七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
いくつかの謎を残しつつも磯風編、完結。




日常編3
第六十四話「ところで、学生時代の話をしようと思うんだが」


 犬見との対決から二週間の時間が過ぎ、そのほとぼりも冷めつつあるある日の七丈島。

 

「――ふぅ、いやぁ、本当にここはいい所だねぇ。食べて、遊んで、寝てのスローライフ。まさに私にとってのユートピアだよ、この鎮守府は」

「海老名ちゃん、いつまでウチにいんだよ!?」

「いや、全くよ」

「本当にな」

「もう他の皆帰っちゃったよぉ?」

「正直、そろそろ帰った方がいいと思いますよ、本格的に」

「なんだよなんだよ! 皆して海老名ちゃんを追い出そうとしやがって! でも、皆そんなこといいつつ私に構ってくれるから許しちゃう!」

 

 七丈島艦隊の面々から総突っ込みを受けつつも、佐世保鎮守府大将、海老名薫は依然として七丈島鎮守府に居座っていた。

 

「いや、だってなぁ」

「伊58の奴、任務終わりにウチに寄っては海老名ちゃんを迎えに来てたのに、ついに昨日から来なくなったぞ?」

「これはいよいよ愛想をつかされたのでは?」

「嘘だい嘘だい! 佐世保の皆だってなんやかんや海老名ちゃんを甘やかしてくれる優しい娘達なんだい! きっと、迎えに来てくれるんだい!」

「――海老名提督、あ、やっぱりここにいた」

 

 海老名が食堂の机にだらしなく突っ伏しながら腕を振り上げて抗議の声を上げている最中、矢矧が彼女の名前を呼びながら入って来た。

 

「お? 矢矧ちゃん、どしたの?」

「いえ、その、佐世保鎮守府の提督代理、鳳翔さんからウチに電報がありまして」

「お艦だ! やっぱりお艦は私を裏切らないんだ!」

「最後通告かもしれないわよ」

「黙れ! 鳳翔さんは私の母になってくれるかもしれない女性だ!」

「だからなんなんだ」

「内容を要約すると『伊58が可哀そうなのでもう勝手に自分で帰ってこい』って……」

「おかぁあああああああああん!」

 

 食堂に海老名の悲鳴がこだました。

 

 

「ひどいやひどいや。海老名ちゃん、一文無しなのにどうやって帰れと?」

「何故そんな状態で一人ウチに残った」

「だってぇ、ひぐっ、あまりに離れがたくてぇ……うぇぇ……でもぉ、私と七丈島艦隊は、ズッ友だょ……!」

 

 机に突っ伏してふざけた嗚咽を洩らす海老名に七丈島艦隊の面々からは呆れたため息しかでなかった。

 

「ところで、学生時代の話をしようと思うんだが」

「なんだ、唐突に!?」

「帰ってください」

「そんな冷たい反応、ひでぇや……聞きたくないの?」

「いや、興味はありますけど」

「だよねぇ、矢矧っちも興味あるよねぇ? 先輩も出てくるよ?」

「は!? な、なんでそこで提督がでてくるんですか!?」

「うへへ、カワイイ反応ご馳走様です。じゃあ、早速話そうかね」

 

 海老名から話を振られて動転する矢矧を見てニヤニヤしながら、海老名は体を起こし、自分の胸を触りながら語り始めた。

 

「そう、あれはまだ私の胸がGだった頃――――」

「何、その導入!?」

「ちなみに今はIさ。アイちゃんと呼んでくれてもいいんだぜ?」

「得意げな顔やめろ!」

「早く回想始めてくださいよ!?」

 

 

「――すごいね、海老名! また成績トップだよ!」

「ああ、うん、そだね」

 

 提督の適正があるだの言われて、祖父が提督であることもあり、勧められるまま入った士官学校の三号生としての生活が数か月過ぎ去ったこの段階で、既に私の熱は冷めきっていた。

