魔法少女リリカルなのはEX・S 過去にとらわれた転生者   作:レイレナード

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今回から以前の前書きを入れないことにしました。物語に関係ないことが続いてますしね。

久しぶりの投稿です。学校を卒業して仕事をし始めるとなかなか気が乗らない物ですねー。と言い訳しつつ、本編をどうぞ。


Episode11 執務官(改)

 ……?

 

 ここは、どこだ?

 

 確か俺は、なのはとフェイトの戦いを見ていて、ジュエルシードが暴走して――

 

「……っ!」

 

 体に痛みが走り、朦朧としていた意識が覚醒する。

 

 重い瞼を開けると、良く知った天井が見える。この世界に生まれてから4年間見続けてきた天井だ。

 

(俺の家の、ベッドの上か。アイギスが転移してくれたんだな)

 

 だが左腕にデバイスの感触はなく、体にも布団がかけられているようだ。アイギスにそんなことはできない。

 

 不思議に思いながらも、痛みをこらえて体を起こす。すると、頭から濡れたタオルが落ちた。体にも包帯が巻いてあるのを確認する。どうやら、誰かが看病をしてくれたらしい。

 

 この家を知っているのは今のところ近所の人や児童相談所の人、学校の担任、そしてフェイトとアルフくらいしかいない。その中で今回俺がこんな状態になったことを知っているのはフェイトたちだけだ。

 

(となると、これはフェイトかアルフがやってくれたということか)

 

『あ、起きたのですか。マスター、無理をしないで寝ていてください』

 

 声がしたほうを見ると、ベッドのすぐわきの棚に点滅する黒い宝石が目に入った。

 

「……大丈夫か?」

 

 声を出していないのに点滅しているのは、自動修復が機能している証だ。やはりあの砲撃を防ぎきるためにアイギスにも相当の無理をさせていたらしい。

 

『マスターに比べたらどうってことありません。もうほとんど修復は終わっています』

 

 そうアイギスは言うが、アイギスの引き出せる限界の処理速度でフルに自動修復を起動させていた痕跡がある。おそらく嘘は言っていないのだろうが、俺に合わせて無理をしてくれていたのはすぐにわかった。

 

「……そうか。ありがとう」

 

 だがそれを指摘する必要などないだろう。だからせめて、感謝だけは伝えておく。

 

「………俺が気を失ってからどれくらいたった?」

 

『20時間ほどです。勝手ながらあそこから転移させてもらいました』

 

 指示を受けずに勝手な判断で転移したことをアイギスは気にしているようだ。しかしアイギスがそうしていなければ俺はすぐに安静な状態にならなかっただろうし、助かった面の方が多い。

 

「いや、助かった。ありがとう」

 

 俺がそう言うとアイギスはそれに応えるように自動修復とは違う強さで光った。

 

『あ、それとマスター。フェイトさんから伝言です』

 

「伝言?」

 

 あの状況ならアイギスはすぐに転移していたはず。となれば、やはりここに来ていたのはフェイトたちだったということだろう。しかし伝言とはいったい何を……。

 

『流しますよ。……「――優雨。その、ありがとう。私を庇ってくれて。だけど、しばらく休んでて。私たちのことは心配しないでいいから。それと、あの白い魔導師の子が、ありがとうって。……それじゃ、また来るね――」……以上です』

 

「……そうか」

 

 ありがとう。そう言ってもらえたことは、素直に嬉しいと思う。だけど今のフェイトの声音は震えていた。きっと泣いていたのだ。彼女は優しい子だから、自分のせいで俺が傷ついてしまったのだと、自分を責めているのだろう。

 

 本当は、ただの俺の自己満足のためだというのに。

 

「……俺の体はどんな具合だ?」

 

『……絶対安静、ですね。少し動くだけで全身が痛いはずです。それにリンカーコアにはかなり無理が来ています。少しは回復しましたが、あの時は少し罅が入っていました』

 

 確かにあの時、胸の奥にまるで罅が入ったように痛みが走った。あの時感じた通り、あの痛みはリンカーコアのそれだったのか。

 

『はっきり言いますが、しばらく魔法は使えません。今魔法を使えば、またリンカーコアに負担をかけることになります。そうなればせっかく少し回復したのにまた同じ状態に、いいえ、それ以上に悪い状態になる恐れがあります。もしそうなれば、二度と魔法が使えなくなるかもしれません』

