王国の戦士長……ガゼフとやらに俺たちの存在をアピールすることに成功し、ナザリックに帰還した俺達。
そこで待ち受けていたものとは!?
「おかえりなさいませ、モモンガ様、オッ様」
「うむ、出迎えご苦労。私は玉座の間へ行くのでデミウルゴスに来るように、伝えておけ」
「かしこまりました」
まぁシャルティア、及びシャルティア配下のヴァンパイアブライドやその他、支配領域のモンスターたちだわな。
シャルティアにはゲートを任せた関係上、帰還するときは仕事の終了を伝える意味でもひと声かけてから、と言ったところか。
仕事を任せておいて終わってから放置じゃ、本当に仕事が終わったのかどうかもわからなくて相手も困るだろうしね。
その後、ニューロニスト、ペストーニャ、マスクくん、デスナイトをそれぞれの配置へ送り、俺とアルベドを伴いモモンガさんは玉座の間へと。
なんだかんだで、俺とモモンガさんだけでの大雑把な作戦会議は円卓の間、デミウルゴスやアルベドも含んだ詳細な会議は玉座の間、という形が出来上がりつつある。
モモンガさんは一人だけ上位者みたいな形になる玉座の間での会議は好きじゃないっぽいが、やっぱり部下に見せる「けじめ」みたいなのは必要だからな。
モモンガさんこそが頂点じゃなきゃね。
デミウルゴスはまだ来ていないので、玉座のモモンガさんへ、ふと気になったことを尋ねてみる。
「モモンガさん、パンドラズ・アクターも呼んだ方が良いんじゃないの? 作戦会議、って体裁である以上は、視点は多いほうがいい気がするんだが。まぁ最終決定権はモモンガさんにあるから、無理にとは言わんが」
俺のその疑問に対しモモンガさんは骨のくせにいかにも嫌そうな顔をする。
何を嫌がってるんだか……と、思っていたらアルベドのインターセプト。
「オッ様は随分と、パンドラズ・アクターにご執心のようですね。かのと者はまだ会った事はありませんが、私やデミウルゴスに匹敵する知力、総合レベルの持ち主……そのような存在を話題に出すのは、何か深いお考えがお有りなのでしょうか?」
俺のやる事なす事すべてが気に入らねぇ……って訳でもないんだろうが、モモンガさんが嫌がる素振りを見せるモノは少しでも遠ざけようとする魂胆が見え隠れする。
「考えもなにも、言った通りだ。物事は何事も、多角的な視点で見た方が思わぬ発見ができるのでは? と思っただけのこと。そもそも、俺は知的労働において力になれる自信がない。だからこそ、俺とモモンガさんだけでなく、お前とデミウルゴスも含めた会議で、ナザリックの方向性を決めていきたいと思っている。最終的な決定権を持つのがモモンガさんである、という前提があろうと、モモンガさんが選ぶ選択肢は少しでも多いほうがいいんじゃないか? そう思っているのだ。人数が多すぎれば問題もあろうが、相談相手が2人から3人に増える。このくらいなら負担は少ないんじゃないか?」
「くっ……ですが! モモンガ様が厭うのです。何か理由がおありのはず! そうですよね? モモンガ様」
俺が俺なりの理由で「パンドラズ・アクターも会議に参加させてあげようよ」と言えばアルベドはモモンガさんが嫌うことならきっと正当な理由があると信じてモモンガさんにすがる。
まぁこやつの設定を考えればモモンガさんが正当な理由なく、ただ嫌だから嫌なんだ、と言った場合でもモモンガさんサイドにつき従うのはわかっているのだけど。
しかしモモンガさんとしてはそういう訳にもいかず。
「あ、アルベドよ……その……な? 理由としては……」
ごにょごにょごにょ。
モモンガさんのやつ、何と言うべきかわからずに曖昧に誤魔化そうとする。
「そんなに嫌なら仕方ないけどさ。でもあやつの気持ちも考えてやれよ?」
「……その言葉、オッさんにそのまま返しますけどね」
やれやれ、と肩をすくめる俺とモモンガさん。
俺が肩をすくめる理由は「パンドラズ・アクターを嫌うのかわいそうじゃん、ひどいなぁ」という正当なものなのに対し、モモンガさんの奴が肩をすくめるのは「守護者をはじめとしたNPCたちが俺を嫌いたいなんて思ってないかも知れないのに」というありえない妄想からでた対応。
だから、似たような態度をとっていてもその本質は正反対なのだが……それでも傍から見たら何か通じ合ってるように見えるのか、アルベドはモモンガさんに悟られないように俺に嫉妬の感情をぶつけてくる。
と、そんな感じでギスギス……と、言うほどじゃないがなんとも気まずい空気が漂うので、なにか一発ギャグでもして場を和ませるか? と思い始めた頃に玉座の間の扉が開く。
デミウルゴスの到着だ。ナイスタイミング。
……いや、俺の思いついた一発ギャグの行き場がなくなったのでバッドタイミングか?