 生来、私は、誰かに頼られるよりも頼っていたい人間なのだ。

 物心ついた時から、頑張れば頑張るだけ、次のハードルが高くなっていくことを理解していた。

 ハードルを越えられなくなった時、周囲から向けられる失望の痛みと恐怖を知っていた。

 だから、期待されたり、責任を負ったり、頑張りたくない。皆の前に立つよりも、後ろから先頭の背中を追っていたい。

 大きな栄誉と成功は望まない、その代わり深い失墜もない。そんな平穏にして平凡な人生が私の目標だったのに。

 私こそ、凡骨に生まれるべき人間だったのだ。しかし、神は、必ずしもその人にその人が望む才能を与えるわけではない。

 私には、自分で思っているよりも遥かに高い提督としての資質が備わっていたようだった。

 

「海老名と合同の班ならA+評価も余裕だな」

「また、今度勉強教えてよ!」

「よっ、我らがエース!」

 

 頼られて、期待されて、こんなのは私の望むものじゃなかった。

 だが、そんな贅沢を口に出すことを赦される筈もなく、私は日に日にあがっていくハードルを見つめながらいつか訪れる失墜に震えた。

 しかし、図書館でとあるレポートに関する資料集めをしていた時、私は運命の出会いを果たしたのだ。

 

「――『艦娘の存在定義における社会的地位の変革』ですか? 面白い本を読んでいますね?」

「どうした、主席殿?」

 

 眼鏡をかけた柔らかい笑みが印象的な男性と、その隣で訝しげな表情でこちらを見る凛々しい顔立ちの男性。

 二人の襟元の学年章に輝くⅢの文字を見て一号生ということを理解した私は瞬時に背筋が伸びて体が緊張で固まってしまう。

私が言葉を返しあぐねていると、凛々しい顔立ちの方の先輩がなんの断りもなく、急に私の本を取り上げて尋ねた。

 

「……確かに、普通のレポート課題には使わないような本だ。君は何のためにこれを?」

「あ、いや、突然『艦娘が人か兵器か』って論題でレポート書いてみないかって教官にいわれましてぇ……」

「それは、私達が一週間前にやったディベート議題と全く同じですね」

「一号生相当の課題を三号生の君が? 成程、間の抜けた顔をしている割にそこそこ頭は優秀らしいね」

「この海老名ちゃんのご尊顔を前にしてなんて失礼な! そっちこそ友達いなさそうな陰気な雰囲気出してる癖に!」

「なんだと……?」

 

 凛々しい方の先輩は眉間に皺を寄せ、その目を細める。

 やばい、まさか図星だったか。

 軽く生命の危機すら感じるその険悪なムードを壊してくれたのは、隣に立ってずっと私のレポートの紙面を見ていた眼鏡の先輩であった。

 

「あなたは、艦娘は人か、兵器か、どちらと考えているのですか?」

「おい、主席殿。もうそんな話はいいだろう。まずはこの礼儀のなってない後輩に教育をだね――――」

「犬見君、少し黙っていてください」

「なっ……!?」

「海老名さん、というんですよね? どう、思いますか?」

 

 犬見と呼ばれた先輩を制して、私の顔を覗き込むようにして質問を続ける眼鏡の先輩から私は目を逸らしつつ口を開いた。

 

「わ、私は、別に、その、色々偉い人の著書とか読んでみても、艦娘が兵器とか人間だとか、正直わからないです」

「……わからない、ですか」

「いや、わからないってのは艦娘が兵器か人なのかわからないんじゃなくて……えー、なんというか、そういうのを区分する必要性がわからないです」

「はぁ?」

 

 犬見先輩が、何言ってんだこいつみたいな顔をしている。

 しかし、眼鏡の先輩の反応は真剣に私の次の言葉に耳を傾けている様子だった。

 

「別にどっちでもいいじゃないですか。そもそも艦娘自体が新しい概念なのにそれをわざわざ今までの概念で区別する必要なんてあるんですかねぇって話です」

「しかし、曖昧なままでは問題が起こるだろう」

「でも、曖昧にしといた方がいい場合もありますよね。曖昧ってことは決まってないってことで、つまり融通が利くってことですから」

「その曖昧な基準を悪用されたらどうする」

「そんな奴を提督にしちゃうこと自体が問題では?」

 

 私と犬見先輩の終わらぬ問答に眼鏡の先輩が手を差し出して制止した。

 

「……成程、面白い意見です、そのレポート、よろしければ私達もお手伝いしましょうか?」

「え、マジですか!?」

「主席殿、今さらっと僕も巻き込んだか?」

「三人で頑張りましょう!」

 

