42人目の至高   作:マッキンリー颪

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番外・6

 大都市エ・ランテル。

 その郊外にある巨大墓地の奥。

 まともな精神の持ち主なら望んで立ち寄らない場所。

 

 そこに、そのアジトはあった。

 死体が無数にあり、人が立ち寄らない。

 これ以上に、その集団のアジトとして相応しい場所はあるまい。

 

 そんなアジトに一つの人影が立ち寄った。

 フード付きマントを着込んだその者は、見るものが見れば見事な体重移動や足運びから、凄まじい達人だと気付いたかもしれない。

 

 マント姿の達人はスイスイと歩き、アジトの扉を開け、警戒心などひとつも見せずに滑るように進む。

 

「あー、そこで隠れて見てる人、お客さんが来ましたよー」

 

 そのマント姿の達人は、優れた知覚能力を持って通路の影に隠れて様子を窺っている者を察知していた。

 

「お待ちしておりました。歓迎します」

「!?」

 

 が、返事が来たのはマント姿の達人が目を向けた方向ではなく、その達人の真後ろからであった。

 

 瞬間。

 ずばっ! と風を切る音を立て、マント姿の達人は声のしたその場所を突き抜けるように、腰から抜いた刺突武器でもって攻撃する。

 その速度、リ・エスティーゼ王国最強と名高い戦士長の刺突をも上回る速度であったが……当たらなかった。

 

 届いていなかった。

 距離を読み間違えた? 違う。完全な見切りでもって、避けらたのだ。

 

「!?」

 

 そこで初めて、マントの達人は自分の後ろに立っていた者の姿を認識する。

 長い金の巻き毛で美しい容姿の女だ。

 しかしその身に纏う服? 防具? それはなんとも奇っ怪なもので、あえて無理矢理何かに当てはめるのなら……軽鎧とメイド服の融合した装備、のように見える。

 こんな墓地が似合わない素っ頓狂な姿である。

 何者かといえば、ナザリックの戦闘メイドが一人、ソリュシャン・イプシロンであるが。

 

「はじめまして、こんばんわ。あなたの到着を待っておりました」

「お前……法国の追っ手? いや、違う?……おい、何だこいつは!」

 

 ジリジリと謎のメイドから距離を開け、マント姿の達人は後方……アジトの内側に向かって荒々しく声を立てる。

 その口調からは隠れていた男の場所を言い当てた時のような、人を食ったものではない荒々しい生の感情が見える。

 

「クレマンティーヌ……貴様が連れて来た者ではないのか?」

「知るかよ! 法国からは追われててもこんな奴知らねえよ! 待ってたって事ぁ、カジット! てめえが張られてたんじゃねえのか!」

 

 マント姿の達人……クレマンティーヌは、ソリュシャンから注意を切らさずに、そのままカジットに怒鳴りつけるが、カジットの方もその言葉に不快感を覚えているようだ。

 

「何を言う。ここの隠蔽は完璧。我ら以外に訪れたものなど、ここ最近ではおらんよ。お主が付けられたとしか考えられんな」

「そんな事はないっすよー。私たちは何日か前からしょっちゅうここに来てたっすからねー。ローテ組んでたっす。アジトの内側か入口側かって」

 

 カジットが不快感を隠さずにクレマンティーヌに言い返したとき、カジットの後ろから赤い髪を2つの三つ編みに束ねた女の姿が。

 これまたナザリックに使える戦闘メイド、ルプスレギナ・ベータだ。

 

 ルプスレギナは人懐っこい笑みでにひひーと笑いながら、カジットの肩をポンポンと叩く。

 まるで友人に対するような態度で。

 

「お、おぬしは!?」

「んー? 私っすかー? 名前はー……っと、一応これも極秘任務。出来るメイドは無駄口叩かないっすよ! 残念でした!」

 

 名前を聞かれながらも答えないルプスレギナ。

 子供のようにべー! っと舌を出すその姿は、状況と会話さえ違えばまるで無邪気な子供のように見えるが、もちろん本性はそうではない。

 

「カジット! やっぱてめぇが原因じゃねえか!」

「知らん! わしは知らんぞ!」

 

 突然の来訪者の登場に慌てるアジト内の面々。

 カジット以外にもかなりの数の人数がいるのは既に把握済みである。

 

「さてさて、せっかく私たち全員の合同任務なのだし、みんな揃ってから仕事を開始すべきと思うのだけど……あなた方も少しだけ待ってくれません? そんなに時間はかかりませんから」

 

 相手の態度はどこ吹く風と、ソリュシャンは自分の意見、要望をクレマンティーヌやカジットを始め、アジトの者たちに告げるが、その言葉の内容は、さらに仲間が増えるというもの。

 そうとわかればクレマンティーヌの判断は早かった。

 

 こいつらが何者かは知らないが、かなりヤバイ手練だ。

 しかも数が増えるかも知れない。

 ならば、ここで自分以外を切り捨て自分だけでも逃げるべき。

 そのためには目の前のこいつを……殺せなくとも、一撃でも食らわせてひるませ、その隙に逃げる!

