42人目の至高   作:マッキンリー颪

2 / 33
連載になりました。


第2話

「あ、アルベドよ、落ち着くのだ」

 

 あっちゃー……と、俺が半ば途方にくれていると、なんとも威厳のある声が聞こえた。

 発生源が足元から、ってのが締まりのないことだけど、そりゃ仕方のないことだろう。

 

 言ったのはアルベドに押し倒されているモモンガさんである。

 見た感じ冷静さを取り戻したようである。いや、骨の表情なんてわからんけどね。

 モモンガさんのこの落ち着きよう、これが噂の「アンデッド特有のアレ」か。

 

「ですがモモンガ様!」

「落ち着けと言っている。今は……いや、今こそ落ち着かねばならんのだ」

 

 普段の地声と違う、なんとも威厳ある声だ。

 いや、ゲームやってた時もたまーに悪役ロールで「フハハ」と笑ってるときも声が変わってたけど、久しぶりに聞いたからか今まで以上に声の切り替えがすごい気がするな。

 

 そんなぁ、モモンガさまぁ、と甘ったるい声でクネクネするアルベドを何とか押しのけふわりと立つその姿。

 俺のアバターよりかなり小柄だけど、それを感じさせない佇まいと(ゴッズ)級装備から発する威圧感……だけでなく、モモンガさん自身から発せられる圧迫感。

 ううむ、小説とかで元NPCの守護者たちがすごいすごいと言っていたのも頷けるものがあるな。

 モモンガさん自身は自分を大したことはない、みたいに思ってる書かれ方だったけどそんな事ないぜ。

 やるじゃねーか。

 骨のくせに。

 

 立ち上がったモモンガさんは俺の方をチラッと見る。

 ここで言いたいことが分かってアイコンタクト……とか、できれば良いんだけどな。

 実際どうだろう?

 ゲームに夢中で、みんなでずっとゲームに入り浸って一緒に冒険してた全盛時なら、確かに今のアイコンタクトでお互いの心境を察せたかもしれないけど……今の俺にはその自信がない。

 いや、無いのは自身じゃなく資格か。

 

 だが、だからと言って何もしないわけにも行くまい。

 俺は重々しい顔……を、してるつもりになって、ウムとうなづき

 

「モモンガさん、お願いします」

 

 と、とりあえずモモンガさんに投げた。

 

 果たして俺の応対は正解だったのか? モモンガさんは重々しく威厳たっぷりにうなづき、セバスに指示を出す。

 異常事態発生、ゆえに戦闘メイドを1人引き連れナザリック周囲1キロを探索しろ、と。

 その後、残りの戦闘メイドへも指示を出しているが、その姿はまさに支配者そのもの。

 なんというか……俺、要らなかったんじゃね? とすら思えてしまう。

 モモンガさんなら一人でも何とでも出来るような気がする。

 

 でも書籍であれWEB版であれ、いずれこのモモンガさんが数十万人の人間を殺しても心が痛まない本物の怪物になってしまうんだ。

 いや、それだけじゃなく……ある種、自作自演でおびき寄せたワーカーを弄ぶように甚振り尽くしたり、罪のないリザードマンの集落を演習で攻め立てたり……リザードマンの方は結果オーライに見えるが、やっぱりひどいと思う。

 

 

 まだ実感こそわかないが、俺もモモンガさんももはや人ではないのだから、過去に囚われずに好きに生きて良いのかもしれないが……それでもやっぱり、俺の基本スタンスはモモンガさんに「あのような事」はやって欲しくない、だ。

 いや、俺たちは異業種であり、ナザリックという土地ごとの転移ゆえに周囲の人間との摩擦が一切ない共存なんてのはありえないだろう。

 だからどこかで力を振るう必要はあるのだと思う。

 ひょっとしたらWEB版にしろ書籍にしろ、数万単位の人死にだけで周辺諸国を黙らせることができるのなら、あのルートこそが流れる血の量が一番少ない道筋である可能性もある。

 それでも、俺はモモンガさんにあんな事はやって欲しくないと思う。

 やるにしても、その言い訳に俺たちを使うのだけは絶対にやめて欲しい。

 

 そのためにはどうすれば良いか……で、考えたのが「そもそもこの世界に来ない」だったけど、それは失敗したからなぁ。

 上司のクソ野郎、マジ苛つく……と、思ってたら平静になった。

 おおう、これがアレか。精神が大きく揺れないように制御する奴か。

 アンデッドじゃないけど俺の種族も精神系ステ異常にならない種族だし……こうなるのな。

 でもジリジリした不快感は残ってて……これはきついな。

 

 と、俺が勝手に盛り上がったり盛り下がったりしてたら、視線を感じるなと思えば、モモンガさんとアルベドがこっちを見てる。

 えーと、たしかこの後どうなるんだったか。

 アルベドがいる、って時点で書籍版……だと思うが、たしか乳を揉むんだったか? その後また指示を出してたような気もするが……ふむ。

 

「モモンガさん、俺は後ろを向いておりますよ」

「はあ? いやいや、オッさん何を言ってるんですか……んん! あー、アルベドよ」

「はい!」

 

 え? まさか俺に見られながら揉むの? 勇者だなオイ……これがアンデッド化の弊害か。

 まさかすでに俺の、俺たちの知るモモンガさんはいなくなっているというのか? なんということだ。

 この骨ハゲ野郎、童貞のくせに人前で女の乳を揉み揉みするとはけしからん。

 ちょっと興奮……収まっちまった。くそっ。

 

「お前はこれより各階層守護者に連絡を取れ。そして六階層のアンフィテアトルムに……一時間後に集合するように伝えよ」

 

 と思ったら揉まないようだ。

 アニメ基準か? いや、アニメでも揉んでたよな? んん?

