――スピアのこれまでの経緯と紹介を伝え終えたイザナと女性達は、とりあえず食事を始める事となった。
ウーミンを筆頭に、女性陣からの軽い文句(主に彼女達に
そして、食事の後に設けられていたティータイムにて、やや気疲れをした様子のイザナが声をあげた。
「さ、さて、それでは今度は皆の事をスピアさんに紹介していきましょう」
そう言って彼は席を立ち、テーブルに座る女性達へとグルリと視線を向けた。
テーブルに座る女性は全部で六人おり、それぞれが好みのお茶を飲みながら彼の話に耳を傾けている。
「スズカとメズは道中に紹介は済ませているから、まずは最初に玄関でも会っているウーミンさん。彼女は元暗殺者の卵で、偶然見つけたところを助けたんですよ。ちなみに、この女性陣の中では古参の一人ですね」
「イザナさんには命を救われました。なので、私は命の限りこの人に尽くしていくつもりです」
軽くお辞儀をしながらそう述べるウーミン。その態度や言葉から、イザナに対してはかなりの恩義を感じているようだ。
「次に、片足が義足の女の子はサヨさん。彼女は辺境出身で、かなりの弓の名手でもあるんですよ?」
「私も、とある貴族の手からイザナさんに救われました。……その、性格は少し奔放ですが、私もイザナさんを慕っていますから……っ!」
サヨはやや強く言葉を発し、それから顔を赤くしながら俯いてしまった。どうやら自身の発言に恥ずかしくなってしまったらしい。
「それから向かいに座っているのが、異民族の斥候職だった、ミィンさん」
「よ、よろしくお願いします」
「皇拳寺の師範代候補だった、コクロさん」
「どうも、よろしく」
「小さな罪で死刑にされかけていた、トレハさん」
「これからお互いによろしくね?」
「プトラの遺跡の
「……ん、よろしく」
民族風の衣装の少女。
皇拳寺の胴着を着た女性。
探検家のような出で立ちの少女。
最後に、小麦色の肌をした女性。
それぞれが、言葉少なくではあるがイザナの紹介に合わせてそれぞれ挨拶をしていく。
「あとは、ウーミンさんの同僚の
「は、はい。分かりました」
「――おほんっ」
……スピアがそう返事をすると、どこからか咳払いが聞こえてきた。
その方向に視線を向けると、先程も不思議な威圧感でイザナに接していた侍女長が、素知らぬ顔で控えている。
「……ああ、そうそう。この洋館の管理等を任せている、侍女長のマーサさん。何か困った事があったら、彼女を頼るといいですよ?」
「よろしくね、スピアちゃん。聞きたい事があれば何でも言いなよ?」
「はい。……えっと、皆さん、今日からよろしくお願いいたします!」
この洋館で世話になる人達に、礼儀正しく挨拶をするスピア。そんな彼女に、イザナは盛大な拍手で、他のの女性達は笑顔で仲間として迎え入れた。
「――さあ、食事は終わりました。マーサさん、大浴場の準備は出来ていますか?」
「ええ、もういつでも入浴出来ますよ」
「そうですか。では、スピアさん。我が家の誇る帝都でも屈指の大浴場、皆さんと一緒に
「大浴場ですか!? ぜ、是非入りたいです!」
食堂の片付けを侍女達が終えた後、イザナはスピアに対してそんな提案をしてきた。
三日間の移動の間、簡単なシャワー程度でしか身体を洗えなかった彼女としては、ゆったり身体を癒せる入浴を断る理由が無かった。
「それじゃあ、皆さんは先に大浴場に行ってもいいですよ? マーサさんは、寝ている
「ええ、任されました」
「私は、まだ少しやる事がありますから、それが終わり次第赴きますよ」
イザナとマーサはそのまま食堂を退出し、残されたのは総勢九人の女性達。
その中でも、特にスピアは喜色満面な表情を浮かべているのだが、他の皆はあまり表情を変えていない。むしろ、ため息をつかんばかりの表情である。
「えっと、皆さん? 大浴場に何か問題でも?」
「……いえ、
「でも、ねえ……?」
「ま、実際に入ってみれば分かる事だね」
「……えっ?」
皆の意味深な発言に、疑問符を頭に浮かるスピア。
そんな彼女に何故か同情の視線を向けながら、一同は大浴場へと足を運ぶのであった。