ふぅ、やはり俺は守護者から嫌われてるんだ……。
「モモンガ様、オッ様。遅れてしまい申し訳ありません」
入室前に深く頭を下げ謝罪の意を示すデミウルゴス。
モモンガさんはそんなデミウルゴスに対し「よい、許す」と手をかざす。
相も変わらず見事な魔王ロールよ。種族変更ってだけではこうはできまい。たぶん。
そしてモモンガさんから入室の許可を貰ったデミウルゴスは下品にならない速度で、しかし遅く感じないという絶妙な歩き方でモモンガさんのもとへと向かう。
その手には紙袋を下げて。
「デミウルゴス、罷り越しました」
「うむ」
モモンガさんのそば近く、会話に不自由なく、しかし影を踏まない距離というポイントで止まりさらに一礼。
きっとこういうのが「見事な態度」みたいな感じなんだろうね。
「ところでデミウルゴスよ。その紙袋は?」
「はっ! モモンガ様、そしてオッ様から頂いた全ナザリックの守護者、および至高の御方々の創造物である者達へと当てられたアンケート用紙。全てここに揃えております」
「はやっ! え? てかもう……書き終わったの? あ、いや、アンケート用紙の準備が出来たのか?」
ビックリした。
確かに昨日の会議の後「こんな感じで人数分頼む。急いでないんで好きなペースでやっていいぞ」と言ったけど、もうアンケート用紙が完成していたとは。
ティトゥスのやつ仕事が早すぎだ。アンデッドだから不眠不休で大丈夫にしろ。
「いえ、これらのアンケート用紙。全員の記入が済んでございます」
「……マジ?」
「はい」
す……すげえなこいつら。
夏休みの宿題、出されたら7月中に終わらせるタイプかよ! 俺なんて夏休み終わってから始めるタイプだったぞ!
い、いや待て……待てよ?
「その、マスクくんやアルベド。あとペストーニャとニューロニストは? 今日俺らと付いて行ってたはずなんだけど」
「出発前に既に提出済みですが?」
「あ、はい」
うっかり敬語で返事しちゃった。
いや、それくらいすげえよこいつら。
真面目か!
「あー、デミウルゴス。ご苦労だった。ではそれは受け取っておこう」
「この程度のこと、評価になど値しませんとも」
しますとも! 俺はこの手の「提出しなさい」とか言われるタイプの書類はいっつも溜め込むタイプだからちょっとリスペクトしてしまう。
「デミウルゴスよ。私からも感謝しておこう。いいや、お前だけでなく、記入してくれた全ての者たちに、だな。まだ忙しいこの時期に余計な手間をかけさせてしまった」
「そのような勿体無きお言葉! 思考の御方々であるあなた方からの指令を実行する。それこそが我らの存在意義であり、幸せなのですから!」
「ええ、私からも。それどころか、モモンガ様への我々の心象。それを知ってくださろうとしてくださったと言う事実こそが至上の幸福なのです」
「そ、そうか……うん、ではまたオッさんと読ませてもらうので、アンケートについてはここまでとしておこう」
モモンガさんはそう言って咳打ちを一つ。
アンデッドであり、肺も声帯も無いために咳なんて無意味ではあるが、会話の一区切りをつけるのには役に立つアクションだからな。
「さて……王国、いや。リ・エスティーゼ王国の者とのファーストコンタクトは取れた。さて、これからどう動くかは彼ら次第……と、思って良いところかな?」
とりあえず会議の口火を切って尋ねる俺。
円卓の間での俺ら二人の会議で、質問役は俺がやったほうがいい? と打ち合わせ済みだからな。
モモンガさんには「別にモモンガさんが無能だからって連中は裏切らないよ?」と言ってはいるが、彼らをガッカリさせたくない、と言われれば俺がバカ役をやって答えを聞くのが正しい道筋であろうよ。
とはいえ、わかってないのに知ったかぶりは絶対しないように! という注意をモモンガさんにしてるんで……まぁ、この先も大丈夫かな?