 俺がいるからスケベじゃないフリしてるのかこの骨ハゲ。

 それどころじゃないだろうに。

 

 しかしまぁ、ここでアルベドが居なくなるのなら少しの間二人きりになれる。

 その間に、今の状況のこと、俺の知ってることを相談するか。

 なんだかんだでモモンガさんなら情報さえあれば俺より上手くやるだろうしな。

 

 ……と、思ったのだが。

 

「……」

 

 アルベドが動かない。

 なんでだ?

 

「どうした? アルベドよ」

 

 モモンガさん、威厳ボイス出してるけどちょっと声が震えてる。

 命令を実行しないからビビってるのか? いや俺もビビってるけどさ。なんでだ?

 

「モモンガ様、その……」

 

 命令不服従にちょっとビビってる気がするモモンガさん、と俺に対しアルベドは何度か視線を彷徨わせ、申し訳なさそうな顔をしながら、口を開いた。

 

「最後……というのは……私たちから目を離された隙に……居なくなったりしないですよね?」

 

 そして出たのがその言葉。

 そういや俺とモモンガさんの会話、聞いてたんだよな……どういう扱いになるのかちょっと不明だけど。

 ここは俺も口を挟むべきだろうか?

 

「アルベド。その事だがひとまずは置いておけ。今はモモンガさんがナザリックを去るということはないのだから」

「チッ」

 

 …………あれ?

 俺、いま、舌打ちされた? アルベドに? チッて言ったか?

 

「アルベド、いまチッて」

「言ってません」

「いやでも」

「言ってません」

「おま……モモンガさん、聞こえました?」

「ぇえ? お、私ですか? えーと」

「モモンガ様、私はモモンガ様に……モモンガ様の口から「去らない」と、常に私たち供にあると言って頂きたいのですっ」

 

 こっ! こいつ……! 俺の事はスルーか! かなりカチンと来たぞ、いま。

 この……と、思ったけどスゥーっとその怒りが引くのを感じる。

 ぐぬぬ。なんか怒りを怒りとして発散してないのに怒りが無くなる、って感覚は、逆にストレスが溜まるように感じるぞ。

 あ、今そのストレスが引いた……こりゃキツいわ。

 こんなのを常時味わっていたら、そりゃ心も歪むわ。本気で気を付けないとな。

 

「そうか、アルベドよ……私達の今後だが」

「はい! 私達の今後!」

 

 俺が葛藤してる間にモモンガさんはアルベドへの説得か。

 まぁ説得もなにも、モモンガさんの言うことならアルベドはなんでもオッケー、だったはずだし何を言っても良さそうだけどさ。

 しかし、アルベドの強調していう「私達」ってなんかナザリック全体じゃなく自分とモモンガさんだけ、って言ってるように聞こえるのは錯覚かね?

 

「正直、どうなるか皆目検討もつかん。私も、今何が起こっているのか掴みかねている所なのだ。だからこそ、今の時点ではなんの保証もできん」

「モモンガ様……」

 

 ふむー。モモンガさんのやつ、わからん事はわからんと言うんだな。まぁ言うか。

 小説だとNPC……守護者たちなんかとの会話は「わかってない事」を「わかったフリ」してやり過ごした後で大問題が起こる伏線みたいにして溜めに溜めてる感じだったが……これこそが俺の知ってる物語とは違う現実なのだろうな。

 

「だが!」

 

 モモンガさんの言葉で気落ちしたように見えるアルベドだけど、そこでモモンガさんが語気を強める。

 しかし声かっけーな。

 

「これだけは信じて欲しい。私は、私の意思でこのナザリックから去る事は絶対にないと……私の意志があり続ける限り、私は仲間達と共に築いたこのナザリックを、そしてお前達を守ってみせると!」

 

 そして、言い切った。

 アルベドもトロ顔で「モモンガさまぁ」とか言ってるよ。

 惜しかったなぁ、モモンガさん。あんたにチンコがあれば……プークスクス。

 

 ……ん? んん? …………んー……ん?

 

「はぅあ!?」

 

 まさか!? ひょっとして俺も……!? ……な、()()のか!?

 

「ど、どうしましたオッさん?」

「……」

 

 あ、いかん。

 変な声出してしまったからアルベドに向いてたモモンガさんがこっち見てる。

 モモンガさんからの視線を奪ったからかアルベドがすげえジト目でこっち見てるし……いや、今はそんなことより。

 

「あ、いえ、何でもないです。俺のは今の事態と関係ないことですんで……気にせずアルベドとイチャついててください」

 

 とりあえずモモンガさんに背中を向け落ち込む俺。

 う、うぐぐぐ……きつい。すごくきつい。

 精神ショックはすぐ平静に戻るけど、平静になるギリギリのラインでショックを受け続けてて……これは、つらい。

 

 あ~、マジで……あ~、もう! あ~、もう!

 って感じである。

 

 そうやって悶々としてる隙にアルベドは退室したみたい。

 会話を終えたらしいモモンガさんが俺の背中にポンポンと……む?