 それをきっかけに、私は彼らと交友関係を築くことになった。

 しかし、普通の一号生ならばともかく、まさか、この二人が噂の海軍士官学校始まって以来の天才二人組だとは露知らず、そんな二人とつるんでいる私もまた伝説として祭りあげられては同期から余計に羨望と畏敬の視線を集めることになった。

 だが、それ以上に嬉しかったこともあった。

 

「先輩! 航海戦術Ⅰの勉強見てくださいよー!」

「いいですけれど、私だけじゃ不安なので犬見君も一緒に三人でやりましょうか」

「えー、先輩とマンツーマンがいいー」

「僕に勉強を見られるのがそんなに不満か」

「だっていぬみん先輩、厳しいんですもん」

「お前の理解が浅すぎるからだ。お前はまず復習が足りてないんだ。一度授業を聞いただけで理解できるほどデキの良い頭か、こいつは?」

「あうっ」

 

 教科書で私の頭を叩く犬見先輩を見た周りの生徒の囁きが聞こえてくる。

 

「海老名の奴、また犬見先輩に説教されてんな」

「流石の海老名もあの人達に比べたら全然だもんな」

 

 同期の中では頭一つ抜けて優秀だった私も先輩達の前ではただの平凡な後輩として成り下がってしまう。

 おかげで周りの私への過剰な期待は先輩達の威光におおよそ払拭され、ハードルも随分と下がった。

 私はやっと私の望む正当な評価を得ることができたのだ。

 先輩達出会って、私は私らしく振舞えるようになった。そんな先輩達と共に過ごす時間は私にとって最も安らぐ一時だった。

 

「――いいか? 艦娘は兵器、それがあれの真価であり、効率を考えるならば慣れ合いは不要だ」

「えー、慣れ合いは大事ですって! 艦娘がなんで皆あんなムチムチの太ももしてると思ってんですか!? 膝枕のために決まってるでしょ!?」

「今、そういう話はしていないだろうが!」

「あ、いぬみん先輩、もしかして膝枕されたことないんですかぁ? しょうがないなぁ、先輩、ほらカモン!」

 

 私は山のように積まれた本の中心に埋もれるようにして一心不乱に文献を漁っている先輩の方を見ながら、彼をそこに誘導するように自分の太ももを両手で叩いた。

 

「なんで、私なんですか……?」

「いや、いぬみん先輩が膝枕の気持ちよさをわかってないみたいですから実演をと」

「犬見君にしてあげればいいじゃないですか」

「めっちゃ嫌です」

「海老名、随分と僕に対して舐めた態度を取るようになったじゃないか」

「先輩なら全然オッケーなので、さぁ、どうぞ! 最近卒論でお疲れでしょう!? ささ、カワイイ後輩のムチムチの太ももへいざ行かん!」

「すみません、今は忙しいので遠慮しておきます」

 

 私がつれない先輩の返答に頬を膨らませていると横で犬見先輩がニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「全く、お前は努力と徒労を嫌う癖に学業だけでなく、恋でも険しい道を歩む気か?」

「いぬみん先輩、うっさいですよー」

「完璧人間の主席殿も女心までは解さないときた。まぁ、こういう欠陥の一つくらいあった方が僕としては好ましいのだが、お前には酷な話だな」

 

 ぐぬぬ、と唸っている私に犬見先輩は耳元に顔を寄せて呟く。

 

「もういっそ、告白でもしてしまえばいい」

 

 その瞬間、私の身体の温度が一気に3度は上昇した。

 

「そして、あえなく玉砕するがいい」

「うるさい! いぬみん先輩はそんなだから彼女の一人もできないんですよ! ばーかばーか!」

「僕は別に恋人は必要としていないのでね」

「それモテない男の常套句ですから! ばーかばーか!」

「一応、僕個人に対してファンクラブが存在しているのはお前も知っているだろうに。こう見えて僕はモテるんだよ、海老名」

「顔だけの癖に!」

「それで十分だよ。人間は外見以外見えてなんていないからね。海老名、相手が見えるのはハッキリしている表層だけだ。曖昧な心の内までは決して見えない。わかるな?」

「うわああああ! いぬみん先輩の癖に良い感じのこと言いやがってぇええ! 海老名ちゃん、学生寮帰る!」

 

