イタリア参戦
真っ暗な空の下、真っ赤な海の上に、俺は立っていた。
俺は刀を構え、息を荒くして相対する『敵』に斬りかかるタイミングを図っている。
――やめろ
俺の意思とは関係なく、体は勝手に目の前の敵に向かって走る。
――やめろ
『敵』は何もしてこない。その姿はまるで影のように不自然に真っ黒でよく見えない。
だが、俺がこちらに向かってきているのには気が付いているのか、棒立ちのままだがはっきりとこちらを見ている気がした。
そして、俺の腕は刀を頭上に振り上げ、間合いに入ったところで刀を勢いよく振り下ろす。
影は避ける素振りすら見せない。
――やめろ
刀は影を袈裟斬りにした。真っ黒だった影から真っ赤な血が噴き出し、俺の顔に飛沫となってかかった。
その生温い血を左手で拭いながら俺の頭は倒れた影を見るように下がっていく。
――やめろ
やめろ、見たくない。やめてくれ。しかし、目をつむることも、目を覆い隠すこともできないまま、俺は海面に倒れるその影を見てしまった。
否、それは既に影ではなかった。
そこにははっきりと、血まみれになり、目を見開いて倒れる龍田の死体があった。
「あ、ああ……!」
俺は情けない声をあげ、へたりこんでしまう。
すると、死んだ龍田の目だけがギョロリと動き、俺を見た。
恨めしそうに、憎らしそうに、俺を、見た。
「――――うわああああああああああああああっ!」
水飛沫のはねる音と自分の悲鳴で目が覚めた。
過呼吸になりそうな程荒い呼吸を落ち着けながらゆっくりと辺りを見回す。
確か俺は綾波と戦っていて、最後の最後で負けて、気絶していた筈だ。
「ん!?」
今更ながら自分の身体がいつの間にか全裸になっていることに気が付く。
しかも、身体は湯の中に浸けられている。
見間違いでなければおそらく自分が寝かせられていたこれは、艦娘の損傷回復、通称『入渠』に使われる艦娘修復剤浴槽ではないだろうか。
自分の身体の傷が綺麗になくなって、痛みも消えているのがその推測を裏付ける十分な証拠と言える。
取りあえず一通り、自分の状況を確認し、ふと周りを見回して俺は更なる驚きに声をあげた。
「あ、綾波!?」
自分の隣の浴槽ではついさっきまで戦っていた駆逐艦綾波が同じように寝かせられていた。
同じく傷は綺麗になくなっているようだが、目を覚ましてはいない。
一体、俺が気絶してから何があったというのか。
そんな考えがよぎった瞬間、何よりも優先すべき存在に気が付いた。
「龍田は!?」
左右を見回すが、龍田だけは姿が見当たらない。既に入渠を終えてこの浴室から出て行ったのか、それとも。
嫌な想像が働き、それをかき消すよう首を振る。
考えているだけじゃ状況は変わらない。まずは動こう。
「取り敢えず、俺の服、服っと」
まずは自分の着替えを探しに立ち上がった瞬間、浴室の引き戸がガラガラと開いた。
「天龍、目が覚めたんですね」
「……大和」
どこか厳しい表情の大和と目があった。
☆
「
「ぐっ!?」
ザラとポーラの主砲から次々と放たれる砲弾。
それは龍田の周囲に着弾し、着弾と共に真っ白な煙を辺りに振りまいた。
(砲弾じゃ、ない……!?)
