42人目の至高   作:マッキンリー颪

33 / 33
第20話

「はぁ~、毎日毎日働いてばっかでいやになるね~。給料も出ないのにこんなに頑張る俺には「もっと評価されるべき」のタグとか付けるべきだわ」

 

 この世界に来る前まで俺は最低限の生活を守るため、日々の食事のタネのためと働いてたわけだ。

 が、この世界に来てゴーレムマン……じゃなくてゴーレム超人……でもなく、ともかくゴーレムになってしまい、俺はもはや食事どころか呼吸さえせずとも生きていけるというのに。だというのになんでこんなに仕事をしているのだろう?

 下手すりゃ人間時代より真面目に働いてる気がする。

 なんでこうなるのだろう。

 

 そう思って黄昏てたらドアにノックの音。

 もうこんな時間か、働くお時間ですか。

 はぁやだやだ。

 朝なんて来なければいいのに。

 

 

 

「オッ様。再び聖帝十字陵を遠くから観察……と、思われる行為をしているものたちの姿がありました」

 

 今日も今日とて会議して。

 そんな流れの中、アウラからの報告が。

 

「今度はなんだよ。トカゲとカエルが来たから次はエビか? カニか? ヤドカリか?」

「いえ、ゴブリンやオーガの混成でした。」

 

 なんだそりゃ。

 

「敵対意思は見られず、ただ避難先しようとした先にあった物に対する未知への恐怖から足を踏み出せないという、なんとも中途半端な様子でした」

「避難? 何からだろ」

「どうやらあれらの住む森には「三大」と呼ばれるモンスターの勢力があるようですが、その内の一つがここ最近大きく動いているようなのです」

 

 三大?

 ジャンプとサンデーとマガジンか? チャンピオンも混ぜてやれよ、かわいそうだろうが。

 ……と、言うわけではあるまい。

 

 どうやら近所の森……わりと広大な面積があるわけだが、その森には3つの勢力があるそうで。

 大魔獣、巨人、魔蛇とか。

 うーん、なんか聞いたことがあるような無いような?

 

 俺が何だっけかなー、と考えてるとデミウルゴスが立ち上がり言った。

 

「まさしくそれはオッ様の未来知識にあった者共のことでしょう」

「なんだっけ?」

 

 俺はわからないことは素直に分からないと言える男なのだ。

 モモの字とは違う!

 

 ……よくわからんがモモンガさんだったら普通に覚えてそうな気もするがな。

 あのハゲ妙に記憶力はいいからのう。脳みそが無いはずなのに。

 

「オッ様の(サイクロプス)による未来知識にて、モモンガ様が戦うグとかいうトロールの事です」

「あー、あれか」

 

 モモンガさんが煽り倒して殺しちゃう奴だっけ。

 でも未来での時は、モモンガさんは話し合いのつもりが相手が聞く耳を持た無さ過ぎて殺すしかなかったんだっけ? 違うか?

 しかしまぁ……殺すのは極力避けておきたいよね。偽善だけどある程度のコミュニケーションを取れる生物なら生かしておいたほうがのちのち役に立ちそうだしさ。

 

 下等だからと殺してしまえばそこで終わり、生かして成長させれば何らかの有用性が見いだせるやも知れぬわ。

 

「よし、じゃあ行くか!」

「は……は? あ、いえ……どちらへ、でしょうか?」

 

 善は急げと、立ち上がり出立の準備をしようとする俺へ珍しく歯切れの悪いデミウルゴスの返事。

 なんでだ?

 わかりそうなもんだというのに。

 

「なにって、その三大スター? とかそんな奴らのところだよ。そいつらが森の中で跳ね返ってるんだろ?」

「は、まさしくその通りですが……では、聖帝十字陵を見に来ていたゴブリン、オーガの混成に対する処置は我々で?」

「へ? あ、忘れてた」

 

 やっべ。まさしく会話の主題の一つだった連中の存在のことを完全に無視しちまうところだった。

 その場合は件の「ゴブリンとオーガの混成」に対する対応はデミウルゴスなりほかの守護者、しもべの判断による処置になるんだろうが、こやつらはどうもナザリック外の存在に対する態度や認識がひどいからな。

 こやつらの判断に任せてしまうと酷いことになりそうだ。

 だから気軽にすべてをお任せをしてはいけないのに。

 ふむ、そういう意味では、だ。

 

「俺はうっかり見過ごすところであったがナイスな忠言であった。褒めてつかわすぞデミウルゴス」

「ははぁー!」

 

 褒めるところは小さかったり細かったりする部分でもちゃんと褒める。

 これがデキる上司スタイル……だろうか?

