42人目の至高   作:マッキンリー颪

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第5話

「次の村はどこだったか?」

 

 深夜の森の中。

 外部へ明かりを漏らさないように注意してか、火を灯さずに野営の準備をしている騎士の集団の、その中でも偉そうな奴がイライラした態度で言う。

 ほかの連中に比べ身なりこそ若干いいものの、見た限りかなり器は小さそうだ。

 

「はい、少し離れたところになりますね。流石にここは王国の土地。あまり大々的に動けませんので、距離以上に隠密性を考え慎重に動けば、襲撃は2日後の昼すぎになるかと思われます」

 

 言われた質問に対し、星明かりだけを頼りに顔を地図にこすりつけるように近づけて目的地と現在地を確認したのだろう、下っ端っぽい騎士が返答する。

 

「ちぃっ! 私はこんな任務をとっとと終わらせたいというのにこんなに長引いて……それもこれも、きさまらの働きが悪いのが原因ではないのか!?」

 

 すると、器小さそうな男が吐き捨てるように言って、地面の土を蹴り飛ばす。

 その先にも野営準備中の他の騎士がいて、蹴り飛ばされた土がかかるのだが嫌そうな顔をしても文句を言わないのは、階級社会だからか。

 世知辛いものよの~、と思っていると俺たちのもとにやってくる気配がひとつ。

 

「あの集団の仲間と思しき存在、おそらく斥候役であろう4名を捕獲しました。捕獲前に気絶させましたので、目が覚めない限り自分が捕獲されたことさえ気づいていないかと思われます」

 

 やってきた気配の正体はシャドウデーモン。

 ナザリックの中でもレベル的に見ればそこそこ高い、隠密性に優れたしもべである。

 

 シャドウデーモンに対しモモンガさんはねぎらいの言葉をかけ、いよいよだな、と俺に振り返る。

 

「ではオッさん。あの騎士たちの包囲も完成していることですし、行きましょうか」

「ん、おっけ。俺のスキルで見た限り、あいつらレベル3~5の雑魚ですし、まず負けんでしょうが油断せずに行きますか」

「ええ、彼らと連携をとっている部隊に気づかれない内に事を済まそうと思えば、スピードが命ですからね」

 

 じゃ、行くかと決意を顕に、俺とモモンガさんは騎士たちの前に姿を現す。

 

 

 

 俺の「未来知識」を得たモモンガさん。

 ぶっちゃけ俺の記憶が曖昧だったり大雑把すぎて、まだまだ未知数な部分こそ多いと思いながらも、今この時、アクティブに動いている存在とイベントがあるのなら、それに対しどんなリアクションすべきか、を即座に決めたらしい。

 先の予定こそ聞いていないが、当面の目標としては、今夜中に騎士の人たちおよび、法国の悪の軍団を捕獲する予定らしい。

 

 モモンガさん的にいろいろ実験したい部分もあるらしいが、それよりも重要なのは「王国に恩を売る」というスタンスだとか。

 未来のモモンガさんは「王国に魅力を感じない」と発言していたことをすでに教えているのだが、その上で王国に恩を売るつもりらしい。

 一体何を考えているのやら計り知れない。

 

 とにもかくにも、これから彼らを捕獲するわけだが、モモンガさんからは「ある程度生け捕りができれば全員を無理に生かす必要なし」「やばくなったら即撤退」「なるべく作戦時間は短めに」などの注意は受けているが、それ以外は自由とか。

 まぁ見た限り、あの程度の敵なら危険はないと思うけどね。

 

「皆さんこんばんわ。良い夜ですね」

 

 気配も隠さず、無造作にモモンガさんと俺が現れたことで、騎士たちに緊張走る。

 偉そうで器の小さそうなやつは一瞬ビクッ! としてからさり気なく近くの騎士の背後に身を入れようとしている。せこいな。

 

「何者だ貴様! 止まれ!」

 

 偉そうなやつと違い、騎士の中の一人は強気で行こうと声を荒げる。

 夜の森の中で大声とか……と、思うが謎の相手に対する威嚇行為でもあるのだろう。

 モモンガさんがマスクくんを装備しているため、見た目は普通の日本人っぽいからこそ、それほど驚異に感じていないのかもしれない。

 いやいや、でもその横に3メートル近い巨体の超人みたいな見た目の俺がいるんだから、本音はビビってると思うけどね。

 

「何者か、ですか。それを聞かれて困るのは皆さんの方では? ここは王国の土地のはずですが」

 

 一方、モモンガさんはビビらず騒がず慌てずに。逆に口調が敬語でなんとも大物感を見せながら、さらに歩みを止めないんだから相手からすれば怖いだろう。

 

「貴様、王国の者か」

 

 モモンガさんに誰何した騎士はモモンガさんに視線を向けながらジェスチャーで騎士たちに命令を下している。

 うむ、こやつが実質的な隊長と言った所か?

