42人目の至高   作:マッキンリー颪

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 ゲェー!? 掟破りの番外編の連続ー!?
 次の更新こそ本編で主人公の出番です。
 おそらくそのはず。


番外・13

 先日攻め込んできた連中は八本指とかいう組織の一部だったらしい。

 捕まえた人数が多かったこともあり、軽い尋問だけで彼らの組織内での今回の事件に対する大まかな流れがわかったので、彼らが何をしに自分に関わりを持ってきたのか? それらがまとめられた報告書が完成、それに一通り目を通したモモンガは「やれやれ」と呼吸の必要がないはずの体で一息吐き出した。

 

 王都で使っている屋敷の自室にて、アルベドやマスクくんすらいないからこそできる、気だるげな態度である。

 正しい支配者の姿、そんなものは知らないけど少なくとも自分の今の気だるげな態度は支配者に相応しくないだろう、という思いくらいはある。

 しかしそれでも我慢しきれない。

 

「この国の犯罪組織を調べあわよくば殺しても咎を受けないような相手を捕獲し後の研究に活かす……予定通りではあるが、一瞬とは言えそれ以上のものを期待したからか……小さい徒労感は感じるものだな」

 

 肉体的に疲労と関係のない体であり、精神の疲労さえアンデッドの身を考えれば錯覚に過ぎないはずなのだが、それでも何とも言えないやり切れなさを感じるモモンガであった。

 おそらく仮初の疲労感……これが大きいものであれば精神の抑制のように、リセットされても良さそうなものだが、地味に小さく、そして常に残り続ける微妙な疲労というのがなんとも煩わしく感じるものだ。

 

 それなりに派手に動き、ナザリック基準で見ればガラクタに該当するグレードの低いアイテムを売り払い、多少の散財をしつつ街を練り歩く。

 この行動の結果、確かに狙い通り犯罪組織は釣れたのだが、その犯罪組織のエルダーリッチのアンデッド反応をオッの未来知識から知った吸血鬼と勘違いした空回りはなんとも情けない結果である。

 レベル30相当のステータスによる素手の格闘戦、という手合わせはそれなりの成果を上げれたのは嬉しい誤算であったが、それでも個人的にはエントマ殺害未遂犯の吸血鬼退治に対する期待が大きすぎたため、精神的に損をした気分は拭えなかった。

 

「いいや、俺は何一つ損はしていないさ……外を固めようとしていた人間どもを捕まえるのに動かしたモンスターたちとてナザリックの資源を消費していた訳ではない。むしろ集団行動の演習になったとすら言える。そう、俺は何一つ損をしていない……しなくていい期待をしたのが悪かっただけのことだ」

 

 これからは自分の行動に過度の期待をすべきではない……モモンガはそう自分の心に刻み込む。

 

 二兎を思うのも一兎をも得ず。

 今回に関しては二兎……犯罪組織+エントマ殺しの下手人の身柄、その二つを追ったがなんとか前者は得られたのだ。

 一兎を得た。それでいいではないか。

 もし今後、二兎を追ったことが原因で一兎をも得られず、それどころか何かを失うということになれば、そちらのほうがやり切れない。

 ならば今後、モモンガが注意すべきは状況に流される事で多くのものを得ようと欲張るようなことはせず、一つ一つ目の前の状況のクリアに務めるべき、であろう。

 

「ゲームの頃なら一つのイベントをクリアする過程で他のイベントや討伐、お使い系のクエストの複数同時進行を狙うものだが……これは現実だからな。欲張るのではなく、初志貫徹で一つ一つを確実に乗り越えよう」

 

 まだ、精神的に「損をした気分」「空回りして疲れた気分」という負の感情は残っているが、モモンガは両手で顔を叩き気合いを入れ直す。

 カツンと骨のぶつかった音がしていまいち締まらない気分になるが、こればかりは仕方ないことだろう。

 

 ちょっと恥ずかしい気分になるが誰も見てないのならセーフだよな、と思っているとノックの音。

 

「うおっと。……いやいや大丈夫、見られてないから恥ずかしくないな、恥ずかしくない。こほん……入れ」

 

 呼吸がないのに人間時代の名残からか、咳払い。

 そして気を引き締め直した所に現れたのは、メイドのユリ。

 わざわざモモンガの部屋に現れるということは「何か」が起こったのであろうが果たして?

