俺ガイル短編集   作:黒猫withかずさ派

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新作ではありません。編集作業のための投稿をお許しください。


パーティー×パーティー

 

 

 

 12月に入り、急に皆が申し合わせたように忙しく動き出していく。ニュースを見ていても、年が暮れ、新年を迎える準備におわれているとか、受験勉強もラストスパートなど、なんとなく俺までもが忙しくしていないと申し訳なくなってしまいそうになる。

 誰が年末は忙しいって言ったんだよ。師走っていう言葉が悪いのか?

 まず、「走」という漢字が入っている時点で、走り回っていろっていう強迫観念を植え付けようとしていないか。そもそも、本当に12月は忙しいのだろうか?

 1月は、新年の始まりであり、あいさつ回りや仕事始めで忙しい。しかも、正月休み中で滞っていた仕事や、年末に見ないふりをしていた仕事もダブルパンチでやってくる。

 2月は、3月の年度末に向けての調整や、大学・高校受験生の入試も山ほどあって忙しく見える。

 3月は、まあ、年度末で忙しい。さらに、卒業って聞くと、引っ越しやら新たな生活の準備もしなきゃいけないなぁって憂鬱になってしまう。

 じゃあ、フレッシュな4月はどうか。やっぱり憂鬱だ。新入生なんて新たな学校に行って、新しい環境になじまなくてはいけないから、まじで勘弁してほしい。

 5月も、ようやくなじんできた新しい環境もひと段落できると思いきや、ゴールデンウィークで混雑しているのに遊びに行かなくてはいけないっていう強迫観念が押し寄せる。社畜なんて、連休獲得のために前倒しで仕事したり、後回しにした仕事が連休後に顔をみせて、ぞっとして卒倒しそうじゃないか。俺だったら、そのまま気絶して、なんならもう一回連休ゲットしたいほどだ。

 ……なんて、12月まで忙しい理由を考えてみたがどれもかれも似たような理由で忙しい。じゃあ、なんで12月だけが忙しいって言うんだよって、文句を言いたくもなる。

 というわけで、世間の波にのまれない男比企谷八幡は、自分のペースを守ることを堅く誓った。マイペース最高じゃないか。人に合わせて自分のペースを乱すなんて、馬鹿がやる事だ。

 そんなかんだで有意義な休日を過ごすべく、広いダブルベッドを一人で占拠しながらうつろな目つきで出窓を眺めていた。

 窓の外には寒々しさを五割増しするようなどんよりとした雲が広がっている。ただでさえ寒いのに、見た目まで寒くするのはやめて欲しい。ぬくぬくと心地よい羽根布団を身にまとっているのに、温かさが半減するだろ。

 気分を変えるべく冷え切った空から目線を下に移していくと、雪乃が置いたサンタ人形が目に入ってくる。これはたぶん12月に入ったころにおかれたんだと思う。

 シックな装いの寝室に仕上がったこの部屋には、ある意味不釣り合いのクリスマスオブジェともいえよう。部屋の中央に置かれたどっかの高級ホテルにあるんじゃないの?って思ってしまうダブルベッド。

 そのシーツは淡いクリーム色で統一されていて、ほんのりとした温かさを感じさせる。たしか、夏は薄いブルーだった気もするから、雪乃が季節に合わせて色を変えているのかもしれない。

 他に寝室に置かれている調度品といえば、ナイトテーブルに置かれている読みかけの本や淡い光を生み出すテーブルランプくらいしかない。この寝室に外での生活を一切寄せ付けたくない主の性格をよく反映されていた。

 だからといってなんなんだが、新たに加わった季節限定の人形といえども、どうも異物に思えてしまった。

 それに、初めてこのサンタ人形が置かれた日にまじまじと確認したんだが、どうもこのサンタ、おかしい。赤いコートに、白い髭。いかにもサンタっていう恰好はしている。しかし、どう見てもサンタ採用試験があったら、間違いなく不採用になるはずだ。

 どうおかしいかというと、なんだが普段は社畜やってて、兼業でサンタやってますって言われてもおかしくない疲れ切った目をしている。いやいや、ストレートに言ってしまえば、目が腐っていた。

 夢を配るサンタが疲れててどうするんだって言いたくもなるし、全国の親御さんからのクレームもきてしまうほどの代物をよくも販売してるものだとも販売業者に訴えかけたい。きっと雪乃の事だから、売り残ってかわいそうなサンタオブジェをみかねて、店員が試しに一個だけ入荷させた現品限りの埃をかぶった新品オブジェを同情心から買ったのだろう。

 ただなぁ……、このサンタだけはないだろうに。

 リビングには人の背丈ほどあるツリーがいかにもクリスマスですって存在感をアピールしているし、玄関にもクリスマスリースがかけられ訪問者を歓迎している。まあ歓迎する相手の数は極めて少なく限定されているけど。あと、キッチンでされスノードームが置かれて、どの部屋であってもクリスマスを感じられるように配置されていた。

 おそらくだけれど、雪乃がどこでもクリスマスの温もりを手放したくない現れだって思えてしまう。だけど、ある意味統一されたクリスマスムードの中で、この寝室のオブジェだけは選択ミスだと、この俺でさえ判断できる。

