夏の休暇が終わりました。
よって、これからは更新が本当に不定期となりますので、ご理解のほどよろしくお願いします。
――一方その頃。
殺し屋という表の顔を持ち、その実態は反帝国勢力である革命軍の諜報、暗殺を担う特殊な集団、ナイトレイド。
そんな彼らが、帝都から遠く離れたアジトにて、リーダーであるナジェンダからの報告を受けていた。
「集まったな皆。……悪いニュースが三つある、心して聞いてくれ――」
一つ、地方のチームと連絡が取れなくなった。
二つ、エスデス将軍が北の異民族を制圧し、つい先日帝都へと戻ってきた。
そして最後に、帝都やその近郊で文官の連続殺人事件が起きている。
以上が、ナジェンダもたらされた情報である。
「――最後の件については、殺害現場のほとんどに「ナイトレイドによる天誅」と書かれた紙が残されていた。文官の護衛共々殺されている事から、今では私達の仕業と断定されている。こんな事が出来るのは、私達ナイトレイドしかいない、という見解だそうだ」
「……つまりは、犯人はこちらと同等の力量を持った者、帝具持ちである可能性が極めて高いという事だな」
アカメの言葉に、ナジェンダは静かに頷いた。
今殺されている文官達は能力の高い良識派であり、オネスト大臣にとっては面倒な存在となっている。
つまり、今回の犯人の目的は、良識派の排除をナイトレイドの仕業にする事。そしてそれを誘いとして、本物のナイトレイドを罠にかけて狩る事である。
「国を憂う貴重な人材である文官達を、これ以上失う訳にはいかない。私は偽物を潰しに行くべきだと思うが、お前達の意見を聞こう」
「……俺は、政治とかはよく分からねぇ。けど、ナイトレイドの名前を外道に利用されるのは腹が立つ!」
「そうだな……、その通りだタツミ!」
ナジェンダの問いに、タツミとブラート、それから全員が同意の意思を見せる。
こうして、ナイトレイドによる今後の方針が決定した。
「……そうだ。もう一つ、伝え忘れていた事があった」
良識派の文官につける護衛を決め、それぞれが行動しようとしたその時、ナジェンダが再び皆に声をかけた。
「また、悪いニュースですか?」
「いや、そうではない。どちらかと言えば、良いニュースになる、かもしれん、と思う」
問いかけるアカメに、どこか曖昧な言葉を返すナジェンダ。そんないつもとは少し違った彼女に、他の仲間達は揃って疑問を浮かべた。
「それで、その伝え忘れていた事とはどんな事なんですか?」
「うむ。……シェーレの事、なんだがな」
『…………っ!?』
ナジェンダの言葉に全員が、特にマインが強い反応を見せる。
ほんの数日前の任務の際、マインを帝都警備隊から救う為に身代わりとなった大切な仲間である。皆が強く反応するのも当たり前だろう。
「シェーレが、どうしたって言うんですか!」
思わず語気を強めて詰め寄るマインに、ナジェンダは僅かに逡巡しながらも口を開く。
「――命を救われて、あのイザナの手に落ちた可能性がある」
「えっ!? …………え、あの、ほ、本当、ですか?」
その告げられた内容に、一瞬だけ喜色を浮かべたマインではあったが、次の瞬間には悲しいような悔しいような表情となる。
マインだけではなく、話を理解出来ていないタツミ以外の全員が、マインと同様の表情を浮かべていた。
「あの、イザナってのは誰なんですか?」
「……ああ、タツミは田舎の出身だから、イザナの事は知らないのだな――」
素直に疑問を述べるタツミに、ナジェンダは表情を元に戻し、そのままイザナの事を話し始めた。
曰く、剣術の天才。
曰く、女好き。
曰く、命を蘇らせる者。
オネスト大臣の実の息子でありながら、滅多に権力を振るわず、将軍級の実力と高い文官の能力を
しかし、美しい女性に対する庇護欲、支配欲が強く、週に一度は必ず女性に関する問題を引き起こす人物。
だが、「黄泉国」という生命力を操作する帝具の力で、数々の女性の命を救ってきた人物。
ようするに、性格には難があるが、凄まじい実力と帝具を持つ厄介な相手という事だ。
「……つまり、その女好きのイザナって奴が、シェーレを助けて連れていったかもしれないって事か?」