 

「モモンガさん、ネガティブタッチついてるからダメージ反応あるんですが」

 

 もっとも俺の防御スキルの前にはその程度の微弱ダメージは通じんがな。

 痛みはないがダメージ行動を受けてるという実感があるというか……不思議だ。ゲームだと視覚情報でダメージ効果を受けてます、と表示されるのだがこっちでは肌で感じるというか、そんな感じだな。

 

「えぇ!?」

 

 フレンドリーファイア解禁してるのか? とモモンガさんが困惑している声が聞こえたのでとりあえず向き直る。

 俺に関してはダメージないんだから気にしなくていいんだけどね。

 

「え、でもアルベドは……」

「痛みどころじゃなかったんでしょう。まぁネガティブタッチのダメージ自体、前衛職のHPから見れば微々たるものですし」

「いや、それでも……あ、任意で切れるみたいですね。これで良いのかな」

 

 とりあえず軽い注意でお互いに緩めの空気が流れる。

 ふう、悩んでた時よりは多少マシな気分になった。

 

「あの……オッさん……一体何が起こっているのかわからないんですが……もし、私が呼びかけた事が原因だとしたら……」

 

 しかし軽い空気になったのも束の間、モモンガさんが申し訳なさそうな態度をとる。

 まぁ、モモンガさん的に見れば、サービス終了前に集まりませんかメール出したのが原因で俺が来たと思ってるだろうしね。そこらへんは訂正しておくか。

 

「いやいや、モモンガさんよ。さっきは時間がなくて軽く流したが、俺もサービス終了告知を知った時からサービス終了日とその前日……つまり昨日と今日は、仕事休むつもりであったのよ。モモンガさんから呼ばれなくても勝手に押しかけてたから、モモンガさんが呼んでなくても俺はここに来てましたよ」

「オッさん!」

 

 と、俺の本来の予定を言うとなんだかモモンガさんのやつ感極まったような声になってんな。

 そんな興奮してたらすぐ「スゥー」ってなるだろうけど。

 

「いやまぁ、ほんとその予定だったら上司のアホが……まぁいいや。そこら辺はまた今度時間がある時に、って事で今は」

「ええ。今の状況について、ですね」

 

 そして真面目な顔になるモモンガさん。

 ……骨だけどな。全然表情なんてわからないけどなんとなく雰囲気がな。

 

「NPC達……セバスやアルベド達が、まるで意志を持ったかのように口頭での会話をして、その上に口まで動いていました……ゲームののAIでそんな事が可能でしょうか?」

「いや、無理でしょう。ひょっとしたら俺たちが知らないだけで、すげー人工知能とかすげーコンピュータプログラムとかが存在してるってのはあっても、ユグドラシルみたいなゲームとして使われる前に機械の性能が上がったとかのニュースとかやるでしょうし。いや、俺全然ニュースとか見ませんけどね」

 

 私もですよ、ハハハのハ、とお互い笑い合って、本題に入る。

 

「まぁ、モモンガさんも言ってて、有り得ない事だろうとは言え……気付いてると思いますが」

「はい……常識的じゃないと思いますがやはりこれは……ユグドラシルが、現実になったという事でしょうか」

 

 まぁ、そう考えるのが自然だわな。

 少なくとも今までの俺たちの目に入った情報だけで言えば。

 だけどそれは違う。

 

 俺はその事をいよいよ言わねばならない……果たしてその後、モモンガさんは俺を許してくれるのだろうか?

 

「いいえ違います。この世界はユグドラシルではありません」

「え?」

「ここは……モモンガさんにとって未知の世界なのです」

 

 そして俺は言う。

 こういうのは勢いが大事だろうし、一気呵成にだ。

 

 外に出たセバス、今ごろ彼はナザリック大地下墳墓の周囲の環境が違うことに驚いているだろう。

 そう、我々は二人がユグドラシルに転移したのではなく、我々を含むナザリックが異世界に転移したのだから。

 この世界は地球でもユグドラシルでもない、第三の世界とでも言うべきか、そんな世界。

 かつて何百年も前から、時折現れる俺たちのようなユグドラシルのゲームの能力を持った者が転移してきたことで、少しずつ魔法やアイテムの文化が浸透したのだと思われる土地。

 とは言え生身の人間や生物だから大半は低レベル……鍛えた人間だって突然変異級の天才が一生努力してレベル30から40になればすごいくらいのスペックだろう。

 しかし時折、過去のプレイヤーの子孫なんかが先祖返りしてレベル100に近い戦闘力を持っていたりもするし、過去のプレイヤーの残したワールドアイテム、さらにこの世界独自の武技やタレントという能力に、古代の龍。

 そういった存在もいるので油断は大敵であることは忘れてはいけない。

 

 あとナザリックの転移した場所は……名前は忘れたけどなんとか王国の領地に該当する部分で、近所……1キロの範囲内よりは外だと思うけど……に、村があって、その村からちょっと進んだところにはそれなりの大都市もある。

 土地が近所の帝国とか法国とかの国境に近いらしくて、ここらの縄張り争いでしょっちゅう戦争をしてるらしい。

 

 と、とりあえず大雑把に説明をした。

 

 口を挟ませずにまくし立てるように言ったが……モモンガさんは何を思うのか。

 

「ここがユグドラシルじゃない……? いえ、それは……まぁ、外に出したセバスからの報告で明らかになる部分もあるでしょうね。私はオッさんを疑いたくありませんし。ですが……なぜ」

「俺がそんな事を知っているのか……ですね?」

 

 神妙な顔で頷くモモンガさん。

 さて、どう言うべきか。

 

「信じてもらえないかもしれませんが……俺は前世の記憶というやつがあります」

 

 いや、記憶があるといって良いのか……前世で見知ったものを知っている、というべきか。

 前世で自分がどんな人間だったのかは良くわかりません。ですが、ともかく前世の記憶、いや記録かな? それが頭の中にあるんです。

 といっても、所詮人間の記憶ですし、そんなハッキリクッキリ覚えてるわけでもなく、大ボケしてたら思い出せない部分があったり、突然思い出す部分もあったりですが……ああ、脱線しましたね。

 とにかく、前世の俺は21世紀の頭の方に生きてました。ひょっとしたら20世紀後半に生まれたのかも。

 

 で、当時見てたアニメや漫画、小説なんかのフィクション作品の記憶がいろいろあるんですが……その中の一つに「オーバーロード」ってタイトルの小説があります。

 最初はインターネット上の某サイトで上げられてたネット小説でしたがサイトの引越しをしたりした後、やがて書籍として出版され、俺の記憶にある最後の知識だとアニメにもなってました。深夜アニメでしたが人気が出れば2期とかもあったかも知れませんね。