 偉そうなやつは偉そうなだけのハリボテ上司と見た。俺と同じで。

 

 ジリジリと騎士たちは俺たちを囲もうとしているが、こやつらの視線は話してるモモンガさんより主に俺に注がれているな。

 でかくて強そうだからだな。

 見た目の威圧感は大事だ。

 

「私は王国の国民ではありませんよ? まぁ……説明は難しいのですが、遠くから来た者といいますか」

 

 敵が勝手に警戒して空気をピリピリさせてるような感じを醸し出してる中、涼しげな態度で肩をすくめて余裕の態度のモモンガさん。

 相変わらず「謎の強者演技」が上手だなぁ。

 めちゃ強そうだぜ。

 

 そんな感じで、周りが緊張して俺が勝手に盛り上がってる中、空気を読まない声が上がる。

 

「お、お前がどこの者か知らんが王国の者じゃないというのなら丁度いい! わ、私が雇ってやろう! 王国のような沈む泥船に乗るより我がスレイン法国に仕えるがいい!」

 

 さっきまで近くの騎士の陰に隠れてた偉そうなお飾り上司である。

 モモンガさんのカッコいいところに水を差しおってまったく。

 

「ほう、スレイン法国! あなた達はスレイン法国の方達でしたか。なるほど」

 

 しかしいかなる事態でも慌てず騒がないのがモモンガさんクオリティである。

 アドリブで乗り切る能力に長けたモモンガさんだ。この会話も上手く着地させることができるか?

 

 ちなみに周りの騎士達は「ちょっ、おまっ」と言うような表情が見える。

 そりゃそうだ。確かこいつら、帝国と王国の仲を悪くさせるのも任務のうちだもんな。

 出身国バラすなバカ、とでも言いたいのであろう。

 

「王国に恩を売る材料くらいになれば、とも思いましたが半数は帝国に売るのも良いかもしれませんねぇ」

 

 バカのバカ情報を逆手にとって、上手く煽りおった!

 もともと捕獲が目的、つまり敵対関係になる予定で近づいたわけだから何を言っても良いって部分はあるんだろうけど、相手のバカさを利用して煽るとは。

 ゲーム時代からそうだがモモンガさんの煽りテクはどこに行っても一線級だな。

 

「な、なんだと?」

 

 バカ上司の人はモモンガさんの発言、一瞬理解できなかったようだが、聞いてから頭の中で言葉を咀嚼するのに数秒かかったのか、ちょっとしたらメチャ怒りだした。

 

「き、き、きさまっ」

「殺せ!」

 

 バカが怒るのと同時、タイミングを和せたか?

 我々の周りにジリジリ寄せてきた騎士3人がそれぞれモモンガさんへと波状攻撃。

 するように指示を出したのは、実質上の上司の奴だな。

 モモンガさんが見た目人間なので、実力は未知数でも不意打ちで急所を刺せれば何とかなるとでも思ったのだろう。

 しかし残念、なんともならん。

 

「ふむ、やはり効かないものだな」

 

 斬りかかった3人の内、二人は首や顔を斬ったのでダメージ受けるのはマスクくんだけど、一人は体を斬ったので、そっちの事を「効かない」と言ったのだろう。

 マスクくんはスライムだけど「なるべく全系統に対する防御を」と思って元ある耐性を減らしてでも苦手な炎系やその他の属性に対する防御をある程度獲得している。その結果、剣撃なんかの単純物理で普通のスライムよりダメージを受けるんだが……ま、レベル差とステ構成を考えれば、マスクくんもほぼ無傷であろうよ。

 だから、モモンガさんの「効かない」発言は、騎士どもから見れば……

 

「ば、バカな血の一滴も出ていない!?」

「化物!」

「と、トリックだ」

「まさか、何かしらの防御魔法!?」

 

 と、こうなる。

 狼狽える騎士もいるが、狼狽えない騎士もいる。

 特に「できる方の上司」の奴は良い判断だ。

 バカ上司の襟首を掴んで馬を係留してる所に走っている。

 周りの連中にも散って逃げるように指示を出して、実に偉い。

 同レベル帯が相手なら逃げることもできたんじゃないだろうか?

