42人目の至高   作:マッキンリー颪

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 今更ですが、今回は今まで以上に露骨に「書籍9巻まで」のネタバレ要素満載です。
 書籍版を未見の方はマジでブラいざバックをお願いします。


第4話

 セバスとシャルティアがモモンガさんの伴として付いてくる事となったわけだが。

 

 シャルティアの守護階層はナザリックの中でも上層部、つまり入口なのだが、もともと形が整ってる場所でもあるので状況の変化による体制の変化は小さいため、ナザリック全体の警備体制の見直しを必要とするアルベドやデミウルゴス、ナザリックの外側をいじる必要のあるマーレやアウラに比べて動きやすいのだろう。コキュートスも似たようなものだがじゃんけんで勝ったのがシャルティアだったのだ。

 セバスは元々モモンガさんの傍付きのようなものだから、9階層や10階層の警戒などその辺りの仕事はプレアデスやエクレアが引き継げるので、割と融通が効くか。

 アルベドは最後まで「自分もついて行く」とグズっちゃいたが、最後はモモンガさんが上手く丸め込みおったわ。

 まぁアルベドとデミウルゴスは一番忙しくなるんだから「自分の仕事を頑張ってて」としか言えない。

 

 そういうひと悶着の後、ナザリックの外に出てみたのだが。

 

「うわあ……!」

 

 と、感極まったような声を上げるのはモモンガさん。

 そして魔法の力で空へ飛んでいった。

 

 ぴゅー! って。

 ぴゅー! って。

 

 俺等を置いてけぼりで。

 興奮しすぎだろあやつ。

 まぁすぐ「スゥー」ってなるんだろうけどさ。

 

「ったく、あのハゲ。護衛でセバスとシャルティアを付けたってのにいきなり単独行動してんじゃねえよ」

 

 まぁ原作でも夜空の星々を見て……あぁ、たしかそのタイミングはこの世界に来てから2~3日くらいで、デミウルゴスを伴に付けてうっかり世界征服宣言しちまうんだったか?

 それは阻止せねばなるまいて。

 デミウルゴスじゃなくても、シャルティアでもセバスでも同じだ。そんな発言聞けば100%本気にするだろうしな。こいつら(守護者)はそう言う奴だ、俺にはわかる。

 

 飛んでいったモモンガさんを追うべく空を飛ぶ俺。シャルティアも魔法で飛べるのでシャルティアは空中で、セバスは地上からのそれぞれに警戒を命じておく。

 なんでモモンガさんの伴に俺が命令せねばならんのだ? まったく。

 

 手のひらやカカトの底からジェットを噴射させて空を飛ぶ。ゴーレム種族のギミックのカスタマイズで作った技だ。

 ギミックを作った当初はバランス制御全然上手くいかずにすっ転んで地面にこすられながら壁にぶつかってゴリゴリしてた事もあったのはいい思い出だ。

 

 そして雲を突き抜け、モモンガさんと並び前世の記憶よりも透き通った星空を眺める。

 シャルティアには声の聞こえない距離に離れておけ、と命令を出すのも忘れない。……だからこの手の細かい作業はモモンガさんのやるべき仕事だっての。

 落書きすんぞハゲ。

 

「見てくださいよオッさん! 星がこんなに輝いて……星の明かりで物が見えるなんて! 凄い……本当に凄いですよ。……ブループラネットさんにも見せてあげたいなぁ」

 

 落書きしたろか、とも思ったがなんかこんな感極まった感じではしゃいでるモモンガさんが相手だと申し訳ない気分になって……できんね。

 

「まぁ……俺らの世界はあんなですからねぇ。ていうか前世ですらこんな星空は見たことないかもね。あんまり覚えてないけど」

 

 なんだかんだでモモンガさんがはしゃぐ気持ちもわかる。転生後の世界の大気汚染とか本当にひどいから星空なんてものは図鑑やムービーくらいでしか見れないからな。

 ブルプラさんの作ったっていう6階層(俺がギルドに入った頃にはとっくに完成してた)も凄いと思うが、作ったんじゃなく自然での星空ってのはモモンガさんにとって生まれて初めて見るものだろうしね。

 そりゃ感動もするか。

 

「ま、見せたくても居ない人が相手じゃね」

「……そう、ですね」

 

 スゥーとなったからか、あるいは俺が水を差したからか? モモンガさんのテンションがやや落ち着いた。

 これで落ち着いて話ができるか。

 

「んじゃ、ちょっとばかり今後について話しますか」

「あ! その前に……なんですかオッさん、さっきのは!」

「さっきの?」

「NPC……彼らに対する発言です! 恨みを誘発するような言い方をして!」

 

