ハイスクールD×D  オッドアイの銀猫   作:takubon

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 細かい所まで確認できてないので、誤字や脱字があると思います。見つけ次第修正していきます。


イッセーと獣

 

 球技大会の翌日の休日に、俺はとある人物と喫茶店にいた。

 

「という訳で、力を貸して欲しい」

「いや、どういう訳だよ」

 

 生徒会長眷属であり、俺と同じ『兵士』の匙を適当な喫茶店に呼び出して協力を頼み込むと、向こうは訳が分かっていないみたいだ。

 

「いや、お前も聞いてるだろ? 教会から来たエクソシストや聖剣の話」

「あー、確かに会長から聞いてるぜ。なんか色々厄介そうなんだってな。まぁ、関わるなってお達しが来てるから、俺には関係ねぇけどなー・・・・・っておい、まさか力を貸せって・・・・・」

「あぁ、その件についてだ」

「はぁッ!? 」

 

 椅子から飛び上がらんばかりに驚いた様子の匙。周りの視線が集まった事に気づいて、やや恥ずそうに座り直すと、まくし立てる様に小声で猛反対してきた。

 

「いやいやいやいや、俺の話聞いてたか!? 会長が、俺の主が関わるなって言ってんの! 」

「あぁ、俺も部長にそう言われた」

「じゃあ尚更マズいだろッ。主命に逆らうなんて、後でどんな仕置きされるかわかんねぇぞッ。寧ろ拷問されても可笑しくねぇって。ウチの会長はリアス先輩みたいに厳しくて優しいなんて事はないんだからよぉ! 厳しくて厳しいんだぞ!?」

 

 顔色がかなり悪いし、なんか震えてる。もしかして、既にお仕置きされた事があるのか。

 

 確かに部長は優しい、でも今回でおれもお仕置きはまず免れないだろう。だが、今の俺はそんな事がどうでもよくなる。

 

「これは同じ兵士として、そして男としてお前にしか頼めないんだ。頼む・・・・・ッ」

 

 深く頭を下げる。匙から息を呑む音と、視線が注がれているのを痛い程感じる。

 

 体感的に長い時間が経った頃、匙が大きな溜め息を吐いた。

 

「・・・・・とりあえず、頭を上げてもうちょい詳しい話を聞かせろ。じゃねぇと、協力も何も分からねえだろ」

「・・・・・あぁ」

 

 

 そして俺は語った。木場の過去───生まれながらのエクスカリバーとの因縁、教会の闇とその憤りを感じさせずにはいられない悲劇の事件について。

 

 

─────────────

 

 

──────

 

 

──

 

 

 

「────という訳だ」

「う・・・・・うおおおおおおおおぉぉぉぉんッ!!」

 

 匙は泣いていた。男泣きという言い方がピッタリな程。俺も初め聞いた時は涙が止まらなかった。まさか、あの木場にこんな過去があったなんて、思いもしてなかった。

 

「木場、俺はお前の事をキザ野郎死ね! って嫌ってたけどごめんなぁッ! 俺は、俺はなんて屑なんだぁぁッ!!」

 

 とうとうテーブルに突っ伏してしまった。分かるぞ、匙。俺も少し前まで同じ気持ちだったから。

 

 周りからやばいくらい視線を浴びているが、俺も匙も完全に無視している。ガバッと起き上がった匙は、涙も拭わず宣言した。

 

「兵藤ッ! 俺に出来る事なら何でもする! 会長のお仕置きがなんだッ、そんな事屁でもないぜ! だからぜひ協力させてくれ!!」

「あぁッ! お前ならそう言ってくれると信じてたぜ!!」

 

 ガッチリと握手を交わす。男と男の熱い誓いは今ここに成った! そうと決まれば早速行動開始だ!

