42人目の至高   作:マッキンリー颪

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第6話

 こんこん、と控えめなノック。

 

「オッ様。よろしいでしょうか?」

 

 ドアの向こうから聞こえる女の声。

 扉越しでも相手がレベル1の一般メイドとわかるのは高いステータスと知覚系スキルの恩恵か。

 

 

 あの後、とりあえずナザリックに帰還した俺たちは、肉体的な疲労なんてないけど「ひとまず落ち着く」ことを優先し、それぞれ自室で休憩することになった。

 俺は試しで再び「物言わぬ太古のゴーレムごっこ」をしながら今後のことをどうするか……などと考えていたら、朝になったらしい。

 いまは7時過ぎ、ってところか。

 

 メイドによると、どうやらモモンガさんが呼んでいるようなので、円卓の間へ向かう。

 連絡ならメッセージの魔法を使えるはずなのにメイドを寄越すあたり、モモンガさんも何だかんだで気まずく思うところがあるのかもしれない。

 

「そんじゃ、俺は行くからお前……たしか、イン、インクリメント? だったか。お前はもうは通常業務に戻っていていいぞ」

 

 連絡に来た一般メイドにそう言って、円卓の間へ歩く。

 指輪で飛べば一瞬なんだが……やっぱ昨夜のことを思えば、ちと気まずいものを感じるから、少しでも先送りにしたいと思ってしまう。

 いかんね、これは。

 

 

「お呼びに預かりこんちわーっす。やってきましたぞ、と」

 

 入室したらモモンガさん一人。自分の席に座り、口元を組んだ指で隠す……ゲンドウ風のポーズをとっている。

 俺の入室に対しチラリとこちらに目を向けたモモンガさん。

 俺の後ろにまだついて来ていたメイドを下がらせる。

 ていうかついて来てたのか。

 

「ついて来てたのか。別にいいって言ったのに」

「そういう訳にも……い、いえ! すみません、命令に逆らい」

「あー。いい、いい。そういうのは良いよ。俺のことはそれほどまともに相手にせしなくてもいい、って意味だから」

 

 まだついて来た事に驚いて、ちょっと声に出したらなんだか神妙に謝ろうとして困る。

 まぁよくよく考えりゃこいつらにとっては俺は自分らを見捨てた上に、今はモモンガさんに上手く取り入ってる怪しい奴だからな。

 監視くらいはするわ。うん。

 

 とりあえず手をヒラヒラ振って部屋から追い出し、自分の席にドカっと腰掛ける俺。

 あんまり行儀がいい態度ではないが、誰も見てないのならよかろう。

 

 ふー、と呼吸の必要もないのに深くため息をついて、さてどう話しかけるか。

 と、思ったところで先手を取るのはモモンガさん。

 

「オッさん、おはようございます」

「あ、おはようございますモモンガさん。っても、やっぱ寝れないんでおはよう、とかそういうのは変な気もしますがね」

「ええ、そうですね。私もですよ」

 

 ハハハのハとちょっと和みタイム。

 ま、本題はこれからよ。

 

「ところで……日付的には今日なんですが、まぁ昨夜として、昨夜はすみません。見苦しいところをお見せして」

「いやいや、むしろ俺がいきなりフレンドリファイア忘れて攻撃したり、色々すみませんでした」

「いえ、むしろ私のほうが」

「いえいえ」

「いえいえ」

 

 ループかよ!

 もうこの日本人特有の「悪いの自分だから」っていう譲り合いはいらねーから!

 

「不毛だし、自分が悪いって言うのやめません?」

「……そうですね。では昨日の失態はお互い置いておきましょう」

 

 うむ。

 

「それで、これからの事なんですが」

 

 と、モモンガさん。

 まぁ俺も地味に気になってた事である。

 捕まえた騎士や悪者どもは、眠らせて丁重に保存しておけと言うことでナザリックの外……の、地面に穴を掘って作った地下室に身ぐるみ剥いで保管していたりする。

 死なないように監視しながら。

 

 あの連中を死なさずにどう使うつもりなのか?

 モモンガさんは連中に「王国への恩を売るため」などと言っていていたが、その真意とは一体!?

