七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
犬見の奥の手。


第六十一話「私が大和ですよ」

 

「浜風と、谷風が……磯風に、殺された!? 何馬鹿なこと言っとるんじゃ、われぇ!」

 

 帰ってきた私達攻略部隊を待っていた艦娘の一人が告げた言葉に逆上して私は思わずその艦娘に掴みかかった。

 

「わ、私に言われても……! でも、事実そうなのよ! 提督に聞いてみればわかる!」

「――っ! 提督!」

 

 私は脇目も振らず一目散に執務室に駆けていった。

 しかし、彼から発されたのは、さっきの艦娘と同じ、非常な現実を告げる言葉だった。

 

「磯風は私達に反逆。追手に出した谷風と浜風は彼女に討たれて、轟沈した。現在は彼女達の艤装をなんとかサルベージしようと試みている。遺体は、諦めてくれ。艦娘の宿命だ」

 

 轟沈した艦娘の遺体は残らない。これは艦娘になった時に初めに言われる台詞だ。

 浜風と谷風と、二度と会うことができない。その事実は私の心の奥深くに突き刺さった。

 

「…………なんで、磯風はそんなことをしたんじゃ」

「間宮にたぶらかされたのかもしれないな」

「間宮?」

「そうだ、今回の件は間宮が主犯だ。磯風は彼女に従って鎮守府に反逆を企てたのだ」

 

 私は、間宮が捕縛されているという営倉に走った。

 牢屋の中に、彼女はいた。

 手足を拘束された状態にもかかわらず姿勢よく正座をしたまま目を瞑って、その眉間には深い皺を寄せてどこか祈るように、苦悶に満ちた表情を見せている。

 私は彼女に問い質した。しかし、彼女は首を振った

 

「違う、磯風ちゃんも、私も、犬見に利用されたのよ」

「あんた、そんな嘘でウチを騙せる思うとるんか……?」

「そう、やっぱり、あなたもそうなのね」

「は? どういう意味じゃ!」

 

 私の返答に、乾いた笑みを浮かべる間宮を怒鳴りつけるものの、彼女は少しもひるんだ様子を見せない。

 

「もう、間に合わない。きっとあの子は犬見が用意した方のドラム缶を持って行ってしまった。後は、せめて彼女が無事であるように祈ることしか、私にはできない」

「何言っとるんじゃ? お前のせいで磯風が、あんなんになってしまったんじゃろ!? でなきゃ、あいつが谷風と浜風を……親友を殺せる筈がない!」

「……磯風ちゃんが?」

 

 私の言葉にようやくそれらしい反応を見せた間宮は俯くと、申し訳なさそうに言った。

 

「そう、それは……私のせいね、きっと。ごめんなさい」

「――ッ! 謝るくらいならっ……!」

 

 その表情があまりにも悲痛だったから。

 それが許せなくて、私は、私は――――

 

「――なんだ、殺してしまったのか、浦風?」

「て、提督……ウチ……」

「酷いな、連装砲で無抵抗な彼女を殴り殺したのか。恐らく首の骨と頭蓋が完全に砕けているな。艦娘の力で殴られてはこうもなるか」

「ご、ごめんなさい……ウチはなんてことを……」

「いい、どうせ遅かれ早かれ死ぬ手筈だったんだ。まぁ、少々早すぎだが良しとしよう。自殺とでもしておくさ。そういう方面にも顔は効くのでね」

「ウチは、ひ、人殺しじゃ……」

「気にするな」

 

 そう言うと、提督は私を優しく抱きしめてくれた。

 とても温かかった。

 

「これは、全て間宮と磯風のせいだ」

「え……?」

「そうだろう? この二人がこんな馬鹿なことを始めなければ、谷風も浜風も殺されず、お前が手を汚すようなことにもならなかった」

 

 私に都合のいい言葉が、脳内に染みわたるように囁かれた。

 

「悪いのは、磯風だ。お前は何も悪くない」

 

 その甘い言葉に、私は堕落してしまって、そして、磯風に心の平穏を求めたのだ。

 彼女を恨み続けることで、私は、人殺しの罪悪感をなすりつけたのだ。

 そうしなければきっと私は今まで生きてこられなかったから。

 