 犬見先輩に言い負かされ、私はダッシュで自習室を出て行った。

 

「相変わらず犬見君と海老名は仲いいですねぇ」

「どう見ても海老名は君の方に懐いているだろう。僕には噛みついてくるだけだよ、あれは」

「喧嘩するほどなんとやらと言うでしょう? 犬見君は女心がわかってませんねぇ、ふっふっふ」

「……はぁ、これだ」

「なんです、そのため息!? 犬見君、今間違いなく私のこと小ばかにしたでしょう!」

「呆れているんだよ。後半年もすれば卒業だというのに何をやっているのやら」

 

 

「――続く!」

「続くのかよ!?」

「え!? というか、海老名ちゃん、提督のこと……」

「おいおい、自己紹介で言ってたじゃーん。将来は先輩に専業主婦として養ってもらうって」

「冗談だと思ってましたよ!」

 

 何気にとんでもない事実が暴露され、聞いていた七丈島艦隊の面々は全員驚愕に包まれていた。

 

「ていうか、海老名ちゃんいつ堕ちたのよ」

「いつだろーね? いつの間にかって奴じゃないかな?」

「ファンクラブって、あんな腐れ外道が人気あったのか。まぁ、確かに顔だけは良かったがな」

「おお、言うねぇ、磯風ちゃん! 海老名ちゃん的にもいぬみん先輩は私を甘やかしてくれねぇから全然ピクリともこなかったわ! 先輩に会いに行く度に遭遇してたからある程度口は利いてたけどな!」

 

 色々と話が広がって盛り上がっている中、矢矧だけが何とも言えない表情で海老名の方を凝視していた。

 

「矢矧っち、なぁ~に、見てんのぉ? 海老名ちゃんが実は恋のライバルだって知って警戒してんの? かわいいなぁ、ちょっとスケベしようや」

「いえ、そういう訳じゃないです。後、こっちにじりじり寄ってこないでください」

「まぁ、でも、今はもうほとんど諦めてるから安心していいよ」

「え、そうなんですか? もしかして学生時代に告白とかしてたり?」

「…………うん、したぜ」

「え!?」

「終わったことだし、ここまで来たらその時のことも話してやんよ!」

 

 

「先輩、その、好きです……とか言われちゃったりしたらどうします!?」

「……え? 海老名からですか?」

「え!? あの、その……いや私でも、私じゃなくてもぉ、じゃあ、一応私だったとしたら……?」

 

 我ながらここまではっきりしないのはどうかと思う。

 先輩の卒業まで一か月となったその日、私は先輩と二人きりになったタイミングで唐突に話を切り出した。

 多分、空気を読んだであろう犬見先輩が色々お膳立てをして私を嘲笑しながら去っていったのが非常に腹立たしいが、今だけは感謝しよう。本当に助かりました、犬見先輩。

 

「うーん、申し訳ないですけれど想いに応えることはできません」

「あ、やっぱそうですよねー、あはは」

 

 当然だ。大きな栄誉や成功は求めない、その代わり深い失墜もない。それが私の生き方。ここで結果を求めるのはそもそも筋違いなのだ。

 だから、こんな私が先輩とこれ以上深い関係になれるはずがない。

 ああ、ちゃんと笑えているか心配だ。だって、思ったよりもこれ、辛い。

 

「あのー、一応理由とか聞けたりします?」

「……忘れられない人が、いますから」

「――――あ」

 

 その瞬間、私の目から流れ出るそれを止めることはできなかった。

 

「え!? 海老名!? どうしたんです!?」

「あ、う、ご、ごめんなさい……私、こんなつもりじゃ……」

 

 先輩の言葉を聞いた瞬間に私は理解してしまったのだ。彼には、私なんかよりもずっと大切に思う誰かがいて、私はそれにはなれないのだと。

 曖昧にしてきたことが、はっきりと形になって現れた時、私はそれから目を背けられない故に堪えられなかった。

 

「主席殿」

「い、犬見君、あの、これは、どうすれば……」

 

 大方どこか物陰で様子を伺っていたのだろう。犬見先輩が私と先輩の方に無表情のまま歩み寄ってくるのが見えた。

 しかし、今の私は溢れ出る涙を止めるので精いっぱいで彼に噛みつく余裕すらない。

 