 今の時代にはデータすら残ってないのが残念ですけど。

 

 そのオーバーロードって作品は、あるオンラインゲームのサービス終了日から始まる物語です。

 かつては国民的人気を誇っていたタイトルの作品ですが、10年以上も続いた事でタイトルの寿命が来たのか、ついに終わる時が来ました。

 

 主人公はそのゲームの、とあるギルドのギルドマスターです。

 元は弱者救済、ゲーム内で狩られやすい、やられ役にさせられる異形種プレイヤーに対する救済から始まりPKKをしていたら、いつからか悪のギルドとしてその名を轟かせるようになったギルド。

 周りから見れば悪の魔王だけど、ゲームをやってる仲間内では楽しかったし、敵対プレイヤーとの戦いもお互いを罵倒しあうこともあれど、ゲームとして楽しんでいたのに、それも今や昔。

 

 ゲームの最終日にはすっかりプレイヤー人口が減り……そのギルドも常駐してるプレイヤーは主人公一人でした。

 そうして、最終日にゲーム終了の少し前に、ちょっとだけ顔を出してくれた昔の仲間が寝落ちしたのを最後に主人公は孤独にゲームを終える運命を強いられます。

 どうせゲームが終わるのなら、最後に自分がいるべき場所は……と主人公がゲーム終了時の自分の居場所として選んだ場所が、ギルドホーム最奥の玉座の間。

 

 あとはゲームが終わるのを待つだけだ……と、寂しさを抱えながらも日付変更のカウント時計を眺めていたら、日付が変更しサービス終了の予定時間になっても自分がゲームから追い出されていない。

 一体何があったのか? 自分でサービスを打ち切ると言っておきながら運営は予告した時間を守ることもできないのか? と主人公が憤りその怒りを声に出したとき、NPCが主人公に声をかけるのです。

 

「どうなさったのですか、モモンガ様……と」

 

 ふー、なんとか言い切れたわい。

 もっとも前世の記憶なんて、必死に思い出そうとしても俺の主観で30年以上も昔のこと。

 正直細部が正しいかどうかは結構微妙だけど、その事はあとで言えば良いだろう。

 元々俺の記憶力が微妙なのはモモンガさんも知ってるだろうし、そこら辺は空気読んでくれるはずだし。

 

 で、そのモモンガさんの返答は?

 

「は、ははは……それは何とも……いや、いや……そんな……」

 

 流石に、信じ切るには荒唐無稽な話だったかもしれない。

 じゃあオマケで追加してみるか。

 

「信じられないのもわかります。……えーと、じゃあこれはどうでしょうか」

「何です?」

 

 くらうが良いわ。

 

「パンドラズ・アクター」

「なっ!?」

「ナザリックで一番賢くて……えーと、ドイツの軍服を着ててドイツ語で返事してスタイリッシュな敬礼したりするかっこいいキャラ」

「や、やめてー!?」

「カッコイイじゃないですか、旧ドイツ的な軍服。あと芝居がかったかっこいいアクションとかするんですよね? ぜひ見てみたいです」

「ひいいいいいい!」

 

 ナザリックの守護者、NPC、防衛機構なんかを作ってるとき、モモンガさんはみんなの意見のすり合わせやリソースの配分で走り回ってて自分の分をなかなか作る機会がなかったように思う。

 少なくとも、俺が頻繁にゲームにイン出来てた頃はモモンガさん作のNPCは見れなかった。

 

 そして、俺が仕事のシフト変更や天下りクソ上司の登場によってゲームのできる時間が確保できなくなってきた頃に、オーバーロードの記憶を思い出してきたわけだが……その記憶の中にたしかモモンガさんの作ったNPCってそんなのだったよね? と思い出したのだ。

 ドイツ語かっこいいじゃん、って思うんだけど、ねぇ。

 

「何がかっこいいって、ドッペルゲンガーの丸顔にあなぼこ空いただけの頭でありながらもポーズを決めまくるインテリってのが」

「やめてってばぁぁぁああああ……ふう。止めてくださいよ、恥ずかしい」

「あ、感情リセットですか。でもまぁ恥ずかしさはジリジリしてますよね?」

「ぐっ! ……そんな事までわかるって事は……オッさん……あなたは本当に?」

「ええ、多分」

 

 正確に言えば、一致してる部分が多い、というだけなのだが。

 ゲームのタイトル名やギルド名、一部のプレイヤー名が小説で見たものと同じだからって、まるで同じ世界と言い切るのは難しいと思っていた。

 本当にそんな確信が持てていたら俺は全財産をゲームの課金につぎ込んで第二の人生をこっちで謳歌しても良いと思ってたしな!

 

 その事を言ったらモモンガさん、ドヤ顔で「ボーナスもつぎ込んだ私は人生設計が上手くいってたんですね」とか言い出しやがった。

 この骨ハゲ野郎……。

 

「いやいや、異世界ワープだとか、そんなん本当にあるかどうか未知数ですよ? というか俺から見てもそうだったのに、モモンガさんにとっては全く未来の見通しができてなかったじゃないですか。狙って異世界来たわけじゃないんだからそんなドヤ顔しないでくださいよ」

 

 とりあえず言い返してやる。

 ちょっと凹んでもどうせアンデッドだ、すぐに持ち直すだろう。

 

「くっ……。あの、所でオッさん」

 

 現に、もう立ち直ったみたいだし。いや、元々そんな言い負かしてもいないんで精神ダメージなんてないだろうけど。

 で、モモンガさんが俺に聞くのは。

 

「オッさんがこのユグドラシルを……アインズ・ウール・ゴウンに入ったのは」

 