 まあ、いいか。雪乃が好きで選んでるんだから、俺がけちをつけれべきでもない。さてと、とりあえず雪乃に頼まれていた買い物だけでも済ませておくかな。

 朝から雪乃は由比ヶ浜と一緒にお菓子作りの練習だし、俺の出番はない。むしろ毒味という死刑宣告を回避すべく、早々に外に退避すべきだ。

 そんなわけで、寒い寒いと思っていた北風が吹き狂う空の下へとやってきたわけだ。ただし、ダークレッドのダウンジャケットに、墨のマフラーは標準装備。これに黒のニット帽をかぶってるんだから防寒は完璧なはずだ。あとは、登山用タイツも装着したのならば完全なる装備だけど、今日は近場だしいらないか。

 このままスーパーに行ってもいいのだが、せっかく外に出たんだしと、クリスマス気分を味わうべくクリスマスカラーに彩られたショップを眺めつつ散歩をすることにした。寒いというのに子供は元気なもので、親よ早く来いとせかしながら走っていく。

 今日は休日ともあって家族連れが多かった。だから、むしろ俺みたいな一人身の方が返って目立ってしまう。通い慣れた街中は特にみたいものがあるわけもなく、店の中を外から冷やかす事はあっても中に入る事はまずない。

 でも、せっかくだし一軒くらいは、……とようやく見つけた店は、雪乃と何度も来た事がある雑貨屋であった。店内に一歩踏み入れると、効きすぎた暖房が暴力的に俺を歓迎してくる。こんな歓迎はお断りなんだが、無料で暖房を提供してくれるんだし文句は言えまい。

 俺に出来るせめてもの抗議運動といったら、マフラーをさりげなく外すくらいだろう。

 首もとを緩めて店内を見渡すと、女友達同士の客がメインだが親子連れも少しはいた。たしかにキッチングッズや女性用のちょっとした衣料品が置かれているのだから、男性客がいる方が目立ってしまう。

 俺も何度か雪乃がこの店でエプロンなんかを買っていなければ、一人で入ろうとは思いはしなかったはずだった。

 まあ、用がなければ俺が立ち寄ることもないだろうけど、今日は寝室で見た悲哀に満ちたサンタクロースを思い出してしまったので、この店に入ったわけなのだが。この店は、なぜかクリスマスが近づくとクリスマスグッズが増えていく。

 クリスマス直前となると、その華やかさに釣られて新規の客も来るそうだ。

 おそらくなのだが、あのサンタオブジェ。この店で買った可能性が高い。去年はなかったはずだし、最近買ったのならば近所のこの店だと思われる。

 俺はひときわ赤や緑に彩られているコーナーを見つけると、一直線に足をむける。小さな店内。他のコーナーにあるとも思えないし、あるとしたらここだろう。

 あんな残念なサンタが盛大に売り出されてはいないだろうなぁと目を走らせていくと……ありました。

 なんで? これって、売れるの?

 なんと、下の方の棚ではあったが、クリスマスオブジェの一角に堂々と存在感を醸し出していた。雪乃が買ったのが最後一体ではないってことか。とりあえずその一体を手に取り裏返して見ると値段は980円。

 とりあえず妥当な値段なのだろう。でも、980円も出しても欲しいか、これ?

 世の中の感性と流行に疑問を持ってしまう。俺の感覚が変なのかなって、ちょっと自信を失いかけたので、急ぎ手にしていた元凶を元ある場所へと置きなおした。もう一度だけまじまじと見つめてはみるが、これはない。どうみたってやばいだろ?

 近くで親にじゃれついている子供が見たら、きっと泣きだすはずだ。だって、隣にある普通すぎる陽気なサンタのほうが子供も喜びそうだし。

 ……いっか、俺の店じゃないし。売れ残って在庫処分に困るのは、ここのオーナーだしな。

 残念サンタの出所と値段を確認した俺には、もはや残念すぎるサンタへの興味は失っていた。むしろ一番上の棚に輝く元気があふれまくっているトナカイに興味が移っていた。

 なにせこのトナカイ。他のトナカイよりも一回り体つきが小さいんだけど、どうも元気が有り余っている感が漂っている。しかも、なんだか小生意気そうな表情を浮かべているのも、なんだか愛らしい。

 なんだ、この親近感。つき離したくなるほどイラッとくることもあるんだけど、どうしても愛でてしまうその個性。なんだか小町みたいな気もするな。

 あの残念サンタには小町みたいな愛らしくもあり、ときには檄をとばしてくれるトナカイの方が必要かもな。

 ただし、出だしは快調にソリを引っ張ってくれそうだけれど、途中からソリにはトナカイがのって、ソリはサンタが引っ張ってそうだが、俺が実際ソリを引くわけでもないからかまわんか。

 俺は震えそうな手を必死に隠しながら、そのトナカイを手に取ると、値段も見ずにレジへと向かっていった。

 

 

 

 

 

「遅かったわね」

 

「ああ、ちょっと散歩がてら見て回ってたからな」

 

 俺を出迎えてくれた雪乃は、朝着ていたセーターはすでに脱いでいて、セーターの下に着ていたシャツの上に赤と緑で彩られたクリスマスっぽいエプロンを身につけていた。重労働なお菓子作りの為に低く温度設定してあるエアコンではあるが、雪乃をせわしなく動かしていたのはお菓子作りの為だけではあるまい。

 

「そう? ならちょうどいいわ」

 

 ……やっぱりそうなのね。玄関のドアを開けた時から気が付いていましたよ。

 むあって漂ってくる甘い香り。それにちょっとだけアクセントで漂う怪しげな焦げくさい臭い。

 どうして雪乃がついているのに失敗してるんだよっ。ねえ、妖怪がついているの? 今はやりの妖怪のせいって疑ってもいいよね?