 

 

 

「冒険者……貴族であると同時に、冒険者、か……」

 

 やだなぁ、と軽く頭を抱えるモモンガ。

 すでにユリは下げさせて一人でいるから良いが、とてもではないがナザリックのNPCたちに見せられない態度とはわかっている、それでもついつい嫌な気分で頭を抱えたくなってしまう。

 

 それほど重い感情ではないようで、精神抑制の効果が働かないのが絶妙に嫌だなぁ、などと余計に思う。

 

 ユリがやってきた要件。

 それはモモンガ……この王都に置いてはズーキと言う名の男だが、そんな彼に対する面談の要求である。

 面談の要求、とは言うが手紙による挨拶から始まり、文章の上からでは取り立てて高圧的ではない、まっとうなアポイントメントの取り方に見える。

 が、その相手が問題だ。

 

 ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。

 この国の貴族の令嬢であり、同時に冒険者のチームリーダーだという存在。

 面談の予約を取り付けることを望む手紙に書かれた情報が本当に正しいのかどうかはわからないが、それでも自分の生まれと現在の職業、立場を書いた上で、こちら……ズーキを相手に直接会って話がしたいと望む態度は、モモンガが見る限り不備は見られない。

 細かい要件こそ会って直接したい、というものだがそれくらいは当然のことであろう。

 アルベドやプレアデスならば、それこそ「天上の神に謁見するのなら言葉が足りない礼が足りない」などと不満を言いそうだが、少なくとも「ズーキ」というただの男を相手に接する態度としては、むしろ丁寧すぎるくらいと思えるのだ。

 正直、王都散策から始まり、アイテムを卸した先やこの国の物品を物色した先々でたまに来る誘いの態度に比べてはるかに好感を得れる態度と言える。

 

 しかし、相手の立場がモモンガを憂鬱にさせる。

 

 王国の貴族であり冒険者だ。

 オッは言った。

 この国の貴族は基本がド下等なのでまともに相手したらイラっとしますよ、と。

 そうとわかって対応するなら大丈夫だろう、とモモンガが慢心していたという部分はあるにせよ、それでもこの前会った貴族が本当にモモンガをイラッとさせたのだから、もはやオッの言葉を疑う余地はない。

 この国の貴族はまともに相手をするだけ損だ。

 

 さらに冒険者というマイナス要素も追加されるのだからたまらない。

 この世界に転移して日も浅い頃、オッとした会話を思い出す。

 

『えー? 冒険者やらないの? モモン・ザ・ダークウォリアーの大冒険が始まらないの?』

『始まりませんよ。まず百歩譲って私が冒険者を装って旅をするにしてもそんな名前は名乗りません』

『本当は「さすモモ!」とか言われたいくせに~』

『なんですか「さすモモ」って』

『んー、と。前後の流れは忘れたけど、冒険者モモン・ザ・ダークウォリアーは冒険者ギルドの会議みたいなのに呼び出しを受けるんですよ』

『会議? 冒険者ギルド主催の会議って事は大規模な作戦のミーティングか免許所持者の講習ですかね』

『いや、なんか幹部会みたいな流れだったような……違うか。都市のトップレベルのパーティだけを集めた会議だったかも』

『つまり、実力者だけを集めた会議ですかね。会議というよりは大規模な作戦の指揮系統を決める話し合いでしょうか』

『さあ? 細かい流れは覚えてないんだよ。ただモモンガさんは冒険者モモン・ザ・ダークウォリアーであると同時にナザリックのアインズ・ウール・ゴウンでもある二重生活をしてたから、会議に呼ばれはしたけど出席するのに遅刻しちゃったのな』

