魔法少女リリカルなのはEX・S 過去にとらわれた転生者 作:レイレナード
フェイトは2話使ったのになのはは1話。しかも半分はなのはメインじゃない。
………
う~ん
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フェイトメインは2話使っているとは言え、今回は今までで最高の文量になりました。
書き直すと変わるものですね。ではどうぞ。
15年8/18 改めて更新しました。
「……しまった。遅くなってしまったな」
フェイト達と別れたあと、昼食を作る時間になって食材が底をつきかけていることに気づいた。明日の朝まではもつかと思われたシチューは綺麗に平らげられてしまったので、明日行けばいいと思っていた買い出しを今日中に行わなければならなくなったのだ。
その後、俺は簡単な昼食を済ましたあといつのも神社裏に行き、訓練を始めた。予定していた訓練時間を減らさなければならないということもあり、いつにもまして集中して取り組んでいたのだが………
『訓練に熱が入りすぎましたね』
気づけば、買い出しに行く時間がほとんどなくなっていたのだ。慌てて家に戻り、簡単に身支度を整えて近所のスーパーへと向かったのだが、その頃にはもう日が落ちていた。
「……19時か。家に着いてから飯を作ると20時か20時半。……遅いな」
『いっそのこと惣菜を買えばよかったですね』
今持っている買い物袋には、生肉や生野菜、調味料ぐらいしかない。普段から「~の素」などはあまり使わないで作っているから、そういったものや惣菜が目に入らなかったのだ。
今日はチャーハンあたりで簡単に済ますか。と嘆息する。料理は特に好きでもなかったのだが、慣れてくると徐々に凝ったものを作りたくなるもので、いつの間にか趣味になっていた。それを妥協しなければならないと思うと、溜息も出るというものだ。
と、その時、
『…っ! マスター!』
唐突にアイギスが緊迫した声を出す。瞬時に切り替えて感覚を研ぎ澄ませる。すると、すぐに俺もアイギスが察知したのであろう反応を見つけた。
「ジュエルシード……。しかもこれは、反応が移動してる?」
『エネルギー量から言って、まだ発動したわけではないと思われます。おそらく誰か、もしくは何かがそれを持って移動しているのでしょう』
「…っ、くそ! 速度からして、おそらく車だ」
もう7時とは言え、全く人通りがないわけではない。車はまだ大量に走っているし、こんな人目につくところで魔法を使うわけにはいかなかった。
しかも運が悪いことに俺の張れる結界の範囲外を反応は進んでいる。ユーノの封時結界を見てから今日まで訓練の中に組み込んではいたのだが、まだその範囲は半径100メートルといったところで、一対一の対人戦ぐらいでしか使えない。今の状況では役に立たないのだ。
つまり魔法を使った追跡はできない。このままでは見失うのも時間の問題だ。
「とにかく、考えるのは後だ。どこまで行けるか分からないが、とにかく追うぞ!」
『はい!』
「………アイギス、どうだ?」
『完全に見失いました。すいません』
海鳴市の中心部のビル街。そこまでは何とか追跡できたが、それ以上はわからなくなってしまった。さっきよりも人通りは多いし、ビル街のため視界も悪い。魔力反応を追えない以上、これ以上の追跡は不可能だった。
「………今日は引き上げよう。明日、しっかりと準備して捜索する」
『了解です』
来た道を引き返そうと、踵を返す。すると、目の前にある店が知っているところだと気づいた。
「……喫茶翠屋」
『そういえばここでしたか。懐かしいですね、マスター』
アイギスに「ああ」と答えながら、俺は当時のことを思い出していた。
喫茶翠屋は、なのはの父、士郎さんと、母、桃子さんがやっている喫茶店だ。俺はまだ1年生のころになのはに連れられて一度だけ来たことがあるが、その時点でかなり繁盛していた。たしか士郎さんも退院して一ヶ月程度で翠屋に復帰し、俺を出迎えてくれた。
絶品の料理やデザート。そして自宅にいるような心地よさ。その温かさは、ほかの喫茶店にはない独特のものがあり、誰もが安らげる場所だった。
「……、っ」
一瞬、上げかかった腕を抑える。
(…求めるな。そんなものを求める権利など、俺にはもうない)
店内は既に暗く、その出入り口にもCLAUSEの文字が見える。時計を見ていると、7時15分過ぎ。この時間ならすでに桃子さんは家に戻っているだろう。高町家はみんな揃ってご飯を食べるのが決まりだそうだから、翠屋は7時には閉まり、それから次の日の仕込などを終え次第、士郎さんも家に帰るのだそうだ。
「………行こう」
とどまる理由はない。
翠屋から目を背けるように歩き出す。まるでその場所から逃げるように。
「優雨くん?」
しかしそれは、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「そこにいるのは、もしかして優雨くんかい?」
振り向けば、翠屋の裏口前に立つ人影がある。影でよく見えないが、それが誰かはすぐに分かった。
「……士郎さん」
「久しぶりだね。なのはが君を連れてきた以来か」
「お久しぶりです。士郎さん」
外で話すのもどうかという士郎さんの意向で、俺たちは翠屋のカウンター席へ場所を移していた。時間はいいのかとも聞いたのだが、「もともと、今日は少し遅れると連絡してあるから大丈夫さ」と、気さくに笑っていたのでその通りなのだろう。
「なにか飲み物を出すよ。何がいい?」
「いえ、お構いなく」
もう店も閉めているのだから、道具はすべて片付けているはずだ。今からわざわざ準備してもらうのでは、さすがに申し訳ない。
「いつもながら、君は気配りのできる子だね。でも、こういう時は子供が遠慮するものではないよ」
「しかし……」
なお渋ってみるが、士郎さんは優しく笑う。
「僕が君に飲んで欲しいのさ。駄目かい?」
(……そう言われてしまえば、もう遠慮することはできないな)
こういうところは相変わらずのようだ。押しが強くて、上手い。
俺は諦めて、ブラックコーヒーを頼む。すると士郎さんは「やっぱりあの時と同じコーヒーだね」と、まるで何を注文されるかわかっていたように準備を始めた。