 さっそく今後についての話、と思ったらその前にモモンガさんはそっちが気になったみたい。

 ま、よかろう。

 

「仕方ないでしょうが。俺の存在を隠せないって言うんなら、あいつらのヘイトを俺に向けさせた方が後々、モモンガさんのワガママをあいつらが聞いてくれるようになるんですから」

「はぁ?」

 

 わからないかねぇ。

 

「書き置きは……まぁ量が量だし全部は見てないと思いますが、未来においてモモンガさんは何だかんだで連中のことを信じきれてないのか、完璧な支配者として振舞おうと必死になっちまうんですけどね。そのせいで言いたいことも言えなくなってる感じだった……気がするんですよ」

 

 7巻とか。7巻とか。7巻とか。

 

「? 完璧な支配者なら言いたいことは何でも言えるのでは?」

「いやいや、逆でしょうが。モモンガさんは「ナザリックの利益厨」な感じになって、ナザリックの利益と思ったことは嫌な事に対しても反対意見が言えなくなるんですよ」

 

 7巻とかな!

 

「はぁ……仰ることがよくわかりませんが」

「まぁ、今は実感ないのもわかりますがね。まず大前提として、大事なことがあります」

「なんです?」

「俺らは種族が変化してしまい、そのせいで精神も大きく変化しているんです」

 

 人間に対する同族意識が無くなったり。

 人間を含めた生命体の死に対して無頓着になったり。

 

 食欲や睡眠欲が無くなった事も含めての精神的な変化。

 これを教えてやるとモモンガさん、流石に驚いたみたいで、でも少し否定気味だ。

 

「いや、そんな……確かにゲーム内の種族特性でアンデッドやゴーレムなんかは睡眠や空腹のバッドステータスが効かなかったりしますが……でも、我々の中身は人間なんですよ?」

「でも体が人間じゃないですからね。むしろ精神が人間じゃなくなって助かる部分もあるでしょう。ですが、それでも人間性の消失は痛いかも。なんというか……やりすぎ、を平気でやってしまうでしょうし」

「そのへんの実感は……時間が経てば嫌でもわかるので今はいいです。でも、今はそんなことより、オッさんが彼らを見捨てたとか、そういう事を言って煽る意味について聞いているんです!」

 

 話が脱線したのに気づいたか、モモンガさんは無理やり既定路線に戻そうと語尾を強める。

 気持ちはわからんでもないが、俺としては順序立てて話をしたかったんだけどね。

 なら先に答えから言うか。

 

「じゃあ、あいつらを煽った理由から言いますね。この先、しばらくしてからナザリックの防衛能力のテストをしたいと守護者たちは言います。モモンガさんはそれに反論する理由を持ってません。だから、本当は嫌で嫌で仕方ないけど、侵入者を誘引して、ナザリックが荒らさせる事になります。第三者視点で見ればマッチポンプです。悪いのは全部ナザリック側なのに、モモンガさんはそれでも「ナザリックに侵入された」って一つの事実だけを(あげつら)って、侵入者どもに死ぬ事もできない苦しみを与えて遊んで八つ当たりするようになったりします。俺はそういうのは止めたい」

 

 だから、その時になって守護者連中の出す提案に対し「嫌われ者の俺」が否定意見を出すことで、モモンガさんが守護者から嫌われない形で守護者の意見を袖にできる。ついでにその後に形だけでも連中をモモンガさんが慰めれば連中の「やりたいことが出来ないストレス」は「モモンガさんに慰められた嬉しさ」で相殺されるはずだ。

 

「もちろんそれだけじゃありません。一事が万事、といいますかね。例えば消耗品の魔法のスクロールとか。あれはこの世界の素材ではゲームみたいに作れません。だから、代わりの素材を見つけなきゃ行けないんですが……デミウルゴスは「この世界の羊」と嘘をついて、罪のない人間の皮を剥いで、その皮を素材にしたりします。ひどいと思うのでそれは文句を言いたいですが「完璧な支配者」をやるモモンガさんでは「ナザリックの利」になる事に対し、代案のない否定はできません。嫌われ者の俺だったら感情論で文句を言っても「またか」「うぜえ」と思われるだけで済みます」

 

 俺がそう言うと、モモンガさんは「信じられない」とでも言いたそうな顔になっている。

 骨だけど開いた口が塞がらない状態というか。

 

「モモンガさん、感情が顔に出てますよ。骨のくせに」

「あ、申し訳ない……いや! いやいや! それよりも今の話……!」

 

 マジだけど? と言ったらモモンガさん驚いてる。

 ま、驚くか。

 モモンガさん的には、連中がそんな事をするなんて信じたくない部分があるのも当然か。

 

「でもね、モモンガさん。連中の設定テキストとかって、どのくらい覚えてます?」

「え? そう……ですね。表面上の設定や能力はともかくとして、まぁ覚えがいいのはパン……いや、シャルティアでしょうか? シャルティアの場合……」

 

 と、ブツブツ言いながら思い出してたのだろう。

 見る見る内に表情が曇る。

 ……骨だけどな!

