魔法少女リリカルなのはEX・S 過去にとらわれた転生者 作:レイレナード
久しぶりの戦闘シーンです。ついでに言えば今回3人称1視点に挑戦してみました。1視点といってもコロコロ視点変わりますが。
ではどうぞ。
「ここならいいよね。出てきて、フェイトちゃん」
なのはが呼びかけると、一拍おいてすぐになのはの後ろの柱の上にフェイトが降り立った。
俺は二人を見る。どちらも強い思いを宿した眼をしていた。譲れないものがあるから、伝えたい思いがあるから、成し遂げたいことがあるから。だから二人は戦う。互いのすべてをかけて。
この戦いは俺が提案した作戦に沿ったものだ。ギャンブルとは言ったがそれほど勝敗は関係しない。なのはがフェイトと戦い時間を稼いでいる間に、管理局がフェイトの帰還先追跡の準備を進めている。この戦いがどう転ぼうと、確実にプレシアの居場所をつかむことができる。
だけどそれでも、この戦いはなのはが勝たなくては意味がなかった。この作戦は、なのはとフェイトが戦い、なのはが勝つことで初めて意味を成す。それは、フェイトになのはの想いを届かせるためだ。
俺は「プレシアは狂ってしまっただけだ」といったが、フェイトもまた”狂っている”と言ってもよかった。プレシアがフェイトに行ってきた仕打ち。普通なら、そんな虐待を受けた時点で、フェイトはプレシアを嫌いになってもおかしくはなかった。それでもフェイトは、優しかったプレシアの記憶があるから、いつかきっと戻ってくれると信じている。それは「狂気」と言っても過言ではないほどに。
そんな分厚い心の壁を打ち壊し、その心に触れるためには、勝つしかない。
本来なら、俺自身がその役を買って出たかった。しかし俺ではだめなのだ。俺は確かに、フェイトを助けようとしてきた。フェイトも俺に心を開いてくれたことがあった。だけど、俺はフェイトに一番必要なことは何なのか、それに気づけなかった。いや、そもそも、そんなふうに同情していたから、俺はフェイトの本当の意味での救いにはなれなかったのだ。
なのはは自然とそれに気付けた。自然とその言葉を、フェイトに一番必要なことをフェイトにぶつけることができた。
「友達になりたい」
その言葉はきっと、フェイトの心を一番反応させたと思う。あの時確かに、フェイトは身動きが取れなくなるほどの衝撃を受けた。なのはは、フェイトに一番必要だったことを、そんなことも考えずに、ただ自然と言葉にできていた。それはきっと、なのはの素直な気持ち。
だからこそ、なのはでなければならないのだ。なのはが戦って、勝たなければならない。ぶつかり合って、互いの想いを届かせあって、だけどそれだけじゃきっと届ききらないから。勝つことで、届かせるしかないんだ。
今の俺は、ただなのはを信じることしかできない。
だからせめて、なのはの思いを後押しできるように、祈るしかない。
頼むぞ、なのは………。
私が呼びかけると、フェイトちゃんはすぐに表れてくれた。
私たちがいるのはクロノくんたちが海上に作ってくれた結界の中。上空まで伸ばした二重結界に、訓練用のレイヤー建造物。そのレイヤー建造物の高いビルの屋上の小さな庭のようなところ。そこは小さな池を中心に8本の柱が立ち、その周りにたくさんの木が植えてある。ただ普通にみれば、とてもきれいなところだっただろう。
私はその池の前に立ち、背後の柱の上にフェイトちゃんがいた。私は振り向かずに、池に映るフェイトちゃんを見る。
《フェイト!もうやめようよ!》
アルフさんが、フェイトちゃんに呼びかける。その声はとても心配そうで、アルフさんがどれフェイトちゃんのことを思っているかが伝わってくるようだった。
《これ以上、あの女の言いなりになってたら…っ!》
これで止まるならきっと、その方がいい。だけど、フェイトちゃんは静かに首を振った。