『むう、そりゃ気まずい。おそらくその時の私には大事なのはナザリックだから仕方ないにしても、先方からすればあまり褒められた行いとも言えないでしょうね』

『うん。それが理由で意地悪な先輩冒険者に遅刻したことをディスられるわけよ』

『当然でしょうね』

『でもモモンガさん、否、モモン・ザ・ダークウォリアーは「遅刻してごめん」と謝るのだ』

『ふむ』

『そしたら周りの人たちはこう言った……「遅刻した事を素直に謝るなんて……さすモモ!」と』

『何ですかそれは』

『いや、遅刻したことを謝るなんて偉いなぁ、と。そう思われたんですよ』

『はぁ? 偉いもなにも……遅刻した時点でダメじゃないですか、社会人として』

『それでも冒険者の社会において遅刻した事を謝るのは並の人格でできる事ではなかったそうです。これ以降、モモン・ザ・ダークウォリアーは強さだけでなく人格も優れたる人物として英雄街道を突っ走るのですよ』

 

 そんな会話を。

 この時モモンガが思ったのは、遅刻したら偉いと言われるということは、冒険者とはろくな礼儀もマナーもない不良集団なのでは? というものだった。

 常識的な事をして褒められるのは、そもそも常識なんてないと思われているか、普段の態度がよほど酷い場合であろう。

 つまり遅刻を謝って褒められる冒険者とは、普段は遅刻しても謝らない常識知らずの不良集団であるということ。

 この世界の世間一般の冒険者に対する評価とは、ならず者の不良軍団というわけだ。

 

 そんな話を聞いてしまえば、ますます冒険者なんてやりたくないし、関わりたくもないと思えるものだ。

 オッが言うには情報収集の一貫としてやっていたそうだが、いくら情報収集のためとは言えそんなチンピラと同一視されるというのはどれほどの屈辱であったか想像もできない。

 冒険者などという響きから、未開の探索や未知の発見を楽しむロマンのある職業を想像したいのに、やることはどちらかといえば対モンスターの傭兵であるらしいし。

 

 ここまで条件が揃えば、自分が冒険者をやるのは論外として、冒険者という人種との個人的なお付き合いすら勘弁してもらいたいものだ。

 だからこの手紙も無視するか、断りの返事を書きたくて仕方がない。きっとアルベド以下戦闘メイドやセバスもそれで問題ない、と言いそうな気はするのだが……彼女たちのその判断はあくまで「ナザリック至上主義」からくる自分たちこそが上位者であるという驕り、慢心による態度に思える。

 オッとの話し合いやその後にこっそりとアルベド、デミウルゴスと交わした会議を経て、モモンガだって最終的なゴールが「ナザリックが至高の存在として周囲に認識される」となる分には文句はない、むしろそうすべきだと思っている。

 しかし途中経過、始まりの段階からそんな態度を取っていたら周りから見て傲慢な存在に見えやしないか? という庶民的な心配が先に立つ。

 モモンガの理想的な狙いは「支配者になりたい欲望を持っていて力を行使して支配者になった」と思われることではなく「支配者にふさわしい人格と力を持っていて、多くの者から望まれ仕方なく支配者となってあげた」と思われることにあるのだから。

 

 だから一つ一つの局面で正しい態度を人に見せる必要、というものがあるはず。

 

 ましてや相手はただの冒険者ではなく、貴族でもある冒険者なのだから。

 だというのに、今の時点では相手自身の振る舞いに文句をつける点が見つからない……本当に厄介な話だ。

 無視も拒否も、相手の身分と態度を考えればこちらに非ができてしまう形になっている。

 

「なんて言ってもな……ちっ。まぁ断るわけにも行かんだろうよ」

 

 本当に断るつもりならそもそも悩んだりもしていない。モモンガはそう結論づけた。

 

「まぁ、いい。今回の相手が貴族として、もしくは冒険者として失礼な態度を取ってくれれば、それを理由に王都から引き払うとしよう。注意すべきは、どれほど失礼な態度をとられても必要以上にキレないこと、か」

 

 もっとも、相手が貴族であると考えれば「面談する」と返事をしたところで場所はどこでだとかその際に持参するものがどうだとか、色々と無駄な条件を次々と付随させてくるんだろうなと思えば、時間の余裕はあるしもうしばらくのんびりしても良いだろう。

 

「そう思ってた頃が俺にもありました」

「? どうなされました? モ……ズーキ様」

「いや、気にするな」

 