 

「まずは聞き込みだ、あんだけ目立つ格好をしてればすぐに見つかる」

「おう!」

 

 会計で万札を出し、釣りはいらないと喫茶店を出た。

 

「それで、兵藤。例の教会組を探し出してその後はどうするんだ?」

「あぁ、あいつ等に────聖剣エクスカリバーの破壊許可を貰う」

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「はぐんぐ・・・・美味い・・・! 」

「そうよこれよ日本の味はッ! 」

 

 一心不乱にテーブルに所狭しと並べられた料理を口にかき込む白いローブの2人組。それは先日グレモリー先輩と会談をした協会から派遣されてきたエクソシスト(悪魔祓い)。そんな事言うと普通だったらイタイ人認定だけど、堕天使や悪魔がいるんだからそりゃいるわよねぇ。

 

 まぁ、今はそんな事よりも─────

 

「なんで連れて来ちゃったのかねぇ」 

「そ、その、すごく困っている様子だったので・・・」

 

 思わずぼやいてしまった心の声にアーシアは眉尻を下げる。

 

 いや、確かにこの子は目の前で困ってたらスルーなんて出来なさそうだけど、それにしてもついこの間自分を殺そうとした奴まで助ける様とするとは思ってなかった。世界中探してもきっとこの子くらいよね。アーシアらしいといえばアーシアらしいんだけど、ホントにこの子が心配だわ。絶対詐欺とかに騙されまくるタイプ。

 

 というか、この二人も二人よね。あんな事があった後にも関わらずに、喧嘩売った相手のとこでごはん食べまくってるなんて、どういう神経してんだか。怒りなんて忘れて逆に呆れるわね。まぁ、性懲りもなくアーシアに剣を突きつけたなら、今度こそただじゃ置かないけど。

 

「はいはーい、お代わりまだまだあるから遠慮しないでもれなく食べてねぇ~」

「「おぉ! 感謝致します! 主よ、この慈悲深き御仁に祝福を・・・! 」」

「あっ、私クリスマスとかイベント事で祝うけど、どっちかって言うと仏教徒なのよ~」

「「おのれ異教徒めッ!! 」」

「ねぇ、あんたらその振り上げた手に持った箸で何する気? 誰のお蔭で今食事にありつけているかって事を忘れてんじゃない? なんなら今すぐ放り出してもいいんだけど? それとも110番通報がいい? 」

「「すみませんでしたぁッ!!」」

 

 すぐさま土下座する2人組。そういう所が変に日本人っぽいわね。いや、片方は日本人らしいけど。

 

「んで? 何がどうなってあんた達はそんな怪しい格好のまま、道のど真ん中で物乞いみたいな真似をする状況になったわけ?」

「「ふぉいふふぁふぁふいッ! 」」

「ちゃんと食ってから喋んなさい。というかいつの間に食事再開してんのよ」

「まぁまぁ藍華ちゃん、難しい話はごはんを食べてからでもいいでしょ。さぁ、皆も食べて食べて」

 

 

 ───────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

「・・・いや、そりゃそっちの子が悪いでしょ。客観的に見なくても。旅費として持って来た全財産を考えもなしに全部この絵に使っちゃったんだから。というかどう見てもこの絵は酷い。抽象的や芸術的って言えば聞こえはいいけど、これじゃぁ何がなんだか全然分かりゃしないわよ。最初双頭のワニっぽいクリーチャーかと思ったし。これのどこがあの聖人様? 」

「ほらな! だから言っただろうイリナッ! 」

「ぐふぅ・・・・」

 

 率直な意見と相方の青髪の少女(ゼノヴィア)の強い叱責に、栗毛のツインテールの少女(紫藤・イリナ)は何も言い返せず、床に手を付きガックリと項垂れる。

 そんな彼女にアーシアが心配そうに駆け寄ろうとするも、万が一を考えて夕麻達がそれを止めた。流石アーシア親衛隊。

 

 にしても、このイリナって子は普段は知らないけど、信仰や信仰心が厚いというより熱いせいで、正常な判断が出来なくなる程のバカになる。というか、信仰に殉じる自分に酔ってる? ある意味でアーシアより騙され易そうな子ね。

 

 ゼノヴィアの方は多少の常識は持ち合わせてそうだけど、信仰一筋・殉教も名誉って狂信も入ってる系。自分の事に関しても無頓着って感じ?