 

「磯風、殺ス、殺ス、殺ス! 谷風ノ浜風ノカタキィイイイイイイイ!」

「ぐっ!」

 

 容赦なく放たれる砲撃に磯風はほとんど防戦一方。

 たまに隙を突いて撃ち返してみるも、直撃したところで、痛みがないのか一切ひるまない。ダメージはかなり与えられているので、体力的にはギリギリなのだろうが、そんなことを感じさせない覇気があった。

 

「くそ、やべぇぞ、こいつは……」

「フフ、徐々に追い詰めラれていくな。そシて、私の見立てではそろそロなんだガな」

 

 瑞雲を飛ばし、着実に天龍の艤装を削り壊していく日向の言葉と同時にそれは起こった。

 

「――ッ!?」

 

 ガキン、と嫌な金属音がしたかと思うと、天龍と磯風の航行速度が急激に低下する。

 原因は艤装の破損であった。

 しかし、ダメージによるものではない。

 元々、艤装にガタがきていたのだ。それを天龍や磯風レベルで動かせば、艤装が耐え切れないのは自明の理であった。

 

「やっべぇ! マジでやっべぇ! 磯風、そっちは大丈夫か!?」

「わ、私は、右足の方が壊れたが……まだなんとかなる! そっちは!?」

「俺は両足だ! 動けねぇぞ、畜生!」

「マぁ、そうナるな」

 

 たちまち、天龍の周りを瑞雲が取り囲む。

 

「近づクことはナイ。剣で勝負すル段階は既に終わっタ。今の私ハ貴方を如何に確実ニ、安全に殺スかだけを考えてイる。故に、私が貴方に近づクことはない」

「……成程、じゃあ、その瑞雲がなくなったら、どうするんだ?」

「なんだと? む!?」

 

 天龍の言葉に突然、上を見上げる日向。

 その先から何か鳥の集団のようなものが迫ってくるのが見えていた。

 

「馬鹿な、アれは……零戦、だと……!?」

 

夜闇に紛れて大量にやってくるその機体は、零式艦戦52型、彗星、天山。その三種類の艦載機で編成された航空隊であった。

 

『零戦だと!? 馬鹿な、ありえん! 夜間戦闘で艦載機を飛ばすなど……薬を使った状態でもまだ実現しえていない! そんなものは、深海棲艦以外にできる筈がない!』

 

 狼狽する犬見を他所に、零戦の一機についているらしいスピーカーから聞きなれた少女の実に能天気な声が響く。

 

『――待たせたわね! 真打、天才瑞鳳ちゃんの登場よ!』

 

 その声に、天龍がすぐさま野次を飛ばす。

 

「おせぇぞ、瑞鳳! マジで死ぬかと思ったぜ!」

『主役は遅れてやってくるものなのよ』

「いや、主役はお姉さまだからっ! お姉さまだからっ! お姉さま、だからッ!」

「プリンツ、無事だったか!」

 

 零戦と共にプリンツも気絶した那珂を引きずりながら声をあげる。

 彼女達の合流に、磯風と天龍に精神的な余裕が戻りつつあった。

 

「ま、マずい……瑞雲! 退避シろ! 急げ――――」

『させるとでも?』

 

 楽し気な瑞鳳の声と同時に、航空隊が天龍から霧散するように散った瑞雲を飲み込むように次々と撃ち落としていく。

 日向の顔がみるみるうちに青ざめていったかと思うと、一転、怒りに真っ赤に染まった。

 

「貴様ッ! 不意打チとは卑怯な! 貴様ニ瑞雲道ハナイノカッ!?」

『ごめん、何それ存じ上げない』

「おし、これで瑞雲はいなくなったな」

 

 激昂する日向は、ニヤリと笑みを浮かべて、刀の鯉口を切る天龍を見て、すぐに自分も刀に手をかけた。

 状況は二転、三転するも、最後には最初と同じ形となっていた。

 

「抜きな! どっちが素早いか試してみようぜ、という奴だぜ」

「ぐ、クソ、こんな筈でハなかった。そして、ここで終わル訳にはいかないのダ!」

 

 日向は刀を抜くと、迷わず一直線に天龍に突っ込んでいった。

 

(奴は、浮き砲台、こちらは『薬』で強化状態! 彼我の戦力差、大なり! 勝てる! 私は勝てる! 勝つぞ、私は瑞雲にかけて、全身全霊で勝つ!)