 小さく吐いたつぶやきはアルベドの耳に届いてしまうがうまくごまかす。

 いや、聞こえるもなにも、隣に居るどころか腕を組んで歩いているのだから聞こえない理由もないか、と思う。

 

 あれからすぐに返事として面談の件、了承するとメイド手紙を出させたのだが、するとあれよこれよの間にどこで面談をするかなどの擦り合せが終了し、最初に手紙が来た二日後に会うことが決定してしまった。

 あまりの早さに驚いて精神の抑制作用が働いたほどである。

 

 そうして呼び出された先はこの国有数の高級なレストラン。

 モモンガ自身はこの世界の……中でも王国や帝国にさしたる強者がいない、という安心感があるので元よりどこに呼び出されようとどれほどの囲いを用意されようと、一切の恐怖を感じることはないと思っている。

 

 だからこそ、セバスやプレアデスには付いてこなくて良い、自分とアルベド、あとマスクくんだけで行く、と言ったのだし。

 

 とはいえ、閉鎖的な場所よりも開放的な場所に招待される方がいくらかマシ、な気分でもあるために、場所に関しての不満はない。

 てっきり自分の今の立ち位置……有益なアイテムを多数所持しているであろう商人、もしくは八本指と緊張状態に入った存在、そのどちらかとなるが、それに合わせて呼び出すからには相手の貴族なり冒険者なりは、権力と武力による圧迫感をチラつかせての高圧的な会話を仕掛けてくると思っていただけに拍子抜けである。

 もっともそれだけの理由でモモンガが油断することはないが。

 

「申し訳ありません、お待たせしてしまいましたか?」

「いいえ、予定の時間にはまだ余裕があるほどですので」

 

 通された部屋には、すでに呼び出した側の貴族令嬢兼冒険者、という肩書きの女とその仲間らしき者、あわせて5名がすでにテーブルについていたが、モモンガが部屋に入ると、座っている配置からしておそらく相手の中で一番偉いのであろう女が立ち上がり、次いで3人が立ち挨拶を交わす。

 

「そうでしたか、遅刻していなかったようで何よりです……?」

 

 テーブルに付いていた5人のうち、4人は立ち上がり普通に挨拶をしたのだが一人、座ったままの人物を見てモモンガは声には出さないが、疑問が漏れた。

 と、言うのも。

 相手側の5人のうち4人は目に見える緊張こそないが、若干纏う空気が固く感じた。

 それに対し、残りの一人は席から立ち上がることもせずにこちらを見ているように感じるからだ。

 こちら、というか視線の先はアルベドであろうか?

 

 だからこそモモンガはそれを不思議に思い、そのモモンガの態度から相手方も自分たちの身内が未だに着席したままであることに、今気づいたようだ。

 

「イビルアイ?」

「ふぁっ!? あっ、あぁっ……ん、す、すまない……!」

 

 仲間から声をかけられたことで、着席したままの人物はようやく自分が座っていたことに気付いたかのように急いで立ち上がり、謝罪の言葉と挨拶の言葉を口にする。

 

「いえ、別に不快感などは感じておりませんので」

 

 えらい剣幕での謝罪の言葉を出されてはモモンガも変に思いこそすれど、特別相手に謝らせたいと思ってるわけでもないので軽く流す。

 

(アルベドの方を見てるように感じたが、勘違いか? ただの寝起きだったのかな。まぁ背丈や体格からして子供だろうしな……しかしすごい格好だ)

 

 お互い対面のテーブルに着席し相手の一同を見渡して、やはり一番すごい格好だなぁと件の子供を見て思う。

 モモンガの正面に位置する場所に座っている女性、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラなる人物は、貴族の令嬢らしくドレス姿に着飾っているが、その両脇にいる者たちはおそらく「冒険者としての仲間」なのであろう。武器こそ所持していないが鎧姿であったり忍装束であったり。