「は。オッ様の
「ええ、オッ様のデモンストレーションのおかげで彼らも、我らの力の一端に触れた事ですし。彼らの移動速度次第ですが、おそらく次は大きな人員を動かして来るのでしょうから時間的猶予もあり、あらゆる状況に備えることが出来る、と自負させていただきます」
俺の質問にデミウルゴス、アルベドがナイスコンビネーションで答える。
練習や打ち合わせの時間なんて無いはずなのに、まるで流れるような返答……これが頭良いやつ同士の会話というやつか。
「ふーん、そうなのか。でも大きな人員? そうなるかね?」
戦士長……ガゼフの奴はそれなりに誠実そうだったしさ。
あいつが使者として、あるいは使者を連れてくるのなら丁重に迎え入れるって約束もしてんだから、普通は大人数じゃなくて外交官とその護衛、みたいな感じの構成で来るんじゃなかろうか?
「おそらく。あの人間……たしかガゼフとか言いましたか。あの者は我らにとって戦闘力、という点でこそ見るべき所のない存在ですが、それでもやはり武人です。あの者が何を思い、何を伝えようと、それを聞く相手が正しく聞くことはないでしょう」
と、アルベド。
デミウルゴスはガゼフと会ってないからわかるのはアルベドくらいか。
「ふむ、アルベドよ。では王国でこれから起こるであろうことを、お前の予想でいい。言ってみよ」
そこでモモンガさんの一言。
まるで自分もある程度想像付いてますけど? なニュアンスでありながらアルベドの意見を言わせようとするナイスな言い回しである。
俺ならわからないからおせーてー、としか言えないし。
「では僭越ながら。あのガゼフとやら。まず彼らはモモンガ様より与えられた陽光聖典、とかいう連中への尋問を行うでしょう。魔法を使っての尋問でなければ話を聞くことは出来ますので、最低限の情報を得られるかも知れません。その中で私たちに捕まって何を見たのか? などが一番の関心事でしょうが……我々はあの者たちに何も見せていません。あの者たちの主観では気絶して目が覚めれば裸で穴に埋められ、そして再び装備を返却された。それだけでしょうから」
「ふむ……その際に数人減っていることに気付いては居ただろうが……まぁ大した問題ではないか?」
「ええ、まさしく。法国……スレイン法国でしたか? あの者たちの国の掲げる理念を考えれば、異種族、アンデッドに捕まり解放される。そのような事になれば国に帰っても罰せられるでしょうが……それ以前に、もはや二度と故国の土を踏むことはできないと思われますけど」
「え? そうなの?」
折角殺さずにいてあげたのに?