 

「ねえ、ねえ、ヒッキー。みてみて。美味しそうでしょ」

 

 雪乃を通常以上に疲れさせた元凶由比ヶ浜結衣は、パタパタとスリッパを鳴らしながら俺の元へと駆け寄ってくる。

 フリルいっぱいの白いエプロンも、その可愛らしい新妻エプロンで隠された大きな胸も俺の視界に収まってはいるが、興味の対象にはならなかった。また、本来なら慎ましくもあり可愛らしい真っ白だったエプロンは、ところどころ焼け焦げて茶色く変色しているところもあるが、今回は愛嬌って事で見ない事にした。

 なにせ、本来ならばインパクト絶大なコンビネーションだろうと、それよりも命の危険を感じ取ってしまう物体に目がいってしまう。由比ヶ浜が手にする大皿には、出来たてのクッキーが盛られていた。

 なかには少し焦げているのある。でも、食べられないレベルではない気もする。じゃあ、この焦げた臭いの原因は?

 と、無造作に手にしたクッキーを一つ頬張りながら考えていると、その答えはすぐに見つかった。とりあえず隣でクッキーの感想を求めている由比ヶ浜はあと回しだ。こちらは生命の危機だからな。

 雪乃が俺の目に触れさせないように隠すそのビニール袋には、真っ黒な消し炭をなった、おそらくクッキーになるはずだっただろう残骸が収められていた。俺がかえってくる前に処分するのを忘れたのか、それとも生存クッキーを救出するのに手間だったのか。

 とりあえず俺の生存が確認できたことがなによりだ。

 

「ねえ……、どうかな?」

 

「ん? 食えない事はない、かな?」

 

「ええ~。美味しいでしょ? 見た目も大丈夫な感じだし、毒味、……ううん、味見してみても大丈夫だったよ」

 

「いや、待て。味見って、食べられるかどうかじゃなくて、美味しいかどうかだからな」

 

「これでも頑張ったんだけどなぁ」

 

「でも、だいぶよくなってきているんだろ? もうちょいなんじゃね?」

 

「うん、頑張る」

 

 なんて、由比ヶ浜と出来が悪すぎる学園ドラマをほのぼのと演じていたら、雪乃の姿が消えている。けれど、雪乃の居場所は雪乃が倒れた音で示されていた。

 

「雪乃? 大丈夫か? おいっ」

 

 ただ事ではないと感じ取った俺からは由比ヶ浜をからかっていた時の余裕なんて消え去っていた。スリッパをバタバタとかき鳴らしながらかけ寄る。腕の中の雪乃はいつもより小さく見えてしまう。

 白い白いと思っていたその顔はいつもより青白く陰りを見せ、力強い瞳には焦燥感を漂わせていた。そして、形が整った艶やかな口元の横には、黒くくすんだ消し炭が……。

 ん? 炭がなんで口元に付いているんだ?

 

「雪乃っ、しっかりしろ。救急車よんだ方がいいか?」

 

「救急車はいらないわ」

 

「なら、どうしたんだよ?」

 

「ちょっと失敗しちゃっただけよ。そうね……、八幡にも毒味してほしいわ」

 

 そう弱々しく呟くと、雪乃は瞳を閉じた。

 雪乃……、お前の死は無駄にはしない。だから最初に言っただろ。甘やかして育てちゃ駄目だって。しっかりしつけないと、犬と飼い主が不幸になるだけだって。

 これで雪乃も目が覚めるはず。尊い犠牲だったけれど、雪乃の死は無駄にしないよ。

 ……悪いけど、遺言の毒味役だけは、絶対に引き受けないけどさ。

 

「八幡……」

 

 俺の腕の中で小刻みに震える雪乃が弱々しく最期の吐息を洩らす。あんなに光輝いていた意思が強い瞳も焦点を失い、俺の手を握ろうと宙をさまよわせている。

 

「雪乃、大丈夫だ。俺はここにいる」

 

「八幡」

 

 俺が雪乃の手を握りしめても、雪乃は俺の手を握り返してはこなかった。

 もう時間がないのかもな。すでに雪乃の体力は限界か。

 

「くそっ……。雪乃を一人にしないって約束したもんな」

 

「ええ、ずっと一緒よ」

 

 俺は静かに頷くと、雪乃が床に落としたビニール袋を手に取った。そして、中に入っている黒い炭化した物体を一つ手に握りしめると、一口でそれを飲み込んだ。

 

「これでいつまでも一緒だ」

 

「ありがとう」

 

 口の中に残った粉っぽい感触も、喉をひりひりさせる刺激も、胃の中で暴れまくっている胸糞悪い由比ヶ浜のクッキーも、そんなものは全て忘れよう。

 腕の中にいる雪乃だけが俺の全てなのだから。

 

 

 

『由比ヶ浜結衣の完全犯罪マニュアル~凶器はすべて被害者が用意する。キッチンは凶器の宝庫』……終劇

 

 

 

「あっ、雪乃! 先に行くな。俺が先にトイレに入る」

 

「駄目よ。私が食べたのは一つではないのよ」

 

「ここは病弱な俺を優先すべきだ」

 

「悪いわね。トイレは早いもの勝ちなのよ」

 