 だがそれ以上に変な姿が、いま話題にしていた子供である。

 フード付きの赤いマント……は、まだ良いとして、顔の前面を覆い隠すごつい仮面をつけているのがなんとも奇異である。

 しかし、この世界の冒険者がチンピラの延長線上であるのなら、目立つ格好、奇抜な格好はむしろ推奨されるのかもしれない。

 まぁそんな奇抜な格好をして仮面まで使って顔を隠している割に、すごい緊張でガクガクしているのは隠せていないのだからあまり意味のない見掛け倒しになってしまっているが。

 

(冒険者パーティなどと言っても、貴族のご令嬢さまの趣味の手慰み、遊びみたいなものなのかな? まともな冒険者っぽいのはごつい女と忍者くらいなのだろう。セバスやコキュートス……あとオッさんならこいつらの正確なレベルも見ただけで測れるだろうから、さぞかしアンバランスなレベル構成に首をかしげることだろうよ)

 

 まぁ元よりあまり深入りしたいと思う相手でもないので、モモンガは努めて気にしないように振舞おうと思った。

 敢えて言うなら、忍者装束の二人が気になる所か。その姿がコスプレの類でないというのなら、この世界の人間らしく低レベルでありながらも上級職を身につけたアンバランスな存在ということになる。

 オッの記憶が正確であるならナザリックから近い位置にある村のどこかに、同じように低レベルでありながらもジェネラルの職業を取得した存在だっているはずなので、この世界では「条件を無視した上級職」はそう珍しい存在でもないのかもしれない。

 まぁその検証はまたその内に、でいいだろう。幸い六本指だか六腕だかのおかげで使い潰していい人間がそれなりの数補充されたのだし実験材料としては申し分ないはずだ。

 

 だからとっとと相手がこちらを煽るなり侮辱するなりすればいつでも席を立てるのだが、その機会が来ないままに当たり障りのない会話と食事が続く。

 

 それから、その食事にひと段落が着いた頃にようやく向こうから会話を切り出してきた。

 

「さて……ズーキさん。そろそろ本題に入ってよいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

 

 個人的に話をとっとと切り上げたいと思っていたから言い出すタイミングを遅く感じるが、普通の会談であれば不自然がないくらいのタイミングであろうか?

 食事の味こそ得られるが、消化するのはあくまでマスクくんの仕事なために満腹感とは無縁のモモンガだが、食事を口に入れた量的にも、腹具合が会話の邪魔になることもなさそうなタイミングに思える。

 

 レストランのスタッフたちは心得たものか、テーブルの空気が変わったのを察したら食器を下げ飲み物だけを残し退出していった。

 これで、何らかの「込み入った話」をする体制が整ったわけだ。

 

(こないだ屋敷に来たバカ貴族ならそんな心配り一切なしにベラベラ自分の言いたいことを垂れ流しそうなもんだがそれに比べれば誠実な対応か? ……しかしまぁこいつが「どのくらい知って」俺を呼んだのかがわからない内はなんとも言えないか)

 

 今日、呼び出された要件。

 これが仮に、この世界では珍しいアイテムの所持者としてのズーキに対するもので、そんなアイテム所持者との繋がりを得るための会談でこの態度、というのなら礼儀正しいと思えるだろう。

 

 しかし、これがこの国の貴族の一人をリンチし、犯罪組織の連中の何人かも倒した相手に対する呼び出しであるのなら……なんとも言えない。

 たしかあの連中は自称ではあるが王都でもそれなりの腕利きの連中のはず。

 それを倒した存在を前に、彼女たちは緊張感こそ感じるが無防備にも感じる。

 モモンガたちと敵対したいのか、自分の陣営に取り入れたいのか知らないが、そのような流れを考えているのならもっと強固な囲い込みを構築すべきであろうにその気配は感じられない。

 もっともここに来ているのはモモンガとアルベドの二人だけだが、この王都の全戦力をもって拘束しようとしても拘束される心配もしていないほどにレベルの差があるのだけど。

 

 さて、この連中が今日、ここにモモンガを呼び出した意図とはどっちなのか?