 

「………」

 

 まるでそうなってしまうことを恐れているかのように、アイギスが忠告してくれる。アイギスが言っていることはおそらく正しい。本来なら、しばらく安静にして、魔法など使うべきではないのだろう。だけど、もしまたあの二人が危険な状況になったら、その可能性が少しでもあるのなら、俺はじっとしていられるだろうか。

 

 特にフェイトは、その戦う理由を能力によって知ってしまった。フェイトとなのはに触れた時に見えた二人の記憶。なのはの記憶は俺も知っている事、そしてアリサやすずかの事だった。なのはの傷はよく知っている。だからこそ、絶対に護りたい。

 

 そしてフェイトの記憶は幼い日の楽しい思い出と事故の事、そして変わってしまった母や新たな家族との生活と別れ。その母からの頼みでフェイトはジュエルシードを集めていた。鞭で打たれたり、怒鳴られたり、虐待されたりしながらも、フェイトは母のためにと頑張っていた。昔みたいに笑ってほしくて。

 

 だから余計に放っておけない。そんな健気な頑張りを放っておけるはずがない。

 

 できればあの記憶のように笑っていて欲しい。母親とともに笑っていて……?

 

 そう考えた時、どこか違和感を感じた。同じような感覚をフェイトの記憶を見てしまった直後も感じたことを思い出す。それがいったい何なのか、いくら考えても答えは出なかった。

 

 説明できない違和感を、頭を振って消す。今悩んでいてもどうしようもないことだ。そうして頭をクリアにしたからだろうか、唐突にジュエルシードの反応があることに気付いた。

 

 無意識のうちに位置を特定し、ベッドから出る。

 

『マスター!!』

 

「! ………」 

 

 アイギスの怒鳴り声で自分が何をしようとしているのか、遅れて理解した。俺はその場所に行こうとしていたのだ。もしかしたら魔法を使ってしまうかもしれない場所に。

 

 だけど、それは俺の行動を止めるほどの意味を持たない。自分の体の心配など、俺はしていないのだから。

 

「悪いアイギス」

 

 アイギスを首にかけ、一言だけ謝る。それがアイギスの望むもとではないと分かっているけど、それでも。

 

「俺はやっぱり、あいつらを放っておけない」

 

『マスター、ダメです!! マスター!!!』

 

 俺はアイギスの心配も痛む体も無視して歩き出した。

 

 

 ジュエルシードの反応を示した海沿いの工場を目指し、俺は足を引きずるように歩く。まだ走れるほど体も回復してはいない。

 

 だがそれならそれでやれることはある。俺はアイギスを左腕に装着し、以前作っておいたカートリッジを装填する。

 

「アイギス、今回戦闘になったときはカートリッジの魔力とデバイスの予備の魔力だけを使う。カートリッジの魔力を俺の魔力とせずに、その全てをデバイスから使用すれば俺のリンカーコアへの負担をかなり軽減できるはずだ」

 

 負担を0にはできない。何故なら魔法を使うとき、俺たち魔導師は無意識のうちにリンカーコアを使ってしまうからだ。いくら魔力コントロールを重点的に鍛えてきたとしても、意識してそれを封じきることはできない。それができるのは、特殊な装置や特別な才能が必要だろう。だがそれでも、消費を極限まで抑える事ならできる。

 

『確かにそれなら軽減できますが、全くないわけではありません! 今のマスターのリンカーコアでは、その程度の負担でも危険です!』

 

 アイギスの言うことは的を得ていた。少しだけ魔力運用を試みてみたが、空気中の魔力素を取り込んだ瞬間、凄まじい激痛が走った。リンカーコア自体が壊れかけているのだ。無いも同然の負担でも危険だと言える。俺の示す方法は単なる気休めでしかない。

 

 今無理をすれば、確実に魔法が使えなくなる。

 

「それでも俺は、あいつらを放っておけないんだ。アイギス頼む。俺の願いのために、力を貸してくれ」

 

 今の俺に魔法を扱う力はほとんどない。そのためにはアイギスの協力が必須だ。だから卑怯な頼みだと分かっていても、俺はそれをアイギスに告げる。

 