……そういえば、前に来た時もコーヒーを頼んだのだった。あの時はさすがに驚かれた。小学1年の子供がコーヒーをブラックで飲むと言うのだから、当然だろう。
(もっとも、あのコーヒーの美味しさにこっちも驚かされたが)
当時のことを思いだすと、胸が暖かくなる。思えば、俺がここまで立ち直れたのも、あの暖かさに触れたからかもしれない。当時の自分と比べれば、多少なりとも心に余裕があるように感じるのだ。
「それにしても、どうしてこんな時間に外を歩いていたんだい?」
士郎さんの問い掛けに、俺は頭を上げる。いつの間にかぼうっとしてしまっていたようだ。
「夕食の材料が切れていたので、買い出しに行っていたんです。今日はビル街の方まで行ったのですが、思ったより時間がかかってしまって」
「そうか。たしか御両親は海外で仕事をしているのだったね」
高町家には一応そういうことにしてある。連絡も取り合っているから寂しくないし、心配はいらない、とも。
「優雨くんもその歳で一人暮らしとなれば色々と大変だろう。やっぱり家に来る気はないかい?」
しかし当然、それで心配されないはずがなかった。この誘いも2度目、2年前に会った時も言われたことだ。だけどやはり俺はその時と同じようにそれを断る。
「お金もありますし、特に不自由もありませんから、大丈夫です」
「そう、か。でも、たまには泊まりに来るといい。いつだって歓迎するよ」
こちらを気遣う優しい言葉が胸に染みる。しかしそれでも俺は「ありがとうございます」とお礼を言うだけで、明確に答えはしない。それは遠まわしの拒絶だ。
それが分かっているのだろう。士郎さんは残念そうな顔をしながら、出来上がったコーヒーを出してくれた。
「いただきます」
そんな士郎さんに心の中で謝りながら、俺はコーヒーを飲む。
それはあの時と同じおいしいコーヒーのはずなのに、以前よりも少し苦く感じた。
それからは他愛もない会話をした。翠屋のこと。最近バイトを募集していること。サッカーチームの監督をしていること。恭也さんがまた腕を上げたこと。
俺から話すことはあまりなく、ほとんど士郎さんに質問したり話を聞いていたりしただけだが、それでも俺はその時間を楽しいと感じていた。
ふと時計を見ると、その長針はすでに7を回っていた。
(19時35分過ぎ……、話しすぎたな)
いい加減、高町家も心配し出すだろう。俺はコーヒーを飲み干して席を立つ。
「時間も時間ですし、そろそろ帰ります」
「そうかい? ………ああ、そうだね。楽しくてつい時間を忘れてしまっていたよ。こんな時間まですまない」
時計を見て時間を確認し、申し訳なさそうに謝ってくる。
「いえ、お互い様です。コーヒー、御馳走様でした」
頭を下げ、士郎さんに背を向ける。
「……優雨くん!」
しかし、なぜか士郎さんに呼び止められた。まだなにか話があるのだろうか。
俺は疑問に思いつつ振り向く。
「……なのはのことなんだが。また、頼んでいいかい?」
「!?」
思わず目を見開いた。今の言葉はまるで、俺たちのことをすべて知っているかのような口ぶりだったから。しかしそれを見た士郎さんは、優しげに笑う。
「やっぱり、何か知っているんだね」
(……っ、鎌をかけられた)
俺は士郎さんをジト目で睨む。ささやかながら仕返しだ。
「ははは。すまないね。普通に聴いても答えてもらえないと思ったから、さ」
「………」
申し訳なさそうに、しかしわずかにだが、どこか寂しげな声。
俺は目を合わせられず、目を伏せる。士郎さんの指摘は的を得ていたからだ。
「最近、なのはがなにかに悩んでいるのは知っている。なのはは、昔から気持ちを溜め込んでしまうから、今回も自分から誰かに相談しようとはしないだろう」
それは、そうだろうと思う。あの出来事を通しても、結局なのはの本質は変わっていないのだろう。そうそう簡単に変われるものでもない。
「普段なら、私たちがそれを聞く役目なのだが……、今回は、私たちでは力になれないかもしれない。なんとなくだが、分かった」
さっきはわずかにしか見えていなかった寂しさが、今ははっきりと見える。娘の助けになりたいのに、それができない。親として、それはどれほどの苦しみだろう。
「でも、君なら。なのはの悩みを知って、わかってあげられるんじゃないか?」
「………」
俺にはそれに答えることはできなかった。悩みは見当がつく。でも、だとして俺は、彼女の力になれるだろうか。
「もちろん、聞き出せと言ってるわけじゃない。ただもし、あの子が君に助けを求めたら。そのときは、応えてあげて欲しいんだ」
「……俺は、………」
士郎さんはじっと俺を見ていた。優しげな瞳。だけど、そこにあるのは決して折れることない強さだ。
自分の娘を他人に任せるしかない。士郎さんは、いったいどれほど苦しいのだろう。いったい今、何を思っているのだろう。その瞳に込めた思いは、いったいどれほど強いのだろう。
(………初めから、答えは決まっているか)
もともと、1年生の頃に彼女の相談役になると言ってしまったのだ。今更それを投げ出すわけにもいかないだろう。
「……分からりました。できるだけ、やってみます」
そう言うと、士郎さんはまた優しげに笑った。
「ありがとう。優雨くん。いつも頼ってばかりで済まない」
「………いえ」
また、俺は士郎さんから顔を背ける。今の士郎さんは、俺には眩しすぎる。
「……それでは、これで」
「ああ、またいつでも来てくれ。みんな喜ぶから」
俺はもう一度頭を下げて、店を出た。
しばらくは、頭を上げることができなかった。
「すごいな、士郎さんは」
翠屋を出てから20分はたっただろうか。ようやく俺はひとつ息を吐いて、呟いた。
『そうですね』
別に話しかけたわけではなかったのだが、アイギスはその呟きに答える。
あの時の士郎さんから感じたものは、優しさや寂しさの方が多い。だが内には、圧倒的なまでの強さがあった。何があろうと決して揺らがず、まっすぐ自分の心と向き合って、一番大切なものを守るための最善の方法を探して、導き出したのだ。
……俺には、そんなことはできないだろう。今の俺は、ただ何か出来ることはないかと迷い続け、見つけたそれに全てを賭けるだけだ。前世では、それすらまともにできなかった。
