「ふむ、あの程度のグレードのアイテムでも「ここ」だと意外と高価なものになるのかな?」
「ズーキ様が所持なされていた。その一つの事実でもって、まず価値が遥かなる高みへと上がっていることを考えれば……「ここ」の者共は物の価値を知らなすぎかと思われます」
彼らの言う「ここ」とはリ・エスティーゼ王国の事でもなければ王都の事でもない。
それは「この世界」を指しての発言であるが……周りから聞いてるだけではわかるまい。
モモンガは「最近帝国で親が一山当てた財産を元手に商人を始めた男、ズーキ」を演じて王都を見て回る。
アルベドをはじめ、モモンガを絶対支配者として仰ぐ配下たちからは、到底モモンガを迎え入れるにたる街並でないことから不快感を感じなくもない。だが当のモモンガが是と言うのならば自分たちの感情は表に出すものではない、という自制心も備えている。
そうして、モモンガはある程度の屋敷に居を構え、そこを中心に王都をめぐっている。
目的は外貨の獲得、自分たちの常識で見た「グレードの低いアイテム」がこの世界でどれほどの価値があるか? と言う視察。
さらに加えること、この世界の独自の魔法、技術があるかの探索。
そして最後に、この王都にいるであろう「貴族とパイプを持つこの国の暗部」の発見である。
最後の目的に関しては「見つかれば幸運」という程度のスタンスだが、モモンガには実は既にある程度の当てがあり、大した時間をかけずに釣り上げることはできると楽観視している。
そんなこんなで、基本的にリラックスした態度を見せるモモンガは揚々と王都を練り歩く。
一見すると異国人風の冴えない顔立ちの男だが、絶世の美女を何にも連れ歩いている姿は多くの者の目を引くが、見るものが見ればモモンガの身につけた服装が魔法の装備品であることもわかり、そんな物を身につけるほどの財力の持ち主ならば、と納得できるものは多い。
てっきり「小遣い稼ぎ狙いのチンピラ」が命知らずにも喧嘩を売ってくるのではないかと思っていたが、そんな事もなかったのがモモンガにとっては意外だった。
オッから聞いた話を前提に考えれば王国の民はそのくらいの事をしでかしてくるんじゃないかと思っていたからだ。
「ま、その程度の雑魚は釣り上げる対象にすらならないんだがな」
もっともその程度の相手は端から眼中にないので、余計な一手間がなくてありがたい訳だが。
そうして何件か店を回り、所持するアイテムの「この世界での価値」をどのくらいかと確かめるのに数日。
それが終われば自由時間のようなものだ。
セバスやプレアデス、それにアルベドにも自由時間を与え、好きに王都を散策したらどうか? と、勧めたのだが。
「自由時間というのであれば、モモンガ様のお側に侍ることを許していただきたく」
「わたくし共の存在意義はモモンガ様及びに至高の方々にお仕えする事にあるのですから」
「仮の姿とは言えモモンガ様の王都での姿であるズーキ様の妻! である私がお側にいないのは不自然かと思われます。妻! ですから! 妻! ウヒヒッ」
などと言われては単独の自由行動もできやしない。あとアルベドがちょっと怖い。
(俺としては折角の外なんだから少しくらい一人になりたかったんだがなぁ……)
思えばこの世界に来てからというもの、一人きりになれるのは自室くらい。ナザリックにいても常に誰かが付いて回ってくるものだから、どうしても「自由」を満喫した気になれなかった。
それでも行動範囲がナザリック内であれば我慢もできたが、やはり外の見知らぬ街なんてものを見たら、少しくらい一人でハメを外してみたくなるのが人情というもの。
元々、モモンガの本体であった鈴木悟自身がリアルの友人付きあいや家族と言うものをなくして久しいのもあって、何だかんだで「一人の時間」と言うものを欲する気持ちはある。
さて、そのためにはどうしたものか?