『……っ、~~っ、……わかりました』

 

 しばらく唸っていたが、どうやら折れてくれたようだ。俺の願いのため。その願いをアイギスは知っているから。だから必ずそう答えてくれると、わかっていた。

 

(最低だな。俺は)

 

「すまない。……ありがとう、相棒」

 

 だからせめて、そう言わせてもらう。何度だって俺は、その言葉をアイギスに言うだろう。相棒という、信頼と一種呪いのような言葉とともに。

 

『っ。で、ですが! 危なくなったら私の独断ですぐに逃げますよ! 絶対です!』

 

 その言葉に乗せた思いに気付いたのか、アイギスは慌てたようにそう言ってくれた。たとえ相棒という関係に縛られていようと、だからこそ、必ず護ると。こんな俺にそう言ってくれているのだ。

 

「ああ。その時はそうしてくれ」

 

 だから俺は、自分の命をアイギスに委ねる。俺だけでは自分の命すら平気で捨ててしまうだろうから。

 

 その時、一瞬だったが、なのはが工場へ向かって走って行くのが見えた。なのはが先につくか、それともフェイトもすでにそこに向かっているのか。

 

 いずれにしても、急ぐ必要がある。もしもに備えアイギスを起動状態に変更し左腕に装備し、少しだけ歩くスピードを速めた。

 

 

 

 反応のあった工場にたどり着き、ジュエルシードの反応に近づいて行くと、なのはの後ろ姿が見えた。その向こうにはフェイトもいる。

 

 どちらもジュエルシードを一瞬見据え、向き合う。

 

「あの、フェイトちゃん」

 

「……フェイト・テスタロッサ」

 

 なのはが彼女の名を呼ぶと、フェイトははっとしたように自分の名を告げた。そして少しだけ申し訳なさそうに続ける。

 

「ごめん。彼のデバイスに言伝を頼むことしかできなかった」

 

 それはおそらく、アイギスが聞かせてくれた彼女の伝言の中にあった、白い魔導師からの言伝のこと。心優しいフェイトのことだ。直接伝えられなかったことを悔やんでいるのだろう。

 

「! ううん。ありがとう。大丈夫だよ、きっとちゃんと伝わったと思うから」

 

 なのはもそれを責めることはなかった。むしろ、ちゃんとそれを伝えようとしてくれたことに感謝しているように見える。

 

 なのはは、フェイトがどんな奴なのかちゃんとわかっているのかもしれない。

 

「フェイトちゃん。私はただフェイトちゃんと話がしたいだけなの。だから……」

 

 だからなのはは何度でもそれを伝える。戦いたいのではない。相手のことをちゃんと知りたい。そのために、ちゃんと話をしたい。それはあの屋上で、なのはが俺に教えてくれた彼女の心からの願いだ。

 

「私は、退けないから」

 

 その願いを一言で切り捨て、フェイトはバルディッシュを構えてバリアジャケットを身に纏う。母の願いを叶えるため。もう一度、優しかった日々に戻るため。彼女には退くという選択肢はもちろん、譲るという選択肢もない。

 

「なら、私も退けない」

 

 それに動じることなく、なのはもレイジングハートを構えてバリアジャケットを纏った。

 

「話をしたいから。どうしてジュエルシードを集めてるのか。どうして、そんな悲しそうな眼をしてるのか」

 

「……っ」

 

 なのはの想いと言葉に、フェイトは揺れそうな瞳を強くする。

 

 悲しそうな眼。それはフェイトの本心の表れだ。だけどフェイトはそれに負けるわけにはいかない。なのはに、願いと目的があるように、フェイトにも叶えたい願いがあるから。

 

「私が勝ったら、お話し、聞かせてもらうよ!」

 

 力強くなのはがそう言うと、それを皮切りに二人は動いた。

 

 戦いの始まりを、俺はただ見守ることにする。これは二人の思いのぶつかり合い。譲れない願いがあるから。

 

 だけど俺は、なのはの思いがフェイトに届いてほしいと思う。二人の事情を知っているから。きっとそれが、フェイトにとってもなのはにとっても、一番いい結果を生むと確信できる。心を休められる場所が、幸せになれる場所が、フェイトには必要なはずだから。

 

