俺が玉座の間についた時には、それなりの人数が既に揃っていた。
「俺が最後ですか?」
「いえ、外から呼び出している者もいて全員揃うにはまだ少しかかります」
だがまだ全員じゃなかったらしい。
とりあえずこういう時って俺の立ち位置どこら辺になるんだっけ? と思ったがモモンガさんの下で且つ、守護者よりはちょっと上くらいがいいのだろうか。
とりあえずそのへんに陣取って跪く事にする。
玉座に掛けてるモモンガさん以外は皆そうしてるしね。
それから数分。
こんなに時間がかかるなら別に急がなくてよかったか? あー、こんな事ならもうちょい漫画読んでりゃよかったわー。
そんな事を思ってしまう。
というか俺ちゃんと本を閉じたっけ? やっべ、ひょっとしたら本を開きっぱなしとか下向きに広げて置いてたかも。
ちょっと気になってきた。
あー、でもなー。
ティトゥウスがちゃんとやってくれてる事を願うしかあるまい。
と、そんな事に頭を悩ませていたら最後の者が到着したようだ。
「さて、揃ったようだな」
全員の到着に対しモモンガさんからの一声。
それにより、この玉座の間に篭った緊張感がより一層高まったのを感じる。
「では見るがいい。これが我らのターゲットだ」
そうしてモモンガさんが全員に見れるように映像を表示する。
魔法による隠蔽やカウンター対策を十分にとった上での監視である。
映像に映った存在は10……いや、12人か。
全員の装備が以前見た騎士と違い、ユグドラシルの防具のような「見栄え」を優先しつつも、映像越しからもかなりの性能の高さが見て取れる程のもの。
いや、しかし、それ以上に……これは?
「映像越しゆえにわかりにくいかもしれんが……この者共を見てどう思う?」
その連中を見てどう思うか、モモンガさんが訊く。
そいつらを見て思うこと、それは。
「弱い? いや……この世界で見た存在として考えれば強いが……しかし」
それでも弱い。
大半がレベル50に届くかどうか? その程度に見える。
一人だけ飛び抜けて強いのもいるがそれでもレベル100には届いていない。
「警戒スベキ相手ハ一人ダケニ見エマス」
「この程度の存在なら恐るるに足らず、至高の方々のお手を煩わせる事なく殲滅しんす」
俺の言葉に続きコキュートス、シャルティアも相手の力を低く見る。
だが、それは良くない兆候だ。
「確かに思ったよりは弱いようだ……だが、誰が侮れと言った?」
釘を刺すか? と思ったところで先にモモンガさんが。
「忘れるな。オッさんの見た未来において我々は確かな敗北を喫しているのだ。誰が、とは言えぬがお前たちの一人の死という形でな」
そう言って釘を刺す。
その通り。
敵が想定より弱いのを喜ぶのはいい。
だが、それで警戒を怠っていい理由にはならない。
ワールドアイテムとは高めたレベル、習得したスキル、覚えた魔法。そのようなものがすべてを上回り平等に効果を与えるアイテムなのだから。
対抗手段はただ一つ、自分もワールドアイテムを所持することだけ。
その警戒を怠れば……たとえ相手がレベル1でもレベル100の存在を完全消滅させられる。
モモンガさんのその言葉にコキュートス、シャルティアの両名は己の浅慮を恥じ、頭を下げる。
「ですが……敵が思いのほか弱かったというのは我らにとって喜ばしいことです。危険が減った、そういう事でもあるのですから」
二人のフォローとしてか、アルベドが言う。
確かにアルベドの言うように、敵が弱いに越したことはないのだ。
「うむ。ただし、連中も強さを隠蔽する能力があるのかも知れんのでけして油断だけはするなよ」
「はっ!」
対するモモンガさんの締めくくり。
例え負けの目が限りなく低い戦いであろうと、危険のあることに変わりはないのだから絶対の警戒を怠るな、との事。
そんな中、映像を見て俺は探す。
おそらくこの中にいるであろう老婆……こいつか? まぁ服装もチャイナだし……しかし、ひでえな。
見た目が醜いとか散々な描写だった覚えはあるが、本当にひどい。
服はいいものだけに、老人がそれを装備しているのはもう本当に……ていうか老婆という表現から覚悟してたが、ここまでひどいなんてね。
老婆にチャイナドレスという組み合わせがここまでの視覚の暴力とは。