 実際のところはわからんがこうやってこまめにすり込んでいけば「現地の生物に対して思いやりの行動を取ったり、現地の生物の取り扱いを上司である俺やモモンガさんに聞くのは正しいこと」と、思わせることができるかも知れない。

 たぶん。

 

 デミウルゴスのやつも何か知らんがやたらとテンション高い返事してるし、まぁ間違いでもあるまい。

 すると、デミウルゴスだけ褒められる状態に物申す、とでも言わんがばかりにほかの連中もあれやこれやを俺に聞く。

 

 正直めんどうくさい、俺がやらずにお前らが考えろよ、と思う案件ばかりであるが、なるべく投げやりにせずに一つ一つ話を聞いていくのだが、盛り上がったこいつらは我先に、我先にと言葉を投げかけてくる。

 

「聖徳太子か……! そんな……一斉に話しかけられて……ワシは聖徳太子かっ!」

 

 

 

 で、とりあえずは会話に上がってたゴブリンやオーガ軍団のところに行くことになった。

 メンバーは俺とアウラとコキュートスである。

 どいつもこいつも付いて来たがったが、数が多いと威圧っぽくなるからダメよ、と納得させた。

 

 一応、議題に上がった森に関してはなるべく相手に察知されないようにモンスターやら原生生物の分布、パワーバランスを調べるようにとモモンガさんが指示を出していたこともあり、森の中の勢力の動きなんかはナザリック側からバッチリと把握出来ていたこともあって、ゴブリンチーム……正確にはオーガの方が偉いのでオーガチームか。その連中についての情報も会う前からある程度はゲットしていたりする。

 

 そういう事もあって、連中の前に現れた俺はまるで全てを知っているぞ、というような態度で接することができた。その上で俺たちの支配下に下るのなら安寧を保証してやろうと言えば、予想よりも簡単にオーガチームを軍門に下すことに成功したのであった。

 

「すげえトントン拍子だったな。びっくり」

「下等動物なりに、至高のお方であるオッ様を前に取るべき態度というものをわきまえる。そのくらいは当然だと思います」

 

 アウラをはじめ、うちの連中はそんなことを言うが……実際のところは、正体不明で信用ならない相手であっても従わないとやばい、とか思ったんじゃないだろうか?

 そのくらい追い詰められていたのでは……なんてね。

 

 ま、俺の頭じゃ考えるだけ無駄か。

 

 そういう事もあって、俺たちは次の目的地である三大とやらの巨人とやらのアジトにお邪魔することになった。

 

 本当だったらオーガチームとの交渉が終われば一旦ナザリックに戻って情報の統合をして、それから次の行動って予定だけど、オーガチームに対して予定以上に上手くことが運んだからな。

 こりゃこの勢いのまま動いたほうがいい気がするぜ、という事である。

 一応アウラとコキュートスからも意見を募ったが問題ないと言ってたしね。

 

 そして、オーガチームの方から3人ほど連れてきて、そいつらに俺たちと巨人とやらの元へ行く。

 オーガチームの連中を連れてきた理由としては、俺たちは強い! ということを言いはしたが、俺たちナザリックは敵対する相手ならまだしも、敵対しない相手を一方的に虐げるような真似はしないということも言っている。

 だから、三大とやらの「巨人の軍勢」とやらがもしナザリックの支配下に入るのなら、仲良くしなさいねという説明も兼ねてである。

 もし支配下に入らなくても積極的に敵対しないのならこちらからは手を出さない、ということもオーガチームには説明済みで、巨人軍とやらがそれを受け入れるのなら、オーガチームと巨人軍の仲は「同組織の傘下」という形になるのか、もしくは「別組織のものだけど敵対関係ではない」という形になるのか、それをわかりやすく連中に見せてやったほうが良さそうだと思ったのだ。

 

 で、たどり着いたのはしょぼい洞窟。

 

「ふむ、ここが連中のアジトか」

「はい、ちょっと変なトロールの出入りも確認しているので間違いないかと思います」

 

 職業補正や取得スキルの構成もあって、森の中での生態調査に関してアウラは高い能力を持っている。

 だから、噂の三大とやらに関しても心当たりがあり、連中の居場所や姿かたちもバッチリ把握済だそうだ。

 

 まぁ、アウラ的に言えば「大層な呼ばれ方のくせに弱っちいから見逃すところだった」という部分もあるみたいだけどね。

 そこら辺は「この世界の平均レベルは低めと考えよ」と言ってるので大丈夫とは思いたい。

 