 

「まずズーキさん。あなたがこの国の恥部でもある八本指……その一部門である六腕を倒した方である、という前提となりますが」

「ほう」

 

 この言葉で彼女がアイテム、あるいはアイテム所持者との繋がりを目当てに接触してきた線は無くなった。

 という事は敵対か囲い込みであろう。

 モモンガとしては敵対関係を前面に打ち出し、高圧的に武力をチラつかせてくれれば、これから自分が振るう「暴力」にも正当防衛の言い訳が立つので、そちらの方がありがたい。

 

 もっとも、特に大人数を集めての拘束の準備をしているわけでもなさそうなので、どちらかといえば囲い込みの方であろうが。

 この国の貴族間での権力闘争や派閥争いの戦力としてか、ひょっとすればモモンガを死んだ六腕とやらの後釜に据えて犯罪組織の一部に取り込むつもりか。

 そうなった場合は相手の無礼を詰り退出する手筈となっているのだが、それでは自分たちの行動の理由付けとして若干弱いのが難点である。

 まぁその分「ナザリックは正義を重んじる組織である」と言えば良いだけなのだが、その場合は今後、表面上の見かけだけとは言え、若干取れる手段が限定されてしまうデメリットもあるので好ましくないところだ。

 

 さて続く言葉はどうくるか?

 

「その八本指という組織は犯罪組織でありながら、恥ずかしいことに我が国の貴族の大半と深い結びつきを得ています」

「ふむ」

「そして、そんな彼らと繋がりのある貴族が冒険者組合の人間……おそらく、末端の職員だけだと願いたいのですが、組合の人間を介して、私たちに一つの依頼を出してきました」

 

 会話が進むにつれモモンガは「あれ?」と思う。

 思っても顔には出さないが。いや、表情筋のない自分には元々表情の出しようはなく、顔を覆い隠すマスクくんがいい仕事をして無表情をキープし続けてくれているだけか。

 それはそれとして、目の前の女は話を続ける。

 

「依頼の内容は「帝国から来たという商人、この国の貴族を傷つけた犯罪者であるズーキの無力化、確保。その際、彼の屋敷にある物品、及び人員は無力化し拘束した上で証拠品としての提出も願う」という、冒険者の仕事を冒涜するかのような……すみません。少し感情的になってしまいました。とにかく、そういうものです」

「む、なるほど。心当たりはありますが、それであなたは?」

「はい、では……」

 

 こほん、と軽く咳を払い続きを始めようとする女に対し、モモンガは冷静を装うが当然のように、焦る。

 

(ちょっと待てちょっと待てちょっと待て。なんかこの女変じゃないか? 俺を捕まえに来たとか、そんな風に思いたいんだけど違うのか?)

 

 モモンガは焦り、その焦燥が正しかったことの証明はすぐになされる。

 

「ズーキさん、リ・エスティーぜ王国に仕える貴族として、この国の貴族、そして犯罪者が多大な迷惑をおかけしていること、誠に申し訳なく思います」

 

 と、頭を下げた。

 それも深々と。

 

(うぉぉぉいちょっと待てぇ! 何事だこれ……あ、スゥーっときた。よし落ち着けた)

 

 モモンガのいた世界の、企業に勤める人間ならペコペコと頭を下げる光景も珍しくないだろう。

 しかし、この世界に来て多少は学んだことだが、基本的に特権階級、支配階級というものが頭を下げることはないらしい。

 モモンガの時代の社会であれば、会社の社員が起こした不祥事などに対してテレビの前で社長含めた幹部連中が表情だけ申し訳なさそうにして頭を下げるのは日常茶飯事だが、大昔にはモモンガの世界でも「責任者こそ頭を下げない、下げてはならない」という文化は確かにあったと筈なのだ。

 だというのに、貴族が頭を下げるとは?

 仮にこの女の貴族としての階級が末端の下っ端もいいところであり、対平民用の頭を下げる役どころの人物だったとしても……その場合、頭を下げるときに屈辱の感情の一つが浮かんでも良さそうなのに。

 それなのに、モモンガの目から見てこの女から見て取れる感情は、屈辱だとか恥だとかでなく、申し訳ないとかそんな感情に見えるのだ。

 いや、単に貴族の演技が上手いだけに違いない、と思いたいところだが……。

 

