42人目の至高   作:マッキンリー颪

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第10話

 おそらく遠くないうちに現れるであろうシャルティア洗脳チーム。

 彼らの数はそう多くはないが、それでもこの世界の存在の中では一人一人が破格の力を持つ怪物揃い。

 さらにその身に纏う装備も、過去のプレイヤーが残したであろう超級の装備。

 

 しかもそのうち最低でもひとつはワールドアイテムすら所持し、使用が可能という。

 

 そんな怪物との戦い……と、なればナザリックもかなりの犠牲を覚悟で挑まねばなるまい。

 だがいつ現れるともしれない敵を恒常的に警戒し続けるのも現実的ではない。だから、シャルティアの眷属召喚に代表される「潰されても補充可能」な戦力を哨戒に立たせる作戦としたらしい。

 

 仕事をするのは主にデミウルゴス配下の悪魔の召喚モンスターだそうだ。

 俺の記憶通りであれば夜に接敵したが実際に夜だけに動いてるわけじゃない、と考えるのが当然ではある。しかし法国の特殊部隊であろう存在が昼間から人目に触れる場所で行動するというのも、可能性として低そうだから、闇夜に紛れることができる悪魔系統のモンスターのほうが都合が良さそう、とのこと。

 

 デミウルゴスの守護域はナザリックの深部に類する為、防衛時の重要度は高いのだが、そもそもそこまで攻め込まれることが滅多になく、今この時点ではナザリックを補足している存在がいない確率が高いからこそ、できる行いであもある。

 まぁそれでも第七階層を空にするわけでもないのだけど。

 そう、七階層に詰める高レベルのしもべたちの代わりにその間、七階層を守る奴がいるのだ。

 その名も!

 

「パンドラズ・アクター……やつがついに動くか」

「いや、大物ごっこはいいですから」

 

 ちぇっ。

 まぁいいや。

 

 それは置いといて、円卓の間でモモンガさんからとりあえず会議で決定した事柄を教えてもらったが、いやまさかついにあやつも動けるか。

 

「指輪がなければ行けない場所でもありますしね。もっとも滅多に攻め込まれないからって無防備でいいとは言いませんが、それでも現状、パンドラズ・アクターを遊ばせておくのはもったいないでしょう」

 

 将来的にも、エクスチェンジ・ボックスでこの世界の資源をナザリックの維持コストに変換させる時にも活躍してもらえるだろうし。

 

「ま、まぁパンドラズ・アクターには、明日、私が一人で……あぁいや、念のためシズも連れて二人で会いに行きますんで、もうそれは置いといてください」

「え、俺も見たかったのに」

「やめて」

 

 ちぇっ。

 

「ま、冗談はここまでにして。それで法国のシャルティア洗脳チーム……見つけたらどうします?」

「徹底的に叩きます」

 

 気を改めて尋ねると、モモンガさんはじわりと殺気……みたいなものを滲ませて言う。

 未来のことであり、まだ起きていない出来事とは言え、やはり気分はよくないのだろうなぁ。ましてや、その未来においてモモンガさんは自分の手で殺してしまうことになるのだから。

 

「徹底的に……ですか。なら全滅狙いで?」

「正確には全滅させても構わない、そのくらいの覚悟で攻めます」

 

 ふむ。

 中途半端に生け捕り狙いなんかで色気を見せて失敗したら目も当てられんからな。

 ならば、生け捕りできればラッキー、くらいの気持ちの方が良いか。

 おそらくはシャルティア洗脳チームとの戦いこそが、俺の記憶にある戦いの中での一番の正念場だからな。

 まだ見ぬ強者……法国に存在するというシャルティア洗脳チームより強い奴、さらにバッドエンドでシャルティアを消滅させた龍……そいつらが存在する以上は油断はできないのだが。

 いや、それだけでなく、もっと広い場所には過去のプレイヤーの残滓があるかもしれない。

 どこまで行けば安全が保証されるのか、本当に先行きが見えない戦いだよ。

 

