七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
七丈島・横須賀共同作戦開始




第九十五話「雑兵があまり目立つものではありません」

「さて、皆行ってしまったね。この鎮守府は僕と君の2人きりだ」

「気持ち悪い発言はやめてもらえるかしら、エドモンド・ロッソ提督? 私はあなた達を完全に信用しているわけじゃないのよ」

「エドでいいよ。僕も矢矧と呼ばせてもらうからね」

 

 全員が出撃してから、エドは矢矧に笑いかけるが彼女はそれを冷たくあしらい、距離を取る。

 

「さて、交戦まで5分くらい時間があるわ。その間に聞かせてもらうわよ、あなた達の目的を」

「目的ね、いいだろう。僕は女性には嘘はつかない主義なんだ」

 

 ウインクしながら矢矧の方へ歩み寄るエド。

 矢矧は警戒を強めながら彼の次の言葉を待った。

 

「DW-1をね、どうしても手に入れたいんだ、僕達は」

「……随分と耳が早いのね」

「油断しないことだよ。日本は世界最大の艦娘技術大国。内部にスパイの1人や2人潜んでいて当然だ」

「龍田をどうするつもり?」

「安心してくれ。僕達はDW-1の技術さえ盗めればいい。酷い目にはあわせないさ。色々体は調べさせてもらうし、実験にも協力してもらうが、極めて丁重に扱うことを誓おう」

 

エドは人懐っこい笑みを向けてそう言った。矢矧の目から見て彼が嘘を言っているようには見えない。

だが、矢矧は首を振った。

 

「悪いけれど無理ね」

 

エドは非常に驚いた表情を見せた。

 

「母国の肩を持つのかい? 日本と諸外国の技術競争なんて君はくだらないと切り捨てると思っていたのだけれど」

「ええ、くだらないわ。だからこそ、そんなくだらない理由で龍田は渡せない」

「そうきたか」

 

 エドは顔に手を当てて愉快そうに笑った。

 

「君達がDW-1のことを本当に大切に思うのなら、彼女の亡命先として僕達を利用するのは悪くない案だと思ったんだけどなぁ」

「そうね、確かに魅力的な提案ではあるわ。でも、必要ないわ」

「どうしてだい?」

 

矢矧はそこで初めて誇らしげに笑った。

 

「あなたの力を借りなくても、私達の提督がなんとかしてくれるからよ」

「……なるほど。幸せ者だな、ここの提督は」

 

エドも矢矧の目を見て何かを察すると両手を上げて自嘲気味に笑う。

 

「ま、いいさ。全部が終わったらもう一度交渉させてもらうよ」

「諦めが悪いわね」

「母さんが言っていたんだ『女の子を振り向かせるにはアタックをやめないことだ』ってね」

 

その後、七丈小島の方を見てエドは言った。

 

「まずは彼女達の無事と勝利を願おうじゃないか」

 

 

「さて、こうなるとは思っていましたが、流石に凄い量ですねぇ」

「あんた、楽しそうね」

 

 神通を見て嘆息する瑞鳳。

 それも無理はなく、今、彼女達の目の前には数十の深海棲艦とそれを迎撃する黒い外套の集団、蜻蛉隊が埋め尽くしていた。

 

「数十分前に偵察した時より明らかに敵増えてるわね……」

「さて、どこから手をつけましょうか」

 

神通と瑞鳳がどう介入するか考えあぐねていると、突然高らかなで尊大な笑い声が周囲に響き渡った。

 

「ふはははは! 今頃になってようやく来たか、七丈島艦隊!」

「あれは……蜻蛉隊の方でしょうか」

「原田とかいったわね」

 

陸軍式艤装は一度見ているが、原田のものは他のものとは明らかに重装備になっているのが見て取れた。

今までの蜻蛉隊の中での扱いから考えても彼がこの分隊の頭目なのだろう。

 

「ふん、たった2人か、つまらんな。おい、今すぐに逃げ帰れば見逃してやる。疾くこの場から消えるがいい」

「何あいつ、感じ悪いわね」

「相手にするだけ面倒ですよ。私達は私達の……――――っ!」

「――――なッ!?」

 

 瑞鳳と神通はほぼ同時にそれに気がつき、海面を蹴った。

 即座に彼女達の立っていた場所が爆発と共に水柱に包まれた。

 

「随分なご挨拶ね」

「チッ、仕留めそこなったか」

 

 魚雷。

 おそらくは瑞鳳と神通に声をかける事前に撃っていた。大仰で挑発的な台詞はそのカモフラージュだろう。

 