 

 こんな二人を寄越した教会の上層部とやらは本当に解決する気があるかねぇ。態々聖剣を奪って行った輩に、それと同等の物を持たせて送り込むなんて、向こうからしたら正に鴨が葱を背負ってくるってもんよねー。2人以外に送った人員はほぼ重症を負って撤退してるって話だし。教会は余程の人員不足か、それともこの子等を犬死させたいのか。

 

「(というか・・・・・)」 

 

 またわちゃわちゃ騒いでいる二人組が持つエクスカリバーに目を向ける。

 

 エクスカリバーと言えば、言わずと知れた伝説の聖剣中の聖剣。聖剣の代名詞とも言われる程の代物。

 それが大昔に粉々になったものを、当時の錬金術によって何故か7本の剣に再構築して現在に至る、と。効果は全部が悪魔に対しての大ダメージ持ち。まぁあ、これはゲームとかでもよくあるからいいとして、問題は7本それぞれが特性を持っているけど、能力としてはありきたり。それこそ、聖剣としての評価は二人が持っているのがそれぞれB+とC-と微妙。これじゃあ、聖剣(笑)ねー。

 

 愛剣がこんな扱いじゃ、アーサー王も涙目不可避ね。

 

 

『……ふぇ』

 

 

 んー、それにしてもその敵────堕天使コカビエルの目的っていうのも今んとこはっきりしてないのがモヤッとする。

 

 そんな大物が聖剣を奪っていったのはそれ自体が必要だったからなのか、それともそれとは別の目的の為に必要だったからなのか。あとはなぜ駒王町に来てるのかって事かしらねぇ。これはグレモリー先輩も関係してるとみるべき、か。なんせリアル魔王の妹なんだし、狙われる理由も勢力も事欠かないだろうし。あ”ー、今シルが居ないのは辛いわねぇ。白音ちゃんはともかく、せめて黒歌先輩が真面な状況だったら色々聞けたりしたんだけど、あの様子じゃあほぼ不可能だし。

 

 とりあえず、このまま考えてても答えは分かんない事だし、目の前の問題からなんとかするか。

  

「というか、あんた達着替えはそれしかないの? 」 

「あぁ」

「えぇ」

「えぇ・・・・」

 

 流石に引いた。だってローブの下は体のラインがもろ分かりのピチピチのボンテージみたいなエロい恰好。うら若き乙女がよく恥ずかしくないわね。教会の戦闘服だかなんだか知らないけど、これ考えた奴絶対ド変態ね。やっぱ教会はクソと見るべきね。二度とアーシアを関わらせない様にしよう。

 

「(あれ? そういえば夕麻の戦闘衣装もそんな感じじゃぁ・・・・・)」

 

 視線を向けると、思っている事に気づいた夕麻はかなり恥ずかしそうにしている。成程、彼女のは純粋に趣味か。思わず優しい眼差しになってしまった。これは後で思いっきり揶揄うっきゃないわね。

 

 

 一部微妙な空気になってしまった中、そんな空気を変える様にインターホンが鳴った。モニターを除けば、そこには意外過ぎる人物が映っていた。

 

 

──────────

 

──────

 

──

 

 

「どうぞ、粗茶です」

「あ、ありがとうございます」

「お茶菓子も追加を持って来るわね~」

「お構いなく」

 

 そんな典型的なやり取りの後、一息ついて本題に入る。

 

「珍しい組み合わせね。んで、態々休日に何で兵藤と生徒会の匙がこんな所に?」

「俺達が用があるのはそこの2人だ」

 

 そう言って、見た事もない真剣な表情の兵藤が視線を向けたのは、教会の2人組。

 

「俺達に奪われた聖剣エクスカリバーの件について、協力させて欲しい。可能なら、その一本くらいの破壊許可も」

「なに?」

 

 ゼノヴィアとイリナは目を見開く。私等もかなり驚いている。そんな私等に構わず、兵藤は変わらない真剣な眼差しと共に更に続けた。

 