 それでも、王国……もしくは帝国との戦争をする事で独立国家として立つ事をこの世界の住民に認めさせれば、最低限の安全は確保できるはずなのだ。

 

 そこまで行ければ残りの人生は緩やかに……ってか俺やモモンガさん、それに守護者たちって何年くらい生きるんだろうな? ……ま、まぁ遠すぎる未来のことは今はいいや。

 

「では、その広範囲の探査は今夜からでも?」

「ええ、そうなりました。私はおそらく明日からでも大丈夫だろう、とも思っていたのですが……なんか、逆に働きたくて仕方がないようなことを言われて」

 

 おおう、真面目ちゃんというかなんというか……俺なら休める時は休みたいと思うんだがなぁ。

 職場に対する忠誠心の違いか?

 そういう部分はあるのかもな。

 

 で、とりあえずその戦いの際にどういう人員で攻め込むかの話もあった、と。

 

「彼らは放っておけば、本当に自分たちで物を進めようとするところがあるようですね。ワールドアイテムを使う強敵……となれば、私とオッさんを戦闘チームから外す、とまで言い出したほどですから」

「そりゃまた……合理的でない、感情論で動くもんだ」

「ええ……だから、戦闘チームの大雑把な組立は私がしてしまいましたが……オッさん聞いて……なかったですね、はぁ」

 

 会議長かったからつい……な。

 で、モモンガさんが考えた連中に対する包囲網は、数が少ない場合は高レベルの召喚モンスターやしもべで波状攻撃をしつつ消耗させてから俺やアルベド達、前衛系が出撃してチクチクヒットアンドアウェイ、マーレやアウラにサポートをさせてある程度距離を引き剥がしたら超位魔法を叩き込む、と言った具合になるらしい。

 相手が強く、そして数も多いなら経験値を消耗してでもオーバーロードワイズマンを召喚士、それをシャルティアの代わりに洗脳させるらしい。いくら使い切りでなく、何度でも使えるタイプのワールドアイテムとはいえ、連続使用ができるはずがないので、一発使わせたあとは総力戦による短期決着を狙うとか。

 細かく分けるともっと複雑だが大雑把にはそんなところか。

 

 まぁどっちにしろ俺の役目は突っ込んで戦って時々引いて、というわかりやすいものだから助かる。

 

「さすがにこの戦いにはレベル80以下の者は使えませんが……犠牲はどれほどになるか、想像もつきません」

「多分プレイヤーじゃなくその子孫だ、つってもワールドアイテムを外に持ち出して使うくらいだからなぁ」

 

 少なくともシャルティアが見て強敵、と判定する敵がいるわけだし、警戒は怠れない。

 

「そういやさ、3巻部分も大事だけど2巻部分……近所の大都市で行われる犯罪者との戦いどうします? モモン・ザ・ダークウォリアーは出動しないんですか?」

「だからその嘘っぱちの名前はやめてください。冒険者としての英雄の名声……無いよりはあったほうが、とも思いますが既にナザリックは人の世にデビューを果たしたのです。今は脇道にそれている余裕もありません」

 

 なるほどね。

 たしかに、あれはモモンガさんのリフレッシュみたいな感じだった、て書かれてた気もするし。

 でもこのハゲは思い悩むことが多そうだし、ナザリックが独立国家になった暁にはモモン・ザ・ダークウォリアーとして水戸黄門みたいにブラリ旅しても良いんじゃないかな。

 コキュートスがスケさんでセバスがカクさん、アルベドが由美かおるで……うっかり八兵衛がいないな。

 シャルティアが一番近い気もするけどイメージが違うし。

 ナザリックにはそう言うバカで間抜けな賑やかしが足りないのが欠点かもしれんなぁ。

 

 と、それは良いとして。

 

「じゃあ大都市の方は見捨てますか? まぁ……俺らが転移しなかったらどっちみち「そう」なってた運命だろうから、一方的に助ける義務なんてないとは思いますが」

「いいえ。助ける……と、いう訳ではありませんが、その事件を起こさせる気はありません」

 

 俺が諦めがちに言った言葉を否定するモモンガさん。

 え? ちょっとどうしたのこの骨。急に正義ヒーローに目覚めたの? 良い事だけどなんか落とし穴がありそうだぞ?