『あの人の強さは、ただ生きているだけで身に付くものではありません。きっと、数々の困難を乗り越えてきたのでしょう』
アイギスの見解は、おそらく正しい。そしてそれは、決して俺には届かない強さだという証明でもあった。
「……俺は、乗り越えられなかった。士郎さんと俺には、それだけの差があるんだな」
思わず出てしまった弱さ。しかしあの強さを見たあとでは、それを自覚せざるを得ない。
『………士郎さんは確かにすごいです。ですが困難を乗り越えて来たとき、その中には挫折や後悔もあるかもしれません。いや、きっとあったはずです。だからこそ、あの人は強い。強くなったんだと思います』
「……強く、なった……」
思わず繰り返した言葉に、アイギスは『そうです』と頷く。
『あの人は、そうやってたくさんの努力と後悔を繰り返して、そうした先にあの折れることのない強さを手に入れたのだと思います』
「アイギス………」
そこまで言ってくれて、俺はようやく気づいた。アイギスが俺を励ましてくれているのだということに。そして同時に、それがアイギスの素直な見解であり、俺に提示してくれた可能性であるということに。
「…折れることのない強さ、か」
士郎さんにあって、俺にはない強さ。
「いつか俺も、手に入れられるかな」
自然とそんな気持ちが漏れていた。アイギスが俺にもあると提示してくれた可能性を。
『………それは、マスター次第でしょうね』
……厳しいデバイスだな。だが、その通りだろう。
この世界に来て、最初になのはと出会って、それからいろんな出会いがあって、そしてフェイトと出会った。短い間に、大事なものがたくさんできてしまった。
関わるべきではないと思いつつ、放っておくことはできなくて。今俺は、きっと大きな困難にぶつかっている。
その困難を打ち破る強さが欲しい。決して折れない強さが。今度こそ、絶対に守り抜く強さが。だったら、
「手に入れて見せるさ。必ず」
もう、繰り返すことだけは、したくないから。
(………空気が重い)
次の日の朝。いつものように時間を使い学校に来ると、異様なほど重い空気がその教室を支配していた。
俺の教室ではない。その隣にある、なのはのいる教室だ。
(いくら悩んでいるからと言って、なのは1人でここまで?)
気になり教室を覗いてみると、なのはが自分の席に座って机の上をじっと見つめていた。いや、あれはただぼうっとしているだけで、何も見ていないか。
どう見ても疲れているし、何か悩んでいると分かる。しかし、確かになのはは人気があるが、だからと言ってそれだけで教室全体の空気が重くなるはずもない。原因はどちらかというと別の人。なのはと距離をとって不機嫌そうに腕を組んでいるもう一人のようだ。
アリサ・バニングス。綺麗な長い金髪。整った顔立ち。IQ200の天才にして、この歳にしてすでに大人の風格すら持つ美少女。しかも彼女の父は大企業の社長である。それだけのスペックを持っている彼女だが、その嫌味のない素直な性格は親しみやすく、同学年どころか高学年からも人気がある。気が強く、少々感情的になってしまうところもあるが、同時にリーダーシップもあり、クラスをまとめているのをよく見かける。
そしてなのはと彼女は親友だ。クラスではいつもなのはともう1人を加えた3人で一緒にいるようだし、どれだけ仲がいいかなど言うまでもないだろう。
(そしてだからこそ、こうなってしまったわけか)
なのはがどう思っているかは知らないが、あれではどう見ても悩んでいると分かる。それもとても大きな悩みだと。しかしなのははそれを誰にも話そうとしない。親友である彼女、アリサ・バニングスにも何も話していないだろう。
おそらくそれが彼女を苦しめているのだ。頼ってもらえない、力にならないと思われている自分自身に。
以前、バニングスとは話したことがある。その時に俺は彼女の優しさに触れたのだ。だから彼女が、心配と自分の不甲斐なさで不機嫌になっているのだと、なんとなく察することができた。
しかし、周りはたまってものではない。
普段、楽しそうに話している彼女たちが、片方は悩み、もう片方は不機嫌そうにして距離を取っている。普段の姿を知っているだけに、この状況は個人が発している空気以上に重い空気を教室にもたらしていた。
そんな空気の中でもその双方に声をかけるものもいる。
月村すずか。紫がかった長く綺麗な髪と、整った優しげな顔。全身から発せられるお嬢様オーラは、彼女の穏やかな性格も相まって彼女を際立たせている。バニングスとは違う意味で、彼女もまた美少女であり、同じように人気がある。内気で少々人見知りなところもあるが、本質を見抜く力があり、常に一歩引いた視点で物事を見ているように俺には見えた。また、その性格とは裏腹に高い身体能力を持つ。
そして先ほど言ったもう1人というのが彼女のことで、なのはとはアリサ同様親友だ。彼女の姉、月村忍が高町恭也の恋人という繋がりもある。
彼女はなのはやバニングスに話しかけて、2人の気を少しではあるが紛らわせていた。彼女がいなければこの教室はもっと重い空気になっていたに違いない。
しかし、いくら彼女が頑張ろうとなのはの悩みを解決しないことにはこの空気が改善されることはないだろう。
(そしてあの2人では士郎さんと同じように、彼女の力になれないか。……歯痒いな)
しかしだからと言って、今俺にできることはない。俺は踵を返し、自分の教室に戻った。
授業中もどうやら彼女たちの様子に変わりはなかったらしい。隣の教室からは、授業が終わる度にそのほとんどの生徒が教室を出て外の空気を吸いに行く。傍から見れば異常な光景だ。
俺もまたその度に隣の教室を、なのはの様子を見に行っていた。やはり元気はなく、あれでは授業にも身が入っていないだろう。
月村が心配して話しかけても、一拍遅れてから大丈夫だと答えるだけだ。
彼女は話しかけられれば笑って答える。だけどあれは、自分を偽るための無理をした笑顔。それは、2年前の彼女と重なって見えた。
俺自身、授業など全く聞いていなかった。普段から授業中はマルチタスクを使い魔法戦の特訓をしているが、今日ばかりはそれにも集中できない。
なのはのことが気になる。士郎さんに頼まれたことが、頭から離れない。
「……助けを求めたら、応えて欲しい、か」