俺がそう疑問の声を上げると、アルベドからデミウルゴスが説明役を引き継ぐ。
「はい。我々が魔法的な尋問をした際に得た情報は、彼らが何者であるか? 彼らが何を目的として王国に来たのか? そして……どうやって戦士長を弱体化させるのか? です。この3つの情報でわかったことは、彼らは法国の陽光聖典なる部隊の人間であり、ガゼフという戦士長を殺すために行動していて、彼らの上役と王国貴族との繋がりを利用し戦士長の弱体化を成していた。その事実です」
「うん。たしか貴族と法国が繋がってるんだから、法国のエージェントを貴族にプレゼントすれば交渉材料になるかも? みたいな話はしてたっけ」
「ええ。そして法国の上役、そして王国の貴族の繋がりが判明したわけですが、彼らを生きたまま王国へ連れて行ったとして、彼らの運命がどうなるか? まず、間違いなく王国で処分されるでしょう」
「えっ」
「法国との繋がりで戦士長殺害のために情報を流し、戦士長の装備を制限した王国の貴族にとっては、法国のエージェントが生きて口を聞ける状態にある。これはさぞ大きな恐怖でしょう。法国の末端の組織であるとはいえ、彼らの口から自分の名前が出てこない、とも限りませんから。ですので、公式な場で発言される前に、何としてでも口封じをせねばなりません」
「おお? ……おお、確かにそうだな。貴族がガゼフをハメたって明確な証拠が出ちまったら、いくら王の権力が弱くても罰せられるか」
「まさしくその通り。ゆえにそうならないように立ち回る必要が出るわけですが、その行動として陽光聖典の者共を処分した王国の貴族たち。彼らにとって余計な労力を払う形になった事になりますが……その労力、面倒事をせねばならぬ怒りの矛先。それはどこに向けるでしょうか?」
「むむむ……何だかんだで邪魔したように見える俺達……か?」
「はい。オッ様が戦士長とやらにどれほどのデモンストレーションを成したか、
不愉快なことですが、と吐き捨てるように言うデミウルゴス。
はいはい、わかったわかった。
俺のなす事やること気に食わんということね。
「そりゃ俺は広範囲技とかはそんな得意じゃないが、それでもこの世界の人間にとってはかなり規格外な攻撃を見せたつもりなんだが? まぁ失敗もしたけどさ」
「いっ、いえ! オッ様に問題があるのではありません! 王国の問題なのです!」
「ええ。ガゼフ・ストロノーフを殺したいと思っていた貴族たち。彼らにとって、ガゼフは「有能であってはならない」存在です。そんな者が「恐ろしい存在を見た」と言った場合……ガゼフ・ストロノーフを殺したい貴族たちはそれを信じることはできない、いえ。信じてはならない、となるかと思われます」
実に、愚かなことです。と嘲笑を浮かべるアルベド。
むう……ガゼフを殺したい貴族は、王国最強と言われてるガゼフがいなくなっても困らない……いくら強かろうと国の利益的に見ていくらでも換えの効く小さい存在、と見做しているからこそ、ガゼフ殺し作戦に加担できる、ってことだな。
そんな奴らは俺の技を見たガゼフの発言を聞いても信じない……いや、むしろ「ガゼフは臆病風に吹かれた」と、言っちゃうわけだ。
いや、言うだけじゃなくそう真実そう思い込んでる?
だとしても……なぁ。
「なんとなくわかったが、それでも王国の貴族だって全部が全部、無能って事もなかったはず……多分。そいつらはもうちょっと考える脳みそを持ってるんじゃないか?」
の、はずだ。
たしか……うん。有能な貴族も確かWEB版で死んで書籍で生きてたか、その逆だったか。
脇役だからってちょっと曖昧すぎるのう。
「曲がりなりにも国という体裁を取れているのです。それはもう、無能だけというわけにもいかないでしょう」
「ですがオッ様の
「で、あれば。戦士長からオッ様のスキルの威力の報告を受けておきながらも、それを恐れて戦争を止めるために、貴族間の軋轢を大きくしかねない選択は取れないかと」
「できて、せいぜい国の傷口……王国の人的被害を減らすために、出動戦力を少なめにすべきという進言が限度になるかと思われます」
俺のそんな疑問に淀みなく答えるアルベド&デミウルゴス。
しかしまぁ、アルベドとデミウルゴスは俺とモモンガさんみたく打ち合わせのコッソリ会議をやってる訳じゃないだろうに、よくお互いの言葉の引継ぎができるものだ。