 いやほんと、見切り系のスキルやら取ってて本当に良かった。

 たしか本で読んだ未来知識だとモモンガさんのポーカーフェイスはどっかの皇帝すら騙されるレベルのはずだしな。

 モモンガさんの骨顔の中にある微妙な表情を感じ取れないと、俺も「モモンガさんは悩まず動いてる」と勘違いしてたかもしれん。

 

「た……確かに、シャルティアは……人間を殺すのを楽しむかもしれません。ですが、それってあくまで設定ですよね?」

 

 ならばちゃんと注意すれば矯正できるのでは? と、希望観測を口にするモモンガさん。

 その視線の先には話題に上ったシャルティアが。

 何か用が? と近づこうとするのをモモンガさんは手で押しとどめるが、その表情はシャルティアに対する疑念が見え隠れしている。

 

「未来のことになりますが、連中の性格……設定されてない部分はどうも、製作者の性格が表に出るようなんですけど」

 

 何とも言えない顔になってるモモンガさんに、とりあえず未来知識を追加で教えておこう。

 

「モモンガさんは彼らの性格の中に、昔の仲間……アインズ・ウール・ゴウンのメンバーを見てしまい、なかなかあいつらに厳しく接することが出来てなかったように思います」

「そんな事が?」

 

 かつての仲間の残滓、という言葉に反応してか、モモンガさんのシャルティアに向ける視線の温度が変わったように感じる。

 しかし……本性は置いといて見た目美少女ロリ吸血鬼の中に、鳥男アーチャーであるペロロンさんの残滓を探そうとする、ってのは何ともヘンテコな話だ。

 

「昔の仲間の匂い。そのせいで、連中の趣味趣向に対しては「昔の仲間が望んで作った設定なんだから歪めちゃならない」って思ってしまう感じになってたんじゃないですかね? アルベドの設定を変えてしまった事を結構悩んでたようですし」

「あ! アルベド!」

 

 ここでアルベドの話題を出す。

 シャルティアがすげえ形相でこっちを見てるが……自分の名前じゃなくアルベド(ライバル)の名前が出たら気になるものかね?

 

「モモンガさん、念のために口元を隠してください。声こそ届かなくても口の動きで我々の会話が察知されるかも」

「いや、私もオッさんも口なんてこんな体で読みようがないでしょう」

 

 とりあえず小ネタを投入することでモモンガさんの精神をフォローする俺。当然だが、口の動き云々はネタであってマジで言ったわけではない。

 

「冗談は置いといて。アルベドの事も後で良いでしょう。今は今後の身の振り方ですよ。モモンガさんもナザリックの連中の行動様式が人間の目で見たらヤバイ、って事は分かってくれたようですし」

「アルベドの事を後にされるとそれはそれで困りますが……まぁ、そうですね。私としてもかつての仲間の残した彼らが、自分の意思を持って動き出したというのであれば、できればその一つ一つの意思は尊重したいと思いたいのですが……」

 

 甘いことを言う人だねぇ。

 人間であれば……利権が絡まない部分では好ましく思える性格なんだろうが、この人の身内判定に入らない人間に対する対応を考えれば……だなぁ。

 

「色々と言いたい事はありますが、モモンガさんはナザリックの者達を押さえつけるのはできれば嫌だ、と」

「まぁ……はい。ですが」

「その場合は、連中の望む姿。まぁ未来知識をひけらかしてぶっちゃけると、モモンガさんが世界征服するための計画が発動しちゃいますね。被害程度はこの世界の人間種全部ですか? あぁ、この世界は人間だけじゃなくリザードマンとかほかの獣人系とか居るはずですしね。俺の記憶のあるうちに出てなかったけどドワーフとかも」

「はぁ!?」

 

 モモンガさんは驚いちゃいるが、本の続きで本当にそれくらいやりかねないと思うしなぁ。

 前提としてモモンガさんが「人間の命をなんとも思わない」って部分があるから。

 