 その小説を知ってたからですか? というモモンガさんの質問。

 いや、この声の硬さはむしろ……詰問と言うべきか。

 もしそうだとしたら、俺は「ゲームを楽しむべくやってた」んじゃなく「オーバーロードという作品と関わりがあるからやっていただけ」とも取れてしまうのだから。

 

「俺がユグドラシルを始めたのは、ゲーム機の店頭デモの宣伝で面白そうと思って、ネットで調べたから。俺がアインズ・ウール・ゴウンに入ったのは……俺がゲームで操作したいと思ってデザインしたアバターが異形種で、固定のPTもない頃、モモンガさん達に誘われたのがきっかけです。まぁ実際にギルドに入ったのはそれからしばらくしてからですけど。小説作品「オーバーロード」を思い出したのは……仕事の関係でゲームの時間をなかなか確保できなくなった頃でしたか」

 

 信じてもらえないかもしれないし「お前はゲームを、ユグドラシルを本気で楽しんでなかったのだ」と糾弾されるのを覚悟していた俺だけど。

 

「そうだったんですか……仕事で忙しいと聞いてはいましたが、ユグドラシルを、アインズ・ウール・ゴウンを忘れたわけじゃなかったんですね! だったら……私は、それでいいです」

 

 モモンガさんはホッとした声音でそう言った。

 

 お人よしというか何というか……いや、こんなモモンガさんだからこそ、ギルドマスターに選ばれたんだろう。

 ある揉め事が原因でたっち・みーさんがその座を降りたときに、周りから押し付けたられたわけでも消去法だとかでもなく、皆から選ばれてギルドマスターになっただけの事はある。

 ゲームが強いわけでもなければ、人を惹き付けるカリスマ性があるわけでもなく、強引に流れを作る勢いを持ってるわけでもないけど、モモンガさんなら任せられる、と多くの者が思えたから。

 

 

 そして、俺がここに来た理由。

 お人好しで気が抜けてて、それでも何だかんだで懐が深く憎めないモモンガさんを、悪の魔王なんかにしないためだ。

 

 まぁ出来れば異世界に飛ばずに現実世界にとどめて魔王ルート回避したかったんだけどねー。

 

「さてと……モモンガさん」

 

 俺はキリっとした表情を作ったつもりになってモモンガさんのほうを向く。

 モモンガさんも俺の空気が変わったのを察してキリっとした顔……か、どうかわからんね。

 骨だし。

 ともかく、俺に向き直る。

 真面目な話をするのだ。

 

「俺は出来ることなら……モモンガさんにこの世界に来て欲しくありませんでした」

「……理由を、聞いても?」

 

 モモンガさんも声が固くなる。

 なにしろモモンガさんは、俺だけでなく、他のギルメンが来れなくなって引退していってもナザリックを残すために頑張り続けてきた人だ。

 ナザリックが自分の手を離れてどうなるかわからなくなるくらいなら……自分の人生を捨てることが分かってでも、こっちに残っていた可能性は高い。

 

 それに、俺の今の発言はそのままズバリ「ナザリックを捨てて欲しかった」と言ってるようなものなのだから。

 

「さっき言ってた……原作? もしくはモモンガさんの異世界での活躍が物語として本になってるオーバーロード。この話は、正義の味方がみんなを笑顔にしてハッピーエンド……という話ではないのです」

 

 え? というモモンガさんの声。

 モモンガさんはサブカルチャーにあまり強くないし、何だかんだで物語ってのはハッピーエンドが基本と思ってるだろう。

 そりゃ疑問の声も上がる。

 

「俺の記憶にある中ではまだまだ物語が終わってなかったのでなんとも言えません。言えないのですが」

 

 ここで言葉をためる。

 ためることで、モモンガさんにも緊迫感が生まれ……

 

「モモンガ様ぁ! 守護者各位に通達終わりましたぁ!」

 

 アルベドがやってきた。

 1時間後に集合ってお前も込みじゃね? と思ったがよく見たら約束の時間まであと30分くらいしかないな。

 結構長く話してたもんだ。

 本当に、友達との時間はあっという間だよ。

 仕事だったら何度時計を見ても全然針が進んでないのに。

 

「あー、モモンガさん。内緒の話は後にして、先に6階層に行ってくださいな」

「え? オッさんは?」

「俺のことは居ないものとして隠す感じ……というか、守護者たちにはモモンガさんこそが絶対支配者として君臨すべきだと思っています」

「内緒ってなんですか?」

 

 モモンガさんとこそこそと話をしてた、つもりだったがアルベドが素早く近づいてきて、俺たちの会話を拾っていた。

 こ、こいつ……

 

「アルベドよ、下がれ。必要があればお前にも伝える話だが……私が判断したのだ。この会話は今、お前たちを交えてする話ではないと」

「ですが……」

「私が信じられないか?」

「そんな事はありません!」

「うむ。ならば私を信じて待つが良い。私は常に、アインズ・ウール・ゴウンとナザリック、お前たちのために動いているのだからな」

「ああ! なんと勿体無きお言葉! ですがモモンガ様! 私たち守護者こそが、モモンガ様へと全てを捧げモモンガ様の手足となり、盾となり剣となるべきなのです! どうか、どうかご無理のなさらぬよう……」

「わかっているさ。お前の献身、ありがたく思っているよ」

 

 くさっ。

 くーさーいぞー。

 ええい、童貞骨ハゲ野郎の分際でなんかかっこいい声でかっこいいコト言って女をメロメロにさせやがって。

 いくらアルベドが見た目美人、中身で台無しキャラとはいえ、骨男がモテモテでなんか俺が邪険にされてるのは気に食わんぞう。

 

「モモンガさん、女を口説くのは二人きりの時にしてくださいな」

「口説っ!? い、いや、違いますよ!? オッさん!