 やっぱ勢いで食うものじゃない。

 どうして雪乃がついていながら毒物を作り出せるんだ? しかも、初めて由比ヶ浜が奉仕部に依頼に来た時よりも料理の腕が悪化しているじゃないか。

 とりあえず俺は口の中の不快物だけは取り除く為に水をがぶ飲みすると、最重要危険物が入ったビニール袋を燃えるごみの中に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 今日も今日とて年末に近づいてゆく。

 先日購入したトナカイのオブジェは、今は寝室の出窓にて残念サンタの相棒をしている。ただ、どういうわけか俺がこのトナカイを置いたら、雪乃がもう一体トナカイを飾ることになった。

 俺が置いたトナカイを撤去しないあたりから推測すると、展示を許可されたのだろう。それに、トナカイ一匹だと寂しいし、ソリを引っ張るのも大変そうだ。どうせならソリが重たい、サンタは労働法違反だなど愚痴を言い合う仲間がいる方が仕事もはかどるってものだ。

 雪乃がそんなことを考えたはずもないが、雪乃が新たに置いたトナカイも変わっている。類は類を呼ぶとはよくいったものだ。俺が選んだトナカイも普通ではないが、雪乃が選んだトナカイも普通ではない。

 大きさは、サンタとのバランスを考えれば妥当な大きさだ。元気もありそうだし、陽気な笑顔を皆を振りまいてくれてはいる。でも、な~んか人に合わせてしまうような気の弱い部分もありそうな瞳に既視感を抱いてしまう。

 ただ、な。なんでこうも色っぽいんだ? いくら人形だからといってデフォルメしすぎてないか。なんとなぁく由比ヶ浜みたいな気もするのは目の錯覚? うん錯覚だよな。錯覚って事にしよう。

 べつに雪乃が好きで選らんだんだからいいんだけどさ、雪乃がどういう基準で選んでいるかだけは聞きたいところだ。

 ……いっか、なんだか賑やかそうだし、悪くはない。クリスマスだし、深く考えることではないのだろう。

 なんて考えながら、雪乃に任された寝室の大掃除を進めるていく。年末は忙しいから、時間があるときに掃除をしておかなければならないのよ。元主夫見習いとしてはな。

 それに、文句を言うのはいいけれど、文句を言われるのだけは勘弁だ。

 

「八幡。こちらも休憩にするから一緒に休憩にしましょう」

 

「おう、わかった。すぐ行くよ」

 

「ええ。御苦労さま」

 

 雪乃の言いつけ通り寝室の掃除を初めて2時間を過ぎようとしている。雪乃も雪乃で、由比ヶ浜のお勉強を見てあげていた。午前中は俺が由比ヶ浜の面倒を見て、午後からは雪乃が英語の面倒を見る予定であった。

 年が明ければすぐさま期末試験だし、年末年始は遊んでいるはずだからとのことでの勉強会、主に由比ヶ浜の、がここ数日開催されている。

 リビングに行くと、芳しい紅茶の香りが疲れた体をいたわってくる。そう、香りだけは俺をいたわってくれるし、蓄積した疲労もいたわってくれる。ただ、リビングで展開しているこの惨状。この光景からはゆっくりと休憩なんか出来るとは思えない。むしろ、寝室よりもリビングの掃除を先にすべきださえ思えてしまう。

 ……なんだ、テーブルの上でうなだれているこのトド。どうにかならないのか? ぐでんと力尽きているその様子は、生存競争に敗れ去った感がまじまじと漂ってきてるだろ。

 

「由比ヶ浜、生きてるか? 死んでるんなら、明日燃えるごみと一緒に出してやるぞ」

 

「うぅ……」

 

「駄目よ八幡。由比ヶ浜さんは燃えるごみには出さないわ」

 

「ゆきのんっ」

 

 雪乃の援護に由比ヶ浜は最後の力を振り絞ってひょこりと顔を上げる。

 

「だって、ゴミ袋に入らないじゃない。指定のごみ袋に入らないゴミは捨てられない決まりよ」

 

「そうだったな。だったら粗大ごみか? 粗大ごみの廃品回収工場に直接持ち込みしたら安くならねぇかな?」

 

「リサイクルショップという手もあるわね」

 

「だな。由比ヶ浜ごときにお金を出すなんてぜいたくすぎる」

 

「ちょっと、ゆきのんまで酷いすぎでしょっ。それに、あたしは粗大ゴミでも不用品でもないし」

 

「死んでないんなら、とっとと起きろ。こちらもお前の為に勉強教えてて疲れてるんだよ。しかも、大掃除までやってるんだぞ」

 

「それは……、友情協力ってやつ?」

 

 なにそれ? 映画とかである友情出演の類似品かよ。あれって、お金貰えてるのかな? ギャラ貰えてなくても、世間様にお金なしで出演してあげてるんだぜ感アピール丸出しだし、宣伝効果もあるか。やっぱ、どう転んでもリアルマネー絡んでるんだろうな。

 

「その友情協力っていうのは、一方通行みたいだけどな」

 

「そんなことないしっ」

 

「紅茶冷めてしまうわよ。由比ヶ浜さんが買ってきてくれたお茶菓子もあるのだから、しっかりと休憩をして、それから勉強を再開させましょう」

 

 なるほどね。だから雪乃が買わないようなお菓子があるわけか。

 雪乃調停にのることにして、俺は休憩に入ろうとする。由比ヶ浜はまだ何かいいたそうな目つきを俺に突きさすが、ここは無視するにかぎる。無益な戦いはしないほうがいいし、なによりも雪乃の紅茶を冷ましてしまうのは、俺の最大損失になってしまうから。