《だけど、それでも私は、あの人の娘だから…!》
揺るがない強い思い。その宣言に合わせてフェイトちゃんはベルディッシュを前に突き出す。するとそれに応えるようにバルディッシュの斧が上へと回転し、黄色い魔力刀が展開される。バルディッシュの「サイズフォーム」鎌の形だ。同時に、目の前の池が波打った。まるで、フェイトちゃんの強い思いに押されたかのように。
でもその強さは、なぜか私にはただの強がりに見えた。まるで迷子の子供が、最後に何かに縋っているかのように。
そんな脆い強さに、私は改めて決意を固めなおす。目を閉じると、浮かんでくるのはここに来る前に優雨くんと話したこと。
「なのは。この戦いでは、余計なことは考えるな。ただ、自分の想いを相手に届かせる。そのことだけを考えろ」
思い返して、静かに目を開く。迷いはもうなく、頭がすっきりした。
私は言葉を紡ぐ。
「フェイトちゃんは立ち止れないし」
最初はただ確認するように。
「私はフェイトちゃんを止めたい」
待機状態だったレイジングハートを起動させ杖の状態であるデバイスモードにする。
「きっかけは、ジュエルシード」
『release. jewel seed』
レイジングハートから、私が持つ11個のジュエルシードが飛び出し、私の回しを回りだす。
「だから、賭けよう?」
きっかけとなった、それを。
「互いが持ってる、全部のジュエルシードを」
それは、始めるために。
「それからだよ。全部、それから」
言いながら、私は思い出す。優雨くんが言っていたことを。
「フェイトを、なのはとアリサとすずかの三人の中に加えてやりたい。そう思うんだ。だから………」
その言葉は、とても優しくて、とても優雨くんらしかった。
私は思わず笑みを作る。だけど、すぐに引き締めてゆっくりと、フェイトちゃんの方へと振り返った。
「私たちのすべては、まだ始まってもいない」
静かに、杖を構える。
「だから、ほんとの自分を始めるために」
私達――私と優雨くん――の想いを届かせるために。
「始めよう!最初で最後の、本気の勝負!!」
私達――フェイトちゃんと私と優雨くん――の本当の始まりを迎えるために!
「…っ」
フェイトちゃんは一瞬顔を引き締めると、一瞬にして私の前に降り、バリディッシュを横薙ぎに振った。
時空管理局が用意した戦場は上空まで伸ばした二重結界の中にいくつかのレイヤー建造物を配置された、まるで廃墟のような場所だった。
そこを飛び回る桜色と金色の光。なのはとフェイトの攻防は優雨が思っていた以上のものだった。どちらかと言えば、フェイトのほうが圧している。そこは努力の時間と経験の差だ。
だけどそれでも、互角と言える戦いを繰り広げていた。二人は建物の間を潜り抜けるように飛び回る。互いの得意とする魔力弾を撃ちあい、相殺しあう。桜色の魔力と金色の魔力がはじけあうさまは、とてもきれいに見えた。
そんな思いをよそに、戦いはどんどん加速していく。
桜色の光が金色の光とぶつかった瞬間、大きな爆発が起こった。そこから弾き飛ばされるように桜色の光――なのはが出てきて、飛行が安定したところに再び金色の光――フェイトがぶつかる。そこで踏ん張ることができず、なのはは、建物を突き抜けて海面すれすれまで落とされた。
「なのは!!」
思わず、といったようにユーノが声を上げる。
なのはは、海面に落ちる前になんとか体勢を立て直し、再び加速。上空に上がる。
それを追うようにフェイトは飛びなのはの後ろ上を取る。そしてすぐに、魔力弾を自分の周りに展開。
「! っ」
「ファイア!」
なのはもそれに気付くが、対処するよりも早くフェイトはなのはに向かって放つ。
一発目がなのはをかすめるが、それ以外は何とか回避し、最後の魔力弾がなのはの足元で建物に被弾して爆発した。
(このまま!)