「
「イタリア製麻酔砲弾。いままで使い道のなかったガラクタがまさかこんな形で役に立つ時が来るとは工廠の連中も驚くでしょうね」
「本当にねぇ~」
白い煙に包まれた龍田を見てザラは苦笑を浮かべ、ポーラは愉快そうに笑っていた。
イタリア製麻酔砲弾。イタリアの兵器開発部で鹵獲兵器として作られた特殊砲弾。深海棲艦の意識を奪い、体を麻痺させる麻酔弾である。
しかし、深海棲艦一体を麻酔状態にするために相当量の弾数が必要になり、最低二隻の艦娘の装備が麻酔弾で埋まってしまう他、当然、損傷を与える兵装ではないために結果として艦隊戦においてはほとんどお荷物にしかならない。
艦隊の一隻、二隻をほぼ無力化した状態では鹵獲どころかそもそも艦隊戦での勝利すら危うくなってしまうため、実用性に乏しいと判断され長らくお蔵入りしていた装備だ。
しかし、非戦闘員の多い環境において、一隻の深海棲艦を鹵獲する任務という状況下においてはこの兵装程都合の良いものはない。
「この麻酔弾は非殺傷兵器かつ、麻酔ガスは人間には影響しない。こういう非戦闘員がうようよしている島内でも構わず撃てるってわけだ」
「物は使いようね」
機嫌よく鼻歌混じりに解説を終えると、エドはザラとポーラの艤装の背面を開き、そこに隠しておいた捕獲用のカプセルのパーツを取り出すと、慣れた手つきで組み立て始める。
「さて、少々窮屈なホテルで申し訳ないが、何、一眠りしているうちにチェックアウトだ。そう不自由は感じない筈さ」
白い煙の中にいるであろう龍田に語り掛けるエドだが、その瞬間、煙を突っ切って、龍田が飛び出してくる。
「エド!」
ザラがエドを突き飛ばし、間一髪薙刀の刺突を躱す。
「馬鹿な! 麻酔弾が効いてないのか!?」
「いや、あれ……」
ポーラが龍田を指さす。
彼女の顔には、さっきまでなかった鼻から顎までを真っ黒な『ガスマスク』が覆っていた。
それは、深海棲艦の潜水カ級の口元を覆うものによく似ているように見えた。
「マンマミーア! そんなのアリか!?」
「ど、どうするのよ、エド!」
「あれ~、もしかしてぇ、万策尽きてな~い?」
「いや、策はある!」
エドはそう言って素早く立ち上がり、龍田を睨む。
「たった一つだけ、策はあるぞ!」
「本当、エド!?」
「ああ、とっておきの奴さ!」
「エド~、もしかしてそのとっておきって……」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せると、エドは即座に龍田に背を向けると、全力疾走する。
「逃げるんだよォォォ――――!」
「なんでそうなるのよぉおおおお!」
「うわ~、逃げろ~」
先陣を切ったエドに素早く反応し、ザラとポーラも一目散に駆け出す。
その素早さたるや、数秒もしないうちに三人の姿が龍田の視界から消え失せる程であった。
「……本当に逃げたみたいね」
薙刀とガスマスクを霧散させ、龍田はため息をついた。
しかし、不意に視界が歪み、ふらつき、近くの塀に手をついて体を支える。
「ぐ……やっぱり少し、吸っちゃったみたいね……危なかったわぁ」
あの脅しで撤退してくれて助かった。あのまま戦い続けていたら本当に鹵獲されかねなかった。そう、龍田は安堵して笑った。
☆
「……よぉ、数時間ぶりってとこだな、大和」
「おかえりなさい、天龍」
そこまで言葉を交わして再び二人は無言になった。
天龍といえば、何かを言おうと幾度か口を開きかけるも、いずれもいたたまれなくなったのか寸前で止めて口を閉じてしまう。
大和は浴槽につかる天龍を見下ろすだけで何も喋ろうとしない。天龍が何かを言うまでただ待っているようにも見える。