「二人きり!? 二人きり……二人きり……うふふ、モモンガ様と二人きりでベッドで……くふふっ」

 

 うわー、アルベドきもちわるーい。ふう、これでモモンガさんへの羨ましさが減ったから俺も溜飲が下りたぜ。

 

「あ、モモンガさん、セバスもちゃんと6階層に来るように言っといたほうが良いんじゃないですか?」

「ああそうか……というかセバスにメッセージって……通じた。あぁ、私だ。セバス、そちらの様子はどうだ? なに、草原……」

 

 メッセージを使ってる姿って携帯電話に似てるよな、なんて思いながらもモモンガさんがセバスと通信してるのでちょっとアルベドに話す機会ができたな。

 こやつはちょっといろいろ気になる部分もあるし……軽く探りを入れてみるか。

 

「アルベド」

「なんですか? オッ様」

 

 一応聞けば答えるか。しかしどこか敬いが足りない気がする……当然、か。

 

「俺が厭わしいか?」

「……いいえ、我らが主、至高の御身が一人であるオッ様に対し、そのような」

「今までお前たちを見捨てていたくせにフラリと気まぐれに現れ、モモンガさんを独占してるように見えるんじゃないか?」

「……まさか、そのような事はありません」

 

 能面のような無表情、怒りも憤りも一切見えない表情だが……それは正解だと言っているのと同じだぞ?

 

「お前が相手だから言うがな。俺は今日……日付的には昨日か。本来はお前たちからモモンガさんを取り上げるつもりでここに来たのだ」

「……」

 

 相変わらずの無表情……しかし、空気が張り詰めたように感じる。

 体の性質が変わったからいいが、生身の人間の体と心なら今頃は跪いて命乞いでもしているほどのプレッシャーだな。

 ……1対1の肉弾戦で負ける気がしないからこその余裕だが、本物の命がけの戦いの経験がない俺だ。確実に勝てるとも言えないというのは、少し、怖いな。少しだけ。

 

「モモンガさんはアインズ・ウール・ゴウンを、ナザリックを、そしてお前たちを愛しているだろう。だが……それゆえに、このままではいつかモモンガさんはモモンガさんでは無くなってしまう」

 

 しかし恐怖を構わずに出した俺の言葉で、アルベドの頬が少し引きつった。

 やはりモモンガさんの事となれば……だな。

 たしか設定を書き換えたと言ってたし、物語でも設定を書き換えたせいで色々悶着があったが……たぶん、素早くフォロー出来れば設定の書き換えはこの上ないファインプレイになるはずだ。

 モモンガさん自身は思う所もあるだろうが。

 

 だからこそ

 

「モモンガさんをモモンガさんで無くしてしまうくらいならば、とも思っていた。が、それが不可能となった今、虫のいい話だが俺はお前に一つ、頼みがある」

「なんでしょうか」

 

 だからこそアルベドには

 

「お前には最後までモモンガさんの味方でいてほしい」

 

 それを願う。

 

 身も心もアンデッドとなり過去に執着し、未来より過去を取り続け、いくら執着がわかないといえど人間を何十万と殺しても心に波風一つ立てない怪物のアインズ・ウール・ゴウンじゃない。

 

 不正を嫌うくせに楽ができるところでは楽をしようとして、余計に苦労する結果になったり。

 ボーナス崩してガチャを引きまくって手に入れた超レアアイテムを自慢してたらやまいこさんが一発で出して不貞腐れたり。

 仲間の作ったギミックを信じてますから! もし問題が発生しても恨みっこなしです! と言いきって踏み込んでバグ発生でぶっ飛ばされたらめちゃくちゃ怒るくらい器が小さかったり。

 

 それでも、みんなのギルドマスターとして仲間から好かれていたモモンガさんを、守り続けて欲しい、と。

 

 俺のその言葉に対しいアルベドは何と言うのか?

 

「そんな事オッ様に言われるまでもありません」

 

 どや! と効果音が出そうなドヤ顔のアルベド。

 ドヤ顔で言い切りおった。言い切りおったのう。

 

「言ったな?」

「ええ、何度でも言います。私はいついかなる時でもモモンガ様の味方です!」

 

 よっしゃ言質とった。

 

「モモンガさんは人間は嫌いじゃない、というか人間と仲良くしたいと思っててもだな」

「……はぁ?」

「嘘じゃないぞ、聞いてみるがいい。モモンガさんは人間と仲良くして、人間と笑顔で握手したいのだと言ったらお前それに従うんだぞ?」

「ふっ……ふっ。モモンガ様がいかにお優しいお方とは言え、ふふっ、そんなことを言うわけが」

 

 あるんだよなぁ、これが。

 モモンガさんに聞いてみよ。

 

「そうだな、この世界……まだどのような人間がいるか不明だが、積極的な敵対は無しだ。私は自分を特別と思っていない……どこに私と同じか、それ以上の力を持つ存在がいるかわからない状況。このような状況で敵対相手を増やすのは愚かと言うしかない。それに仮に我らを殺しうるほどの敵がいなくとも……弱い相手に何をしても許される、などというのは私は好きではないな」

 

 セバスとの通信が終わったモモンガさん。彼にアルベドが満面の笑顔で「モモンガ様は人間ごときの下等動物はお嫌いですよね? 見つけたらどのように苦しめて鏖殺しましょうか?」などと言った事に対するモモンガさんの返事がこれだ。

 てかお前の発想が怖いよアルベド。

 人間が嫌いって設定があるのかも知れんが、どれだけ嫌いなんだ。

 ……タブラさん、アルベドを作ってたときなにか病んでたんだろうか? ……今大丈夫だろうな。連絡取れないのが怖いくらい……すごく気になってきた。

 

 い、いや。大丈夫のはずだ。みんな仕事で忙しかったりで大変といえど……きっと元気にやってるさ。今一番ギルメンの中で命の危機に瀕してるのは命の軽い世界にやってきたモモンガさんと俺のはずだ。

 とりあえず黙祷……ん? 違うか?