 二人は互いに向かって走り出し、一気に距離を詰める。そして互いにデバイスを振りかぶった。

 

 しかし、それがぶつかり合うことはなかった。

 

「「「!」」」

 

 二人の間に青白い光が下りたことで、二人の動きが止まる。

 

「そこまでだ!」

 

「っ!」

 

「あ!」

 

 その光が消えると、そこには黒いバリアジャケットを着た少年の魔導師がいた。しかもいつの間にかなのはとフェイトの両腕両足がバインドで拘束されている。

 

(速い……っ)

 

 転移魔法による移動と、そこから二人を拘束したバインドまで、その動きを追うことができなかった。その早業に俺は思わず息をのむ。

 

「時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」

 

 クロノ・ハラオウンと名乗った少年が頭の上に手を掲げるとそこにいくつかの情報が記載られた画面が立体画像のように現れる。しかしそこに記された言葉はこの世界のものではないようで、俺には何が書いてあるかはわからない。だがあれは証明書のようなものだろう。ならば内容は、今本人が名乗った通りということだ。

 

 それにしても「時空管理局」か。あのアニメにもそんな組織がいたかもしれないが、妹に付き合って見ていただけだからほとんど覚えていない。名前から察するに、この世界はいくつかの次元があるそうだから、それらすべての管理でもしてるのか?

 

「ここでの戦闘は危険だ。詳しい事情を聞かせてもらえるか?」

 

 ハラオウンはなのはとフェイトを交互に見ながら問いかける。なのはは未だ呆然としていてハラオウンの話を聞いていたのかどうか怪しいものだった。だがフェイトの方はすぐに状況を把握したのか、ハラオウンを睨みつける。

 

(時空管理局と言う名とフェイトの反応から察するに、フェイトたちにとって時空管理局は敵ということか)

 

 時空管理局とやらが定めている法がどんなものかはわからないが、フェイトたちがやっていることがあまりほめられたものでないのは確かだろう。管理者側から見ればそれは違法。ならば当然、両者は対立するしかない。

 

 しかし状況は圧倒的にフェイトに不利だ。バインドによって捕らえられてしまっていては、そこから抜け出そうとした瞬間に攻撃される。高速戦闘を得意とするフェイトの薄い装甲では致命的だ。これでは下手に動けない。

 

 その時、ハラオウンに向かってオレンジ色の魔力弾が放たれた。それに気付いたハラオウンは即座にシールドを張って防御する。

 

「フェイト! 撤退するよ!」

 

 魔力弾の放たれた方を見るとアルフがコンテナの上にいた。周りには4つの魔力スフィアが展開されていて、いつでも魔力弾を発射できる状態になっている。

 

 ハラオウンの行動は速く、すぐに魔力をチャージしデバイスをアルフに向ける。しかし自分の後ろになのはがいることに気付き、反撃を断念。再びシールドを展開し、アルフが連射する魔力弾を防いだ。

 

 しかしそれによって発生した衝撃により、三人の姿が見えなくなるほどの砂埃が立ち上がる。おそらくアルフの狙いは初めからこれだろう。この隙にフェイトがバインドを解いて脱出すれば、速度のある二人なら逃げ切れる。

 

 狙い通り、すぐにフェイトが砂埃の中から出てくる。しかしその向かう先はジュエルシードだ。

 

「フェイト!?」

 

 フェイトのその行動にアルフが驚いて思わずと言ったように連射と止める。敵対者が増えた以上、数で不利なフェイトたちはすぐに逃げ中ればならない。だというのに、フェイトはなおジュエルシードを狙っているのだ。それだけフェイトの願いが強いということだろうが、その行動はあまりにも無鉄砲すぎる。驚くのも無理はない。

 

(だが、これは大きな隙だっ)

 

 さっきの早業をやってのけたハラオウンなら、確実に何かしら手を打ってくるだろう。そしてもし、それが攻撃という手段だとしたら……

 

「ジャンプ・ステップ!」

 

『ちょっ、マスター!?』

 

 アイギスのカートリッジを1つ使用し、ジャンプ・ステップを発動させる。直後、胸に激痛が走るが今は無視だ。

 

 転送先はハラオウンがいた場所とフェイトの直線状。

 