「さて、入るか」

 

 と、アジトの前で駄弁っていても意味がないので、俺たちはアジトに踏み入った。

 俺を含めたナザリック由来の存在にとってはこの程度の洞窟をなんの驚異にも感じないが、連れてきたオーガチームのメンバーは結構おっかなびっくりである。

 ビビらんでいいと言ってるのだがね。

 

「くさっ」

 

 が、しかし。

 入ってみたら中が臭い。

 ゴーレムで呼吸不要なのに匂いを感じる自身の不思議は置いといて、これはちょっとばかり不快度が高いな。

 俺一人ならともかく生物のアウラやコキュートス、あとオーガチームにとっては……と、思ったがアウラもコキュートスも我慢できるみたいだし、オーガチームにとっては対して特別に不快じゃないのかな?

 巨人のテリトリーにビビっているが洞窟の空気、匂いに対する嫌悪感は無さそうだ。

 

「オッ様。さっそくこの洞窟の住人を発見です」

「オーガか。まぁ一種族だけじゃなく複数の種族で群れをなすこともあるのかねぇ」

 

 ガツガツと小動物……というかゴブリンっぽいものの死肉を食らっているオーガ。

 こっちに背を向けていて未だに気づいていないのだが……門番だとしたら仕事しろや、と言いたくなるな。

 せめて体の向きを入口側に向けながら飯を食えよ。

 

「おい、ちょっと良いか?」

 

 とりあえず声をかければ、ようやくこっちに気づいたらしいオーガが驚いたような顔で吠える。

 

「アイエエエエエエエエ!」

「つばを飛ばすな」

 

 吠えたオーガは持っていた小動物っぽい死骸を撒き散らしてドタバタと足元の棍棒を拾いながら後ずさる。

 その顔に浮かぶのは恐怖の表情かね。

 

「ナンダ!? ナンダオマエ!?」

「俺か。俺の名はオッ。アインズ・ウール・ゴウンのオッだ。こっちはアウラとコキュートス、俺の子分だ。今日はお前らの」

「ドワアアアアアア!」

 

 何者かと聞かれたので答えたら、オーガは突然逃げ出した。

 解せぬ。

 

 アウラとコキュートスはあのオーガの態度にぷりぷり怒っているが、それも止むなしな失礼な態度だった気がするなぁ。

 しかし、ムカついたからって殺気は漏らさないように、と前もって命令しているので我慢の子である。

 

「なんだかしらんが先に進もう」

 

 そしてちょっと進めば、奥からもこちらに向かってきたのであろう集団とかち合うことになった。

 

 トロールとオーガの混成のようだ。数で言えば若干オーガが多く見えるがトロールのほうが主導権を握っているのだろう。

 立ち位置も中央よりだし、まぁ体も大きくて力が強いからな。

 それとやや離れた方に姿を隠したナーガ……たしか昔見た話だとこいつら同盟組んでたんだったか? いや、全然違うモンスターって可能性もあるか。

 

「こんにちわ。突然お邪魔して悪いがお前たちが三大の巨人とやらと、魔蛇……と、思っていいのかな?」

 

 違ってる可能性もあるけど適当なあたりをつけて訪ねてみた。

 

「何者だ、きさま!」

「おっと、さっきのオーガは言ってなかったのか。俺の名はオッ。アインズ・ウール・ゴウン……まぁわからんか。森のはずれで聖帝十字陵とかを作ってる集団の中でも上の方の存在、と思っておいてくれればいい」

「なにぃ? お前が蛇の言ってた奴らのことか! なんのようだ!」

 

 昔、小説で見た印象だともっとバカでカタコトなイメージだったが、なかなかしっかり会話可能なのな。

 思ったよりアホではない……のか?

 しかし蛇が言っていた、という発言からはこいつら、別に俺たちナザリックの動きに対して反応を起こしてたわけじゃないのか?

 

「なんの用、か。ふむ……俺の後ろのオーガとかだけどな、こいつらはゴブリンも含んだ群れを形成してるんだが、ここ最近は森の中で勢力争いか何かが起こって、追い立てられるかのように逃げてきて俺たちの前に現れたのだ」

「それがなんだ! 弱虫のオーガなんぞしらん!」

「そっちが知らなくても、こいつらにとっては死活問題らしくてな。しかし心優しい俺たちは敵対してるわけでもない生物に救いの手を差し伸べることをためらわない、ということでこいつらの味方についてやることにした」

 

 で、こいつらを追い立ててるのがお前らなら、そういうのはやめろ。

 そんな事を言ってやったら、ボスっぽいトロールは吠える。

 