「確か会談の時こう言ってたよな? 『教会は堕天使に利用されるくらいなら、エクスカリバーがすべて消滅しても構わない、最低でも堕天使の手からエクスカリバーを無くす事だ』って。つまり破壊してでもコカビエルから奪いたいって事だろ? 利害は一致しているはずだ」

 

 考え込んでいる様子のゼノヴィア。普通に考えるなら悪魔と共同戦線なんて、考えられない事だろう。しかし、2人で挑むには命を賭けたとしてもあまりにも分が悪い事は分かっているはず。果たして────

 

「・・・・・奪われた聖剣は3本。上層部も3本無事に奪えるなんて思ってないはず。なら、一本ぐらいは彼等が破壊しても構わないだろ」

「ちょっとゼノヴィア!?」

 

 相方の判断に、大層驚いているイリナ。批難する様な声を上げている。反対に、意外とあっさり認められたからか、兵藤も匙も私等も肩透かしを食らっている。

 ゼノヴィアはイリナに向き直ると、本音を語り始めた。

 

「イリナ、正直言って私達だけでは三本回収に加え、コカビエルとの戦闘は辛い」

「それは分かるわ、けれど!」

「赤龍帝の言う通り、最低でも我々は三本のエクスカリバーを破壊して逃げ帰てば十分だ。私達のエクスカリバーも、奪われるくらいならば、自らの手で破壊すればいい。本音を言えば、我々が奥の手を使ったとしても、生きて帰れる確率は三割を切る」

 

 なんだ、案外とちゃんと分かってるのね。というか、こういう事を考えられる子だったんだ、ちょっと意外かも。

 

「それでも十分勝算があるからって覚悟を決めて日本に来たはずよ」

「そうだな、上にも任務遂行してこいと送り出された。自己犠牲に等しい」

「それこそ、私達の信徒の本懐じゃない!」

 

 あぁ、やっぱりイリナって子の方はこういう感じなのね。

 

「気が変わったのさ。私の信仰は柔軟でね、いつもベストな形に変化する」

「前から思っていたけど、あなたの信仰心って微妙に可笑しいわ!」

「自覚しているさ。だが任務を遂行し、出来る事なら生きて帰り、これからも主の為に戦い続ける────それこそが私の信仰さ、これは違う事か?」

「────違わないわ、でも」

「言いたい事は分かっている。だからこう考えたのさ、悪魔の力を借りるのではなく、ドラゴンの力を借りる。それにイリナ、彼は君の古い馴染みだそうじゃないか。信じてみようじゃないか、ドラゴンの力を」

 

 上手い事丸め込んだわね。前対面した時は堅物の直情型だと思ってたけど、見誤ってたわね。それも良い感じに。

 

「ふーん、何だかんだ話は決まった様ね。そんで兵藤、あんたの方はどうすんの?」

 

 愚問だと分かってて問う。兵藤は最初から変わらない強い眼差しのままはっきりと頷いて見せた。

 

「勿論OKだ、俺はドラゴンの力を貸そう」

「ついでと言っちゃぁなんだが、俺のドラゴンの力もな。これでも元龍王クラスの力だぜ」

「あぁ、商談成立だ」

「しょうがないから今回だけだからね」

 

 握手こそ交わさないものの、ここに一時的な異色の同盟が成った。 

 

「そうだ、一応聞いておこう赤龍帝。君達は何の為に我々に手を貸すのか」

「俺達はただ仲間の為に、いつまでも復讐に囚われているよりは良いはずだと思ったからな。木場も・・・・・亡くなった木場の仲間達の為にも」

「その後は殴り合いでもして何とかするさ」

 

 なっ、と男らしい笑みを浮かべて笑い合う兵藤と匙。なんかかなり仲良くなってるみたいだけど、一体何があったのやら。

 

「呆れた、最後は考え無しじゃん・・・・・まぁ、その方が上手くいきそうだけどね」

 

 こっちはまだまだ大変そうね。全く、いつまでちょろちょろしてんだか。早く帰って来なさいよ、シル。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 空間すら揺るがす鳴りやまない轟音

 