同じくらい頭がいいから、頭の中で出来上がってる答えは大体一緒だから、って事かね。
モモンガさんも言われなくても分かってたりするのだろうか。
ぐぬぬ悔しい。
「でもよ、戦士長って確か王の直属か……違うにしろ、信頼はされてたはずなんだよ。だったら戦士長が本気で訴えかければ、国内のパワーバランスで不利になることを承知で戦士長の案を採用するかもしれないんじゃないか?」
「王もまた同じこと。いかに戦士長を信頼し優遇していたとしても、無能貴族の専横を止められない程度の権力であれば、言葉に力は宿りません」
「そりゃまた……他人事だから良いけどなんとも気の毒なことよのう」
「全くもって。そこが人間の下等たる証明……でしょうね。我らは全て至高の方々によって作られた身。その忠信に一切の偽りなし。しかし人間は見せかけの忠信しか持たないからこそ、そのようになります」
トップより下の者が力をつければ上の決定より下の者の意見が罷り通るシステムが今の王国。
対してナザリックなら、下の者がどんな献策をしようと最終決定権はモモンガさんに有り……たとえ、それがナザリックにとっての不利益な行いでも、モモンガさんの好き嫌いが最後に優先されちゃうシステムなわけだ。
まぁこやつらの忠誠を信じきれなかったからか、未来においてモモンガさんは心理的に嫌だけど利益があるからと下の者に言われて侵入者にナザリックを荒らさせる作戦にGOサインを出しちゃったわけだが。
「そういう経緯を経て、おそらく戦士長のいかなる発言も国の決定には届かない……いいえ。彼らの愚かさ次第になりますが、戦士長は精神を病んだ、などという言いがかりの元に謹慎を言いつけられ、我らに対する対応は王国の貴族主導……まぁ戦士長の抹殺計画にケチを付ける要因となった我々に対する攻撃。可能性としてはそれが一番高いのではないでしょうか?」
アルベドとデミウルゴスのわかりやすい(?)解説はその言葉を持って締めくくられた。
……ん? そこで止まるのか?
ちょっと待て。
「お、おい! それじゃあ王国と戦争になるんじゃねえのか!?」
「可能性は大です。確かに法国を釣るためにも、1度は戦争が必要ではありますが、我々としても王国との戦争に旨みは感じられません。できれば彼らには正しい判断を願いたいところですが……」
「難しいでしょうね。モモンガ様、オッ様について直接彼らを見てわかったのは、あの者は国においては武官ですらない、まさしくその名の通りの戦士長……ゆえに、彼らの国内での政治的駆け引きの手腕を期待できないという事です」
戦争して人々を殺すのを楽しむ気か! と、思ったがこいつらなりに戦争は乗り気ではない……のか?
いや、旨みがどうこう言ってるから、純粋に人間がかわいそう、とか思ってるわけじゃないんだろうけども。そもそもこいつらの性格に付けられた設定的に、そうなるわけもないか。
「む……お前たちとしては、王国との戦争は「フリ」ではなく、本音で歓迎していない事態、そう思っていいのか?」
「はい」
「その通りです」
うぬぬ……だったら仕方ない……のか?
「アルベド。そしてデミウルゴスよ。王国との戦争、起きるとしても目的はあくまで「釣り」ではあるが、その際のナザリックから出す戦力。どのくらいを考えている?」
ここでモモンガさんの一言。
もはや戦争は決定である、というのを言外で認めた形だな。
あくまで「王国のリアクション待ち」だけど。
そうなれば、決めるべきは「どう戦うか」になってしまう。
うん、俺が見た未来のように何十万人を殺して高笑いするモモンガさんは見たくないぞ。
「はい。大雑把に分けて案は2つあります」
「ほう」
モモンガさんの質問に対し答えるデミウルゴス。その答えにモモンガさんが感嘆の声をあげると満足そうにニヤリと笑う。
「ひとつめ。これは以前からの案の通り。法国に勝てる、と思わせる戦力としてレベル60から70のモンスターを使います」
「ふむ」
「そしてもうひとつ。これはオッ様の技を戦士長が正しく伝え、その上で否定された場合になりますが。敵陣のど真ん中にて、再びオッ様のタービンストームをお見せすることです。この場合、法国の監視からの警戒レベルは引き上げられるというデメリットこそありますが、王国は正しく我らを驚異と見做し、戦争の後に我々が自治権……広い領土を要求したとして、それが受け入れられやすくなるというメリットがございます」