 その後、すぐにバリアジャケットを展開し、同時にアイギスのカートリッジを使ってシールドをハラオウンの方向に向けて張ろうとする。しかし――

 

「っ! ガッ!」

 

 転送した直後。振り返る暇も、それこそバリアジャケットを展開する暇すらもなく、魔力弾が俺の背に直撃した。かすかに見えた魔力色は青白く、ハラオウンが撃ったものだということがわかる。

 

 どうやら非殺傷設定にはなっていないようで、とてつもない衝撃によって弾き飛ばされ、数メートルほど地面を転がった。直撃した背中からは血が出ていて、鈍い痛みが体を襲う。

 

「優雨!?」

 

 俺の声が聞こえたのか、フェイトが俺に気付いた。慌てたように立ち止まってこちらに来ようとする。

 

「来るな!!」

 

「っ!」

 

 だが俺がそう叫んだことでフェイトはその場に留まった。今は一刻も早くフェイトたちを離脱させなければならない。もたもたしていてはハラオウンが来てしまう。

 

「ジュエルシードを持って早くこの場を離れろ!!」

 

「で、でも」

 

「急げ!!」

 

 しかしフェイトはなかなか動こうとしない。おそらく俺が自分を庇って傷ついたことがわかっているからだ。その罪悪感がフェイトを動けなくしている。

 

「させない!」

 

 俺がフェイトに呼びかけていると、ハラオウンのほうの煙が晴れたようだ。すでにデバイスを構えて魔力弾を構成している。その照準はフェイトだ。

 

「くそっ」

 

 すでに満身創痍の俺はその場を動けず、フェイトを庇うまで間に合わない。

 

「フェイト!」

 

「!? しまっ――」

 

 そしてそのフェイトはアルフの声でようやくハラオウンが自分を狙っていることに気が付いた。今からではハラオウンの攻撃を回避することはできないだろう。

 

 しかし、それは予想もしなかった方向から止められた。

 

「駄目!!」

 

「!?」

 

 なのはだ。なのはが必死にハラオウンに呼びかけている。

 

「撃っちゃ駄目!!」

 

 そんななのはを見て、ほんの少しだけフェイトの瞳が揺らいだ気がした。ハラオウンも多少動揺している。なにせ今から戦おうとしていたところからして敵同士であるはずのなのはがフェイトを庇っているのだ。訳が分からなくなり、動揺してもおかしくはない。

 

 だが、これはチャンスだ。俺はハラオウンに気付かれないように念話をフェイトとアルフにつなげる。

 

《今のうちだ! 行け!! フェイト!!》

 

「! でも……、でもっ」

 

 こちらがどれだけ呼びかけてもフェイトは動こうとしない。それどころか俺の制止を振り切ってこちらに走り出していた。

 

「! 逃がさない!」

 

「っの、させるか!」

 

 それに気付いたハラオウンが再び杖を構える。だが今回は間に合わないタイミングじゃない。カートリッジを消費し、単発の魔力弾をハラオウンの足元に向かって撃ち放つ。同時にさっき展開し損ねたバリアジャケットを纏う。

 

「っ、この!」

 

 それを飛び跳ねて避けたハラオウンは照準を俺に変更して撃つが、俺もその場を跳ねてギリギリで避けた。その合間にも俺は呼びかける。フェイトではなくアルフに。

 

《アルフ! 早くフェイトを連れて行け! フェイトを護れ!!》

 

《……っ。わかったよ!》

 

「っ! アルフ!?」

 

 アルフはすぐに高速魔法を使って移動し、こちらに走るフェイトを担いで止める。さらにハラオウンが俺に意識を向けている間にジュエルシードを掴みとった。

 

「アルフ離して! このままじゃ優雨が!」

 

「フェイト……。っ、ごめん!」

 

「優雨! 優雨!!」

 

 アルフはファイトの言葉を無視して、その場から大きく飛び跳ねた。

 

(フェイト、泣いてたな。そんな風に思ってくれる価値なんて、俺にはないのに)

 

 フェイトを護れ。アルフにとって何よりも大切で、絶対に行動するであろう言葉。それがわかっていて俺はアルフにそう言った。自分の考えを押し通すために、他人の気持ちを利用した。

 

 仕方なかった。それが最善だった。そんな言い訳が自分の中に生まれる。そんな自分が本当に嫌になる。

 

(でも、後悔も懺悔も後にしろ。今は……!)