 

「ぬおおおおおおおおおお!」

「最後まで衰えぬその気迫たるや見事、だぜ。だが――――」

 

 何が起こったのか日向が認識したのは、彼女の身体が痛みに悲鳴をあげた瞬間だった。

 そして、彼女の身体が痛みに悲鳴をあげたのは、彼女の動きが止まり、腕から刀が零れ落ちてから数秒後だった。

 

「――お前の中の全部合わせても、俺には届かねぇ」

「は、なンで、私ノ身体動かナ……がっ!? え? 私の足ト腕……腱、切レテ……? 馬鹿な……お前、今の一瞬デ、一体何回だ? 何回私ヲ、斬って――――がぁあああああッ!」

 

 そのまま、断末魔と共に、体中から血を噴き出して日向は海面に倒れた。

 

 

「グゥ!? クソ! 生意気ナ、艦載機共ガァ!」

 

 彗星と天山の爆撃に晒されて尚もその視線は磯風にのみ注がれていた。

 

「浦風……」

「オ前ノセイダ! 谷風モ、浜風モ、間宮モ! 皆、オマエノセイデ死ンダンジャ、磯風ェエエエエエ!」

「そうだよ、浦風。皆私のせいで死んだんだ。皆、私が悪い。お前にも辛い思いをさせてしまった、すまない、浦風」

「謝ルナ……謝ルクライナラ、谷風ト、浜風ヲ、返セ! ウチノ、唯一無二ノ友達ヲ……私達ヲ、元ニ……戻シテ……! 全部、元に戻シテヨォ!」

 

 両目が真っ赤に染まり、顔にヒビのようなものまで入り始め、いよいよ人よりも化物にその容姿が偏ってきた浦風は、しかし、その目から赤い涙を流していた。

 

『やはり、適合していない……このままでは、どちらにせよ壊れるな』

「なんだと!?」

 

 犬見の言葉に磯風が声をあげる。

 

『ちょ、こいつ航空爆撃あれだけ受けて全然弱ってないんだけど!? しかも、こっちはもう残弾尽きたし!』

「くそ、プリンツ手を貸してくれ! プリンツ!?」

『あの子、弾薬尽きて役に立たないからって、大和探しに行ったわよ』

「くそ! 相変わらず大和大好きだな!」

 

 この猫の手も借りたい状況で、とぼやきたいのはやまやまだったが、それ以上に目の前が切迫していた。

 浦風は依然、健在。対して磯風はもう片方の足の艤装が壊れぬよう気を遣いながらセーブしての戦い。

 分が悪いどころか、このままでは確実に磯風は敗北する。何か手を打ちたいところだが、瑞鳳の夜間航空爆撃という切り札を切り終え、彼女達には本当になす術は残されていなかった。

 

「に、逃げろ、磯風! そいつはもうお前の手には負えねぇ!」

「いや、それだけはできない。私が逃げれば、次に狙われるのは動けない天龍だ。仲間を見捨てて逃げるなんて絶対にできない!」

「ヘェ、自分ノタメニ浜風と谷風ヲ躊躇ナク殺シテオイテ、ココノ仲間ハ見捨テナインジャナ? 随分エエ子ニナッタモンジャネェ?」

「……私は逃げない。お前からも、過去からも……! そのために、私は今日まで生きてきたんだ!」

「違ウ、オ前ハ今日、私ニ殺サレルタメニ、生キテキタンジャ! ソシテ、死ネ!」

『逃げなさい、磯風!』

 

 瑞鳳の悲鳴にも似た怒号と同時に、磯風の脳天に向けられた浦風の連装砲が火を噴いた。

 

 

「――提督、とりあえず、私達がやれることは全てやり終えましたけれど、鎮守府に戻りますか?」

「…………」

「提督?」

 

 どこか心ここにあらずと言った様子の提督の顔を矢矧が覗き込むと、彼は我に返ったかのように、慌てて頷いた。

 