 視界を奪う程の眩い閃光

 

 飛び交う大勢の者共の雄叫びと悲鳴

 

 幾千もの金属のぶつかり合い生まれる火花

 

 舞い散る赤い血飛沫が、阿鼻叫喚の戦場を鮮やかに彩る

 

 やがて、積み上げられた屍の上に立つ人影は、ただ1人だけ

 

 己が身は余す所無く鮮血に染まり

 

 それでもまだ乾きを訴える心

 

 その者は抗う術を持ってはいなかった

 

 何故ならその身は既に囚われているのだから

 

 それはまるでつかみ所のない霧の様で

 

 それでいて一度嵌れば抜け出す事は叶わない泥沼の様で

 

 永遠と続く心地良さと、不快感が押しては返す波の如く

 

 狂気にも似たその心は、もう既にボロボロで

 

 早速自分が明らかに可笑しい事に気づけない

 

 光を無くし濁った瞳は焦点が定まっておらず

 

 怪しく微笑む様はかつての面影を窺う事は出来ない

 

 新たな戦場を求め、ゆらゆらと亡者の様に彷徨い続ける

 

 ────THE BEAST

 

 

 

 

 

 

 

 前線から離れた場所に存在する、仮設の司令部。そこは今現在進行形、一目瞭然で怱々たる様子だった。

 

『───ちゅう! 繰りか────N2が────ぐはぁ!?────ザー・・・・・・』

「応答せよ!繰り返す、応答せよ!・・・くっ、ダメか」

「たった今、第7防衛線突破されました!前衛部隊、被害甚大!」

「交戦中の部隊より入電!援軍はまだか、と!それとMDOがやばいとか叫んでいますが意味が分かりません!」

「α・K-171番通路に展開している部隊を回り込ませろ! それからすぐに待機している支援部隊を送れ! 後方に控えている第507部隊とマスタング小隊も随伴せよ!あとMDOってなに!? ・・・分析班!」

「ま、まるで(M)ダメな(D)おっさん(O)?」

「おぉ、なるほd、って何でマダオ!?」

「補給部隊及び救護部隊との連絡途絶! 『N2&MDO・・・ふっ、我が神生に一片の悔いなし!』と残して逝きました!」

「やられt、というかそっちもなの!?」

「もうっ! 偵察班からの連絡はまだ! 目標の情報が何一つ入って来ないじゃない! さっきからN2とかMDOとか・・・皆ちゃんと仕事しろよぉ!?」

「おい、結界封印班は何をやっている! いつまで時間をかけるつもりだ! このままでは被害が拡大する一方なんだぞ!」

「そ、それが、隊の半数以上が流れ弾の被害に遭い、ほぼ壊滅状態との事ですっ」

「Shit! だからあれほど近づくなと言っておいたのに・・・!」

「ちょっ、勝手な行動は!・・・もしもし! もしもし!?た、大変ですぅ!」

「もうっ、今度はなんなのさ!?」 

「神風隊及び夜戦主義隊が独断専行!『我、コレヨリ突入ス!』と持ち場を無視して前線に突入していきましたぁ!?」

「名前からしてやると思ってたよ畜生ッ!」

 

 悪態を吐き、机に拳を叩きつける女性。その周りには彼女と同じく軍服を纏った数名の部隊長がそれぞれ指示を飛ばし続ける。その補佐官達が通信を行いながらテント内を忙しなく動きまわり、中央に設けられた大きな机の上に広げられた地図の駒を退かせてバツ記しを書き込んでいく。

 その地図には全体をパッと見ても四分の一程が赤い×で塗りつぶされ、被害の甚大さを物語っていた。およそ前軍の40%、事実上の全滅だった。

 

 彼女達はこの戦況に焦り、動揺すると同時に戦慄していた。

 

「まさか、たった数分でこれだけ・・・っ」

 

 絞り出すように出たその言葉はこの場にいる全員の総意だった。当初は過剰とも思われた何十にも敷かれた包囲網はもう殆ど意味を成しておらず、残る部隊も命令に従わない者達が出て来た。壊滅といっていいだろう。