 次回に続く。

 

「次回に続くってなんですか」

 

 おっと声に出てたか。

 

「まぁいいとして。連中の使い道ですがね。オッさんから聞いた話、それを元に考えたのですが……もし、私たち以外のプレイヤーがいたら、やはり法国に対し好意的な目を向ける事になると思うんですよ」

「んん? 一応俺の未来知識で、何百年前はともかく、今の時点では居ないって言ったと思いますが。多分最後に来てたプレイヤーがン百年前のミノ賢先輩ってくらいで」

「ええ、オッさんはそう言われました。ですがオッさん自身が記憶が曖昧であり、まだ完結していない話、とも言われてましたからね。後からどんな大どんでん返しが来るか……警戒しないわけにはいきません」

 

 むう、そういうものか。

 でも普通にこの世界にプレイヤーが来てたらすぐにでも目立ちまくると思うんだけどなぁ。

 モモンガさんが魔法職なのに剣士の真似事をやってただけで漆黒の英雄、モモン・ザ・ダークウォリアーとしてその名声を天地に轟かせてたように。その恥ずかしい名前を。

 だからそんな奴がいないって事で大丈夫、と思うんだが?

 

「それに、もしオッさんの「未来知識の続き」でもプレイヤーが出てこないとしても、今我々がいる「この世界」がそうとは限らないんです」

「どういうことだってばよ?」

 

 モモンガさんは「マジか」という顔をして驚いたふうだが、ちゃんと説明をしてくれる。

 

「オッさん自身がまず、その物語、未来に本来は存在しなかった「イレギュラー」なわけですが、オッさんという「例外」が存在する以上、ほかにも居ない……なんて思うのは楽天的すぎると思うのです」

「……な、なるほど。考えもしなかったな」

 

 俺が居るくらいだしなぁ。

 俺みたいに前世知識持ち……とまで行かなくとも、本来のゲーム時代でも俺がいたことで何らかの事情の変化とかがあって、その結果がこれから目の前に現れないという保証、そんな物はどこにもないのだ。

 

 ちょっと心配性が過ぎるとも思うが、これくらい慎重にならなければこれから先、俺たちも生きていけないかもしれないんだよなぁ。

 異世界ってやつぁただ生きるだけで命懸けだぜ。

 

「さて、そういう訳で「プレイヤーがいた場合」ですが、法国の存在は我々にとって邪魔になりそうに感じます」

「うん。人間以外が生きるのを許さん! とかいうようなガイキチ集団とかそんな設定でしたしね」

 

 差別主義ってやーねー、とか思ってしまう。

 ゲームでも「異種族プレイヤー」だってだけで攻撃してくるガキも多かったし。

 

「まぁ、この世界における人間の平均的な実力、そして技術力。それに対する異種族たちの実力やスタンスが正確にわからない時点では未知数なんですが……人間が身を守るために、他者に対し攻撃的になるというのは理解できることでもあります」

 

 しかし、モモンガさん的には法国のスタンスは、頷ける所もあるみたいだな。

 ま、よくわからんがそんなものか。

 本で読んだ時は戦いは個人の強さが物を言う世界、ってのに人間国家だけプレイヤーの血を引いた強キャラがいて、ほかの種族は平均はレベル10以上だけどリザードマン最強戦士が20かそこら、っていう「最大値が低レベル」な感じで、結果的に弱い者いじめなイメージなんだが。

 

「んん……その意見もわかりますが、表だっての最強戦士がレベル30かそこら、なんですよね?」

「えーと、多分……少なくとも王国ではそんなだったかと。あ、王国の冒険者にいる吸血鬼はエントマを殺しかけるくらいのレベルですよ?」

「ええ、それも聞きました。ですが、そのように強いといってもおそらく50~60くらいでしょう。突出した強者がその程度では、波状攻撃から国民全てをカバーすることはできないように思うんです」

「まぁ、近接能力しかない戦士じゃなぁ」

 

 俺だったら時間加速系でこまめに素早く移動、攻撃、を繰り返すことで雑魚の大群を相手にも戦えるだろうが……それでも沢山の足でまといの全ては守れないな。なるほど。

 

「そうやって、強者を避けて弱者を狙い撃ちにする波状攻撃をされれば、平均がレベル10程度の獣人系の種族でも人間種の存続を脅かすことは可能かと。大勢の人間を生かそうと思えば、その人数を支える食事だって必要なのに、その食事を作る人員が殺されるわけですし」

 

