42人目の至高   作:マッキンリー颪

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番外・7

 夕方にさしかかろうという時間、すでに薄暗い森の中、サイズこそ大きいがあまり豪奢と言えない馬車を止め、その周りを固めるはリ・エスティーゼ王国最強の戦士長、ガゼフ・ストロノーフ率いる戦士団。

 この戦士団がこれほど警戒を深めて守るとなれば、この馬車は見た目こそ目立たないものだが重要人物が乗っているのだということは想像に難くない。

 事実、サイズの大きさの割に地味に見えるこの馬車は作りが頑丈であり、壁や天井も分厚く、外からの襲撃に対し中の人間を守ることに特化したものだということは、見るものが見ればすぐにわかってしまうだろう。

 

「戦士長、そろそろ出発ですか?」

「いや、もう少し日が沈んでからだな……しかし、このように隠れながらの移動では、やはり時間がかかってしまうな」

「それは……仕方ありません。我々だけでの行動であれば道を選ばぬ強行軍で行けるのでしょうが、護衛する方を思えば」

「その通りだ。万が一の事もあってはならんからな。もっとも……移動中のトラブルと違い、向うについてからのトラブルとなれば……」

「我々では、時間稼ぎすらできないのでしょうか」

 

 無力感に苛まれているであろう部下に、ガゼフはかける言葉もなかった。

 自分たちが連れているアインズ・ウール・ゴウンへの使者。

 その人を守るという任務を成し遂げるという決意こそあれど、現地についてアインズ・ウール・ゴウンのモモンガ、そしてオッと相対したとき。

 果たして彼らを相手に使者を守りきれるのだろうか?

 

 彼らと交わした言葉は少ないが、それでも彼らは理性的に見え、話が通じる相手でもあるとは思った。

 だからと言って完全に安全であると安心していい相手でもないのだ。

 彼らの持つ力を思えば、人格に関係なく最大限の警戒を持たねばならぬ相手でもある。

 

 それを考えれば……移動速度が遅くなってしまう現状は、かえって好都合と言えるのかもな。

 軽くそんなことを考えていた矢先。

 

「失礼します。皆様方はリ・エスティーゼ王国から、我らが主人であるアインズ・ウール・ゴウンのモモンガ様、オッ様への使者の方々とお見受けしますが、よろしいでしょうか?」

 

 ガゼフ達に声がかかってきた。

 その声のほうを向くと、このような森の中に似つかわしくない執事姿の老人。老人といえどその姿勢には一本の真が通っており、老いを感じさせない佇まいである。

 そして後ろに控えるのはそれぞれ意匠は違うが、メイド服を戦闘服と融合させたような不思議な服を着た美女たち。

 そして、獣頭人身のメイド……あの時、アインズ・ウール・ゴウンのモモンガとオッが従えていた者のひとりである。

 で、あれば。

 

「あ、あなたたちは……いや、そう、そうだ。我々はリ・エスティーゼ王国からの……使者殿の護衛であり、その使者殿はあちらの馬車にてお休みになられている」

「そうですか。皆様方が隠れるように移動されている理由、我が主達もすでに察しがついております。このままの移動ではまだまだ時間がかかりそうですし、あなた方がよろしいのであれば、我々の方で案内させて頂きますが如何なさいますか?」

「むう……そうだな……いや、すまない。私が決めて良い事でもないので、すこし伺ってきてよろしいか?」

「はい、どうぞお構いなく」

 

 執事からの許可を得、ガゼフは急いで馬車へと歩を進める。

 動いていればいずれ向こうから接触があるかもしれない、とは思っていたが予想より早く、そして意外な形なので面食らったが、冷静に考えれば彼らは初めて会った時から転移の魔法を軽々しく使っていたのだ。

 ほかのものならまだしも、彼らの行いであれば今更驚くべきことでもないのだろう。

 

 馬車の扉をノックし、入室の許可を得たガゼフは、馬車の中の人物へ現在の状況を述べる。

 アインズ・ウール・ゴウンの使いである彼の提案がどのようなものであったかを。

 

「そうなのですか。それでは私たちもここで馬車を降りて向かう事になるのかしら? 少し聞いてみましょうか」

 

 そう言って馬車の中の使者が腰を上げようとすると、その護衛を任された騎士は「そのような事は自分が」と腰を上げようとする。

 

「いや、クライム。お前はラナー王女の護衛として、常に傍についていてくれ。ラナー王女、私が聞いてまいりますので少々お待ちください」

 

