ラブライブ! road to idol m@ster   作:minmin

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お久しぶりの更新です。
最近仕事が忙しくて執筆時間が思うように取れませんが、エタったりはしない予定です。とりあえず1期は絶対終わらせますので。
今回は初めて穂乃果とは別の視点です。ではどうぞ~


his Awkward smile

 

 ――私にとって。渋谷凛という人間にとって、芸能界っていうのはまさしく『別の世界』だった。

 

 だからなのか、こうして実際に芸能事務所の中を歩いていてもどことなく現実感がない。一企業のものとは思えない広大な敷地も相まって、なんだか夢の中にいるみたいだ。

 両側が全面ガラスになっている廊下を、3人連れ立って歩く。ちらりと横目に見える中庭は、まるでどこかの公園かっていうくらいだった。

 

「すごいねー。これ、全部346プロのものなのかな?」

 

 連れの1人、穂乃果がのほほんとした声を上げる。

 

「きっとそうです!映画とかも作ってる大きい会社だってパパが言ってました!」

 

 もう1人の連れ、卯月が元気よく言う。敷地内なんだから当然企業の私有地だろうだとかは言わない。

 映画を作る会社と、アイドルやタレントを抱える芸能事務所って完全に別の分野だと思うんだけど……346グループっていうのがあって、その系列の別会社なんだろうか。一体どれだけ大きな企業なんだろう。ますます現実味がなくなってきた。

 

 

『いい?世界っていうのは、自分を中心とした価値観のことなのよ。つまり自分と全く関わりがなければ、そこは自分の世界には含まれないわ。

 私にとっては、今テレビで流れてるような芸能界よりも、平行世界の方がよっぽど『私の世界』ね』

 

 

 喫茶店で偶然出会った同じ名前の女の子の言葉を思い出す。あの時は妙なことを言う子だと思ったけれど、なるほど確かに。本当の私は平凡な女子高生のままで、実は夢だとか、別の世界線に迷い込んでしまっただとかのほうがまだ現実感があるかもしれない。

 そんなことを考えているうちに、いつの間にか目的の場所に着いていた。cinderella project room.部屋の名前が英語で書いてある。そういうところにもなんだかちょっと気後れしてしまう。

 

「ここ……みたいですね!」

 

「他の子たちもいるのかな?」

 

 声の調子を整えたり、自己紹介の練習をしたりする2人。まだ出会ってすぐだけれど、大体の性格は掴めた気がする。この2人、兎に角素直だ。それと、ちょっと天然かな?誰とでもうちとけられて、きっとクラスでも愛されているんだと思う。ほんの少し、羨ましい。

 

「失礼しまーす……」

 

 卯月がそう言いながら静かに扉を開ける。

 

「誰もいない……ね」

 

 呟きながら部屋の中を見渡す。ソファーも、テーブルも、棚も黒で統一されていて、なんていうか大人な雰囲気の部屋だ。詳しくはないけど、シックな部屋っていうのはこういうのを言うんだろうか。床は白と黒の四角が交互に並んでいて、ピシっとした感じ。プロデューサーと同じで、なんだか――。

 

「へえー。なんだかクールな感じだねえ」

 

 突然の声。ちょっとびっくりしながら振り返る。

 

「あ……」

 

「さっきの……」

 

 エレベーターで首を挟まれていた子だ。つかつかとこっちに向かって歩いてきて、私と卯月の間に入る。おでこに手を当てて、おー、いい眺めなんて言っている。……この子も人見知りしなさそうだなあ。

 

「おはようございます」

 

 また後ろからの声。この、老けてはないのにやたらと渋くていい声は――やっぱり、プロデューサーだ。隣には書類を抱えた女の人。事務員さんとか、ひょっとしたら秘書さんだろうか。

 

「「「「おはようございます」」」」

 

 とりあえずは、きちんと挨拶。卯月によると、こういう業界ではいつでも『おはようございます』らしい。そのままつかつかと近寄ってくるプロデューサー。

 

「ご紹介します。こちら、島村――」

 

「卯月ちゃん!?」

 

「はい!」

 

 くるりと回って私の方に向き直る。

 

「渋谷凛ちゃん!?」

 

「そうだけど」

 

「むむむ。ぶっきらぼうながら溢れ出るオーラ……只者ではないと見た!」

 

 口をへの字に曲げてそんなことを言う。や、自覚はしてるつもりだけど。初対面の子にまでぶっきらぼうなんて言われると、ちょっと傷つく。まあ、目の前の子の興味は既に私から穂乃果に移ってるみたいだった。

 

「それで!高坂穂乃果ちゃん、だよね!?ミューズの!」

 

「うん!」

 

 元気いっぱいに返事する穂乃果。私たちのことは、事前にプロデューサーから聞いてたのかもしれないけれど――ミューズ?……石鹸?