「えっとですね。俺の知ってる未来の知識で言うと、モモンガさんって色々と心配性っていうか、最悪のパターンは常に想定するじゃないですか」

「私が、じゃなくて普通はすると思いますが」

「それは置いといて。モモンガさんはいろいろと心配性の結果として、自分と同格、戦闘力では上回るかも知れないトッププレイヤーの集団が敵に回ったら怖い。そう考えてました」

「普通は考えますね」

 

 普通は考えるのか。

 俺だったら「異世界ワープした! なんか俺だけ強い! ひゃっはー!」で深く考えない気がするが。

 

 でもまぁ、モモンガさんの「普通に考える結果」が、守護者たちからガッカリされたら裏切られるかも? だから、守護者たちが人間を拷問したりするのも文句を言えず、ただ「プレイヤーを警戒するから派手に悪さをするな」みたいな中途半端な態度になってた……んだっけ?

 そしてその言葉を曲解した守護者たちは「ナザリックと関係のない悪魔を装って無関係の人間をさらって人体実験する」「相手が悪いという言い訳を作って過剰防衛、そもそもの相手が悪いっていうのすら自分が仕向けたマッチポンプ」みたいな流れになってたような?

 

 それを伝えるとモモンガさん軽く引いてるが。

 

「ま、そうならないために、モモンガさんはなるべく守護者を信頼して最低限の弱音くらい吐いても良いと思うんですよ。今の話の流れで言うと、守護者たちの趣味や嗜好を否定したくないけど、自分はそういうの好きじゃないから我慢してね? とか言って」

「押さえつけない代わりに頼む、ですか」

「そうそう、そんな感じ。やるかどうかを決めるのはモモンガさんですけど、基本的に守護者連中にはビビるだけ損ですよ。あいつらの忠誠心はすげえですから、モモンガさんが拷問嫌い、人間を虐げるの嫌い、って言えばやりたい事でも我慢しますって」

 

 そこまで言えば、モモンガさんが時々シャルティアに向ける視線もいくらか柔らかくなったような感じがした。

 いや、視線に柔らかさと勝手なんだよ、と思うが感覚的なものだからな。

 

「ですが、うーん。皆の残したNPCですし、信じたいと思うんですけど……実際のところどこまで? と思うと。さっき彼らからの私の評価を聞いて、すごく高い評価だったじゃないですか。あれは逆に「期待以下だったらガッカリする」って言われてるような気もしたんですけど」

「なんでそんなにネガティブなんだよ。そんなだからハゲんだよ」

「いや、ハゲてませんよ? 私のはアバターデザインですってば。だいたいオッさんだって髪の毛ないじゃないですか」

「俺は剃ってるだけですから」

 

 どうやって剃るんだよ! というお約束ジョークを一発。

 空気が和むのはいいがなんだか会話が連続で脱線してるように感じる。

 

「ですが、オッさんは守護者たちの忠誠を信じろ、って言う割には態度悪かったじゃないですか。あれは見てて正直、いい態度と思えませんよ?」

「だから俺は良いんですって。警察の尋問でも優しい警察と怖い警察がコンビで犯人を追い詰めたりするじゃないですか。あんな感じで俺がヘイトを受ける代わりに、モモンガさんが最後の意思決定をやってた方があいつらは動かしやすいですし」

「それこそ余計なことではないでしょうか? オッさんの言うように彼らの忠誠が絶対だというのならオッさんだって」

「それは無い」

 

 ないわー。

 大体、連中がモモンガさんに忠誠を誓ってるのは「そう作られたNPCだから」ってのと、モモンガさんが一人でナザリックの維持のための行動をしてたから、ってのを見続けたからなんだし。

 あいつらからすれば、俺はモモンガさんが一人で頑張ってる時には滅多に姿を見せない上に、たまに来ても自室で何かやったり外で狩りをやって宝物庫にちょっと物を収める程度の存在だ。

 そのくせに、今日……日付的には昨日か? 昨日を最後にモモンガさんを連中から引き剥がそうとした、って言ったんだからな。

 いくら「そう作られてるから」って言っても、俺に対してムカついてないわけが無い。

 何回言ったらそこら編をモモンガさんが理解してくれることやら?