 むう、なんとも陰険な作戦。

 が、出来るか出来ないかで言えば出来る作戦である以上、やらない奴がいたらそいつはバカなんだろうなぁ。

 そして相手のバカを期待して戦うのは三流以下、か。

 

「ですから、法国の存在は元々が人間であるプレイヤーを引き寄せることが出来ると思います。ただでさえ、プレイヤーの子孫、とやらの集団としてレベル100級を何人も抱えている国でありながら、その上で強化される危険性は見過ごせません」

 

 だからモモンガさんは法国をどうにかしたい、と思うのか。

 

「モモンガさんが法国と敵対したい、ってのはわかりました。でも王国に恩を売るのと関係あるんですか? 言っちゃなんですけど、王国なんて吸血鬼が飛び抜けて強いのを考慮しても、その上で雑魚国家ですよ。たしか貴族も腐ってて政治的にもグダグダな感じらしいですし。その一環でモモンガさんに税金要求してきたり」

 

 で、ブチ切れるのがWEB版だったかな。

 モモンガさんに感情移入して読むなら爽快なシーンかもしれんが、やりすぎでもあると思う。

 

「んん……確かに、それは非常に不愉快な存在だと思います。ですから私は王国に恩を売るつもりではありますが、仲良くするつもりは一切ありません」

「ど、どういうことだってばよ?」

「えーとですね……オッさんから聞いた彼我の戦力差を考えれば、我々は戦力を盾にたいていの要望を通す事ができると思うんです。そのためには最低でも3度以上の戦争を要しますが」

 

 は? はぁ? はぁぁぁあああ?

 

「ちょっとちょっとちょっとー、何言ってんのモモちゃぁ~ん?」

 

 こいつ今なんつった?

 戦争やるっつったか今?

 

「俺がここに来た理由は言ったと思うんだが?」

「……はい、私が過去の……仲間たちを言い訳に残虐な行いはすることについて、ですよね」

「うん」

 

 わかってんじゃねーか。

 知ったこっちゃねーってか?

 ……まさか昨日俺が無様晒したから無視していいとか思ってる?

 こりゃもうちょっとぶっ飛ばすしか……

 

「ですが、過去の仲間がいなくても、彼らの残した者達……彼らがいる以上、我々には彼らを守る義務があるはず」

「む!」

「NPC……彼らは今生きている存在です」

「むむ!」

「ナザリックの維持費がなくなった場合……この世界ではどうなるのか? オッさんはそれを知らないと言いましたよね。だとすれば、その対策をしないのは無責任、じゃないですか?」

「むむむ!」

「彼らの性格、個人の性癖などが外の人類と仲良くできる種類のものでないというのなら……最低限の自治権を手に入れ、お互いを不可侵のものであると「外部」に認めさせるためには……戦争、必要じゃないですか?」

「むむむむ!」

「え~と、話、理解できてます?」

「ぐ、ぐむ~」

「おいオッサン」

 

 とりあえずモモンガさんの主張としては、最低限の力を見せないと自治権も得られない。とかそういうもの。

 大量の小麦などがあれば、この世界でも「ナザリックの維持費を稼ぐこと」が可能という俺からの情報、これが試して成功するならやるべきだと。

 そのためには土地が必要。

 それもナザリックの維持費を安定して賄うための小麦、とやらがどれほどの量になるのか不明であるのなら、どれほど広い土地が必要になるのかわからない。

 なるべく広い土地を手に入れたいとは思うが、ぽっと出の我々にそんなものをポンと渡す国は存在しない。

 ナザリックの財産を使い「土地を購入」するのも不可能ではないだろうが、常識で考えればそれで手に入る土地は「恒久的に所有権を認められた土地」ではなく「レンタルした土地」になる可能性が高く、その際は相手の要求が青天井で跳ね上がる未来は容易に想像できる。

 もし我々、ナザリックのトップが弱気の外交をすれば、ナザリックの財産、モンスター、NPCたちの人権(人じゃないけど)が認められず、ていの良い奴隷扱いになる未来は目に見えている。

 そうさせないためには最低でも3回は力を見せる必要がある、と。

 

 それが、モモンガさんの考えだそうだ。

 

「3回……ですか? 1回とかじゃダメなんですか?」

「あくまで私の考えですので、かなり賢いという設定があるデミウルゴスやアルベドと計画を詰めれば、ひょっとしたら戦争の回数は減るかもしれませんが……おそらく最低でも2回は必要かと思うのです」