その勢いに乗ってなのはは反転しつつ大きく円を描くように飛び、こちらに向かっていたフェイトの後ろを取った。
すぐになのはは、お返しと言わんばかりに5つの誘導弾を自分の周りに展開しそのうちの4つを放つ。フェイトはそのうち3つをかわし、一つはアックスフォームの斧で叩き切った。残りの魔力弾は、なのはのコントロールによってすぐに戻ってくる。
(誘導弾だから回避するだけじゃだめだ。全部壊さないと………!)
フェイトはその場で立ち止まり、バルディッシュを「サイズフォーム」にする。そして、
「はあ!」
迫ってきた3つの魔力弾を1薙ぎで消滅させた。そして、向かってくるなのはの方へ向かう。
「シュート!」
それに対し、なのはは保険として残していたもう一つの魔力弾を放つ。しかし、一つでは足止めにもならず、軽く回避され勢いを殺さずに迫ってきた。
「っ!」
その速さに驚きつつもすぐにラウンドシールドを展開。サイズフォームの刃を受け止める。
(今なら後ろからやれるかも)
できるだけ悟られないように先ほどかわされた魔力弾に指示を与え、後ろからフェイト狙う。
「!」
しかし、わずかな魔力の動きとなのはの目線からそれに気付いたフェイトは、すぐに行動おこした。左腕を左上に掲げ、魔力を収束。
『Thunder bullet』
「ファイア!」
砲撃魔力を単発のシューターとして放つ高威力魔力弾「サンダーバレット」を撃ち放つ。
「きゃあ!!」
魔力弾はなのはのシールドを砕きなのはに直撃した。
これは射程と制度を犠牲に、高い威力と貫通性を高めたものだ。これによりなのはは吹き飛ばされてしまい、シューターをコントロールできなくなってしまう。それにより、使用者のコントロールがなくなったディバインシューターは誘導機能がなくなり、軽く体をずらすことで軽々とかわすことができた。
なのはは吹き飛ばされた勢いのままビルのに突っ込み、突き抜け海面にぶつかったところでサンダーバレットが爆発。金色の稲妻とともにあたりを吹き飛ばした。しかし、あまりの威力で煙が立ち、なのはを見失う。
フェイトはなのはが突き破っていったビルの屋上のフェンスに立ち、爆発の中心を見る。今のところ完全に優位にたってはいるが、フェイトの息は荒かった。
先ほどのサンダーバレットは射程が短い分接近戦で使うことが前提だが、その高い威力を速射で出すためにかなりの魔力消費と負担がかかる。それでなくても、かなりの高速戦闘をしているのだ。優位にたってはいてもどれも紙一重。それにプレシアによる虐待やあまりまともに食事をとっていないことなどから、フェイトの体調はあまりよくない。それらの要素からフェイトは確実に消耗していた。
(それでも確実にダメージは蓄積されてるはず。あの子のバリアジャケットは堅いけど、これで………)
これで終わってくれれば………。
そんな思いで煙の奥を見ていると、それが桜色に光るのが見えた。
「!!」
同時に膨大な魔力が迫るのを感じ、フェイトはすぐに飛び立つ。直後、桜色の閃光が放たれ、フェイトがさっきまでたっていた屋上は跡形もなく消え去ってしまった。
フェイトが閃光の放たれた場所を見ると、大きく肩で息をしているなのはが見えた。その手にはカノンモードのレイジングハートがある。
『やはり実力的には彼女のほうが上です。簡単には勝てません』
レイジングハートがなのはに呼びかける。なのはは眼をフェイトに向けたまま言う。
「知恵と戦術はフル回転中。切り札だって用意してきた。だからあとは………」
なのはは一度息を吐いてから、気合を入れなおすように声を出した。
「負けないって気持ちでぶつかって行くだけ!でしょ?」
なのはは、少しだけフェイトから視線を外し、相棒を見る。それに対しレイジングハートは、
『All light. My master.』
力強く主に答えた。
戦いはどんどん激しさを増していった。
フェイトを追いながら、なのはは誘導型の魔力弾「ディバインシューター」を自分の周りに12個展開する。
(あの数じゃあ、いちいち打ち落とすのは無理。だったら)
フェイトはなのはが魔力弾を撃つのに合わせて一気に加速し、ビルの海面付近まで降下。そのあと一気にビルに沿って上空へ飛んだ。当然いくつもの魔力弾が放たれるが、左右にぶれながら飛ぶことで撹乱しそれを回避。回避した魔力弾は全てフェイトが沿って飛ぶビルに当たり消滅していった。フェイトは回避のみでディバインシューターを誘導しきれなくしたのだ。
ビルの屋上を抜け空に出たところでなのはを見ると、なのはの周りにはまだ5つの魔力弾が浮いていた。
(あんな風に避けられちゃうんじゃ誘導する意味がない。だったら!)