 

「え……ちょっ、NPCたちって、その、ゲーム時代の記憶とか、そこら辺もあるんですか?」

「あるはずですよ。たしか……茶釜さんとかペロロンさんとモモンガさんって仲が良かったから、3人でアウラたちか、シャルティアの側とかで日常会話とかした事ありません? なんか、誰だったかが「茶釜さんがエロゲ声優」とか言うのを覚えてるシーンもあったはずです。……あったと思います」

 

 二次創作とか感想掲示板ネタみたいなものだったか? 本筋と関わらないからうろ覚えだわ。

 

「ゲーム時代を覚えてるとしても……ですが、私が個人の感情で、あまりオッさんにも彼らから嫌われて欲しくないって思ってるんですけど」

「そう言ってくれるのは嬉しいんですが……ま、理想を言い出したらきりが無いんで諦めてください」

 

 転移してすぐにこうやって話し合う時間が取れれば、ひょっとしたら違うことも言えたのかも知れない。

 少なくとも俺が考えるよりモモンガさんが考えて行動したほうが知恵はあるから上手くいくだろうし。

 それでも、無理だったものをいまさら埋めようとするのは無駄な努力というものだ。

 

「過ぎた事より、これから先のことを考えるべきだと思いますよ」

「む……それはそうですが」

「たとえば未来知識。本の1巻分に相当する話は今から既に動き出しているんですからね」

「1巻分?」

 

 とりあえず、過ぎた事よりこれからの事。

 俺はうろ覚えな知識を思い出す。

 モモンガさんもアイテムボックスから俺の書いた紙束を取り出してペラペラめくっている。

 

「えーと、ちょっと字が下手で読みにくかったんで……解説お願いしていいですか?」

「……ま、まぁしますけどね。解説。はい」

 

 字、下手か。

 ショックだ……あ「スゥー」っときた。

 

「まず1巻ですが、えーとたしか……村が襲われるんですよ。たくさん。ひょっとしたら今この時間でも襲われてる村があるかもしれません」

「村? あぁこの……将軍? なんですかこれ。将軍に村が襲われてるんですか? なんだか将軍が襲われて死にそうだとか書いてますけど」

「いや、村娘が将軍なんです」

「将軍の娘ですか?」

「いや、将軍本人です」

 

 うっへえ、オラ何言ってるんだかわからなくなってきたぞ!

 えーと、1巻だよな。

 

 とりあえずモモンガさんから書置きを受け取って読んでみる。

 

 異世界ワープして数日、ナザリック周辺の警戒とか内部の警備体制の見直しをやってたけど、モモンガさんが遠くを見る魔法かアイテムでナザリックの周辺を調べてたら、ヘボい村が騎士に襲われてる姿が見えてびっくり。

 かわいそうと思うべきなんだろうけど、人間じゃなくなったからかかわいそうと思えなくなったモモンガさんは、最初スルーするつもりだったけど、何故か急に助けたくなったので村を襲う騎士と戦うことに。

 とは言っても慎重派のモモンガさんはいつでも逃げれる作を十重二十重に重ねて、自己保身を全開で将軍を助けに出動。

 戦ってみたら騎士が想像を絶する弱さで拍子抜け、モモンガさんが助けた将軍はモモンガさんを見て失禁。

 ここで初めて「見た目が骸骨って怖いよね」と気づくマヌケさん。それがモモンガさん。でもゲームの世界と違うといってもゲームの世界の延長線上と思ってたんだから、骸骨が不当に怖がられてることでモモンガさんちょっとショック?

 その後、スキルのアンデッド生成を試してみたらデスナイトが騎士の死体を材料に作られてグロいけどすぐに慣れるモモンガさん。後にこのデスナイトは、時間が経っても消えないし、ナザリックの恒久的な戦力に回せるかも? とモモンガさんは思わぬ拾い物をしてラッキーと思う。

 一応は正体を隠すためにしっとマスクを被ったモモンガさんは悪い騎士どもをボコボコにしたら、王国の戦士長がやってきて村を守ってくれたモモンガさんにサンキュー! と礼をしてくれる。

 そしてデスナイトと模擬戦をしたら互角くらいで、モモンガさんは「一国の最強とかいうのがデスナイト程度と互角とかマジで?」と思いながらも帰ろうとする。

 しかしそこで法国の悪い奴らに襲われて返り討ちにするのだった。

 法国の悪い奴らは魔法で尋問したら質問2~3回で死ぬわ、蘇生の魔法を使ったら敵のホームで再生するかもしれないわで、ちょっと持て余したりする。

 その後、モモンガさんは世界征服宣言をしたのだった。

 めでたしめでたし。

 ついでに名前を「アインズ・ウール・ゴウン」と改名して、もし昔のギルメンが居たら一発で向こうからサーチしてくれるかな? とか思うかも。

 

 と、いう内容が「1巻分」と書かれた紙には書かれていた。

 本当に字が下手すぎて解読に時間がかかったが。

 俺が書いた……ん、だよなぁ? 下手すぎね?

