「さて、色々と興味深い話も聞けたわけだが……あやつをどう思う?」
王国からガゼフ戦士長を護衛にやってきた外道王女。
護衛というか、側付きの兵士の名前がクライム、って名前だからおそらく確定だろう……とは思っていた。
そして実際に話をして本人だと確信を持てたわけだが。
「そうですね。オッ様の
「ええ。外部の、それも人間であることを考慮しても、確かにアレは実に有用な存在です。さすが未来予知の能力」
あ、こいつらからは評価高いのね。俺的には「げ、外道だなぁ」という思いしかなかったが。
モモンガさん的にはどうなんだろう?
あいつの案に対し否定的な発言をしてた気がするけど。
「モモンガさんから見て、どうでした? 俺から見たら人格的に仲良くなりたくはないなぁ、という感じでしたが」
「私としては正直なところ、あまり乗り気ではありません。あの女の提案を合理的だとは思うのですが……行動指針を他人に決められるというのは、すこし不愉快です」
ふむ。
俺が入る前は知らないが、俺が入った時にはすでにアインズ・ウール・ゴウンは「外の影響」をほとんど受けないギルドだったからなぁ。
いや、ある意味で外部のプレイヤーが攻撃を仕掛けたくなるギルドだから影響は受けてたと言えるから、正確に言うと「行動指針」に関して影響を受けないだな。
大型レイドボスの討伐イベントでも共同を持ちかけられても魔王ギルドの矜持か、返事はNoだし。
ギルドの方向を決めていいのはギルメンだけ、ってのが絶対的なルールだった。
今がゲームではなく現実だと言うことで、モモンガさんも譲渡すべき部分があるのを理解してるだろうが、それでも譲れない部分は有るってところだろうな。
「じゃあ、あの女の提案をベースにこれからの行動指針を決めるっていうよりは、こっちの行動の大前提を飲ませた上で相手の提案も取り入れる、くらいの形で良いんじゃないですか?」
モモンガさんは「そんなんでいいの?」という顔を向けてくるが、なにアルベドとデミウルゴスを見なさい。
「はっ。モモンガ様の仰せとあらば」
「至高の御身の望みを叶えるために行動する。我らにとってこれ以上の幸福はありません」
てなもんで、その行動が合理的かどうかとか、叶えるための労力とか、そういうのはこいつらにとって二の次三の次って事なのよ。
「む、そ、そうか……いや、そうだな。では、実際に我らがどう動くべきか、それを考えるとするか」
モモンガさんも一瞬面食らいかけてたが上手く持ち直す。
あとは王国の連中とどう付き合うか、だな。
王国の連中との話し合い、一応それなりの時間をやってたが話が長いので、続きは明日ということで一泊させて行くことが決定した。
ナザリックの客室の凄さに圧倒されるがいいわ、という意味もあるのだろう。
モモンガさん的にはナザリックの内装の凄さに兵士たちが「マジスゲェ」って感じの態度を取ってくれてたのが好印象で機嫌も良かったのだろう。
……WEB版だと内装を見た使者が「税金払え」みたいな事を言ってモモちゃんブチ切れちゃったけど。
まぁその情報も教えていたので、モモンガさん的には王国の連中の態度に対する期待値は低かったのに、思いのほかいい態度をとってた事で多少は見直したって感じかな?
連中からすればここは敵地の腹の中、とはいえその敵の力が「気が向いたら国を滅ぼせる」と言うように見えてるのなら、警戒するよりも相手の器の大きさを信じた上での交渉がキモになっちゃう部分もあって、宿泊を受け入れたって感じであろうか。
いやまぁ、そこら辺の考えは俺よりもモモンガさんに任せたほうが正解と思うけどさ。
そのため明日以降の話し合いのためにある程度の意見の統合も必要だから、真夜中に会議しちゃってるのだね。
「で、あの女の提案は王国が戦争……貴族どもの名目的には俺たちに対する粛清? 成敗? を仕掛けたいけど、王は弱腰な態度をとることで戦争の主導権を貴族に握られ、貴族派閥の領地の兵隊をここに集結させまくる作戦……だったか」
「その場合は殺していい人間、殺してならない人間の取捨選択をせずに済むので、大技で好き放題に蹂躙できる点が魅力ですね」
そ、そうかぁ?