 

「なにしろそいつら……裏社会の人間でそれなりのやり手、という話ですからね。ぜひ、生きたまま鹵獲して役に立ってもらいたい。さらに言えば、我がナザリックの近くの大都市、その墓地でのアンデッド実験などされてしまえば、私がこっそりとアンデッドの材料を得るために墓荒らしをできなくなりますから」

 

 正義のヒーローじゃないのね。

 正義感じゃなくて、やりたい事をやるってわけか……まぁ良いけどさ。

 

「ふむ、ちょっと気になる言い方だけど……まぁいいか。墓地の死体もアンデッドの材料になるなら、常備兵力も補充しやすそうですしね。生きてる人間を殺してアンデッドにしたら文句言うつもりだったが元から死体な上にコッソリやるならセーフティでしょう」

「ええ」

 

 なんせこのハゲ、騎士の死体がマジで永続的なデスナイトになったら「ちょっと近くの街でも襲って死体を補充するか?」などと、やばい事を言ってやがったからなぁ。人間の心を忘れちゃいかんよ、マジで。

 

「でもナザリックの主力はシャルティア洗脳チーム対策で待機っすよね? そんな余剰戦力ありますか?」

「いやいや、オッさんが言ってたんじゃないですか。私はナーベラルを連れて冒険者をして、ナーベラルと一緒に犯罪者を倒した、と」

「ああそうそう。モモン・ザ・ダークウォリアーとナーベの大冒険だ」

「オッさんのネーミングセンスは良いとして! つまりナーベラルの力量……レベル60あればなんとかなりうる相手。ですからね。プレアデスメンバーと適当なしもべのモンスターでなんとかなると思うんですけど」

 

 む……言われてみればそうだな。

 たしかモモンガさんと戦う、なんとか言うやつもモモンガさんが「本気を出さない」と宣言して腕力で倒せる雑魚だったし……レベル60のチームどころか、本気を出せばナーベラル一人でもオーバーキルか? いや、殺しちゃダメだから複数で確実に行くのが正解だけど。

 

「あ、そうだ。でもそいつらアンデッド使いですし、モモンガさんみたいにアンデッドの察知ができるかも。ユリは正体がバレるかも知れませんよ」

「敵がアンデッド使いならルプスレギナがいるので一人でもおそらく余裕でしょうけど、ユリには隠蔽系の装備を持たせる予定です。せっかくの合同任務、一人だけ外すのはかわいそうですしね」

 

 それもそうだな。

 それに、たしか敵の切り札がスケリトルドラゴンを2~3体だったか? 負けるほうが難しいアトラクションみたいなもんだ。

 甘く見すぎて足元を見られる、って可能性はあるがユリをどうにかできる存在がいると考えるのはビビりすぎだわな。

 

「たしかオッさんの記録によると……墓場にアジトを作った犯罪者集団に女戦士が訪れて、その女が犯罪者集団に共同犯罪を持ちかけるんですね」

「そうそう、たしかそんな感じ」

「なのでそのアジトを我々で早期発見し、女戦士が訪れるのを待ちます。そいつが出てきた所で一網打尽にする作戦でいけば、他人に干渉されずにその者たちを手に入れられるかと」

 

 モモンガさんはあっという間に作戦を決めてしまいよる。

 こやつ、脳みそ空っぽのくせに頭の回転は侮れんな。

 

「……そういう話もしてたはずですが、やっぱ聞いてませんでしたか」

「てへっ」

 

 笑ってごまかそうとしたが、モモンガさんが誤魔化されてくれなかったことは、言うまでもない。

 

 

 その後、もし王国との戦争になったらどう戦うか? も話し合った。

 モモンガさん自身は人間を相手に親身になれないせいで、戦争になっても結果勝つのであれば過程は問わない、と言っている。

 しかし、俺が人殺しを好きじゃないのなら、しもべ任せの方の方針で良いんじゃないかというのだが。

 

