「――ふむ。つまらない人材らしく、なんともつまらん戦いだな」
「いくら腕に覚えがあるとは言っても、彼らは帝都に住む一般人ですから限界がありますよ」
現在、エスデス将軍とイェーガーズの非常勤であるイザナは、彼女の主催する都民武芸大会の観戦をしているところであった。
エスデスがこの大会を開いた目的は、以前ナイトレイドの一員から押収した帝具、万物両断「エクスタス」に適合する力量のある人材を探す為である。
しかし、参加者のほとんどが武術をかじった経験があるという程度の、帝都にて普通の職に就いている一般人なのだ。その中から帝具に適合しそうな人材を探すなど、細かい砂利の中から金剛石の粒を見つけ出す程に困難な事である。
『……さて、次の出場者はこの二人! 肉屋のカルビ選手と鍛冶師のタツミ選手だぁ!』
イェーガーズの一人、ウェイブの司会により、新たな出場者が舞台へと上がってきた。
片方は、牛によく似た顔をした筋骨隆々の男。堂々とした振る舞いをしており、それに見合った実力もあるようだ。
対するは、やや小柄な若い青年。牛顔の男とは体格差もあり、普通に考えれば簡単に勝負がつくと予想してしまうだろう。
(……ねぇ、イザナさん。あのタツミって青年、かなりの実力があるみたいだよ? しかも、彼の足運びや体捌きを見るに、裏の方にも通じてる気配があるね)
(ええ、そのようですね。おそらくは、革命軍に関連する密偵か何かでしょう。将軍主催のこの大会に参加するとは、よほどの命知らずのようですね)
だが、イザナの護衛として近くに潜んでいたメズが、皇拳寺羅刹四鬼としての経験からくるずば抜けた観察眼によって、彼がただの参加者でない事をいち早く見抜いた。
その事を密かに知らされたイザナも気づいており、相手の正体すらも容易に看破してしまっている。
『――そこまで! 勝者、鍛冶師タツミ!』
「……あの青年、かなりの逸材ですね」
「うむ。どうやらそうらしいな」
そうこう話をしている内に、試合はタツミの秒殺という結果で終わりを告げていた。
相手の牛顔は元皇拳寺の有段者だったのだが、試合開始からろくに攻撃を当てられないまま、彼の流れるような連撃によって僅かな時間で倒されてしまったのだ。
「――やったぜ!!」
勝利した事が嬉しかったのか、タツミが得意気に笑顔で感想を述べる。
そしてその瞬間、エスデスが何を思ったのか静かに立ち上がり、そのまま舞台に立つ彼の下へと歩き始めたのだ。どうやら、彼女の琴線に触れるものを見出だしたらしい。
ただし、何やら興奮を抑えきれないかのような、熱っぽい雰囲気をエスデスは醸し出しているのだが。
(……これは、少し面倒事の予感がするね)
(……偶然ですね。私も同感ですよ)
そんな会話をする中、当の本人は困惑にしている様子のタツミへと歩み寄り、そして自然な動きで彼に首輪をつけ、観衆の中でまさかの所有者宣言をするのであった。
それから数時間後、エスデス将軍を始めとするイザナを含めたイェーガーズの全員が、特殊警察の会議室へと集まっていた。エスデス以外の者がやや戸惑った様子を見せる中、彼女は自慢気に現在椅子に縛りつけている青年、タツミの事を紹介していたのだ。
どうやら実力を見込んでイェーガーズの補欠にするという事らしいが、実際には彼に惚れ込んで連れてきた部分が多いようだ。頬を僅かに赤く染め、熱のある視線で見つめるエスデスのその姿は、完全に初恋をする女性そのものである。
そしてその後、会話の途中で現れた兵士による賊の報告を聞いた事で、エスデス達イェーガーズとタツミは大規模な賊の討伐へと向かう事となった。
イザナは当初無理を言って断ろうとしたのだが、エスデスとイェーガーズの女性陣、元暗殺部隊のクロメと元帝都警備隊のセリューに腕と肩をガッチリと掴まれ、無理に振りほどく事も出来ず仕方なく同行する事にしたのである。