「あきつ丸隊長からはお前達を見つけ次第沈めて構わんと命を受けている。お前達は任務の障害になるのでな」

「うわぁ、じゃあマジで三つ巴の戦いってわけ? 想像した限りでは最悪のパターンだわ」

「いえ、むしろ分かりやすくなりました」

 

 面倒そうに顔を歪める瑞鳳とは対照的に、神通は笑った。

 そして、腰の刀に手をかけながらゆっくりと引き抜いていく。やがて、太陽の光を反射し、銀色の淡い光を放つ美しい長刀が姿を現し、その切っ先が原田に向けられた。

 いや、実際には原田だけではない。

 その場の『敵』に対し、神通は刀を向けたのだろう。

 その証拠に、それまで混沌とした戦場は瞬間、一変し、あらゆる方向に向けられていた殺意は総じて神通1人に集合していた。

 

「この場の全員を倒せば良いというだけのこと」

「全く頼もしい限りだわ。援護は任せなさい」

 

 瑞鳳は呆れてため息しか出なかった。しかし、横須賀艦隊にとってそれが決して強がりでも大げさでもないことは瑞鳳自身よくわかっていたし、事実、現状の圧倒的戦力差を目の前にしても、微塵も負ける気がしなかった。

 

「全員を、倒す? 貴様如きが? ふざけたことを……!」

 

 神通の言葉に、青筋を浮かべ、震えているのは原田だ。

 彼は黒鉄の手甲と、腰の艤装に取り付けられた砲塔を彼女に向けると、先んじて飛びかかる。

 陸軍式海上戦闘用機動兵装丙型『ワダツミ』。その特性は万能性。艦種によりその役割を分ける艦娘の艤装とは真逆の構想。

 このワダツミは潜水艦と空母を除いた全艦種の特性を併せ持つ。

 詰まる所、この装備が与えるものは駆逐艦の機動力と戦艦の火力、その両方である。

 

「速いッ!」

 

 あの重装備をして駆逐艦並の速度。しかもその軌道は決して単調ではなく、ジグザグと容易く迎撃を受けない航法をとっている。

 頭に血が上ってなおも彼の戦闘経験値の高さが瑞鳳の目からも伺い知れた。

 

「貴様ら、艦娘が、艦娘如きが! 英雄面をするなど、恥を知――――」

 

 急旋回から神通の背後を取り、砲火が吹かんとする寸前、神通は既に『溜め』を作っていた。

 腰の捻じり。それは即ち、刀を振る際に回転力を増すための『溜め』。それに気が付いた時には既に遅く、原田が砲の引き金を引く0.1秒前――――

 神通を中心に、局所的な嵐が巻き起こった。

 

「が……あッ……!?」

「ごちゃごちゃ五月蠅いですよ」

 

 一体、神通の刀がどのような軌道を描いたのか、真上に吹き飛ぶ原田のあげる血しぶきから彼が一体どれだけの数の斬撃を受けたのか、全く想像がつかない。

 瑞鳳などは神通の溜めに気が付いていたからまだ良かった。

 少し遠目から見ていた他の蜻蛉隊の隊員達には、原田が彼女に近づいた瞬間、かまいたちにでも遭ったようにしか見えなかっただろう。

 

「雑兵があまり目立つものではありません」

 

 『修羅』がそう言ってニコリと笑った。

 

 

「はは、あはは、くははははははッ!」

 

 地獄の底から響いてくるような笑い声。その音源は目の前の蜻蛉隊、深海棲艦全ての攻撃を一手に引き受けながら、また、砲を撃ち返す武蔵である。

 

「なんだ、何故倒れない!?」

「これが『超越者』武蔵……!」

「くそ、隣の重巡洋艦には何故当たらん!?」

「まるで弾が避けていくようだぞ……!?」

 

 一見して、武蔵の笑顔は猛々しさが相まってむしろ恐ろしい。悪魔の笑顔とはこんな感じなのだろうかとプリンツは武蔵の横で適度に砲撃を繰り返しながら思っていた。

 交戦開始から早くも10分。武蔵は大体の砲撃に当たり、プリンツにはほとんどの砲撃が当たっていなかった。

 奇妙なことに、武蔵の嗜虐願望とプリンツの幸運体質は相性が良かったのだ。

 

「ふ、この私にここまで当ててくるとは……敵も中々やる……!」

「いや、そもそも避けてないよね? 時には当たりにいってるよね?」 

「何を言っているんだ、プリンツ! 何を言っているんだ!」

「言い訳くらいしてよ」

 