「いいや、俺が前面に出て戦ったほうが……多分、戦争時の人死には減らせる……と、思う。だから、そうしたい」

「しかし……はぁ。こんな事ならデモンストレーション、無理を言ってでも私がすべきでしたか」

「でもモモンガさんの技って地味だし」

「地っ……いやいや。それなりに威力重視もありますよ? リアリティスラッシュとかすごいですよ?」

「でも範囲が短いから一撃の被害が少なそう、って思われるしさ」

 

 俺に地味と言われたらモモンガさん的に何か譲れない部分があるのか、なんとも微妙な表情になるのだが……何とも言えまい。

 

「くう、広範囲の怨霊による呪い発生とかは……あぁダメだ。見えにくいですね」

 

 いろいろ考えたみたいだが、やっぱそれ以外無いと諦めたみたい。

 

「しかし、タービンストームなんてMAXで撃ってもゲームじゃあんな派手じゃない感じだったのに、随分と大きかったですね」

「ただのレベルMAXじゃなく発動前にスキルでめちゃくちゃに強化してたけど、それでもゲームじゃあんなの無かったっすわ。そういや思い出した。4巻でモモンガさんがリザードマンを苛めるときに……クリエイション? なんかフィールド変換系の超位魔法」

天地改変(ザ・クリエイション)

「そう、そのザ・クリエイションを使ったらゲーム時代より広い範囲を凍らせてた、って描写があった気がする」

「ああ、たしか書いてましたね、そんなこと。字が下手で読みづらくて忘れてました」

 

 こっ、このハゲ……! あ、スゥーっときた。

 

「なるほど……自然現象系の魔法やスキルは範囲が変更する可能性もあり、でしょうか? うん? でもナザリックくの隠蔽を任せたマーレは特にそう言った報告をしませんでしたね」

「元NPCかプレイヤーかで違いがあるんですかね? もしくは地面を動かすのと地面の上で何かをするのとで違いがある? まぁそこらへんは時間があるときに検証すりゃ良いと思いますが」

「そうですね。重要事項です」

 

 重要かぁ? よくわからないがモモンガさんは重要事項、と言いながら紙にメモをしている。

 うっかり忘れてしまって後手に回らないようにしようと思えば、そういうメモを取って忘れないように知識の保存は大事なんだなぁ。

 

「ふむ、少し脱線しましたが……では、王国との戦争。王国自体の被害を減らすため、オッさんが大技を何発か打つ、で良いでしょうか?」

「うん、やるよ。ただそれでもさ。徴兵されてる一般人とかはやっぱ殺したくないんで、敵陣中央、将軍とかそういうのを守ってる私兵みたいなのを選んでぶちかまして良い?」

「まぁ……構いませんが、できれば権力者は生きて帰って、我らの力の強さを喧伝して欲しいんですけどねぇ」

「その場合はあれだ。生き残った民兵も誇張してくれると思うし、偉い人間が全員固まってるとも限らないからさ」

「ふむ……その後、デミウルゴスの案であった、ある程度のレベルのモンスターによる間引きは?」

「やめて欲しいですね。ていうかさ、雑魚民兵なんて多分レベル1桁だしさ。恐怖系の咆哮を使えるモンスターとかに大合唱させたら散り散りに逃げるんじゃないか?」

「あー、その手も使えそうですね。ゲームじゃネタスキルですらないから存在自体忘れてましたよ」

「ネタスキルになりたかったらせめて即死効果くらい付けろ、ってなもんですよね」

「まったくです」

 

 フハハハハ、とゲームのことを思い出し懐かしみながらの談笑。

 はぁ、こういう時間だけで過ぎるのなら異世界生活も悪くないんだが、問題は戦争や、これから行う本気バトルや……そういうのがなぁ。

 ブラック企業で使えない天下り上司のもとで社畜やるのとこっち、どっちがいいのやら……いや、こっちのが良い、って言えるようにしないとな。

 来る気がなかったとは言え、来ちまって世界に干渉し始めるからには、嫌だ嫌だとワガママを言うのはよくないことだ。

 

 その決意を新たに、キリッと気を引き締める俺。

 モモンガさんはそんな俺を見て、言った。

 

「どうしました? また会議の内容を忘れて聞いてるフリですか?」

 

 骨ぇぇぇええええ! ……あ、またスゥーっときた。

 やれやれだ。

 

 

 

「そんじゃ今日はこれくらいで解散かな」

「マジで言ってますか?」

 

 俺はそろそろ今日はお開きかなー、と思ったらモモンガさんは信じられないものを見る目で俺を見てきた。

 なんだよこの骨。まだ遊び足りないのか?