なのははディバインシューターのコントロールを解除し、弾速を重視して1発ずつ放っていく。
しかし弾速が上がったことを見逃すフェイトではない。
(つまりもう誘導はしてこない!)
フェイトは大きく円を描くように飛び、全ての魔力弾を回避する。この時フェイトはわざと大きく動き、なのはが近くまで来るようにした。
(ここだ!)
まるでそのまま回って雲まで行くように見せた軌道の中、なのはが射程距離に入った瞬間フェイトは術式を起動させる。
「サンダー………」
足元にシールドを展開、そしてその先に魔力をチャージし、
「ブラスト!」
巨大な雷を纏った爆発を起こした。
「きゃああ!?」
その爆発に巻き込まれたなのはは大きく吹き飛ばされ、フェイトはシールドでダメージを回避しつつ、爆発の勢いに乗ってそのまま加速、雲を一気に突き抜けた。
その時、雲に入る前になのはを見ると、とっさにプロテクションを張っていたようで、狙っていたほどの威力は入っていなかったようだった。
(引きつけて爆発に巻き込み、相手を引き離すと同時に自分はさらに加速するなんて………。すごい)
感心しつつもなのはも急いでに後を追う。雲の中で見失ったら後ろを取られやすいからだ。そうなれば主導権を取られてしまう可能性が高い。だからその前に急いで突入してフェイトを発見しなければならない。
なのはが雲を抜けると、意外にもすぐにフェイトを確認できた。しかしその瞬間、フェイトは少しだけ上に勢いを付けた後に飛行を解除し、腕を大きく広げてバク転するように体をのけぞらせた。
「!」
全力でフェイトを追っていたなのはは突然のその動きに対処できず、そのままフェイトの下を通過してしまう。
(後ろを取られた!?)
フェイトはわざと姿をすぐに現し、意表をつくことで確実に後ろを取ってきたのだ。
後ろを取ったことで攻防のターンが変わる。すぐにフェイトは飛行を再開しなのはを追いながら弾速重視の魔力弾「フォトンランサー」を連射する。
しかしなのはは冷静にそれに対処する。
振り向いたり速度を落としたりせず、逆にできるだけ加速しながら左右にぶれるように飛行する。先のフェイトと同じように狙いを攪乱して当たらないようにしているのだ。さらに飛行先をできるだけ近い雲に向け、魔力弾を回避しながら一気に突入し、フェイトの視界から逃れた。
見えなくなったことでフェイトは連射をやめ、10個の魔力弾を従えたまま後を追うことに集中する。
さすがに速さを重視しているだけあってすぐになのはを発見することができた。
(雲の中にいる限りさっきと同じように回避されるだけ、なら!)
フェイトは残していた魔力弾を牽制として飛ばした後すぐに加速。バルディッシュをサイズフォームにして肉薄する。
(接近戦なら速度で劣るあの子は逃げようがないし、戦闘スタイル的にも私の方が優位に立てる!)
「はあ!」
「! それでも!」
接近してきたフェイトに気付いたなのはは、それを止めることは不可能と判断し、フェイトの斬撃に合わせてフェイトの周りを回るように回避する。そうすることで今度は自分が上を取ることができた。
「ああ!」
「くっ!」
しかしフェイトも負けじとなのはと同じ動きで回避し、再びなのはの上を取る。
同じような攻防を何度か繰り返すうちに徐々に雲の中に入り互いに視界が聞かなくなったので、互いに攻撃をやめ雲を抜ける。と同時にフェイトは軌道を変え、再びなのはに切りかかる。
(逃げ切れない………!だったら!)