ゴーレムの体じゃなかったらションボリするか、怒ってモニターにパンチ叩き込むかしてそうだぜ。
「モモンガさん」
「ん?」
「この老人……老婆。これの着てる服が多分、件のワールドアイテムだわ」
俺の言葉にざわつく室内。
そして視線が老婆に集中しているのを感じる。
みんなすまんね、あんなキモイのを凝視させて。
「ほう、こいつが」
俺の言葉に、モモンガさんもその老婆へと目を向けるが……言葉は平静。
表情も。
しかしその内心にグツグツ煮えたぎるような怒りが込められているように見える。
何度かその怒りが小さくなっているが、精神の正常化を連続で行ってもなお足りない怒り。
やはりモモンガさんにとってはシャルティアの殺害というのはそれほどに、重たいのだ。
「さて、この集団」
内面の怒りが消え去らないうちに、とでも言うようにモモンガさんは素早く決断する。
「我々はこれよりこやつらに襲撃をかける」
その決断にざわつく室内。
「も、モモンガ様! この敵は発見後、有利な場所へ誘導、もしくは徹底的な包囲をしてからの殺害という計画だったはず!」
「その通りだデミウルゴス。だが、敵の力は弱い……これが、敵の全戦力なのか? あるいは主力との合流前なのかは不明だ。だが、わかっている事はひとつ。油断せず、全力で攻めれば今ならば勝てる。その機を逃してはならんのだ」
珍しいモモンガさんの強攻策。
ゲームと現実の違い……などというものでもないのだろうが、しかし悪くない案でもある。
「確かにな。モモンガさんの言うように、こいつらより強い主力というのが合流する可能性は0ではない。だが、逆に言えば今の時点ではワールドアイテムの守り手が異常に薄いという事でもある。本来はワールドアイテムなんて、1つ外に持ち出そうと思えば護衛でレベル100プレイヤーのレイド、傭兵モンスターによる囲いがあっても不安が残るというものだ。だというのに、この時点でここまで無防備に晒している……釣りの可能性もあるが、この餌は逃してはならない餌だ」
そう、可能性はある。
こいつらが餌であり、餌に食いついたところで周囲の集団からの一斉攻撃が来る危険の可能性が。
だがその危険性を察知していたのなら。
「予定ではヒットアンドアウェイであったが……ここは最初の一度のアタックで勝敗を決すべき、か」
モモンガさんも同じ結論に達したらしい。
いかに餌の周囲からの飽和攻撃の危険があろうと、ここは食いつき時だと。
ナザリックにおいてはモモンガさんの決定が全て。
その法則に従い、一度決してしまえば後は早かった。
どうやって攻撃するか、だが。
「では、私が
本来の作戦とは形こそ違えど、襲撃する相手を一人も逃がさない、漏らさないという絶対の布陣。
これでも敗北してしまうことがあれば……おそらく最初から俺たちに先はない。
だからこそ、絶対に成功させる。
「いくぞ。出陣だ!」
「おう!」
「はっ!」
こうしてモモンガさんの号令の元、ワールドアイテム所持集団攻略作戦が始まった。
『オッさん、準備はいいですか』
「大丈夫。敵との接触開始まで……残り20秒」
『では、お願いします。援護、フォローは完璧にしてみせます』
敵集団をありとあらゆる手段を持って、外部から遮断する。
外部との通信や転移が、監視が阻害された……と、敵が気付くまでの何秒あるかわからないタイムラグ。
その間に、俺は……
「ふっ!」
敵集団の真正面、わずか20メートルの間合いに空から高速で着地する。
「なっ!?」
「くっ!」
「ゴーレム!?」
俺の着地により起こった風圧、舞い上がった土砂により敵集団に一瞬の乱れが見えるが、全員がそうではない。
「使え」
この集団の中で、個人の力量だけで言えば唯一の警戒対象であろう……男? 髪の長い者は、他と違い冷徹に、しかし絶対の意志を持って発言する。
周りの連中の反応は驚きが大きいが、上司の命令を聞くようによく躾けられているのだろう。
一瞬の驚愕こそあれど、素早く陣形を組むが……。
「
俺の命令。
それとほぼ同時に連中の陣形の中心にいた老婆の首が胴から離れる。
「なっ!?」
「カイレ様!」
老婆の周囲を護衛してた集団。
その中でも老婆の姿が見える位置取りをしていた奴らは、老婆の胴体から首が、立て続けに腕、足と順次バラバラに解体されたことに驚きの声を上げる。