 

「いやいや、俺らは体力、精神ともに人外になりつつあるとはいえ、時には休憩も必要ですってば」

「それは実感してます。でも、これがあるでしょう」

 

 俺が「やれやれ何言ってるの?」という顔でモモンガさんを見たらモモンガさんは「やれやれ何言ってるの?」という顔で紙袋を机の上に置いた。

 

 ……あぁ、あれか。

 

「アンケート用紙か。すっかり忘れてた」

「すっかりじゃないでしょうに。これをみて、オッさんには今日から心を入れ替えて彼らにちゃんと接してもらいますからね」

「何言ってんだかこのハゲ骨は。あやつらからすれば俺は見捨てた存在でしかないのだよ。それをじっくりと実感するが良いわ!」

 

 で、読んだ。

 ナニコレ気持ち悪い。

 

「ちょっ、おまっ……ギャグで書いた質問すら……1……だと!? いやいや、おかしいだろこれ! これも! これも! 皆1ばっかじゃん! 舐めてんのか?」

「いいえ、彼らの忠誠の現れ……ではありませんか? 正直私も引いてますが」

「いや、でも……質問用紙ちゃんと読んでないんじゃねーの? 匿名だから好きに書けばいいやって……そうとしか」

 

 思えない。

 この質問用紙の中には「オッの奴が君らを見捨てたのを許せる? 1・絶対に許すよ 2・許すよ 3・どうでもいい 4・許さないよ 5・絶対に許さないよ」という物もあったが……これに……1だと?

 絶対読まずにチェック入れてるって。

 俺はモモンガさんにそう言ったが、それはない、などと断言しやがった。

 

「なんでそんな事が言えるのさ」

「用紙の裏を見てください」

「裏ぁ?」

 

 モモンガさんに言われ、裏を見たらあらビックリ。

 ギッシリミッシリ、文章が書かれてた。

 

「お、おう……」

 

 その内容たるや……匿名、ということだが一般メイドであるのが読み取れて……頑張ればこれを書いたのが誰か、個人名すら識別できそうだぞ。

 いや、多分製作者とかだったら余裕だろうな、ってくらい。

 書かれてる文章には、モモンガさんへの忠誠心だけでなく、俺に対する感謝の気持ち? なんで?

 より一層の忠誠もなにも、俺は君らを捨ててたし、モモンガさんを取り上げる予定だったって言ったよね?

 さらに言えばそれだけでなく失態を果たしたインクリメントの罰の軽減、罪への挽回の機会をとか……なんだそれは。

 

「インクリメントって一般メイドの……たしか読書好きでしたっけ? なにか失態したの? モモンガさんじゃなく俺を名指しでなんか謝罪云々って書いてるんだが……多分インクリメント本人じゃないメイドから」

「インクリ……? あぁ、多分その者が書いたのはこれですね。どうぞ」

 

 俺がなんだこりゃ、と思って口から出た言葉に反応したモモンガさんは、プリントを読み上げてる中で、一枚だけ外しておいてた紙を俺に寄越す。

 その裏面にはまたびっしりと書かれてるわけだが。

 

 第一世界で生命力を削りながらもナザリックを守り続けてきたモモンガさんへの感謝と敬愛はわかるとして……なんで俺にもそれを向けてるの?

 で、何が失態なのかと思えば……俺に対する命令無視? 業務に戻れと言われていたのに俺について歩いた? そんなのあったか?