なのはは思い切って自分からフェイトに向かって動き、バルディッシュの動きに合わせて鎌の刀身範囲の内側に入り込み、レイジングハートをぶつけて弾き返した。
「な!?くっ!」
なのはの動きにフェイトは驚きつつも思わず感心してしまう。
(上手い………!魔導師としては素人で、近接格闘なんてほとんど経験がないはずなのに………。だけど、それでも!)
しかしフェイトの戦術は変わらない。またすぐに接敵し切りかかる。
(同じ動き………。お兄ちゃんたちの稽古を見てたから何とか目で追えるし、少しは対処の仕方も分かるけど、それでも接近戦が苦手なのは変わらない。何度も来られたら不利なのはこっち。それでも、焦って動いても意味がない。だったら)
それに対し、なのはの軌道もまたさっきと同じ。
(なんとか耐えて、チャンスを待つ!)
再び金色の光と桜色の光が空でぶつかった。
その戦闘を優雨、アルフ、ユーノの3人は息を飲んで見守っていた。
(なのは、いつの間にあんな動きまで………)
正直に言えば、なのはがフェイトの勝つのはかなり難しいと思っていた。
おそらく才能は互角。しかしフェイトは能力で見た限り3年以上の訓練を積んできている。それに対しなのははまだ魔法が使えるようになってから2週間ほどしかたってない。そこには、魔法の熟練度から経験に至るまで、大きな差がある。
にもかかわらず、今行われている戦闘はどうだろうか。確かに常に圧しているのはフェイトだが、なのははしっかりと食らいついている。いや、逆にフェイトが追い込まれるような場面だってたまにある。
何故そんなことが起こるのか。まず挙げられるのはフェイトの体調だろう。
普段の無理をしたジュエルシード集めや私生活。虐待を受けてきたことによる肉体的ダメージ。それらがフェイトの体にはたまっているのだ。しかも虐待によるダメージは精神的なものもある。むしろあれだけの戦いができていることの方が異常だった。
(今のフェイトを支えているのは、母の願いを叶えること。そうすることで、いつか昔のように微笑みかけてくれるかもしれないという、小さな願い)
そんな小さな願いがフェイトにあれだけの力を出させているのだ。
だけど思いの強さならなのはも負けてはいない。さっきなのはが言った通りなのだ。
(「負けないって気持ちでぶつかって行くだけ」か)
なのはらしい、まっすぐな思い。それがなのはに実力以上の力を与えている。
(そんななのはだから、任せられるんだ)
最初に言った通り、この戦いの結果がどうであろうと、プレシアの捕獲と言う最終目標にほとんど支障はない。それでもなのはは勝たなくてはならない。
(フェイトの心に想い届かせるには、その分厚い壁を壊すためには、まず勝たなければならない。だから)
「勝て、なのは」
優雨が思うなか、戦いは最終局面に入ろうとしていた。
「はあ!!」
「ああ!!」
気合の籠った一撃の応酬。その最後の一撃でフェイトとなのはは大きく弾き飛ばされ、互いに距離を取ったところで一旦動きを止めた。
「はあ、はあ、はあ」
互いの息は荒く、肩で息をしている。そんなギリギリの戦いの中、フェイトは目の前にいる強敵を見た。
(最初にあったころは魔力が高いだけの素人だったのに。今はもうこんなにも強い)
それこそ一瞬でも気を抜いたらやられるかもしれないと言うほどに、なのはは強くなっていた。
(正直に言えばこの子とは戦いたくはない。私に「友達になりたい」と言ってくれたこの子とは。私のために、こんなにも想ってくれるこの子とは)
それは素直な気持ち。しかし、今のフェイトにはそんなことよりも優先すべき思いがある。
(だけど、そんな私の悲しみなんて、そんな小さな苦しみなんて、これまでの苦しみに比べたら、どうってことない)
「母さんの苦しみに比べたら、私の苦しみなんて………」