 結局、武蔵は終始何を言ってるんだ、しか連呼できなかった。上手い言い訳が思いつかなかったのだろう。もしかしたら言い訳するつもりがなかったのかもしれない。

 

「どうした、プリンツ? 何か機嫌が悪くないか?」

「ああ、お姉さまと離れてる時の私こんなもんだから」

「なぁ、聞きたいのだが、お姉さまというのは大和のことだよな?」

「え、当然でしょ?」

「そんなゾクゾクする嘲笑をされてもな。私には大変な驚きだったのだが」

 

 武蔵に嘲笑をこぼすプリンツに対し、武蔵も興奮に背筋を震わせていた。

 

「……血は、繋がっていない、よな?」

「姉妹に血の繋がりなんて大して重要じゃないよね?」

「それが全てだったと記憶しているのだが」

「関係ないよ、お姉さまはお姉さまだもん。私が認めて、お姉さまも認めている。そこにそれ以上のものが必要なのかな? ねぇ? どうなの? ねぇねぇねぇ?」

「わかった、私が悪かった。好きなように罵れ、叱れ、殴ってくれてもいい」

「平手、グーパン、どっちがいい?」

「両方頼む」

「こいつら敵を目の前に何やってんの!?」

 

 思わず蜻蛉隊の方から怒声が飛んだ。

 

「くっそ! あんな変態共が何で倒せない!」

「誰が変態だって!?」

「何であんな嬉しそうに!?」

「誰が変態だ!」

「お前は自覚ないのかよ!?」

「ああああ! 疲れる! これ戦闘以上に疲れるものがあるわ!」

「せめて深海棲艦の方が片付けば火力を集中してこんな減らず口を叩かせないのに!」

「何?」

 

 その言葉が合図だった。

 それまで半ば浮き砲台を演じていた武蔵が、動いた。

 動き、砲を撃つ。ただそれだけなのだが、それをやるのが武蔵ならば、大和型ならば話は別。

 数多の轟音、水柱が1分程度続き、その間は蜻蛉隊もプリンツも、誰も動くことはできなかった。

 

「……凄い」

 

 プリンツはその武蔵の姿を見て思わずそう呟いていた。

 歴史をたどれば、絶対的な力と平伏はイコールなどだとわかる。あまりに強大すぎる力というのは、反撃すら許さないのだ。

 そこに立つのは、力をふるう一人のみであり、その他全ては平伏を絶対とさせられる。

 武蔵の今の姿とは、まさにそれだった。

 その1分間、文字通り彼女以外の誰もが反撃の余裕は愚か、逃げることすらできない。ただ、その力の行使が終わるまで姿勢を低くして祈ることしかできないのだ。

 

「ふぅ、あらかた片付いたな」

 

 辺りを見回しつつ武蔵は呟く。

 彼女が動く前と後で変化したのはただ一つ。蜻蛉隊、七丈島艦隊両方に襲い掛かっていた深海棲艦が一隻残らず消えているという点だ。

 しかし、最も驚くべきはあの混沌とした戦場の中、蜻蛉隊の隊員は一人も傷つけぬまま、深海棲艦のみを沈める荒いように見えてその実、繊細な技術。

 

「まさか、全部武蔵一人で沈めたの……?」

「いや、私は7割程度だ」

 

 武蔵は、彼女自身の砲撃によってあがった飛沫によって一時的な霧が出ている正面を細目で見据えながらそう答えた。

 

「3割はあいつに持っていかれた。大した兵士だ」

「あいつ……?」

 

 馬鹿な、とプリンツは武蔵の言葉を疑った。

 あの純粋な暴力の嵐の中を動くだけでも難しいと言うのに、深海棲艦を狩っていたと言う。

 

「絶対的な力をふるう暴王は歴史の中で何度もでてきました。しかし、その都度その力を諫める者が現れるのもまた必定。その一つが、暗殺者(アサシン)の存在」

「ほう、人は見かけによらない……いや、その見かけもまた真の実力をくらます良き隠れ蓑という訳か」

 

 晴れゆく霧の向こうから声が返ってくる。か細い、少女の声。

 霧の向こうに見えるその人影はプリンツよりも遥かに小さい。

 

「無暗に力を行使する暴王の目も届かぬ闇の中に私達は潜み、その愚行を諫める。暴王にとっての天敵とは私達なのでしょう」

「あなたは……」

 

 霧が晴れ、少女の姿がプリンツの目にも映った。

 

「武蔵さん、力持つあなたは果たして暴王でしょうか?」

「まるゆ、お前がこの分隊の頭か?」

「まるゆ……」

 