デミウルゴスはさらっと恐ろしいことを言うのう。俺もいざ戦場に立っちゃったら人間を殺すことに感慨がわかなくなるのは想像できるけど、あんまりなぁ。
「デミウルゴス、わかりきった事を言うな。それでは王国が「悪役」を演じてくれたとしても、どうしても我々の知名度にけちが付く」
「は。この世界において、オーバーキルは評価されない項目ですからね」
そうなのよ。さすモモ。ちゃんと俺の言ったことは覚えてくれてたか。
何万人も殺した上で巨大な子山羊が暴れる魔法とか使ったら、強さが伝わる前に外道さが伝わっちゃうよ。
「それに、その貴族派の軍とやら……おそらく国中から集められた10万単位の人間が動くのでしょうけど、そうなるといずれ我々の支配地域となるこの周辺の都市、村が荒らされてしまいますね。まぁ人間など死ねばアンデッドにして従わせたほうが私たちには都合が良いのですが」
「え? 荒らされんの?」
「それはもう。人間の軍隊とはそういうもののはずです」
はずなのか? しかしうーん……そうなのかなぁ?
「なるほどな。確かに大人数で気が大きくなれば大都市などでは大人しく出来ても、中継地点の村に立ち寄れば荒し回りそうなものだな」
マジか。人間蔑視の強いアルベドの言うことなら、人間を見下したゆえの発言とも思えるがモモンガさんが言うからには、人間の軍隊ってそんな感じなのか?
まぁ地球みたいに戦場キャメラマンとかが付いて回るわけじゃないから、旅の恥はかき捨て、とは少し違うが似たようなニュアンスで、やっちまう可能性はあるものかな。
「しかし、その場合ですとナザリック周辺にある「防衛力がなさそうな村々」には我らの手勢を配置しておくと良いのでは? ある程度の犠牲が出てから助けることで感謝を受けることもできるかと」
「ふむ。居るかも知れないプレイヤーへの牽制にもなる良い手だな。ただ下手な者に任せると逆にこの世界の住民に恐怖を与えかねないので、威圧感を与えない適度な存在が必要か」
ふむむ。
個人的には襲われる前に助けてやれば? とも思うが完全にやっちまうと襲われる前に終わって、あんまり正義アピールにならないのかな。
だったら最初から護衛として配置……あぁ、それはそれで村人から出て行けー! って排斥される恐れがあるか。
ならばやっぱ村が襲われてから助けるべき? しかし犠牲が出るのを分かった上で見過ごすのか……別にいいんだけど……うーん。
「まぁこれはそもそも採用されない作戦なので、そこまで深く考える必要もないか」
俺がうんうん悩んでたらモモンガさん、アッサリと切り捨てちゃう。
そういやあの女の提案した作戦は採用しないのを前提とするんだった。
くそっ、無駄な会話しおって。
「で、それ以外の案となると……どういうものがある?」
俺が密かにぐぬぬと思ってたらモモンガさんはアルベド達に案を求める。
ち、ちきしょう俺が悔しがってるというのに。
「王国には悪役をやってもらう、という事を考えれば一度は我々も王都辺りへ赴くべきかと」
アルベドの提案としては、今までは攻め込んだ王国に対するカウンターで力を見せつけ、ナザリックここにあり、を見せつけるが良しと思っていた。
が、折角王国の連中との繋ぎが出来たんだし、生の王国を見せてもらい、もし「王国を倒すことが正義」な証拠の一つでも見つかれば、逆にナザリックから王国に宣戦布告。
そして「かわいそうな王国の民を救ってあげる正義のモモンガさん」を世間に喧伝すればいいのでは? という物だった。
「しかしそんな都合よく王国に悪い部分なんて見つかるかね?」
「オッ様の
「なるほど、面白い提案だ。しかしアルベドよ。我らは異邦人だぞ? 他所者が王国の首都をうろついて良いものかね? 今来ているあの女は所詮は「お忍び」であり、表立って我々を招き入れる権力もなさそうなのだが」
「その部分に関してはあの女にやらせれば良いのです。こちらが提供するのがあの女、及び護衛の者との生活。そのためであれば、不可能などと言わせません」
その作戦をする前提として、まずモモンガさんが王国に入る必要があると思ったが、その方法自体はブン投げとか。
いや、アルベドが言うには「国賓として招かれるつもりはない」からハードルは下げてるつもりらしい。
王国訪問の目的である「王国の裏社会、裏組織から喧嘩をふっかけられる」のに身分や権力を持つ人間じゃまずいとか。
なんでも、ある程度の財力を持った外国人間を装い、王国に入って裏組織と問題を起こす。
そして裏組織のバックの貴族が権力やらをチラつかせ、こちらに圧力をかけてこさせたいんだとか。権力や暴力による圧力を相手がチラつかせたのなら、それを食い破ることで問題を大きくし、隠しようがない形でもって突きつけ、王国に人間を導く力はない、と言い切り戦争を仕掛ける口実にしたいのだとか。
「いくらなんでもそこまで都合良く動くか?」
「この場で考えるだけの予想では難しいですが、現地に入り込み探れば可能性も見えてきます。失敗したのなら、次善の案として王国が宣戦布告をする程に煽るパターンも選べますし」
うーん「別に失敗してもいい作戦」を第一案にして、これがダメだったら相手の提案を考慮して行動する、ってか?