「んー、その、な。では言い方を変えよう。お前たちに任務を与える」
「はっ!」
ざっ! と音がしそうなほど全員が同時に跪く。
あまりに一致したその動きには感嘆の意を覚えるのだが、それ以上に「こいつらこういう時の返事は良いんだけど、実際に動くと結構俺との認識にズレがあるんだよな~」などと思うモモンガであった。
「お前たちはそれぞれ、単独……いや、戦闘メイドは2人1組以上で、それぞれ王都を見て回れ。現地の人間とのトラブルは……まぁ、むやみに人を殺さないのであればそれで良い。お忍びであるとは言え、動いているのは私だ。多少の無茶も問題あるまい。ただ冒険者やこの国の兵士、騎士と言った者との揉め事はなるべくしてくれるなよ?」
「かしこまりました!」
モモンガはこう言っておけば、こいつらも自由に動いてそれぞれなりの発見をしてくれるかな、と期待を込めて言った。
ついでに言えば、オッから聞いた未来の話……セバスが王都で奴隷以下の扱いを受けて死にかけている娼婦を拾い、それが理由で王国の犯罪組織を釣る事に成功したと言う話から、セバスやユリくらいのカルマ値が善に傾いた存在が自由に動けば、おそらく犯罪者とかち合うだろうという見込みもある。
ほかの者……ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャンは人間蔑視の感情が強いため、あまりハメを外しすぎるとこちら側が「犯罪者」と呼ばれるような行為をしかねないが、その場合は王都を去れば良いと、多少の楽観視もしている。
これで自分は一人の自由時間を満喫……
「では、私は妻として側へ侍りますね。妻! ですから!」
できなかった。残念である。
「あー、その、な? アルベドよ。別にそこまで設定にこだわらなくとも」
「はい! 王都での設定に限らず真の意味での妻として毎晩モモンガ様のベッドを温めます!」
「なんでそうなるの」
正直な話、アンデッド化して人間の三大欲求がほぼ消失したモモンガであるが、それでも美人にこうも求められて悪い気はしないのだが……設定を改変してしまったという罪悪感と、何よりもこのがっつき過ぎな態度が怖くて、何とも言えない気分になる。
「その、なんだ。正体隠蔽系のアイテムで角や羽根を隠すのは窮屈じゃないか? あまり外に出るよりも」
「その程度は大した違和感も感じません! それに仮に体をギチギチに縛られてもモモンガ様があいてであればいくらでも」
「いやそういうアブノーマルなのはちょっと……」
この後、暴走しかけたアルベドを諌めるのに多大な労力を払うことになるモモンガであった。
「はぁ、こういう時こそオッさんがいれば取り押さえるのも……いや、やらない人だな」
ナザリックの方で今頃不真面目にでも、仕事をしているだろう友達を思い何とも言えないため息が出る。
モモンガがアルベドの設定改変による愛情に悩まされていても、彼は「別にタブラさんも怒らないと思うぜ? てかシャルティアとか見てもわかるっしょ。改変されなくてもみんな思うことは一緒さね」などと言って「モテモテで良い事じゃないか」とちゃんとフォローをしてくれないから困る。
こういう時、あやつももっと苦労してしまえ、と思ってしまうのはモモンガがこんな体でありながらまだ人間らしさを失っていない証拠だろうか?
結局、アルベドと離れての完全な単独行動はできないなりに、数日かけてそれなりに王都の探索を楽しむことにしたモモンガ。
セバスやメイド達を連れずに二人で歩いていたらアルベドにナンパ目的のゴロツキが絡んできたりした時などは、アルベドが暴れそうなので一苦労だったりしたが、この世界独自の魔法……と言っていいのか不明だが生活に根ざした魔法など、効果としては弱かったりほかでいくらでも大換が効きそうなのだが、それなりに面白いものを見たということでついついスクロールを大量に買い占めてしまったり。
そんなある日、セバスがズタボロの娼婦を拾ってきたという。
アルベドは当然として、ほかのメイド達も基本的に「ただでさえ薄汚い人間、それもあのようなボロ雑巾以下の傷んだものをモモンガ様のお目に入れるなどと」と、文句を言ったがモモンガの鶴の一声で反対意見は封殺。
治療と体の洗浄の許可も与える。
この行いをメイド達は命令とあらばと実行するが半ば不審がっているが、作戦会議の概要で未来知識の多くを受け取っているアルベドは、一応の思い当たりがあるようだ。
「モモンガ様。セバスの拾ってきた
「まぁ、流石にそのまま
モモンガは若干の上機嫌でもって「王都滞在期間が延びるな」などと言い、アルベドはその「大物ロールプレイ」をみて感極まった表情で震えさらなる忠誠と愛情を高まらせることになったりしていた。
モモンガは気づいていないけど。
アイテム売却。
ぶっちゃけ王都で売ってみたものはボッタクリ価格で買い叩かれてる可能性も高いのだけど、モモンガさんはそれを含めて「王国の人間を見る」と言ってたりします。
メイド達からの忠誠度アップ。
王都を見て回れ。
王国に突出した強者の存在がないと知っているけど、それでもエントマを殺しかけた吸血鬼の事もあるので万が一という意味でプレアデスは最低2人以上での行動です。
ルプスレギナ、ナーベラル、ソリュシャンの残虐3人組なんかで行動してたら「彼女たちにとっての日常行為」でとんでもない事になりそうな気もしますが、まぁギリギリで大丈夫でしょう。
日々の報告もさせているようですので。
アルベドの隠蔽アイテム。
最初は法国の漆黒聖典が正体を隠すためのマスクにしようかと思いましたが、アレって見た目の年齢変化が対象っぽいんですよね。
でもナザリックならそれらしいアイテムもおそらくあるでしょう、って事で。
モモンガさんがカルネ村でしっとマスクを装備してたのはあくまで「モモンガさんの持ち歩いてるアイテム」で他に良いのがなかったからでしょうが、倉庫ならそのくらいは……という事で。
大物ロールのモモンガさん。
アルベドはモモンガさんの行動が1から10まで全て計算のうちと思ってますが、もちろん違います。
割と行き当たりばったりで「こうなったら良いなぁ、失敗してもまぁ良いや」という行動が上手くいってるだけに過ぎません。
しかしその確率を引き当てる運命力はまさに主人公補正と言えるでしょう。