 

「で、この将軍とか戦士長ってなんですか? 意味がわからないのですが」

「えーと、将軍は村娘です、後に将軍になるんです。戦士長は王国の戦士長で死にます。9巻で」

「死ぬって……オッさん、説明してくれる気は本当にあるんですか?」

「ひでえ」

 

 本を読んだのは前世のことだからめっちゃ昔のことなんだよ。

 むしろここまで詳細に思い出した事を褒めてもらいたいレベルだっての。

 とはいえ、だ。

 

「重要なのは、多分この騎士? とかの連中や法国の悪い奴ら。こいつらは現在進行形で悪い事をしてるって事ですぜ」

「む……確かに。それらは、倒すほうがいいんでしょうかね? いや、オッさんの未来知識を試す相手としてはちょうどいいんでしょうか?」

「不当に失われる命はかわいそうに思いますが、俺は本来この世界に来る予定じゃなかった訳ですしね。俺が何かをする、てのは何かが違う気もしますので、ここからの行動はモモンガさんが決めるべきだと思っています。助けるべきか、助けないべきか」

「むう」

「まぁ1巻分だけでなく、俺が知ってる小説9巻分の未来の知識を知ってから、動いてもいいと思います」

 

 今、良かれと思って動くことで先に不都合が生じるのなら、それは避けるべきってのもあるからな。

 3巻でシャルティアが死ぬことになるのも、元をたどれば1巻が原因だったような気がしないでもないし。……実際はどうだったのか微妙だけど。

 

 そういう訳で、俺は次々と未来知識を大雑把に伝授していくのであった。

 

 

 これは2巻の分!

 

「ぷっ! モモンって……ちょっとネーミングセンスなさすぎでしょ」

「あんたが考えた偽名じゃねえかな?」

 

「ナーベラルも人間嫌いでしたか……でも、私が戦士ごっこをやるのなら相棒は魔法を使えた方が良いんですよね」

「そこら辺も含めて今後のことを考えてからでいいのでは? マスクくんの使い心地次第ですが、フルアーマー戦士じゃなく顔を出してマジックキャスターとしてデビューしても良いんですし」

「いや、私は死霊系魔法がメインですからね。そのスタイルじゃヒーロー活動に向かないでしょう」

「そういや悪の魔王系ですもんね、モモンガさん」

 

「タレント……そんな異能力が?」

「俺らの知らない未知の能力ですね。どうやってそれを確認するのかとか、そういうのは良くわかりません。書いてたかもしれないけど少なくとも俺は覚えてませんね」

「場合によってはアンデッドやゴーレムを触っただけで消滅させるような理不尽なものがある可能性も?」

「わかりません……ていうか、そこまで考えるものですか普通? どんだけ警戒してんですか」

 

「森の賢王がハムスターって……」

「いやまぁ、雑食動物でサイズがでかいと驚異と思いますよ? 調伏すれば英雄扱いも納得ですって」

 

「しかし英雄ですか……そうなると、変な行動はできないですよね。この世界の文字が読めないってのもバレたら英雄として恥ずかしい気がしますし……」

「どうですかねー。別に完全無欠じゃなくても良い気はするんですけど? 常識とか文字を知らないのは遠い異国出身だから、って言っておけば周りの連中は勝手にミステリアスなヒーロー像を思い浮かべてくれそうなモンですし」

「オッさんはちょっと楽観視しすぎじゃないですか? 大体遠くからやってきた人間だと嘘情報の常識を教えられたり、税金がどうだとか言われそうで嫌なんですけど」

「俺が楽観視しすぎってよりモモンガさんが警戒しすぎなだけと思うんですけどねぇ。まぁ表で活躍するのはモモンガさんだし、モモンガさんが納得いくまで警戒するのが正解だと思いますけどね」

 

 

 これは3巻の分!

 

「シャルティアが!?」

「はい。ワールドアイテムの……なんかチャイナ服ですね。干からびたババアの生足に夢中になってる隙に洗脳するワールドアイテムだそうです」

「NPCの強制洗脳? ワールドアイテムの規模としてはセコい能力ですが……逆に代償が小さい、何度でも使える、と考えると怖い能力かもしれませんね。私はワールドアイテムを持ってるので大丈夫ですがオッさんが洗脳されたりしたら……」

「危険は大きいですねー」

 

「しかしそんな連中とシャルティアが偶然接触するんですか? その連中は法国の者、っぽいんですよね?」

「たしか法国の存在、とか書いてたと思いますよ。王国で活動してるはずのシャルティアとなんでエンカウントしたのか? っていうのは……なんで王国にいたのかわからないです。1巻で戦った奴らが死んだから? かも知れませんが」

「しかし敵は最強がレベル100かそれに匹敵する存在なんですよね? そんなのが何人もいる組織が、たかが中位天使くらいを召喚する程度の雑魚のために動くものでしょうか?」

「いやホント申し訳ない。細かいことは曖昧なんです」

 

 

 これは4巻の分!