 

 しかしやっぱ中には狼狽える奴もいるわけで、モモンガさんにさらに斬りかかった奴もいたが。

 

「鬱陶しい」

 

 と、モモンガさんが軽めに手を払っただけで吹っ飛んだ。

 吹っ飛んだっていうか……その。

 

「え? ボキ? ……ひょっとして、死んでるのか?」

 

 吹っ飛んだ騎士の所に歩いて行ったモモンガさんが騎士の体を起こそうとしたら、首がすごい角度で「ぶら~ん」ってなってた。

 モモンガさんが「もろっ」と騎士の脆さに驚いてるが、その様を見た騎士たちはもう大恐慌である。

 釣られて馬も驚いてるし。

 

「収拾がつかんねこりゃ。もう全員確保していいと思うぞ」

「はっ!」

 

 仕方なしに、控えていた隠密系のしもべたちに命令を出して決着をつける俺であったとさ。

 

 

 

「じゃ、次はこいつらと連携してるっぽいマジックキャスター組の方……どうしました? モモンガさん」

 

 騎士どもが気絶したので回収し、折角だから持ち物と馬も回収して回らせ、次に行こうぜー、とモモンガさんを見たらモモンガさん、何とも言えない顔。骨だが。

 どうしたっていうのだろう。

 

「オッさん……私はさっき、人を殺しました。見ましたよね?」

 

 ん? そりゃ見たけど……あ、そうか。

 

「ええ、モモンガさん……ついに()っちまいましたね。あなたのその手は血に塗れてしまいました」

「ちょっ! いきなり嫌な言い方しないでくださいよ!」

「やめて! そんな血で汚れた手で触らないで!」

「おまっ、この……ふう。ですが正直、全然なんとも思えないんですよね」

 

 だよねー。

 だから俺も今ちょっとふざけちまったが。

 しかしそれは後に「人間相手なら何やってもいい」なんて言い訳になりかねない。

 だからここは釘を刺させてもらうぜ。

 

「そうですか。俺はショックでしたよ。あぁ、彼にだって家族や友が居たでしょうに。夢もあったでしょう。それが……」

「ですよね。それが正しいはず……なんですが。動いてる彼らと面と向き合い、その上で会話を交わしたというのに、私は彼らを人と認識しながらも、人と思えないという矛盾を感じてしまいました」

 

 ふむ。悩むか。

 ここで「へいへーい、悩みなんてスルーしちゃいなYO!」とか言うのは容易い。

 そしてそっちの方がモモンガさんは楽に生きられるかもしれんが。楽に考えすぎて「ちょっとうざいから逆らう人間の集団100万人くらい殺してきます」とか言い出すようになられても怖いからな。

 ここは大いに悩んでもらおう。

 

「その辺りは常に考えなきゃならないことでしょう。自分の身を守るのは生物……俺らって生物なんですかね? まぁいいや。ともかく俺らにだって許される権利でしょうが、だからと言って相手のことを考えずにワガママに振舞っていい理由じゃない。その事だけは肝に銘じておきましょう」

「まぁ……今はそんな所ですかね。言われなければ彼らに彼らの生活がある、なんて事すら考えようとしないんだから、オッさんの言ってたように、精神の変化はすごい大きいですよ」

 

 しかしまぁ、モモンガさんだけに手を汚させて嫌な思いさせるのもかわいそうだし、次の機会は俺も前に出てちょっとやってみるか。

 できれば人殺しなんてせずに済めばいいけどさ。

 

 

「で、マジックキャスター組の方にやってきましたが、と」

 

 さっきの騎士組より高レベルなだけあって、連中は俺たちの接近に気付くと陣形を整えモンスター召喚をして待ち構えていた。

 まぁ俺たちに気付いた、っても俺たちがコソコソ隠れなかったんだから気付かない方がおかしいのだけどね。

 

「なんだ貴様は?」

 

 そして連中のボスっぽいやつが、どこかで聞いたような声でこっちに姓名を問うてくる。

 うーん、どこかで聞いたような声だが果たして?