 彩り溢れるスナック菓子がコンビニ袋からこぼれ出ている。脂ぎったその風体と、毒々しすぎるまで人工的に味付けした感のコラボを無性に食べたくなる時がある。ぜったい食べすぎたら体に悪いだろって子供でもわかりそうなのに、いまだにコンビニの目立つ所に陳列されているところをみると、俺と同じようなリピーター以上にスナックジャンキーが多くいると思える。

 ここにいる由比ヶ浜結衣も、きっとそのスナックジャンキーの一人なのだろう。

 

「ねえねえ、これね、新商品なんだよ。焼きイモ味に、コーンポタージュ。あとこれは、ホワイトチョコレートがコーティングされているのもあるんだよ」

 

「毎年企業も期間限定って書けばいいって思ってるのかね。どれも去年も似たような商品あっただろ」

 

「違うよぉ。これは濃厚さがアップされているし、こっちのホワイトチョコのは、いつもは普通の茶色いチョコなんだから」

 

「誰基準での濃厚さアップだよ。企業か? それとも開発部か?」

 

「それは、えぇ~っと……、開発スタッフ?」

 

「それこそ個人の感想じゃねぇか」

 

「違うからっ。去年より美味しくなってたもん」

 

「ふぅ~ん」

 

「信じてないでしょ?」

 

「信じてるって」

 

「信じてないって。ほら、その目。絶対信じてないもん。すっごく腐った目をしてるっ」

 

「いや、それデフォルトだから」

 

 俺の表情を細かくチェックするその能力。人をよく見ている由比ヶ浜はさすがっすね。うん、信じてないし、これからも信じないと思うぞ。だって、パッケージ見ても企業の買ってくださいアピール感しか伝わってこない。

 と、世間の世知辛い実情を噛み締めていると、俺の口元まで自称「濃厚さ130%up」のコーンポタージュ味スナック菓子が迫っていた。

 

「ほら……、ヒッキーも食べてみてよ。文句を言うんなら、食べてからにしてよ」

 

「そのな……」

 

 由比ヶ浜がスナック菓子を手に持ち、俺の口へと放り込もうとする。迷いがないその軌道は、黙っていればそのまま俺の口内へと運ばれてくるのだろう。

 けれどな由比ヶ浜。お前が俺の口にお菓子を放り込むのと同時に、俺は修羅場へと放り込まれないか? だってさ、隣見てみろよ。深夜の外気よりも重い冷気を身にまとった雪乃がぷるぷると肩を震わせているぞ。

 あれは自分の冷気が寒いんじゃなくて、自分の体を自分で拘束している振動にすぎない。今雪乃がおとなしくしていられるのも、お前だから強硬手段に出てないだけだ。

 

「すまん。紅茶は戻って来てからもう一度淹れてくれ。由比ヶ浜の勉強を見る前に、ちょっと本屋にいっておきたかったからさ。夕方からは雨かもしれないって言ってただろ? じゃあ、なにか買うものあったらあとでメールしてくれ」

 

 俺は一息で今出来上がった急用を告げると、足をもつれさせながらリビングから逃げ出す。

 

「ちょっとヒッキー?」

 

「ええ、行ってらっしゃい。その腐りかけた脳が形を崩れなくなるくらいまで寒風でじっくりと凍らせてくればいいと思うわ」

 

 玄関まで恨み言が追いかけてきたが、俺は玄関のドアを閉めることでどうにか振り切ることができた。

 

 

 

 

 

 駅前まで行くと、どこもかしこもクリスマスムードで盛り上がっている。自宅マンションそばの商店街も、落ち着きがあるクリスマスムードで好きではある。

 一方で、駅前のクリスマス。クリスマスセールののぼりや年末セールのチラシ。クリスマスケーキの予約の呼び込みなど、いたって健全で商魂たくましい日本のクリスマスが展開されている。

 どこかロマンチックな飾り付けがある所にふらふらっと立ち寄ってみても、なんたらセールや威勢がいい呼び込みをする店員がいて、どこまでがクリスマスの為でどこからが商売のためなのかわからなくなることはない。

 絶対100%商売だな、と世知辛い世の中を見渡しながら本屋がある上層階へと登っていく。本音を言うと、本屋に用事などなかった。休暇中読もうと思っている本は既に雪乃の本棚から借りているし、ラノベなどの純粋なる娯楽は先日雪乃と来た時にチェック済みでもある。

 だから、一応本屋に一歩踏み入れて、ちょっと買い忘れがあるからというポーズを作ってから、本屋から出ていく事にした。

 そもそも外出したのだって、由比ヶ浜の鈍感力から逃げる為であるわけだしな。

 というわけで、どことなく行くあてもなく他のショップを見て回ることにした。ここでもテナントビルがあれば一件くらいある雑貨屋があり、クリスマスを前面に押し出した品をアピールしまくっている。

 ん? この店でも最近はやりのちょっと痛い子をイメージしたクリスマスオブジェがあるのかよ。なんでもかんでも斜め上をいけばいいってものじゃねえだろ。

 でも、俺みたいな奴がいるから仕入れるわけで、俺は店員の期待を背負ってとりあえず人形をひっくり返してその値札を見ることにした。

 1200円。駅前だし、その分割高なのか?