「何を言ってるのかしらんが俺に命令するな! ぶっ殺すぞ!」

「チンピラかよ……お互い手を出さなきゃいい、って言ってるんだって。そっちの蛇もそれでいいか?」

 

 俺に対してのぶっ殺す発言でアウラとコキュートスがピクっと動きかけたのは感じるが、それでも自制しているのは偉いというべきか。

 

「グよ、落ち着け! こやつらが本当に森外れの建築物の関係者ならその力はけして侮れるものではない! ゴーレムとダークエルフ、それに未知のモンスターまでいるのだ! ここは落ち着いて」

「だまれ臆病者め! この東の地を統べるグに指図するな!」

 

 一方で、蛇のほうが何やら言って諌めようとするのに巨人……グとやらはヒステリーでも起こしたみたいに手を振り回してわめき散らす。

 思ったより馬鹿じゃないかと思ったがやっぱり馬鹿なのか。

 図体の割に気の小さいというか、器の小さいというか……やかましいやつだ。

 

「わかったわかった。俺はお前に指図しないから。ただ後ろのこいつら……まぁいいや。うちの傘下に入ったモノに手を出すなよ? その際はぶっ飛ばしてやるからな」

「このバカが! 俺に指図するなと言っただろう! もういい! お前たち全員ぶっ殺す! お前は食えそうにないが後ろのやつらは骨までバリバリ食い殺してやる!」

「やめとけ、やめとけ。お前じゃ俺には勝てないから」

「うるさい!」

 

 とっととコイツとの会話を打ち切って撤収するか? という考えが頭をよぎっていたのだけど、なぜかその前にこいつ……グの中では俺たちを殺すという結論に達してしまったみたいだ。

 突然、剣を振りかぶり襲ってきた。

 

 その速度、まぁ遅くはないはずだが……俺にはスローモーションに見える。

 防ぐ、避ける、へし折る、受ける、いくらでも対応手段を取れるのだが……一番効果的なものは何か? と考えてしまう。

 しかし、喧嘩を売りに来たわけじゃないという前提がある以上は戦闘的な対応は取るべきではないよな。

 そんな思いもあるので、俺はあえて無防備、何もしないことに決めた。

 

「ぐわああああああ!」

「あ」

 

 が、しかし。

 うっかりやってしまった。

 俺に剣で斬りかかったグ。

 彼の手首がへし折れてしまった。

 

 モモンガさんがパッシブスキルで一定レベル以下の攻撃はノーダメのように、俺も防御関係のパッシブスキルがあるの忘れてたぜ。

 大体は上位プレイヤー同士でやれば効果の打ち消し、貫通、無効化とかが当たり前になってくるから忘れてたけど。

 俺のパッシブスキルは物理攻撃を軽減しつつ、自分の防御力と相手の攻撃力によって最終ダメージの決まるカウンターダメージを与えるものだったりするんだが……お互いの最大HPが多すぎたり、相手の防御スキルとかのせいで、いつも最終ダメージが小さいものだから忘れちゃうのもやむなし。

 

 レベルカンスト同士なら小さくて見逃すんだが、この程度の敵であれば結構有効になっちゃうみたいだな。

 というか、ゲームだとHPが減るだけなんだが現実だと腕が折れるようになっちゃうんだ。

 部位ダメージってやつかね。

 

「ぐっ、がああああああああああ! きさま! 何をした!」

「あー、俺のパッシブスキルっていうか、まぁ……俺の体が硬いから、って思ってくれ」

「舐めるなぁあああああ!」

 

 聞かれたので答えたが、言ってる間にもグの腕は即座に再生して再び俺に剣で斬りかかってくる。

 さっきは縦で、今度は横薙ぎ。

 まぁ斬り方を変えたからって何が変わるわけでもないんだが。

 

「ぐわあああああ!」

 

 再び腕の骨がへし折れる。

 

「だから俺に物理攻撃はやめとけって。飛び道具とかならまだしも接触系の物理攻撃だと反射で少しダメージを受けてしまうから」

 

 冷静に言ってやれば、多少は落ち着くかと思ったがグの表情には冷静さより恐怖の感情が少し見える。

 キャンキャン言うよりは落ち着いた……か?

