泳げないことでからかわれて……美海って名前なのに泳げないなんて変だって……」

「…………」

「だから、取り敢えず海に飛び込んでみようかなって!」

 

 どうしてそうなった。

 

「いえ、海に飛び込めば、何かいい感じに泳げるようになるかなって! 海、好きだし!」

「見通し甘すぎませんか!?」

 

 いや、むしろ泳げないから海に飛び込んで泳ぎを覚えるってスパルタか。

 

「泳ぎを覚えるならせめて足の着くような浅瀬でやればいいんじゃないですか?」

「…………確かに! すっかり失念してました!」

 

 あ、もしかしてこの子、アホの子か。

 

「じゃあ、大和さん、是非私に泳ぎを教えてください!」

「いや私泳げませんから!」

「え、そうなんですか!?」

「あなたの目の前で私、さっき溺れてたじゃないですか!」

 

 助けを呼んでくれたのも美海だった筈だが。

 

「これはとんだ心得違いをしてました! すみません!」

「いえいえ」

 

 失念とか、心得違い、とか時折少女に似つかわしくない語彙が飛び出すな。一体どこで覚えてくるのだろうか。

 

「そういえば、泳ぎの練習のこと、ご両親は知っているんですか?」

「いえ! 話してません! 心配をかけたくないので!」

「いや、溺れてからじゃ遅いんですよ? やっぱりこういうのは、慣れないうちは保護者同伴でやった方が――――」

「それに、お母さんが亡くなってからお父さんは仕事と家事両方やってて忙しいですから!」

「――あ……す、すみません、お母さんを亡くしていたんですね。配慮が足りてませんでした……」

 

 すっかり平和ぼけしていた自分を殴りたい。一年前の自分ならばこんなことは言わなかった。

 今はまだ戦争中だ。この島が例外的に平和なだけで他の全世界では日々誰かが死んでいる。そんな世の中だ。

 親を亡くした子供だって多いのだ。何故、それを本人の口から言わせるまで気づけなかったのか。

 暗い顔をしている私を、気遣って美海は言った。

 

「だ、大丈夫です! 私はもう寂しくありませんから!」

「そうなんですか?」

「はい! お父さんがお母さんも兼任してくれているので!」

「そ、そうなんですか……」

 

 相当に複雑な家庭事情と見た。これ以上深くは聞くまい。

 

「ところで、大和さんは艦娘なのですよね?」

「え、はい?」

「ということはあの謎に包まれた秘密結社、七丈島鎮守府の一員ということですよね!?」

「秘密結社……?」

「そういうことですよね!?」

「そうですけど、多分違います!」

 

 島民の七丈島鎮守府に対する認識を正す必要性を強く感じた瞬間だった。

 

「実は、島民のほとんどが鎮守府という場所が一体どういう場所なのか知りません!」

「まぁ、普段から何もやってないですからね、ウチ。そうなるのも当然でしょうか」

「噂では島の権力者とその関係者を洗脳してたり!」

 

 恐らく瑞鳳のことだ。

 

「鎮守府内で未知の化学兵器を作っていたり!」

 

 恐らく磯風のことだ。

 

「この辺りの猫を手なずけて情報を集めていたり!」

 

 恐らく天龍のことだ。

 

「最近は聞きませんけど、一時期はマークされた人物に金髪の諜報員が24時間張り付いていたという噂もありました!」

 

 絶対にプリンツのことだ。

 

「まぁ、私はそこまで子供じゃないので全部デマだってわかってますけどね! ね、大和さん!」

「は、はい、そうなんです、かね……」

 

 心当たりが多すぎて全く否定できないが、美海の期待の眼差しを裏切ることはできないので取り敢えず返答は濁すことにした。

 

「友達の中には悪の秘密結社だって言ってる人もいますけど、私にはわかります! 大和さんみたいな艦娘がいる七丈島鎮守府が悪の秘密結社の筈はありません!」

「私みたいな、ですか?」

「はい! 艦娘は皆泳げないというお話でしたのに、大和さんは命を賭して私を助けてくれました! 誰にでもできることじゃない、立派なことです!」

「…………」

 