 サイズは手のひらサイズで、寝室の出窓に置かれているのと同じくらいはある。天使をイメージして造られたクリスマスオブジェであり、一般的なイメージ通りにこやかに笑顔を振りまきまくってはいる。

 だが、なんで口は笑っているのに目だけは冷ややかなんだ。その瞳に吸い込まれて見つめていると、なんだがこの天使がうちにいる残念サンタのけつでも蹴飛ばして、気合を注入しそうな気がしてくる。

 天使っつっても神様の使者で、日々中間管理職としての悲哀を嘆いでいるのかなぁと自分に重ねてしまう。ただ、この冷たい瞳の天使はきっと俺と同じにするなっていいたそうだった。

 よし、決めた。そこまで俺を毛嫌いするんなら、俺んとこのぐぅたらサンタのけつを蹴っ飛ばしてくれ。きっと最悪の中間管理職間違いなしだ。

 と、俺は人形相手に大人げない態度をとって帰宅することにする。

 ん~……、もう一度まじまじと人形を凝視すると、なんだか俺の事を見て微笑んでいる気がした。その頬笑みはなんだか雪乃に似ている気もしたが、おそらく気のせいだという事にした。

 

 

 

 

 

「なんだかんだいって由比ヶ浜、けっこうやばいんじゃないか?」

 

「どうかしらね。最近の頑張りをみていると、年末年始も頑張れば期末試験も大丈夫なような気もするのだけれど」

 

「普段から勉強するように目を光らせてはいたんだけどな。ここまで覚えたものを忘れちまうとは、想定外だったな」

 

「それは仕方がない事よ。大学受験以上に覚える範囲が増えているんですもの。これ以上由比ヶ浜さんに勉強を押しつけても、潰れてしまうだけだわ」

 

「だよなぁ……。新学期からは普段の復習方法を変えてみるか」

 

「そうね。普段からの復習がうまくいけば、効率もあがるわね」

 

 なんかなぁ……、俺達ってまだ子供はいないはずなのに。それなのに話している内容が、どこか出来が悪い子供をもった親じゃないか。

 俺と雪乃は寝室のベッドに身を沈め、読んでもない小説を片手に近況報告をする。本ばっかり読まないで、子供の事をしっかり考えてちょうだいって聞こえてきそうなシチュエーション。

 なぁんてしょうもないことを考えてもしょうがない。大学は義務教育ではないんだよ、由比ヶ浜君。

 俺は早々にホームドラマ(脚本:比企谷八幡)を打ち切ることにして、新たにベッドに加わった重みを受け入れる準備に取り掛かった。

 そんな目で見るなって。

 俺を見つめてくるその視線。俺が今日買ってきた天使の人形なんだけど、その天使の視線も気にはなるんだが、その隣にいる女神の方からの不気味な視線を感じずにはいられなかった。

 今朝はなかったし、由比ヶ浜が置いていったのだろうか?なんで俺が人形買ってくると、すぐさま増えるんだよ。しかも今度のは、女神つってもどこか底意地が悪そうで、何を考えているかわからない笑顔なんだよな。もちろん女神様なので、ニッコニコしていて頬笑みを無駄に垂れ流しまくってはいる。

 でもこの女神、絶対内心と外見とでは全く違う事考えているな。……どこの雪ノ下陽乃さんだよ。

 だけどなぁ、こいつもどこかクリスマスオブジェとしては規格外だよな。なんでこの部屋には変わりものばかりが集まってくるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 朝早くから、俺が引っ越してきてからそのままにしていた荷物をひっくり返していた。そもそも小町が俺の部屋にあったものを適当に突っ込んだものであるわけで、引っ越しの際捨てるべき荷物の選別さえされていないでいた。

 だったらこのマンションに引っ越してきた時に捨てればいいって思うかもしれないが、突如実家を追い出され、あっという間に新たな生活の場に放り込まれてしまった俺の気持ちも考えて欲しい。

 新生活への適応。新生活への不安。新生活への葛藤。新生活への希望。新生活というものは新たな生活リズムを掴むまでが大変であって、エネルギー消費も割高になってしまう。だから、引っ越しの作業に不備があったとしても俺は悪くない、はずだ。

 ま、新しい生活といっても俺の場合はもともと雪乃とは半同棲状態だったわけで、新生活への順応なんて必要なかったんだけど……。

 ようは、俺がずぼらだったから不用品が未だに残っていたわけだ。しかし、今回ばかりは俺ナイスと誉めてやりたい。俺は目当ての品物を手にすると、ニヤリと赤ん坊が泣きだすような笑みを浮かべてた。

 

「朝から大掃除をしていたかと思えば、思い出の品を見つめて下衆な笑いを洩らすのはやめてくれないかしら」

 

 俺の抗議の視線の先には、ティーカップを軽くつまんで優雅にティータイムを楽しんでいる雪乃がいた。

 腰まで伸びた黒髪は、雪乃にしては珍しくゆるふわルーズな三つ編みで一本に束ねている。白いハイネックカシミアセーターは、ほっそりとした体の輪郭を形作り、申し訳程度に膨らんだ胸も、妙に艶っぽさを増大させていた。

 そして、クリーム色やブラウン系で構成されたレースやニットを重ねて作られたロングスカートも、どこか品の良さを漂わせ、まさしくお嬢様といったイメージを強調させる。雪乃自身が本当にお嬢様なのだから、イメージ通りの服装ってわけだ。

 一方、俺の服装といったら、ザ・ジャージ。高校のジャージじゃないところが唯一の救いなのだろうか。一応アティタスのジャージだし、安くはないのよ。

 