求めるだろうか。あのなのはが。親友の気遣いに気づかないほど、なのはは鈍感じゃない。気づいていてなお、2人には相談できないと思っているんだ。だったら、俺と何が違う。彼女から見れば、俺はあの2人よりも接点はないだろう。そんな俺に助けを求めることなんて、あるんだろうか。
チャイムの音が校内に響いた。4限目の授業が終わったのだ。これで昼休みに入ったことになる。
俺は弁当を持って教室を出る。俺は普段から教室で弁当は食べない。いつも屋上で食べいる。
1年生の頃は毎日のようになのはに一緒に弁当を食べようと誘われた。最初の頃はそれを受け入れていたのだが、なのはの様子から、もう俺なんかが一緒にいなくてもいいと判断して少しずつ距離を取るようになった。
もともと、あまり人と接していたくはなかったのだから、いずれそうしようと思っていたのだ。そうして俺は、授業が終わるとすぐに屋上へ行くようになった。
2年生になってクラスが変わってからも、なのはは俺を誘いに毎日教室まで来ていたのだが、いつの頃からかなのはも諦めたようで、教室には来なくなった。それは少し罪悪感もあったが、バニングスや月村と楽しそうに話す彼女を見れば、これでよかったのだと安心できたのを覚えている。
なのはが来なくなったことでもう教室で食べてもよくなったのだが、習慣というものは恐ろしいもので、この時間になると自然とそこに足を運ぶようになった。そして今もそれが続いている。
しかし、今日はそのまま行くわけにも行かない。なのはの教室からはほとんどの生徒が弁当を持って出てくる。やはり、あの空気の中で弁当を食べようとは思わないようだ。全員が出るのを待ってから、またなのはの教室を覗いてみる。すると、
「いい加減にしなさいよ!! いつまでそうしてるつもり!?」
「ア、アリサちゃん落ち着いて」
いきなり叫び声が上がった。見れば、バニングスがなのはを怒鳴りつけている。ついに堪えきれなくなってしまったのだろう。
「こないだから何話しても上の空でぼうっとして! そんなに私たちと話すのがつまらない!?」
「あ、ご、ごめんね、アリサちゃ」
「ごめんじゃない!!」
はっとした様子で、なのはがすぐに謝るが、それは彼女の神経を逆なでする行為でしかない。
「一体何があったのよ!? なんで話してくれないの!? そんなに私たちは頼りない!?」
バニングスの怒鳴り声は隣の教室まで響いたようで、この辺り一帯が静まり返る。それはバニングスの気持ちの強さを表しているように思えた。しかしやはりというか、なのはの態度が変わることはない。
「心配かけちゃって、ごめんね。だけど、大丈夫だよ。にゃはは…」
「っ!! もういいっ!!」
もうバニングスは限界だった。予想できた答えとは言え、いざそう返されれば心が痛まないはずがない。教室を飛び出して行ってしまう。
「アリサちゃん! なのはちゃん、ごめんね」
「ううん。こっちこそ、ごめんね…」
月村も慌ててバニングスを追って教室を出てしまう。教室にはもうなのはしか残っていなかった。
俺と同じく、成り行きを見守っていた他の生徒も次第に散り散りになって行く。教室に戻ろうという酔狂な奴は、当然いない。
なのは、ゆっくりした動作で弁当を取り出して、机の上に置いた。
教室に、たった1人で弁当を食べようとしている少女。それは、あまりにも痛々しい光景だった。
(……別にこのクラスのやつらを責めるつもりはない。だけど、それでも。この状況を、お前たちは放っておくのか?)
それは勝手な感情だった。バニングスや月村も含め、このクラスのやつらではなのはの悩みを解決することなどできるはずもない。そしてそれは、なのはも望んではいないのかもしれない。
(でも……、いや。俺ならどうだ)
彼女の悩みは大方見当がつく。そして俺は彼女の近くでそれを見てきて、魔法のことも知っている。これだけの条件を、俺は持っている。もし、もしも彼女が俺のことを頼ってくれるのだというのなら、俺は彼女の力になりたい。頼まれたからだけじゃない。俺自身が彼女に、笑っていて欲しいからだ。
昔、なのはと喧嘩をしたあの時に描いた絵を思い出す。
嘘偽りのない、心からの笑顔を浮かべた女の子。
(あれが俺の願い。だったら、今動かないでどうする!)
決意を胸に教室に足を踏み入れる。
ただ悩みを聞こうとしても、きっと何も変わらない。だから、ほんの些細なことでいい。きっかけを与える。俺から動くのはそこまででいい。あとは、なのは次第だ。
なのはのすぐ近くまで歩き、俺は声をかけた。
「~っ!! もういい!!」
「アリサちゃん! なのはちゃん、ごめんね」
教室を出ていく二人を見送る。私は気が滅入るのを自覚した。
(怒らせちゃったな)
無理もないと思う。自分で言うのもなんだけど、悩んでいるのはバレバレだったと思うし、すっごく苛々させちゃってるのもわかってた。アリサちゃんが怒るのは当然だ。
出来るなら相談したいと思う。でもこれは魔法のことだから。魔法の練習で疲れがたまってることも、ジュエルシード集めがうまくいっていないのも、フェイトちゃんやあの黒い人と最近会えないのも。ユーノ君は気にしないでって言ってくれるけど、だけど……。
「はあ」
ため息が出る。いろんなことが空回りしちゃって、うまくいかなくて、みんなに心配かけて。
(……わたし、何やってるんだろう)
もう一度出そうになったため息を飲み込む。このままでは気が滅入っていまいそうだった。私は首を振って鞄から弁当箱を取り出す。
(とにかく今は何か食べて気を紛らわそう)
そう思って包を解こうと手を伸ばした時だった。
「……なのは」
突然誰かに声をかけられた。
「え?」
その声には覚えがあった。少しトーンの低い、静かな声。それが誰のものか思い至る前に、私は反射的に振り向いていた。
そこにあったのは、整った顔立ちの男の子。無表情なのに、少しだけ長めの黒髪の間からこちらを見る瞳は優しげで、どこか安心できる。姿勢よく立つ彼の姿には、強さと頼もしさを感じて、だけどどうしてか、どうしようもなく儚いものに思える。そんな、不思議な男の子。
彼のことを、私は知っている。知らないはずがなかった。2年前、私を助けてくれて、家族を救ってくれた、大切な人。大好きな人。
「優雨、くん……!?」
(え!? なんで!? なんで急に!?)