 私はその純真無垢な言葉に、眩しさに、目を逸らすようにして俯いてしまった。

 

「違いますよ。全然そんなことない」

「大和さん?」

 

 あの鎮守府に集まったのは皆そういう人達だ。

 実際に尋ねた訳じゃないが、そういうのは雰囲気でなんとなくわかる。

 自分の命を賭してでも助けたかった誰かが居て、でも助けられなくて、自分一人だけがあろうことか生き残った。

 自分の命を張って助かったのは、誰かではなく、他でもない自分だった。

 誰も助けられなかったからこそ、私は今、ここでのうのうと生き残っているのだ。

 しかも、私は敵を撃てない、役立たず。

 こんな私がどうして立派と言えようか。

 

「私は昔、取り返しのつかない程悪いことをしたんです。提督のおかげでこうしてまだ生きてますけど、私はあなたが思う程立派な艦娘じゃないんですよ」

「大和さん!」

 

 今までで一番大きな声だった。

 

「すみません! 私はあまり頭が良くないようなので難しい話はわかりません!」

「あ、はい、こちらこそすみません」

「でも、私が立派だと思ったのだから、それでいいじゃないですか! 昔とか関係ないです! 立派かどうかなんて、自分じゃなく他人が決めるもんです!」

「…………」

「だから、大和さんは立派な方なんです!」

 

 その勢いに私は圧倒されて言葉もでなかった。

 不意にこみ上げてきたのは笑いだった。

 

「大和さん?」

「ふふ、すみません。なんだか、美海さんのおかげで少し心が軽くなりました」

「それは良かったです!」

「さて、丁度服も乾きましたね。そろそろ移動しましょうか」

 

 いつの間にか大分長いこと話していたらしい。時刻は昼を回っている。

 

「じゃあ、是非お礼をさせてください!」

「いや、いいですよ、そんな」

「大丈夫です! お時間取らせません、すぐそこですから! ついでに昼食も食べていってください!」

「あ、ご飯屋さんなんですか?」

「はい!」

 

 そう言って美海に半ば強引に連れてかれたのは見覚えのあるカレー店だった。

 

「え、ここって……」

「お父さん、ただいま!」

「あら、美海おかえりなさい。外で何してたの?」

「うん、泳ぎの練習しようと思って海に飛び込んだら溺れた!」

「はぁ!? ちょ、あんた、どんだけえええええええええええええ!?」

「それで、この人に助けられた!」

「あ、お久しぶりです、店長」

「どんだけえええええええええええええええええええええええええええええ!?」

 

 ここは港から徒歩一分のカレー専門店、ビッグスプーンである。

 

 

「――まさか、店長、子持ちだったとは……」

「何よ、その懐疑的な目は! これでもアタシ昔はモテてたのよ?」

「男に?」

「女に決まってんでしょ!? どんだけえええええ!」

 

 絶対嘘だと思うが、面倒なので深く詮索はしない。

 

「美海さんからお父さんとお母さんを兼任してるって聞いていたから一体どんな奇特な方かと思ってましたけど、オカマ店長のことだったとは……」

 

 確かに奇特な方ではあったが。

 

「美海は母親を早くに亡くしてるからね。母性が必要だと思ったのよ」

「だからって兼任しないでくださいよ!」

 

 それから、お礼と言うことでサービスしてくれたカレーを食べながら、自然と美海との会話を店長に話していた。

 

「なるほどね。まぁ、要はアタシの娘マジ天使ってわけね」

「まぁ、そういうこと――――そういう話でしたっけ!?」

「大和ちゃん、これだけは覚えておきなさい」

 

 店長はカレーの大鍋を掻きまわしながら言った。

 

「生きてるってことには何か意味があるのよ。あの提督だって道楽や気まぐれであなたを拾ったんじゃない。今、あんたがこうして生きてるってことは、つまり、あんたは生きてていいってことなのよ」

「店長、あなた、私達のことを知ってるんですか?」

「……まぁ、色々大人の事情があんのよ」

 