「落ち着くまで頭でも撫でてやれ。今の君にできるのはそれくらいだ」

「う、うえっ……いぬみん先輩の癖に……!」

 

 辛うじて言えたのはその一言のみ。

 それを聞いて呆れたようにため息を洩らす。

 

「まぁ、海老名にしては、頑張ったな」

 

 それだけ言い残して去っていく犬見先輩の背中を見て、私は余計に涙が抑えられなくなった。

 

 

「――うっわ、我ながらはっずい! ごめん、やっぱ今の忘れて! 私恥ずかしすぎて泣きそうなる!」

「ううっ、海老名ちゃん……本当に、提督のこと、好きだったんですねぇ」

「やめて、大和ちゃん! そんなマジ泣きやめて! なお恥ずかしいわ!」

 

 海老名が感動して涙をこぼす大和に顔を真っ赤にして詰め寄っている。

 

「犬見の癖に生意気な」

「そう! 海老名ちゃんその磯風ちゃんみたいな冷めた感想が欲しかった!」

「いいじゃねぇか、海老名ちゃん、青春じゃねぇの!」

「いやぁ、もう、本当にご馳走様です」

「うわああああ! 天龍ちゃんと瑞鳳ちゃんのニヤニヤうっぜえええええ! 海老名ちゃん、悶えるううううう!」

 

 一方で、プリンツと矢矧は俯いて黙りこくっている。

 

「その反応はその反応でなんか怖いな……どしたん?」

「いや、私……そういう恋バナはちょっと……NGっていうかぁ。ごめん、部屋戻ってお姉さまのパジャマの匂いかいでくるね」

「お、おう? いってらー」

「ちょ! プリンツ! 私のパジャマって何ですか!? 待ちなさい!」

 

 そのままプリンツとそれを追って大和が食堂から消えた。

 

「忘れられない、人……!」

「あ、矢矧ちゃん、もしかして海老名ちゃんと同じようなショック状態になってる?」

「うぐぐぐぐ」

「はっはっは! まぁ、精々頑張れよ、監察艦どのよぉ!」

「いやぁ、海老名ちゃんのおかげで今後の七丈島も面白くなりそうね!」

「スタンリング起動。対象、天龍と瑞鳳!」

「ぎゃああああああああ!?」

「ぴゃああああああああ!?」

 

 天龍と瑞鳳に制裁を加えつつ頭を抱えて机に倒れこむ矢矧の頭を海老名ちゃんは優しくなでていた。

 

「まぁ、あれだよ。私は駄目だったけれど、矢矧っちはまだこれからだからさ。応援するぜ、同志としてね!」

「海老名大将……!」

「まぁ、私も実はまだ諦めてなかったり――――」

「――おや、ここにいたんですか、海老名?」

「きゃあああああああ!?」

「私の顔見て悲鳴あげないでくださいよ!?」

 

 突然、食堂に入って来た提督を見て海老名が顔を真っ赤にしながら悲鳴をあげる。

 

「ほら、海老名。交通費、貸してあげますから今日のフェリーで佐世保に帰りなさい」

「わ、わかりました! 海老名ちゃん、もう恥ずかしくてここいられないし、言われなくても帰ります! アリーヴェ・デルチ!」

 

 提督が差し出した封筒をひったくるようにして風の如く海老名は鎮守府から走り去っていった。

 

「……やっぱり実は嫌われてるんですかねぇ、私。結構学生時代は良い友人関係を築けたと思ってたんですけれど」

「提督の朴念仁」

「え、矢矧、何です急に!?」

「何でもないです。さっさと、執務に戻りますよ」

「え、私、これから昼休憩だったんですけれど!? ちょ、痛い! 矢矧、なんか機嫌悪くないですか!? 矢矧!?」

 

 提督の腕を力任せに引っ張りながら、矢矧は大きくため息を吐いた。

 

 

 

 




あけましておめでとうございます(2月)

本当は恋バナする予定じゃなかったけれど書いてたらいつの間にかこんなことになってた。バレンタイン近いし妄想の中でくらい青春してても仕方のないことだよね(死んだ目)

次回はバレンタイン回です。

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