 

「はじめまして、こんばんわ。スレイン法国の方々とお見受けします」

 

 俺が連中のボスっぽい金髪坊主の声に思いを馳せていると、再びモモンガさん主導での会話パートが始まってしまった。

 いかん出遅れた。

 

「私たちは遠くから来たものであり、名前を名乗ってもおそらく知らない事だと思うので、この場で名乗ることに意味はないでしょう」

「ふん、中々上手いことを言うようだが、なんだ王国の冒険者かなにかか? 私たちがどこの者かを知っていてその身を晒して現れるのだ。それなりに腕に自信はあるのだろうが……なんだ? 自分を売り込みにでも来たのか?」

 

 そういやモモンガさんって名前、改名するのかね。

 俺としては未来において「アインズ・ウール・ゴウン」を名乗ったことが「完璧でなければならない」と強迫観念を持つ原因になってしまったのでは? と思う所もありあまり乗り気ではないのだが、同時に「アインズ・ウール・ゴウン」を誰か個人を指した名前とするのなら、それはモモンガさん以外が名乗る名前ではない。そう思う気持ちもあったのでモモンガさんにお任せしてたけど。

 ちなみに冒険者ネームの「モモン・ザ・ダークウォリアー」を言ったら自分で考えた名前のくせに爆笑して俺にネーミングセンスが無いとか言い出しやがったっけ。てめえが考えた名前だよ、って言っても信じないし。

 

「いえいえ。我々はあなた方の国ではなく、王国に恩を売りに来たのですよ。ですのであなた達には捕縛されてもらおうか、と考えています。その際、抵抗なさらなければ優しく扱うことをお約束してもよろしいですよ?」

「ハッタリか? 随分とでかい口を叩く。殺されないなどと思っていたのならその愚かさの代償、死をもって償うのだな。やれ!」

 

 うおっと、俺が再びちょっと考え事してたらなんか話が進んでやがった。

 戦闘開始か。今度はモモンガさんだけに手を汚させず、俺もやると決めたからな。やってやるぜ!

 

「シング・デモリッション・ウェーブ! マッ!」

 

 と、いうことで全体攻撃発動! モモンガさんの前に躍り出た俺は敵の召喚してたモンスター……天使系か? ゲームでは大昔の雑魚過ぎて名前も覚えてないようなのだけど、その連中が3体ほど突っ込んできたので一発で倒してやった。

 ゲームじゃ牽制程度のギミックだったけどやっぱレベル差あると死ぬのな。

 

「あの、私もダメージ受けたんですけど」

「えっ」

 

 しかし、その際にうっかりモモンガさんも攻撃半径に入ってたらしく、ダメージを受けていた。当然、マスクくんも。

 

「あっ、ごめっ……フレンドリファイア切れてたの忘れてた。ほら、回復薬、回復薬!」

「マスクくんはともかくとして私に大ダメージなんですが」

 

 うーわー! マジなにやってんの俺! アホか! バカか!

 マジすみません!

 

「いえ、大丈夫です。オッさんの「マッ」は元々スタン系でダメージ自体は小さいですし」

「いや、でもマスクくんには流石に大ダメージでしょう……大丈夫なのかな?」

 

 大丈夫らしい。ほっ。

 モモンガさんが冒険者やるなら一緒にダメージ受けることも考慮してHP高くなるように作ってて良かった。

 でも本当にごめん。

 

「て、天使が一発で!?」

「あのゴーレム、素早いぞ!」

「しかもポーションはどこから出したんだ?」

 

 俺たちが寸劇をやってる間、そういえば攻撃が来ねえな? と思ったら連中は俺に驚いてたみたい。

 あの程度でもこいつらのレベルじゃ、そうもなるか。

 

 しかし狼狽える部下どもに一括入れて体制を立て直せと、敵のボスは言う。

 その顔にはまだまだ余裕が見える。

 

「なるほど、そのゴーレムが貴様の自信の源か? マジックキャスター。どこの遺跡で拾ったのか知らんが低俗な存在が持つには過ぎたもののようだな。それを私に献上するのなら、今の無礼は見逃して逃げる事を許してやってもいいぞ?」

「あ?」

 

 そして、モモンガさんとマスクくんのダメージに大慌てな俺、シング・デモリッション・ウェーブにビビった連中の大騒ぎの中、敵のボス……なんか声に覚えのある男が変なことを言ったら、モモンガさんの気配が、なんか変わった。

 

「それ? 献上? まさか、道具のように言ったか?」

「なんだ所有欲か? くだらん! どうせ貴様が作ったわけではあるまい? 金でも欲しいのか? ならある程度は用立ててやるぞ。貴様の見たこともない額をな。わかったらさっさとそのゴーレムを置いて」

 

 敵ボスの上がり調子な言葉はそこで止まる。

 まるで急に酸素が無くなったかのような息苦しさ。いや、俺はゴーレムで呼吸なんてしないけど、俺以外……敵ボスや雑魚軍団、だけでなく召喚モンスターの天使すら動きが止まるかのような、何かをモモンガさんから感じる。

 別にスキル、絶望のオーラとかそんなものを使ってすらいないというのに!