 移動、と言えば彼らなら転移魔法を使えるのだろうが、馬車をどうするのかといううことは言われなければ気付かなかった事だ。

 ガゼフはどうやら自分もだいぶ緊張でわれを失っているようだ……と、自重しながらもなんとか平常心を保とうと心がける。

 

 そして執事に聞けば、馬車も、護衛の人員も、まとめて転移の魔法で迎え入れることができるという。

 ならば断る理由もありません。それがガゼフの護衛対象であるラナー王女の返事だった。

 

 

「むう、ここは?」

 

 馬車ごとまとめての転移を経てたどり着いたのは屋外の闘技場のような空間。

 客席こそ空ではあるが、かなりの収容人数を見込めそうな施設でもある。

 

「やあ、ガゼフ殿。久しぶり……と、言う程でもなかったかな」

 

 ここは一体? と思ったところで声がかかる。

 ガゼフにとって忘れていい物ではない声が。

 

 軽い挨拶の後、さっそく交渉かと思ったが、ここは彼らの本拠地の一部ではあるが会談にふさわしい場所でもない、とさらに移動をと促される。

 いや、移動とは言うが実際には転移の魔法によるものだが……その移動先には圧倒される事となった。

 

 以前見たオッの力はまさに純粋な力、シンプルな物だった。

 しかし移動先のこの空間。王国戦士長として城に仕える事になったガゼフだが、そのガゼフの目から見てもこのような美しい内装は見たことがないと言えるほどだ。

 なるほど、あれほどの「力」を持つものであればこのような「財力」という概念すら超えた、まるで神代の世の宮殿の如き施設を持っていても何ら不思議はない。

 むしろ納得がいくというものだ。

 

 この施設にはガゼフの部下たちはもちろん、ラナー王女付きの騎士として王城に務めるクライムとて圧倒されている。

 しかし、流石というべきかラナー王女はガゼフを始め、この美しすぎる施設の内装に圧倒され浮き足立つことなく、自分の足で立っているように見える。

 

 俺もまだまだか。

 ガゼフは思わず自嘲する思いだ。

 護衛対象の方が自分たちよりよほど肝が据わっているではないか、と。

 

 

「王国の使者として伺ったわけですが……すみません。お話はどうか、クライムや戦士長たちの聞かれない場所で、という事にはいかないでしょうか? 隠し立てするような形になり申し訳ないのですが、王国の重要な決定になってしまいますので」

「お、お待ちください!」

「それでは我々があなたの盾になることすら……!」

 

 ラナー王女は本当に肝が据わっている。

 相手の懐に飛び込んだ上で、護衛もつけずに単独で話などと。

 

 いいや、お互いの立ち位置……力の差、というものを考えれば、こちらはいくらでも譲渡する側であり、仮にここでガゼフやクライムがそれはダメだと断ろうと、彼らに会談においてガゼフ達を排除したいと言われてしまえばそれに抗う術はないのだが。

 

「ふむ、私たちにとっては護衛の有無はそれ程大きな問題ではないが……そちらの国の内情により、話を聞かせられないというのであれば……ならば、同じ部屋に同席していても、会話の声が届かなくなる認識阻害の魔法を使おうか? その際に護衛の方々とは少しだけ距離を離してもらうことになるが」

「魔法とはそのような事も可能なのですか? それでは、それでお願いします」

 

 ラナー王女が先に承諾してしまい、ガゼフ達に口を挟む事こそできなかったが、これ以上の状況は望めないだろう事はガゼフにも分かる事だ。

 あとはただ、王国の未来をこの交渉に、ラナー王女に託すのみ。

 

 しかしもしもの事があれば、たとえ1秒という時間を稼ぐ事ができないとしても、ラナー王女を守らねばならない。

 ガゼフは交渉という場において何の役にも立てない身でありながらも、決死の覚悟でもって、ラナー王女の背を見守るのであった。




 認識阻害の魔法。
 そんなのがあるの? という気もしますが、ユグドラシルって探知するだけでもたくさんの魔法を発動するくらいだし、敵のそばで秘密の作戦会議をするためとか、アクティブモンスターから身を隠しながらのPT内の会話をするためとかで、そういう魔法くらいあるかなー、と思いましたので。
 そんなものない、って言われたらどうしたものか。

 魔法とはそのような事も可能なのですか?
 イビルアイがそういうのを使ってたけど、ラナー王女の発言は本気で知らないというよりは「知らない自分を見た相手の反応」を見るための発言かと思われます。
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