む。
「ま、まてデミウルゴスッ! その方策では」
「もし、後者の策でやる場合、戦争は俺ひとりでやる事になるのか?」
デミウルゴスからの答えに対し、声を荒らげかけるモモンガさん。どうやらモモンガさんにとってもデミウルゴスの2個目の策は予定外だったようだが、それは大した問題ではない。
珍しく慌てるモモンガさんと、もっと珍しく冷静な俺に訝しむ表情を見せるが、聞かれたら答えるのが配下の役目。
それが気に入らぬ上司でも。
だからデミウルゴスは答える。
「は。もし後者の策を行う場合……確かに戦闘で力を振るうのはオッ様お一人ということも出来ます。しかし、戦争となればおそらく万単位の有象無象が並びます。まず、前衛を適当なモンスターによる広範囲攻撃で討ち下し、しかる後にオッ様の止めの一撃……というのが理想かと。その際に戦意喪失して逃げるであろう兵はある程度間引きつつ多くを意図的に生かせば、その戦場の恐怖を触れ回ってもらえるでしょうから」
ふむ、効率の面なんかを言い出せば俺にはよくわからないが……それでも、気になることはある。
「後者の策の場合、そこまでする必要はあるのか? 相手をビビらせるなら、1発で足りないのならタービンストームくらい2発、3発と放ってもいい。当てるのは1発で残りは威嚇の無駄打ちだけでも恐怖は与えられるんじゃないか?」
「む……いえ、確かにそうですが……」
「別に王国を取り込むわけでもないのです。我々が独立国家を作り上げる際において、隣接国となるであろう王国の国力を削いでおくのは、後を見据えて良い結果を生むのではないでしょうか?」
「そうか。これはあくまで俺のわがままだが、目的遂行のための犠牲は少なければ少ないほうが良い。俺は、そう思っているだけだ。必要はなくとも犠牲を望んでいた、そういう
「っ」
俺の言葉に、一瞬言葉が詰まる2人。
……つまりは、そういう事なんだろう。
そうあれ、と作られ設定されている以上は仕方がないのだが……こいつらは油断してたらすぐに他人を苦しめる策を献策してくる、そう知っていなければ見逃していていたな。
「まぁ最終決定はモモンガさん任せになるんで、モモンガさんが前者をやるって言うのなら前者のほうがいいんだろうけどな」
とりあえず、モモンガさんに対する忠誠は本物でも、敵対者に対する露悪的な部分に対して目を光らせておかねば……と、気分一新しつつ、決断はモモンガさんに投げる俺であった。
「ここで私ですか、いや、ごにょごにょ……んんっ! デミウルゴス、アルベド。前もって言っておくが、オッさんはあのように言ったが、お前たちをそう作ったのはかつての我らの仲間たち。確かに注意点として覚えておいて欲しい部分でこそあるが、そうあれと作られたお前たちの性格を私が否定する事は絶対にない。それを覚えておけ」
「はっ!」
そうして振られたモモンガさんの発言。
言葉の途中で二人共アタフタとしていたが、結果を聞いて安堵……ではないが、モモンガさんに対する忠誠をより一層高めた、かのような顔で跪いた。
モモンガさんは良い良い、立て立て、頭を上げろと言うがいいえそのようなわけには云々と、しばらく続けてから二人とも再び頭を上げる。
「さて、王国に対する対応に関しては……まぁ、奴ら待ちではあるし、大人数を動かすというのであればこちらにはまだまだ余裕もある。その時までに決めておこう」
とりあえずの形として、対王国の作戦はここまでだ。
モモンガさんはそう言い、しかし表情は今まで以上に引き締めた顔になった。骨だけど。
「次……と、言うべきかな。オッさんから得た未来知識。少なくとも判明している範囲内で一番の山場について、だ」
「はい。そもそもこの問題。これについてベストな形での答えさえ出れば、もはや王国、帝国は当然として、法国でさえも恐るるに足らず。モモンガ様とオッ様の最大の懸念も解消されるものかと」
「ええ。至高の方々をして多大なる労力を持って数える程しか手に入れることができなかったと言われるワールドアイテム……その所持者との戦い、ですね」
「うむ」
うむ?