「思い出の品ってわけじゃない。以前小町と人形作ったときに余った材料だよ。色々買ってみたんだけど、買っただけで未開封のまま、結構残ってたんだな」

 

「小町さんも大変ね。話をする相手がいないかわいそうな兄の為に、話相手代わりの人形まで作ってあげていたなんて」

 

「そこも違うから」

 

 見た目だけはまさにお嬢様なのに、どうして毒舌ばかり乱れ撃ってくるんだ。これさえなければ文句のつけようがないお嬢様なのに、ほんともったいなくない。

 

「そうなの?」

 

「そうなんだよ。これはだな、たしかハロウィンかなにかで飾りつけで人形作ったんだったと思う。もしかしたら他の行事かもしれないけど似たようなものだ」

 

「それでクリスマスの飾り付けでも作るのかしら?」

 

「そうだよ。寝室の出窓に飾ってあるオブジェあるだろ?」

 

「ええ、あるわね」

 

「なんで俺が新しいオブジェ買ってくると、すぐに対抗してもう一体買ってくるんだよ。ふつうは毎年一体ずつ買って増やしていくものじゃないのか?」

 

「別に毎年少しずつ増やしていってるわけではないのよ」

 

「だったらなんで俺が買ってくると、雪乃も買い増すんだよ?」

 

「それは……」

 

 雪乃はどこか宙に浮く何かを捕まえようと視線をさまよわしていたが、俺の視線と衝突すると、観念したのぽつりぽつりと語りだした。

 

「最初追加した一体はたまたまだったのだけれど、私がおいてもすぐに八幡がもう一体追加してきたじゃない。だから、このままにしておいたら負けたような気がしたのよ」

 

 は? 何に勝ち負けがつくっていうんだ。雪乃が根っからの負けず嫌いだっていうことは知っていたが、なぜ今回の事で勝ち負けがつくんだよ。

 

「だったら、俺の負けでいいよ。すでに俺の財布が負けている。これ以上の出費は痛いからな」

 

 なにせ一体1000円くらいするわけで、それを何体も買っていくのならば数千円にも積み上がってしまう。だから今日俺が人形を自作するのだって、お金をかけないで済むようにするためで。

 

「それなら無理して買わなければよかったじゃない」

 

「なんとなく気にいったのがあっただけだよ。それに、なんか人形が増えていくのも見ていて面白かったしな。あっ、でも、まじで勝ち負けなんか気にしてないからな」

 

「わかってるわよ、もう。でも、今日はなにを作るのかしら?」

 

「サンタ、トナカイ、天使、女神ってきたら、あとはキリストとかその辺だろうけど、俺はプレゼントを貰う子供を作ろうかなって思っている」

 

「へぇ……、で、なんでキリスト作るのやめたのかしら?」

 

「なんでキリスト作ろうと思って挫折したことが前提なんだよ」

 

「なんとなくよ」

 

「まあ、間違っちゃいない、か。なんとなく作るのが難しいと思ったんだよ。小さな子供だったら適当に作ればいいだけだろ」

 

「八幡らしい理由で安心したわ」

 

「出来ないものを作ろうとしても、時間と材料の無駄だしな」

 

 雪乃に見つめられながら、俺は制作活動に取り掛かる。材料はパン粘土と毛糸。これがあればなんとなく味がある人形が出来上がるのだが、雪乃が自身の三杯目の紅茶と俺の紅茶を用意してくれているときに出来上がった人形は、どうみたってクリスマスを待ち望む子供としては不釣り合いであった。

 

「それで完成なのかしら?」

 

「一応な」

 

 雪乃が顔を引きつらせながら聞いてくるのを、俺も顔をひきつらせて受け答える。

 どうしてこうなったのだろうか?

 

「怨念がこもっていそうね」

 

「そこまで年くってないだろ」

 

「なら、結婚できなそうね」

 

「だろうな」

 

 俺達が見つめる先にあるサンタを待ちわびる子供の人形。期待を胸一杯にして、その時を待っているのがよくわかる。よくわかるんだけど、……なんか待っているのはサンタじゃなくて旦那さんじゃないか?

 正確に言うんなら、結婚相手の男性だな。

 この人形、我ながらよくできていると思う。よくできているんだけど、どうみても平塚先生の幼少期、見た事はないけど、って感じがしてしまう。

 俺だけじゃなくて、雪乃もそう感じているのだから間違いない。

 

「一応聞いておくけど、わざと作ったのかしら?」

 

「んなわけないだろ。まがまがしすぎる」

 

「そうよねぇ」

 

 俺も紅茶を一口口に含み、この人形をどうしたものかと考えをめぐらす。

 めぐらす、めぐらす、めぐらす……。

 がぁぁぁぁっ……、いくら考えたって答えは一つしかないわっ。ここで仲間外れにでもしたら、本人さえも寂しい一人身でのクリスマスを迎えてしまいそうなのだから、かわいそすぎる。だったら、快く寝室の出窓に迎え入れるべきだな。

 テーブルの上に現れた珍獣を興味深くいろんな角度から見ている雪乃に気になっていたことを聞いてみることにした。ここで聞いておかないと、おそらく俺も疑問に思った事さえ忘れてしまうような小さな事なんだけど、なんだか今聞いておいた方がいいような気がしたわけだが。

 

「人形買いそろえていくのを雪乃は勝ち負けだっていってた事だけどさ、俺はけっこう楽しかったぞ。なんかわくわくするってうか、クリスマス特有のドキドキ感も相乗効果で発揮されてたのかもな」

 

「そうね。私も楽しかったわ。最後は、八幡が財政難で自分で人形を作るとは思いもしなかったわね」

 

「だな。俺も思いもしなかったよ。小町が荷に突っ込んでおいてくれたから作る気になっただけだがな。あぁ、そうだ。小町もクリスマスパーティー是非参加させて下さいってさ」

 

「わかったわ。小町さんが来てくれてよかったわね。シスコンのお兄ちゃん」

 

 どこか意地が悪そうな笑みを浮かべるのは、小町でさえも焼きもちを焼いているのでしょうか?

