42人目の至高   作:マッキンリー颪

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番外・4

 リ・エスティーゼ王国戦士長、ガゼフ率いる戦士団。

 彼らはアインズ・ウール・ゴウンのモモンガ、そしてオッを名乗る者達が去った後、すぐさま王都へ向かう……そんな選択肢を取れなかった。

 

「村長どの。少しよろしいか?」

「……えっ!? はっ! あ、あ、はい!」

 

 話しかけた村長は数瞬、思考回路が停止していたようだが、ガゼフはそれを無様に思わない。

 自分だって正直、彼らから声をかけられなければどれほどの時間、思考停止していたのかわからないほどだ。

 剣の道を志してから、今まで数々の強者を見てきた。様々なものと戦ってきた。

 そのガゼフをして、あの光景は人生の全てをひっくり返されるかのような衝撃を受けたのだから。

 

「それほど時間は取らないつもりだが、この村の家を何件か……いや、できれば10件以上、お借りしたい」

「へぁ!? い、家ですか?」

「うむ。ああ、大丈夫だ。しばらくと言っても日をまたぐのではなく、数時間とかけないつもりだ」

「は、はぁ……一体何をされるのですか?」

「尋問だ」

 

 ガゼフとしては、本音の部分では今すぐ王都に取って返して、今見たものを正しく伝えたいと思っている。

 王国戦士長としての……いや、この王国に住まう人間としての義務として。

 あれは驚異だ。

 いや、驚異などという言葉すらも生ぬるい。

 

 あのような力がこの世に存在していいのか? 俺は夢を見ていたんじゃないのか? そう信じたくなる。

 だが、彼の役職が、忠誠が、人生が、そんな逃避をガゼフに許さないのだ。

 

 だからこそ、やるべきことを間違えてはいけない。

 

 

 アインズ・ウール・ゴウンのモモンガ、そしてオッ。

 彼らに捕まったというスレイン法国の工作員たち。

 こいつらはリ・エスティーゼ王国の貴族と繋がりがあった? そんな事はどうでもいい。そう思えてくる。

 今までであれば何としてもその事を吐かせ、王国に仇成す貴族どもへの攻撃の材料へとしたかった事だろう。

 しかし今はそんな「小さいこと」をやっている余裕なんてないのだ。

 

 ガゼフは何としても、こいつらから情報を手に入れなければならない。

 アインズ・ウール・ゴウンのモモンガ、そしてオッとこいつらはどう出会ったのか? 捕まっている間に何を見たのか? 何をされたのか?

 彼らの連れていた者達。

 角や羽根という異形を含めた上でなお、男女問わずの目を引きつけること想像に難くない美女。

 直視は愚か視界の端に入れることさえ躊躇われるような醜くブヨブヨした化物。

 首から上が犬の姿をした獣面のメイド。

 それ以外にも何かを見たのか?

 なんでもいい。少しでも、アインズ・ウール・ゴウンという存在のことを知らなければならない。

 彼らとの交渉を成功させるために、少しでも正しい情報が必要だからだ。

 

 

 

「戦士長。大した情報は得られませんでしたね」

「ああ、想定外だ」

 

 口裏を合わせられないようにと一人一人を別々の家に入れての尋問。

 その結果わかったことは、彼らは突然現れ、気付いたらここに居たという、それだけの情報でしかなかったのだ。

 騎士に扮した工作員は剣で切っても死なない、殴られただけで兵が死んだ、というものだったが、陽光聖典の者たちはもっとひどい。

 ここが農村の家であり、尋問相手がガゼフであると知れば、それだけでふてぶてしい態度で口をつぐむ。

 慣れないがかなり手荒な真似をする羽目になり、そうやってなんとか手に入れた情報も、天使を倒す謎のゴーレム。しかし最上位天使さえ召喚できていれば倒せたなどという……彼らの驚異をまるで理解していない、愚かな態度であった。

 人類至上をかかげその生存を第一としている、などと嘯く国の人間でありながら、どうして人類という種族すべてを滅ぼすかも知れない相手をそんなに低く見ることができるのかと頭を痛めたほどだ。

 

 そして、ガゼフの元に渡された連中の中で唯一の死体、陽光聖典の隊長と思しき者の死体を検分していた者が発見したアイテム。

 ガゼフは剣と違い魔法の才能がなく、ゆえに魔法のアイテムなどというものを見てもそれがどのくらいの物かを知ることはできないが、そんなガゼフから見て威圧感を感じずにいられない魔法の輝きを秘めた水晶。

 それを見てガゼフはさらに頭を痛めた。

 これほどのアイテムに彼らは気付かなかった? そんな訳はない。

 ならばなぜ返却したのか?

 おそらく彼らはこの水晶の価値、力を知っていたのだろう。

 だが、あえてそれを無造作に扱ってみせる……いいや、実際それは演技などではないのかもしれない。

 アインズ・ウール・ゴウンのオッ。

 かのゴーレムの見せた力。

 その爪あとは未だに、この村の横、森一体に広がっている。

 

 無造作にあんな力を振るう彼らだ。

 それも、あんな恐ろしい力を見せてなお「力の一端」などと表現する。

 そんな彼らから見れば、あの水晶は真実、取るに足らないどうでもいいアイテムなのだろう。

 恐ろしい。

 

 だがこの恐ろしさ。果たしてガゼフの口から伝えて伝わるのだろうか?

 モモンガ、そしてオッとは少し会話を交わしただけでその人となりなどわかるわけがないのだが、それでも彼らは理性があったように思う。

 彼らは話のできる存在だ。

 しかし……それが理由で彼らを侮るようなことがあれば?

 

 再度、オッの残した破壊の爪痕を見てガゼフの背中に冷や汗が流れる。

 

 王を、王国を、そして民を。

 ガゼフはそれらを守るために命を使うことを恐れはしない。

 しかし……ガゼフ一人が命を賭けた所で何一つ守ることができない圧倒的な力を前に、この国はどうなるのかという言い知れない不安がガゼフを襲う。

 

 しかし、彼はその恐怖に折れるわけには行かない。

 力が及ぶ敵だから戦うのではない。守るための剣とは、相手がいかに強く大きくても、逃げることが許されない物なのだから。

 

「そうだ。俺はこの国を守る剣。たとえ力及ばぬと知っていても、諦めることなどあっていいわけがない……絶対に、守りきってみせる!」

 

 オッの力の痕跡。

 それを見るだけで永遠に止まらなくなるのではないかと思ってしまう、そんな震えをガゼフは意志の力で止める。

 その目に宿るのは狂気でもなければ自棄でもなく、理性の光。

 恐怖を知り、その上で立ち向かう不屈の勇気。

 ガゼフはその勇気を胸に、王都へと帰還する。

 

 その先に想像を絶する困難があろうと折れてなるものかという誓を胸に。

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