「適当に言ってんじゃないですよね? 一体どう言う理由で3回の戦争が?」

「まず1度目の戦争ですが、その前に王国にスレイン法国の連中を王国渡すことで表向きは恩を売ったことにします。ですがオッさんの話から推察するに王国の腐った貴族とやらは法国とも繋がっているので思われるので、貴族連中とやらは我々に良い顔をしないでしょう。ですので彼らの身柄とともに我々が土地を欲しがってる情報を言えば、相当な無茶を要求してくると思います。例えば「帝国との戦争で王国に利益をもたらせてみよ」などと」

 

 ぬ、ぬう……そういえば王国の貴族は腐ってるとは言ったけど……た、たしかに帝国とかと繋がってる貴族がいるという情報があったような気がしないでもない。だったら法国と繋がってる貴族も居ると考えるのが……自然か?

 だったら「戦士長を殺すための部隊捕まえたよ、褒めて!」と言っても逆に怒らせる結果になるな。

 てことは、モモンガさんは王国に恩を売るとかなんとか言ってたけど、正確には王国を煽るのが目的だったのか?

 そして戦争相手が帝国?

 

「ここで、我々は……そうですね。レベル60~70くらいのモンスターを数体召喚して戦わせるのが良いでしょうか」

「……それ、意味が有ることですか?」

「あります。戦争となれば、法国のスパイなりの存在が監視してくるはずですから」

「いや、でも俺の未来知識で王国を相手にした戦争じゃ超位魔法の隙にスナイプしてくる敵はないなかった、って言いましたよね?」

「はい。ですが攻撃しなかったからって「見てない」ということは無いはずなんです。オッさんの話からの想像になりますが、法国に存在するレベル100かそれ以上と思われる存在、というのは戦士職です。だから超位魔法を私が使っても、それが「絶好の攻撃チャンス」ということを「知らなかった」のでしょう。おそらくオッさんの話の続きは、私の超位魔法の解析や研究を進めつつ、我々に対する警戒で全人類国家が秘密裏に手を取り合う展開があると思われます」

 

 むう、そういうものなのか? しかし俺も見てない、知らない展開については流石に何も言えんぜ。

 WEB版では戦争の後は学園編に入ってたような気もするが……記憶の曖昧さが憎い。

 

「私としては全人類に一致団結されたくありません。少なくとも万全な体制では。だから、法国には「自分たちが秘密の戦力を使えば法国だけでも倒せるレベル」と思わせる必要があるのです」

 

 そうすれば、法国の最大戦力が我々を暗殺しに来てくれるかも知れないでしょう? と、モモンガさん。

 そいつらを返り討ちで一網打尽にする。それがモモンガさんの狙い……だそうだ。

 

「いや、でも……まず、そんなに上手くいきますかね?」

「無理だと思いますよ? 我々の知恵では。だから、戦争を視野に入れて動くにしても、まずはデミウルゴスやアルベドと相談しながら作戦を詰めていく必要もあるでしょうね」

 

 うぬ、ここであやつらか。

 確かに、奴らを信じて頼れ、というアドバイスはしたがそういう意味じゃないのに。

 

「いやそれでもやっぱ……いや、それだったら2回ですよね? 3回戦争する必要はないじゃないですか」

「3回目ですか。これはより未来のことになってくるので不確定ですが……おそらく、この世界に古くから居る龍、でしたか? それとの戦いになるかと思います。戦争と言いましたが軍隊との戦いになるのか、強力な1匹の龍との戦いになるのかはわかりませんが」

「なんでそんなのと戦うことに?」

「オッさんが詳細を覚えていないと言ってましたが、バッドエンドのひとつの形としてシャルティアがこの世界の龍の何らかの技で消滅するという話。それって、なんでシャルティアはその龍とやらに殺される羽目になると思いますか?」

 

 前後の流れなんて覚えてねーよ!