「あ、すみません。そうですね! 帰りましょうか!」

「何か気がかりでも?」

「まぁ、それは色々ありますが、一番は……伊58のことですかね」

「え? なんで彼女が?」

 

 七丈島艦隊の心配かと思いきや、意外な名前が出てきて矢矧は即座に理由を聞く。

 提督は苦笑いを浮かべながら言った。

 

「いや、あの方は、というかあの子は……本当に、性格が、あれなので……伊58には荷が重いんじゃないかな、と」

「あの方? あの子?」

「いや、まぁ、色々あって私が呼んでおいた、助っ人みたいなものですよ」

 

 助っ人、という頼もしい単語を使う割に、提督の表情は優れなかった。

 

 

「――っ! う、ん?」

 

 私の目の前に巨大な黒い岩のようなものが現れたように見えた。

 それが、岩ではなく私の前に立つ誰かの影であることに気付くのに、数秒かかった。

 

「大丈夫、磯風? 全く、君は相変わらず無茶するなぁ。まぁ、夜戦で張り切っちゃうのは仕方ないけどね!」

「その、声……」

 

 どこか懐かしい声だった。

 顔をゆっくりと上げると、そこには短めの黒髪サイドテールが特徴的な代わり映えしない無邪気な笑みを見せる川内の顔が見えた。

 

「川内……!? どうして……ここに……」

「話は後だよ、ほら、立てる? 決着、付けるんでしょ?」

「……ああ! そうだな、そっちが先だった」

 

川内に肩を借り、立ち上がり、目の前の浦風を見る。

 

「銀髪、寮母サンニ見ツカル前ニハヨウチノパン食ベ、オ前、細スギジャ。オカッパ、何泣イトルン? マタ、寮母サンニ殴ラレタンジャナ? ショウガナイナァ、撫デチャルケェ、コッチオイデ――――」

 

 孤児院時代の幻覚でも見ているのだろうか。浦風は懐かしい呼び名を口にしては、虚空を見つめて延々と喋り続けている。

 しかし、私と目線が合うと急に豹変し、憎悪の視線を私に送る。

 

「磯風ェ、何デマダ生キテルンジャ? オ前ガ死ネバ、皆元通リニナルンジャ。キット、昔ミタイニ、辛イコトモ、楽シイコトモ、一緒ニ分カチ合エル、家族ミタイニ、キット……!」

「川内、合図したら勢いよく私をあいつに向けて押し出してもらえるか?」

「え、いいの? 真正面からじゃ蜂の巣じゃ?」

「大丈夫だ」

「……ま、磯風の実力は私が一番良く知ってるからね、わかった、信じるよ」

 

 そう言って、川内は腰を落とし、私の背中に手を乗せる。

 

「磯風……磯風、磯風、イソカゼエエエエエエエ!」

「今だ!」

「いっけぇえええええ!」

 

 川内の渾身の力で、私は鉄砲玉のように真っすぐに反対から向かってくる浦風に向けて飛んでいく。

 当然、浦風は連装砲を目の前にして今度こそ私の脳天を捉えんと引き金を絞る。

 

「ここだ!」

 

 このタイミングで、私は自分の艤装を起動した。とはいっても動くのは左足だけ。

 しかし、それがここで功を持した。

 左足のスクリューだけが回転し、それは、急カーブに近い軌道を生む。

 

「――!」

 

 避けられないと思っていた私が土壇場で回避したのがよほど虚を突かれたのか、私の回避に反応が遅れた。

 彼女の無防備な側面を取った時、私は躊躇いなく、連装砲を向けた。

 

「これで最後だ……!」

 

 砲火と同時に、砲弾は浦風の側頭部を直撃した。

 海面に浦風の身体が倒れ、それ以上起き上がってくることはない。

 

「浦風!」

「……ああ、磯風……今度谷風と浜風も誘ってまた、一緒に町に遊びにいこうな……私は、今度は……商店街の方とかも……見にいきたい、なぁ……」

「浦風、私は……」

「――磯風……ごめんなぁ…………」

「――ッ!」

 

 最後に、駆け寄る私に仰向けのまま虚ろな目でそう呟いた浦風はそれ以降、言葉を発することはなく、その体は冷たくなって海に飲み込まれた。

 