 

「所有欲ぅ? 金だぁ? クゥ、クズがぁああああ! このっ、俺のっ! 仲間を、友を、献上? 金だと? 貴様ぁああああああ!」

 

 とんでもない激情。

 一瞬、空気が無くなったかのように感じたが、今はその逆。とんでもない暴風雨が発生したかのような叩きつけるような圧迫感。

 それがモモンガさんの体から発せられて……こりゃ、やべぇ。アルベドの殺気がそよ風に感じるレベルのものだ。

 純粋な戦闘力、って意味では俺より一枚も二枚も劣るはずのモモンガさんから、こんなものが発せられるとは……な。

 

「ふう。チッ。感情の抑制か。クズが、もういい。貴様は死ね」

 

 感情の抑制が働いたか、冷静になるモモンガさん。

 冷静になったといっても、激しい炎のような怒りから冷たい氷のような怒りに変わっただけで、その意志は変わっていないんだけど。

 

「は、はぅあ……さ、さささ、最上位天使を召喚する! キサマら時間を稼げ!」

 

 しかし、モモンガさんの感情の抑制が発動したことで、叩きつけられるようなプレッシャーが無くなったからか。敵ボスは言葉を取り戻し、懐からクリスタルを取り出し部下たちに自分を守るように命令を出した。

 あぁ、そういえばあれにショボい天使が入ってるんだったか?

 でも。

 

「お前はもう喋るな」

 

 すでにモモンガさん、タイムストップで敵ボスの背後に立ってるんだよなぁ。

 そして敵の首を後ろから掴んでいるが……

 

「っ! っ! ……かっ」

 

 握力で、頚椎を握り潰す気か。しかもゆっくりと、だけど確実に。

 喉を潰さないのは……特に深い理由もないんだろうな。

 スキルで見れる敵のHPの減りから察するに握力だけでなくネガティブタッチも使ってるみたいだ。

 どんな時間をかけようとしてもそう遠くないうちに死ぬか。

 もっとも彼からすれば、死ぬまでの時間は無限に等しい痛みを感じていそうな気もするが。

 

 程なく、ボキッと音を立てて敵ボスの体はビクビク痙攣する以外の動きがなくなった。

 死んだのだろう。

 

 モモンガさんは敵ボスの死体を汚物のように放り投げ、その時。

 

 ぱきん、とガラスの割れたような音。

 あ、これは……あれか。そういやあったな、思い出した。

 

「なんだ? お前たちは飼い主に監視でもされていたのか? ちっ、だとしたらもう少し強いカウンターを設定しておくべきだったな。こいつの飼い主であるなら、そいつも同罪だ。もっと大きい被害を出させるべきだった」

 

 いやいや、この世界の存在には大ダメージでっせ、と軽口を聞いて和ませてやりたいのだが……そんな空気ではない。

 感情の抑制……あの「スゥー」で激しい怒りこそ無いみたいなんだけど、未だにピリピリしててマジ怖ぇし。

 

「あ、あわ……はひっ、た、たすけ」

「ん? なんだキサマら。まだ生きていたのか……いいや、生け捕りだった、そう、それが目的だったんだ。クソッ。クズのせいで予定が狂った。もういい。捕獲しろ!」

 

 マジ怖いモモンガさん、その怒りに触れてビビった敵雑魚が命乞いっぽい事を口にしたら、モモンガさん、そこでようやく連中の存在を思い出したみたいだけど、相変わらず怖いまま。

 そのままに周囲に配してたしもべたちに命じて敵軍団の拉致、および敵ボスの死体や持ち物の確保を済ませた。

 しもべ達の動きはかなり機敏で、モモンガさんの怒りを見た緊張感からか失敗はできないという畏怖の感情が見える。

 そうか、高レベルモンスターでもビビるレベルか……マジ怖ぇ。

 