 ていうか、単にシャルティアの死に様ってくらいしか書かれてなかった気もするぜよ。

 

「さ、さあ? 悪い奴だからでしょ」

「じゃあ悪いってなんですか?」

「そりゃ、人を無意味に痛めつけたりしながら殺すとか」

「だったら亜人を排斥する法国だって悪い奴じゃないですか? なんで法国は未だに存続してるんですか?」

「そんなん言われても……」

「私の考えでは、その古い龍とやらもプレイヤー、もしくは我々の元いた世界の関係者なんじゃないか、と思ってます」

「えー、でも魔法の種類とか違うって設定だった気がしますが」

「それは私も気になるところですが、ひょっとしたらシャルティアを洗脳するワールドアイテムを大昔に使って、洗脳済み、とかもありえるかと」

 

 そ、そういう事はあるのか?

 なんか違う気がするんだけど……でもダメだ。俺には反論が思いつかない。

 

 頭が混乱している俺にモモンガさんはさらに畳み掛ける。

 

「つまり、古代の龍とやらと法国はグル、あるいは同盟に近い関係なんですよ。だから法国を倒せば自動的に龍は我々の前に現れるでしょう。それを倒すことができなければ我々に未来はありません。最悪のパターンでは法国と龍が同時に挟撃してくることです。そのために最初の帝国との戦争においては法国単独でも倒せるレベルを装う必要も出てきます」

「え、え~? い、いやいや……でも、ほら……しかし」

「オッさん。あなたの、人をむやみに殺したくないという願いはわかります。そのためにあの世界での生活を捨てる危険を冒してまで私を助けに来てくれたこと、本当に感謝しています」

 

 ぐぬぬ、そんなこと言われても……そもそも俺はこの世界に来ずにモモンガさんを引っ張り出す予定だったし……そもそも天涯孤独の身だから現実世界の未練も薄いし……そんな感謝されるようなことじゃ。

 

「ですが、そんなオッさんを私は危険に晒すことはしたくありません。過去のためではなく、今生きている、オッさんを。そしてこのナザリックに今生きている皆を守りたいんです」

「し、しかし」

「無論、犠牲は最小限になるように努力します。これから殺す事になるであろう命をひとつも無駄にしないように。ですからどうか……こればかりは容赦してくれませんか?」

「でもさ」

「それに昨日の雑魚の発言。他者全ては自分に仕えるのが当然というような傲慢な態度。あれはこの世界の人類、あるいは法国だけの態度かもしれませんが……あれを野放しにするほうがこの世界にとっての害だと思います」

「で、でも自分にとって害だからって」

「我々だけではありません。この世界には獣人をはじめとした異種族もたくさんいるんでしょう? 我々は、自分たちだけでなく彼らも守れるはずなんですよ。この世界のルールと言えばそれまでかも知れません。ですが、今も不当に奪われる命があるのなら、それらは守ってやるべきじゃないんですか!?」

 

 え? そうなのか?

 いや、いや……でも、俺たちは部外者だし……

 

「まさかオッさん。この世界に来ておいて、自分たちは異世界人で部外者だからこの先一切関わらない、なんて言いませんよね?」

「い、言いたいのだけど」

「それはダメです。我々は少なくともここに居るのなら、もはやこの世界は我々の生きる世界でもあるのです。我々はもはや部外者ではなく当事者! ならば、なせる事をなさない事こそが悪いことです!」

 

 うぐぐ……こ、この世界のためにも俺たちが表に打って出ることは良いことなのか……?

 

「ってちょっと待てぇー! あんた何俺を洗脳しようとしてんだよ!」

 

 あっぶねぇー! マジあぶねー!

 本気で洗脳されかけたけど、ダメじゃねーか!

 世界征服するつもりか、バカ! 騙されないぞ。

 

「世界征服でもするつもりですか!」

「? そんなのはしませんよ?」

 

 なぬ?

 

「私の案では、確かに戦争を何度かします。ですがそれはあくまで一定の土地を得るために必要なこと。ナザリックの維持に必要なコストが不明なので今の時点ではなんとも言えません。ですが基本的に一度手に入れた支配地からは外に出る必要がないはずです。マーレのような土壌操作の魔法を使えるものを動員すれば、本来は農地に適さない土地でも農地として使えるように改良できるでしょうし、労働力はアンデッドを使えばコストも0にできます。まぁスキルがないと耕すことさえできない、と言われるなら自然に生えるのを任せるくらいしか手はなくなるので、かなり広い土地が必要になりそうですが、流石に収穫くらいはスケルトンあたりでも出来るでしょう。で、これで内側にこもると言えば、誰からも文句は出ないと思います。その上で文句を出す相手にまで手心を加えろ、とは言わないですよね?」