 

「えーっと……それ、本当に私がやったんですか?」

「多分ね。リザードマンだから何やっても良いとか思ってたんじゃないですか」

「う……まぁ人間じゃないなら、って思うかもしれませんが……それでも、ちょっとひどいですよね?」

「ちょっとじゃねえよ」

「うう……でも、中身が人間のプレイヤーだったら人間を守るために異種族を殺すのって共感を得られませんか?」

「その異種族が積極的に人間の敵だってならまだしも、普通に平和に暮らしてるリザードマンを軍事演習とか、アンデッド生成の素体集めとか、そんな理由で殺すのはドン引き案件です」

 

 

 これは5、6巻の分!

 

「セバスが娼婦を……ねぇ。でもまぁ、たっち・みーさんの面影が残っているといえば……らしいですね」

「読者視点では良いやつ、というイメージですが、それだけにナザリックじゃストレス溜まるんじゃねえかな? って思うタイプですね。ほかの連中のカルマ値と正反対ですし」

「しかしそれが理由で裏切るわけじゃないんですよね?」

「はい、助けた娼婦を殺せとモモンガさんが言えば、躊躇わずに殺そうとしてました。一応はモモンガさんの「フリ」であって、本当に殺せと言った訳じゃないので、セバスの覚悟だけを見たらモモンガさんは娼婦の命まで取ろうとしなかったですけど」

「フリでもセバスにそういう事をさせるんですか……未来ではそんなに皆の残したNPCを信じていないんですね」

「ですね。あぁ、そういえばセバスにパワハラしてた時って、モモンガさんじゃなくてパンドラズ・アクターっぽい気がします。なんかやたらと態度悪いし」

 

「で、犯罪組織を壊滅させつつマッチポンプで王国内を荒らし回るんですか」

「ここでデミウルゴスが勝手に人間を……たくさん? 生きたまま拉致して拷問したり人体実験して遊びましょう! とか言ってくるんで要注意です。一応モモンガさんが「敵対してないんだからそういうの無しで、でも一旦拐った以上もとの場所にも戻せないし……」って苦しまずに殺す命令を出したりしてました」

「助けてあげるって選択肢を持ってないんですか」

「そんなの未来のモモンガさんに聞いてください」

 

 

 これは7巻の分!

 

「本当にそれ、私がやるんですか?」

「はい。こういうのマジで良くないと思うんですけど。もしやるって言い出したら、流石に邪魔しますよ?」

「う……そりゃ私だって良くないと思いますが。でも嘘をつかれたから怒り出す、ってそもそもマッチポンプですよね? 私に怒る資格ないと思うんですが」

「だからそれは未来のモモンガさんに聞いてくださいって。アンデッド化して人間に対する同族意識の無さと、周りのNPCを疑ってるストレスと、シャルティアが死ぬ原因になった法国の連中の正体を掴めない苛立ち、それらが原因で視野が狭くなってたのかも知れませんね」

 

 

 これは8巻の分!

 

「あー、それで将軍なんですか?」

「いや、将軍の将軍たる所以は9巻です」

 

「しかし、皆が作った場所を褒めてくれる、ってのは話だけでも気分が良いものですね」

「そんな子達も、ルプスレギナにとっては不幸に死ぬのを楽しむおもちゃとしか見えないんですよねぇ」

「うーん……だからと言ってまだやってない事でルプスレギナを怒れませんしねぇ」

「まぁ細かい所をあげたらキリはないですけど、警戒とか注意、仕事の前に報告・連絡・相談の重要性を説く、ってやれば何とかなりそうじゃないですか?」

 

 

 そしてこれが9巻の分だ!

 

「戦争って敵をたくさん倒せばいいってもんじゃないんですか?」

「限度があるっての。あと、ゲーム内でやればすごいと言われたかもしれないけど、現実でやればドン引き案件ですからね、例の魔法」

「しかし戦争で活躍しそうなのって、後はフォールンダウンとかソード・オブ・ダモクレスみたいな広範囲、超広範囲の破壊系になりますよね?」

「いやいや、この世界の人間の常識的に「フライで飛びながらファイヤーボールを連発されたら恐ろしい被害が!」ってレベルですよ?」

「……なぜフライを使ってまでファイヤーボールを? いや、そんなのより適当に広範囲魔法をバーっと撃てばいいじゃないですか。大人数戦のフライなんて、足の遅いマジックキャスターの撤退用の技でしょ」