 モモンガさんの意外な一面……とは言えんな。

 そう、未来知識、というか。物語でも見ていたが、実物はこうなんだ。

 こんな人だからこそ、王国の兵隊さんたちの……20万人殺しだったっけ? それが出来てしまうんだな。

 WEB版だと、王国使者の人たちが虎の尾を踏み抜いたから本気で容赦なかっただろうし。

 

 ……しかし、俺はそれをこそ止めに来たはずだ。

 くそっ、覚悟が全然足りてなかったとは言え、動けなかったのは情けないにも程がある。

 

 でも今更ビビっていられるわけもない。

 

「モモンガさん」

「……オッさん。すみません、見苦しいところをお見せしてしまいました」

 

 見苦しくはないだろう。

 それはむしろ、何も出来なかった俺の方だ。

 

「いや、そうは思いませんが……とりあえず当面の目的はこれで終わりなんですか?」

「そうですね……とりあえず、今晩の仕事はこれで終わりでしょう。オッさんの話に出てた、王国の戦士長との交渉にあのゴミ……連中を使うつもりでした。まさか、あそこまで不快な奴らとは」

「あの、あくまで集団じゃなくこやす……じゃなくて、金髪坊主個人の問題ですし、深く考えなくても良いと思いますよ?」

「そんな事は……いえ、そうですね。私も少し、感情的になりすぎてました。人間だったら眠って切り替えるとか出来るんでしょうけど、ね」

「あー、とりあえず。一旦帰りましょう。眠れなくても、何も考えずに何時間か寝室で転がってるだけでもだいぶ違うと思いますし」

「そう……ですね。まずは、帰りましょう」

 

 こうして、異世界転以後の最初の一晩が終わったのだが……俺は、これから上手くやっていけるのだろうか?

 種族補正で動じないはずのゴーレムでありながら、俺はなんともぬぐい去れない不安に包まれるのであった。

 

 次回に続く。なんつって。




 主人公、役立たずの巻。


 騎士の人たちやニグンたちの発見、包囲。
 その仕事はアウラが表に立ってかなりの数のしもべを動かしての大仕事です。
 報告がアウラ本人でなくシャドウデーモンの一体だったのは、アウラは外部へ対する警戒にリソースをつぎ込んでいるため、敵周辺という内部はしもべに任せる形になってました。
 その分、外部から予期せぬ敵が接近した場合は絶対に見過ごさないくらいの警戒を見せてました。作中に現れないだけで。

 いちおう未知の敵との戦闘にモモンガさんを矢面に立たせるなんて! とナザリック内でちょっと揉める一幕もありましたが、モモンガさんが「お前たちの長として、最初の一歩を刻む覚悟が必要なのだ」みたいな事を言って上手くごまかしました。
 それでもアルベドを筆頭にみなさん超心配することになりましたが。
 過剰戦力での警戒はその辺りが理由でしょう。


 モモンガさんの考え。
 詳しくはまた次回になりそうですが、本人的にはデミウルゴスやアルベドと言った「賢い設定」のキャラを頼りたいところでしたが、時間との勝負という一面もあり、ひとまずは相談なしで動くことに。


 手で払ったら死ぬ兵士。
 軽く撫でた、程度の力ではなく「目の前をハエが横切って鬱陶しい」という煩わしさから手を振ったような力加減でした。
 死んだのは当たり所と運が悪い。


 名前。
 モモンガかアインズ・ウール・ゴウンか。
 決めかねてます。


 ニグンの声。
 主人公は容姿がシングマン、という事から分かるように、結構古いジャンプファンです。
 だからジョジョのアニメも見てましたし、その他でもニグンの声優のアニメを見てたので、なんとなく記憶が刺激されたくらい。
 アニメと全く同じ声、でこそないけどなんか似てる声だったと思われます。


 シング・デモリッション・ウェーブ。
 マッ!


 モモンガさんブチ切れ。
 本当はニグン達に関しては主人公が対応して主人公の初バトル……に、なる予定だったんですけどね。
 なんかモモンガさん大活躍です。


 ニグンのIQ低すぎ問題。
 もうちょい賢い気もしましたが、展開上の都合でなんかバカになっちゃいました。
 バカの主人公がこの世界にやってきたことに対するバタフライ効果ならぬ、バカフライ効果かも知れません。
 すみません嘘です。
 単純に私の技量不足です。
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