 

「くそ! 行かせるか! …っ!!」

 

 ハラオウンはすぐに二人を追撃しようと動き出すが、それはペネトレイ・ライフルを構える俺を見て止まらざるを得なくなる。

 

「悪いが……」

 

『カートリッジロード! ペネトレイ・ライフルの予備魔力解放! レベルBスペル「ロード・ブラスター」!』

 

 ペネトレイ・ライフルから弾丸が3つ飛び出す。

 

「ここは通行止めだ」

 

 俺がそう告げると同時にロード・ライフルから錐揉み回転する貫通力を高めた高速魔力砲撃「ロード・ブラスター」がハラオウンに向かって放たれた。

 

 直前までフェイトを追おうとしていたハラオウンはこれを避けることはできずシールドをギリギリで展開する。しかしフェイトの時同様、貫通力を高めたこれを止めるには、とっさに張ったシールドごときでは役不足だ。

 

 予想通りハラオウンの張ったシールドをすぐに抉るように貫通した。

 

 しかしハラオウンの実力は、俺の予想を容易に超えてきた。

 

 シールドを貫通してきたことに驚きはしていたが、それでもとっさに姿勢を低くしつつ横に跳んだ。結果、肩をかすった程度のダメージしか与えられなかった。

 

 ……冗談だろ?

 

 デバイスが起動し、バリアジャケットが展開された時点で簡単な身体強化がかけられた状態にはなっている。だがそれでも、砲撃がシールドを貫通するまでのほんの一瞬で体勢を立て直し、その予想外に貫通してきた砲撃を回避するなんてこと、常人にできることではない。

 

 それができる条件は、圧倒的な反射速度と予想外の事へ即座に対処できるほどの経験。それを、たかが十年そこらしか生きていないような奴が持っているというのか?

 

「――っ」

 

 その驚愕が俺の気力を削ぎ、今まで無視していた痛みに抗えなくなる。胸の奥に走る激痛に思わず胸を抑えながら片膝をついた。

 

「あ!?」

 

『マスター!!』

 

 なのはとアイギスが悲痛の叫びを上げる。

 

「?(あの魔導師、まさか………)」

 

 体勢を立て直したハラオウンも訝しむようにこちらを見た。

 

 それらを全て無視して、俺はフェイトたちの反応を確認する。しかしどこにもないところを見るともう転移はしたようだ。だが、まだ逃げ切ったという保証はない。それまではどうにかして管理局とやらの目をこちらに向けさせておく必要がある。

 

 四肢に力を込め、俺はどうにか立ち上がると再びペネトレイ・ライフルをハラオウンに向けた。

 

『マスター!!』

 

 さっきとは違い怒るように言う相棒に一瞬だけ視線を向け、しかしすぐにハラオウンに視線をもどす。

 

「お前!わかっているのか!? これは管理局への公務執行妨害だぞ!? それにその体でこれ以上魔法を使用したら………」

 

 ハラオウンは怒ったように言うが、その声にはこちらを心配する想いが表れていた。

 

 戦っている相手の心配か。フェイトへの攻撃を止めたなのはに驚いていたが、お前も相当お人よしじゃないか。

 

 二人の心配するように、これ以上の魔法の使用はは本当に不味い。二度と魔法が使えなくなるというのが現実になりそうなほどに。だけど、それでも――

 

「俺はあいつを、護ると決めたんだ……っ! ……行くぞ、アイギス!」

 

『っ、ああもう!! 2カードリッジ! ディフェンス・ビット、トライアングルシフト!!』

 

 俺の体で隠すようにしていたアイギス本体が2度カートリッジをロードし、いつもの4つの突起、ディフェンス・ビットが飛び立つ。それはハラオウンを囲む3角錐の形で展開され、シールドを張ることで捕縛フィールドを形成した。

 

「な!?」

 

 自分が一瞬で捕らえられたことに驚き、思わずそのフィールドを見るハラオウン。自分ではなくその周囲に展開されたことでそれを観察する方に思考が動き、反応が遅れたのだ。その隙を逃さず、俺はフィールドを形成するハラオウンの上にあるビットまでジャンプ・ステップで移動し、そのビットにペネトレイ・ライフルの砲身を接続する。