 憂い気な表情を武蔵に向けるまるゆを見て、プリンツは驚きを隠せない。

 昨日、鎮守府で出会った彼女は戦いを好まない、ただの少女といった印象で、蜻蛉隊の空気とはまるで真逆の雰囲気をまとっていた。

 それが今は、冷たい殺意を確かに放っているのだ。

 

「武蔵さん、あなたが力の使い方を弁える賢王ならば、その矛を収めてそのまま鎮守府に帰ってくれませんか?」

「まるゆ分隊長!? 何を言っているのです!? あきつ丸隊長からは七丈島艦隊も排除目標と命じられたではありませんか!?」

「戦う気はないと?」

「はい、戦いなど無意味で無益な行為です。話し合いで解決できるのなら、私は喜んでそちらを選びます」

「ははは、では今お前が沈めた深海棲艦達も対話を試みてから沈めていたというわけだ。なんという早業だ、まるで見えなかったぞ」

 

 武蔵の皮肉がかった言葉にまるゆはますます憂いの表情を濃くした。

 

「深海棲艦に対話という能力があれば、そうしていました」

「……ふむ、それで、お前の提案を呑めないと言ったらどうするのだ?」

「あなたが死ぬというだけです」

 

 まるゆはまるで当たり前のようにそう答えた。

 それに対し、武蔵は高らかな笑い声をあげる。

 

「くはははは! 私を殺すと言ったか!? 素晴らしいな! ゾクゾクするぞ、まるゆ! 遠慮はいらん、是非やってみてくれ!」

「とても、残念です……」

 

 互いに睨み合いが始まると共に場の緊張感が増す。

 

「ねぇ、2人で盛り上がってるところ悪いんだけれど、私どうすればいいかな?」

「ふむ、ではプリンツは他の隊員の方を頼む。本当は蜻蛉隊の火力集中を受け止めたかったが……まるゆに集中することにしよう」

「えぇ……結構人数多いんだけどぉ」

「頑張ってくれたら、お前の活躍とご褒美を大和に口添えしておこう」

「その約束、守ってもらうッ! 絶対にだッ!」

「いや、お前はわかりやすい変態で助かる」

「あなたには変態って言われたくないよ、変態!」

 

 背中を合わせ、武蔵とプリンツはそれぞれの敵と向かい合った。

 

「ふ、では、変態コンビ結成だな! 行くぞ、プリンツッ!」

「その名前やめてくれる!?」

 

 

 一方、七丈島南方海域。

 

「…………」

「…………」

 

 一言の会話もないまま、磯風と綾波は深海棲艦、そして襲い来る深海棲艦と蜻蛉隊を着実に退けていた。

 

(気まずいなぁ……味方でいてくれるのは有難いのだが……)

 

 磯風が1人の深海棲艦を倒す間に綾波は3隻を、蜻蛉隊の隊員1人倒す間に2人を倒してしまう。

 戦力としてはこれ以上ないのだが、もう少し連携を取ってくれてもいいのではないかと磯風は綾波に目配せを繰り返していた。

 しかし――――

 

(あ、また無視された)

 

 目は合う。だが、綾波はそれを見て嫌そうな顔を見せ、視線を逸らすのだ。

 そんなことがもう3回も繰り返されている。流石の磯風も我慢の限界とばかりに口を開いた。

 

「おい、綾波! 頼むから作戦中くらいは協力してくれないか!?」

「お断りします~、別段私は困ってないので」

「くっそ、頑固者め!」

 

 取り付く島もないとはまさにこのことだ。

 綾波は終始ソロプレーに徹するつもりだ。磯風も彼女の頑なな態度に腹を立て、声をかけるのも億劫になってきていた。

 2人の雰囲気はまさに最悪。それでもどちらも倒れていないのは双方の実力がそれだけ高いことを証明していた。

 

「遅い、ね」

「――――ッ!」

 

 不意に、綾波に対し、1つの影が飛び込んできた。

 即座に回避行動をとった綾波の足元に銀色の三節棍らしきものが勢いよく叩きつけられた。

 

「……蜻蛉隊にいた仮面の隊員か」

「この海域の蜻蛉隊分隊長ロスヴァイセ、と名乗ることにしていた。でもまぁ、もういいか」

 

 ロスヴァイセと名乗る彼女はそう言ってフードを外し、仮面に手をかけた。

 

「頃合いだし、もう正体明かしてもいいでしょう。あー、結構話し方変えるのって疲れるわ」

 