あまりのことに、思考が暴走する。1年生の頃は話すことや翠屋に連れて行ったこともあった。だけど2年生に上がってからはクラスが変わってしまって、会いに行ってもいつもいなくて。
避けられているのは、なんとなくわかって、もう諦めたほうがいいと思った。すずかちゃんやアリサちゃんとも仲良くなって一緒に食べるようになったから。だけどやっぱり、どうしても忘れられなくて。
それがどうして今?
思考が回りすぎて目までグルグルしてきたところで優雨くんは手に持っていたお弁当箱を私に見えるように持ち上げる。
「久しぶりに、一緒に食べないか?」
「え? え!?」
一瞬止まった思考がまたグルグルと動き出す……前に、優雨くんは踵を返す。
「もし承諾してくれるなら、ついてきてくれ。いつも俺が食べてるところに案内するから」
「え!? あ、ちょっ…」
優雨くんはそのまま歩き出してしまって、私は考える間もなくそのあとを追った。
「ま、待って! 優雨くん!」
「アリサちゃん! っ、アリサちゃん!!」
私は飛び出していったアリサちゃんを追っていた。すると、ようやく気づいてくれたのか、階段を下りたところで肩で息をして止まっているアリサちゃんを見つけた。
「あ、アリサちゃ、!」
すぐ後ろまで走って止まる。アリサちゃんが肩を震わせていることに気づいたから。耳をすませば、僅かにだが嗚咽も聞こえる。
「……アリサちゃん」
「……わかってるわよ。私じゃダメなんだってことくらいっ。でも、だって、……」
アリサちゃんの悲痛の叫びに胸が痛む。アリサちゃんはただなのはちゃんが心配なだけなのだ。アリサちゃんは、ちゃんと全てを理解した上で、それでも怒ることしかできなかったんだ。
「……やっぱり、アリサちゃんもなのはちゃんのことが大好きなんだね」
「っ、当たり前じゃない! あの子がいたから今の私があるの。嫌いなわけ、ないじゃない…」
アリサちゃんの言葉は私にも当てはまる。なのはちゃんがいたから今の私がある。私とアリサちゃんをつないでくれた、大切な友達。だからこそ、苦しい。自分を頼ってくれないことも、自分が力になれないことも。
「だけど、あんな風に怒っちゃダメだよ。アリサちゃんが言ったとおり、私たちじゃなのはちゃんの力になれないのかもしれない。でも、だったら私たちは待ってよう? なのはちゃんが安心して戻って来れる場所にしようよ」
正直に言えば私も寂しい。だけど、気持ちを吐き出すことはアリサちゃんがやってくれたから。だから私は、いつもどおりこの位置にいようと思う。
アリサちゃんは乱暴に涙を拭って振り向く。
「わかってるわ。頭ではわかってるのよ。わかってるんだけど……」
いつも強気なアリサちゃんらしくもなく、弱気になる。アリサちゃんは嘘はつかないから、この言葉も本当なのだろう。だとしたら、今アリサちゃんを支配しているのは罪悪感だろうか。でも、
「しょうがないよ。私だって叫んでしまいたくなること、あるもん。今回だって、アリサちゃんが怒らなかったら私が怒っちゃってたかもしれないし」
これも本心だ。こう言ってはなんだが、アリサちゃんが先に怒ってくれてよかった。そのおかげで私は自分を保てたのだから。
しかし、そういった私をアリサちゃんは「ふ~ん」とジト目で見ていた。
「え? 何?」
「すずかが叫び散らして怒るなんて、全然想像できないわね。これは惜しいことをしたわ」
さっきまでの弱気はどこに行ったのか、本気で悔しそうにそんな事を言ってきた。
「あ、アリサちゃん!」
私は顔を真っ赤にして怒る。
「アハハ! ごめんごめん。つい、ね?」
アリサちゃんは笑いながら謝ってくるけど、こんな時に人をからかうなんてひどいよ……。
「ふふ、ありがとう。すずか」
「え?」
突然の感謝の言葉に私は自分が怒ってることも忘れてきょとんとする。
「だいぶ落ち着いたわ」
見れば、いつの間にかいつものアリサちゃんの顔になっていた。今の会話で、どうやら調子が戻ってきたみたいだ。
(でもそこまでの過程はちょっと納得できないような………)
そう思って膨れてみるが、アリサちゃんは笑うだけだった。
「さ、私たちもどこかでお弁当食べましょう。さすがに教室戻って食べるのもどうかだし」
「あ、うん。そうだね」
幸いお弁当を食べようとして集まっていたのもあって、私たちの手にはそれがある。
「じゃあどこで食べる?」
「んー、屋上でいいんじゃない? 久しぶりに」
そうして場所を決め、いざ移動しようと階段を登っていた時だった。
「ね、ねえ。どこに行くの?」
そんな声が上から聞こえた。その声に驚き私とアリサちゃんは顔を見合わせる。それはなのはちゃんの声だったからだ。そしてすぐにそれに答える声も聞こえた。
「屋上だ。いつも、そこで食べているんだ」
男の子の声。そのトーンの低い静かなその声は、どこか懐かしい。もしかしたら知っている人かもしれなかった。
そして今の会話は、なのはちゃんがその人と一緒にご飯を食べるということを示していた。
「……後をつけるわよ」
階段を登っていった二人に気づかれないようにか、アリサちゃんは小声でそう言うとゆっくりと歩き出す。私は慌ててそれを追いながら、アリサちゃんに合わせて、小声では話す。
「で、でも、なのはちゃんに悪いよ」
「なのはが心配だから行くのよ。それにすずかだって、どういうことなのか気になるでしょ?」
私の反論を聞かずにアリサちゃんは階段を登っていく。それを見て私は、仕方ないなあ、と息を吐くと、すぐにそれを追った。それに本当は、私も気になっていたから。
移動中、質問をすれば返してくれるけど、優雨くんの方から話しかけてくることはなかった。昔から、普段は口数が少なかったけど、今日は特にそうな気がする。
階段を登っていると、目の前に扉が見えた。優雨くんはそれを躊躇いなく開ける。屋上についたのだ。
屋上に出ると、ポカポカとした暖かい陽気に包まれた。優しい風が吹いて肌を撫でる。
アリサちゃんやすずかちゃんと一緒に屋上に来ることはあったけど、頻繁に来るようなことはなかった。優雨くんはいつもここで食べてたんだ。
「………」
扉を閉めると、優雨くんは端まで歩いて、塀に背中を預けるように座った。私もそれに倣って、優雨くんの隣に座る。
となりを見ると、優雨くんは淡々とお弁当箱を広げて食べ始めていた。終始無言無表情で、何を考えているのかもわからない。