やがて、2分ほどの空白の後、天龍が覚悟を決めたかのように口を開いた。
「大和、龍田はどこだ?」
大和の目を真っすぐに見つめて問う。
それに対し、大和の答えは――――
「――――ぐぼっ!?」
顔面への鉄拳。
そういえば矢矧にも以前こんな感じでグーパンをかましていたなと天龍は後ろにのけぞりながら思い出していた。
「ってぇ! 何すんだよ!?」
「何を言うのかと思えば、がっかりですよ。もっと先に言うことがあるんじゃあないですかぁ?」
「う……その、悪かった」
「何がですか?」
「いや、その、怪我の介抱させちまって――――」
「そっちじゃねぇでしょうがぁ!」
「2発目ッ!?」
再び大和の右ストレートが天龍の顔面にめり込んだ。
「お、おま……乙女の顔面に……2発て……」
「何で、たった2人で行ったんですか!?」
大和の表情は険しかった。
「そりゃ、お前、迷惑かけたくねぇんだよ、俺の都合で」
「天龍のことだからそんなことだろうと思いましたよッ!」
「げふぅ!?」
3発目の拳が入る。
「お前! ちょっとバイオレンス過ぎねぇか!?」
「あなたが、泣くまで、殴るのを、やめないッ!」
「……うっぜぇな!」
大和が4発目の拳を振りかぶったのを見ると、天龍が浴槽から大和に飛び掛かる。
「ぐぅ!?」
「なんなんだよ、俺とテメェらはもう切れただろうが。テメェは俺の母ちゃんかなんかかよ。知った風な口きいて偉そうに説教しようとしてんじゃねぇぞッ!」
天龍の頭突きが大和の顔面に命中する。
今度は大和が仰向けに倒れる。そこに天龍が馬乗りになるとさらに顔を何度も殴りつける。
「これは俺の問題だ。お前ら他人がズケズケ入ってきていい問題じゃねぇんだよ!」
「もう巻き込まれてんですよ、こっちは!」
「知るか!」
大和が馬乗りになった天龍の身体を掴みながら転がり、引きはがす。
ものすごい力で横転させられた天龍は受け身を取り切れず、全身を強く打ちながらそれでも立ち上がる。
大和も鼻血を親指で拭いながら立ち上がり、天龍を睨む。
「余計なお世話だってんだよっ! 俺の問題に首突っ込んで何が楽しいんだ! テメェらに得なんてねぇだろうが!」
「馬鹿にすんのも大概にしてください! お節介上等! 損得勘定で
大和が浴室の床を蹴り、天龍に向かって突進する。
しかし、天龍は避けるでも、迎撃するでもなく、挙げていた拳を下ろして、大和には聞こえないように小さな声で言った。
「知ってるっての」
「この、馬鹿――――うぇ!?」
天龍の目の前、そこで大和の身体がバランスを崩した。
浴室の床で足を滑らせたのだ。
大和は態勢を立て直せず、天龍は避けられず、そのまま、両者の額がぶつかり、浴室に大きな音を響かせた。
「っ~~~~~ッ!」
「いったぁ――――ッ!」
しばらく頭を抱えて浴室の床を転がりまわる二人。
最初は涙ぐんで悲鳴をあげていた二人だが、その悲鳴は徐々に笑い声に変わっていった。
「締まらねぇなぁ、おい。こんな喧嘩の終わり方があるかよ」
「し、知りませんよ! 慣れてないんですから、喧嘩とか!」
「まぁ、いいか。こういうのも、偶には悪くねぇ」
起き上がった大和が天龍の方を見下ろすと、彼女は右腕を目元に被せて笑っていた。
「本当に馬鹿ばっかだ、ウチの艦隊は」
「あなたも含めてですけどね」
「はっ、言うようになったじゃねぇか、新参の癖によ」
大和は笑って自分の赤く腫れた額を押さえながら言った。
「天龍って、『助けて』って言いませんよね」
「……そうだったか」
「今まで1回も言ってなかったと思います。少なくとも私は言われたことはないです」
「まぁ、別に一人でできるんならそれに越したことはねぇし、一人じゃできねぇことならやらねぇからじゃねぇの?」