 

「っ!」

 

 何をする気か直感的にわかったのだろう。ハラオウンはバリアを全方向に向けて展開した。

 

 さすがは執務官、か。だがやることは変わらない。

 

「カートリッジロード! ロード・ブラスター、バインディングシフト!!」

 

『4カートリッジ! ディフェンス・ビット4機とコネクト!!』

 

 ペネトレイ・ライフルがカートリッジを4発使い、その魔力が全て、術式とともに4つのビットへと送られた。そして、

 

「撃ち、貫けええええ!!」

 

 フィールド内に向けて4機のビットからロード・ブラスターが放たれた。それぞれの威力はカートリッジ1個分だが、全方位からその威力をくらえばひとたまりもないはずだ。

 

「くっ! こんな、うわあああ!!」

 

 叫びは爆発音でかき消される。

 

 少しだけハラオウンは耐えていたようだが、貫通性の高いロード・ブラスターを防ぎ切るのは無理だった。4つのロード・ブラスターはほぼ同時にバリアを貫通し、ハラオウンに直撃した。

 

 しかし、それでもさすがは執務官と言える。ハラオウンはロード・ブラスターが当たっていた4点に魔力を集中させることで耐久度を上げていたのだ。結果、時間にして約4秒も耐えられてしまった。その間にロード・ブラスターの威力はだいぶ抑えられてしまったのだ。

 

 ロード・ブラスターは錐揉み回転している特性上、集束した魔力が散りやすくもある。表面自体は鑢のように固めているので散り辛いが、後方、つまり砲撃の勢いを出している後ろはそう言った表面を固めるなどはできない。故に、そこから錐揉み回転の遠心力から魔力が抜け出やすいのだ。

 

 これはロード・ブラスター最大の弱点だ。つまり射程距離が短く、さらに維持時間が短いため硬いシールドを持つ相手には突破はできても大したダメージが与えられない。そして今回は、テクニックによってそれを成されてしまった。

 

「……アイギス。どうだ?」

 

『あの程度ではそこまでのダメージは与えていないでしょう。しかし、目的は果たしました。安心してください』

 

 アイギスの言葉を聞きながら、俺の意識は徐々に薄れていく。

 

 度重なる魔法使用により、俺のリンカーコアはすでに限界を超えていた。胸の奥からくる激痛に、もはや俺の体が耐えられないようだ。

 

 自然とフィールドは消え、飛行も維持できなくなり地上に落ちる。

 

「大丈夫!?」

 

 しかし落ちた痛みはなかった。それどころか心地良い暖かさに包まれている。声は俺の頭の上から聞こえてくるようだ。

 

 そちらに目を向けると、そこにはなのはの顔があった。気付けば、後ろから抱きしめてくれていた。なのはが落ちる俺を抱き留めてくれたのだろう。

 

 なのはは、心配そうに俺を覗き込む。その眼にはうっすらと涙が貯まっていた。

 

 ……また、泣かせてしまったか。

 

 抱きしめられたその心地良さと、自分の不甲斐なさを痛感しながら、俺はゆっくりと意識を手放していった。

 

 

 

 

「だ、大丈夫!? ユーノくんどうしよう!?」

 

「落ち着いて、なのは! 今見るから!」

 

 仮面の子が落ちてきたのをなんとか抱き留めたけど、気を失ってしまった。彼には助けてもらってばかりだったから、とても心配だ。

 

 その体には全く力が入っておらず本当にぐったりしていて、ボロボロなのが分かる。背中にはさっきの男の子――クロノくん? の魔力弾が当たったせいか血が出ていた。

 

『……補充したカートリッジは使い切ってしまいましたし、今更転送はできませんね。なのはさん。すみませんが、マスターについてあげていてください』

 

「え!? あ、はい」

 

 突然アイギスさんから話しかけられてびっくりしたけど、でもこの子のことはやっぱり心配だ。できるだけ一緒にいよう。

 

「………くっ。まったく、やってくれたな」

 

 すぐ後ろで声がして、驚いて振り返ったらクロノくんがいた。でもやっぱりその姿はボロボロで、バリアジャケットはいたるところが裂けていた。あんな技くらったんだもんね。

 