 

「こいつら何かハーブでもやってるのか?」

「いや、それはないでしょう。ていうか、恐らくは転移した翌日の事じゃないですか? 円卓の間へ来た時にオッさんが一般メイドに付いて来なくて良いのに、みたいに突き放した発言したでしょう」

「そんな事あったっけ? いや、でも……それで? なんでそれが失態に……」

「オッさんの命令、一言一句逃さず従いたいと、そう思ったからじゃないんですか? ほら、これはデミウルゴスの書いたのと思いますけど、読んでください」

 

 お、おう……なんか満足気な顔のモモンガさんムカつくな。骨のくせにドヤ顔しおって。

 しかしデミウルゴスもだがこいつら字が上手いな。紙いっぱいに字をびっしり書き込んでるけど読みやすいでやんの。

 俺の字は読みやすいように大きめに書いててもなんか読むのに時間がかかるというのに……くやしい。

 

 そしてその内容とは、モモンガさんへの賛辞はわかるんだが……なんで俺に対する謝罪まで。

 あ、いや、書いてるけどね、理由。

 本来は創造主である42人のために命を使うのが創造物たる自分たちの当然の義務なのに、創造主が去った事を見捨てられたのかと悲観したのが罪だとか……重っ! 重いよこれ。

 命削ってるとかなんて、言い得て妙だけど適当に捏造した設定だよ!? なんで本気にしてんの? 俺はモモンガさんじゃないんだぞ?

 おかしいだろこいつら……えー……しかも何。

 そんな不敬なセリフを吐いた自分が気に入らないのならいかなる手段で殺しても構わないけどどうかナザリックのほかの者達の忠誠は信じてとか……ヘヴィすぎるぞ……!

 俺の肉体が生身の人間だったら間違いなく胃もたれしてるわ。

 

「どやっ」

「イラッ」

 

 デミウルゴスのプリントを読み上げ、顔を上げた俺に対するモモンガさんのドヤ顔が……すごく……うざいです。

 いや、でも、おかしいだろこれ。

 なんでだよ、たしかモモンガさんへの忠誠が行き過ぎて他のギルメンはそれ程でもなかったんじゃなかったっけ?

 

「そ、そうだアルベドだ。あいつなら……って、まぁ裏を書かなきゃいいだけか。そうだよ、裏を書いてないプリントを見てみよう」

 

 みんな裏を書いたら自分のプリントだとバレるからってオール1にチェック入れてるんだろ。

 匿名だったら俺のことを嫌いって書いてるプリントもあるって……そう思ってたんだけど、な。

 

「全部、裏が書いてますね」

「しかも示し合わせてるわけじゃないっぽいのがな……書いてる内容とかで示し合わせてなさそうに見える」

「つまり本音ってことです、認めてください」

 

 えー……でも……えー……いや、しかし。なぁ?

 

「彼らの忠誠はオッさんにも……もちろん、私たちの仲間である残りの40人向けられているのです。自覚してください」

「う……ぬう……とりあえず……デミウルゴスとインクリメントの二人をちょっと自室に呼びます」

 

 NPCたちの解答用紙を紙袋に入れ、とりあえず円卓の間を後にする俺とモモンガさん。

 モモンガさんのやつはまさに「意気揚々」というような態度であるが、俺は気が重い。

 

 円卓の間を出てすぐ、通路に控えていたセバスにデミウルゴスとインクリメントの呼び出しを指示し、部屋に着く。

 

 しかし、俺は……今更なんと言って、どう接すればいいんだ?

 いや、時間はあるんだ。

 まずはゆっくり考え

 

「オッ様。デミウルゴス、お招きにより参上いたしました」

「お、お、オッ様。インクリメントです。及びに預かり……参上いたしました」

 

 早ぇよ!