 

「なんなんだお前は……お前たち! 全員でこいつを殺せ!」

 

 落ち着いた、かと思ったがどっこい。

 やっぱり冷静さは無いみたいで部下に袋叩きを敢行せよと命令を飛ばしやがった。

 

「ぐ、ぐわああああ!」

「うおおおおおお!」

 

 自分たちのボスの痛そうな様を見て、多少は怯えも見える部下たちだが、ボスの命令の方が優先順位は上なのか、俺に向かって殺到してくるがもちろん無意味である。

 せめて飛び道具を使えばいいのに、そんな知恵もない連中は俺に接近戦を仕掛け、次々に怪我をする羽目になる。

 

「やれやれ……む?」

 

 落ち着きなよ君たちぃ、という空気を醸し出す俺だが、高いステータスのおかげで怪しい動きは見逃すことができなくなっている。

 その結果、見つけた二つの怪しい動き。

 

 蛇は姿を消して洞窟の端っこを伝って逃げようとしているし、グはでかい図体に似合わぬコソコソした動きで俺の後ろに回りこもうとしている。

 これが背中から俺に攻撃しようという攻撃意思なら、好きにさせても良かったんだが狙いはアウラのようだからな。

 

「アウラ」

「はいっ!」

 

 もうこいつはアカンね。

 モモンガさんに比べて怒りの沸点は高めな俺だけど、今のはちょっとイラっときた。

 

 見た目的に弱そうなアウラを人質に取って優位に立ちたいとか、そういう考えがあったのかもしれない。

 そういう狡い作戦は好きじゃないが理解はできる。

 部下を捨て駒にして派手に動かし、やられてる隙に本命が隠密行動。

 そういう狡い作戦は好きじゃないが理解はできる。

 

 でも理解できるからって許容できるもんでも無かったみたいだ。

 

「えいっ」

「ぐわああああ! なんだこのチビ! くそっ! このグ様と力比べで勝てると……勝てると……ふぐうううう!?」

 

 コソコソと忍び込みアウラをどうにかしようとしていたグ。

 見た目が小さくていかにも取っ組み合いでどうとでも出来そうに見えても、そうはいかない。

 アウラは仮にもレベル100。

 取っ組み合いの格闘戦になろうとレベルで大幅に劣る相手に劣ることはないのである。

 

 アウラに取り押さえられたグは叫びながら何とかアウラの拘束から逃れようとするが、当然無駄である。

 さて次は。

 

「コキュートス。蛇」

「ハッ」

 

 コキュートスにアイズを出せば、スっと素早く動いたコキュートスが片手で蛇の首根っこを掴む。

 まぁ蛇というかナーガ、か。

 

「ふぐぅぅううう!?」

「いやー、蛇。逃げようとするだけなら、実は見逃しても問題はないんだが……面倒事を何度もやるのはごめんだ。話は一度で済ませたいから帰らせるわけには行かないな」

 

 オーガチームの連中はあたふたしているが、まぁ危険はなかろう。

 彼らの護衛としてあと2~3人ほど連れてきても良かったかもしれんが、危険のない場所なんだから護衛は不要だよな。

 

「さて、グ。お前は俺に敵対したからには、それなりの対応をさせてもらう。で、グの部下ども。連帯責任ってのは好きじゃないからボスに殉じる気がないやつだけ、武器を捨てて跪け」

 

 静かな口調で言ってやったのだが、どおやら声は通ったみたいで全員が武器を捨てて膝をついた。

 ……大した忠誠心じゃないか。ボスにお似合いの部下だが、その姿を見せられると余計にイラっとくるものがあるな。

 

「じゃ、グの処分に関しては後でやるとして……蛇」

「ひっ」

 

 コキュートスは首根っこをひっ捕まえながらも、呼吸や会話ができるギリギリの見切りでの拘束をしているようだが、それでも俺の呼びかけに対する返事は小さい悲鳴だけ。

 それほどの恐怖を感じているということだろうか。

 

「俺たちの後ろのオーガたちは巨人の軍勢に追い掛け回されてる、と思っていたそうだが、それは正解か?」

 

 答えない場合は殺す。

 言外にそんな意思を感じたのかどうかは不明だが、俺が聞けば蛇はあっさりと口を割った。

 

 どうやら俺らが作っていた偽ナザリック……まぁ聖帝十字凌だが。

 それに関して、森の外という事もあり、グも、もうひとつの三大である大魔獣とやらも興味を持っていないようで何のアクションもとっていなかったらしい。

 が、蛇は他の連中に比べ頭がいいと自認していたので、多少遠かろうといずれ驚異になるかもしれないと思い戦力の拡充に乗り出したようだ。

 とはいえ森のパワーバランスを考えれば、自分が動いた場合は無所属のモンスターが大魔獣や巨人に保護を求め、それが受け入れられることで、他の勢力が動かずに戦力を得ることになってしまう。