『クロノ、お疲れ様』

 

 クロノくんの前に通信モニター? のようなものが映る。ここからじゃよく見えないけど女の人の声だ。

 

「すみません。片方を逃しました」

 

『まあ、あれじゃ仕方がないわ。と言うか大丈夫?』

 

 通信先の女の人が心配そうに聞く。正直に言うと私も少し心配だ。さっきこの子が使った技、すごかったし。

 

「ええ。大丈夫です。非殺傷設定になっていたようですし、直撃した時の威力はそれほど高くもありませんでしたから」

 

『その割にはボロボロに見えるけど………』

 

「……本当に非殺傷設定なのか疑いたくなるくらい痛かったです。まるで鑢をかなりの力で押し付けられて擦られるみたいに」

 

 鑢を押し付けられて擦られる?

 

………

 

 や、やめよう! ものすごく怖い想像しかできないよ!! と言うか痛すぎるよ!! て言うかクロノくんはそれを全方位からくらったんだよね!? よく平然と立ってられるね!?

 

『そ、それは大変だったわね』

 

 通信先の女の人も声が引きつっていた。

 

「あ、あの! 管理局の方!!」

 

 今まで仮面の子を見てくれていたユーノくんが突然叫んだ。

 

「なんだ?」

 

「この子、かなり状態が悪い! 早く治療できる人に見せないと取り返しがつかなくなるかも……っ!」

 

『「「!!」」』

 

ユーノくんのその言葉で、一気に空気が鋭くなった。

 

「艦長! すぐに転送を!」

 

『ええ! エイミィ!」

 

 クロノくんはすぐに動き、女の人も誰かに指示を出していた。でも私は状況がうまく飲み込めなくて、ユーノくんに聞き返す。

 

「ユーノくん! どういうこと!?」

 

「体中がボロボロだし、脈も弱い。それに、リンカーコアに、……罅が入っているんだ」

 

「……え?」

 

「急いで治療しないと、一生魔法が使えなくなるかもしれない。いやそもそも、このまま放っておいたら命の危険もある」

 

 ユーノくんが何を言っているのか、私にはわからなかった。

 

 魔法が使えなくなるかもしれない? 死んじゃうかもしれない?

 

 その言葉が信じられなくて、私はただ、呆然とするしかなかった。

 

 ユーノくんはその間もずっと治癒魔法をかけ続けていて、少し経つと管理局の人たちの転移魔法でどこかに転移した。そして、そこで待っていたお医者さんたちが、すぐに彼を担架に乗せて運んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

どこかで誰かが、祈っているような、そんな気がした。

 




なのは
 再び傷つき倒れた仮面の子。
 その子の治療のために私たちはクロノ君達の船、アースラへと向かいます。
 そして、そこで私は………
 次回 「時空管理局」





なのは「ううう………」

作者「………ええと、ごめんなさい」

なのは「いい加減優雨くんを傷つけるのはやめてほしいの!!」

作者「ええー、またその話ー。いい加減別の話をしよう」

なのは「だって最近優雨くんが傷ついてばっかりなんだよ!?」

作者「物語の進行上仕方がないの。それよりももっと優雨のすごさとかそっちのほうをさあ」

なのは「それは………確かに気になるけど」

作者「そういえばやっと管理局を絡ませることができました。これで次回予告が3人ほど増え
   る!」

なのは「優雨くんの話じゃない!?」

作者「それと次回は久しぶりな人が出てきます。ではまた」ノシ

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作者「だんだん更新スピードが落ちていますが、途中で投げ出すことはしないつもりです」

優雨「そこだけは評価してやってほしい。文句は多々あるだろうが」

なのは「この前は就活を言い訳にしてたのに、それが終わってからも全然だったからねえ」

作者「ごめんなさい。さて、今回の変更点は……、とりあえず地の文が増えたくらいですね」

優雨「あとは戦闘が少しだけ追加されたか」

なのは「本当にちょっどだけだけどね」

作者「この話は特に後から不満とかなかったから、ほとんど今の書き方に地の文を直す作業でした」

なのは「今の書き方もさして昔から向上してない件について」

作者「ごめんなさい」

優雨「そこは努力するしかないな。さて、じゃあそろそろ閉めよう」

作者「了解。ではまた」ノシ
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