ちなみに、クロメ、セリューはイザナとは以前からの顔見知りであり、二人は何度かイザナからのアプローチを受けていた。だが、クロメは基本的に無関心、セリューは色恋よりも任務優先であった為、残念ながら彼が相手にされた事はほとんど無いのが現状である。
「では、私とドクターの帝具で道を開きます!」
賊の砦を前に、勢いよく飛び出していくセリュー。多数の賊が武器を手に現れる中、彼女の手には相棒の生物型帝具、魔獣変化「ヘカトンケイル」から取り出した巨大な槍が装備されていた。
「――正義、閻魔槍ッ!」
ドリルのように高速回転する槍でセリューは突撃し、賊の集団を文字通りバラバラに吹き飛ばしていく。運良くその攻撃を避ける事が出来た賊も、相棒のコロによって瞬く間に食い殺され、砦の外に出ていた賊はほとんどが全滅してしまった。
その光景を目の当たりにした砦内の賊達は、慌てながらも速やかに砦の門を固く閉ざしてしまう。
しかし、それを見たセリューは槍をコロの中に収納し、そこから新たな武装を腕に取り付けていた。
「正義、泰山砲ッ!」
セリューの身の丈の倍はありそうな長大な砲から放たれた一撃が、重厚で頑強な筈の砦の門を易々と破砕する。突然の襲撃とあまりに大きな戦力の差に、残りの賊達はもはや半ば恐慌状態となっている。
「……よし、行くよコロ! セリュー・ユビキタス、悪の殲滅に向かいます!」
嬉々とした様子で砦に乗り込む彼女に続き、クロメ、そして元帝国海軍のウェイブは砦内部の残党処理へ。焼却部隊にいたボルスは砦の城壁上の賊の掃討へ。研究者のDr.スタイリッシュとその手駒である強化兵、地方出身のランは逃走する賊の排除へ。エスデスとタツミ以外のイェーガーズの面々が、それぞれの役目を果たしに動き出した。
「さて、それでは自分も行きましょうかね」
「イザナ、何をしに行くんだ?」
「大規模な賊の集団、しかも男のみの構成ならば、かなりの確率で拐われた女性がいる筈です。自分はそんな境遇の女性を見つけ次第、優先的に救助と保護をしてきますよ」
賊という存在は厄介なもので、人を殺し、物を奪い、そして女性を拐い凌辱するのが当たり前となっている。
イザナはそんな不遇な女性を見つけ出す為に、他のイェーガーズ達にやや遅れながらも砦へと向かうのだった。
――それから、しばらくして。
「エスデスさん。砦の地下に囚われていた女性達を、無事に保護いたしました」
賊の殲滅が無事に終了し、砦の前に集まっていたエスデスとタツミとイェーガーズ達。そして最後に現れたイザナの背後には、ボロボロの衣服を纏う総勢十五人の女性がいた。
「そうか。ならばその者達の処遇は任せたぞ」
「はい、任されました」
彼女達はしばらくの間、イザナの館にて侍女として働きそれから新たな職を斡旋されるらしい。彼の本音としては全員を雇ってあげたいようだが、侍女自体は館に十分に足りているという事と、今回の影響で男性恐怖症になった女性がほとんどである事から、残念ながら長期の雇用が出来ないのだという。
「それでは、自分は彼女達を連れて帰りますね」
「ああ、ご苦労だったな。だが、またいずれ手を貸して貰うから、そのつもりでいるんだぞ?」
「……次は、強引な勧誘は無しでお願いします」
エスデスの言葉に苦笑を漏らしながら、イザナは黄泉国を地面へと突き刺した。その地面からは十数体もの土人形が生まれ、そして黙々と周囲の木々を加工し始め、あっという間に女性全員が乗れそうな巨大な
そうして女性達は土人形の担ぎ上げる御輿へと乗り込み、そんな彼女らをイザナと数体の土人形が護衛をしながら、速やかに賊の砦であった場所を後にするのであった。