どうして急に一緒にお弁当を食べようと思ったのか。そもそも、どうしてこれまで私を避けていたのか。聞きたいことはたくさんあるけど、まだ頭の中が整理できなくて、質問も喉で詰まってしまう。
「……食べないのか?」
「え!?」
急に話しかけられて体が跳ねる。気づけば私をじっと見つめていた。私は慌てて「た、食べるよ?」と言いながら、お弁当を開ける。
お母さんが作ってくれたお弁当。……あの頃はそんな暇すらなかったけど、今はそうじゃない。たぶん優雨くんがいなくても、きっと同じようになっていたと思う。
(だけどやっぱり、これは優雨くんのおかげだって私は思うんだ)
優雨くんがいてくれたから、私は救われた。あの時の言葉は今でも覚えている。
(「お前には、本当のお前の笑顔でいてほしい」)
そう言われた時の衝撃は忘れられない。ずっと隠し通せていると思っていたから。
(「誰でもいい。お前の気持ちを受け止めてくれる誰かに、正直にその気持ちを打ち明けてしまえばいいんだ。そうすれば、きっとそいつはお前が求めているものをくれる」)
きっとずっとそうしたいと思っていたこと。だけどそれができる人がいないと、この時の私は思っていた。
(「もし、それができる相手がいないなら、俺に言えばいい」)
だからその言葉は、何よりも求めていたもので、何よりも大切なことで。
(「さっき言った通り、俺には何もできないかもしれないし、頼りないかもしれないけど、でも、話を聞くことぐらいはできるから。お前を、1人にはさせないから。だから、本当のお前でいてくれ」)
「……!」
危うく涙が出るところだった。深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
あの時のことを思い出すと今でも嬉しくて、嬉しすぎて泣いてしまいそうになる。
(……優雨くんは、覚えてるのかな)
もし覚えていないのなら、少し寂しい。それはつまり、あの出来事は優雨くんにとってそれほど重要ではなかったということだから。
ずっと暗い気持ちだからだろうか。不安が大きくなる。
聞いてしまおうか。だけど、もし本当に覚えていなかったらと思うと、どうしても声にならなかった。
(……駄目だな、私。優雨くんに大切なことたくさん教わったのに、全然実践できてないや)
今思えば私の方こそ、辛ければ誰かに相談しろという優雨くんの言葉を忘れていたように思う。そこで、はたと気づいた。
(もしかして、優雨くんは自分に相談しろって、言ってくれているのかな……?)
もう一度あの時の言葉を思い返す。
(「もしそれができる相手がいないなら、俺に言えばいい」)
今回のことは、魔法に関わることだから誰にも言えない。誰にも相談できない。そう思っていた。
けどもしかしたら、優雨くんになら話してもいいのかもしれない。できる限り魔法のことは伏せるけど、優雨くんになら、ちゃんと相談できるかもしれない。
そう思ったら、もう気持ちを抑えることはできなかった。
もともと苦しくて、誰かに相談したかったのだ。それができるかもしれない相手が目の前にいて、ほかの誰にも聞かれる心配もないこの状況で、耐えられるはずもなかった。
「……ね、ねえ。優雨くん」
「なんだ?」
優雨くんは食べる手を止めて私に目を合わせた。それはやはり、話を聴こうとしてくれているように見える。
(やっぱり、そういうことなんだ)
何でもない話をする時の態度とは違う真剣な様子から、優雨くんが初めからそのつもりでいたことを確信する。
「え、っとね。ちょっと聞いて欲しいことがあるの。いいかな?」
「……ああ」
優雨くんらしい短い答え。いつもと同じ無表情だけど、その瞳はまっすぐ私を見てくれている。
私は意を決して、悩み事を話し始めた。
私は少し怒っていた。
理由はあるのだと分かっているけど、なのはが私たち以外の、それも男の子に誘われて一緒に行動するなんて……。
これがなのはの抱えた悩みに関わることなのかどうかはわからないけど、もし私たちにできないことがその男の子にできるのだとしたら。
もしそうならその男の子はなのはにとって、私たちよりもなのはの力になれるということ。
それが、なのはのことを親友だと思っているからこそ、どうしても嫉妬してしまう。
(とにかく、まずはどういうことなのか確かめなくちゃ)
屋上のドアをゆっくりと開け、覗いてみる。すると、なのはが男の子に何かを話している姿が見えた。
「……っ」
流石に遠くて、内容までは聞こえない。だけど2人の様子から、なのはが男の子に何かを相談しているのだということがはっきりとわかった。
思わず目をそらす。
「アリサちゃん。大丈夫?」
すずかの心配するような声。おそらく今の私の態度で、状況を察したのだろう。私はそれに、ただ頷いて答える。
これは、ちょっとした悪夢だ。私たちは、なのはの一番の親友だと思っていた。だけど今なのはは、私たちではなく別の人に悩みを打ち明けている。私がどれほど言っても何も教えてくれなかったなのはが。
それはつまり、さっきの仮説が証明されということでもあった。
「………、っ…」
悔しさでどうにかなってしまいそうだ。この憤りを今すぐ何かにぶつけたい。
だけどどうにかしてその衝動を抑え込む。悔しいと思うと同時に、彼女の悩みがこれで少しでも前進するのなら、それが一番いいということも理解しているから。
ふと、そんな私たち以上になのはの力になれる男の子というのは誰なのか気になった。あの時聞いた声はどこか聞き覚えがあるような気がしたし、もしかしたら知っている人なのかもしれない。
もう一度屋上を覗いてみる。なのはと、その隣に座る男の子。ぱっと見、クラスの男子ではない。目を凝らしてよく見れば、やはりどこか見覚えのある顔だった。
(……それにしても、悩みを聞いている割には随分と無表情じゃない。愛想がないっていうか。いったい誰……)
「………え?」
無表情。愛想がない。それがとても心に引っかかった。同時に1年前の記憶が呼び起こされる。
1年前に出会った、いつも無表情で、愛想がなくて、強くて、優しくて、儚げで、不思議な、私を助けてくれた男の子。
慌ててもう一度その顔をよく見る。それは今度こそ、記憶の中のあの男の子と重なって。
「……優雨?」
「え?」
思わず呟いた名前にすずかが反応する。だけど私はそれに構っている余裕はなかった。
ずっともう一度会いたいと思っていて。同じ学校だってわかっても、クラスに行くといつもいなくて。
(それが、なのはと友達だった?)