老婆を殺害したのはエイトエッジ・アサシン。
ナザリックでさえ総数15体という高レベルの暗殺者だ。
本来の能力に加え過剰なまでのバフを受けたこいつの初撃を防ぐことは、警戒中のレベル100プレイヤーでもなければ適うまい。
仮にワールドアイテム所持者といえど、そのレベルが低ければ効果を発動させる前に……だ。
しかし、この手の存在は死んだ際にワールドアイテムがドロップしないような備え、死亡後即蘇生のアイテムなどで守られているものだが。
「回収、撤退しろ」
俺のその声に従い、エイトエッジ・アサシン
その手際、まさに見事の一言。
上位者である俺の命令の声に対し、返事よりも行動で答える徹底ぶり。
素早く、そしえバラバラに撤退したエイトエッジ・アサシンを補足する術はこいつらにあるまい。
ましてや、彼らはこの後、複雑な経路を通り転移を数回へてナザリック深部へと帰還するのだから。そこまで逃げ切れば外部からの干渉はほぼ不可能のはず。
「っ!」
おそらく……老婆が死んだこと、そして老婆のワールドアイテムまでが回収されたことを悟っているでいるだろうに、この髪の長い男は俺から視線を切らない。
見事な自制心と言える。
こいつらの集団の中での関係は知らないが、ワールドアイテムの損失というのはこいつらにとっても重大事であろうに。
だが、視線を切らさないといってもその視線に込められた感情は様々。
焦り、怒り、恐怖、義務感、その他。
そしてそれらを抱えたまま、男は決断したようだ。
「お前たち、ここで死ね。人類の未来のために」
宣言し、槍を構える。
すごいやつだ。
素直にそう思う。
ワールドアイテムの損失という失態、おそらく突然の襲撃による混乱。
それら全てを総合した上で、こいつはここで俺を殺す道を選んだ。
一度決意してしまえば、その後の行動に迷いはあるまい。
部下であろう連中は一瞬の迷いを見せたが、髪の長い男の命令に従い死ぬ決意を固めたらしい。
仲間間での実力差を理解しているのだろう。
髪の長い男が本気で戦うほどの敵との戦い、そうなれば自分たちはほぼ確実に死ぬでろうことが。
その命令の元、死ぬことに恐怖はあれど納得もしているのだ。
本当に素晴らしい覚悟だと思うよ。
だが。
「悪いな。俺ひとりじゃないんだよ」
「な!?」
驚愕の声は誰のものか。
こいつらを囲むように、完全武装したシャルティアとコキュートスが現れる。
少ない人数で囲むというのも妙な話だが、これが俺たちのやり方だからな。
釣りと思しき集団と戦う時は、餌よりも少ない人数で襲撃を仕掛けるべし。
もっともゲームの頃は、その少人数は倒されることが前提となってしまうのだが……今はそういう訳にはいかない。
だからこそ、徹底的な周囲からのバックアップを受けている。
もしこの戦闘で劣勢になる、新手が来る、何らかの妨害が発生する。そうなった時は俺たちは迷わず撤退するように言われている。
そうならないためにも、一秒でも早く戦いを終わらせるつもりだがな。
「お前たちには気の毒な話だが、こちらはお前たちと交渉するつもりはない。ここで、確実に死んでもらう」
「っ!」
この連中の中で、俺、シャルティア、コキュートスの3人と戦ってまともに戦いになるのは髪の長い男一人だけ。
それも互角な戦いではなく、こちらが優位な戦いである。
その実力差を肌で感じるのか、男の感情が激しくぶれるが……
「目標は前方のゴーレム! こいつが頭だ!」
その恐怖に押しつぶされることなく、正しい選択を選んだ。
まったくもって見事なやつであったよ。
ばきん! そんな音と友に、一瞬空間が割れたような錯覚を得て、その空間の破壊が修復される。
この効果は。
『オッさん、今監視の魔法が来ましたよ』
「ええ、確認済みです。でもジャミングには成功したんですよね?」
そう、監視魔法に対する防御判定の成功のエフェクトだ。
即座にモモンガさんからのメッセージが届いた。
『はい。その上でもう一度広範囲のエクスプロードですが……以前と同じ手ですし、覗き屋が同じ相手であれば対策は取られてると思いますよ?』
「いや、別に俺らは無闇矢鱈と殺したいわけじゃないからね? 言い訳の一環って言ってたじゃないですか。我らの時代では監視魔法に対するカウンターはこうやるのが常識だった、って。それに爆破しかないと思わせておけばここぞと言う時で違う手段をとることで」