 

「何やってるんですかオッさん。ところでさっきの話ですが」

 

 おっとモモンガさんが呼んでら。

 

「はい、6階層へどうぞ。俺は一応……図書館……いや、誰にも見つからない場所ってんならここで待ってたら良いですかね?」

「いやいや、なぜオッさんはそんな事を言うんですか」

 

 俺は6階層に行かない、ナザリック内の誰にも見つからない場所に居るつもり、というスタンスが気に食わないのか、モモンガさんが食らいついてくるが、俺は言い返す。

 

「決まってます。ナザリックの、アインズ・ウール・ゴウンの頂点はモモンガさんだから、ですよ」

 

 骨だから表情はわかりにくいが困惑してるように見えるモモンガさん。

 その隣でドヤ顔で小さく頷くアルベド。

 モモンガさんの視界に入ってないから、だろうけど。

 

「さっきのセバスとの通信、どうでした? 俺の言った通りでしたか?」

「あっ! そうですよ! まさにオッさんの言った通り! ならばこれからの事を考えるのならその知識は重要な道標になるはずですよ!」

 

 情報厨なところのあるモモンガさんにとって、情報の足がかりというのは大事であろう。

 その情報を活かす能力もあるからこそ、情報の持つ力の強さを知っているとも言えるのだが。

 

 だからこそモモンガさんは俺の情報を軸に、NPC……守護者たちと今後の行動の指針を相談したいのだろう。

 でも俺は「複数で相談し合う」というメリットを捨ててでも、俺が前に出ない方が良いと思っている。

 

「確かにモモンガさんの言う通りかも知れませんが、俺らのギルドの頭はモモンガさん、アンタだろ。さらに言えばここの連中にしてもそうです。比べて俺は今まで滅多に来れなかった、今日を除けば一番最近に来れたのも半年前、しかもちょっと個人で狩りをしてその分の報酬をナザリックに入れる程度の存在です。そんな奴が、今更のうのうと現れてモモンガさんと同格のように振る舞えば、連中はどう思うと思います? 口にはできなくとも不快に思うでしょうよ。仮に決定的な上下関係を敷く、と言っても仮に俺と守護者連中の意見がぶつかり合えばモモンガさん、アンタは連中より俺の意見を優先しないと言い切れるのか?」

「そ、それは……」

 

 俺の言い分。

 モモンガさんは揺るがぬ頂点であるべきであり、守護者達から見れば自分を見捨てていた、と言っても過言ではない俺が出しゃばるべきではない。

 さらに、俺個人のわがままと連中なりの利益を考えた行動の価値観がぶつかりあった時に、俺を優先してしまうんじゃないかということに対する牽制。

 返答に詰まるモモンガさんの姿は既に答えを言ってるも同じだ。

 

「だから俺は表に出ない。そうやって安楽椅子探偵でも気取ろうと思っているですよ」

 

 わかったら俺の存在は秘匿して、居ないものとして扱ってください。

 そうモモンガさんの肩を押した。

 

 それからしばらくぐずったモモンガさん。

 アルベドにも何か言わせたかったが下手にモモンガさんからの心証を悪くさせるのも良くないと思い、俺一人で押し切った。

 

「あ、行く前に時間がまだあるし、俺の部屋に寄ってから6階層に行ってください。部屋の鍵は開いてますから」

 

 そしてモモンガさんが6階層に行く前に、ちょっと寄り道しといてと提案。

 別に後でもいいんだがね。

 

「……わかりました。でもまだ納得はしてません。この話はまた後ほど、ということで」

 

 玉座の間から出て行くモモンガさんはそんな捨て台詞を吐いたが……ま、どうしようもあるまい。

 当事者としてその場その場で対応をしていたら、どうしても感情で動いてしまうこともある。

 だからこそ、俺は第三者として冷静に動ける立場で居た方が良いだろう。

 俺は考えるの苦手な方だから、むしろモモンガさんが俺のポジションの方が組織の運営はうまくいきそうなんだけどね。

 

 さて、それは置いといてモモンガさんがこっちに戻ってくるまで暇だし……何をやっていようか?

 

 

 

『オッさん! オッさん!』

 

 それから暫くして。

 いや、しばらくってほど時間は経っていない。

 むしろ俺の主観だと本当に一瞬だ。

 俺は今まで「玉座の間にて玉座に向かい跪き頭を垂れ身じろぎしない過去のゴーレムごっこ」をやるつもりでピタリと体を固定していたが、種族特性のせいか、本当にピタリと止まっていられた。

 今やったのはほんの数十分のことだが、本気でやれば1年以上の超長期間でも思考を停止したまま動かぬゴーレムを演じられたかもしれない。

 

 そう、俺のアバターの種族はゴーレム。

 最初はしょぼい岩ゴーレムだが種族レベルを上げ鉱石系アイテムを体に取り入れ生体装備として登録しデザインをプログラムする事で多彩な見た目、様々なギミックを体に仕込むことのできる超イカした種族なのだ。

 まぁ普通に「装備品」を装備するタイプのゴーレムもあるが俺は生体防具万歳派だからどんなレアアイテムでも取り込みまくっていたのでどうでもいい事か。

 そして今の俺の見た目、3メートル前後の身長、鈍く輝くダークメタリックな体の材質は厳選した鉱石系(ゴッズ)級装備を大量に封入して作られたアンノウンメタル製、そしてスラリとした印象を見せながらも逆三角形の逞しい上半身に出っ張った両肩がなんとも言えぬアクセントとなり、シンプルなツルリとした頭部の形をより印象付けるデザイン。

 まぁアレだ。

 容姿はぶっちゃけシングマンです!