ショックが大きくて体が動かない。一体何がどうなっているのか、全く頭がついてこなかった。頭がぐるぐると回って吐き気までしてくる。
「ねえ、アリサちゃん。今、優雨…くんって、言った?」
「え?」
と、すずかが唖然とした様子でそう聞いてきた。私もその予想外の質問で、つられたように唖然となる。
しばらく互いに見つめ合って、もう一度、すずかは質問してきた。
「アリサちゃん。なのはちゃんと一緒にいる男の子って、もしかして、億夜優雨くん?」
「!!」
目を見開く。驚きすぎて言葉が出てこない。すずかはそれをどう受け取ったのか、私を押しのけて屋上を覗きこんだ。
「………優雨、くん……」
信じられないものを見たような声。そんなすずかの様子を見て、ようやく気持ちが落ち着いてくる。
(これって、もしかしてすずかも優雨のことを知ってたってこと?)
確かめたくてすぐにすずかにそれを聞くと、すずかは戸惑いながらも頷いた。
なんということだろう。私たちは互いが知らないうちに、優雨と交友関係にあったのだ。なんという偶然だろうか。
「すずかはいつ頃優雨と知り合ったの? 私は2年生の始めころなんだけど」
そう聞くと、すずかも少し落ち着いたのかすぐに答えてくれる。
「私は1年生の秋。なのはちゃんやアリサちゃんと友達になる少し前だよ」
私たちが友達になったのは1年生の2学期。秋も終わりが近づいた頃だ。それ以降、私たちは一緒に行動している。思えば、確かに1年生のクラスメイトの中に優雨のような子がいたような気がする。
(……でも待って)
しかしどんなに思い出を漁って見ても、すずかが優雨に話しかけている姿はない。2年生のころはクラスが変わっていたが、1年生ではまだ2学期も終わっていないし、3学期だってあった。なのに何故ないのだろうか。
「ねえすずか。どうして私たちが友達になったあと、優雨に話しかけなかったの?」
そう聞いてみると、すずかは困ったように笑った。
「その、2学期の終わり頃までは、たまにお話する時もあったんだよ? だけど3学期に入ってからはなのはちゃんやアリサちゃんと一緒に行動することが多くなったから、いつの間にか優雨くんと話す機会がなくなっちゃって」
……あー。それはなんとなくわかる。
確かにあの頃から一緒にいるのが当たり前みたいになって、みんな他の子と話す機会なんてほとんどなかったように思う。
「それになんていうか。優雨くんって、あまり人と接したがらないところがあったから。授業が終わるとすぐどこかに行っちゃうし」
「ああ。そういえばそうだったわね」
確かに私が優雨を探した時も、いつも教室にはいなかった。まるで誰かと接することを避けているかのように。
そこでふと思い出した。2年生の1学期の前半まで、なのははいつも誰かを探していた。1年生の頃は教室を見回して、2年生になってからは別の教室まで。あれは、優雨を探していたのではないだろうか。
今思えば、なのはがいつも顔を出していたのは、私が優雨を探していた教室と同じだった。
その事実に、思わずため息が出る。
「……ねえ、アリサちゃん」
「なに?」
名を呼ばれて顔を上げると、すずかが優しく微笑んでいた。
「なのはちゃんのことは、優雨くんに任せてみない?」
すずかが出した提案。それは、私たちは手を引くということだ。もしこれがほかの男の子だったら、私は却下していただろう。しかし、
「………そうね。優雨になら、任せてもいいかもね」
不思議と相手が優雨だとわかったとたん、さっき感じた悔しさはなくなっていた。優雨だったのなら仕方がないと、そう思えたのだ。
私は昔、優雨に助けてもらった。ここではそれを語りはしないけど、優雨が馬鹿みたいに優しくて、頼りになるやつだってことを私は知っているから。
すずかは優雨とどんな出会いをしたのか私は知らない。けど、こんな提案を出したのだから、きっと優雨になら任せても大丈夫だと思ったのだ。
「さて、それじゃあ行きましょうか。早くしないとお弁当が食べられないわ」
驚きの連続で力が入ってしまっていたのか、固まった体を伸ばして解す。
「ん~、そうだね。教室で食べよっか」
すずかも体を伸ばしながらそれに同意する。気づけばすっかりお腹が減ってしまっていた。
「そうと決まれば、急ぐわよ!」
「あ!? ま、待ってよ~!」
言うと同時に、私は駆け足で階段を降りる。慌ててすずかは体を解すのを中断して追ってきた。
初動の差で随分と差が開いた気もするが、もともと私よりすずかの方が運動神経はいいのだから問題はないだろう。
私は、久しぶりに心から笑っていた。
優雨くんに魔法のことを抜きにして全部話した。
友達の大切な落し物を探していること。寂しそうな目をした女の子のこと。儚げな男の子のこと。
2人のことをもっとよく知りたい。だけど対立してしまっていて話を聞いてはくれないし、そもそもなかなか会うことができなくて。それが気になって落とし物探しもうまくいかなくなって。探し物に必要な準備や練習で疲れも溜まっちゃって、それが悪循環になってしまって。
どうしたらいいのか、わからなくなってしまった。
優雨くんは、それをただじっと聞いてくれていた。それが何よりも嬉しかった。明確な答えが返ってこなくてもいい。悩みを打ち明けることができただけで、すごく気持ちが楽になったような気がする。
最後まで話すと、優雨くんは少しの間目を瞑った。たぶん考えをまとめているのだ。優雨くんはちゃんと答えを出してくれようとしてくれていた。
少し経って、優雨くんが顔を上げて私を真っ直ぐ見る。そして、一言こう言った。
「それで、なのははどうしたいんだ?」
「え?」
私は優雨くんの言っている意味がよくわからなかった。もっと二人のことを知りたい。だけど、どうしたらいいのかわからい。そう私は言ったのに、どうしたいか、なんて………
「するべきことを聞いてるんじゃない。なのはその二人のことを知るために、どうしたいんだ?」
するべきことではなく、どうしたいのか。わからないと思っているのはするべきこと。
なら私はその二人とどうしたいの?