 

 ちょ、ちょっと待ってくれ。

 そのような言葉の洪水をワッと投げかけるのはやめてくれ。

 

「理想としては、それなりの土地を手に入れ自給自足でナザリックの維持ができるようになれば、余剰分を貧しい国に分け与えて最低限の交流としたい。アインズ・ウール・ゴウン国も、首都はナザリックとし、その上でユグドラシル、日本、地球、などの地名の町でも作れば、その名前に引かれて今後プレイヤーが訪れるかもしれませんし」

「で、でもよう……法国を滅ぼす必要あんの?」

「はい、滅んでもらいます」

「マジか」

「ですが、あくまで滅ぼすのは国として、です。国の上層部および、隠された強者。これは殺さねばなりません。その後、法国は名前を変えて違う国、としてしてもらいます。そして異種族排斥運動をやめさせる。それが終われば国民全部を殺す、なんてことはしません。戦力がなくなり自衛ができない、というのなら我々から戦力を派遣し守ってあげればいい。異種族排斥運動をやめろと言われても、それでも自分たちの守り手が人間じゃないのが嫌だ、というのなら彼らの国民の有志からレベル20前後の戦士が数百人そろうまでのレベリングを何ヶ月かかけて手伝ってあげて、あとは放置してもいい」

 

 え~? いや……え~?

 なんか落とし穴とかあるんじゃないの?

 それ以前に、もっとこう……戦争なんてせずに済む方法とか……

 

「正直なところ、戦争をしない方が、トータルでの人的被害はより大きくなることが予想されます」

「な、なんでさ」

 

 戦争せずにこっそり引きこもって……それで人が寄り付かない土地をこっそり開墾してたらこの世界との摩擦なんて起きないんじゃねーの?

 

「まず、我々が外に出ず、昨日の連中すら捕まえずにこの世界への干渉をしなかったとして。その場合、王国が力を落とし、法国の傘下に入る事になります。その後、帝国も法国の裏工作で倒れ……どれほどの時間をかけてかは知りませんが、法国に下る事になるでしょう。その3国で戦争をすれば、最終的に勝つのは絶対に法国でしょうから」

 

 まぁ、そりゃそうだ。

 帝国の自慢は6位魔法を使える魔法使いくらいだけど、ぶっちゃけレベル100の戦士職ならダメージ無視してガンガン突っ走って、空を飛ばれてもジャンプするか何かを投げるかして殺せるだろう。

 届かないくらいに高く飛べるとしても、最悪皇帝の首を取るのは容易のはず。

 

「で、その場合……国民の被害がどれほどになるのか、想像もつきません。戦争であれば兵士が死にますが、法国のやり方では一番被害を被るのは兵士にすらなれない弱者です。それも大量に」

 

 そうなのか?

 

「そうです。それで終わればまだいいのですが、法国が人類以外を許さない、というのであれば異形種……どれほど人数がいるのか不明ですが、人間国家以外を敵とし殺して回るでしょう。その際に兵隊として使われるのは、元王国、元帝国の民草になるんじゃないですか? 異形種だけでなく、人類種ですらもそうやってすり減らす戦い方となるはずです。彼らの理念が「人類が一丸となって異形種を排斥すること」だというのなら、それをやらない訳が無い」

 

 い、言いがかり臭くないか?

 

「そして彼らの最終目標……おそらく、古代の龍、とやら。同盟相手か仲間か知りませんが、それも最後には倒すのを狙ってる可能性があります。仲間同士、であれば戦う理由はないようにも思えますが……龍の方がどう思っていても、人間至上主義を掲げる国なら、龍の存在を驚異に思っているでしょうね。まぁこの戦いに関しては数年、数十年、あるいは数百年かがりの大事業になるかと思われるので、被害程度は想像もつきませんが」

「で、でもそれはもう、この世界の問題、ってことで俺らと」

「無関係じゃないでしょうに。それに、法国の世界制服が進めばいずれナザリックが発見されてしまい、一致団結した人類とナザリックの総力戦が展開されることになります。そうなれば……人類すべてを滅ぼす覚悟で戦わないと我々に先はないですよ」

 

 そうかも知れないけど。

 うーん、それにくらべれば確かに先に戦争をやっちまったほうがマシなのか?