「――うわぁ、本当に凄い大浴場ですね……」
衣服を脱ぎ終え、いざ大浴場へと足を踏み入れた途端、スピアはその中の光景に感嘆の声をもらした。
最高級の公衆浴場と同等か、それ以上に広い内部。
メインの大風呂を始めとして、泡風呂、薬湯等、様々な種類の風呂が並んでおり、露天風呂、サウナまでもが完備されている。
こんな大浴場がある場所など、ここ以外では宮殿ぐらいのものだろう。
「……まあ、大臣の息子という立場を最大限利用して、彼自らも建設に関わった程にこだわり抜いた大浴場ですからね」
「初めて見た時は、私も同じ感想でしたよ。私の住んでいた故郷では、こんな広いお風呂なんてありえないものでしたから」
大浴場の入り口で立ち止まっていたスピアに、ウーミンとサヨが声をかける。他の者達は既にその脇を通り抜け、それぞれ身体や髪を洗い始めていた。
「それでは、早く身体を洗ってしまいましょう」
「そうね。その方がスピアさんの為になるでしょうし」
「え、えっ?」
そんな会話に再び疑問符を浮かべながら、とりあえず二人に倣ってスピアは身体を洗い始め――。
「――さて、お邪魔しますよ?」
――そこに、本来ならばいてはいけない
「……やっぱり、来たんですね」
「はい。必要な書類が少なかったので、ささっと済ませてきました」
「…………な、なっ」
「はぁ、その努力をもっと他のところに活用して欲しいんですけどね……」
「いやいや、美しい女性との入浴という滅多にない機会を、この自分が逃す筈がないでしょう?」
「い……、イッ……」
「……おや、スピアさん、どうしましたか? もしや、どこか体調が悪いの――」
そして、そんなイザナの何一つ隠されていない
「――イイイィヤァアアアア~~~~ッ!!!」
――大浴場に、空気を震わせる大絶叫と、乾いた破裂音が響き渡った。
「……まさか、この大浴場が混浴だったなんて」
「かなり広いですからね。その方が何かと効率が良いでしょう?」
あれから少しして、スピアを含む女性陣とイザナは同じ広い湯船に入っていた。
今浸かっているお湯は濃い白色の濁り湯である為、湯船に浸かった部分、つまり肩から下はほとんど見えはしない。
しかし、スピアはお湯の温かさ以外の理由で肌を赤く染め上げ、そんな彼女の正面にいるイザナは、その左頬に見事な紅葉色の掌の形をつけている。
何が起こってこうなったのかは、容易く想像出来るだろう。
「でも、なんでそんなに平然と入ってくるんですかっ!? 私みたいに叩かれるだけならまだしも――」
「あー、もうそういった事は慣れてしまいましたからね。今更張り手一発ぐらいは、私にとってはどうと言う事はないんですよ?」
「――って、はい?」
何気なく言うイザナの言葉に、スピアはどういう意味なのかすぐには理解出来ず、代わりに当事者である彼が補足懐かしむかのように補足する。
「まず、サヨさんとミィンさんとトレハさんは、スピアさんと同じで強烈な張り手でしたね。コクロさんとマーサさんの場合は、腰の入った綺麗な右ストレートでした。それから、カショックさんは関節技と絞め技の見事な合わせ技で、ウーミンさんは殺気すら込められた隠しナイフの連続攻撃、スズカさんとメズさんに至っては、身体操作による皇拳寺の殺しの技を、二人がかりで私に繰り出してきましたから」
「…………それで、よく生きてますね?」
あまりにも壮絶な体験談に、思わず本音をもらすスピア。それに対し、イザナは何でもないかのように清々しく言い放った。
「――美しい女性の素肌を拝めるならば、どのような
「……こんな調子が毎日続きましたから、私達ももう慣れてしまったんですよ」
「そ、そうなんですね。は、はは……」
どうやら、彼が女性と一緒に入浴するのはいつもの事のようだ。ウーミンがため息混じりにこぼした発言に、他の女性達も頷き合っている。
それを見て、スピアはやや引きつった苦笑いを浮かべ、この男の護衛に就いてしまった事を、今更ながらに不安に思うのであった。
女性紹介での後半の四人、どこで出てきた人か分かる人はいますかね?