「今、天龍がやってることは一人でできることなんですか?」
「……難しいぜ」
天龍の声が沈む。
「じゃあ、そう言えばいい。私達は仲間なんですから。助けて、助けられて、そこに遠慮はいらない筈でしょう? 矢矧の時も、磯風の時も、そうしてきたじゃないですか」
「ああ、そうだったな」
「私達は仲間なんだから、一人で抱え込まないでください」
「……なんか、以前にも龍田に似たようなことを言われたの思い出したわ」
「え?」
天龍はゆっくりと立ち上がると大和に深く頭を下げた。
「悪かった。頼む、俺に力を貸してくれ」
「最初っからそう言えばいいんですって!」
大和は心底嬉しそうに笑った。
☆
「――と言う訳で天龍が七丈島艦隊に帰ってきました」
「おかえりー」
「知ってた」
「どうせそんなことだろうとは思ってたわ」
「あんな啖呵切って出て行った癖に一日もたないとか、プークスクス」
「いつも通りだな、お前ら! あと瑞鳳は喧嘩売ってんだよな? そうだよな?」
天龍が口に手を当てて笑う瑞鳳の胸倉を掴んで持ち上げている。
やっと、いつもの七丈島艦隊らしくなってきたと大和は内心ほっとしていた。
「すみません、綾波さんにまで高速修復材を使って頂いて」
「気にしないでいいわ、別に敵ってわけじゃないんだから」
賑わう食堂の中、神通が神妙な様子で頭を下げた。
それに対し、矢矧はなんでもないことのように返す。しかし、実際ここの備蓄を考えると高速修復剤というのは貴重品であり、なけなしの資材を削っていることには変わりない。
ここから先は、もう傷を負ってもすぐには回復させられない状況に追い込まれていた。
「まだ意識、戻らないの? 傷は回復したと思ったけれど」
「はい、おかげさまで傷は全快していました。目覚めないのは綾波さんの準備というか、まぁ、とにかく明日には目を覚ますと思うのでご安心を」
煮え切らない返事をしながら神通は張り付けたような笑顔を見せる。
「まぁ、それならいいわ。今の問題は龍田をどうするかね」
「龍田は、俺が気絶した後どうなったんだ?」
「深海棲艦として完全に覚醒し、いなくなりましたよ。龍田さんとしての意識は残っていたみたいですが」
「…………そうか」
「天龍、あなた、もしかして龍田が深海棲艦であることを承知で、彼女を助けようとしたの?」
矢矧の質問に、天龍がゆっくりと頷いた。
「なんでそんなことを……」
「艦娘が轟沈後、深海棲艦となって現れるっていう話は噂話程度にはよく聞くわ。あの龍田がそうだって言うわけ?」
瑞鳳の問いに天龍は首を振った。
「確かにあれは龍田が深海棲艦になったものだ。でも、轟沈してなった訳じゃねぇ。あいつは、深海棲艦に変えられたんだ」
「変えられた……?」
「だから、俺は龍田を今度こそ助けなきゃならねぇ。あいつをDW-1に変えた張本人、『鏑木美鈴』に会って元に戻させるために……!」
鏑木美鈴。その単語を聞いて、数人の艦娘が反応を示した。
神通、瑞鳳、大和の三人。
「鏑木、美鈴……!」
「やっぱ、何人かは心当たりあんのな」
「誰なんだ、それは?」
「――なんだ、興味深い話をしているな」
食堂に入ってきたのは、武蔵の姿だった。
口元に血の跡を残し、体中に青痣を作りながらも、彼女はそれを意にも介さず笑っている。
「武蔵さん……その傷、どうしたんですか?」
「くくく、いや、油断していた、と言う訳でもないのだがな、くくく、あきつ丸とかいう奴は中々陸に置いておくには惜しい人材だよ」
「それほどの実力者でしたか……」
「え!? 私達を逃がした後そのまま戦って、勝ったんですか!?」
「まぁ、負けてはいないな。かと言って向こうがあれで大人しくなるとは思えんが」