 

「あー、うん。まぁ楽にしてくれ」

 

 ノックと言葉をかけられ、居留守も使えないのでとりあえず入室を促された二人。デミウルゴスとインクリメントはすごい緊張しているみたいだから、楽にしなよー、という軽い気持ちで言ったんだが……硬い。

 しかしこのままでは俺が気まずくて困るのだが……まぁいいや。

 

「ん、お前たちを読んだのは他でもない。この、答案用紙の裏側についてなんだけどな」

 

 と、言うとふたりはばっと跪き、頭を下げながら言う。

 

「はっ! 至高の御身への不敬とする所、十分と自覚しております! しかし! しかし……どうか、私の命でもって他の者たちの忠誠まで疑われることのなきように……!」

「あの、わ、私も……悪いのは私で、だから……他の者達へはどうか」

「あー、そこだけどね、お前らちょっと落ち着け」

 

 放っておけば床に頭打ちつけて自殺しかねない勢いのこいつらに若干引きながらも、とりあえず落ち着くように促す。

 いやもうこれ……ちょっと冗談交じりに「アンケートの裏にこんな長文書いたら匿名の意味がないでしょ!」みたいに叱って、そこを会話のとっかかりにしようかなー、なんて思ってたけど、絶対無理だわ。

 そんなこと言ったらこいつら自殺する。

 怖い。

 

 マイルドに、マイルドに接する必要がありそうだ。

 面倒くさいなぁ。

 

「まず、重要なことだがな。順番的にデミウルゴスから言うが……別に見捨てた云々を言ったことに怒ってないぞ? というか、事実見捨てたって俺が言ってるんだ、それが正しいんだ」

「しかし、至高の方々は第一世界にて命を削られてまで我々の世界に降り立ってくださっていたというのに、それを当たり前のように望むかのような傲慢、万死を与えられてなお足りません!」

「いや足りてるから。ていうか、もうほんとそこを気にするな。言い出されたら困る」

「しかし!」

「頼むから聞いて」

「ははぁっ!」

 

 つ、疲れる奴だなぁこいつ。

 

「まず第一に、生命力云々はそれほど気にするな。モモンガさんも好きでやってた事だし、俺を含んだ41人もみんな自分の都合だったんだからな。あと前も言ったが軽々しく命で贖おうとするのもやめろ。お前らが本当にモモンガさんに忠誠を誓ってるって言うんなら、お前たちが死んでいいのはモモンガさんがそう命じた時だけだ」

「……はっ」

 

 モモンガさん……もし一人で、何も知らずにこんな連中に囲まれてたんだと思うと、本気できつかったんだろうなぁ。

 軽口すら封じられてるようなもんだ。

 

「次にインクリメント」

「は、はい!」

「お前の行動も、特に失態と思っていない。あの時俺はただお前がついてきた事に対して感想を言っただけで、文句を言ったわけではないのだ」

「し、しかし」

「だから、命令無視したとか怒られるとかを思うより、思い込みすぎるのを問題に思え」

「は……はい」

 

 とりあえずこんな感じでいいか?

 ああいや、モモンガさんのやつが守護者に対する俺の態度を改めろって言っててウザかったなぁ。

 くそっ、なんでこんな事に。

 

「さて、お前たちに言っておかなければならない事……いや、デミウルゴスなら気付いてるか? 俺は意図的に嫌な感じの態度をとってるって」

「……は。私が、ではなく……アルベドがそうではないのか、と推察されておりました」

「え? そうなの? あー、うん。まぁそれでいいや」

「はい。失われたとは言え未来を見通す真眼(サイクロプス)ほどのを持つオッ様であれば、成す行動に無意味なことなどなく。普段の会議でも全体の確認、意見の一致を図るためにあえて聞き役としての役を演じている、という事も」

「すまん、会議とかで会話についていけてないのはマジだからな? そこら辺あんまり買いかぶるなよ?」

 

 アルベドがそんな事を言ってた? いや、普通に嫌ってるはずなのにそんなフォローするか?

 ちえうかフォローするにしても買い被りすぎだろ、俺はあんまり頭使うの得意じゃないんだぞ?

 

「はい、承知致しました」

 

 深い笑みを浮かべたデミウルゴスが肯定の意を示す。

 でもこの態度ってあれだろ、あれ。

 

「おい、フリとかじゃないからな? 俺は普通に頭あんまり良くないんだぞ? わかってるか? なぁ?」

「はい、そのように振舞われるのですね」

 

 違ぇーよ!