フェイトが思い返すのは狂ったように目を開いて画面を見てキーボードをたたく母の姿。机に伏せて、泣き崩れる母の姿。
(そう、こんなところで私は迷うわけにはいかない。どんなことがあろうと、負けるわけにはいかない。だって)
「私がここで負けたら、母さんを助けてあげられない」
望むのは幸せだった日々。まだ幼かった頃のピクニックに行った時の幸せそうに笑いあう母と自分の。あの頃のような、幸せな日々。
「あの頃に、戻れなくなる………!」
思わず震えてしまう声を抑え、フェイトはバルディッシュを強く握り魔法を展開する。
『sonic move』
身体強化の加速魔法によってさらにスピードを上げ、再び一気になのはに接近し、バルディッシュをふるう。
「っ!」
なのはは後ろに跳ぶことでそれを回避し、そのまま飛びたつ。フェイトもすぐに後を追いバルディッシュをふるう。
そんな戦闘の中でも、フェイトの頭の中では母と思い出が次々と浮かんできていた。
「ママ、今日もお仕事、遅くまで?」
玄関の扉の前で母さんを見上げて、私は不安にそうにそう聞いた。
「ごめんね」
母さんは本当に申し訳なさそうに謝る。
「うん………」
そんな母さんに心配をかけたくないのに、私は寂しくてそんな顔を見てほしくなくて顔を伏せてしまう。だけどそれはきっと母さんを悲しませてしまっていた。
夕食を母さんと一緒に食べたくて、帰ってくるまで待っていたらいつのまにか寝てしまっていた。気が付いたら、母さんが目の前にいてすごく嬉しかった。
「ママ、いつまで忙しいの?」
一緒の寝室で身を寄せ合いながら私は母さんに尋ねる。
「来週実験があってね。それが済んだら、少しお休みをもらえるわ」
母さんは不安そうなわたしを安心させるように、優しくそう言った。
「ほんと?」
「うん。きっと」
それでも不安で、何度も確認してしまう。
「ピクニック、行ける?」
声だけじゃ嫌で、私は母さんの顔を見上げる。
「どこでも行けるわよ」
「約束、だよ」
いつもの癖で、私は母さんの頬に手を当てる。心配なときは、いつもそうしていた。
「うん、約束」
母さんは優しく微笑んで、私の頬に当てている左手を取って抱き寄せてくれた。それがとても温かくて、ようやく私は安心して目を瞑った。
(わがままを言って、母さんを困らせてばかりだった)
なのはに接近する暇を与えず、フェイトは上段からサイズフォームのバルディッシュを振り下ろす。ギリギリでレイジングハートをバルディッシュの刀身の前にぶつけて防ぐが、フェイトはその勢いのままなのはの上を飛び越え、下にもっていかれたバルディッシュを前転の要領で振り上げて、後ろの上に掲げられたレイジングハートを弾く。
なのはは何とかレイジングハートを離さずに済んだが、大きく体勢を崩されてしまった。そこを見逃さず、フェイトはベルディッシュをグレイヴフォーム――大魔法使用の形態だがバルディッシュの斧が上を向き、槍としても使用できる――にし、スピードに乗って一気になのはを突く。
しかしこれもなのははギリギリで反応しシールドを展開。何とか抑えることができた。
(あの日の、事故の直前までは、はっきり覚えてるんだ)
母さんが実験をすると言っていた日。その日が過ぎれば母さんは休みをもらえる。それが待ち遠しくて、私は家のベランダから、遠くに見える母さんの働く工場を見ていた。
もう夕方で、そろそろ日が落ちると言う頃だった。
母さんのいたその場所が、遠くで光った。
次に目が覚めた時に見たのは、泣きながら私を見ている母さん。
私はあの事故でけがをして、ずっと眠っていたんだって。
寝ていたベッドから体を起こすと、すぐに母さんは私を優しく、だけど強く抱きしめてくれた。
「ほら、ここがあなたのお部屋」
「わあ」
大きな丸い部屋で、大きな窓やベッドがあって、天井には正座がプラネタリウムのように描かれたとても素敵な部屋。