今、最も注視すべき敵対勢力、蜻蛉隊。その隊長をのしてきたというのだから大和はすっかり気が抜けてしまった。
瑞鳳や矢矧もその出鱈目さに声もでていないようだった。
「掟破りというか、なんというか……」
「闘争にルールも何もないさ。さて、そんなことより天龍の話を聞きたいのだがな、私は」
「……ああ、そうだな。この際だし、全部話しとくぜ。俺と龍田の過去に一体何があったか、鏑木美鈴が何者なのか」
天龍は食堂のテーブルにつき、他の皆もそれに倣い、テーブルを囲んだ。
「これは、俺が、
☆
日が落ちて、見通しが悪くなると、蜻蛉隊の隊員はキャンプを設営し、各々身体を休めることになった。
無論、七丈島の周辺海域を交替で哨戒しながらではあるが、島内の捜索は一旦打ち切られた。
頭や腕、衣服の下にも包帯を巻いたあきつ丸の命令によって。
「本当に良いんですか、隊長! 結局我らはやられっぱなしではないですか!」
「良い。どうせ、夜目の効く深海棲艦相手では人間は追いつけない。艦娘である私とまるゆ、ロスヴァイセは別でありますが、それでだけでは捜索班としてはあまりに不足。ならば、夜間は島外への逃亡のみを警戒し、体を休める方が得策でありましょう」
レーションをかきこむあきつ丸に原田は食い下がる。
「お言葉ですが、DW-1に殺された隊員達の無念はどうなるのです! 坂本は、堀井は、横田は! 彼らの死を思うのならば、今すぐにでも――――」
「原田」
あきつ丸が空になったレーションのプレートとスプーンを置いて、原田の方を睨む。
それだけで原田の背筋が自然と伸びてしまう。
「坂本、堀井、横田の犠牲を尊ぶお前の気概は買うであります」
「は、はい」
「だが、感情のまま生き急いでも仕方がない」
「う、ぐ」
「遺体は回収したでありますな? であれば、この任務が終わった後に彼らは故郷の土へ還してやらねばならない。そのためには、必ずこの任務を生還せねばならないのであります。わかるな?」
「はい……」
うなだれる原田の肩に手を置き、あきつ丸は笑う。
「何、心配せずとも必ず機会は訪れるであります」
原田を背に立ち去りながら、頭の包帯を外す。
そのあきつ丸の表情からは今さっき原田に見せた温和な笑みは消え、憤怒の炎が燃え上がっていた。
DW-1の逃走を許し、更には隊員を失ってしまったこと、そして、武蔵に敗北を喫したこと。数時間の間に起きたあらゆる結果が、彼女の表情を歪ませる。
あきつ丸は小さく呟く。自分に言い聞かせるように、戒めとするように。
「正義は、我々にあるのであります」
☆
私は人目につかない裏路地で隠れるように身を縮こませている。
先刻受けた麻酔弾の効果が頭を朦朧とさせるのだ。
どこかで一旦休まなければならないだろう。
幸い、日が沈んでからは蜻蛉隊や横須賀の連中が自分を追って来る気配はない。
横になるスペースもないが、誰にも見つからないという点ではこれ以上優秀な休息所はない。
――私は、天龍ちゃんが、大好き。
私は頭を抱える。
自分の思考が別の何かに侵食される感覚に怯えていた。
塗りつぶされるのではない。自分の中に別のものが入ってきて徐々に溶け合い、やがて一つになっていく。
私は私なのに、徐々に私ではなくなっていく。
――私は、天龍ちゃんを、殺したい。
「違う……!」
――私は強い天龍ちゃんが大好き、だから、殺したい。
「違う、違う、違う……私は、そんなこと望んでない……!」
ああ、拙い。
このままじゃ、私はどんどんおかしくなってしまう。
天龍ちゃん、どうか私を早く助けに来て。
私がおかしくなる前に、どうか私を、殺しに来て。
――あの時みたいに。
次回から過去編に移ります。