イザナとサヨ、ローゼン、スズカ、メズ、それから話を聞いたウーミンとトレハの七人は、目的地に到着するまでにかなりの時間をかけてしまっていた。
どうにか目的地付近には辿り着いたが、行く先々のあらゆる場所には警報装置や罠が大量に仕掛けられており、それらに詳しいトレハが見抜き、時には全員で力任せに突発して進んでいた為に、必要以上の時間を消費してしまったのである。
遂には目的地だと思われる場所へと到着したのだが、そこではナイトレイドと思われる手練れの集団と、どこか見覚えのある人工的な兵士達が既に戦いを繰り広げていた。そして、イザナは偶然近くにいたスタイリッシュを発見し、同僚の危機であろうと察してやってきたのであった。
「……あら、イザナさん。こんな所で会えるとは、私の運もまだ捨てたもんじゃないって事ね」
「という事は、かなりのピンチだった訳ですか?」
「ええ、それなりにね。でも、貴方の助力があれば、十分にスタイリッシュな反撃が可能になるわ!」
「……分かりました。スタイリッシュさんが死ねば、セリューさんが悲しみますからね。とりあえずこの場は加勢しましょう」
「イ、イザナさん!? タツミの事はどうするんですか!?」
イザナという予想外の
しかし、当初の目的とは違う彼の言動に、一緒にいたサヨから驚きの声があがった。
「……タツミ? イザナさん、その娘は?」
「サヨさんといって、あのタツミさんの同郷の知り合いです。今回、自分達は行方知れずとなったタツミさんの捜索に来たんですよ」
イザナの言葉に、スタイリッシュは彼とサヨ、それからその背後にいる数名の女性達に顔を向け、そして大まかな彼らの現状を把握する事が出来た。
「……成る程ねえ。えっと、サヨ、だったわね?」
「は、はい」
「タツミなら問題無いわ。多分、もうすぐここに来ると思うから」
「えっ、本当ですか!」
「ええ、本当よ。だって彼は――」
スタイリッシュがそう口にした、その瞬間――。
「――殺し屋集団の一員として、私達を始末しにくる筈ですからね」
――彼を仕留めにきた
「見つけた! ……って、え、サヨ? お前、生きてたのか!?」
「えっ、その声、まさかタツミなの!?」
その中の一人、全身を鎧の帝具で覆った人物が戸惑うような声を出した。どうやら中身はタツミであるらしく、その聞き覚えのある声を聞いたサヨは目を見開いて驚きの表情を浮かべている。
「……やはり、タツミさんはナイトレイドと繋がっていたんですね」
「あら、イザナさんはタツミの正体に気づいていたの?」
「予想の範疇ではありましたけど、そんな気がしていたんです」
イザナは大会で初めてタツミを目にした時から、タツミの事を疑わしく思っており、最悪のケースとして、ナイトレイドとの関係も予想の一つとして想定していたのだ。
なので、行方不明となり占いで大まかな居場所が判明すると、高確率で存在するであろう罠の対策としてトレハを、そしてサヨだけではなくウーミン、スズカ、メズといった実力をもつ者達も連れてきたという訳である。
「今まで一体何処で何をしてたのよ! あれからずっと会えなくて、やっと見つかったと思っても、またいなくなったなんて聞いたから心配してたのよ!?」
「こっちだって心配してたっての! そういえば、サヨがいるって事はイエヤスもいるのか?」
「……イエヤスは、今は帝都の病院で入院中。でも、そろそろ元気になる予定よ」
「え、入院!? そっちこそ何があったんだよ!」
「こっちも色々と大変だったって事よ。でも、タツミが元気そうで良かったわ」
「……俺も、サヨやイエヤスの無事が分かってうれしいよ」
そんな会話をしているうちに、二人の感動の再会による会話は白熱していき、更にタツミは鎧の帝具である「インクルシオ」を外し、サヨへと段々距離を縮めていく。
対するサヨも、そんな彼へと歩み寄ろうとするのだが――。
「……え、あの、どうしたんですかイザナさん?」
「お、おい、アカメ、何で邪魔するんだよ!?」
