イザナが奪う!   作:グラサン髭坊主

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 いいサブタイトルが浮かびません……。




第九話 ナイトレイドの勝機を奪う!

 

 

 ~ Side:タツミ ~

 

 ――俺がナイトレイドに所属する切っ掛けとなったのは、帝都に着いてからまだ間もない頃、ある悪辣な貴族との遭遇だった。

 

 甘い言葉をかけて地方からやって来た者を誘い、そして趣味である拷問にかけてなぶり殺すという、極悪非道な裏の顔を持つ貴族の一家だったが、タイミング良く現れたアカメや他のナイトレイドのメンバーによって、その一家は護衛もろとも葬られた。

 たが、俺は助けられた後に訪れた拷問部屋の中で、帝都に向かう途中ではぐれた仲間の二人、サヨとイエヤスが身につけていた花の髪飾りや衣服の切れ端を見つけてしまった。

 既に貴族一家は皆死んでいたので話を聞く事は出来なかったが、それぞれにこびりついた乾いた血の跡が、二人の生存が絶望的である事を表しているかのようだった。

 

 だけど、思わぬ所で死んだと思っていたサヨと再会を果たす事が出来た。

 ナイトレイドのアジトを襲撃してきたDr.スタイリッシュを討ち倒す為に後を追った先に、何やら複数人で話をしているサヨの姿があったのだ。

 そのまま互いに無事を確認し合い、そのままサヨの下に近づこうとしたのだが、それを仲間であるアカメと近くにいた男によって遮られ、そしてそのまま戦いに発展してしまった。

 

 

 

 

 

「う、嘘だろ……」

 

 今、目の前で繰り広げられている戦いに、俺はそう小さく呟いた。

 同じナイトレイドの仲間であり、戦闘においてはかなりの信頼を寄せているアカメ、姐さん(レオーネ)、ラバック、マインと、新たに仲間に加わった生物型の帝具であるスサノオの五人が、それぞれ相手をしている敵に苦戦を強いられていたからだ。

 

「くっ、この、面倒な戦い方しやがって……っ!」

 

 姐さんは、時折姿を消しては死角から現れる、眼鏡をかけた女性の予測不可能な攻撃に翻弄され。

 

「うおっ、ちょ、マジでっ!?」

 

 ラバックは、褐色の女性が分泌した液体により、帝具である「クローステール」の万能性を封じられ。

 

「こんの、ふざけんじゃ、ないわよっ!」

 

 マインは、顔に傷のある女性の素早い身のこなしにより、自慢の射撃を(ことごと)く躱され続けている。

 

「ふっ、せぁっ!」

 

「はぁっ!!」

 

 そして、一番の実力を持つアカメとスサノオについては――。

 

「――鋭いですが、まだ甘い」

 

「……ぐぅっ!」

 

「……がぁっ!」

 

 ――数十にも及ぶ怒涛の斬撃、打撃を、それを遥かに上回る相手、イェーガーズの一人であるイザナの剣術と体術によって全て防がれ、逆に彼からの攻撃は躱しきれずに、既に十数ヶ所以上も手傷を負わされていた。

 

「……葬るっ!」

 

 短く発せられた掛け声と共に、上、中、下段からの三連撃を一息で放つアカメ。

 しかし、それすらもイザナは全て捌ききり、更に返す刀で放った横薙ぎの一撃により、咄嗟に防御した彼女の身体が軽々と吹き飛ばされてしまう。

 

「……せぇい!」

 

 今度はスサノオが死角からの打突を繰り出すが、当たる寸前に手元を弾かれた事で攻撃が外され、逆に袈裟斬りのカウンターを受けてそれなりに深い傷を負ってしまっていた。

 

(――くそっ。ほんの少しでもいいから、俺から意識が離れさえすれば……)

 

 目で追う事すらほとんど出来ず、俺自身では数分耐える事も無理であろう圧倒的な実力の差による激しい攻防。

 何度か手を出そうと試みてはいるが、そんな三人の実力差以上に、機先を制するように放たれるイザナの威圧が、動きだそうとする俺を(ことごと)く遮ってくる。

 

(実力が、違いすぎる。でも……)

 

 だが、まだ別に諦めた訳ではない。

 全ての神経を集中させ、ほんの一瞬の隙をも決して見逃さないように、今は戦いを眺めるしかない……。

 

 ~ Side:タツミ・了 ~

 

 

 

 

 

「……さて、そろそろいいですかね」

 

「な、何を……っ!?」

 

「……くっ、力が、入らない!?」

 

 暫くして、身体中に傷を受けてはいたものの、戦闘には支障はきたさない程度に留めていた筈のアカメとスサノオが、唐突にふらりとよろけて地面に膝をついてしまう。

 イザナの帝具である黄泉国の能力により、アカメは全身に負った細かな傷全てから、スサノオは帝具である為に傷は再生して残ってはいないものの、深手に相当する傷を何度も受けた事で、互いに多くの生命力を奪われていたのだ。

 

「無理に動かない方が良いですよ。今はまだかなり重い全身疲労だけで済んでいます。しかし、命が危うくなるギリギリ手前まで生命力を奪ったその身体では、もはや戦闘は不可能でしょう」

 