しかしまぁ、モモンガさんはこの手のカウンターに対して結構粘着質というかなんというか、だな。
何はともあれ。
「こっちの戦いは終わりました。ステータスやスキルではなく、プレイヤースキルというべきか……そういう部分で思いのほか強い粘りを見せられましたが、こっちの人的被害は無しです」
『はい、確認済みです。あとは撤収後、ダミーのルートを通ってナザリックへ帰還してください』
「うん。シャルティアとコキュートスは連中の死体を回収してるけど……」
けど、なぁ。
『どうしました?』
「いや、連中は敵だし、死んだ以上文句を言われる筋合いもないんですが……できれば丁重に葬ってやって欲しいですね」
『オッさん?』
「いや、ただの感傷。つまらん気の迷いなんで忘れてください」
モモンガさんは何か言いたそうにしていたが、とりあえず通信を切って一息。
まだやっていない事、とはいえ洗脳アイテムを持ち歩き、その使用に躊躇いを持たない集団に対しモモンガさんがイラつくのはわかる。
だからこそ、死んだあとの連中も徹底的に死体の尊厳を辱め、ついでにまだ生きてるであろう関係者までその爪を伸ばしたいと思ってしまうのだろうが……過剰になりすぎないように、止めなければなるまい。
けど同時に、俺は奴らに同情を持つべきではない。
どの道、法国の理念のせいであいつらは端から俺たちと敵対する意思を見せ、それを取り下げるつもりもないんだろうしな。
そうなれば俺たちは、かなりの人間を殺すことになる。
その戦いが最後の戦いであればいいが、そうならなかったら一体何人を殺すことになるのか……それを考えれば、今殺した何人かに同情なんてかけるべきではあるまい。
確かに連中は中々のやり手で、覚悟や決意も伝わってきたが……所詮は敵なんだしな。
「はぁー……帰るか」
そう思って帰ろうとした時。空間の歪み。
いや、これは転移魔法? ジャミングが切れた? それとも違う魔法の種類だというのか?
そこから現れたのは、白い鎧。
「たっちさん?」
いや違う、一瞬そう思ったが色は同じだが違う鎧だし。
そもそも、たっちさんの装備品は全部引退する時にモモンガさんが譲り受けて宝物庫に保存してあると言っていたからな。
「ここは……む! お前は一体何者だ?」
「いやそれ、どう考えても俺のセリフだろ。状況的に」
うっかり素で返しちまったが……こやつは一体?
思ったより弱い漆黒聖典。
シャルティア視点で見て力量的に怖いのは一人だけ、ほかは怖くない。
という事とWEB番で隊長以外の隊員はプレアデス未満っぽいと言われてたので大雑把に当てはめました。後に実力が判明して違ってたらどうしよう……こわい。
コキュートスとシャルティア。
こやつら台詞書くの大変ですね。特にコキュートス。
わざわざカタカナに変換しなきゃならないなんて。
モモンガさんの怒り。
複雑に思うところは色々あれど、モモンガさん的には摩擦を少なくしようとこちらが遠慮してるのに、先制攻撃で洗脳アイテムを用意する奴らに容赦など必要なし、とか思ってることでしょう。
作戦会議。
もっとちゃんとした攻略方法がありそうな気もしますが、作者のIQ低すぎ問題でキャラクターのIQも下がってしまいました。すみません。
エイトエッジ・アサシン大活躍。
原作でもモモンガさんをアルベドの魔の手から救ったりと大活躍してる逸材ですからね。そりゃ活躍しますよ。
隊長とか。
作中での露出が少なすぎて性格とか口調とかも未知数過ぎて困る……でもまぁ、4巻の幕間を見た感じ、法国の理念に大賛成してるタイプだろうとは思いますし。
主人公の感傷。
かわいそう、と思ったとかコキュートスがザリュースを惜しいと思ったのと同じような感情……ってわけでもないのですが。
それでもあんまりやりすぎたら人間じゃなくなるかも? いやでも敵にならなんだってやるだろ普通、とかちょっと迷いが入ってるかも。
ツアー。
タイミング的に来ますよねー。
転移妨害を無視できたのか? 転移魔法の効果が切れたのか? そこら辺は……どうなんでしょうね。
ツアーの使う魔法はユグドラシルの魔法とは違う気もしますが、まぁどっちとも取れる書き方をすることで後で言い訳しやすくしてみようかという小細工です。