 今回の作戦に問題はなかった。行動も迅速だった。戦力も十分だった。士気もこの上なく高かった。

 なら、なぜこの様な惨状になっているのか。それは単純に、目標の力を見誤っていたという事に尽きた。

 

 3分。たった3分。

 

 そんなカップラーメンが出来る時間で、最も戦力が集中していた第一包囲網が壊滅し、延べ20,000の精鋭達が血の海に沈んだ。

 

 どこかで慢心があったかもしれない。

 この数ならと高を括っていたかもしれない。

 下心全快の妄想に浸り過ぎて自分の世界に旅立っていたかもしれない。

 

 けどそれにしたってこれは異常だった。第一防衛網が突破されたという電文はすぐに全部隊に通達された。気を引き締めた第二包囲網の部隊だったがそれから間もなく、第一防衛網と同じ運命を辿る事になったのだ。

 

 どうにかして戦線を立て直そうにも、先の通りどうにもならず、戦線は次々と崩壊していく一途で、焦りだけが募っていく。それでもなんとか打開策を打ち出そうとしている内に、とんでもない知らせが飛び込んで来た。

 

「ふぁっ!?・・・・・さ、最重要伝達!? 目標が進路を大幅に変更! 一番分厚い防衛線を真正面から突破しながらこの司令部に向かっているとの事です!?」

『・・・ふぁっ!?』

「え、えぇッ!?」

 

 本日一番の驚愕が司令部に駆け巡った。補佐官のみならず、部隊長、司令官までもが慌てふためいている様は、終局がそこまで来ている事を物語っている様だった。

 

 ───────────~~~ッッ!!!!

 

 突如としてテントの外から、耳をつんざく様な破壊音とも炸裂音とも判断がつかない大音量が鳴り響く。咄嗟に耳を塞ぐも、鼓膜が痛い程震えた。

 同時に周囲の守備についていた1人の女性兵が司令部となっている仮設テントに、ボロボロになって倒れ込む様に入って来た。

 

「グ八ッ・・・も、申し上げますっ・・・たった今、本陣の最終防衛線が突破されまし、た・・・」

 

 それだけ言うと、彼女は地に伏し動かなくなった。地面には赤い液体がゆっくりと広がっていく。

 

「っ・・・総員、戦闘準備!」

『はっ!』

 

 各々が得物を手にテントを飛び出すと、まずその目に入って来た光景に絶句した。

 

 他と比べ比較的広い空間にある司令部の周りに、先程の守備兵の様に地に倒れ伏している数十の物言わぬ骸の山。鮮血で赤く染め上げられた不気味なほどの静けさを保った空間。死屍累々、地獄絵図とはこの事か。

 

「っ!目標はどこだ!」

 

 誰もが息を飲む中、いち早く我に返った大隊長の指示でこの惨状を作り出した張本人の姿を探す面々。その姿は先程の取り乱したものとは打って変わり、まるで歴戦の戦乙女の様だった。

 それに仮にも大隊長の直属の者達、その実力は今ここにいる者達の仲でもトップクラスだ。早々簡単にはやられは───

 

「───かはっ!?」

「っ! だ、大隊長ぉ!?」

 

 突然の大隊長の吐血。傍にいた補佐官が体を支えるも、既に彼女はもう───

 

「っ、じ、陣形を維持しつつ遮蔽物のある場所まで移動! 目標の遠距離攻撃に注意!」

 

 司令官ねな指示に従って迅速に行動する。しかしその際にも次々と仲間達が物言わぬ屍となってしまった声が聞こえた。けれど足を止める事は出来ない。

 歯を食い縛りながら走り抜け、遮蔽物に身を隠す。乱れた息を整えつつも、僅かに身を覗かせて油断なく周囲を警戒する

 

「くっ、残ったのは何人っ」

 

 目標の姿は確認出来なかった。気配も同様に。分かっていた事だが相手は相当な手練れだ。生半可な実力ではとてもじゃないが敵わないだろう。

 