 私達が元罪人であることは島民には知られていない事実だ。それを店長が知っているということは、一体どういうことなのか。

 

「あの、提督、結構酔うとお喋りなのよねぇ」

「機密事項を酔ってばらしちゃったんですか!?」

 

 何をやってるのだ、あの提督は。

 店長は笑って私の背を叩く。

 

「ま! 要は、もっと胸張って生きなさいってことよ!」

「……はい!」

 

 生きていることには意味がある、と店長は言った。

 私はきっと怖いのだ。誰かを撃つことが、そして、またあの時みたいに、一人生き残ることが。

 だから、怖くて、自分を守ろうとして、自ら深く暗い海底へ、沈んでいった。

 でも、それは溺れているだけだ。生きているのではなく、死へ向かっているだけ。

 だから、私は浮き上がらなくてはならない。恐怖を克服し、あの光差す水面へ。

 それが、今の私が生きている意味、なのかもしれない。

 

「私、頑張ってみます!」

「ええ、頑張りなさい」

「私も頑張って泳ぎ練習します!」

「あんたは浅瀬で練習しなさい!」

「そして、いつか必ずや大和さんのいる鎮守府に、お勤めに参らせていただきます!」

「はい、楽しみにしてます!」

 

 ダメな提督のフォローに矢矧が倒れるのも時間の問題だろうから十年以内に来てほしい所である。

 

「全く恥ずかしいわねぇ、美海ったらアタシの昔の喋り方すっかり真似しちゃってて」

「いや、お言葉ですけど、今の店長の喋り方の方がよっぽど恥ずかしいですよ?」

 

 

「そういえば、大和ちゃんは今日何しに港まで来てたの? お買い物?」

「え? ああああああああああああああ!?」

「な、なによ!? どんだけっ!?」

 

 そうだ。私はそもそもアレのために、今朝プリンツを拘束してまで港町に向かっていたのだ。

 

「一カ月に一日だけ! 限定70個にか売られない七丈島プリン! あれを買いに来たのに!」

「ああ、この時間じゃもう売り切れてるわね。あれ、毎月午前中には完売するから」

「ぐああああああああああああ!」

 

 うなだれる私に、店長が冷蔵庫を開けてビニール袋に何かを詰め込むと、私の前に置いた。

 

「これは?」

「実は七丈島プリン売ってる店の店主と仲良くてね。今月は十個多く作り過ぎたからってウチにくれたのよ」

「え!?」

「まぁ、ウチはアタシと美海と母さんの仏壇に供える三つだけあればいいから、丁度いいしあげるわ。そっちたしか提督も合わせて全員で七人でしょ?」

「いいんですか!?」

「美海も今日は大和ちゃんと話せたからか、楽しそうだし、その分のお礼よ。その代りって訳じゃないけど、これからも時々美海のこと構ってくれると嬉しいわ。アタシじゃどうしても寂しい思いさせちゃうから、ね」

「勿論です!」

 

 次溺れられたら私も助けられる自信がないし、泳ぎは教えられないが、溺れないよう見ているくらいは私にもできるはずだ。

 

「ありがとうございます、店長!」

「では、また! 大和さん!」

「またね、美海さん!」

 

 こうして、美海という少女と知り合い、店長の意外な事実を目の当たりにすると同時に、私の心の中で自らの過去と向き合い、変わる覚悟が決まったのであった。

 

 この後、何故か映画作りに燃える七丈島鎮守府の面々を数時間かけて正気に戻す仕事が待っていることを私は知らない。

 

 

 




今回は少し大和の過去に触れたりする感じのシリアス含みのお話でした。
美海ちゃんはこの作品では珍しい実名のあるオリキャラです。今までは名前とかはあまり出さない方向性だったのですが、少女で済ますのもあれなので名前をつけました。

折角実名のあるキャラなので、これからもことあるごとに出てきます、美海ちゃん。

さて、ゲームで関連ボイス、家具も実装されたので次回はホワイトデーです。
ホワイトデー当日にアップを目指します!
ダメだったら、orz


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