 でもなぁ。

 

「モモンガさん、一つ聞きたいんですが。そんなに戦争をやりたがってるのって、昨日のやつの態度がムカついたから、とかじゃないですよね? 一人にムカついたから関係者全員を同罪判定で殺して回るつもりですか?」

「まさか。正直、一瞬はそう思いました。ですがひと晩休んで落ち着きました。しかしそれとは関係なしに、もとより法国との対決だけは避けられない、とも思ってましたからね」

 

 どうしてもやるのか。

 

「さっき言った、最低2回というのは帝国とやらない場合は、法国と龍、という2回です。ですが正直な話、法国の連中を釣る前段階で見せ札を切らないことには……と、思ってますので、希望的な観測ですよ」

「あ! そうだ、思い出した」

 

 昨日の事だけどすっかり忘れてた。

 

「何をです?」

「昨日、法国の悪党どもと戦った時。相手の監視魔法にカウンター決めてたじゃないですか」

「ええ、せいぜいが広範囲の爆発程度の弱いカウンターですがね。法国の連中があんな奴らだと知っていたら、即死系の呪いや高位モンスター連続召喚系のカウンターにしておくべきでした」

 

 その発想が怖いよ。

 いやゲーム時代だとどうせガードされるからってカウンターは弱めに設定したり、ガードを避けて当てるために強いけど癖のある魔法を設置したりとかあったけど、現実だぞこれ。

 

「そのカウンターでですね。たしか法国の……なんか、監視組織? みたいな奴らが結構な数、爆死するんですわ」

「ほう! 死んでましたか!」

 

 なぜ喜ぶ。

 

「で、その監視屋の連中、それなりに重宝されてる軍団らしくて、そいつらがカウンターで殺されるとか、ヤバイ奴が居るんじゃないの? と思った法国の連中が差し向けてくるのが、シャルティアを洗脳したやつだったはずです」

「むむ……そうなると……法国の連中、まだしばらくはナザリックで拉致し続けて、その者達をおびき寄せるというのも一興……? しかしワールドアイテムを使うような相手、こちらも守護者たちにワールドアイテムを装備させて万全の態勢で挑むべき……か?」

「そ、その場合は戦争とか回避できそうですかね?」

「わかりません……その連中で法国の全てだというのであれば、大規模な戦闘は避けれる可能性もありますが……」

「えーと、えーと……なんか、その集団の隊長は国で2番目かそのくらいの実力者だった気がします。そんな報告シーンを見た記憶がありますので」

「という事は洗脳チームを倒しても法国の底は測れないのか……となると……」

 

 とりあえず、今思い出した情報を伝えたら考え込むモモンガさん。

 これでなんとか思い直してくれるといいんだがなぁ。

 

 てか、この人、一応昨日は人殺しになんとも罪悪感を感じてないのに対して横槍刺して、多少は考えて動くように誘導したはずなんだが、全然効果がないように見える。

 もうすでに心も完全にアンデッドになってるんじゃないだろうな。

 

「あー、わからないですね。その辺の未来知識、ある程度は公開しながらアルベドやデミウルゴスに相談するのが正解でしょうかね?」

「パンドラズ・アクターもお忘れなく」

「うっ」

 

 とりあえず自分だけで考えるの良くない、と思ったモモンガさんはアルベドたちに頼ることにしたみたいだが……なんでパンドラズ・アクターを除け者にするかなぁ。

 自分の過去の黒歴史を恥ずかしがって嫌がる男が、戦争なんていう大量の死者を出す作戦を平然とするというのはなんともアンバランスに見える。

 

 

「で、守護者の中でも知恵者という設定に定評のあるデミウルゴスやアルベドに頼るわけですが」

「パンドラズ・アクターもな」

「……ですが! 昨日オッさんが彼らに言った設定あるじゃないですか」

「何かあったっけ?」

「ありますよ! 我々の世界からユグドラシルに入るのに生命力を削ってたとか! あと未来を見通す真眼(サイクロプス)とか!」

「あー、言いましたね。ユグドラシルに入るのに生命力を削る、ってのはあながち嘘でもないでしょ。そのおかげで連中のモモンガさんに対する忠誠はきっと完璧ですぜ? あと真眼(サイクロプス)は未来を知ってる事に対する言い訳ですね。この世界に来て失ったって設定にしたのでもう未来予知できなくても仕方ないって思ってくれるかと」