1巻が終わったんだから次は2巻では……いや、そういやモモンガさんが2巻と3巻は同時進行、と言ってたな。
そして1巻と2~3巻の間の経過日数が不明なのが面倒である、とも。
「そういえば……んん? そうだった。ちょっと思い出した」
「え!?」
「なんと!」
「未来知識でしょうか?」
俺が電球ピコーン、的な思い出しに対してやたらと食いつくモモンガさん達。
いやまぁ、未来知識は重要だもんね。
「ああ、うん。そうだ。多分3……じゃなくて、未来の知識において、法国のマジックアイテムで操られてしまう者のことだけどな」
俺の言葉に注目する三人。そんな期待されると期待ハズレだったとき怖いからあんまり期待しないで欲しいが……まぁいい。
ああそうそう。未来知識として、俺はモモンガさんにはシャルティアが洗脳された、などなどと知ってる限りのことを教えているが、アルベドやデミウルゴス、それにほかの守護者たちには「誰が洗脳されたか」は言ってなかったりする。
当然だが小説だった、などという情報もだが。
何しろこいつらのモモンガさんへの忠誠は限界値に達している。だからこそ、操られてしまった、ワールドアイテムを警戒しなかったモモンガさんのミス、などと理由を並べ立てても「洗脳された者」に対して守護者間での信頼性が落ちてしまいそうだし、そうでなくても「まだやっていない事」を理由に周りとギスギスしちゃうのはかわいそうだしな。
戦争して、おそらく万単位の現地の人間を殺す計画に加担しておいて、身内の感情一つを「かわいそう」などと言うのはエゴイズムが過ぎるかも知れないけど、それでも……な。
「その者はモモンガさんから指令を受けてナザリックの外に出ていた、とは言ったな。そして殺しても、蒸発しても誰にも文句を言われない、そういう条件の犯罪者の中で、武技やこの世界独自の魔法なんかを持ってる奴がいたら捕まえろ、と。それで引っかかった対象が……確か……ブレイン、かな? ガゼフのライバルとかそんな奴だ」
「ほう、ガゼフというとあの戦士長。そんな奴が居たんですか」
「はい。俺の見た未来だと二通りの運命があったんですが……そいつが潜伏してるアジトの近く? いや、周囲数キロって程に離れてるかもしれないけど、そのくらいの距離で、法国のやつとエンカウントして洗脳されたはずなんだ」
たしかそんな感じだ。
正確には、シャルティアがブレインに逃げられて、追いかけようとしたら見つかった……だったっけ? 確かそんな感じだったよな?
「つまり、そのブレイン……とやらを見つければ、その者の周囲数キロに警戒網を引くことができれば……ですね?」
「うむ。まぁ見つけるのが難しかったらどうしようもないし、あんまり役に立たない知識かもしれんが」
「そんな事はございません。犯罪者のアジト……その言葉から、おそらく人里から離れすぎず、しかし近すぎない距離に、そして10数人から数十人規模の集団が潜伏できうる場所、それを探せば良いのではないでしょうか?」
思い出したはいいがあんまり使えない知識か? と、思ってたのだけどデミウルゴスとアルベドは俺のあやふやな記憶から出た言葉であっという間に対策を考えよった。
しかも確かに、そうなのだ。
「う、うむー。確かに……山奥か? いや、奥ってこともないか。だけど夜中に馬車が出発して途中で待ち伏せ、その後本拠地まで……それなりのステータスの持ち主が走ってたどり着ける範囲、みたいな感じだった気がする」
たしかそんな感じだ。
シャルティアとヴァンパイアブライドが走ってたくらいだから、その中で一番足の遅いヴァンパイアブライドの速度でもそんなに時間がかからない距離のはずなんだ。
セバスとソリュシャンが夜中に出発した、といってもすべてが夜中に終わった感じの演出だったから、街を出てから3時間以内にシャルティアが洗脳された……ってことになるはず。
……あかん、やっぱ漠然としすぎで意味のない知識だ。
「で、あればその犯罪者のアジトよりも、ナザリックから見て一番近い大都市から、王国の首都までの道筋にあるそれなりの規模の町の周辺、という形で警戒網を張るのが良いかもしれません」
「範囲が広くなる分、一つ一つの警戒網は薄くなりますが、主力はナザリックに待機していつでも動ける準備を取るのであれば、それで問題ないかと思われます」
「いや、むしろナザリックのしもべよりスキルで呼び出せる使い捨ての低レベルの存在を放ったほうが良いかもしれませんね。使い捨ての召喚モンスターでも倒された場合は感覚でわかるのですから、むしろそちらの方が低コストで済む?」
しかし、俺が適当にポロっと出した知識から、いつの間にかに作戦会議を始めているアルベドとデミウルゴス。
俺とモモンガさんおいてけぼり。
ぽかーん。
モモンガさんも会話に混ざれよ、と思うがそうなると俺だけがバカみたいだからモモンガさんもついていけない方がいいのか?