 そうなることを恐れた蛇は、配下のトロールを中心に巨人の勢力の存在であると演技をさせながら森の中で暴れまわり無所属のモンスターの群れを間引き、生き残った連中を「保護」する名目で自分の戦力を増やす手段を思いついたらしい。

 が、いくら住み分けしていても同じ森のこと。

 派手に動けばグにもバレるだろうからと、蛇は先に動いて「悪いのは森の外のやつらなんだ」と騙そうとしていたらしい。

 

 まぁ、つまりは。

 

「俺らに敵対しようとしてたわけだ」

「ひぃっ! そ、それはっ」

 

 蛇のやつはしどろもどろ。

 ビビりまくりだ。

 

 正直、今の俺は機嫌が良くないのだがその原因はグにあるので、別に蛇をどうこうするつもりはないというのにな。

 

 仮に、相手が俺たちを殺しうるくらいの力を持った敵であるのなら……その場合は保身のためにも決断は素早く、だろうが、こいつ程度なら決定的な敵対でもしない限りはどう扱うかなんてのはいつでも決めれるんだ。

 だからこいつが「俺たちと出会う前に」何を思い、何をしていたかというのは大した問題ではない。

 

 まぁ未来知識で知ってた連中の中には、大した驚異になりえない上に、まだ敵対もしてないのに先んじて刈り取った奴らだっているにはいるが、アレらはこの世界の法律で言うところの犯罪者だったり、未来で敵対しそうな奴ら、だったりするからな。

 アレらに関してはノーカンでよかろう。

 

 

「さて、俺は敵に優しくするほどの博愛主義者ではないが、第三者、中立の相手にも噛み付くほどの狂犬でもないんだ。だからお互いがお互いを敵と認識する前の行動はあえて問わん。が、今は都合がいいのもまた事実だ。蛇、お前自身の今後の身の振り方はこのグの末路を見てから決めろ」

 

 蛇にそう言った俺は、もう蛇には目を向けずにグに目を向ける。

 俺の意図を察したアウラはグの拘束を解いてスッと下がる。

 

 グの方としては、いい加減に自分の勝ち目がないのを悟ったのか、恐怖に歪んだ表情で震えている。

 そして俺が一歩、踏み出した途端に背中を見せて逃げ出した。

 

「ひゃい~~~っ」

 

 自分を拘束していたアウラは当然としてオーガチームをも避けながら、洞窟の入口側に向かってのダッシュだ。

 どうやら出入り口はひとつしかなかったようだな。

 まぁ緊急用の脱出口なんてものを作るほどの頭があるとも思えんし、逃げるのなら入口から出るしかなかったのだろう。

 

 逃げられんがな。

 

「あぶっ」

 

 俺に背を向けて走って逃げたグ。

 彼は逃げ出した先で俺の体にぶつかってその足を止めることになる。

 

「な? な? ……なにぃ!?」

 

 最初、何にぶつかったのかわからなかったのだろうが、一歩引いて自分が何にぶつかったのかを見て驚きの声を上げるグ。

 あとグの元配下の連中や蛇、オーガチームの面々。

 

「よう、久しぶりだな」

 

 混乱しているであろうグに軽く声をかけてやると、グは再び俺に背を向けて全速力で逃げ出した。

 そして逃げ出した先で何かにぶつかり、その「何か」がなんなのかを確認するために一歩引いて、絶望に顔を歪める。

 

「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない」

 

 無論、嘘である。

 こりゃ単に低レベルの雑魚を逃がさないようにするための戦闘フィールド形成用のスキルの一つでしかない。

 回数制限もあるし、レベルとステータスに差がないと使えないのだが、一定以上の距離から抜け出そうとすれば自分のそばに敵を転移させるためのスキルである。

 近接職を相手に飛び道具と飛行スキルを使うような敵と戦う時も使えるかな、と思って取得したはいいがレベル差やステータス差で発動させれる相手なら、そもそもこんなスキル必要ないくらい圧倒できる、というネタスキルの一つである。

 

 この世界に来て生身の体になったからか、逃げ出した敵を自分の周囲にランダム転移ではなく、より細かい制御ができるようになったのだが……まぁ今以外のどんなシチュエーションで使うんだよ、なスキルだろうな。

 

「逃げるという行為を成功させるためにも、ある程度の力量は必要ってことだ。さて、覚悟はいいか?」

 

 相手の返事にかかわらず殺す、と既に決めてはいるが、一応は聞いておく。

 

「たっ、たたたっ、たすっ、たすけ」

「助けない」

 