「この作戦の良い部分としては、失敗しても問題がないだけではなく、上手くいけば帝国も引き出せるところです」
「帝国? なんで?」
デミウルゴスの口出しによると、王国の貴族がどこまで無能かは実物を見なければわからないのだろうけど、外国と繋がってる裏切り者がいるとして、その相手が法国だけのはずがない。
むしろ、定年のように戦争をするような相手国である帝国にこそ裏切り者との繋がりがあるはずだとか。
それゆえに、王国にこちらが見せるカードを「正義感」と「王国だけでも勝てそうな戦力」と思わせた上で勝負を仕掛ければ、帝国もその裏を突きたい、あわよくば俺たちと王国を一網打尽にして大打撃を与えたい、と考えるはずだと。
挟撃を誘うような手段は本来は悪手だが、それはあくまで力量が互角や、戦いが成立するレベル同士の場合。
ナザリックの戦力はぶっちゃけ、王国と帝国が合同であろうと倍数でかかってこようと余裕で跳ね返せるほどなので、戦う回数を減らすという意味でも一度にまとめた方が良いかもしれない、だとか。
「えー、それってこの世界の人的被害が大きくなるんじゃないか?」
「いえ、オッさん。よくよく考えれば、我々が王国だけを倒し圧倒しても、それだけで強さが伝わるとは考えにくいかもしれませんよ。いずれやる王国との戦争、これを王国、帝国の混合による2面作戦でかかれば、一度の戦いでアインズ・ウール・ゴウンの力をより広く知らしめることができるかもしれません」
「でもそれだと被害が大きくなるんじゃないか?」
「むしろ小さくなるのでは? 総合的な戦力が周辺国の中で最弱の王国を倒しただけでは我らの力、未知数のものとして信頼が得られないと思いますし」
うーん、そうなのか?
俺じゃそこら辺はわからんね。
しかし、言うのがデミウルゴスだけなら「いっぱい人を殺したいだけと違う?」となるがモモンガさんも、戦争に帝国を巻き込むのは賛成っぽいからには、普通の人間的な感性で見ても帝国との戦争は「アリ」なのか?
でもまぁ。
「モモンガさんがこっちの世界の人の営み、っていうかそういうのを見て回るのは良いかもね。俺の知ってる未来知識も結構いい加減だし、生の情報の方が強いと思う」
これは確かなことだな。
俺が未来知識を教えたせいか、どうもモモンガさんはナザリックの外に出ることに対し積極的じゃないのが気になっていた。
いつかは打って出て、外の世界、国々と戦争して勝利するにしても、普段から理由もなく外に出ようとしていない。
WEB版ではナーベラルを外に出し自分はナザリックで支配者として手腕を発揮し、書籍版では内政を任せることのできるアルベドが居るために自分自身が外に出る……と、そういう形だったはずなので、アルベドだけでなく俺まで居るんだから、もっとモモンガさんが頻繁に外に出たがってもおかしくないのにな。まぁそれは置いといて。
俺の見た知識、未来のことなんてあくまで「本で読んだ神の眼による視点のごく一部」にすぎず、地面に足をつけて生で触れ合う事で得られる情報はもっと大きい気がするのだ。何となくだけど。
そしてその情報を取得するのはモモンガさんの役だろう。
人の世の中にとけ込めそうな見た目の守護者とかと送ったとしても、それで得られる情報は何だかんだで「そやつの目」というフィルーターを通しての物になってしまうし。
このナザリックを運営し先行きを差配するモモンガさんにこそ、直接この世界を見てもらわねばならない。
そうすることで何らかの新しい発見もあるかもしれないからな。
「え、王国へ赴くのって私がやるんですか?」
「やった方がいいと思いますよ。マスクくんもいる事だし、その上でモモンガさんがステータスを隠蔽すれば正体を見破れる存在なんて王国には居ないでしょ」
これに、モモンガさんはちょっと渋ったのだがアルベドとデミウルゴスも「別に王国の裏組織などと会わなくとも、モモンガさまが王国の首都に触れた、という事実があればいくらでも状況は動かせます」みたいなセリフでようやく頷いた。
……どうでも良いけど俺がいった発言には疑いの目を向けて、アルベドとデミウルゴスが言ったから正しいのかな? というような態度に見えたのは俺の目の錯覚かなぁ?