――いつの間に接近していたのか、サヨの前にはイザナが、そしてタツミの前には長い黒髪の少女、アカメが立ちはだかり、それぞれの歩みを遮っていた。
更には互いに得物である刀を構え、相手の僅かな動作をも見逃さんと全神経を集中させているので、周囲には冷ややかな闘気が満ち始めている。
「……大臣の息子の一人、イザナだな」
「はい。そう言う貴女は、ナイトレイドのアカメさんですね?」
かつては、イェーガーズのクロメと同じ帝国の暗殺部隊に所属し、しかし帝国のあり方に疑問を抱き、部隊から離反して革命軍へと入ったという殺し屋の少女、アカメ。
皇拳寺羅刹四鬼にも匹敵するとまでいわれている実力と、僅かな傷からでも呪毒によって相手を殺す刀の帝具、一斬必殺「村雨」はかなりの脅威であり、ナイトレイドの中でも特に注意すべき人物となっている。
「……サヨさん、申し訳ありません」
「な、なんで謝るんですか……?」
「残念ですが、タツミさんはナイトレイド側、自分達の敵となりました。つまり、捕らえた後に法律に基づいて裁判にかけるか、あるいは最悪の場合、この場において処断する必要があるという事です」
普段のイザナからは想像が出来ない程の闘気に、本能的に後ずさって顔を青くしたサヨ。そして彼女は慌てて奥にいるタツミへと顔を向けた。
「タ、タツミっ! 今すぐその人達から離れて! 今ならまだ間に合うから!!」
「え? な、何を言って――」
「――タツミっ!!」
「――っ!?」
死んだと思っていた仲間の言葉に戸惑うタツミであったが、殺気を放つアカメからの叱責によって口を閉ざし、サヨと同じ様に青ざめた表情を浮かべ立ち竦んでしまう。
「タツミの仲間は、可能な限りは助けたいと思う。でも、今目の前にいるイザナを相手にすれば、そんな事を言ってる余裕は無くなってしまう」
「そ、そんな……っ!?」
アカメの言葉に詰め寄ろうとしたタツミ。だが、普段はあまり表情を変えない彼女が、眉をひそめながら冷や汗を浮かべている姿に気がついた。
ここにきてようやく、目の前の相手がアカメにとっても危険な敵なのだと判断できたのだ。
「――待たせたね。アカメ、タツミ!」
「姐さん、みんな!」
すると二人の後方から、数名のナイトレイドであろう者達が彼らの援軍として次々に駆けつけてきた。
金髪で獣のような出で立ちをした女性を先頭に、小柄な青年や桃色髪のツインテールの少女、更には棍棒のような武器を持った男性も現れ、イザナ達やスタイリッシュ達の周囲を半円状に素早く囲み、それぞれ臨戦態勢をとり始めていく。
「……それにしても、まさか敵の中にあのイザナがいるとは予想外だったねぇ」
「敵としては、これ以上無い程に厄介な相手だからな」
「でも、ここで逃がす訳にはいかないわ!」
まさかの強敵であるイザナの出現に対し、それでも士気を下げないナイトレイドの面々。
そんな相手を前に、当人であるイザナは警戒を弛める事無く、逆に肌が粟立ち震える程の凄まじい闘気を放ち始めた。
「……スタイリッシュさん。敵の加勢も来てしまったので、今は反撃よりも逃げた方がいいと思われます。直ちに部下の人達と一緒に、この場所から撤退して下さい」
「り、了解よ。さあ、スタイリッシュに逃げるわよアンタ達!」
『は、はい。スタイリッシュ様!』
「ローゼンさんも一緒に撤退を。サヨさんとトレハさんは、ローゼンさんやスタイリッシュさん達の援護と逃走経路の確保。ウーミンさんとメズさんとスズカさんは、申し訳ありませんが自分と一緒に時間稼ぎをお願いします」
「はいデスネ」
「は、はい……」
「わ、分かりました!」
「了解です」
「はいはーい」
「任せて下さい」
いつもの雰囲気とは程遠いイザナからの指示に、我の強いスタイリッシュですらもおとなしく従い、素早くこの場からの離脱を開始する。
そんな彼らを追うようにローゼン、サヨ、トレハの三人は追従していくが、サヨだけはその場で立ち止まり、それから振り返るとイザナへと声をかけた。