 ってやつだな。

 一時期はガンマン風のデザインであったが諸事情あってレベルを大幅に下げてまでして作り直したこのアバター。

 この姿で片膝ついて頭を下げて停止していたら、まるで過去の遺跡のロボットか何かか? と思われたに違いない。

 我ながらかっこよすぎるわ。

 

 じゃなかった。

 今はそうじゃねぇ。

 モモンガさんのやつからメッセージがかかってきたんだ。

 しかしこれがこの世界でのメッセージの受信……か。

 なんというか携帯電話みたいな感じだな。

 

「はいもしもし?」

『オッさん! 大変です!』

 

 大変とは言うがなんか嬉しそうな弾んだ声音だなこやつ。

 財布でも拾ったのか?

 じゃねえか。俺の部屋で得たもの……って事もないよなぁ?

 何を喜んでんだ?

 

「何が大変なんですか? 髪の毛でも生えたんですか?」

『か、髪? 何のことですか、そんな事じゃないんですよ。オッさん大変です。守護者たちみんなオッさんが居る事を知ってました!』

 

 ……は?

 はぁぁぁあああ!?

 何言ってるの?

 ねえ、何言ってんの?

 

「いやっ、ちょっ……アンタ、いきなりバラしたんか!?」

『違いますよ、私じゃありません。皆私が言うまでもなく知ってたんですよ! いやー、玉座の間で戦闘メイド……プレアデス達もいたじゃないですか。彼女たちがメッセージで既に通達済みだったんですよ。すごい速さで情報が駆け巡って……もうナザリックで皆知ってる情報らしいですよ?』

「てめぇこの骨ハゲ野郎……なんか嬉しそうじゃないか?」

『えー? そんな事ありませんよ~。いや~、でも作戦は無駄になっちゃいましたね~、とは思います。いるはずなのにオッさんが姿を隠す、これは後々に不信に繋がるかも知れませんし、姿を現した方が良いと思うんですけど?』

 

 うぜえ!

 このハゲうぜえ!

 姿は見えないけどドヤ顔が目に浮かぶわ!

 マジうぜ……あ、スゥーときた。

 

『まぁ真面目な話、オッさんが先程言われていた姿を隠すことのメリット。これを認めないでもないのですが、事ここに至ってオッさんが姿を隠すのは私に対する不信になりかねません。だからオッさんも来てください』

 

 俺がスゥーを感じたと思ったらモモンガさんのやつも急に声のトーンが落ちて真面目になってるのを見るに、あっちもスゥーってなったな。

 精神がスゥーっと落ち着いてこれは……ウザい。

 この精神の抑制機能はなんとか解除できんものか……まぁそこらへんは要研究……か?

 なんかアンデッドや無機物系異形種でも精神操作させるアイテムみたいなのあった気もするがいつか探してみるか。

 

 ま、それはそれとして。

 

「チッ。わかったよクソっ。わーったよ、行くよ行くよ。行けば良いんだろ。チッ。俺の考えが無駄になっちまったじゃねえか」

『なんでそんなに前に出るの嫌なんですか』

「っせーな。すぐにわかるよ。んじゃ6階の闘技場っすよね? すぐいきますわ」

 

 仕方がない。

 一番気楽に、かつ一番確実にモモンガさんの行動を止めうる作戦が失敗したから次善の策に移る、か。

 

 やれやれと、呼吸の必要もない体でありながら深くため息をついた俺は、気の重さとは裏腹に身軽な動きを持って6階層へと進むのであった。




 ゴーレムに()()が無い、というのは本編で語られていない捏造設定ですが、まぁ多分ないでしょう。

 アルベドが主人公に対して辛らつなのはモモンガさんを愛してて他が邪魔だから、ですね。
 普通ならギルメン、思考の御方々に対する経緯を見せるべきですが、まぁギリギリこんな感じでしょう。
 オッさん自身のギルドの扱いもそんな感じだった可能性ありです。

 主人公が言ったこの世界に対する説明が曖昧かつ大雑把なのはちゃんと覚えていないからですね。
 本文中で言ったように実感的にかなり大昔の記憶をバッチリ覚えていられるものではないでしょう。
 未来なんだから過去の記録調べたらオバロの続きとか読めるのでは? とも思ったけど記録が残ってない、ということにしました。
 ひょっとしたら主人公の前世と未来世界もまた「異世界」なのかもしれません。

 パンドラズ・アクターに関してはモモンガさんが「仲間たちの姿を記録するため」と言ってたので、能力やキャラ設定をデザインしたのは人が減り始めた頃ではないか、と考えています。
 まぁオリジナルのデータがないのにコピーできるのか?とも思うのでもっと早い段階に作られてた可能性もありますが、本作ではそういう設定です。すみませぬ。

 図書館について。
 この作品では主人公は「もしモモンガさんが異世界転移しちゃったら」という事を考えて、図書館の本には電子書籍化された完結済みの漫画や小説、それに人類の歴史や社交マナーの本などをコピーしてこっそり潜ませてました。
 暇つぶしと、何かあった時の参考資料になればいいかと色々突っ込んでます。

 このように色々変な設定がたくさんあって見苦しいかもしれませんが、どうかお見過ごしをお願いします。

 PS.
>主人公の容姿はぶっちゃけシングマンです!
 オリキャラ主人公モノを書くなら一度はやってみたかった「ぶっちゃけ主人公(orヒロイン)の容姿は○○です!」ってやつです。
 ゲームのアバターデザインは自由にいじれる、という設定があるからこそですね。
 まぁ主人公の記憶も結構怪しいので本物とは微妙に違うと思われますが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。