私は二人のことをもっと知りたくて………
だから、私は二人と、もっと………
「話したい」
そして、もしできるのなら――
「力になりたい」
私はいつの間にか声に出していた。そしてそれを聞いた優雨くん「そうか」と頷く。
「なら、そうすればいい。会えないといっても、この先機会が全くないわけじゃないんだろ? だったら諦めないで、今はその時を待て。そしてその時が来たら、お前が望むままに、お前の思いをそいつらにぶつけてやれ」
「私の、思い……」
優雨くんの言葉を反復すると、「そうだ」と力強く答えてくれる。
「自分の気持ちに正直になれ。お前がそうしたいと思ったのなら、そうすればいいんだ」
優雨くんは、私を諭すようにそう言う。そこには優雨くんの別の気持ちもあるように感じた。
そして気づく。優雨くんはあの時と同じことを言っているんだ。
(「誰でもいい。お前の気持ちを受け止めてくれる誰かに、正直にその気持ちを打ち明けてしまえばいいんだ。そうすれば、きっとそいつはお前が求めているものをくれる」)
私の正直な気持ち。そうしたいと思ったこと。
私は今回もあの時と同じように、自分の気持ちを押し込んでいた。誰にも言えない。話すわけにはいかないと、そう思っていた。
それを優雨くんは、そうじゃないって。あの時と同じように、誰かに頼ってもいいんだって、そう言ってくれてるんだ。
そしてそれは、私のあの2人への気持ちにも言えること。
(しなければならないことじゃない。取り繕った気持ちじゃない。本当の私がこうしたいと思ったこと。あの2人と話したい。自分の気持ちを伝えるために。2人のことを知るために!)
いつの間にか、随分と心も体も軽くなっていた。悩みは、はっきりとした目標に変わったのだ。
「俺に出来るのはここまで。あとはお前次第だ」
いつの間にか外れていた視線を優雨くんに戻すと、優雨くんもまた私をまっすぐ見てくれて、そして一言だけ、
「がんばれ」
と、そう言ってくれた。
「………うん。うん! 私、頑張ってみる!」
たった一言。そう言ってくれることが、どれだけ大きいか。私はそれを初めて実感した気がした。
「さ、いい加減時間もない。とっとと食べてしまおう」
「うん!」
残っていたオカズを口に運ぶと、今まで以上にそれが美味しく感じる。その美味しさに顔を緩ませながら、私は心の中で優雨くんに、もう何度目かわからない感謝を述べる。やっぱり優雨くんに相談してよかった。
「ああ。後その準備や練習とやらはほどほどにしておけ。何をしてるのかは知らないが、疲れが溜まったままでは本番で失敗するぞ」
「あ、にゃはは……。分かった」
どこかで誰かが、応援しているような、そんな気がした。
アルフ
なのはとフェイトの二度目の対決。
なのはは優雨の言葉を胸に思いのままに言葉をかける。
フェイトは母の願いを胸に自分を殺して目的を優先する。
そして優雨はフェイトとの約束の通り、それに介入せずに見ていた。
しかし………
次回 「戦いの果て」
作者「ようやくここまで来ました」
アルフ「8話でこれならそんなもんな気もするけど、書いてるとやっぱり違うもんなのかい?」
作者「まあ、いろいろと。さて、次回は少し自己解釈が入ってきます」
アルフ「自己解釈?」
作者「言ってしまえば勝手な設定。この方が面白そうだから、みたいな」
アルフ「ふ~ん。でも、あんまりフェイトを傷つけるんじゃないよ」
作者「ふははは。フェイトの代わりに彼が傷つくから大丈夫さー」
アルフ「………ほんとに主人公に容赦ないね」
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作者「ようやくここまできました!」
アルフ「遅い!」
優雨「遅かったな」
作者「(´・ω・`)」
優雨「というか、今回は随分と変更したな」
アルフ「後半でやるはずの部分もここにつっこんでるよね。これ」
作者「今回の修正で、実は全員優雨と出会っていた、ということをなのは以外は認知しました」
アルフ「なんでそうしたんだい?」
作者「アリサとすずかの描写を追加したらいつの間にかそうなった」
アルフ「………」
優雨「つまり行き当たりばったりでいつの間にかこうなったということか」
作者「Yes! しかし後悔はしてない!」
アルフ「はあ。まあ、そんなもんかもね」
作者「さて、とにかく次からは戦闘メインの話がしばらく続くし、改めて気合を入れていきま
す!」
優雨「次の更新がいつになるかはわからないが、最低でも1ヶ月以内に投稿するつもりだ」
アルフ「最新話はまだかという人は、まあ、この更新も最新話みたいなもんだし、もうしばらく
我慢してくれな」
作者「ではまた!」ノシ