「謝るくらいなら……何で……ッ!」

 

 磯風は浦風の沈んだ海底を恨めしく見つめ、海面に手をついて頭を垂れた。

 

 

 磯風と浦風の決着が着いた頃、プリンツは、暗い海原を一人上機嫌で駆けていた。

 

「――ふんふーんふふーん! あ! きっとあれだ! あれに違いない! お姉さま! あなたの最愛のプリンツがお姉さまをお迎えにあがりましたよ! 手始めに熱い抱擁から――――」

 

 前方に見えた一人の艦娘の影を大和と認識し、飛び込んでいくプリンツの足は彼女の姿を目視した所で止まった。

 立っていた人影は確かに大和だった。

 そして、その足元には、白目を剥いて海面に倒れている伊勢の姿が見えた。

 しかし、その姿は見るも無残で、艤装はほとんど原型をとどめないまでに破壊の限りを尽くされていた。

 一体、砲撃のできない大和が、いや、砲撃ができるにしても一体どうしたらこのような惨状を生み出せるのかプリンツには想像がつかなかった。

 

「あ、あの、これは、お姉さまが?」

 

 恐る恐る質問するプリンツに、大和は振り返った。

 

「あら、プリンツ。無事だったんですね、良かった! 磯風や天龍は大丈夫ですか? 瑞鳳は?」

「…………」

「あれ、どうしたんですか? 私の顔に何か変なものでも――――」

「――お姉さまじゃない」

 

 プリンツは静かにそう言った。

 同時に大和の表情が固まった。

 

「ぷ、プリンツ? あの、流石の私もそういうことを真正面から言われるのは傷つくんですけど……」

「似てはいるけど、お姉さまじゃない。あなた……誰?」

「…………あら、わかるんですね」

 

 途端に大和の声色と雰囲気が一変した。

 プリンツは、反射的に距離を取るが、それを彼女は笑って手を振った。

 

「いやいや、警戒する必要はないですよ。別に危害を加える気はないですし」

「だ、誰!? あなた! お姉さまはどこ!」

「私が大和ですよ」

「違う! あなたは、今まで見て来たお姉さまとはなんか、よくわかんないけど違う! 私にはわかる!」

「……正直、これでバレないようでしたら私が大和()になるつもりだったんですけれど、まさかこんなあっさりバレてしまうとは、我ながらショックです」

「な、何言ってるのあなた……?」

 

 落ち込んだように肩を落とすと、再び笑顔を見せて大和は言った。

 

「まぁ、あの私も私なりに頑張っているということなんでしょうね。仕方ない、まだしばらくはあの私に大和()を任せることにしましょう」

「あなたは、誰なの?」

「言ったでしょう? 私は大和です。そして、あなたの良く知る私も大和。どちらも大和でどちらかが欠けても大和ではない、そんな感じです」

「うーん?」

「まぁ、きっといつかわかる時が来ますよ。それまで、どうか、大和()の良き仲間でいてくださいね、プリンツさん、そして七丈島艦隊の皆さん」

 

 そう言って優しい微笑を見せた瞬間、糸が切れたように大和は前のめりに意識を失って倒れる。

 プリンツが慌ててその体を受け止める。

 呼吸は安定している。どうやら気絶しているだけらしいとわかり、プリンツは胸を撫でおろした。

 

「お姉さま……お姉さまは一体何者なの……?」

「――あの、お取込み中失礼します」

「ふぇ!?」

 

 途端に、背後から声をかけられ、プリンツは変な声を洩らしてしまう。

 振り向くとそこには和服を着た丁寧な物腰の女性が立っていた。

 

「七丈島艦隊の大和さんとプリンツさんですね? 私は軽空母鳳翔。佐世保鎮守府提督、大将海老名(えびな)(かおる)の命により、七丈島鎮守府の救援に馳せ参じました」

「ふぇ……大将……!?」

 

 思わぬビッグネームの登場に、プリンツからまた変な声が洩れた。

 

 

 




今日がクリスマスってまだ認めてないから(真顔)

そして次回磯風編完結、新年までに間に合わせる所存。

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