―――それは、凝り固まった善意と悪意の固まり。
全てを統べるべき、彼の終着点であり、永遠に誕生出来ない彼の故郷。
悠久の時。刹那の時。ある輝きに目を凝らした。
生まれていない彼は、全てを知らない。生まれていない彼は、時が静止した故郷で全てを経験した。
彼に不可能は無く、運命すら彼に翻弄される。
女を得た。この世の美貌を全て兼ね備えた女。絶世との言葉では、表しきれない女だった。
食を得た。この世最高の美食。上手いとの言葉では、表しきれない旨さだった。
それをこの地で何度繰り返しただろう。
数えるのも億劫になるほどの女を抱き、食すのも面倒になるほど食い尽くした。
この世全てを愉悦を知り、彼は初めて外を求めた。
それは、負の体現だった。彼が注目した輝きは、負の体現。負の象徴。
醜悪で浅ましい人間には、到底扱いきれない輝き。いつもの彼なら、気にもしない。あの程度の代物など、ここにはゴミのようにある。
それでも、何故か。その輝きに魅入られた。
―――さあ。友よ。盟友よ。主よ。貴方の時だ。
―――行こう。友よ。盟友よ。主よ。俺達の時代だ。
「ああ。行こうか。ここにもそろそろ飽きた。待たせたな。
―――歴史がここから、変わる。
その涙は、脅威に他ならない。
瞳から流れる涙。一滴でも星に零れれば、星は雷鳴が全てを焼き、雨が大地を沈める。どの星も例外では無く、どれ程の力を持つ星でも叶わない。
その滴が3滴。星が3つ潰れる。
しかし滴は、分離する。その力を1から10へ。10から100へ。100から1000へ。1000から10000へ。
幾度となく続く分離は、兆を超えた所で己の分離数を計算する力を失った。一瞬にして増える情報に着いていく力を失った。
京を超えた所で、過去を失った。
垓を超えた所で、痛みに狂った。
予を超えた所で、自我が芽生えた。
那由多も、不可思も、議無量大数をも超えた所で、子は誕生した。
痛みを耐えた子を見守るのは、彼しかいない。彼は自らの分身であり、力の全てを失ったと言っても過言ではなく、その上凄まじい痛みにも耐えた子を見た。
誕生した生命は3つ。親は刹那の未来を無双し、胸を震わせた。
これから彼が待つのは、1000年程度の僅かな時間。彼にとっては、刹那の時。
子が羽ばたく。
一人は、この故郷の凝り固まった悪意を胸に。
一人は、この故郷の凝り固まった善意を胸に。
一人は、制約を受け遥か先、主の資格を受け継ぐために。
三者の人生は、ここらか始まり親の人生もまた、ここから始まる。
「
―――了解した。盟友よ。
―――任せろ。相棒。
彼に忠誠を誓う、二人の共に任せ彼は、静かに微睡に身を預けた。
煌々と地を照らす光に導かれ目を覚ます。余りの眩しさに、目を細める。
心地の良い風が体を撫で、鳥が高く空を飛ぶ。静寂する森。大地の匂いがする草原。僅かに鼓動を響かす動物。
「どこ?ここ?」
そして、裸の自分。
果たして自分は、どういう状況なのだろうか。説明して欲しい。責任者。責任者を読んで来い。余は責任者を要求する。所望する。切望する。
だが、一向に責任者なる者が現れる気配はなく神聖な大地が静かに、時を刻むだけ。
「はあ」
一つため息を吐く。体が軽く、声が高い。体を見回せば少年。これが自分だという感覚がない。まず自分は誰だ。
名を何といい。歳を幾つ重ね。この体で、何を経験したのか。
それが分かれば、後は問題ない。
当たりを見回せば、恐らく自分の物であろう服。それに武装。見れば自分は、相当多彩な才能を持っていたようだ。
散乱している武装は、長剣。単槍。洋弓。どれも酷く使い込まれており剣は白銀の刃が燻り、真紅の槍は布が千切れ、弓は矢が空になっている。
とりあえず状況を整理するために、服に着替える。服は非常に着心地が悪く、生活水準の低さが垣間見える。
自分はこれ程の武具を使いこなせる腕がありながら、相当苦しい生活を強いられているようだ。
それが少し悲しい。武具を手に取る。長剣、短槍は中々の重さがある。洋弓は首に掛けるようにする。
ここで一つ面白いことが分かった。
記憶はなくとも、
「はあ!」
体は覚えている。
武具を手に取った瞬間、何をすべきかを瞬時に学んだ。否。思い出したと言った方がいい。体が面白いように動く。
だが、解せないことがあった。剣も、槍も、矢がないから確かめようがないが恐らく弓も、どれも使いこなせるが究極ではない。言葉にするなら、最適。全てを極みきれていない。
それは子供だからかもしれない。だが、分かるのだ。自分はこれ以上、極めることは出来ないと。
だからより鍛錬に励むだろう。究極。極限。それらを超える最適に辿りつくまで。
それが自分のあり方だと、武具が告げている。ならば、それに従うまで。
大きく息を吸い、自分の考えうる限り最強の技。それを試す。その瞬間
「何だ!?」
森の向こうが死地へと変わった。