 当然というか、誰だって死にたくないと思って当然だろうし、命乞いをするわけだが聞く気はしない。

 

 もし俺が生身の人間だったらかわいそうとかそういう感情を持てたのかもしれんが、今の体になってから、人間に限らずこの世界の生物は基本的に「自分と違う」と感じてしまって、どうにも感情移入はできないしかわいそうとは思えん。

 それでも、部下を捨て駒にする作戦は不快に思うし、そんな不快な奴らが可能か不可能かは置いといて、身内を傷つけようとした事でさらに不快度は増した。

 

「これから俺はお前を殺すわけだが……感謝するがいい。せめてもの手向けだ。お前程度には過ぎた、俺の本気の力で終わらせてやる」

 

 不快ではあるが、それでもいたずらに拷問したり怖がらせたり、というのは趣味が悪く思う。

 だから、せめて本気で向き合った上で一瞬で殺してやることにしよう。

 そっちのほうが精神衛生上、ちょっとはマシだしな。

 

 そう思った俺は片手をお腹にそえ、軽く差し入れた。

 水に沈めるよりも軽い感触で手が腹の中にめり込み、目的のものを掴み取る。

 

 目的のものとは……ダンベルだ。

 

 

 ゴーレム系統の最終到達点の一つ、オリジンゴーレム。

 その種族の特性は体の中のギミックを永久にロストさせることで、恒常的なステータスアップを可能とする種族でもある。

 もっとも失っても困らないゴミギミック程度であればステータスはまるでアップしなくて、使用頻度が高い、あるいは高レベルボスとの戦闘での総ダメージ数が高かった、などの審査を経たギミックの重要度によって、そのステータスアップ率が変わってくるので、本当に使えるギミックはそうそう捨てられるものではないのだが。

 

 そんなオリジンゴーレムだが、ギミックロストをせずに一定数以上のギミックを搭載したままでいたら、普段のスキル回数やらにペナルティがかかったりするものの、ある一つのスキルが取得できるようになる。

 

 そのスキルこそ、ダンベル装備だ。

 体の中にたくさんのギミックを内包したオリジンゴーレムは受けるペナルティと同時に、一つの究極兵器が搭載される……みたいなフレーバーテキストだったか。

 

 やたらと大仰な設定の究極兵器だが、そのダンベルを装備した時の効果は絶大である。

 全ステータスが大幅にアップ、レベルアップごとの成長度を考慮すれば、レベル200とも220相当とも言われる程のステータス、さらにスキルや魔法などの使用もほぼ無制限でクールタイムも殆どなくなり、超位魔法を含んだ一部を除く、強力なスキルや魔法の連発が可能となるのだ。

 ある程度以上のレベル100プレイヤーがこのダンベルを装備すれば、その装備中なら一人でもレイドボスを圧倒する事ができる、とも言われるチート兵器。

 

 それこそが、俺の持つ「星のダンベル」なのだ。

 まぁ装備したら~、って言うけど装備できるのは本人だけなのだけどね。

 

 取得条件とか、ちゃんと教えまくって広めたのになぜか俺以外まともに使ってる奴が殆どいない不人気能力でもある。

 ほんのちょっと、ゲーム内時間で150時間くらいの間、全ステータスが60%ダウンしてデスペナルティでの経験値ロストが3倍、そして経験値の取得もできなくなってスキルが使えなくなる程度のデメリットしかないというのに。

 

 ま、昔であればゲーム内での150時間は長く感じたが、ゲームが現実になった今の状態ならペナルティを受けるのはわずか一週間足らずの間だから、大したペナルティでもあるまい。

 

 そう思って使ったのだが。

 

 

 

「あわわわ……」

 

 凄まじいまでの力の奔流。

 何もしていないのに、俺の体から噴出する目に見えるほどの圧倒的オーラが物理的な圧力さえ伴って溢れ出る。

 その圧力だけでグはもはや死にそうなほどだ。

 

 素晴らしい、素晴らしいぞこの力!

 今ならわかる、感じる! 俺はこの世界において、この瞬間、誰よりも強い!

 圧倒的な全能感、今の俺の中には全てがある。何でもできる気がする……いや、そんな曖昧なものではない。

 今の俺に不可能はない!

 

 ふっふっふ、いかんな柄にもなくテンションが上がってしまう。

 というかどうやら精神の抑制のリミッターが外れているみたいだ。

 自分の体がどうなっているのか、今の俺は全てが手に取るように分かってしまう。

 だからテンションが高くなっているのを自覚しているが、そのせいで足を取られる心配もない。

 最高に「ハイ」ってやつだァ!