 全然わかってねー! 昔の芸人かお前は!

 

「いやね、本当にね? もう……そこら辺、知的活動においての俺を買いかぶるの、本気でやめてね? 命令しちゃうよ?」

「はっ。オッ様からの命令とあらば、如何様にもなさりましょう」

 

 あかん、これ無理なパターンだ。

 

「あー、もう。買い被り本気でやめてほしいんだけどなぁ……まぁいいや。次、インクリメント」

「は、はい!」

 

 次はガッチガチに緊張してるメイドに目を向ける。

 あんまり女との付き合いとか得意じゃなかったけど、この体になったおかげで異性かどうか、てのに左右されにくくなったのは幸い……なわけねーよ。結構ショックだよ。

 あ、またスゥーっときた。

 

「お前も、普通に通常業務してんだから俺が文句言ったとか思わんでいい。というか、そこまで気にされると俺もモモンガさんも軽口すら言えなくなる」

「で、ですが」

「いや本当にね。大体もしお前らの勤務態度に文句があれば直接言うから。だから軽口くらいはスルーしてくれ。マジで」

「そのような」

「マジで頼むから」

「は……はい」

 

 納得行ってなさそうだけど逆らえない……みたいな感じか?

 

「うーん……まぁこんな感じか? とりあえず、お前らは思いつめすぎるな。あと、今言ったことは周りの者たちにもそれとなく伝えておいてくれ」

 

 それだけ伝えて解散、と相成った。

 

 二人が去ったのを、扉越しからも気配で察知した俺は、もう無理だった。

 

「うわああああ! もう! 何なんだよあいつら! もう! マジ怖ぇ! 重い! うえあー……あー、もう」

 

 床に転がりながらのたうち悶えまくる。

 何度かスゥーっときたけど次々に感情が高まって仕方なかった。

 

「に、人間じゃなくなってて良かったとこれほどまでに思ったことはないわ。重すぎるぞあいつら」

 

 俺はありもしない胃が痛む感覚を覚えるのだった。

 これから先、本当にナザリックで上手くやっていけるのだろうか?




 シャルティア洗脳チームこと漆黒聖典に対する警戒心。
 戦力的に過剰すぎるような気がビンビンしますが「ワールドアイテム所持」に対する警戒はそれほど大きい、という事ですね。
 主人公の曖昧な記憶力のせいで隊員全員がレベル90以上、という勘違いしちゃってます。

 パンドラズ・アクター。
 ついにやつが動く時が来たか……まぁいつかは動かさないわけには行きませんしね。
 たぶんナザリックに「商人スキル」を高レベルで取得してる奴がいないからには、エクスチェンジボックスを最大限に活用できるのはあやつでしょうから。

 シャルティア洗脳チームに慈悲はなし。
 普段であれば交渉から入るべきなのでしょうが、身の安全を考えれば不意打ちから入るほうがよさげです。

 クレマンティーヌたちはどうするの?
 こうなります。

 王国との戦争。
 ちょっと温い気もしますが、なるべく犠牲は抑えたいみたいです。

 タービンストーム。
 モモンガさんの天地改変(ザ・クリエイション)が原作で効果範囲広がってた事に似た理由……でしょうか?
 本作に置いては「スキルの影響範囲内」の竜巻はかなり高威力だけど、その範囲外の部分は「余波で発生したただの竜巻」で特殊ダメージなどが発生しない感じ、とかでしょうか。
 細かく決めていないしきっとそれで困ることもないかと思えますが。

 天地改変(ザ・クリエイション)
 主人公がちゃんと名称を覚えていないのは「自分が使うわけじゃない技だから」ですね。
 ゲーム時代も正式名称じゃなくても伝わるでしょうし。

 アンケート用紙の返答。
 ナザリックの連中の無償の忠誠。
 中身一般人にとっては辛そうです。非常に。

 買いかぶり。
 きっとどれだけ言っても「わかりました、そういう事にしておけと……そういう事ですね?」と、まともに受け取ってもらえないかも。
 ひどい。
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