いや、このハゲはこう見えて意外と会話の内容を吟味してて自分の中で答えを出してる可能性もあって侮れない。
それは置いといて、次々と会話が進んでしまいついていけなくなった俺は暇なので、外に見えないように肩の中のギミック、ショルダーアーマリーの内部のエネルギーギロチンブレード装置を空回転させて遊ぶ。
原作だとディスクカッターというチェーンソーみたいな短い刃が出てたが、エネルギーブレードでそれなりの長さのブレードを出せる設定にもしているのだよ。
いやまぁ、俺の本体と同じ材質のアンノウンメタルの刃の短いチェーンソーも再現してるけどね。
しかしディスクカッターの方だと回そうと思えば肩のショルダーアーマリーの蓋を開けなきゃならんので、蓋を閉めながらでも回せるエネルギーブレードを回して遊ぶのだった。
なんというかゲーム時代はショートカットとかコマンドで動かしてたのに比べ、この体になってからは結構自由度が上がってるので、ゲーム時代じゃできなかった空回しが出来るのはいいねぇ。
人間の体に存在しない器官だというのに、今や有るのが当然で自分でも完全に使いこなせたりするのがなんとも不思議な感じだが不快感がなかったりして……興味深い。
ついでにカカトの中のブースターも火をつけずにエンジン回してみようかな。音が立たないレベルで少しカカトが浮くくらいのパワーにしたりして……
表面上は動いてないのに体の中身を全力稼働させて初手からトップスピードで動けるような練習をするのも良いかも知れぬ。
やってみるかね……むむ、難しい。
油断してたら関節の隙間とかから光が漏れそうな感じがする。
外には何をやってるかわからせずに、体の内部装置の加速をできるようにならねば……しかし、難しいがこれはプレイヤースキルに該当される技術になるはず。
そういう部分でも地道な練習こそが強くなるための道よな……まぁそれで上がる力はほんのちょっぴりだろうけど。
「さて、では当面の行動は待ち伏せで獲物が網にかかった時に……オッさん? あの……聞いてますか?」
「はぇ!? え? き、聞いてたよ!? バッチリ聞いてたよ!」
「おいオッサン」
途中から会議を聞き流していたが、どうやらいつの間にやら終わっていたらしい。
あとで結果だけ聞けばいいじゃない、と思ったがなんだか怒られるのであった。
とほほ。
マスクくんの配置。
たぶん9階層のどこかでしょう。
既に記入済みのアンケート用紙。
守護者たちは7月中に夏休みの宿題を終わらせるタイプ……と、いうか、嫌なことではなくやりたい事なので率先してやっただけとも言えますね。
王国の対応、王国への対応。
どうなることやら。
誰かが洗脳されたとは言っても「誰が」洗脳されたかは内緒。
今の時点じゃ「やってないこと」で責められるのはかわいそうですよね。
会議についていけない主人公。
いい加減主人公がどのくらいバカなのかを店つける必要が……今までで十分見せつけてましたね。
ちなみにモモンガさんは発言自体は少なくとも内容にはついて行ってます。
主人公は本文通り、途中から遊んでて聞いてません。
前書きの他者視点は無い方が読みやすい感じですかね。
あとがきの言い訳風説明文も、ですが。