 フードからライトブルーの髪が流れ出る。

 口調も中性的なものから女性的なものに変わった。

 そして、仮面の下から見えたその顔を見て、磯風は息をのんだ。

 

「改めて自己紹介しましょうか? 私は叢雲。今は訳あって蜻蛉隊の助っ人をしているわ」

「お前、まさか、天龍と龍田を……陥れた……」

 

 磯風の言葉に叢雲は不思議そうな表情を見せる。

 

「あら、天龍から聞いたのかしら? ええ、その通り。じゃあ、知っているのでしょうね、私が鏑木提督の陣営であるということも」

「お前が……!」

「一応忠告しますが、怒りに任せて突っ込むのはやめてくださいね~。あなたじゃ瞬殺されますよ~」

 

 頭に血が上りつつある磯風を横から綾波が制止した。

 

「だったら、手を貸してくれ! こいつは、なんとしても倒さなくちゃならない!」

「お断りします~。こいつを倒すのは同じですが、仲良しごっこをする気はありません。私1人で倒します」

「なんでそんなに強情なんだ!」

「ふふ、仲が悪いのね。出会ったばかりの天龍と龍田を思い出すわ」

 

 楽し気に笑いながら、三節棍から素早く槍の形態に変化させ、切っ先を向ける。

 

「どちらからでもいいわよ? 好きにかかっていらっしゃいな」

「むかつきますね~。なんで上から目線なのでしょうか~」

 

 先に動いたのは綾波。

 勢いよく海面を蹴り、叢雲との距離を一瞬で詰めると、その顔面に砲口を向け、容赦なく引き金を引いた。

 爆発音と共に叢雲が煙に包まれ、のけぞるが、すぐに無傷の彼女の顔が煙を切って現れ、綾波の懐に潜り込みつつ、再び槍を三節棍形態にして、彼女の腕に巻き付け自由を奪う。

 

「何で上から目線かって? 簡単なことよ。私の方が格上だから、よ!」

 

 叢雲が腕を振り下ろすと、綾波は海面に叩きつけられた。

 

「綾波!」

「さて、次は――――っ!?」

 

 綾波の腕に巻き付けた槍。それがびくとも動かない。

 先刻までの綾波の腕力ではこれはありえないことだった。

 

「もう、攻撃は終わりですか~、自称格上さん?」

「あら、怖い怖い」

 

 綾波の腕に巻き付けた槍を解き、再び通常の槍として構えなおす。

 叢雲の表情には依然、笑顔が残るが、先刻よりもかすかに固くなっているようにも思えた。

 

「『ソロモン』起動。さぁ、格の違いを教えてさしあげますよ~」

 

 綾波の目が、赤く光った。

 

 

「おや、私がアタリだったようでありますなぁ」

 

 大和、天龍、ザラ、ポーラは、今七丈小島を目の前にして、足を止めていた。

 

「おいおい、しょっぱなからラスボス戦じゃねぇのか、これ?」

「避けては通れそうにありませんねぇ」

「え、ちょ、何あの滅茶苦茶怖い艦娘! すっごい強そうじゃないの!」

「うわ~、あれはお酒でも飲まなきゃやってられないわぁ~」

 

 目の前に立ちふさがる蜻蛉隊。そして、その先頭で爛々と好戦的な目を輝かせる隊長、あきつ丸。

 彼女達の威圧感にすっかり大和達は気圧されつつあった。

 

「他の海域でも既に交戦開始の報告を受けているであります。我々も始めましょうか」

「おい、大和! あと、イタリア組も! 構えろ! マジで死ぬぞ!」

「ぐぅ……!」

「ひえぇ!」

「帰りた~い!」

「ここは私が受け持つ。全員、深海棲艦の殲滅と七丈小島への上陸に全力を尽くすであります。DW-1は目の前、絶対に逃がすな」

 

 あきつ丸の言葉が終わると同時に蜻蛉隊の他の面々は七丈小島へ向けて走っていく。

 時間的な猶予も残されていないらしいことにますます追い詰められていく。

 

「時間がねぇ。さっさとぶっ倒させてもらうぜ」

「不可能でありますな。私の正義はあなた程度の存在で揺らぐものでは到底ないであります」

「援護します」

「わ、私も!」

「微力ながら頑張りま~す」

 

 腰を落とし、縦拳を構えるあきつ丸と、刀を抜き、上段に構える天龍。

 両者が同時に海面を蹴り、戦いは始まった。

 こうして七丈島の周囲は、余すことなく戦火に包まれた。

 

 




遅ればせながら今年もよろしくお願いします。

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