「……あ、あの、イザナさん! タツミの事は、出来るだけ助けてやって下さい! タツミは馬鹿なところはあるけど、本当は根は良いやつなんです! だからっ!」
大切な仲間の身を案じ、必死になって懇願するサヨ。
そんな彼女に、イザナは警戒を続けたままほんの少しだけ闘気を弛め、普段と変わらない優しげな表情で答えた。
「……ええ。サヨさんが悲しむような事にはしませんよ。さあ、トレハさんだけでは大変でしょうから、早く一緒に行ってあげて下さい」
「……はい、分かりました!」
イザナの言葉を強く信頼し、サヨはスタイリッシュ達を追いかけながら走り去っていく。
そして、イザナは弛めていた闘気を再び放つと、改めてナイトレイド達へと向き直った。
「さて、ウーミンさんは金髪の女性、メズさんは小柄な青年、スズカさんは桃色髪の少女の相手をお願いしてもらえますか?」
「ん? 残りはイザナさんがやるの?」
「はい。アカメさんは勿論の事、そこの男性を相手にするには、皆さんの実力ではおそらく敵いそうにないですからね」
「……確かに、私達では危うい相手ですね」
ウーミン、メズ、スズカの三人は、イザナの仲間の中でも特に優れた戦闘能力を有する者達である。
しかし、目の前にいる敵の中でもアカメと棍棒の男性については、彼女達をも超える実力があるとイザナは判断した。なので、彼女達の手に余るであろう二人を、飛び抜けた実力を有する彼が相手にするという訳である。
「……では、そこのタツミという少年はどうしますか?」
「そうですね。一応、手を出してこなければそのまま見逃す形でお願いします。もし攻撃してきたなら、死なない程度にあしらって下さい」
「了解しました」
イザナが仲間との会話を終えると同時に、ウーミンは腰に下げていた小太刀を逆手に握り、スズカとメズはそれぞれの構えをとってナイトレイド達へと対峙する。
イザナも最初から手にしていた「黄泉国」を掲げ、目の前にいるアカメへとその切っ先を向けた。
「――では、全力で時間稼ぎをしましょうか」
「――葬る!」
二人のぶつかり合った剣撃を皮切りに、イザナ達とナイトレイド達の戦いが幕を開けた。
人物、帝具の紹介
主人公:イザナ
・オネスト大臣の息子で、シュラの弟。名目上の職業は大臣補佐。現在は特殊警察イェーガーズも兼任。
・戦闘能力は高く、特に剣術は飛び抜けて秀でており、大将軍にも認められる程の実力がある。文官としての能力も高く、オネスト大臣の持て余した仕事をしばしば手伝う事も多い。
・文武両道、質実剛健であり、大臣の息子とは思えない程の良識的な人物だが、気に入った美女、美少女に対する独占欲が高く、女癖が悪い一面がある。
・恋愛対象は、下は十代前半から上は三十半ばまで。関係をもった相手の数は百人以上。ただし幼女、少女は愛でるのみ。
・基本的には、女性への扱いには可能な限り気を配るフェミニスト。常に女性の意思を重んじており、強制する事は滅多にせず、無理を利かせた場合にもアフターケアは欠かさない。
・愛する女性に優しく、傷つけるような輩には一切の容赦をしない。その際にはあらゆる人脈、権力を惜しみ無く発揮する。
帝具:生殺与奪「黄泉国」
・傷をつけた相手の生命力を奪い、それを自在に操る事を可能とする刀型の帝具。更には水や土に一時的に生命力を与え、人形のように操る事も出来る。
・与えた傷が大きければ大きい程、奪い、与える際の生命力は大きくなる。なお、対象に帝具を刺した状態であれば、どのようなものでも短時間で全ての生命力の与奪が可能である。
・なお、生命力の与奪は鞘に刀身を納めている状態では作動しない。与奪の最中に納刀した場合、能力は途中で中断されてしまう。
・奥の手は、一日に三回だけ使用できる「黄泉還し」。死んで間もない者や致命傷を負った者を、五十人分の生命力と引き換えに治癒する能力。しかし、部位の欠損は再生させる事が出来ず、治すには欠損した部位そのものが必要となる。