そんなこんなで翌日。
王女との会談にて。
「アインズ・ウール・ゴウンとしての決定はひとまず保留なり、その前に我々はお忍びであろうとお前たちにナザリックを見せた、次はお忍びで我々も王都を見せてもらおうか」
という形に話を持っていった。
表面上は。
ガゼフ戦士長やクライム少年にはとても教えられない会話もあるのだけどね。
我々はこれから王都に住まう犯罪組織を口実に戦争を仕掛けるために、王都を散策するのだという本音が。
しかしまぁ、この外道王女はその戦争でこれから王国が荒れるであろうというのに全然表情を変えないのが気味悪い。
俺やモモンガさんのように「肉体に引っ張られたかのように」精神が歪んだのではなく、素でこうなのだから。
王とやらがこいつを産ませた母親ってのは本当に人間なのかい? と疑いたくなってしまうよ。
「それでは、私たちはこれから王都へ向かいます。その間、ナザリックのことは頼みますね」
「頼むっつってもモモンガさんなら毎日のように帰還余裕っしょ。それに運営ならデミウルゴスやパンドラズ・アクターと言った連中がいますし」
「……あんまり丸投げとかせず、会議があれば中身もしっかり聞いててあげてくださいよ?」
ちっ、このハゲめんどくせえ。
そういう知能労働を俺に任せちゃダメだっていい加減わかれよな! そんなだからハゲんだよ!
「ま、まぁ前向きに善処します」
「政治家かよ」
そんな軽口を言いながら王都へ向かうモモンガさんを見送った我等一同。
その日、モモンガさんへの嫌がらせとして2時間くらいかける徹底洗浄の依頼を出していたメイド達が、モモンガさんが行ったから代わりに俺のことを磨く、とか言いだしたのはとんだ誤算であった。
こいつら俺が「いや俺はいいよ」って言ったら自殺しかねないような顔をするから、逆らえないだもん。
くっそう、上手く逃げやがってあのハゲ。
主人公のラナー王女に対する感想。
先入観以上に、実際に出会って実物を見た印象が大きいです。
元々ソロプレイヤーで敵の感知、知覚の能力が高くなってる主人公にはラナー王女の言葉の数々や態度などが「うわあ」と思えるものだったようです。
人外になってから人間を石ころのように思うようになった、という感性になりましたが「なんだか触りたくないなぁ」と思うような石ころに見えるのでしょう。
一体何を見たのやら。
アインズ・ウール・ゴウンは行動指針において外の影響を受けない。
まぁゲーム時代は嫌われ者ギルドっぽい描写や、内部でさえ揉めたら多数決とやってるくらいですし、人数がより増えることになってしまう外部との共同戦線とかはあんまりやらなかったんじゃないかなー、と思ったので。
あとモモンガさんが原作でも「仲間を特別視」してるからには、仲間以外のプレイヤーとは一部例外あれど全体的に仲良くはやれてなさそうですので。
帝国も戦争に巻き込みてぇ。
勝ち方にもよるわけですが「王国を倒す」ってだけなら周辺国である帝国も法国も簡単に出来そうですからね。
周辺国より、遠くの国に「アインズ・ウール・ゴウン国は強い、敵に回せない」とアピールしようと思えば、2カ国同時に相手をして完全勝利、ってくらいのインパクトは欲しいでしょう。
モモンガさん、王都に発つ。
主人公だと図体がでかすぎて嫌でも目立ちますしね。留守番がお似合いです。