 

 しかぁし! ダンベルの使用時間は30秒。

 その時間をすぎればペナルティが始まるのだから、今、まさに最強の時間のうちにやるべきことはやらねばならぬよなぁ。

 

「ボイリングショット! マッ!」

 

 俺は手のひらから発射される、水属性、直線放射系の攻撃スキルであるボイリングショットを真上に放った。

 洞窟の内部で、だ。

 しかしなんの心配もない。

 まるでコルクで抜き取られたかのように綺麗な穴が天井に空いたのだからなぁ。

 

 その穴からも洞窟に収まりきらなくなった俺のオーラが真上に噴出されるが大したことではない。

 

「さて、グよ。せめて薄暗い洞窟の奥そこでなく、空で散らせてやろう」

 

 もはや声すら出せないグの体を掴んだ俺は、真上に飛翔する。

 その速度たるや凄まじく、瞬く間に雲を突き抜けるほど。

 

 さて、ここまでくれば十分だろうよ。

 グには過ぎた死に様だが、華々しく散らしてやろうではないか。

 

「崩壊の鐘よ! 再びこの世に鳴り響くがいい!」

 

 手に持った具を軽く投げ、俺は自分の頭の上で両腕、前腕部をクロスさせる。

 その両腕に蓄えられたエネルギーがここでついに発動するのだ。

 

「シングデモリッションウェーブ! マッ!」

 

 俺のクロスさせた両腕から発せられた圧倒的パワーを内包した衝撃波は究極の音波兵器となり、いかなるものをも破壊する!

 普段は牽制用の、全方位に対する攻撃という程度のこの技も、今の俺のステータスではなれば必殺となるのだ~!

 

 これによりグの体は爆発四散、もはややつの肉体、髪の毛一本すらこの世には残っていない。

 やつの生きた証は、この世に鳴り響いた我がシングデモリッションウェーブの鐘の音だけよ。

 

 

 

 そして、グを完全抹殺させた俺は元の位置に降り立った。

 その着地たるやまさに完璧、飛ぶ前と寸分たがわぬ位置に着地である。

 こんなことができるのも、今の俺がそれだけ完璧な存在である証拠よ。

 

「終わった」

 

 グの完全消滅をもって、この場での戦いは終わったと言えるであろうよ。

 

「あ、あわわ……あ、あなた様は……もしや……神……」

 

 と、その時、そういえば居たんだったなぁと思い出せる蛇が恐怖に震えながらもなんとか声を絞り出した。

 しかし、神?

 神だと?

 

「違うな」

「で、では一体……」

 

 まったくわかってねえよお前は。

 ではいいだろう、教えてやろう、しかと聞け!

 

「神こそ我が下僕(しもべ)!!」




 前回から随分と遅れてしまい申し訳ありませんでした。


 三大。
 未来でも少年誌はやってるんだろうか……どれか一つくらい落ちてチャンピオンが三大少年誌の一つになっててもいいんじゃないかな、なんて思ったり。


 聖徳太子。
 ナザリックのメンバーはもちろん、聖徳太子なんて知らないので「?」「?」「?」みたいな感じになりました。


 グはカタコトなイメージ。
 だったんだけど、読み直したら普通に喋ってるんですよね。
 配下のオーガはカタカナだったので、ボスやってるだけあって多少は賢かった……のでしょうか?
 もはや死んだ人(トロール)なのでなんとも言えませんが。


 パッシブ系の防御スキル。
 無くても同じ結果になりそうだけど、まぁ適当に書いた部分ですね。


 イラっときた主人公。
 できれば次の回とかで書ければいいなぁ、って思うところですが、仮にも友達を止めるために頑張る、くらいには仲間思いでもある主人公からすれば、手下なのだとしても、仲間を捨て駒にする作戦は不愉快だったとか、そんな感じです。



 蛇がやったこと。
 原作では森の中に作っててグがお怒りになったわけですが、今回は縄張りから微妙に外れてたこともあり、グは気にもしてなかったのだけど、ちょっとだけ賢いつもりの蛇は余計なことをやっちゃった、という感じですね。


 ダンベル。
 もうちょっとペナルティとか重くしておかないと全プレイヤーが使いたがるかなぁ……とも思ったけど、社会人プレイヤーにとっては重いペナルティだよね、30秒程度の強化じゃ割に合わない……よね?
 と、思いました。


 ちょっとテンション高い主人公。
 ダンベルの効果発動中は精神の抑制が仕事をしなくなるようです。


 シングデモリッションウェーブ。
 マッ!


 神こそ我が(しもべ)
 カイオウかよ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。