 

 我ながらアドリブで完璧な設定を考えたものよ。

 俺が自画自賛しうんうん、とうなづいてるとモモンガさんのやつ、なんか冷たい目で見てきてやがる。

 

「あのですね、そういうことを突然されると私も合わせるのができなくて困りそうなんで、ちゃんと打ち合わせくらいして欲しかったのですが」

「つってもあの時ってまとまった時間もなかったし仕方ないじゃないですか。そもそも俺は隠れてるつもりだった、とも言ってますしね」

「私はそれが嫌だと! ……言っています」

 

 口論してたらモモンガさん、急にテンション落ちたが、感情の抑制によるスゥーが出たってことか。

 そのくらい、俺にムカついてるということだな。

 

「しかしですね。実際に未来知識において、ここの連中はモモンガさんに対する忠誠度は日を追うごとに高くなるのに、自分たちを捨てた製作者に対してはドライになってたと思いますよ?」

「でもオッさんはここに居てくれているじゃないですか!」

「それでも、ですよ。やっぱ連中からすれば俺は辛い時に居なかったくせに突然ノコノコ現れだしたウザい上司なんです」

「オッさんだって見捨てたくて見捨てたわけじゃないでしょう! 本当に彼らに忠誠心があるというのなら、わかってくれないはずがない!」

「分からせたらそれはそれで問題だって言ってんすよ! 俺とモモンガさんとでさえ、こうやって意見が割れるですよ!? ……だったらもし連中が俺をウザがらなかったら、ナザリックの守護者たち同士でさえ、割るかも知れないじゃないですか」

「くっ」

 

 何でわからないかね。

 ちょっと熱くなりすぎて俺も精神の抑圧が出ちまったよ。

 

「とりあえず、昨日は中途半端に教えた未来知識ですが、これからもうちょっと細かく伝えます。それでモモンガさんもナザリックの頭は一つの方がいいとわかってください」

「じゃあ聞かせてもらいましょうか。ですが、オッさんの考えに問題があると思ったらいくらでも否定させてもらいますからね。場合によっては、今までのNPC(彼ら)に対する態度を変えてもらいます」

 

 それからの話し合い、何度も何度もお互い「スゥー」っとなりながらの口論は、夕方になるまで続くことになった。




 物言わぬ太古のゴーレムごっこ。
 ふざけてるようで、彼なりに真面目です。
 一旦ポーズを決めてしまえばあとは脳内で考えるだけの作業に没頭できるようです。
 ひょっとしたら人間で言う「睡眠中の脳内の情報の整理」に似たようなものかもしれません。

 インクリメント。
 書籍にもちょろっと出てきた一般メイドですね。
 名前をギリギリで覚えているのは原作知識ではなく、ゲームをやってて作った仲間から「これが俺の作ったメイドだー」と紹介されたのを覚えているだけです。
 書籍で見たキャラの名前なんてほとんど忘れてる主人公ですから。

 歩いて移動。
 ちょっとでも問題の先送りを先にしたいダメな社会人。
 皆はこんなふうになっちゃダメだぞ。

 モモンガさんの考え。
 自分で考えたのではなく、アルベド、デミウルゴスと一緒に考えてました。
 モモンガさんの最初の考えだと戦争しないルートですが最終的な犠牲者を抑えるのにいい作戦、としてこうなりました。
 アルベドは2話で主人公からモモンガさんの望むであろうスタンスも聞いてたので、今後の作戦会議の案を出すとき、モモンガさんの望みに沿った考えということでデミウルゴスより一歩リードで地味にニヤリとしてたりします。
 即効でデミウルゴスにも「できるだけ犠牲者でないようにね、フリとかじゃなくマジで」と言ってたのでアドバンテージは既になくなってますが。

 法国と竜王との関係の勘違い。
 よもやお互いが敵として警戒してるのに近い関係とは思ってもない主人公たち。
 間接的とは言えツアーがシャルティアと戦った、という事も本編ではなく幕間の情報だったので主人公のあやふやな記憶力では覚えきれていないのも仕方ないことでしょう。
 だからってモモンガさんたちまで勘違いしちゃってるのはIQ低すぎかも、ですが。

 最後の話し合いの結果。
 どうなることやら。
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