「ああ。帝都に潜む諜報員の話では、あの日警備隊からシェーレの死体を半ば強引に譲り受けたイザナの姿を目撃したらしい。あの男の行動は読み難いが、考えている事は分かりやすいからな」
「なら、早く助け出しに行こうぜ!」
シェーレが生きているかもしれないという情報から、喜び勇みながら大切な仲間を助けに行く事を提案するタツミ。
だが、ナジェンダの表情は晴れておらず、他の皆も難しい顔を浮かべている。
「助け出す事は、おそらく可能だろう。だが、実行する事は不可能に近い」
「なっ!? どうして!!」
「……タツミ。イザナという男は、本当に厄介な相手なんだ。その強さだけでも、あのエスデス将軍に匹敵する程の実力がある」
「それに、女好きという性格を除けば根は良い人間だ。あの男の側には常に手練れの護衛が数多くいる。もちろん、手元にいる女性達にもな」
「でも、シェーレを助けるだけなら――」
「――イザナは、関係をもった女性や手元に置いた女性を手放したりしないし、絶対に
ナジェンダとブラートの言葉を耳にしても、どうにか言い返そうとするタツミ。
しかし、突然横から会話に入ってきたレオーネに、続く言葉を遮られてしまう。
「……以前、帝都の下町でイザナに気に入られた娘がいたんだ。その娘は最終的には彼に口説かれ、次の日には一緒に住む予定だったんだ――」
――だが、その直前になって娘は行方知れずとなり、数日後に無惨な死体となって発見された。
犯人は帝都に住むとある貴族の三男だった。町でたまたま出会った娘を無理矢理
娘の死体は発見されてから時間が経っていた為、イザナの「黄泉国」の奥の手をもってしても救う事は出来なかった。彼は嘆き悲しみ、同時に怒りに震えたのだった。
「――イザナはあらゆる手段を尽くして犯人を調べあげ、ほんの僅かな時間で貴族の三男にまでたどり着いた。そして、娘を殺した三男とその仲間達を、自らの手で惨たらしく処刑したのさ」
「あの男は、自分の女性達の為なら己の全てを尽くす。敵に回すとこの上無い程に危険なのだよ」
「…………くっ」
手を出したくても出せない理由とその現実に、悔しさを露にするタツミ。しかしそれは他の皆も同じようで、ナジェンダやマイン、アカメらも一様に表情を固くしていた。
「……ただ、唯一の救いはイザナの人柄だな。彼ならばシェーレを不幸にはしないだろう。あの男はそういう点なら信頼できる」
そうため息混じりにこぼしたナジェンダの表情は、どことなく安心したかのような苦笑であった。
シェーレが目覚めてから数日。
エスデス将軍直属の三獣士がナイトレイドの手によって殺され、帝具使いのみで編成された特殊警察イェーガーズが発足する等、様々な事が立て続けに起こっていた。
そして今現在、イザナの目の前には、イェーガーズへの勧誘の為に直々に現れたエスデス将軍と、個性的な特殊警察の面々の姿があった。
「――大臣からは、お前さえ了承すれば良いと言われている。お前が入ればイェーガーズの力は更に増すだろう。さあ、入る事を了承しろ」
「お断りします」
間髪を入れずに返答するイザナ。
そのまま玄関の扉を閉めようとするも、次の瞬間には扉の蝶番が凍りつき、閉める事が出来なくなっていた。
「まあそう言うな。ゆっくりと話し合おうじゃないか? さあ、お前達もこいつの説得を手伝え」
「お、おっし、任せろ!」
「が、頑張ってみますね」
「……了解した」
「はい! いくよ、コロ!」
「キュ~」
「スタイリッシュに説得してみせましょう!」
「すみません、上司の命令ですので……」
「え、ちょ、ちょっと待っ――」
――それから、一時間後。
「……わ、分かりました。とりあえず、正規の所属ではなく、非常勤という形式でもいいですか?」
「うむ。まあそれで妥協してやるか」
エスデスとイェーガーズの面々による強引な説得により、精神的にボロボロになり引きつった笑顔となったイザナ。そんな姿を眺めながら、当の彼女は満足したかのような笑みを浮かべている。
「では、早速だが手伝ってもらう事がある。人手が少なくて困っていたんだ」
「……それは、一体何ですか?」
もはや諦めきった表情のイザナに、エスデスは自信のある笑顔で答えた。
「私が主催する、武芸試合の開催準備だ」