「しばらく体を休めて、元気になったら、ピクニックでも遊園地でも、どこにでも連れて行ってあげる」
そう言いながら母さんは私をベッドに座らせてくれた。
でも母さんの言い方は、まるでもう仕事に行かないように聞こえた。
「うん。でも、お仕事平気なの?」
私はそれが心配で思わずそう聞く。
「平気よ。もう平気なの」
でも母さんは本当に心配なさそうにそう言った。
これからはいつでも母さんと一緒にいられる。それがとても嬉しくて、私はいつもの癖で母さんの頬に手を当てた。
すると母さんもいつものように私の手を―――取れなかった。
母さんはなぜか左の頬に自分の手を持っていったからだ。私は"右手"を当てているのに。
「ママ?」
私が不思議に思って呼びかけると、母さんはすぐに手を当てなおして私の手を取った。そして優しく笑って言った。
「なんでもない。なんでもないわ。大丈夫よ、"アリシア"」
「アリ……シア………?」
私は母さんの作ったご飯を食べていた。母さんは私に聞く。
「どう?アリシア。おいしい?」
違うよ母さん。
「私はフェイトだよ?」
ピクニックに行った時、母さんはお花で大きな髪飾りを作って私の頭にそれを乗せてくれた。
「ほら、可愛いわ」
私は嬉しくてしょうがなかった。そんな私の名を母さんは呼んで―――
「アリシア」
唐突に手にあった重みが消えた。
なのはがシールドをずらして、バルディッシュの矛先が逸れたのだ。全力で押していたので、フェイトはそらされた軌道に進む。
しかしフェイトの頭にはそんなことはどうでも良かった。
(違う。どっちでもいい!)
すぐに停止し頭を振って雑念を消す。
なのはを見れば、突然様子が変わったフェイトを心配そうに見ていた。それは二人の戦闘を監視する時空管理局も、優雨たちも同じだった。
しかしフェイトの目にはもはやそんな思いは見えていない。
(勝つんだ)
見えているのはただ一つだけ。
(勝って母さんのところに)
自分の勝利を信じて待ってくれているはずの、母親だけだ。
(帰るんだ!!)
どこかで誰かが、悲しんだような、そんな気がした。
クロノ
フェイトは悲しい決意と共に自らのすべてをその魔法に込める。
なのはは強い思いと共にみんなの思いをその魔法に込める。
しかしフェイトに待つのは悲し答えだけなのを、皮肉にも僕らはすでに知っていた。
次回 「絶望」
クロノ「ほとんど映画のままだな」
作者「二人の一騎打ちの場面はそんなに変えられないかなあって」
クロノ「まあ、あのサンダーブレイクとやらはがんばって入れたようだな」
作者「使い方はバリアバーストと似たような感じかな。接近してくる相手に離すために使えば相
手は止まらざるを得ないだろうし、こっちは一気に間をあけられる。しかも雷を纏ってる
から下手にあたると痺れる」
クロノ「今回のように奇襲として使うのもありだな。一度使えばもう引っかからないだろうが、
後ろをとれないと相手に思わせることができればかなり戦いやすくなる」
作者「どの方向にでも使えるようになればだれも接近したがらなくなりそうだな。なおこれは優
雨が「魔法はほとんど自作だ」なんて言っていたことからフェイトがバルディッシュと一
緒に考えた魔法です」
クロノ「なるほど。聞いたことがないと思ったらそういうことか」
作者「さて、魔法の説明はこれくらいにして。本当は今回で海上の決戦は終わらせるつもりだっ
たんですよ。でも書いてたら分量多くなって、このまま必殺技入れたらすごいことになり
そうだったのでここで切ることになりました」
クロノ「ま、ほどほどにということだ。実際、次回で「絶望」とか言ってるが、ちゃんとそこま
で行くかわからないからな」
作者「そこは、まあ、頑張る。さて、それじゃあそろそろ」
クロノ「そうだな。また次回もよろしく頼む」
作者「では」ノシ