 ・・・というかぶっちゃけると私って別に戦闘に秀でてる戦神でも戦乙女でもなんでもないんだけど。寧ろ悪い方で、自慢じゃないけどクラスでは赤点レベルだよ? 何やったってどうにか出来る訳ないじゃん。戦術とかも「何それおいしいの?」状態なんだよ? そんなんで一応司令任されてるけど殆ど司令(笑)だよ。

 

 それでも任されちゃったらやり切らないといけないと思ったから、まずは形からと思ってアニメ見て口調や態度も司令官っぽい感じにしてみたり、捜索網を張って可能な限り情報収集に努めたり、部隊長の中にいた比較的まともな戦乙女の子に意見とか貰って一生懸命頑張って作戦考えたり、なんだか突然皆が一斉にお風呂に駆け出した時もすぐに仮設風呂の設置や順番決めとかその対応をしたり、目撃情報や今までの行動パターンから居場所を割り出して、すぐに包囲網を何重にも引いて、あとは確保するだけでようやく終わるはずだったのに・・・。

 

 いざ作戦開始ー!ってなったらいきなり壊滅状態だし、戦況わけわかんないし、電文意味不明だし、味方変態ばっかだし、近頃寝不足で肌荒れ荒れだし・・・ここ最近、良い事全然ないよぅ・・・私は邪な気持ち一切なく、ただ可愛いものを愛でたいだけなのに。これなら自分の部屋でベットに寝転んで、お菓子片手に可愛いもの特集の雑誌を読んでた方がマシだったよ。あぁ、抱き枕のにゃんこが恋しい。

 

 はぁ・・・・・・まぁ、どうせもう作戦は失敗だし、無理に私達がこれ以上何かする事はないよね。あとは報告だけして()()()()になんとかしてもらおう。うん、それがいいよね。だって私もう疲れたもん。私は壊滅の責任取って辞職するからもう知らなーい。

 

 まぁ、それも全部生きて帰れたらだけど。

 

「おい、返事はどう────」

 

 あっ、口調戻してもいいかなー、なんて思いながら振り返ってようやく気付いた。

 

 

 

 ‟そこには誰もいなかった”

 

 

 

「・・・・・・そっかぁ」

 

 

 ぽつりと出た言葉にははっきりと諦めとか達観の色が浮かんでいた。

 力が抜け地面に尻もちを付き、手から武器────特大捕獲網が零れ落ちてカランと寂しい音を響かせる。

 いつの間にか耳に装着しているあれだけ五月蠅かった通信機も静かになっていた。通信不良のノイズすら響いてこない。早速どうなったかは既に理解出来た。

 

「全滅かぁ・・・・・ははっ、もうどうにもなれーぃ」

 

 自暴自棄気味にそうぼやき、通信機をその辺に放り投げる。足を投げ出して、大きく手を伸ばしてそのまま寝転ぼうとして何かが背中に当たっている事に気づいた。岩や壁にしてはいささか小さいし、なにより柔らかい。なんだろう、とふと振りかえ────

 

「アハッ♪」

「・・・・・ぇ」

 

 すぐ傍・・・正確には耳元で聞こえた無邪気な笑い声と共に体に腕が回される。その腕は力を入れれば折れてしまいそうな程に細く、それでいて包まれているだけで途方もない安心感を得られる包容力があった。もし、真っ赤な液体に塗れていなかったら、このまま眠りに落ちていただろう。

 

 呼吸が止まる。けど鼓動は激しくなる。静かな空間で自分の動悸の音と、自分のものではない誰かの息遣いだけが煩いくらいに聞こえる。視界に映る腕と赤以外が色を失い、まるで自分以外の物の時が止まったかの様。

 どれだけ経ったか定かではないけれど、停止していた思考が動き始める。でもただ無意味にまさか、そんな、等と似たような思いばかりが浮かび上がるだけだった。そして、再びゆっくりと、ゆっくりと首を動かし、その姿を目に収めた。

 

「 ツ カ マ エ タ 」

 

 それは破滅の笑顔だった

 

 

 To be Continued...?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 グロいことにはなっていないのでご安心を
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