 ともあれ、この状況はモモンガにとって大変困ったものとなってしまう。

 相手の人間性が悪い訳ではない。むしろズーキとして出会った人間の中では「良い」人間である。

 だが、この会談にてモモンガが求めていたのはこの国の人間らしさを体現するような、程度の低い、質の悪い、そんな人間との出会いであった。

 求めていた、というよりは「想定していた」と言うべきか。

 

 モモンガは自分のことを殊更優秀な人間とは思っていない。

 だから前準備を怠ることはせず、常に不測の事態に備えるよう心がけていた。

 

 しかし今回の件に関しては……オッの示した未来の情報、そしてモモンガ自身がこの国で直接見聞し出した結論から、この国の人間は総じて自分の利益に目が眩み、そのためならば不正を厭わず、他者……特に弱者を踏みつけ陥れることに喜びを見出すクズが大半を占める、そんな国柄なのだと決めつけてしまっていた。

 

 つまり今のこの状況は想定外であり、ここから先の会話はモモンガにとって一番苦手なアドリブ全開の、思考と会話を同時進行しなければならないライブ感溢れるやりとりになってしまうのだ。

 その事実に気づいたとき、モモンガは流れるはずのない冷や汗が滲んだように感じた。

 

 

 しかしその時。

 幸か不幸か? ふと窓から外を見たモモンガの目に今まで見たことがない物が映り、話はそれどころではなくなった。

 虹のように、否、それ以上に複雑に様々な色が絡み合いうねりながら形を変えつつ、しかし一定の規則性を感じさせる美しい光の柱。

 そんなものが遥か遠くに迸っているのだから。

 

「え?」

 

 モモンガの視線を追ってか、もしくは光の照り返しによる反射で気づいたのか、ラキュースとその仲間たちも首だけで後ろを振り返り、そして絶句する。

 おそらく彼女たちもモモンガと同じく、初めて見た現象であろうから。

 

 モモンガは現実世界においても、この世界でも、そしてユグドラシルの中ですら見たことのないこの現象。

 だというのに、これがなんであるかを、なぜか確信を持って理解できた。

 

 ゲームの中ではこんな演出はされていなかったにも関わらず、あの光の柱から感じるもの、その正体。

 

「あれは……星のダンベル? 信じられん、まさかオッさんがあれを抜くほどの存在がこの世界にいると言うのか?」




 更新遅れて申し訳ありません。
 だというのに本編更新じゃなくて重ね重ね申し訳ありませんでした。
 次こそ主人公のバカが出てきます。きっと。

 3月15日、あとがき追加。

 冒険者兼貴族は嫌な予感。
 嫌なものに嫌なものが追加でドン、だから嫌な予感しかしませんでした。
 しかしマイナスにマイナスをかけたらプラスになるような奇跡が起こったのです。

 さすモモ!
 主人公的に特に印象に残ったシーンだったようです。
 勘違いモノらしいシーンでしたしね。

 挙動不審なイビルアイ。
 アルベドにビビりました。
 WEB版ではデミウルゴスに対し「抵抗したら殺す、しなくても拘束する、私は強いから抵抗は無意味だぞ」みたいなでかい態度をとって、いざ戦うと「超やべぇ!?」とかなってました。
 しかし書籍版では戦いが始まる前の段階からデミ……ヤルダバオトの力量(レベル100)を察知してた節があるので、臨戦態勢じゃなくても殊更隠していない実力を読み取れる扱いにしております。
 まぁそうじゃなかった場合はモモンガさんが自分以外の女と向かい合って話をしてるのが気に食わなくてピリピリしてたのもあって、ちょっと殺気が漏れてたのかもしれません。

 冒険者って貴族の趣味か?
 本人たちが聞いたら怒りそうな失礼な発想。
 まぁ知らないからこそ、なんですが。
 一応ユリから「この国で評判の冒険者チームです」とは聞いているけど、貴族がリーダーって一事をとって「つまり国民たちにおべんちゃらを強要させる悪徳貴族か、クソだな」とかいう先入観が……。

 星のダンベルの発動エフェクト、ゲーム内でなかった演出。
 モモンガさん自身のアンデッド生成系のアレもゲーム内と違う感じですし、同じようなものでしょう。
 一体主人公は何をしているのやら。
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