 

「皆さんにもご紹介します。こちら、当プロジェクト最後のメンバー……」

 

「本田未央!高校一年、よろしくね!」

 

 ビシっと敬礼。卯月や穂乃果とは違ったタイプの明るい子だ。2人はどちらかというと受け身の明るさ。この子は自分からぐいぐいと行く積極的な明るさだ。ムードメーカー、なのかな。

 

「本田さんは、一次選考では落選してしまいましたが、欠員の補充のための二次選考で合格した、とても運の良い方なんですよ♪」

 

 にっこり笑顔で説明する秘書さん(仮)。でもそれって、本当は実力はないのに運だけで合格したとも取れるんだけど……。

 

「いや~。私がオーディション受かったのってやっぱり……スポーツ万能の学園のアイドルだからかな?かなぁ~?」

 

 照れながら頭を掻いてる。脳天気なのか、ポジティブなのか。

 

「……笑顔です」

 

 真顔のまま答えるプロデューサー。再びへの字になる未央の口。それを見た穂乃果がクスクスと笑い出して、つられて卯月も笑い出す。私も口だけで笑ってしまった。秘書さん(仮)も、口に手を当てて上品に笑っている。大人の色気、ってやつなのかな。女同士なのに、ちょっと見とれてしまった。

 

「あのー……プロデューサーさん。こちらの方は?」

 

 穂乃果がおずおずと言うと、大人2人が一瞬目を合わせて頷く。そして秘書さん(仮)が一歩前に進み出た。……ちょっともやっとしたのは内緒だ。

 

「申し遅れました。

 皆さんのアシスタントを努めます、千川ちひろと申します。色々な面からサポートしますので、よろしくお願いしますね♪」

 

 これ以上ないくらいの優しい笑顔。なんだけど。なんだか寒気がするのは私の気のせいなんだろうか。

 

「では、お近づきの印に。私からささやかながら」

 

 肩に掛けたかばんから出てきたのは、赤い星柄のパッケージの缶ジュース。黄色い文字で、エナジードリンクって書いてある。コン、コン、と小気味良いリズムで缶が置かれていく。

 

「わぁ!ありがとうございます!」

 

「いえいえ。頑張ってくださいね♪」

 

「はい!島村卯月、頑張ります!」

 

「高坂穂乃果も、頑張ります!」

 

 無邪気に返事をする卯月と穂乃果。少し後ろからそれを眺めていると、未央と目が合う。同時に、ふふっと笑ってしまった。

 

 

 

 千川さんが部屋をでて、プロデューサーは奥の自分の部屋で書類をさばいている。次の指示が出るまで、エナドリを囲んで雑談タイムだ。

 

「私はさっきいった通り高1だけど……皆は何年生?」

 

 口火を切ったのはやっぱり未央だ。こういう積極性は、ちょっと見習いたいかな。

 

「私は2年生になりました」

 

 へえ。卯月は2年生なんだ。

 

「そうなんだ。同級生かと……」

 

 子どもっぽい、とは言えないなあ。

 

「お姉さんなんだし、リードよろしくね」

 

「はい!お姉さんですもんね!」

 

 満面の笑みの卯月。

 

「じゃあ、3年生の私が一番上のお姉ちゃんだね!

 3人とも、どんどん頼ってくれていいよー♪」

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

 私、卯月、未央の声が重なる。穂乃果が……3年生?

 

 

「その『えっ?』ってどういうことかなあ……?

 私、そんなに子どもっぽいかな?」

 

「え、えーと……」

 

 あはは、と笑いながら目を逸らす。卯月も未央もだ。まさか同い年だと思っていた、なんてことは言えない。話題、話題を変えよう。

 視界の端で、未央がすすすっと奥の部屋に向かって移動するのが見えた。そのままさっと中を覗き込む。

 

「プロデューサー!他の子はいないのー!?」

 

 未央、ナイス。私も無言のまますっと後に続いておく。

 

「あ、こら!ちょっと、ねえ!皆は私のこと、いくつだと思ってたの!?」

 

「まってください未央ちゃんー!」

 

「こらー!待ちなさーい!」

 

 だだだっと流れこむようにプロデューサーの部屋の入口に4人が集まる。ちょっと息を荒くしてる穂乃果の様子を見て、一度ゆっくり目をぱちくりさせるプロデューサー。ちょっとかわいい。

 

「シンデレラプロジェクトの他のメンバーは、後ほどご紹介します。皆さんは、その前に――」

 

 あ、穂乃果はスルーするんだ。

 

「その前に?何々?」

 

 代表して聞くのは、やっぱり未央だ。

 

「この4人で、基礎的なレッスンを受けていただきます」

 

「レッスン、ですか」

 

「はい」

 

 淡々と話しを進めるプロデューサー。後ろの穂乃果が、頬を膨らませてむくれていた。そういうところが子どもっぽいんだけど。

 

「皆さんは、これからプロのアイドルとなります。プロであるからには、本番で最高のパフォーマンスができるよう、常日頃からしっかり練習しておくのも、大事な仕事の1つです。

 これが、あなた達の初仕事ですよ。……頑張って、ください」

 

 そういって、口角をちょっとだけあげるプロデューサー。笑顔のつもりなんだろうか。正直、ちょっと怖い。けれど、暖かかった。きっと私は、この瞬間を一生忘れないだろう。

 今まで、流されるように生きてきた。なんとなく高校に行って、なんとなく店を継ぐんだろうなって思ってた。夢中になれる何かなんて、なかった。

 冷めている。よくそう言われるし、自分でもそう思う。今だって、まだ半分は流される形でここいる。だけど。

 

 ――この不器用な笑顔がまた見れるなら。アイドル、頑張ってみてもいいかなって思ったんだ。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
相変わらず短めで申し訳ありません。今回は凛ちゃん視点ですね。
気づいた方もおられると思いますが、実はプロデューサーの性格はちょっとかわってます。原因はまたのちほどのお話で。
感想お待ちしております。

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