 

 クレマンティーヌは自分の動き、能力に絶対の自信を持っている。

 スピードに特化した英雄級の存在である自分が、シャクだが全速力で逃げに徹するのだ。

 一度振り切ってしまえばひとまず逃げ切ることはできるだろう。

 

 そう思ったからこそ、出来うる限りの最高速度をもって、退路である入口を塞ぐ形になった金髪メイドの顔面に刺突武器を突き刺す!

 

 考えてからの行動はもはや予備動作すら見せぬもの。

 目の前の敵に対してすら意識の裏をつく、完璧な奇襲。

 入った。

 例え相手が自分と互角の戦士であろうともこれはよけれない。

 

 確信できる突きであり、実際にそうなったのだが。

 

 ずむっ。と沈み込んだ感触。

 

「なぁ!?」

「あらあら、先制攻撃をされてしまいました。これは、責任を取ってあなたのお相手は私がしなければなりませんね」

 

 クレマンティーヌの刺突武器は確かにソリュシャンに刺さったが、それ以上……手首まで顔の中に入り込むなんてありえるのか?

 戦いの場にあって、あってはならない事なのにクレマンティーヌは一瞬、頭が空白に染まった。

 そして、その隙にズブズブと手首から前腕、肘へと吸い込まれていき……。

 

「ふう。ごちそうさまでした」

 

 クレマンティーヌの姿が見えなくなった。

 

「あー、ずるいっすよー。それが一番強いって聞いたのにー」

「うふふ、ごめんなさい姉さま。でも生け捕りにすべき、とも言われているのだから、変に抵抗……あっ」

「どうかしたっすか?」

「いえ、体の中で魔法……武器のようですね。ちょっとビリっときました。油断大敵……四肢は率先して溶かさなければなりません」

「おおー、話に聞いてたこの世界独自の技、ってやつっすか。確かに油断大敵っすね」

「ええ、雑魚狩り、ちょっとしたアトラクション……と、仰られていたように驚異ではないけれど、学ぶものが全くない不毛な任務でもないようで」

「そっすねー。っと、みんな来たっす」

 

 目の前で日常会話のようになされる異常な会話。

 一体どう言う意味を持った言葉なのか不明だが、戦士でない彼らの動体視力では何が起こったのかまるで分からずに混乱する。

 

「あら? 女戦士がついに到着したと聞いたのだけど」

「はい、姉さま。その人なら私の中に」

「ああ、そう」

「そうっすー、フライングっすー。だから残りの連中とのバトルは参加しないって話をつけてたっすよ」

「そうなのですか」

「もう、勝手な事を……女戦士の方は殺してはいないのね?」

「もちろんです。ただ中で魔法の武器を使われると、すこし痛かったので四肢は溶かさせていただきましたが」

「怪我を!?」

「怪我なんていうようなものじゃないけれど……まぁこの世界の存在を無条件で侮るのはダメ、という事がよく理解できる資料だったわ」

「へー、つまりあの方達は私達にそれを分からせるために?」

「なるほど、さすが至高の方々」

「なんというお優しい心配り……これは、期待に答えなくてはいけませんね」

「了解」

 

 人様のアジトで、勝手なことを言う女たち。

 しかし、誰もが圧倒され声も出なかった。

 一体何ものかもわからない、こんなふざけた格好の連中に対して、恐ろしい威圧感を感じる。

 誰もが己の身の破滅を予感した。

 

 だが、そんな中で一人。一人だけ、その本能に抗うものがいる

 

「ふ、ふざけるな! わしが何年かけたと思っておる! 偉大なる儀式の成就まであとわずかなのだ! それをキサマらごとき降って沸いたものに……やらせてなるものかぁ!」

 

 唾とともに大声でわめきたてるカジット。

 まるで癇癪を起こしたかのような態度だが、同時に自分を鼓舞するためのものでもある。

 

 腹の底からの大声、その勢いとともに、懐から取り出したマジックアイテムの石を使い、力を込める。

 

「キサマらなんぞにぃ!」

「だめっすよー、遊びは無しっすから」

 

 が、マジックアイテムに魔力を通し効果を発動しようとした瞬間、その腕がぽきりと、枯れ枝のようにへし折られ、取り落としてしまう。

 

「へ? あ……がああああああああああ!?」

 

 他人に痛みを与えることはあれど、自分が痛みを感じることなど滅多にないカジットにとって、腕をへし折られた痛みは鮮烈すぎた。

 さっきまで吐いていた啖呵も忘れ、絶叫する。

 

「悪いっすねー。スケリトルドラゴンとか出せるんすよね? 私らから見たら雑魚なんでいくらでも出してもらおうかと思ってたんすけど……もう遊びは無しなの」

 

 カジットの腕をへし折ったルプスレギナ。

 彼女の顔には、先程まで浮かべていた朗らかな笑は既になく、邪悪な笑みが浮かんでいる。

 

「さてさて。それじゃ、ボク……私たちも、遊びをせずに仕事をやりましょうか」

 

 この日、今まで数年間エ・ランテルの墓地郊外にある秘密結社のアジトにいた者達は、そのアジトから姿を消すことになった。

 これからわずか数分のできごとである。




 ルプスレギナばっかりしゃべってる気がするっす。贔屓っす。ずるいっす。
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