 そう言って、イザナは黄泉国を鞘に戻し、生命力を奪う能力を解除する。そのままアカメとスサノオから数歩だけ距離をとると、周囲で戦っていた他の三人へと視線を向けた。

 

「ウーミンさん、スズカさん、メズさん。もう十分ですよ」

 

 その呼び声に反応し、それぞれの相手に対し優勢であった三人は戦いを区切り、イザナの下へと素早く移動してきた。

 彼女達と対峙していたナイトレイドの三人については、突然のその行動が予想外であった為に反応が遅れ、目の前にいた敵を逃してしまう形となり、驚きと憤りがない交ぜとなった表情を浮かべている。

 

「スタイリッシュさん達が撤退する時間は稼げました。あとは自分達もこの場を去るだけです」

 

「いいんですか? このままナイトレイド達を見逃せば……」

 

 イザナの言葉に疑問を述べるスズカ。

 しかし、彼は先程まで浮かべていた威圧を納め、いつもと変わらない笑みを彼女達に向けていた。

 

「美しい女性を殺す事は、自分は極力避けたいですからね」

 

「……はぁ、最後はやっぱりそれですか」

 

「ははっ、結局は女性に甘いんだよねー」

 

「それに、ナイトレイドの存在は犯罪の抑止に少なからず繋がっていますし、簡単に潰すには勿体ない部分もあります。父上には、自分から説明すれば大丈夫ですよ」

 

 イザナらしい相変わらずの態度に、スズカやメズはやれやれといった様子で苦笑いを浮かべている。

 そんな彼らを目の前にして、黙っていられなかったのはナイトレイドの方であった。

 

「……ふざけんじゃないわよっ!? そんな甘い考え方に見逃される程、私達は落ちぶれちゃいないわ!」

 

 怒声と同時に攻撃を仕掛けたのは、桃色の髪の毛をポニーテールにした少女、マインであった。

 彼女は手にしていた帝具、「浪漫砲台」パンプキンを構えると、自分達を侮っているであろう目の前のイザナに向けて、今放てる最大威力の弾を撃ち出した。

 

「吹き飛びなさいっ!」

 

 ピンチになる程に威力を増すというその帝具の特性により、イザナのみならず他の女性達をも丸ごと消し去らんばかりにまで威力の上がった一撃が放たれる。

 だが、ほんの数秒後には消し炭になるという寸前、イザナは鞘に納めていた黄泉国の柄を瞬時に握り、そのまま居合いの構えを見せた。

 

 そして次の瞬間――。

 

 

 

「――“(あま)()ち”」

 

 

 

 ――下から上へと瞬きの間に振り抜かれたイザナの斬撃により、マインの放った銃撃は真っ二つに両断されていた。

 

『……っ!?』

 

 それを目にした者達が驚愕の声をあげる中、パンプキンによる強力な一撃は完全に左右に分かたれ、イザナやウーミン達のすぐ(そば)を破壊しながら通過していった。

 勿論、その間にいたイザナ達四人には傷一つついてはいない。

 

「う、嘘、でしょ……? 私の、パンプキンの攻撃を切り裂くなんて……」

 

 声を震わせ、信じられないといった様子を見せるマイン。他のナイトレイドの者達も、()()()()()たった今目にした光景に言葉を失っている。

 

「――お、りゃあっ!!」

 

『っ!?』

 

 そして、その場にいた者達が黙っている中で、唯一人タツミだけが速やかに動いていた。誰もがイザナの一撃に目を向け、その本人も自身の放つ一撃に集中した為に、ずっと機会を窺っていた彼は遂に攻撃する僅かな隙を得る事ができたのだ。

 やや斜め後方からの全力の刺突。刀を振り上げたままの姿勢でいるイザナには、致命傷にはならずとも避けられぬ攻撃である――。

 

 

 

「“()(くだ)き”」

 

 

 

 ――その、筈であった。

 

「な、ぐは……っ!?」 

 

 振り上げたままでいた刀が雷光の如き鋭さで降り下ろされ、咄嗟に剣で防御したタツミの身体を地面へと叩きつける。

 あまりの衝撃の強さに防御に用いた剣にはヒビが入り、受けたタツミも白目を向き気絶してしまっていた。

 そんな彼に、一番近くにいたウーミンが即座に刃を向けるが、それをイザナが手で制する。

 

「ウーミンさん。別にいいですよ」

 

「ですが……」

 

「彼を殺せば、サヨさんは悲しみます。それは、避けたいですからね」

 

「……はい。分かりました」

 

 イザナの言葉に渋々了承し下がるウーミン。それを確認すると、彼はすぐ近くに寄り添う他の女性達を一瞥しながら、まだ動けずにいたナイトレイド達へと最初に見せたような笑みを浮かべて言い放った。

 

「では、自分達はこれで失礼します。……ああ、タツミさんには一つだけ言伝てをお願いします。サヨさんが悲しむような行いは、くれぐれも選択しないで下さいね、と」

 

 そう言い残し、イザナ達はナイトレイドのメンバーの前から走り去っていった。

 残された者達は、そんないつかは戦う事になるであろう強者の姿を目に焼きつけ、それでもただ遠ざかる彼らを見逃すという手段をとるだけとなってしまった。

 

 

 


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