「そこらへんがゲームとの違いって言いますか……この世界だと人間は6位階魔法ができれば英雄、普通は3位階魔法が使えれば一線級、みたいな感じだと思いますよ」

 

「で、私との関係を疑われた村が攻められるんですか」

「そう。そこで将軍がゴブリン将軍の笛を使ったら5000? くらいの大軍が召喚されたとか」

「あれにそんな効果が……しかしまぁどっちみちゲームじゃ嫌がらせ程度の効果ですね」

「条件もわからないし使い道がないですよねぇ」

「個人的には、その村娘がレベル条件を無視してジェネラルのジョブレベルを得ているのが気になりますが」

「この世界には「低レベルの忍者」っていう変な奴らもいるんで、ジョブの条件が緩いと思っておけば良いんじゃないですか?」

「それだったら効率的なジョブを極めさせてレベル100まで上げれば、最終的なステータス数値は我々を上回る恐れも……」

「まぁこの世界の人間の多くはレベルキャップが低そうだし、そんな警戒しなくていいと思いますが?」

「いやいや、法国のレベル100相当の存在、とやらが今言ったように「上級職だけを効率よく取得したレベル100」だと、1対1で我々を圧倒する可能性も……」

「気にしすぎと思いますがねぇ……まぁ命がかかってるならそのくらい警戒するのが正解ですかね?」

 

 

 これでとりあえずは説明終了かな?

 ほかにも細々したことがあった気もするが……まぁ思い出した時に言えば良いや。

 

「なんだか肝心な部分をわからないとか、忘れてるって言われてる気になりますが……それでも大いに参考になります」

「まぁ実際のところ、俺の見知った「オーバーロード」の未来と、この世界が本当に一緒なのかどうか? そこら辺はこれから先にならないと分からない事ですが、参考までになったのなら良かったです」

「いやいや、ある程度の行動指針は決まりましたよ。オッさん自身に言いたい事はまだありますが、まず最終確認にもなりそうな事はやっておくべきでしょうから、ある程度落ち着いたらもう一度じっくり話しましょう」

 

 もう行動の指針が決まったの? 理解と決断早ぇな。マジぱねぇ。

 しかし、そんな行動が早いくせに最終確認がどうとか、一体何だろうね?

 

「さて、それじゃあ早速行動に入りましょうか」

「アイアイサー」

 

 さてさて、モモンガさんの考えとは一体何をするのやら。




 セバスは地上から。
 セバスって竜人だっていうし、変身したら空を飛べてもおかしくないし、そもそもモンクだって舞空術みたいなスキルで飛べる可能性はありますが、まだそういうシーンが見られないのでシャルティアが空、セバスが地上に、という配置になりました。

 NPCに対する態度。
 こりゃもうオッさんの頭の悪さが悪いと思います。

 デミデミ牧場。
 WEB版でも書籍でも、未だにその詳細は語られていないしモモンガさんへの報告もされてませんが、オッさんの曖昧な記憶力では「書籍9巻までのどこかのタイミングでモモンガさんは牧場の実態を知ったけど許すしかなかった」とか思っちゃってます。
 まぁ前世の記憶だしそのくらい曖昧でも仕方ない……ですよね?

 口の動きから会話の内容が?
 地の文でオッさんはネタと言ってますが、当然、素で言ってました。バカなので。
 というか1巻でモモンガさんの察知した「この世界は翻訳こんにゃくを食べている」という情報も伝え損ねてスルーしてます。
 まぁモモンガさんがこの世界の人間と出逢えばすぐに察知できるかと思いますが。

 アルベドのことは後回し。
 問題の先送り。オッさんはアルベドは何があってもモモンガさんの味方だろう、と思ってるので警戒していません。
 ぶっちゃけ設定改変すら「ずっとこのギルドを維持し続けたモモンガさんがやることに文句言う奴はいないだろう」とすら思ってますので。

 知り合いがエロゲ声優。
 オッさんは割と平気で使えます。
 勇者だ。

 書き置きの字が下手くそ。
 最初は現実世界のパソコンで打って、その文字を紙に転写しようかと思ってたそうだけど「いいや、自筆に近いほうがいいよな!」と思い立って、ゲーム内で紙に書きました。
 後半は書くのが面倒になってきたのか、ますます雑な字になってて書いた本人すら読むのに時間がかかる代物です。


 これは○巻の分!
 これはヤムチャの分だ! のパロディです。

 個々のネタバレ情報の曖昧さ。
 どうやら記憶が曖昧なようで。


 次回から原作と剥離した展開……に、なると思われます。
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