 ちょっと聞くのが怖いので、聞かないけどさ。

 

「シスコンでけっこう。今年も小町に彼氏がいなかったとが証明されて、お兄ちゃんとしてはホッとするところだ」

 

「でも、イブにデートしなかったからといって、彼氏がいないということにはならないのではないかしら?」

 

「やめろ。考えたくもない」

 

「まあ、いいわ。これで由比ヶ浜さんも入れて四人ね」

 

 やっぱ小町相手にやいてただろう? 俺に八つ当たりして、すっきりした感がはっきりと出てるぞ。

 

「それ、四人じゃなくて六人しておいてくれ」

 

「それは構わないのだけれど、でも、どうしてそんなにも暗い表情なのかしら?」

 

「暗い気持ちってわけじゃないんだ。ただ、面倒を起こしそうな人たちなんでな」

 

「それってまさか……」

 

「ああ、陽乃さんと平塚先生が来る。なんか知らないけど、あの二人にばったり会ってしまってな。しかもあの二人が一緒にいるのさえ不思議なのに、こっちがパーティーの話をしていないのに、向こうから切りだしてくるんだぞ。断ることなんでできやしない」

 

 今でも夢に出てきそうな迫力だったよな。あれはきっとクリスマスへの怨念も加わっているはず。成仏してくれよ、平塚先生。いや、まだ諦めるのには早いですって。

 

「そ、そう、それは災難だったわね」

 

「災難なんて生易しいものじゃあない。天災だな。疫病神だ。神様レベルの避けられない運命って感じだよ」

 

「でも、いいじゃない。賑やかなクリスマスになりそうよ」

 

 そう雪乃は呟くと、温かさが宿った瞳で静ちゃん人形を眺めていた。

 雪乃も最初から一人がいいってわけではなかったと思う。

 小学校、中学校の事を考えれば、人を信じきれないことも理解はできる。だからといって、人の温もりを求めていないだなんて思えはしなかった。

 だってさ、どの部屋であっても飾られているクリスマスグッズ。どこにいても優しい気持ちになれるクリスマスの雰囲気を味わいたいって事だろ。寝室のオブジェだって、一人だけの残念サンタに仲間を与えてあげたいって思っていたのかもしれない。

 いくらサンタだからといっても、プレゼントをあげる相手がいなければサンタクロースにはなれないし、トナカイがいなければプレゼントを配りにもいけない。

 今までの一人でいた俺や雪乃を否定したいわけじゃあない。一人もいい。所詮人間一人でやらないといけない事がほとんどだ。

 しかし、寒い冬の日、凍えるような夜、華やかな賑わいで満ちているクリスマスイブ。そんな時くらい誰かと身を寄せ合って、温もりを共有したっていいじゃないか。

 

「なぁ、雪乃」

 

「なにかしら?」

 

「ほんとうに勝ち負けだけで人形を買っていたのか?」

 

 雪乃は静ちゃん人形をつついていた指を止めて、数秒間人形を凝視する。そして、ふっと息を抜くと、俺の方に一度睨みつけてから柔らかい口調で告白してきた。

 

「それは嘘ではないわ。でも、一番の理由でもないわね」

 

「じゃあ、なんだったんだよ?」

 

「気がつかなかったの?」

 

「なににだよ」

 

「はぁ……。あのサンタクロースって、誰かさんに似ていると思わない?」

 

「残念サンタって、俺は呼んでたけどな」

 

「その認識で間違いないわ」

 

「それがなんなんだよ?」

 

「だから……、あなたが最初に買ってきた人形はトナカイだったじゃない。しかも、小町さんみたいな元気一杯なトナカイ」

 

 あぁ、なるほど。だから、シスコンのお兄ちゃんって事なのか。これは、雪乃の焼きもち確定だな。

 俺が二番目に買ってきた天使のオブジェ。あれこそが雪乃のイメージだったのだから。

 それを一番目に買ってこなかったのが、原因だったのね。

 それと寝室のイメージ。

 雪乃が外での生活を一切寄せ付けたくないのが反映されているっていうイメージだが、やはりその寝室のコンセプトは一貫しているのかもしれない。あの残念サンタのイメージが、俺の想像通りの人物だとしたら、それは雪乃にとっては内なる存在であるはずだから。

 まあ、そう思ってしまう事自体うぬぼれているっていわれそうだが。

 だから、あの寝室には異物など最初から存在していなかったというわけか。

 暖房は十分効いているし、寒い夜でもない。クリスマスだってまだ先だ。だけど、俺を求めてくれる最愛の彼女がいる。だったら、二人身を寄せ合って、これから来るクリスマスに向けて幸せを共有していったって、サンタも不満は言うまい。

 だから俺は、そっと雪乃の肩を引き寄せた。

 

 

 

『パーティー×パーティー』終劇

 

 

 

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